月影永理の暴走   作:黄衛門

37 / 59
第37話 悪魔城ガッデム

 草木も眠るウシミツ・アワー。前回空気どころか存在をあっかりーんされていた永理と亮は、とある城にやってきていた。突然森の奥の湖に現れたと言うキノコを重ね合わせた城、その名をガッデム。そこには吸血鬼が住むのだという。

 しかも女性。こう聞いては、永理と亮は侵入せずにはいられないのだ。

 吸血鬼──不死身、不老不死、スタンドパワーを持っていそうだったり、のじゃロリババアな金髪だったりというイメージしか永理と亮には無いが、まあとにかく女性である。女性の吸血鬼に外れは無い。外れは無い筈だ。

 

「吸血鬼ってーと、悪魔城ドラキュラを思い出すな」

 

「ああ、全くだ。つか出てくる世界観間違ってるだろ」

 

 永理は鞭を、亮は何故かタンクトップめいた服装で、中世のお城にでも出てきそうな、長く続く赤い絨毯の廊下を歩く。柱に描かれた悪魔めいた模様、高い天井を照らすシャンデアリア。

 ムッムッホワイッしたくなるが、二人は堪える。やったが最後、一週間は筋肉痛で動けなくなるだろうから。

 

「そういえば、十代が倒れたらしいな」

 

「過労か?」

 

 亮の呟きに、割とマジにそうっぽい答えを返す永理。割と心当たりがあると永理は自覚しているが、それを直すつもりは毛頭ない。何故なら彼は、自分勝手に生きる人間だからだ。

 しかし、亮は首を振る。

 

「セブンスターズの一人と戦ったらしい」

 

「ふーん」

 

 興味なさげな返事。セブンスターズの一人と戦い、勝った。十代は放っておいても勝手に立ち上がり挑み続けるというのが、永理の中での十代のイメージだ。

 それに、見舞いに行った時は割と元気そうだったので、永理はあまり心配をしていない。十代なら勝手に解決するだろう、という信頼を持っている。

 そして何より、今重要なのはお宝探しだ。大きな城に宝が無いとなれば、これは一つの詐欺と同じようなもの。

 

「取りあえず、適当な扉をかたっぱしから開いてみるか?」

 

「いいや、宝ってのは地下室か何処か大きな扉の部屋にあると相場が決まっている。つまり今、俺達が探すべきは地下へと続く階段か、糞みたいに大きな扉のどちらかだ」

 

 亮の言葉はまるっきりゲームのイメージだが、永理も同じような思考回路の持ち主なのでそれに同意した。しかし厄介なのは、この城の大きさ。全てを探索するまで、一日や二日はかかるだろう。だからこそ宝への期待値も大きいのだが。

 

「取り合えず、ここを外してみるか」

 

 永理は大きな鏡の前で立ち止まる。大きな金色の枠に収まった鏡が、永理の不健康な痩せぎすな顔を映し出している。

 永理はその鏡の縁を掴み、力を入れる。

 

「ふんっ!」

 

 びくとも動かない。永理は一旦手を放し、上がった息を整える。

 さてもう一度、と頬を強く叩き、気合を入れ直す。見た所鏡は後付けのアクセサリー、動かせない筈が無い。

 

「ふんっ! ぬぐぐぐぐぐ……」

 

「びくとも動いていないぞ」

 

 しかし永理の手は、何となく動いているのを感じ取っている。それは例えるなら、豪華客船を海の上で押してみたような、微かなものでしかないが。

 しかし、動かない訳ではない。訳では無い筈だ。

 

「……あんたたち、なにやってんの?」

 

「いやちょっと隠し通路をね……ん?」

 

 永理がついに全体重を乗せて動かそうとしている所に、後ろから女性の声を掛けられた。

 永理と亮はヤバいと思いながら振り返る。

 肩が大きく出た赤いドレスを着た、緑髪の妙齢の女性。生気を感じさせない白い肌、茶色い瞳はまるで蝙蝠のよう。真っ赤なハイヒールから見て、何となくSっぽさを永理は感じた。

 少々化粧がケバい印象を受けるが、概ね美人だろうと推測出来た。腕に付いている蝙蝠の羽を催したデュエルディスクが、マッチしているようなしていないような印象を持つ。

 見るからにわかった、この人この館の主的なあれだ、と。

 

「不法侵入よあんたら、いくら吸血鬼相手と言ってもね、紳士としてそれなりの──」

 

「紳士なのは十七時までだ!」

 

 館の主人の言葉を遮ってネタを飛ばす亮、相も変わらず自分のペースで動いているお人だ。故に付いた二つ名は自由王、日に日に亮のあだ名が増えてきているのはきっと気のせいである。精々月一程度だ。

 

「というか、ゾンビに盗みさせるって……お金に困ってるのかしら?」

 

「……ゾンビ?」

 

 亮はちらり、と永理の方を見る。痩せぎすな肌、骨に皮を引っ付けただけのような身体、眼の下の濃いくま。言われてみれば、ゾンビに見えなくも無い。亮は思わずくすりと笑った。

 永理はもう何も言い返さない、だんだんと自覚し始めているからだ。何とも悲しい話ではあるが、しかしそれは事実。現実なのだ。

 永理は膝から崩れ、落ち込む。それを見て館の主人は口元を隠し、上品に笑う。

 

「冗談よ冗談、流石に生きている人間とゾンビの区別くらいつくわ。……ちょっと怪しかったけど」

 

「怪しかったって……亮、俺ってゾンビに見える?」

 

「割とかなり」

 

 永理の問いに即座に答える亮、そこに同情は含まれていない。ただ冷徹に、現実を突き付ける。永理は更に落ち込んだ。

 亮はそれを捨て置き、デュエルディスクを展開させる。

「まあそれはどうでもいい、貴様セブンスターズだな」

 

「その子可哀想に……いかにも、わたくしはヴァンパイアの貴婦人にして、セブンスターズが一人、カミューラ」

 

 胸に手を当て、優雅にお辞儀をする館の主人、カミューラ。

 演技臭く、しかしとても様になっているその姿。バチン、と電灯シャンデリアが一度、影を落とした。

 カミューラは左腕のデュエルディスクを起動させ、右手を相手に差し出す。

 

「招かれざる来客様、わたくしと一夜、ご一緒にダンスはいかが?」

 

「見た目年齢はあと十歳くらい若い方が良いんだがね」

 

「……あんた、イギリスだと捕まってるわよ」

 

 どうも相手にペースを乱されてしまうカミューラ。それもまた仕方なし、ここに居る二人は誰が呼んだか、デュエルアカデミアの一番馬鹿と二番馬鹿。ちなみに馬鹿度は同じくらいである。

 カミューラは期待が大きく外れた事に何度目か解らない溜息をついてから、亮とほぼ同時にカードを五枚引いた。

 

「勝者は次のステージへ、敗者は……いつもならぬいぐるみに封印するのですが、無いわね。まあ今回はいいわ」

 

「勝ったらこの城はいただく、そんぐらい貰ってもバチは当たらんだろう」

 

 くつくつと笑いながら、亮は勝手に条件を追加する。しかしカミューラはそれに対し頷いた。同意を得た、と亮は肉食獣めいた笑みを浮かべる。

 永理は取りあえず、邪魔にならないように後ろの方へと下がった。

 

「「デュエル!」」

 

「先功は私が貰うわ、ドロー!

 ヴァンパイア・ソーサラーを攻撃表示で召喚!」

 

 大量の蝙蝠が人型に集まり、黒いローブに身を包んだ、手には蝙蝠めいた杖を持った、青肌の吸血鬼が現れる。眼に光は無く、白目を向いており正直気持ち悪いというのが、永理の感想だ。

 何故かヴァンパイア・ソーサラーは永理の方を見て微笑んだ。同族として意識されてしまったようだ。永理の心に精神的ダメージ。

 

「更にフィールド魔法、ヴァンパイア帝国を発動!」

 

 狭い廊下が、一気に中世ヨーロッパ風の煉瓦造りの家が建ち並ぶ路地に変わる。天に上る紅い月光が、三人を照らす。街はゴーストタウンめいて静まり返っており、隙間を通る風以外の音を感じさせない。気温も低く、薄らと霧が漂う。

 ヴァンパイア帝国、ダメージ計算時のみではあるがアンデット族の攻撃力を500上げるフィールド魔法である。

 

「カードをセットし、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 魔法カード、おろかな埋葬を発動! 墓地よりサイバー・ドラゴン・コアを墓地へ送る!」

 

「チッ! ヴァンパイア帝国の効果発動! 相手のデッキからカードを墓地へ送られた時、デッキからヴァンパイアと名の付くモンスター一体を墓地へ送り、場のカードを破壊する!

 私はデッキからヴァンパイア・グレイズを墓地へ送り、伏せカードを破壊! チェーン発動、レインボー・ライフ! 手札一枚を墓地へ送り、エンドフェイズまで、私が受けるダメージはライフ回復となる!」

 

 紅い月から落ちてきた落雷によって、カミューラの伏せていたカードが破壊される。

 ヴァンパイア帝国、相手のデッキからカードが墓地へ送られた際に、場のカードを破壊するという効果。単純に考えればかなり強力なカードなのだが、強制効果なのが欠点だ。

 

「相手場にのみモンスターが存在する場合、墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外し効果発動! デッキからサイバー・ドラゴンと名の付くモンスター一体を特殊召喚する! 来いっ、サイバー・ドラゴン・コア!

 そしてそして速攻魔法、地獄の暴走召喚! 自分場に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、デッキから同名モンスターを展開出来る分だけ特殊召喚する! サイバー・ドラゴン・コアは場に存在する限り、サイバー・ドラゴンとして扱う! よって、デッキから三体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!

 そして、貴様の方も特殊召喚してもらう、三体な!」

 

「……ヴァンパイア・ソーサラーを特殊召喚」

 

 カミューラの場に三体の吸血鬼の魔法使いが並び、亮の場にアナルビーズめいたドラゴンが一体、そして手足の無いタイプの機械仕掛けの竜が三体並ぶ。レンズ越しから相手をロックオンし、スピーカーからノイズ交じりの咆哮を出す。

 たった手札を二枚しか消費していないとは思えない展開力、やはり亮は何処かおかしな人間だ。

 

「融合呪印生物―光を召喚し、効果発動! こいつとサイバー・ドラゴン・コア、そしてサイバー・ドラゴン一体を生け贄に捧げ、エクストラデッキからサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 サイバー・ドラゴンと光る色々な生物をごちゃまぜにして脳味噌状に固めたような奴が混ざり合い、三つの頭と首を持ったメタリック・ドラゴンに変化する。

 実は亮、エンドよりツインの方が好きだったりするので、亮の使うサイバー流デッキでの出番はあまりよろしくない。久しぶりの登場に人工知能は歓喜している事だろう。

 

「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの三つの首から放たれた青い三本の太いレーザー光線が、ヴァンパイア・ソーサラーを焼き尽くす。

 

「ぐっ、ヴァンパイア・ソーサラーの効果発動! 相手によって墓地へ送られた時、デッキからヴァンパイアと名の付く闇属性モンスターか、ヴァンパイアと名の付いた魔法・罠カードを手札に加えるわ。私はデッキからカース・オブ・ヴァンパイアを手札に加える!」

 

「サーチ効果か、面倒な……カードをセットし、ターンエンド!」

 

「……何なのよ、その展開力。面倒なって言いたいのはこっちよ……まあいいわ、ドロー!

 ヴァンパイア・ソーサラーを生け贄に捧げ、シャドウ・ヴァンパイアを召喚!」

 

 ヴァンパイア・ソーサラーがククリナイフを取り出し自らの心臓を抉り取り、それを天に掲げる。するとソーサラーは宙に浮かぶ心臓を残して灰と化した。そしてその心臓を依代に灰が集まり、再び人の姿となる。

 白い、肩まで伸びた髪、闇夜の中で怪しく眼が光る。

 だが、今度は両肩に三角のシールドを付けた、騎士のような姿だ。右手にはローリングボムのようなトゲトゲの付いたメイスが握られており、左腕にはひし形の盾が付けられている。

 

「シャドウ・ヴァンパイアの召喚に成功した時、デッキからヴァンパイアと名の付くモンスター一体を特殊召喚する! 私はデッキから、ヴァンパイア・デュークを特殊召喚!」

 

 シャドウ・ヴァンパイアが手に持っていたメイスを地面に叩き付けると闇の渦が現れ、その中から紳士服と黒いマントに身を纏った、真ん中分けの見るからに男爵っぽい吸血鬼が現れる。

 

「ヴァンパイア・デュークの効果発動! このカードの特殊召喚に成功した時、カードの種類を宣言して発動!

 相手は宣言したカード一枚を墓地へ送る、私は魔法カードを選択!」

 

「サイクロンを墓地へ送る」

 

「そして、ヴァンパイア帝国の効果発動! 相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、デッキからヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを墓地へ送り、サイバー・エンド・ドラゴンを破壊する!」

 

 真紅の月から稲妻が、サイバー・ツイン・ドラゴンに落ちる。

 内部機械がショートし、装甲の隙間から白い煙が立ち上り、バチバチと稲妻の余波と内部エネルギー漏れが放電。そして中心部分から大きく爆発し、石畳の上に崩れ落ちる。

 爆発の余波が亮のコートを揺らす。しかしその表情に焦りは無い。

 

「可愛くないわね、もっと焦りなさいよ」

 

 やりがいが無い、とでも言いたげに首を振るカミューラ。亮はそれに対し、くつくつと笑う。

 

「……これを見たら驚いてくれるかしら? レベル5のヴァンパイア・デュークとシャドウ・ヴァンパイアでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 カミューラが二枚のカードを重ねると同時に、ソリットビジョンに巨大な黒い渦が現れる。

 永理はその宣言を聞き眼を見開き驚いたが、亮は相変わらず不敵な笑みを浮かべている。その顔に焦りや恐怖といったものはない。あるのはただ一つ、絶対的勝利に対する確信の笑みだ。

 

「あんまり驚いてくれてないようだけど……まあいいわ、エクシーズ召喚! 紅騎士―ヴァンパイア・ブラム!」

 

 黒い渦の中から現れたのは、悪魔のような棘を付けた鎧を着た吸血鬼。両肩の逆五角形の盾、左手にはひし形の盾。そして右手に蝙蝠の羽を催した鍔のある両手剣。白銀の髪が、路地に吹く風で揺れる。

 そして、その吸血鬼の両脇に、二人の人間と思わしき頭が突き刺さった槍が、まるで釣り上げられたかのように生えてきた。

 エクシーズ召喚、ノース校の者にしか使えない筈の、未来の召喚方法。それを何故、セブンスターズが使えるのか。永理は訝しんだが、亮にとっては至極どうでもいい話だ。どんなカードを使おうが、それを叩きのめすのみ。

 それが、亮のやり方であったし、これからもそうしていく事だろう。

 絶対強者は伊達ではない。

 

「それが貴様の切り札か」

 

「まさか、切り札は要所要所で代わるものよ……まあそれより、いいものを見せてあげる。ヴァンパイア・ブラムの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、相手の墓地に存在するモンスター一体を特殊召喚する! 私はサイバー・エンド・ドラゴンを選択! 奪え、ネクロマリオネット!」

 

 ヴァンパイア・ブラムの盾が展開し、その中から血液めいた赤黒い糸が触手のように現れ、亮の墓地から三つ首の機械竜を無理矢理引きずり出す。しかしそれは、カミューラの場に現れた途端に、一本の首を残し、塵となって崩れ落ちた。

 

「なっ、なんで!?」

 

「融合呪印生物―光を生け贄に捧げる方法の特殊召喚は、融合召喚ではない。故に蘇生条件を満たしておらず、特殊召喚する事は不可能。だからサイバー・ドラゴンのみが残ったんだ」

 

 カミューラの驚きの声に、悪戯が成功した悪ガキのような笑みを浮かべながら、亮はその疑問に答える。

 カミューラは歯噛みするが、しかしそれでも依然として、亮が不利な状況になっている事には変わりは無い。そして、カミューラのデッキには切り札となるカードがいくらでも眠っている。

 

「生意気な……! まずは、数を減らす! サイバー・ドラゴンでサイバー・ドラゴンを攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

「ふん、迎撃しろ」

 

 カミューラの蘇らせたサイバー・ドラゴンと亮のサイバー・ドラゴンの口から放たれた水色の光線はぶつかり合い、お互いの身体をメインメモリーごとドロドロに溶かす。

 ヴァンパイア・ブラムの、相手の墓地からモンスターを奪う効果を使用したターンは、その効果で蘇生させたモンスター以外は攻撃出来ない。とはいえ、ここはそれが上手く働いたと言えるのかもしれない。

 何せ、亮の場をカラにするという事は、反撃されやすい状況を作る事に他ならないのだから。

 

「ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 中途半端に残してくれおって……まあいいだろう、既に勝利の方程式は組みあがっている。魔法カード貪欲な壺を発動。墓地のサイバー・ドラゴン二体と、サイバー・ドラゴン・コア、サイバー・エンド・ドラゴン、融合呪印生物―光をデッキに戻し、二枚をドロー。

 サイバー・ドラゴン・コアを召喚! 更に魔法カード、機械複製術を発動し、デッキから二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 またしても亮の場に機械仕掛けの竜が、四体並ぶ。カミューラは思わず舌打ちを溢す。あっという間に、ごり押しに近い戦法で覆される。雇い主からのデータではそうとあったが、ここまでとは思わなんだ。

 そもそも、初日は情報収集に徹するつもりだったというのに、突然の来客。正直なところ、準備は全くと言っていいほど済んではいない。

 

「場のサイバー・ドラゴンと機械族、場のサイバー・ドラゴンシリーズを墓地へと送り、キメラティック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 場に、四つの、数珠つなぎの円盤状の身体を持った竜が現れる。サイバー・ドラゴンから格好よさを取り除き、無骨さがむき出しになった顔。眼は銃の照準のような、丸の中に十字の入ったマーク。

 そいつはノイズ交じりの咆哮も上げず、ただ敵を見渡すのみ。生物っぽさは全くと言っていいほど無く、ただ殺す事のみが刻み込まれたAI。その竜の前で亮は悪役めいた笑みを浮かべる。

 

「キメラティック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は、墓地へと送った機械族の数×1000ポイントアップする……俺が墓地へ送った機械族の数は四体、よって攻撃力は4000!

 バトルだ! キメラティック・フォートレス・ドラゴンでヴァンパイア・ブラムを攻撃! エヴォリューション・フォートレス。ガトリング!」

 

 フォートレスの円盤状の身体が螺旋状に開き、中から戦闘ヘリに付けるような機銃が四丁現れ、巨大なモーター音を響かせ銃身を回転。発射された弾は容易く、ヴァンパイア・ブラムを撃ち貫く。

 鎧は現代兵器の前には歯が立たず陥没し、装甲の破片が身体に突き刺さる。顔も手も足も、身体さえも圧倒的な暴力の前ではただのミンチとなっていく。余波が、カミューラの右肩に穴をあける。

 圧倒的、まさに圧倒的力。ごり押しが突破されたのであれば、それ以上のごり押しでごり押すのみという圧倒的脳筋。それが丸藤亮、サイバー流次期後継者である。

 

「ターンエンドだ」

 

「ぐっ、人間如きが……私に傷を付けやがって! ドロー!」

 

 激昂したカミューラの口が裂け、さながら都市伝説の口裂け女めいた風貌になる。口調も淑女っぽさは無くなり、荒々しくなった。化けの皮が剥がられた、という事だろう。

 

「スタンバイフェイズ、相手によって破壊されたヴァンパイア・ブラムは私の場に特殊召喚される! 生きて帰れると思うなよ、人間! 墓地のヴァンパイア・ソーサラーの効果発動! このカードを除外し、このターンヴァンパイアと名の付くモンスターを召喚する際、生け贄は必要としない!

 魔法カード、死者蘇生! こいつには頼りたくなかったんだけど……墓地のヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを特殊召喚!」

 

 長い銀髪の女性、かなり露出度の高い、お腹の見える青い衣装を着た吸血鬼が、スカートを浮かせながら現れる。悪魔の爪のようなものが脇腹を覆うようにしてある。谷間は、ブーツに記されている矢印のような十字で見えないが、永理には解る。その胸は豊満であると。

 その表情は、妖艶な笑み。はっきり言って、永理の好みである。ビッチ臭いのが、また良いのだ。永理はビッチ萌えでもある。ストライクゾーンは縦に長し。

 

「私を傷つけた事を後悔しながら死ね! シャドウ・ヴァンパイアを召喚! ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの効果発動! ヴァンパイアと名の付くモンスターの召喚に成功した時、相手モンスターを吸収する! キメラティック・フォートレス・ドラゴンを吸収!」

 

 ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアが左腕を爪で引き裂き、無理矢理開く。血が滴り、白い骨が覗く。何をしようとしているのか、亮には解らないでいた。

 しかしすぐに理解した。その開いた腕から生えた何千本という毛細血管がキメラティック・フォートレス・ドラゴンの身体を覆い包み、掃除機のコードめいて勢いよく飲み込まれてしまう。そしてキメラティック・フォートレス・ドラゴンの姿が無くなると、腕の傷が糸で縫うように塞がっていく。

 

「地獄はこれからよ! シャドウ・ヴァンパイアの効果でデッキからヴァンパイア・デュークを特殊召喚! ヴァンパイア・デュークの効果発動! 二回言わなくても解るわよねぇ? 私は魔法カードを選択!」

 

「融合を墓地へ送る」

 

「そして、ヴァンパイア帝国の効果で左の伏せカードを破壊!」

 

 一気にカミューラの場が、五体のモンスターで埋まる。鎧を着た吸血鬼が二体、紳士服を着た吸血鬼と痴女ファッションな吸血鬼が一体ずつ。

 それと対照的に亮の場にはモンスターが存在せず、先ほど落ちた紅い落雷によって伏せカードの一枚──トラップ・スタンは破壊されてしまった。

 絶体絶命、という状況がここ以上に合うものは無いだろう。しかし依然として、亮の口には笑みが浮かんでいる。

 生意気、物言わぬ人形に変えたい。それがカミューラの持った意思であり、そして終わりを知らせる筈の合図でもあった筈だ。

 

「バトル! シャドウ・ヴァンパイアで直接攻撃!」

 

 シャドウ・ヴァンパイアの棘付きメイスが振り下ろされ、亮の左肩に当たる。血が吹き出し、腕を伝って雫が落ちる。

 カミューラはそれを見て、嗅いで、舌なめずりをした。

 

「人形にする前に、味見するのもありかもしれないわね……ヴァンパイア・ブラムで直接攻撃!」

 

 ヴァンパイア・ブラムが手に持っていた剣を振り下ろした瞬間、その剣は大量のカードによって現れたバリアによって防がれてしまう。

 咄嗟に一歩下がるヴァンパイア・ブラム。それを確認したように、それで役目を終えたようにカードのバリアは崩れ落ちた。残ったのは、顔にちょっとの切り傷のある亮。その顔は不敵に笑っている。

 

「罠カード、パワー・ウォールを発動! デッキトップからカードを一枚墓地へ送るごとに、戦闘ダメージを100下げる。俺はデッキから二十七枚のカードを墓地へと送った!」

 

「チッ、もはや不要だ! ヴァンパイア帝国、崩落せよ!」

 

 街並みが崩れ、真っ赤な月は沈み、場は元の廊下に戻った。吸血鬼の強化、それももはや不要の長物。これで終わりとなるのであれば、下手に残った一枚を墓地へ送って中途半端な感じで終わるより、自軍を破壊せずに終わりたいと思ったからだ。

 

「随分と悪足掻きを続けるのね、でもそれもこれでおしまい。ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアで直接攻撃!」

 

「墓地の超電磁タートルの効果発動! 墓地のこのカードを除外し、バトルフェイズを終了させる!」

 

 亮の足元に緑色の甲羅を持った、U字磁石を尻尾に付けた、胸にSとNの文字が描かれた亀が現れる。亮はそれを勢いよく踏みつけると、その文字が黄色く光り輝き、スパークをまき散らす。緑色の頬に付いた電極から電気の網が、バリアのように亮の前に広がる。

 

「……あら、よく見たら貴方のデッキ、たったの一枚じゃない。そんなんで逆転出来ると、本気で思ってる訳?

 仮にそのカードが逆転のキーカードだったとしても、貴方は私に勝つ事は出来ない……ターンエンドよ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「引かせる訳無いじゃない! カウンター罠発動、強烈なはたき落とし! 引いたカードを捨ててもらうわよ」

 

 亮は引いたカード、オーバーロード・フュージョンを墓地へと送った。永理は唾を呑む。逆転の一手と思わしき手は潰された。手札は二枚、だというのに亮は、勝利の方程式が揃ったと言った。

 しかし、それは決して狂言ではない。何故なら亮は、デュエルアカデミアで一番強い男なのだから。

 

「ライフを半分払い、速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動! 墓地の機械族を融合素材として使用出来る!

 更に魔法カード、パワー・ボンドを発動! 俺は墓地のサイバー・ドラゴン一体と、二十一体の機械族を除外!

 これが俺の、全力全壊! 耳ある者は聞け! 眼のある者は見よ! 口ある者は吼えよ! 全てを伝えよ、世界廃絶の始まりを! 参集せよ、参画せよ! 絶対王者の名の元に、全ての魂を皇帝へ! 全ての力を暴帝へ!」

 

 超巨大なプラズマの塊が何十、何百とスパークし、オーロラのような美しく恐ろしい光をまき散らす。亮もなんだかんだ永理の友人、そして何より、盛り上げる事が大好きな人間となってしまっている。

 そこに、サイバー流後継者の姿は無い。絶対王者、絶対皇帝、立ちふさがる者全てを粉砕する絶対者。

 

「融合召喚! キメラティック・オーバー・ドラゴン!」

 

 惑星のように大きな球体から、十二もの竜の首が、溢れんばかりのエネルギーを散らせながら現れる。絶対的暴力の具現化、あらゆるものを吹き飛ばし、塵も残さぬ化け物。十二の竜の頭から、ソニックブームのような咆哮が一斉に上がる。

 ぴりぴりと、館内に限らず、デュエルアカデミア全土を震撼させる。まるで、力を見せびらかすように。まるで、絶対的力を示すように。

 

「なあ、さっきの口上って黒王軍の──」

 

「一回言ってみたかったんだ! バトル! キメラティック・オーバー・ドラゴンで、吸血鬼共を破壊せよ!

 エヴォリューション・レザルト・バースト! 五連打!」

 

 キメラティック・オーバー・ドラゴンの口から一斉に放たれた、五つの光線。吸血鬼達は断末魔を上げる暇も無く、一瞬で、まだ太陽に当たった方が猶予があるのではないかというくらいの速度で塵となった。そしてその衝撃でカミューラも大きく吹っ飛ぶ。

 キメラティック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は、融合素材にしたモンスターの数×800ポイントの攻撃力となる。更にパワー・ボンドは機械族専用の融合カード、これで融合召喚したモンスターの攻撃力は二倍となる。

 つまりキメラティック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は、総合計35200。この攻撃を受けたら普通のデュエルでも割とヤバいが、これは闇のデュエル。つまり衝撃も実態となっているので、それで建物が持つ訳が無いのだ。

 

「不味いな、崩れ落ちそうだ。つーか亮やり過ぎだ馬鹿!」

 

「あれしか逆転の道筋は無かったのだ、これはいわゆるコラテラルダメージで、致し方ない犠牲だ」

 

「その便利な言葉やめい!」

 

 まだ遠くから音が響いてるのみだが、ここが倒壊するのももう少しだろう。しかしカミューラを置いていくのも、何だか男としてどうかと思ってしまう二人。

 ふとカミューラの飛んで行った方を見てみると──

 

「あっ、いない」

 

「逃げやがったな畜生!」

 

 永理と亮も、慌てて倒壊していく建物から逃げる為に走り出した。天井が二人を飲み込もうと、次々と崩れ落ちていく。永理は亮に手を引っ張ってもらい、何とか追いついている状態だ。

 かろうじて館を出た時、砂煙をあげ倒壊していく魔城ガッデムを背に、二人の顔に朝日が差し込んだ。いつの間にか、一日が過ぎてしまっていたらしい。

 何とも言えない気持ちの中、二人は今日起きた出来事を振り返るとどっと疲れが出て、二人してその場で崩れ落ちるように寝てしまうのだった。




 実は最初、無謀にも悪魔城ネタ(TAS)をやろうとしていましたが、挫折しました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。