月影永理の暴走   作:黄衛門

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第33話 闇のデュエルは鉄の臭い(前編)

 木々が生い茂る、整備されていない森の中を、迷彩柄の服に身を包んだ細身の男が走る。手にはトンプソン・サブマシンガン、腰のワルサーががちゃりと揺れる。そして彼の後を追うようにBB弾が木に辺り、葉を揺らす。

 木の影に隠れ、息を整える。熱帯特有の気候は身体の水分を奪い、汗が視界を曇らす。細身の男は小型のペットボトルのお茶を飲み、一息つく。木々は鬱蒼としており、隠れる場所が多い。更に迷彩柄の服というのが、更にステルス性を高め、姿を目視する事は困難。となれば、発射位置から特定するしかない。

 緊張の一瞬、張り詰めた空気。ごくりと喉が鳴り、手に汗が浮き出る。自分はギリースーツを着ているというのに、どういう訳か精確に射撃してくる。

 

「ステンバーイ……スッテンバーイ……」

 

 小型無線機から二階堂の声が耳に入る、敵味方、共にヒットした者は0。勝機は必ずある筈だ。敵にギリースーツは効果なし、化け物めと思わず愚痴りたくなる。

 

「ゴッ!」

 

 合図と共に駆け出し、銃を撃つ。兎に角撃つ。だが精確に永理と二階堂の胸にBB弾が当たり、同時にヒットコール。それを聞き対戦相手である二人も、森の中から姿を現す。

 

「永理め、ギリースーツとは不敵なり。森の中なら、木の葉も隠しようがあるという訳か」

 

「その言葉そのままそっくり返すぞ、なにその変なヘルメット」

 

 プレデターが付けていそうな丸いバケツのようなヘルメットを外しながら、亮がふと呟く。サーモグラフィーやら色々とプレデターのマスクの機能を完全再現した、アメリカの会社が製作した玩具だ。だがその性能は軍隊でも十分通用するというのだから、つくづく世の中は何処かおかしい。

 この日永理と亮は、暇つぶしにオシリスレッドの暇人二人を誘ってサバゲーに興じていた。ここは立ち入り禁止となっている遺跡近くの森。人も滅多に入らないのでサバゲーにはもってこいだと永理がびびっと来たのだ。ちなみにギリースーツに身を纏っていたのが永理で、その仲間が今現在、隣で暑苦しく筋肉を膨らませ、ギリースーツからタンクトップ姿になったガチムチ、二階堂寛。筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。しかし飛行機だけは勘弁らしい。

 そして亮の隣の細い眼鏡野郎が嵐ヒロシ。通称ゴキブリ博士で、虫退治なら彼に相談すれば大抵何とかなるくらいだ。永理が二人に思った事は、こいつら来る学園を間違えている気がする。多分、オシリスレッドの誰もがそう思っただろう。

 ちなみに、寛の持っている銃は鉄血帝国(アイゼンライヒ)ルガー・スペシャル。某漫画の銃を完全再現している。亮の手にあるのはモシン・ナガン、ヒロシは箱型サブマシンガンのKBP PP-90である。ちなみに今は三セット目で、ヘルメットというかマスクというか、コメントに困るマスクめいたヘルメットを相手が装着したのはこのセットからである。

 

「ちょっと疲れたっす! つーかこのヘルメット凄い重いっす!」

 

「フンッ! このくらい! まだまだいけるぜぇ、月影ェェェェ!!」

 

 ジョナサンの血統かというくらい巨大な身長の二階堂寛。元々はラーイエロー所属だったのだが、筋トレに現を抜かしすぎて出席日数が足りずオシリスレッドに転落したと言う、ある意味凄い経歴の持ち主である。

 嵐ヒロシは最初からオシリスレッドだが、使用デッキ(ゴキブリ)に異様なほど愛を持っており、そのせいでデッキパワーがかなり足りず昇格する事が出来ないという、変態である。

 

「お前戦場だとマクミラン大尉なのに、なんで終わったらヴァオーなの?」

 

 暑いのでギリースーツを脱ぎながら、永理は思わず寛に尋ねてしまう。下は迷彩柄の服、サバゲー使用だ。寛はそれに、妙な笑い声で答えた。

 

「ハッハーッ!」

 

「ギリースーツを着たら」

 

「ビューティフォー」

 

 ヒロシが寛にギリースーツを被せると、途端に南蛮言葉になる寛ミラン大尉。ちなみに地元ではかなり名の売れたサバゲーマーであったらしい。

 

「しっかし、こんな所でサバゲーなんかして大丈夫なんすか? 俺パクられるのは御免っすよ!?」

 

 そう、彼らがサバゲーをやっている場所は、無駄に大きな遺跡の近く。ちょっと遠くに目をやれば、まるでエジプトめいた遺跡が見える。

 安全面やらよく解らない理由から、周辺までも立ち入り禁止にされているのだ。故に滅多に生徒も来ず、絶好のサバゲーポイントになっていた。安全面は若気の至りでカバーする。

 

「バレなきゃ犯罪じゃないんだぜ」

 

 キリッ、という感じの顔でそう言い切る亮。そこにオベリスクブルーとしての見本となる姿は無い、ただの悪友である。ヒロシと寛の二人も、亮の本性を知ったときは面食らった者の、今となっては慣れたものだ。慣れと一緒に色々と大切な物を失っているが、その程度は想定の範囲内である。

 

「……よーし、休憩終わり! 仕切り直しだぜ!」

 

「ああ!」

 

 寛の声と同時に、亮とヒロシもスタート地点である森の中へと戻っていく。そして寛も、ギリースーツを着て森の中へと戻って行った。

 永理はふと、天を仰ぐ。そこには燦々と輝く三つの太陽が──

 

「三つ?」

 

 ふと、辺りを見渡す。先ほどまで鬱蒼と茂っていた森は無く、砂漠と化していた。サバゲ仲間もいない。森林が砂漠化するというのは、外国ではよく聞く話だ。だが、それでもここまでいきなり砂漠化したりはしないし、そもそも太陽が三つもあったら普通生き物は地球では生きていけないだろう。

 だというのに、永理は無事だ。つまり、以上の事から察するに永理がたどり着いた結論は一つ。

 

「白昼夢という奴か」

 

「残念ながら違いますね」

 

 後ろからかけられた答えに、永理は振り向く。そこには見慣れた姿の死霊伯爵、緑色赤肌ハゲのサイコ・ショッカー、そしてリトルサイズのグレート・モスの三体。いつもと同じメンバーだが、普段とは違い向こう側が透けていない。つまりモンスターが実体化したのだ。

 

「此処は精霊界、我々の住む世界だ。全く、とんでもない事に巻き込まれるな。貴様は」

 

 サイコ・ショッカーが具体的かつ、永理が意図的に思考から外していた答えを口にする。グレート・モスのおかげで永理に危害を加えるような事は無い。その頼れるグレート・モスは今現在、死霊伯爵に気持ちよさそうに撫でられているが。

 元の世界には無かった、遠くに見える谷。段差は無く、一応歩いて行ける距離である。

 しかし永理はすぐにそこへは行かず、顎に手を当てぶつぶつ呟く。

 

「精霊界、つまり……モンスターが実体を持つ? そしてここは法外、つまり罰せられない……?

 よし、ファックしに行きます」

 

「何処へ行くにも、ここからでは歩いて三か月はかかります」

 

「というか貴様は何を考えているのだ」

 

 全く、と言いたげに溜息をつくサイコ・ショッカー。現実世界では生け贄を求めていたヤバい奴であったが、永理の前ではただの常識機械と化してしまう。ちなみに仮に、たどり着けたとしても攻撃力が千眼の邪教神にも劣る戦闘力の永理では到底押し倒す事は不可能である。返り討ちに去れるのが関の山だ。

 

「取りあえず私は、あの遺跡に避難する事を提案します。このままでは永理さんは脱水症状でオタッシャ重点ですのでね」

 

「……死なせた方が世の為ではないか?」

 

 辛辣な事を言ってのけるサイコ・ショッカーは放っといて、永理は本来の大きさに戻ったグレート・モスの身体にしがみ付く。グレート・モスの多脚で永理の身体をがっちりと固定、死霊伯爵とサイコ・ショッカーはグレート・モスの背中へと乗る。重さをまるで感じていないのか、難なく羽ばたき飛び上がるグレート・モス。そのまままるで弾丸の如き速さで、グレート・モスは遺跡の方へと勢いよく飛ぶ。

 

 

「なあ、知ってるか?」

 

「何をさ?」

 

 谷の前で黒い民族衣装に身を包んだ男二人が、長い棍を手に持ちながら、退屈しのぎに雑談をし合う。今現在、彼らが守るべき遺跡には何処からか現れた侵入者で喧しいほど賑わっているのだが、今日の門番である二人はここを離れるわけにもいかず、何の変わり映えもしない砂漠を眺めるか雑談をするかしかやる事が無いのだ。ちなみに二人ともハゲで、かなり体格がふとましい。

 

「今回の侵入者に関しての」

 

「侵入者ってーと、あれか。今中で暴れまわっているっつー……」

 

「そうそう、何でもまたあの異端者がやらかしたらしい」

 

「……あー、あいつか」

 

 異端者、というのは彼らの同族の一人である。色々と問題を起こす厄介な奴で部族での嫌われ者だが、長の息子ととても仲がいいので下手に手出しの出来ないという、虎の威を借りて好き勝手する奴である。

 勿論、見張りである彼らもあまり好きではない。が、あまり忠誠心や信仰心の無い少数派の変わり者には好かれていると風の噂で流れる事がある。とはいえ、その信仰心の無い墓守の数はごくごく少ないのだが。

 

「何かしでかすのは構わんが、説教に巻き込んでくるのだけはやめてほしいものだ」

 

「全く──」

 

 びゅん、と大きな物体が勢いよく通過し、谷の中を通り抜けていく。余波で服が靡き、舞った砂が視界を隠す。

 一瞬だけ見えた影はかなり大きく、そして遅れてやってきた鱗粉を吸い込んでしまい、更に強く崖に叩き付けられた追い打ちも加わって、二人は激しく咳き込む。しばらくは動けないだろう。監視塔からカン、カンと鐘の音が鳴り、侵入者に対し警告と報告を行う。

 が、砂埃の中、長い槍を持った男達の背後で、ズボンのポケットの中に手を入れながら不敵な笑みを浮かべる一人の男。その隣には、死霊伯爵とサイコ・ショッカー。両手にゲテモノを並べ、背後にはデュエルモンスターズ界でもかなりの高攻撃力に入るグレート・モス。

 

「谷の潜入に成功した」

 

 永理が潜入した場所は、ピラミッドに居るスフィンクスのような仏像が、狛犬めいて置かれている神殿の前。パルテノン神殿をマトリョーシカのように重ねたような神殿、柱を壊したらお札が大量に出てきそうだ、と永理はふと思った。

 

「潜入というには、少し迎えが早すぎますがね」

 

 そして、神殿の中からまるでバルサンを焚いた時のゴキブリのように這い出てくる兵士。

 革製のベルトのようなものを頭に巻き、長い槍を手に持った長槍兵。金色のガントレットを両腕にハメた、手に棍を持った番兵。まるで無双ゲームに出てくる雑魚キャラのように、永理達を囲む。ゲームのようにはいかないのが現実、そんな状況の中、死霊伯爵が冷ややかに、永理にツッコみを入れる。

 

「貴様達、何者だ!?」

 

「……ふむ、これは」

 

「プランD、所謂ピンチですね」

 

 正直ネタを言えるような状況ではない。永理達を囲んでいる槍兵の数は全部で五人、そしてネクロバレー効果によって攻撃力は死霊伯爵と同等になっているだろう。

 永理としては、ファックが出来ないのならこの世界に用は無いのだが、相手がその話を信じるかどうかはまた別問題となる。そして確実に、ほぼ確定的に拷問紛いな事をされるだろう。永理の中で部族というのは、「怪しい奴はとにかく拷問にかけろ!」という感じの、何処の中世だとしか思えないような思考の持ち主だという偏見を持っているのだ。

 

「ショッカー、こいつら喰っていいぞ」

 

「いや喰わないぞ、生け贄にするだけだ」

 

「ぷぴゅん」

 

 『それ食べてるのと同じじゃないの?』的な事をサイコ・ショッカーに思いながら、グレート・モスは再度永理の身体を掴み大きく羽ばたく。ちゃっかり死霊伯爵とサイコ・ショッカーはその上に乗っていた。

 砂埃と鱗粉が舞い、槍兵の視界を白く塗りつぶす。そして、サイコ・ショッカーは手から黒い稲妻の球体を発射。すると可燃性のある鱗粉に反応し、粉塵爆発が発動。大きな爆音に取り囲んでいた槍兵の身体が吹っ飛ぶ。

 

「サバゲ上がりの粉塵爆発の臭いは格別だ、勝利の香りだ」

 

 グレート・モスに釣られながら、どこぞの中佐のような台詞を吐く永理。別に前世で軍人やってたとか、そういうのは全く無いし、辛い過去なんて痛風とモテなかったくらいの、ごく普通の大人だった。ただちょっと、B級映画と木曜洋画劇場が好きだっただけだ。

 

「よし、ばらけたな。このままここに居ては日差しでヤバい、一先ず建物の中に逃げ込むぞ」

 

「危ないのではないか?」

 

「こっちにゃ上級モンスターが二体居るんだ、負ける訳ねえだろ! 行くぞぉ!」

 

 思い切り死亡フラグビンビンに立たせ永理は、死霊伯爵を盾にし遺跡の中へと突入する。と、同時に足元の床が抜け、重力に従い落下していった。

 

「あー、これ死んでます?」

 

「死んだな」

 

 死霊伯爵とサイコ・ショッカーの、全く持って心配していない声が遠ざかっていくのを感じながら、永理はふと走馬灯が頭をよぎった。

 

 

 遺跡の奥深く、地下の地下。薄暗いが埃っぽくは無い、ネクロバレーの地下室。綺麗に切りそろえられた砂岩を敷き詰めた床の中、白い服の上に青い、肩だけを守るアーマーを付けた白髪の老人は一人、岩を削り作らせた椅子に腰かけながら、犬のような青い兜を撫でながら楽しそうにくつくつと笑う。

 老人の前には、上へと続く階段。そして背後には大きく、奴隷に彫らせた壁画。そこには巨人を催した神、竜を催した神、鳥を催した神、そして世界の創造主である女神が、精巧に描かれている。

 上の階から突然爆音が鳴り響いたのには少々驚いたが、それもすぐに、侵入者とやらが決闘で巻き起こしたものだろうと思い、実際は別の侵入者なのだが、さして気にも留めなかった。

 なのでいきなり、目の前に落ちてきた侵入者の登場に驚き、眼を見開き動きが固まってしまった。ぐちゃり、と嫌な音と共に、肉が弾け骨が肉を突き抜ける。

 

「黄金の爪でも見つけてやろうか、糞が」

 

 訳の分からぬ言葉を毒づきながら、よっこらしょと、まるで何事も無かったかのようん起き上がる細身の男。老人は思わず動く死体(リビングデッド)かと疑ってしまった。青白い肌、くすんだ瞳、濃いくま、痩せぎすな身体、そして何より、床に広がる赤い染み。あの高さから落ちてきたら、普通はひとたまりも無く、死んでしまう。それも、普通の人間なら容易く。

 何処から入って来たのだ、という当然の疑問は、男が雑草をあしらったのだろう、お世辞にも趣味が良いとは言えない服をぽんぽんとはたき、銃が壊れた事に絶望の表情を浮かべた瞬間に湧き上がった。

 

「貴様、何者だ」

 

「通りすがりの勇者様だ、黄金の爪置いてけ」

 

「……質問を変えよう。貴様は、何だ」

 

 話しは通じぬというか噛み合わないというか、とにかくまじめに返す気は無いと理解した老人は、問いを変える。しかし男は首を傾げる。まるで質問の意味が理解出来ていないように。まるで自分が、ただの人間ですとでも言いたげに。

 男から感じ取る事の出来る、邪悪な気配。それがより一層、男の不気味さを、言い知れぬ嫌悪感を醸し出していた。

 

「人間、月影永理だ」

 

 嘘をつくな、という言葉が出かかった。あの高さから落ちて、無事で済む筈が無い。そもそも、骨が突き出る瞬間をしかと目撃したのだ。

 確かに、デュエリストとして徳を積んだ人間、体内にデュエルエナジーを蓄えた人間であれば無事であろうが、目の前の男、永理にはそれほど大きなデュエルエナジーを感じない。ただ、言い知れぬ邪悪な気配、それだけが感じ取れる。

 

「で、お前は何者だ? まさか俺にだけ名乗らせて、はいそうですかで終わる訳じゃないだろうな、ご老人」

 

「墓守の大神官。真の名はとうの昔に棄てた」

 

 大神官、実際かなりの重役なので当然永理より偉いのだが、当の永理は何となく凄いのだろうけどそれがどのくらいの役職なのか解らず、しかも宗教というものを軽視する傾向にあるので、さして態度は変わらない。そして同時に、この世界を夢とも思っている。今この時空は、あのサバゲの時に熱中症で倒れた時に見ている夢だと、なのでこんな態度で居られるのだ。

 

「グレート・モス、サイコ・ショッカー、そして死霊伯爵」

 

 永理が慣れた手つきで、当たり前のようにディスクにカードを置く。デュエルモードで無いのであれば、召喚条件を無視する事も可能である。そして精霊界においてデュエルディスクは、文字通りモンスターの召喚。精霊の召喚が可能な便利アイテムだ。場所の転移くらいお茶の子さいさいである。とはいえ、その事は永理は知らない筈で、精霊界に来たのも今日が初めての筈だ。だというのに、何故解ったのか。永理は一先ず、その問題を考えるのを後にする。

 呼び出された三体のモンスターは永理の一歩後ろへ下がり、周囲を警戒する。

 

「助けを呼ぼうとしても無駄だ、大人しく俺達を元の世界へ戻す事をお勧めする。こちらには、長槍兵の攻撃力を超えるモンスターが三体。我らかすれば雑兵なんぞはただのカカシですな。俺たちなら瞬きする間に皆殺しにできる、忘れないことだ」

 

「ふん、その必要は無い……元の世界に帰りたい、か。ならば試練を打ち勝たねばな」

 

 審神者は石製玉座から腰を浮かし、犬のような兜を被り、腕を掲げる。するとそこに、明らかに場とは不釣り合いなデュエルディスクが装着された。

 

「我が試練に挑まねば、次元の狭間は現れん。拒否するのであれば、どれだけこの遺跡で生き残れるのか……楽しみだな。邪神の申し子」

 

「……いいだろう、やってやる。どうせ夢なんだ、好き勝手にやってやるさ」

 

 いつの間にか、永理の腕に取り付けられていたデュエルディスクとデッキ。互いにデッキトップからカードを五枚引く。

 

「「デュエル!」」

 

 夢の世界だというのに、永理は言い知れぬプレッシャーを感じ取った。あの時と同じ、あの闇のデュエルと同じプレッシャーを。

 

「我の先功、ドロー!

 我は魔法カード、闇の誘惑を発動! カードを二枚ドローし、手札の闇属性モンスター、墓守の大筒持ちを除外! モンスターをセットし、カードを二枚セット、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 魔法カード、封印の黄金櫃を発動! デッキからネクロフェイスを除外し、ニターン目の自分のスタンバイフェイズに手札に加える! 更にネクロフェイスの効果発動! このカードが除外された事により、互いのプレイヤーはデッキトップからカードを五枚除外する!

 終焉の精霊を召喚!」

 

 永理の足元の影から、悪魔の姿が浮かび上がり、聞くのも悍ましい気味の悪い笑い声を上げながら、永理の場に具現化する。

 

「俺の除外した闇属性モンスターは四体、お前の方は?」

 

「三体だ」

 

「つまり合計七体、か。終焉の精霊の攻撃力は、除外されている闇属性モンスターの数×300ポイントアップする。よって攻撃力は2100、まあ妥協点といった所か。バトル! 終焉の精霊で、伏せモンスターを攻撃!」

 

 終焉の精霊が勢いよく上体を倒し、一気に加速し、鋭い爪を振り下ろす。リバースし現れた銀髪の褐色肌をした女は、手に持っていた石板を咄嗟に盾にしたが、それもねじ伏せるかのように終焉の精霊は、石板ごと引き裂く。胸から赤い血を吹き出し、砂岩を湿らす。

 

「墓守の使徒が相手モンスターの攻撃によって破壊された時、同名モンスター以外のモンスターを裏側守備表示でセットする。我は墓守の偵察者をセット」

 

「チッ、面倒な……カードをセットし、ターンエンド!」

 

 リクルーターでリクルーターを呼ばれた。これでリバースすれば、相手はデッキからモンスターを特殊召喚し、生け贄が二体揃う。最上級モンスターを出されると言うのは、割と辛いものがある。

 

「我のターン、ドロー!

 我はモンスターをリバース、墓守の偵察者の効果によって、デッキから墓守の召喚師を特殊召喚する!」

 

 黒いターバンで頭を隠した男の隣に、墓守の民族が着る服を羽織っただけの筋肉ムキムキの禿げが現れる。リクルーターでリクルーターを釣るというのは常套手段で、実際効果的。デッキ圧迫も素早く出来るのだ。

 

「二体のモンスターを生け贄に捧げ、我自身を召喚!」

 

 二体の墓守がククリナイフを取り出し、自らの胸に突き刺し、心臓を取り出し、天に掲げる。すると二人は光に包まれ、塵となって消滅し、代わりに大神官が現れる。

 

「我は墓地の墓守と名の付くモンスターの数×200、攻撃力を上げる。今墓地に存在する墓守の数は三体、よって攻撃力は600ポイントアップ! 更に手札から墓守の司令官を墓地に捨て、デッキから王家の眠る谷―ネクロバレーを手札に加え、発動! ネクロバレーの効果で攻撃力を500、墓守の司令官が墓地へ送られた事により、攻撃力を200更にアップさせる! 更に墓守の召喚師が墓地へ行った事により、デッキから墓守の司令官を手札に加える!」

 

 フィールド魔法を張られたが、周囲に変化は無い。既にここはネクロバレー内部だからだろう。

 しかし不味い事になった、と永理は忌々しげに舌打ちを洩らす。墓守の大神官の合計攻撃力は3300、更に終焉の精霊が破壊される事により、除外したカードが墓地へと戻る。

 正直言って除外軸デッキは、墓守と相性が良くない。しかし、だからといってグレート・モスデッキを使う勇気も無い。そもそも、出されたデッキがこれだったのだから、選ぶも糞も無いのだが。

 最も、倒す以外にも突破方法はいくらでもあるし、逆転の一手へと届かせるための手筈も既に打ってある。

 

「永続罠、エレメンタル・アブソーバーを発動! 手札の闇属性モンスター、ダーク・ネクロフィアを除外する!

 そして相手は、このカードが表側表示で存在する限り、この効果で除外したモンスターと同じ属性のモンスターは攻撃宣言する事が出来ない!」

 

「……なるほど、墓地が無理であれば場で、という訳か。ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 攻撃を封じたとしても、相手の場には攻撃力3300のモンスター。その壁は大きく、現在の手札では突破する事は容易ではない。突破する事自体は可能なのだが、その場しのぎの手がそれを難しくさせている。しかし、ここでエレメンタル・アブソーバーを取り除くという選択肢は無い。何故ならあからさまに罠だとバレてしまうからだ。

 妙に現実味のある夢の世界。脂汗を袖で拭い、カードを二枚手に取る。

 

「モンスターをセットし、カードをセット。ターンエンドだ!」

 

「くくく、突破出来るカードは引けなかったようだな。我のターン、ドロー!

 モンスターをセットし、ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー! 二回目のスタンバイフェイズに、除外したネクロフェイスが俺の手札に来る!」

 

 その逆転の一手は、相手が闇属性デッキという事で更に活かされるカード。まともに召喚した記憶こそ無いが、永理のデッキに必須なカードだ。

 とはいえ封印の黄金櫃を使った際、見慣れないカードが三枚ほど投入されていたのだが、今はそこを気にしている余裕は無い。

 

「罠カード発動、墓荒らし! 相手の墓地から、魔法カードを一枚、闇の誘惑を頂戴するぜ!」

 

「面白いカードを使うな、墓荒らしが墓荒らしを使うとは」

 

 くつくつと笑いながら、大神官はデュエルディスクから排出された闇の誘惑を永理に投げ渡す。しかし取り損ね、後ろで警戒していた死霊伯爵の後頭部にすこーんと刺さった。

 

「……ちゃんとキャッチしてくださいよ」

 

「すまん……闇の誘惑を発動! 墓荒らしの効果で、俺は2000ポイントダメージを受ける!」

 

 突然、永理の心臓が締め付けられるような感じがし、胸を押さえ膝をつく。息が上手くできず、空気を求め口が開き、垂れ落ちた唾液が砂岩を湿らす。

 大神官はその様をくつくつと笑う。実に愉快そうに。

 グレート・モスと死霊伯爵は慌てて永理に駆け寄ろうとするが、謎の壁によって阻まれてしまった。

 

「デュエルの途中で他者が干渉する事は出来ない、先のようなトラブルでもない限りな」

 

「……くそっ、こんな事に巻き込みやがって。テメェただでは殺さん、一族全部根絶やしにしてやる」

 

 血を吐き捨て、永理は大神官を射抜くように睨み付ける。おおよそ主人公らしくない台詞だが、永理はやられたら何百倍にしてやり返す主義の人間だ。恨みを晴らすのに、全く永理は戸惑わない。仲良くなった者以外が死のうがどうでもいいという考え、自己中心的に出来たのが月影永理という男なのである。

 

「カードを二枚ドローし、手札のネクロフェイスを除外! 効果で互いに、デッキトップからカードを五枚除外する! そして、俺の除外した闇属性モンスターは二体!」

 

「チッ、我は五体だ」

 

 つまり、今除外されている闇属性モンスターの数は十四体、攻撃力は4200。並みのモンスターでは突破する事は不可能。この攻撃力を超えるモンスターは、永理の知る限りではそうそう多くなく、いずれも召喚難易度の高いモンスターばかりだ。

 罠で突破される可能性もあるものの、その程度の対策は既に終了している。永理のデッキに隙があっても、プレイングに隙はそれほど無い。

 

「バトルだ! 終焉の精霊で貴様自身を攻撃!」

 

 終焉の精霊が大神官を引き裂かんと鋭い鍵爪を振り下ろすも、突然現れたハゲた男が肉癖となり、代わりに引き裂かれる。断面から内臓が飛び出るも、終焉の精霊は気にせず、空いた手で男の顔を掴み取り、握りつぶした。トマトのように弾け飛んだ男の頭、手にかかった血を払いながら、終焉の精霊は永理の場へと戻る。

 

「ぐぅっ……我の効果発動! 手札の墓守と名の付くモンスターを墓地へ送る事で、破壊を無効にする! そして墓守と名の付くモンスターが墓地へ行ったことにより、我の攻撃力が200ポイントアップ!」

 

「チッ、面倒な。ターンエンドだ!」

 

 忌々しげに舌打ちを溢し、永理はターンを終了させる。攻撃力増加に、破壊耐性。永理のデッキには残念な事に、貫通効果を持ったモンスターが存在しない。

 未だ口の中には、血の味が残っていた。それをかき消すように再度、永理は血の混じった唾を吐き捨てた。




 タッグフォースのキャラ出したのに花が無いってどういう事なの……
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