月影永理の暴走   作:黄衛門

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第30話 早乙女レイの洗脳

 眼深に帽子を被った小学生くらいの背丈のオシリスレッド生が、音が漏れまくっている扉をノックする。

 名は、早乙女レイ。本日このデュエルアカデミアに転入してきた転校生である。そして今、絶賛緊張中。何故かこの部屋を言い渡された際、レイに気軽に話しかけて来てくれ、勘違いではあったものの労わってくれた遊城十代が同情するような眼を向けて来ていたが、もしかして怖い人なのだろうか……と一抹の不安を覚えるのだが、その予想は当たらずとも遠からずといった感じだ。

 

「……あれ?」

 

 返事が返ってこない、聞こえていないのだろうか。不安になるが、寮長である大徳寺はレイに「返事が返ってこないのは日常茶飯事ですので、勝手に入っちゃっても大丈夫ですにゃ~」的な事を鍵を渡すと同時に言っていた。

 試しにドアノブを回してみると、鍵は開いている。不用心だな、と思いつつも扉を開けると──

 

「っしゃあ! 俺の勝ち!」

 

「テメッ火炎放射は卑怯だぞ! テメェそれでもレイヴンか!?」

 

「アーキテクトだ」

 

 一番上と真ん中のベッドに座りゲームをする二人と、一番下のベッドで静かに本を読む青年が居た。そして、中段ベッドの方に座っている者に見覚えはあったが、きっと気のせいだろうと思い扉を閉める。

 一度胸に手を当て、深呼吸を数回。自分を落ち着かせ、もう一度扉を開く。

 

「おまっ、とっつきて。AIにとっつきて……変態が!」

 

「これがっこのアセンがっ! 俺の魂のアセンだっ!」

 

「やかましいぞ貴様ら! 今何時だと思ってるんだ!?」

 

 ちなみに現時刻は夜の十時、消灯時間は過ぎてるが彼らには関係ない話だ。レイは意を決して、その中に入る。

 

「あっ、あのっ!」

 

「ん?」

 

 先ほど注意した、一番下のベッドで本を読んでいた青年。万丈目準がレイの姿に気付く。ノースリーブの白いシャツだけというラフな格好。

 

「僕、今日この学校に転校してきました。早乙女レイです。よろしくお願いします!」

 

 何故自己紹介の時この二人は食堂に居なかったのか、今はそれはどうでもいい。問題なのは、ベッドの中段に居る男──丸藤亮、カイザーである。

 

「……どうした、俺の顔をじっと見て」

 

「いっ、いえ何でもありませんっ!」

 

 不思議そうに尋ねてきた亮の顔から慌てて目を逸らすレイ。実は彼──否、彼女は女の子なのだ。だというのに何故オシリスレッドの制服を着ているのか、それはまあ話すと長くなったり短くなったりするが、兎に角恋する乙女なのである。

 そしてその恋の対象というのが、さながら病気めいた細さを誇る月影永理とゲーム片手に騒いでいる。親近感を覚えると同時に、彼女の中で何かが崩れ落ちる音がした。

 

「俺は丸藤亮、彼女無し(フリー)のデュエリストだ」

 

「俺の名は月影永理、まあよろしく」

 

 ゲームに飽きたのか亮はPS2の電源を落とし、コントローラーも置く。永理もコントローラーを亮に落とし渡し、そして同じ場所に置いた。

 

「よし、んじゃ亮。お前床な」

 

「解ってるって」

 

 中段ベッドの上から飛び降り、亮は部屋の奥にある箪笥から布団を引っ張り出す。若干黒カビが目立つが、一日程度ならただちに影響は無い。

 しかし、レイの顔は若干引いてる。まあ無理も無いだろう、何せカビなのだから。普通カビの生えた布団で寝ようとは思うまい。

 

「んじゃレイ……だっけ、お前中段の方な」

 

「あっ、はい。解りました」

 

 レイは頷き、既に布団を敷き終わっている亮を踏まないように梯子へと移動。上り、亮の体温を楽しむかのようにベッドに倒れ込む。

 

「風呂は……明日入ればいいか。つーか万丈目、てめー何時の間にパジャマに着替えてたんだ」

 

「貴様らがゲドとモリ・カドルのアセン組んでた時に入った。俺はもう寝るが騒ぐなよ」

 

 そう言い万丈目は布団を頭の中まで被って、眠り始めた。とはいえ、そんな忠告を守るような二人ではない。何せ二人はデュエルアカデミア一のお祭り野郎、更に転校生というビッグイベントも舞い込んできたのだ。

 この時に騒がずしていつ騒ぐというのだ。

 

「と、いう訳で……あなたの好きな属性は? チキチキ暴露大会~!!」

 

「イエァッ!」

 

「……えっ」

 

 この瞬間、レイの眼からハイライトが消えた。ノリノリで割とえげつない物を催す永理と、それにノリノリで乗る亮。何となく、何となくではあるが嫌な予感がしたのだ。

 そしてその予感は、主に永理と亮に対しては誰もが持ち、そして誰もが当たる予感である。

 

「まずは一番手、お願いしますよーせんぱーい」

 

「……」

 

 亮は腕を組み、眼を閉じ、たっぷりと間を置く。

 数秒、九秒ほどだろうか。それくらい間を開けてから、その重い口を開いた。

 

「機械ロリ」

 

 そして途轍もない爆弾発言を、途轍もなく清々しい顔で投下した。この言葉を聞いた瞬間、レイの百年は続くだろうという恋は急激に冷めていった。

 恋する乙女というのは、大抵相手を神格化して見ている場合が多い。そしていざ付き合いだし、同棲を始めたら色々と解り合えなかったり譲れなかったりするところ、要するに嫌なところに眼が行くようになり、徐々に冷めていき自然と別れてしまう事が多い。

 レイが持っていた恋心も、急激に冷めてしまった事を誰が責められようか。

 

「個人的にはメイド服着て、関節部分がこう……人形みたいになってるのがいい。そそる」

 

「わかるわ、物凄くわかるわ」

 

 熱意を込めながら機械ロリについて語る丸藤亮(17)、その眼は本気だった。そしてそれに同意する永理、そりゃ百年の恋も冷めるわというレベルである。

 

「んで夜の方は事務的に絞ってくれるっていうのが、もう最高。感情無く淡々とするけど、最後にキスしてくれたらいう事なしね本当」

 

「そこは同意しかねる。最後まで事務的にやるのが最高ではないか、締めはお掃除フェラだろ常識的に考えて」

 

 そしてこれは、八つ当たりだろうと理解していても期待を裏切られた憎しみを感じるレベルの会話である。本人達は決して悪くない、いや性癖は社会的に見れば悪いのだが、だとしてもこの怒りが筋違いというのは、レイも自覚している。しかし、それでもやはり、煮え切らないものがあるのだ。

 ちなみにお掃除フェラと言った方が永理である。

 

「しかしお掃除フェラをするとまたエレクトしての無限ループに陥りそうだぞ」

 

「弾切れになるまで絞ると考えてみろ、それで出なくなったら終わりってので」

 

「なるほど」

 

 関心したようにうんうん頷く丸藤亮、一応これでもカイザーの異名を持ち、デュエル雑誌で特集が組まれた事もあり、更にファンも多いのだが、そこに彼のファンが追い求める姿は無い。あるのはただ一つ、異常な性癖だけだ。

 

「よーし、んじゃ新入り。次お前な」

 

「えっ」

 

 亮の語りが終わり、矛先はレイの方へと向いた。思わずこわばり、何を言っていいのかわからず頭がこんがらがる。女性にそんな事を聞くのはマナー違反というよりセクハラで捕まりかねないが、今レイは男装中。そしてバレてないので訴える事も出来ない。というより訴えたら逆にレイの方が負けるだろう。

 必死に記憶の中を探り、少女漫画の内容を思い出す。イケメンとイケメン、花瓶、薔薇、モザイク……あっこれ駄目な奴だわ。と速攻で悟りそれを打ち消す。

 

「えっと……えっと……」

 

「永理、そういうお前はどうなんだ」

 

 返答に困っているレイを見かねてか、亮が永理にそう切り返す。永理は顎に手を当て、う~んと考える。レイは心の中で亮に感謝したが、でもきっかけと言えば亮が永理の提案に悪乗りしたからなので、半ばマッチポンプめいていた。

 

「褐色ロリビッチ、サキュバスでも化」

 

「なるほど、ロリビッチか」

 

 ロリビッチ。ロリという保護すべき清らかな存在とビッチというお世辞にも綺麗とは言い難い、ぶっちゃけて言うと汚いイメージという相反する属性。水と油。火と水。普通では混ざり得ない属性だが、それ故に惹かれる者が後を絶たない。

 そして褐色。褐色というのは一般的に活発なイメージを持つが、それと同時に遊び慣れたというイメージも持つ。多分黒ギャルのせいである。今でこそ数は少なくなった黒ギャルだが、やはり需要があった理由はそのエロさにあるだろう。褐色も活発そうで、性に対しておおらかというか、おおっぴろげというか。兎に角そんな感じのがあるのだ。

 馬鹿馬鹿しい話ではあるが、だが同時に事実だ。

 ついでにこれは余談だが、永理の言うサキュバスは伝承に出てくる正体は醜い糞ババアなサキュバスではなく、普通に正体も綺麗or可愛い系のサキュバスである。

 

「昔はよく、小学生にレイプされる妄想をしたな……ああ、懐かしい」

 

「最低だな、お前って」

 

 勿論現実ではまず起こりえないし、起こったとしても捕まるのはレイプされた男の方である。現実とは得てして不平等なのだ。やはり現実はクソゲーである。

 

「ロリという清純さと相反するビッチ、それらが混ざり合い最強に見える。さながらメドローアのように!」

 

「その例えで解る人少ないと思うぞ」

 

「さて、早乙女レイ。君はどの属性を選ぶ?」

 

 何だか頭が付いて行けずぼんやりとしていたレイに、またしても突然話を振られる。だが、さっきまでのレイとは違う。割とむっつりなレイは、そういう本も幾つかネットで読んだ事があるのだ。当然その中にはアブノーマルなのもちらほらとあったが。

 

「えっと……TS、かな?」

 

「TSか、どっちのだ」

 

「どっち……の……?」

 

 TS、一口にそう言ってもそのジャンルは大きく分けて二つあり、更にそこからジャンルから派生した流派も様々である。

 まず一般的なのは、性転換だろうか。男が女に、女が男に。良くあるジャンルで最近銀魂でもやっていたあれだ。代表的なのはらんま1/2や我が家のお稲荷さま、その他少子化対策云々で性転換するエロ漫画もあったりする。ちなみに厳密に言うならばこのジャンルはTSFと称されるのが正しいだろう。なお、ふたなりや女体化、トランジスターは同ジャンルと見られる事があるが、かなり違うので気を付けられたし。

 そしてもう一つは、時間停止。よくAVであるアレである。一般的には世界(ザ・ワールド)のようなものを連想させるだろうが、この場においてそれを持ちだすのは空気が読めてない証拠である。

 相手に気付かれず中出しや口内射精したり、弁当にぶっかけたりとその楽しみ方は様々。だがこれも、犯ってるのに気付かず日常生活を過ごすか、時間停止を解除してから一気に快感が来るかと表現の仕方が異なったりする。どちらにせよエロいのでさして問題は無い。

 時間が止まっていたら柔らかさとか無いじゃんと無粋な事を言う輩は居ないだろうが、当然それは世界がフィクションだから成立するものである。

 まあどちらにせよかなりマニアックなジャンルなのだが、レイはそれらが特殊なジャンルと知る由は無い。

 

「えっと、男が女に、女が男になる方……」

 

「ああ、あれか。何度かお世話になってるジャンルだ」

 

「あー、好きだけどね。どっちかっつーと俺はふたなり派かな」

 

 ふたなりは簡単に言うと、女にちんこが付いてるあれである。ちなみにこれは余談だが、貞子はふたなりだ。なおやおい穴とはまた別なので注意されたし。やおい穴は肛門のくせに濡れてきたとか奥に当たってるとか、肛門の表現としてあり得ないアレがあるのでそう比喩される言葉なのだ。

 

「TSなー……俺らがTSしたとしてもさ、需要あると思う?」

 

「まず永理は無いな、あれは地獄絵図だった」

 

 亮が何処か遠い目でそう言う。永理は深夜のテンションによる悪乗りで女装し、その結果オバケとか言われた事があったのだ。何となーくレイもそれには同意する。何せ永理の細さは、心配になるくらい細いのだから。

 

「亮は……髪長いし割といけそうだが、眼が問題だな」

 

「男ふたなり的な感じになりそうだ……いかん、想像したら気持ち悪くなってきた」

 

「レイならどうだ?」

 

「えっ!?」

 

 永理に名前を呼ばれ、ついつい動揺してしまうレイ。「ボク女ですよ」とは言えない。親戚のおじさんである大徳寺に頼み込んで、性別を偽って、年齢まで偽って、三日間しか滞在は出来ないがこの学園に来たのだ。しかし今となっては、ここに来た事を後悔している。思い人がこんな人だとは、レイは知らなかったし知りたくなかった。

 

「……まあ、アリじゃないか? シュレディンガー准尉的な感じのあれで」

 

「なるほど、ショタだしな」

 

 厳密に言えばロリなのだが、そんな事二人が知る由も無い。というより、知っていてこの話を振って来たとしたら完全にセクハラである。セクシャルハラスメントである。

 理想と現実のギャップに気を失いたくなるが、残念ながら人間はその程度で気を失えるほど柔ではない。レイは何となくこんな世界を恨んだ。

 ちなみにこれが男達の恋バナ、というより猥談である。一部の人間同士の、と注意書きは付くが。

 

「ショタと言えば……艦これだな」

 

「……ああ、ショタ提督か」

 

 亮は少し言葉に詰まったが、ずばりと言った風に応えた。ショタ提督というのは、艦隊これくしょん、通称かんこれの主人公である。ACやアイマスのように姿、年齢、性別、何もかもが不明なのだが、だがその分だけ妄想を膨らませる余地があるのだ。その中で産まれたのが、明らかに小学生だろうと思うような、くっそ幼い提督。ロリショタやおねショタをやらせるのには丁度いい存在なのだ。

 しかし永理は、その言葉に対し首を振る。では何なのだ、と亮が尋ねると、ニヤリとまるで三下悪役めいた笑みを浮かべ永理が答を出す。

 

「艦ショタだよ」

 

 艦ショタ。厳密に言えばショタというより男の娘なのだが、そこはさして問題ではない。語感の問題だ。

 某アイドルのように本当は男なのに隠して艦娘をやっていたり、それがバレてしまったり、逆レイプされたり、アナルでレイプされたりと……色々と妄想が尽きないジャンルである。

 要するに女性キャラを男体化させる訳である。が、その際見た目が変わらないように胸が平坦な娘を選ぶのが一般的だ。一般的なジャンルではないが。

 

「艦ショタとは……流石歩く性欲知恵袋、月影永理だな」

 

「はっはっはっ、性欲の神とは俺の事よなっはっはっはっ」

 

 二人して大笑いする二人と、迷惑そうに身体をよじる万丈目。大変だなこの人も、とレイは同族意識を持った。そして同時に、帰りたいと思った。この空間に居たら自分はダメ人間になる、と理性の部分が警告を発しているのだ。

 だが無情にも、出発は明後日。そう、明後日なのだ。それまでこの生活が続くのかと思うと、嫌になってくる。なってくるが、我慢するしかない。元々レイは、不法入校者なのだから。

 

「喧しい! 時計を見ろ貴様ら! もう十二時だぞ十二時! 毎日毎日ゲームやら何やらで馬鹿騒ぎ起こしおって! ヴァーチャル世界に帰れ貴様ら!」

 

 そして、ついに万丈目の堪忍袋がプッツンした。が、それで屈する二人ではない。学園最強&学園最悪の化学反応で核融合が起きそうな二人、この二人を合わせてしまった時点で万丈目に勝ち目はない。

 亮はまるで達人のように万丈目の身体をロープで縛り、そして永理も流れるような操作でPS2にディスクをセット。

 すると流れてくるプリキュア四連呼。『DANZEN! ふたりはプリキュア』、初代プリキュアのオープニングテーマである。

 

「まだ洗脳が足りなかったようだな、万丈目くん」

 

「貴様は金田一だ、金田一一になるのだ!」

 

 それなら普通は金田一少年の事件簿じゃないの、とレイは疑問に思いながらも、もう何もかも諦めて、心の中で同室の万丈目に同情と黙祷を捧げながら眠りにつく。

 結局ぐっすりと眠る事は出来なかったが、きっとそれは夢に出てきた太ったおっさんのせいに決まっている。

 

 

──あれから二日後、永理達の部屋の扉を叩く遊城十代の姿があった。

 

「永理、またやってるな」

 

 二人はあれから授業で姿を見せておらず、恐らくゲームにのめり込んでいるのだろうと判断した。

 どうせACかポケモンだろう、と十代は思い、何時の間にか保護者的扱いに自分がなっていることに対し溜息を溢す。どこぞの平行世界ならデュエル馬鹿な十代のストッパーがオリ主なのだが、この作品での十代の立場はツッコみである。

 寮長の大徳寺から貰った合鍵で扉を開ける。するとそこには──

 

「うん、やっぱ似合うなこれ。アリだねこれ」

 

「予想以上のポテンシャルだなレイ、ディ・モールト! ディ・モールト・ベネ!」

 

 腰辺りの布に穴が空いている和服を着た男にも女にも見えない何かが、弓を持って立っていた。ちなみに髪型はホーステールで、片目だけ隠れている。

 そんなのが超ノリノリでポーズを決めているのだ。

 

「何だこれ……というか、レイは?」

 

 十代が何とか現実に戻ってきて二人に尋ねると、二人はホーステールの男とも女とも見えない恰好の奴を指差す。

 男とも女とも見えない奴と十代は視線が合い、しばし見つめ合う。すると数秒ほど間が空いてから、ぼんっという音が鳴りそうなくらい顔を真っ赤にしてベッドの中に逃げ込み、掛布団を頭からかぶる。

 

「……なにあれ」

 

「那須資隆与一でございます」

 

「いやそうじゃなくて」

 

 キリッ、という効果音が無駄に似合いそうな顔でそう言ってのけた永理。何が何だかわからない状況ではあるが、布団の中で悶えている与一(仮)。大体想像はつくが、何となく言いたくない。

 

「早乙女レイだが、何か?」

 

「……なーに巻き起こしちゃったんだお前ら」

 

 当然と言いたげな表情で言いのけた亮に対し、思わずそうぼやく。

 何となく十代も、性別が違うんじゃないかなーとくらいは思っていたのだ。だが解らない、何がどうなってこうなったのかが解らない。空白の二日間、何やら化したのかは解らないが、ろくでもない事は確かだ。

 

「いやー、びっくりしたわ。レイが本当は女の子で、しかも小学五年生だとは」

 

「俺のチンコセンサーは完璧だからな」

 

 はっはっはっはっ、と笑い合う二人。何とも最低な会話で、近くに女の子が、しかも小学五年生が居るというのに全く考慮していない発言。

 朝っぱらだというのに、妙に二人してテンションが高い。よく見てみると、眼の下にはくまが。徹夜の妙なテンションという事だろう。そしてレイもそれに巻き込まれ、悪乗りしてしまったと。

 未だ悶えているレイの方に目を向けると、少しは落ち着いたのか顔だけを布団から出す。

 

「違うの……ただドリフターズ読んでみたら与一を気に入って、違うのよ……」

 

「何が違うんだ何が」

 

 必死に弁解するレイだが、その言葉は弁解にはなっていない。大体永理と亮のせいではあったが、レイにはそのポテンシャルがあったのだ。

 そしてその代償として黒歴史と、レイの下の階で死んだように眠っている万丈目。十代は心の中で万丈目に黙祷をささげた。

 

「というかお前ら、女の子と同じ部屋と解っていたのによく平気だったな。お前らなら手を出しかねんというのに」

 

 十代の言葉は偏見めいているが、割と的を得ている言葉だ。まず永理は普段から『あの子はレイプされるべき』的な発言をしているし、亮も永理と馬というか、波長というものが合う。そして何よりロリコンだ。ただでさえ影の薄い三沢が更に薄くなっていく。

 しかし永理はちっちっちっ、と。アメリカンらしくオーバーリアクションに指を振る。

 

「この俺が小学五年生に勝てると思っているのか遊城十代! 逆転されてマウントでぼっこぼこにされるわ!」

 

「それ威張って言う事じゃないからな!? というか勝てよ、流石に小学生には勝てよお前!」

 

 とまあ、永理の理由は判明した。要約すると「力が合ったらレイプするに決まってるだろ」という事なのだが、そこはあえてツッコまない。十代とて藪蛇をつつくような蛮勇さは持ち合わせていないのだから。

 

「流石にリアルに手を出したら……卒業してから、歯止めが利かなくなりそうだからな」

 

 麻薬に手を出しそうで出さない人の台詞である。ちなみにもう収まったのか、レイは悶えるのをやめて二人に養豚場のブタを見るような眼を向けていた。そして永理はその視線に気付き、恍惚の表情を浮かべながら悶える。流石に十代もこれには引いた。

 

「……さて、ボクはもう帰るよ。正体がバレるにしろバレないにしろ、どちらにせよ今日帰る予定だったからね。というかこれ以上ここに居たら駄目になる」

 

 なんとなーく十代はもう手遅れだと思ったが、口には出さない。口に出せばレイを悲しませてしまうだけだからだ。それに少なくとも、これ以上この空間に居たら駄目さが悪化してしまうだろう。

 ベッドから身体を起こし、荷物を纏める。結局着替えもせず、風呂も入らず、乙女として色々とアレだったが、楽しかった……かな? とレイは感傷に浸る。

 

「永理さん、万丈目さん、そして……丸藤さん。三日間、お世話になりました。楽しかったよ」

 

 スポーツバッグを持ち、にっこりと二人に微笑みかけるレイ。永理は不覚にもそれにときめいてしまった。そして、部屋を出ていくレイ。それを見送る三人。そしてその背中が見えなくなった時、言い知れぬ寂しさが沸き起こった。沸き起こったが、これを好機とばかりに永理が取った行動はただ一つ。

 即座に中段ベッドに入り込み、枕と布団のシーツを密閉型の袋に入れ臭いを確保。ミッションコンプリートとばかりにやりきった顔で満足し、永理はその袋を箪笥の中にしまい、三日ぶりに睡眠を取る事にした。

 結局この日も永理は学校に行かなかったが、普段外面は優等生としてやっているので風邪と思い割となんとかなったのであった。




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