月影永理の暴走   作:黄衛門

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第29話 持ってけ女王様

「永理、今日やっと完成したぜ!」

 

「あ、何が?」

 

 デュエルアカデミア、共同食堂の一角。永理はカツカレーを食べながら、何やら興奮した様子で喋りかけてきた神楽坂に言葉を返す。相も変わらず神楽坂の手にはカロリーメイト、それと今日は奮発してかコーヒー牛乳。流石に少なすぎだろ、と永理は思ったが、どうやら寮内ではちゃんとがっつり食べているらしい。

 ちなみに永理は朝と昼をがっつり食べるタイプの人間だ。とはいってもそのガッツリ具合は、同級生から見れば少ないくらいらしい。

 

「伝説のデュエリスト、武藤遊戯のデッキがさ!」

 

「……マジ?」

 

 キング・オブ・デュエリストとの異名を持つ、デュエルモンスターズを広めた要員の一人である生ける伝説、武藤遊戯。そのデッキは上級・最上級モンスターとピンポイントなメタカード満載の扱いにくいってレベルじゃないデッキで、しかもかなり高いカード目白押しなのだが、永理の眼の前に居る男神楽坂はそれを完成させたのだと言う。

 ちなみに前使っていたサイバー流デッキも、暗黒の中世デッキも作るとなればかなりの金額が必要となってくるのだが、その出資は何処から出ているのかは神楽坂以外誰も知らない。デュエルアカデミア七不思議のひとつである。

 

「お前ん家ってボンボンなの?」

 

「まあ、それなりかな」

 

 それなりの金持ちでは遊戯デッキもサイバー流デッキも作る事は出来ないのだが、永理はもうあえて何もツッコまない。そもそも永理はボケキャラなのだ。

 タバスコを一気に半分ほど使い、カレールーだけを混ぜる。その際カツはご飯の上に避難させておく。タバスコの臭いがかなりキツくなり、永理の隣で食べていたオシリスレッド男子生徒が涙目となっていた。

 最も永理はそんな事気にせず、ご飯とカレールー一対一で掬い食べる。カレーのスパイスの殆どがタバスコに寝食されているが、永理はこの刺激が大好きなのだ。最近まるで麻薬のように、この量では物足りなく感じてくるようになってしまったが。

 

「まあ、使いやすいように多少改良はしてるけど……神のカードがあればなあ」

 

「神のカードならいくつか持ってるぞ、バニラだけどな」

 

 永理が持っている神のカードは、千眼の邪教神かゼミアの神のような初期バニラの低級モンスターである。当然、実戦ではろくに使えないカードだ。邪教神は一度だけ使った事はあったが、それでも所詮コスト止まり。オベリスクやラーのように切り札のように使用するのは、流石の永理でも不可能である。

 

「いやそれはいらない」

 

 どうせろくでもないカードなのだろうと察した神楽坂は即座に断り、そして永理は流れるように舌打ちをした。既にカレーは半分ほど残っており、カツは丸々置いてある。ここで初めて永理はスプーンでカツを切り、ルーに纏わせ米と一緒に食す。

 

「で、よもやそれを報告しに来ただけではあるまいな」

 

「当然、それだけじゃないさ」

 

 フッ、とニヒルに笑う神楽坂。顔だけなら整っているのでとても様になっているが、中身は永理を薄めた感じだ。流石にあそこまでロマン特化ではないが。

 永理も神楽坂との付き合いは長いので、何を言いたいのかは大体想像が付く。気が付けば二学期に突入しているのだから、時が経つのは早いものだ。

 

「放課後、イエロー寮の前でテストプレイをする。付き合ってくれるな」

 

「ホモ臭い言い回しだこと。まっ、いいけどさ。面白ければ」

 

 ぱくり、とお互い最後の一口を食べる。何時の間にやら空になったカレーライスの皿を返却口に返し、永理は神楽坂と一緒に食堂を後にした。

 その時の失態を、神楽坂は今になって思う。もう少し声を落として喋ればよかったと。

 

 

「で、どうしてこうなった」

 

「……さあ?」

 

 いつの間にか、三色カラフルな制服の生徒に囲まれたラーイエロー寮前。微かに残るカレーの臭いが鼻腔をくすぐる。永理と神楽坂は互いに向かい合い、デュエルディスクを起動させていた。

 武藤遊戯の再現デッキ、多少使いやすく改造しているものの再現デッキ。誰もが一目見たいと思うのは、仕方のない話だ。

 一応神楽坂としては、テストプレイを経てからの実戦を目論んでいたのだが、今更嘆いても仕方のない話だ。声を潜ませておかなかった神楽坂の自業自得である。

 

「まあいい、目立つのは嫌いじゃないしな」

 

「俺としてはまだ目立ちたくなかったんだけどな……」

 

「「デュエル!」」

 

 宣言と同時にカードを五枚引く。

 

「先功は俺だ、ドロー!

 モンスターをセットし、カードをセット! ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー! クリバンデットを召喚!」

 

 クリボーの毛を黒くし、黄色いバンダナを頭に巻き付けたちっちゃく丸っこい奴が現れる。左眼には眼帯を付けている。

 

「更に魔法カード、竜破壊の証を発動! デッキからバスター・ブレイダーを手札に加える! エンドフェイズ、クリバンデットの効果を発動! このカードを召喚したターンのエンドフェイズにこのカードを生け贄に捧げる事で、デッキからカードを五枚捲り、その中から魔法・罠カード一枚を手札に加え、それ以外を墓地へと送る!

 デッキトップはブラック・マジシャン、クリボール、磁石の戦士α、砂塵の大竜巻、カオスの儀式。俺はカオスの儀式を手札に加える! ターンエンドだ!」

 

 場をがら空きにさせてターンを譲る。それに対しギャラリーからどよめきの声が聞こえてきた。場をがら空きにして相手に渡す、本来であれば考えられないプレイングだ。が、永理にとってはかなり苦しい状況となった。

 何せ、永理が今使っているデッキの基本的な動きは、相手に戦闘破壊をさせる事が条件なデッキ。割と使いにくいのだ、特に今回のような場合。

 それに、場にカードが存在しない状況というのは一見チャンスに見えて、大きな落とし穴だったりする。

 

「俺のターン、ドロー! 代打バッターを召喚!」

 

 が、そんなのは関係なしに、やりたい事をやるのが永理流だ。

 永理の場に、ドデカいバッタが現れる。そのモンスターと同時に女子生徒から悲鳴が漏れるが、永理は見た目があまりよろしくないデッキを使う事で(不本意ながらも)有名になってきている。そんな永理のデュエルを見に来たのだから、この程度は自己責任だ。

 

「バトルだ! 代打バッターで直接攻撃!」

 

 代打バッターが後ろ足で大きく飛び、そのまま神楽坂の顔面に自由落下。「うげっ」という悲鳴を洩らし、神楽坂に同情の声が上がる。

 

「ぐっ、手札から冥府の使者ゴーズの効果発動! 場にカードが存在しない時にダメージを受けた時、このカードを特殊召喚する! 来い、ゴーズ!」

 

 黒い鎧を見に纏った青年がマントを翻しながら現れ、女子生徒から歓喜の声が上がる。しかしすぐに、そのそばに現れた侍女の登場で意気消沈。

 男子生徒の一人が「寝とりもいいな」と呟くと、ゴーズに鋭く睨まれ萎縮してしまう。

 

「更に戦闘ダメージの場合、受けたダメージ分の攻撃力を持ったカイエントークンを特殊召喚する!」

 

「チッ、やっぱりか。カードを一枚セットし、ターンエンドだ!」

 

 読めていたが、実際出されると厄介なのには変わりない。突破は簡単な話だし、永理の手札にはそのキーカードが揃っている。後は場に出すだけ。

 

「俺のターン、ドロー!

 儀式魔法、カオスの儀式を発動! 更に墓地のクリボールの効果も発動! このカードを墓地から除外する事で、儀式の供物の一体として使用出来る! 場のカイエントークンと墓地のクリボールを供物とし、カオス・ソルジャーを儀式召喚!」

 

 金と黒の鎧に身を包んだ、細身の剣士。長い髪はホーステールのように揺れ、女子生徒から歓声が上がる。カオス・ソルジャー、伝説のデュエリスト武藤遊戯が使ったエースモンスター。当然値段はかなり高く、一等地くらい買えるくらいの額だ。だというのに何故、一学生でしかない神楽坂が持っているのか。それはきっと、一生判明しないであろう謎である。

 

「バトルだ! カオス・ソルジャーで代打バッターを攻撃!」

 

「速攻魔法、月の書! 代打バッターの表示形式を守備表示に変更!」

 

 カオス・ソルジャーがまるで西洋めいた剣を薙ぎ払い、代打バッターを真っ二つに切断する。しかし、代打バッターもただでは死なない。置き土産とばかりに断面から触手のようなものが伸び、それが形を作っていく。

 それは、かつて日本チャンプだった少年が愛してやまなかったカード。初めて彼のナニをエレクトさせ、アブノーマルの道に踏み外させたモンスター。

 熟女めいた顔が現れ、頭の上に付けられた二本の触覚を揺らす。女らしいくびれた身体、胸は豊満だが、一般人では決して性欲すら感じないだろう。六本の脚に、血を吸ったダニのように膨らんだ尻。登場した瞬間辺りからギャラリーが散っていく。

 

「代打バッターは破壊され墓地へ送られた時、手札の昆虫族モンスター一体を特殊召喚する……出てこい女王様! インセクト女王!」

 

「お前もっと普通のデッキ使えよ! ああもう、ゴーズでインセクト女王を攻撃!」

 

 ゴーズも若干顔が引きつっているが、何とか自分を奮い立たせインセクト女王に斬りかかる。しかし突然、ゴーズの頭から緑色の触覚が生えた。

 

「永続罠、DNA改造手術を発動した! このカードが存在する限り場のモンスター全ては昆虫族となる!

 そして、インセクト女王の攻撃力は場の昆虫族一体に付き200ポイントアップする! 今場に表側表示となっている昆虫族の数は三体、よって女王様の攻撃力は600ポイントアップし2800!」

 

 斬る為に地を蹴り大きく飛んだゴーズに、強酸性バイオ液で対空攻撃。その攻撃は直撃し、ゴーズの身体はまるで三日三晩煮込み続けた豚骨のようにドロドロに溶けた ぐずぐずと、鎧にかかった箇所が浸食されていく。

 あまりの事態に遠目で見ていた女子生徒が悲鳴を上げるが、永理は決して悪くない。悪くないったら悪くない。

 

「うげぇ……カードをセットしてターンエンド」

 

「インセクト女王が相手モンスターを戦闘で破壊したターンのエンドフェイズ、場にインセクトモンスタートークン一体を特殊召喚する!」

 

 インセクト女王のケツから、一つの卵が場に植え付けられる。もはや女子生徒全員ドン引きだが、昆虫族デッキなので仕方ないのである。

 そもそも、悪いのは遊戯デッキのテスターとして永理を選んだ神楽坂だ。遊戯デッキと聞けばこのカードを使うしかあるまい、と永理が思うのは、一部の人間からすれば当然の事だ。

 

「俺のターン、ドロー!

 ゴキボールを攻撃表示で召喚!」

 

 丸っこいリアルタッチなゴキブリが現れ、今度は悲鳴こそ起きなかったが女子生徒が永理に冷たい眼を向ける。しかし永理はそんなの何処吹く風。既にモテる可能性なんぞ火山の中に投げ捨てた永理の辞書には、自重という二文字は無い。

 

「更に魔法カード、アリの増殖を発動! ゴキボールを生け贄に捧げ、場に兵隊アリトークン二体を特殊召喚する! 兵隊アリトークン特殊召喚、守備表示!」

 

 ゴキボールの身体を突き破って、二匹のアリが現れる。かなり大きく、噛まれれば命にかかわりそうだ。

 昆虫族モンスターの数が三体増えた事によって更に400攻撃力が上がり、インセクト女王の総攻撃力は3500、グレート・モスよりかなり使いやすい上に、上手く使えば攻撃力はグレート・モスの上を行くのだ。そもそもの話使っているカードが可笑しいのはご愛嬌。

 

「バトルだ! インセクトモンスタートークンを生け贄に捧げ、インセクト女王でカオス・ソルジャーを攻撃! クイーンズ・インパクト!」

 

 インセクト女王が自ら産み落とした卵を食べ終えてから、口から吐き出された強酸性の液体がカオス・ソルジャーに降りかかり、鎧ごとその身体を溶かす。そしてケツから卵が出る。

 やはり巻き起こる悲鳴、永理を非難する女子生徒。しかし、永理の辞書に自重の文字は無い。どうせモテないのなら突き抜けていく、それが永理のやり方だ。

 

「ぐっ、精神的にかなりクるものがあるぞこれ」

 

「ふははは、カードを二枚セットしターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 ライフポイントを半分払い、黒魔族のカーテンを発動! ライフポイントを半分払い、デッキからブラック・マジシャンを特殊召喚する!」

 

 神楽坂の場に黒いカーテンが現れると、その幕がゆっくりと開き、その中から黒い魔法服に身を包んだ細身の魔術師が、先端に緑色の丸い宝石を埋め込んだ服と同じ色の杖を持って現れる。

 と、途端に遠くへ避難していた女子生徒から歓声が響き渡り、ブラック・マジシャンは咄嗟に耳を塞ぐ。

 

「甘い! 罠カード発動、奈落の落とし穴! ブラック・マジシャン、ボッシュートになります!」

 

「甘いのはお前だ! カウンター罠、盗賊の七つ道具! ライフを1000払い、罠カードの効果を無効にする!」

 

 ブラック・マジシャンの足元に現れた落とし穴が、黒い渦に巻き込まれて消滅する。攻撃力では永理のインセクト女王の方が上回っているが、ブラック・マジシャンが真に恐ろしいのはサポートカードの豊富さにある。

 

「魔法カード、千本ナイフを発動! 場にブラック・マジシャンが存在するときにのみ発動、相手モンスター一体を破壊する!」

 

 何処からともなく現れたナイフがインセクト女王の身体を突き刺し、蒼い血を吹き出させる。ダメ押しの一発とばかりに更に投擲された一本のナイフがインセクト女王の眉間を貫き、その大きな身体を大地に倒れさせた。

 そう、玉石混合ではあるがサポートカードの豊富さは青眼の白龍と負けない量を誇るのだ。世界に三枚しかないカードのサポートカードが何故豊富なのかは不明だが。

 

「バトルだ! ブラック・マジシャンで兵隊アリトークンを攻撃! 黒・魔・道(ブラック・マジック)!」

 

 ブラック・マジシャンが杖から黒い光を出すと、一瞬世界が暗転し、次の瞬間には兵隊アリトークンが爆散されていた。さながら超能力のような訳の分からない出来事、魔術的な何かが兵隊アリトークンを破壊したのだろう。

 

「ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー!

 モンスターを守備表示に変更! モンスターセット、カードを一枚セットしターンエンド!」

 

 永理の手札に逆転の一手は来ない、が永理のデッキは蘇生カードも盛りだくさんに組み込まれている。次のターン死者蘇生なりリビングデッドの呼び声なりを引き当てれば、戦局はまだ覆す事は可能だ。

 そして、伏せたカードは収縮。これなら攻撃力3000のモンスターを出してきたとしても、何とか対処は可能。逆転の一手を引き当てるまで生き残る事は出来るという自信があった。

 

「俺のターン、ドロー!

 魔法カード、天よりの宝札を発動! 互いのプレイヤーは、カードが六枚になるようドローする!」

 

 永理もカードを引くと、そこには死者蘇生。そしてワーム・ベイトが。このターンを乗り切れば逆転は可能だと、ニヤリと不敵に笑う。

 

「魔導戦士ブレイカーを召喚! このカードの召喚時、このカード自身に魔力カウンターを一つ乗せる!」

 

 先端がとがった赤に金色のアクセント、そして埋め込まれた青い宝石によって芸術的価値のありそうな鎧を身に纏った魔導戦士が、血のように赤いマントを翻し現れる。戦士なのに魔法使い族はゲームやアニメの世界では中途半端というイメージを持つが、デュエルモンスターズの世界ではかなり強力なモンスターである。一部が酷過ぎるせいであまり目立たない存在ではあるが。

 

「カードを二枚セットし、バトル! ブラック・マジシャンで兵隊アリを攻撃! 黒・魔・道(ブラック・マジック)!」

 

 まずは世界が暗転し、兵隊アリがしめやかに爆裂四散。肉片が飛び散り緑色の血を辺りにまき散らす。

 

「更に速攻魔法、光と闇の洗礼を発動! 場のブラック・マジシャンを生け贄に捧げ、手札・デッキ・墓地から混沌の黒魔術師を特殊召喚! 効果で墓地の千本ナイフを回収! 伏せモンスターを攻撃!」

 

 真っ黒な魔法服を着た肌色の悪い魔術師が現れた瞬間、黒い魔術的ビームが永理の伏せモンスターを破壊する。永理が伏せていたのは、プチモス。当然爆裂四散した。

 

「魔導戦士ブレイカー、直接攻撃!」

 

「速攻魔法、収縮を発動! 魔導戦士ブレイカーの元々の攻撃力を半分にする!」

 

 ブレイカーの身体が少しばかり小さくなるが、凄まじい袈裟斬りで永理の身体を切り裂く。永理は直接攻撃を受けてしまったが、それでも勝ちを確信していた。相手のライフは残り僅か、そして永理の手札は相手のライフを容易に削りきれる。

 そして相手は既に、全てのモンスターの攻撃を終了した。勝利を確信した笑み、浮かべずにはいられない。

 

「神楽坂……このデュエル、俺の勝ちだ。俺の手札には大嵐、そして死者蘇生とワーム・ベイトがある。俺にターンが回ってきた瞬間、死者蘇生で女王様を蘇生させワーム・ベイトでトークンを特殊召喚、更にアリの増殖でその数を増やし、総攻撃力3400の攻撃力をブレイカーに叩き込み、ゲームエンドだ」

 

「何勘違いしているんだ」

 

「……ひょっ?」

 

 永理の勝利の確信は、ここで揺らいだ。だが、既に相手は手を出し尽くした筈。この状況で負ける訳が無い、負ける訳が無いんだと必死で自分に言い聞かせる。

 だというのに、悪寒が止まらない。例えるならケツにツララをぶち込まれたような気分。

 

「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!」

 

 神楽坂が不敵に笑い、永理が狼狽える。主人公が明らかに逆転しているが、永理に関して言えば今に始まった事では無いのでさして問題は無い。

 

「なに言ってんだ、もうお前のモンスターは攻撃終了したじゃないか!」

 

 そして、神楽坂が右のカードを手にした瞬間、その予感は確信に変わった。速攻魔法、バトルフェイズでも発動出来る魔法カード。

 神楽坂は無情にも、そのカードを発動させる。

 

「速攻魔法発動、狂戦士の魂!」

 

「バーサーカー……ソウル……だと!?」

 

「手札を全て捨て、効果発動! こいつはモンスター以外のカードが出るまで、何枚でもカードをドローし墓地に捨てるカード。そしてその数だけ、攻撃力1500以下のモンスターは、追加攻撃出来る!」

 

 それは奇しくも、永理の気に入るかなりのロマンカードだった。そしてその敗因を招いた原因は、収縮。収縮によって魔導戦士ブレイカーの攻撃力は、1100。あそこで収縮を使わなければ、勝ててたかもしれない。否、勝ててただろう。

 

「まず一枚目、ドロー! モンスターカード、クィーンズ・ナイトを墓地へ捨て、魔導戦士ブレイカー追加攻撃!」

 

 ブレイカーの唐竹割り! 永理はなす術無く、甘んじてその剣撃を受ける。

 

「二枚目ドロー! モンスターカード!」

 

 ブレイカーは逆袈裟に斬り捨てる!

 

「三枚目! モンスターカード!」

 

「グワーッ!」

 

 右薙ぎ! 永理の脇腹に命中! 思わず悲鳴を上げる!

 

「ドロー! モンスターカード!」

 

「グワーッ!」

 

 左薙ぎ! 永理の両脇腹も悲鳴を上げる! この時点で永理のライフは負け確定! だが処理はまだまだ終わらない。

 

「ドロー! モンスターカード!」

 

「グワーッ!」

 

 右切り上げ! 脇にヒットし毛細血管が潰れる!

 

「ドロー! モンスターカード!」

 

「グワーッ!」

 

 左切り上げ! 永理の両脇がタタキになる!

 

「ドロー! モンスターカード!」

 

「グワーッ!」

 

 そのままつばめ返し! 永理の身体が斜めに引き裂かれる!

 

「ドロー! モンスター──」

 

「もうやめろ神楽坂! とっくに永理のライフは0だ、もう勝負はついたぞ!」

 

 見かねた三沢が神楽坂を羽交い絞めにし、攻撃を中断させる。神楽坂ははっと我に返り、デュエル衝撃によって倒れた永理に慌てて駆け寄る。

 

「え、永理……すまん、もう一人の俺が『この虫野郎!』って叫んだ辺りで何か記憶が……」

 

「いや、大丈夫だ。……死ぬかと思った」

 

 神楽坂の手を取り、起き上がる永理。その瞬間一部の女子生徒から黄色い歓声が響き渡ったが、努めて永理と神楽坂はそれを聞かないふりをする。

 まさかあのまま逆転勝利するとは永理も思っていなかったので、とても驚いた。そして女子までこれを見に来てる事に関しても驚いた。

 永理はこの後、神楽坂からお詫びとしてラーイエローの飯をたらふく食べてから自分の家へと帰った。




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