月影永理の暴走   作:黄衛門

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第36話 裁くのは誰だ

 十代は取りあえず真面目に授業に出ようと、早朝の教室に向かっていた。

 あの校長は授業を免除するとは言っていたが、それはセブンスターズの脅威が去るまでの間の話。そして授業を付いてこれない生徒に補習授業をするとは言っていなかった。つまり、セブンスターズが過ぎ去った後は、これまで休んだ分のツケが一気にのしかかってくる事になる。基本授業は途中で寝てしまう十代だが、一応軽く復習したりしている隠れ努力家なのだ。まあ面倒な授業を選んで休むつもりなのだが。十代はずる賢い性格なのである。

 デュエルアカデミアの教室は大学のような階段教室となっている。十代はその真ん中辺りなのだ。

 

(……あれ、こんな朝早くに誰だ?)

 

 いつもより少し早く起きてしまい、早く来すぎてしまった為、教室には誰も居ない筈である。だというのに、見慣れない黒いコートを羽織った男。それの前は大きく開けられており、その下には黒いT服を着ている。そんな珍妙な恰好の男は十代に気付いたのか、十代を見やる。

 

「……ん? やあ、初めまして」

 

 茶色く、少し長めの髪。アイドルのように整った顔。少なくとも、一年生ではない。一年生なら、『初めまして』と挨拶する訳が無いからだ。

 

「懐かしいんでね、思わず感傷に浸っていたのさ。君は一年生かな?」

 

「ああ、はい。貴方は……?」

 

「ん? 私かい? 私はね……まあ、すぐに解るさ」

 

 口ぶりからして、元OBが授業に来てくれたのだろうか。十代はそう推測するが、薄く笑う眼の前の男を、警戒せずにはいられなかった。

 とはいっても、十代の席はその男の近く。彼に近付かない訳にはいかない。

 十代は仕方なしに、階段を上がっていく。

 

「──ぐっ!?」

 

 突然、十代の左脚が何か鋭利なもので切られ、足を踏み外した。後ろから倒れる十代に、男は慌てて手を差し伸べ、引き上げた。

 血が、十代の靴下を濡らしていく。

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「大丈夫かい? かなり深そうだけど……これで応急手当をするといい。保健室まで肩を貸そうか?」

 

 男はそう言い薄緑色のハンカチを渡してきたので、十代はそれで傷口を押さえる。傷はかなり深め。骨こそまだ見えていないが、早く手当をした方がいいだろう。

 

「いえ、流石にそこまで頼る訳には。ハンカチは洗って返しますので」

 

 しかし怪しい相手というのに変わりは無い。それに、十代には男の意地というものがある。これしきの傷であれば人の手を借りるのは、出来れば避けたい。男の子はプライドで生きている、面倒な生き物なのだ。

 

「ああ、大丈夫だ。それくらいあげるよ。それじゃ、また後で」

 

 男は別れを告げ、十代に薄く笑いかけ教室を後にした。

 十代は、朝っぱらから不幸だ、と嘆きながら、保健室へと向かった。

 

 

「ちょっと、どうしたのその傷!?」

 

「何処かで切っちゃったみたいなんです。朝っぱらからすみません、鮎川先生」

 

 清潔そうな保健室、棚には包帯や消毒液、胃薬に混じって先ほど見た男の写真が飾ってある。

 鎌のような前髪が特徴的な保健の教師、鮎川恵美。朝から居るのはラッキーと十代は思った。最も、居なければ適当に消毒液とガーゼを使って手当するつもりだったが。

 

「ズボン血まみれね……今日は体操服で授業受けるしかないわね。はい、もう無理しちゃ駄目よ?」

 

「ありがとうございました」

 

 十代は立った際少し傷口が疼いたが、時間的に見ればまだ授業には間に合うだろう。手当をしてくれた鮎川に頭を下げる。その拍子に胸ポケットに入れていたハンカチが落ちた。

 

「おっと……?」

 

 落ちた拍子にハンカチが広がり、中から文字が覗いていた。少し気になったので、十代はハンカチを開く。それと同時にバタン、と保健室の窓が開いた。

 

遊城十代(ゆうきじゅうだい)

 本日中(ほんじつぢゅう)にきさまを(ころ)

 わたしのデッキで!

 天上院吹雪(てんじょういんふぶき)

 

「天上……院?」

 

 何処かで聞いた事のある名前に首を傾げながら、十代は扉に手をかける。

 しかしその手は、扉を開く事は無かった。

 

「あっ、がっがっ!」

 

 突然後ろから鮎川の苦しむ声、そしてもがく拍子に棚にぶつかる音、棚の中で落ちる瓶の音が鳴り響く。

 十代は恐る恐る振り向くと、窓際に黒いコートを羽織ったあの男が、右手で目元だけを隠すタイプの黒い仮面を弄びながら、不敵に笑みを浮かべていた。床には鮎川が口から泡を吹き、首元を押さえている。

 

「どーも、ダークネスです」

 

 男、ダークネスは薄い笑みを浮かべながら、自己紹介を済ます。あの遺跡の時のような、重苦しい空気が保健室に満ちる。

 十代の中に、怒りが満ちていく。

 

「テメェ、鮎川先生に何をした!?」

 

 十代の怒声に薄い笑いを顔に貼り付けながら、ダークネスは手で弄んでいた仮面を付け、窓から下り、そして一枚のカードを十代に見せる。

 

「この女医には、私のパラサイトが憑りついている。君の脚を切ったのも、こいつの仕業だ」

 

「狙いは俺達だけの筈だろ! なんで鮎川先生を巻き込んだ!?」

 

 十代はそう叫び、服の下に隠していた七精門の鍵を取り出す。

 そう、セブンスターズの狙いはその鍵の筈だ。だというのに、ダークネスは無関係の者を巻き込んだ。十代はその事に、大きな怒りを感じた。永理は筋肉痛で動けない。

 

「質問が多いが……ギャンブルは掛けるモノが対等で成り立つものだ。いいだろう、応えてやる。

 七精門の鍵を奪われないようにするにはどうするべきか、答えは簡単だ。相手からのデュエルを受けなければいい。だが我々はその鍵が欲しい」

 

 ダークネスは一旦そこで言葉を区切り、相手の反応を窺う。

 ダークネスの言う事は最もだ。彼の言うように、本当に七精門の鍵を守りたければ、相手とデュエルしなければいいだけの話だ。何も相手の都合に付き合う必要は無い。

 

「で、あればこちらも賭けるモノを容易すれば、相手も乗らざる得ないという訳だ。安心しろ、まだ死にはしない。今のうちはね」

 

 ダークネスはパチンと指を鳴らすと、鮎川の身体がさらに激しく、まるで陸に上げられた魚のようにのたうち回る。

 永理は心配になり手を伸ばすが、謎の見えない壁によって阻まれる。

 

「──だが、私の挑戦を受けないというのであれば、彼女の命は保障しない」

 

「ああ、受けてやる……受けりゃいいんだろ!?」

 

 半ばやけっぱちになりながら、十代はデュエルディスクを起動させる。切った脚が痛むが、今はそれを気合いで押し殺す。

 十代とダークネスを囲むように、黒い炎が保健室を覆い囲む。きっちり永理の居る場所は檻のような形にする拘りっぷりだ。

 ダークネスがもう一度指を鳴らすと、鮎川の動きが止まり、浅い呼吸を繰り返すようになった。

 

「「デュエル!」」

 

 授業を受けようと活き込んだ瞬間にこれとか付いてないな、と心の中で毒づき、十代はダークネスと同時に、デッキからカードを五枚引いた。

 

「先功は私が貰う、ドロー!

 魔法カード、手札抹殺を発動! 互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする!

 魔法カード、真紅眼融合を発動! このカードはレッドアイズを素材とする融合モンスター専用の融合カード。場・手札・デッキから融合素材を墓地へ送り、真紅眼を素材とする融合モンスターを真紅眼の黒竜として融合召喚する。私はデッキからメテオ・ドラゴンと真紅眼の黒竜を墓地へ送り、メテオ・ブラック・ドラゴンを融合召喚!」

 

 赤黒の渦から血管のようなものが浮き出た紫色の巨大な竜が、二本足でどっしりと構え現れる。顔が箱のように四角く、焦点の合っていない眼。羽を大きく広げ、咆哮を上げる。

 攻撃力3500、手札消費はたったの一枚。しかも真紅眼の黒竜として扱う効果という至れり尽くせりなカード。

 

「最も、これを発動するターン、私はこのカードの効果以外でモンスターを召喚・特殊召喚出来ないがね。

 魔法カード、黒炎弾を発動! 真紅眼の黒竜の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「墓地から罠カード、ダメージ・ダイエットを発動! 墓地のこいつを除外し、効果ダメージを半分にする!」

 

 メテオ・ブラック・ドラゴンの口から放たれた黒い炎の球は十代の目前で真っ二つに割れ、その片方が十代の身体を焼き、もう片方は保健室の備品を黒く焼き尽くした。ガーゼが燃え尽き、血が凝固する。

 あまりの痛さに叫び声を上げそうになるが、唇を噛みしめ堪える。相手に隙を見せてやるものか、とダークネスを強く睨み付ける。

 

「耐えたか……魔法カード、闇の誘惑を発動。カードを二枚ドローし、闇属性モンスター一体を除外する。私は真紅眼の黒竜を除外。カードを二枚セットし、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

 ジャンク・シンクロンを召喚! 効果で墓地からシンクロ・フュージョニストを特殊召喚する!」

 

 十代の場に現れる、二体のモンスター。黄色いキャップを被った機械のような戦士と、融合の悪魔。十代の定例の動き、だがそれは強力だからこそ定例となるのだ。

 

「ジャンク・シンクロン、確かチューナーとかいう奴か……狙うはシンクロか、解りやすい」

 

「お決まりってのはお決まりになる理由があるんだぜ! レベル2のシンクロ・フュージョニストに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!

 生命司りし神秘の竜よ、今こそ聖壁となって我を守りたまえ! シンクロ召喚! 転生竜サンサーラ!」

 

 冥府と現世を結ぶ黒い炎を身にまとった、黒い竜が胸のアンクを光らせ現れる。

 条件付きではあるが、死者蘇生とほぼ同じ効果を持ったモンスター。デュエルモンスターズオンライン後に買ったパックで当たったカードの一枚だ。

 効果は強力だが、しかし当然十代の狙いはそれではない。

 

「シンクロ・フュージョニストがシンクロ素材として墓地へ送られた事により、デッキから融合・フュージョンと名の付く魔法カード一枚を手札に加える! 俺はデッキから決闘融合-バトル・フュージョンを手札に加える!

 更に融合を発動! 場の転生竜サンサーラと、手札のE・HEROスパークマンを融合し、波動竜騎士ドラゴエクィテスを融合召喚!」

 

 サンサーラとスパークマンが混ざり合い、大きな槍を持ち、大きな羽で羽ばたく竜騎士が現れる。白いボディースーツの上に青い肩鎧。足の方は関節部分だけ無く、手と同じワインのような赤色をしている。膝にはよく解らない尖った物がそそり立っており、サイのような鼻の角に鶏のようなトサカを付けた、かっこいいんだか悪いんだか解らないが、少なくとも活字媒体で全てを表現しようとすればかっこ悪くなってしまう。

 

「バトルだ! 波動竜騎士ドラゴエクィテスでメテオ・ブラック・ドラゴンを攻撃! 更に攻撃宣言時、決闘融合―バトル・フュージョンを発動! 融合モンスターの攻撃宣言時にのみ発動、ダメージステップ終了時まで、選んだ融合モンスターが相手モンスターを攻撃する際、ダメージステップ終了時までその攻撃力分、攻撃力をアップする!」

 

 ドラゴエクィテスの投げた槍がメテオ・ブラック・ドラゴンの首元を貫き、溶岩のようにドロドロな血を流す。床に垂れる度に焦げる音が聞こえ、煙を上げる。

 ダークネスの身体にもメテオ・ブラック・ドラゴンの血がかかっている筈なのだが、全く意に介す様子は無い。

 

「……中々やるようだな、選ばれただけの事はある」

 

「カードをセットしターンエンドだ!」

 

 ずきり、と十代の左脚が痛む。血は塞がったものの、やはり痛みは依然として消えない。苦痛に少しうめき声を上げると、ダークネスはそれを面白そうに声を上げず肩を震わす。

 

「私のターン、ドロー!

 リバースカード、闇次元の解放を発動! 除外した真紅眼の黒竜を特殊召喚する!」

 

「真紅眼……あの時にか」

 

 ダークネスの後ろに闇の歪みが現れ、その中を引き裂くようにして現れたのは、槍のように尖った顔の、紅い眼をした真っ黒な竜。青眼の白龍を神秘的な美しさと表現するなら、真紅眼の黒竜は暴力的な美しさといった所か。

 闇より深き黒い羽を広げ、雄叫びを上げる。

 

「私は真紅眼の黒竜を生け贄に捧げ、真紅眼の闇竜を特殊召喚!」

 

 その瞬間、ズン、と空気が沈んだ。

 重くのしかかるようなプレッシャー、十代の本能が警告を鳴らす。

 黒く、ブレードのように鋭い羽には炎を表するような宝石めいたものが埋め込まれている。関節部分の鱗が増え、顔は更に鋭く、背骨を伝うように鋭い棘が何本も生えている。

 これは出したら不味い。十代の本能が必死にそう叫ぶ。

 

「カウンター罠発動、神の宣告! ライフを半分払い、召喚・特殊召喚、魔法・罠の発動を無効にし、破壊する!」

 

 心臓が締め付けられる感覚がしたが、十代は気合で堪える。

 相手に余裕を与えてなるものか、というプライドからだ。しかし、現実はそう上手くはいかない。

 

「甘い! カウンター罠、魔宮の賄賂を発動! 相手はカードを一枚ドローし、魔法・罠カードの効果を無効にし、破壊する!」

 

 十代の背後で、破壊された備品の黒い炎がひときわ大きく燃え上がるのを感じた。十代のシャツを、冷や汗が湿らす。

 ダークネスはくつくつと笑う。勝利を確信した笑み。攻撃力は依然として負けているというのに、だ。

 

「真紅眼の闇竜は、墓地のドラゴン族一体に付き攻撃力を300ポイントアップさせる。今現在存在するドラゴン族の数は手札断殺で墓地へ送ったカーボネドン、メテオ・ドラゴン、メテオ・ブラック・ドラゴン、真紅眼の黒竜二体。よって攻撃力は1500アップする。これで攻撃力はそいつを超えたが、まだだ。

 魔法カード、竜の霊廟を発動。デッキからドラゴン族一体を墓地へ送り、その墓地へ送ったのが通常モンスターだった場合、もう一体を墓地へ送る事が出来る。

 私はデッキから真紅眼の黒竜を墓地へ送り、さらに追加で真紅眼の飛龍を墓地へ送る! これで攻撃力は600アップし、4600!」

 

 墓地にドラゴン族が溜まる度に攻撃力を上げる。攻撃力4600、超えるのは確かに難しい。いや、それ以前にターンが巡ってこない可能性もある。メテオ・ブラック・ドラゴンの直接攻撃に等しいダメージを半減したとはいえ受け、更に神の宣告でライフを半分も削った。ドラゴエクィテスの攻撃力では、到底耐える事は出来ない。

 

「バトル! 真紅眼の闇竜でドラゴエクィテスを攻撃!」

 

 闇竜が羽を広げると同時に羽に付いている宝石めいた物体が光る。すると保健室に存在する影が、徐々に薄くなっていく。代わりに大きくなっていくのは、闇竜の上にある黒い球体。それが一定の大きさになったら、まるで隕石のように十代の方へと向かって行った。

 その球体は十代に直撃し、弾け飛んだ黒い炎で十代の身体を覆い隠す。

 

「終わったか、案外呆気ない。次は、月影永理とかいう奴にするか。変態というのが少し引っかかるが、まあいいだろう」

 

「──残念だけど、まだ終わってないぜ」

 

 ダークネスがその声に、マスクの下で目を見開く。するとドラゴエクィテスが槍で霧を払い、十代のしてやったりという顔が露見する。

 

「なっ、何故無事なのだ!? 貴様の場に、攻撃を防げるカードは存在しなかった筈!」

 

「墓地からネクロ・ガードナーを除外し、攻撃を無効にした」

 

「いっ、何時の間に──まさか、あの時!?」

 

 十代が胸ポケットに入れていたネクロ・ガードナーを相手に見せつけ、タネを明かす。

 手札抹殺、互いの手札を全て捨て捨てた枚数分ドローするという、手札交換と墓地肥やしには最適なカード。あの時十代は幸運にも、手札にダメージ・ダイエットとネクロ・ガードナーが来ていたのだ。ダメージ・ダイエットは無くてもライフは尽きなかっただろうが、その前に十代の気力が尽きていただろう。

 

「さあ、まだお前のターンだ」

 

 気張ってみせたものの、十代の精神は限界が近づいていた。

 少し震えた声に、ダークネスは鼻で笑う。

 

「……フン。考えてみれば、貴様の寿命が少し伸びた程度だ。カードをセットし、エンドフェイズ。通常召喚を行っていないので、墓地の真紅眼の飛龍を除外し、墓地より真紅眼の黒竜を特殊召喚する! ターンエンド!」

 

 ダークネスの場に、再び黒竜が現れる。

 そう、十代はただ攻撃を防いだだけ。相手の場にはまだ依然として、攻撃力4600の真紅眼の闇竜が存在する。その攻撃力を超える事は容易ではない。それにダークネスには、まだ秘策は有り余るほど残っている。

 

「俺の、俺の……」

 

「どうした、手が震えているぞ」

 

 十代の手が、震えている。武者震いではない、恐怖による震え。死を間近で感じ、自分に振りかかっている事へのプレッシャー。もしこれが、十代一人なら問題なかっただろう。あの遺跡の時はグングニールと融合モンスターでワンキル出来たので味わわなかった、死への恐怖。

 これが十代一人か、死んでも多分生き返りそうな永理の命がかかっているものであれば、もっと気張らずに出来ただろう。しかし、今十代が背負っている命は、鮎川先生という、セブンスターズ騒動とは無関係な人の命。自分の行いで、無関係な彼女の命を奪ってしまうかもしれない。その恐怖で、十代の手は凍り付いたように動かない。

 だが、ここで止まっていては何も終わらない。変に鮎川を、女医を苦しめてしまうだけだ。強く歯を食い締め、十代は覚悟と、明日は休んでやるという決心を決める。

 

「俺の、ターン!」

 

 十代は恐る恐る、引いたカードを見る。そのカードを見、十代の口角が上がった。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動! その伏せカードを破壊する!」

 

「チェーンし罠カード、サンダー・ブレイクを発動! 手札を一枚捨て、相手のカードを一枚破壊する! 私はドラゴエクィテスを破壊! そして墓地へ送った伝説の黒石はドラゴン族、よって闇竜の攻撃力は300ポイントアップする!」

 

 槍に稲妻が落ち、ドラゴエクィテスの身体を感電させる。ぴくぴくと痙攣し、黒い煙を出す。

 これで十代の場に、モンスターは居なくなった。

 

「魔法カード、ヒーローアライブを発動! ライフを半分払い、デッキからレベル4以下のE・HEROを一体特殊召喚する! E・HEROエアーマンを特殊召喚!」

 

 神の宣告の時と同じ感覚が十代を襲ったが、その程度は慣れたものだ。黒炎弾に比べれば、軽い痛み。容易に無視出来る。

 開いた傷口から再度血が垂れるが、アドレナリンが出ている十代はそれに気付かない。

 

「エアーマンの効果発動! 召喚・特殊召喚した際にデッキからHEROと名の付くモンスター一体を手札に加える! 俺はバーストレディを手札に加える!

 更に魔法カード、融合回収を発動! 墓地のスパークマンと、融合を手札に戻す! 戦士の生還を発動! 墓地のジャンク・シンクロンを手札に加え、そのまま召喚! 効果でレベル2以下のモンスター、シンクロ・フュージョニストを特殊召喚!」

 

 十代の場に、三体のモンスターが揃った。合計レベルは、9。十代のデッキの中で──否、デュエルモンスターズにおいて間違いなく、最強の一角に収まっているであろうカード。それの召喚条件は、満たされた。

 

「レベル4エアーマンとレベル2フュージョニストに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!

 神より放たれし力の槍よ、敵の欲望、行動、知恵を奪い我に勝利を齎せ! シンクロ召喚! 氷結界の龍トリシューラ!」

 

 三つの首を持った、封印されし凶暴な龍。十代の命において、今その封印は解き放たれた。トリシューラの登場と同時に、十代の脚の傷を氷で塞がれる。

 

「トリシューラだと……馬鹿な、ここに来て、トリシューラなぞ……貴様は、いったい」

 

「その反応からすると、効果は知ってるようだな。まずは場、闇竜を除外!」

 

 十代が指さすと、トリシューラは吹雪を出し周囲の気温を下げる。保健室に吹雪が積もり、霜柱が立つ。闇竜の動きが鈍り、やがて行動を停止した。

 そして徐々に、闇竜の死体が凍っていく。やがて完全に凍ると、まるで金槌で叩かれたように粉々に砕け散った。

 

「墓地は……飛龍を除外! ついでに手札もだ!」

 

「……だが、そいつで真紅眼の黒竜を攻撃しようと、まだライフは残る!」

 

「それはどうかな? シンクロ・フュージョニストが素材として墓地へ送られた事により、融合を手札に加える!」

 

 この瞬間、ダークネスは相手の狙いを悟った。融合デッキの特色は、融合を使い回し、召喚権を消費せずに展開するというもの。それは手札に素材があればいいので、仮にサモンリミッターやスケイルモースのような特殊召喚に制限を賭けるカードを出されたとしても、ある程度の成果を上げる事が出来る。

 そしてもう一つ。こうして場をがら空きにしたり、面倒な罠を発動させたりして安全を確保してからの特殊召喚、そういう使い方もある。

 つまりどういう事かというと、初期ライフでもワンキルされる状況になったという事だ。

 

「……ここで終わりか」

 

「魔法カード、融合を発動!

 手札のフェザーマンとバーストレディを融合し、フレイム・ウィングマンを融合召喚!」

 

 左肩に白い羽を生やし、右腕にドラゴンの顔を持ったヒーローが現れる。トリシューラが先に居るので少し寒いのか、必死に手をこすり、身体を震えさせている。

 

「バトルだ! まずはトリシューラで黒竜を攻撃!」

 

 トリシューラのブレスが、真紅眼の黒竜を凍り付かせ、破壊する。

 

「フレイム・ウィングマンで止めだ! フレイム……シュート!」

 

 フレイム・ウィングマンの右腕から出た炎が、トリシューラの凍り付かせた部屋を溶かし、ダークネスの身体を焼き尽くす。こっそり左手で暖を取っているのは、見なかった事にした。

 ソリットビジョンが消え、ダークネスが膝をつき、倒れる。その拍子に、一枚のカードが床に落ちた。

 

「はあ……はあ……クソッ、血が足りない」

 

 十代は近くの棚に背を預け、糸が切れたように座り込み、開いた傷口を押さえる。トリシューラによって応急手当こそ出来たものの、やはり流れ出た血の量は馬鹿にならない。

 ガラじゃない事はやるもんじゃないな、と自傷気味に笑う。鮎川の方を見ると、気を失っているようだが落ち着いているのか、規則正しく呼吸しているのを確認出来た。ダークネスの言葉が本当であれば、既にパラサイトはその身体から消え去っている筈だ。

 やり遂げた満足感と、プレッシャーからの解放。こんな事なら引き受けるんじゃなかった、と若干の後悔。

 眼を閉じる瞬間、保健室の扉が開き、金髪が見えたのを最後に、十代は気を失った。




 中の人繋がり、一人称も同じように変化したし問題ないよね
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