「最近お前、痩せてきてね?」
「……えっ」
いつも通りのオシリスレッド食堂、ベーコンとエッグとスパムの炒め物を食べている永理に対し開幕一番、退院したばかりだというのにエネルギッシュな十代は口を開いた。見ると周りの生徒も、うんうんと頷いている。が、当の本人である永理は首を傾げていた。
何せ本人には、痩せているという自覚が無いのだ。吸血鬼を倒した後は二日間くらい泥のように眠ってはいたものの、それ以外はすこぶる良長。身体に何の不備も見受けられない。
「いやいやいや、でも俺最初から割と痩せてたよ?」
「その頬の削げっぷり、何か病んでる人っぽいっすよ」
翔の辛辣な感想に、永理はおもむろに手首に指を回してみる。人差し指と親指はいとも容易くくっ付いた。しかしこれは入学当時からこんななので、やはり気のせいじゃないかと訝しむ。
「つかさ、お母さんに訊いてみたんだけどよ……やっぱ高校生が四十ちょいってのは痩せすぎって言ってたぞ」
「でも俺、ちゃんと飯食ってるよ?」
「量が少ないんじゃないっすか? いや、カロリーは高いっすけど」
翔の言うように、永理が普段食べている食事は、簡単に言えばこんな感じだ。
脂肪と糖分と塩分、更についでに炭水化物。太る要素の四連星。一度食べれば女子が妬み、二口食べれば教師の胃がもたれる。そんな感じの食生活を、ここ半年くらい永理は続けていた。
普通ならそりゃあもう、ハート様の腹をだらだらにしたようなくらい太っている筈なのだが、永理は入学当時より痩せたように見えてしまう。
「つってもこれ以上食べると猛烈な吐き気に襲われて、三時間ぐれぇ動けないんだけど」
「マジっすか……そりゃもう、どうしようもないっすね」
どうしようもないものはどうしようもない。これは永理が前世で学んだ教訓の一つである。モテないのは顔のせいだと決めつけ、結局素人童貞のまま死んでしまった。
ちなみに今現在の永理の顔は、ゾンビである。肉を付けたら普通という印象になるだろうが、今はゾンビである。
永理はベーコンとエッグとスパムの炒め物をおかずに米を掻き込み、更にスパムをもう一口放り込む。味付けは濃く、こってりと。前世でも続けていた食生活、直接の死因はテクノブレイクではあるが、多分内臓脂肪が付きまくっていたのも関係しているだろう。
「というか永理、今の体重ってどんぐらいなんだ?」
「どんぐらいって、四十ぐらいだろ。普通に」
「普通ではないっすよ、マジで」
ちなみに永理の身長で必要な体重は、約六十キロである。平均で、六十キロくらいである。
つまりあと二十キロくらい足りない。二十キロというのは、太るのも痩せるのも割と大変な体重だ。女子がダイエットでたった三キロや四キロで一喜一憂している所を見るに、それは大変な事なのである。
ちなみに永理は体重を五十切った事が無い。昔は割と食べていたのだが、それでも体重は今の永理くらい。痩せやすい体質なのだ。
「翔、体重計持ってきてくれ」
「了解っす」
そくさくと朝食のシシャモと米を掻き込み、翔は食堂の奥へと姿を消した。大徳寺の寮長部屋には、何故か体重計が置いてあるのだ。
永理は液状チーズをベートンとエッグとスパムの炒め物にかける。黄と肉色のキャンパスが白い液体によって穢されていくというのは、何となく背徳的な快感を覚えてしまう永理は変態である。
エッグとスパムが混ざり合ってる所を一口の大きさに箸で切り取って、それに他の所にかかっている液状チーズをちょっと付け、一口。
合うかどうか微妙な味になってしまい若干ナイーブな気持ちになっている永理の横に、翔は銀色に光る体重計を置いた。
体重計は何処の家庭でも見かけるような電子式の、小さな奴。とはいえそれなりの重量を誇っている。
永理は足で体重計のスイッチを押し、重たい上着とデッキケースをテーブルに置く。そしてそっと、水に入るように体重計の上に乗る。
「お前ら大袈裟なんだよ、まさかそんな痩せている訳──」
出た数字は、三七キロ。37㎏。小数点以下の数字を切り上げても、三七キロである。
永理は何かの見間違いだ、と思い眼をこすりもう一度体重計を見てみるが、変わらず。今度はこめかみをもみほぐし、頬を叩き眠気を吹っ飛ばしてから見てみるが、やはり変わりは無い。
平均体重を倍にしたらちょっとした肥満になるが、それでも二キロ痩せれば標準となる。明らかに、誰の目に見ても痩せすぎであった。
「……嘘だッ!!」
「嘘じゃねーよ、やっぱ痩せすぎなんだよお前!」
十代が永理の肩を掴み、がしがしと揺らす。永理の脳みそが勢いよくシェイクされるが、当の本人はそれどころではない。首が何度かゴキッ、という嫌な音を鳴らしたりしているが、それどころではない。
永理は、自分はちょっと痩せてるけどそれは標準的な感じなので全く依然として全く問題ないと思っていた。だが結果はこの有様、現実から目を背けたくなる永理であるが、これは常に自分に付きまとう事実である。
永理が白眼向きかけてきた所で翔からストップが入り、十代は揺さぶりを止める。だが、どういう訳か十代の眼には涙が溜まっていた。まるで友人が病魔に侵されたような有様ではあるが、もしかしたらと思う気持ちは今現在オシリスレッド内に居る生徒全員持っていた。
「でも思い当たる事なんて全く無いぞ。これまで通り飯を食べて、菓子喰って、寝ずにゲームと漫画とアニメ。永理の宴を毎日開催していただけぞ」
「ああ、それで万丈目まだ起きてこないんだ」
普段なら既に起きている筈の万丈目の姿が無いと思ったら、どうやら万丈目は永理の宴に巻き込まれてしまっていたようだ。十代と翔は心の中で合掌する。
が、今はそれよりも永理だ。永理の宴というのは、コーラは無いがチョコとポテチのコンボという、女性のお腹に致命的ダメージを与えるコンボ。それをずっと続けていたら糖尿病まっしぐらなのは、コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実。
ちなみに永理の血糖値は正常である。
「何かあるだろ、思い当たる事」
「ふむ……ふーむ……無いな」
たっぷり二十秒くらい考え、永理はそう結論付ける。実際永理には全く、本当に全くといっていいほど心当たりが無い。
そもそも永理は、ストレスとは無縁の生活をしていると自負している。そりゃあ、偶然テレビでカップル特集とか見た際には物凄く死にたくなったり、学園で女性と何もない日々が続いたりするのは、割と精神的にクるものがあるが、とはいえそれもさして問題ではない程度。
ぶっちゃけストレス度で言えば十代の方が上だ。
「まあ強いて言うなら体質だろうなー。最近飯食うのも億劫なほどゲームにのめり込んでたし、そんくらいしか」
「……永理の生活を改善する必要があるな」
「やめてよね。そんな生活したら、俺の精神が持つ訳無いでしょ」
永理はやれやれ、と言いたげに首を横に振る。永理は趣味を糧に生きるといった感じの人間だ。彼から趣味を取ったら、性欲以外なにも残らない。
「駄目だ! お前このまんまだと死にかねないぞ!?」
「ふっ、何を今さら」
永理は不適に笑う。実際永理は、既に二度くらい死んでいるのだ。死ぬ以外にも割りと痛い目にあっているし、闇のゲームも既に何度か体験済み。
まあ、痛いもんは痛いのに変わりは無いのだが。
「それに、永理は大丈夫だ。俺は死なん、不死身の男だからな」
「不死身っつーか、ケニーな男っすよね」
永理の負傷のしやすさはもはやデュエルアカデミアでは語り草となっている。野球の時には必ず負傷、ドッヂボールでも負傷、テニスでも負傷、まさかのゴルフで負傷と、もはや呪われているのではないかと疑うくらい。
付いた二つ名は傷つく不死鳥、何ともまあ嬉しくない二つ名だ。
「……しかし太る、か。生憎だが俺はもう、かなりの数の逆ダイエットを試したぞ」
ダイエットは痩せる事、それの逆という事はつまり太る為の食事をするという事。勿論、普通ではありえない。が、永理は普通ではない。前世の記憶があったりとか生まれ変わりとかそういう意味の普通じゃないという意味ではなく、体質的な意味で普通ではないのだ。
人間には太りやすい身体と痩せやすい身体、そのどっちでもない身体の三種類がある。永理はその中で痩せやすく、更に太りにくい身体なのだ。残念。
「まあそれ以外にも、オシリスレッドの食事はカロリーが低いってのもあるかもしれんな」
「そこは確かに」
永理の言葉に十代も同意するように頷く。
オシリスレッドで出てくる食事は、明らかにカロリーが足りていない。さながら江戸時代の武士のような食事ばかりだ。
これでは太ろうにも太れないのは至極当然。青少年からしてみれば、あまりにも少ない。
この時代に生まれた者に、米のみを大量に食べろというのもまた、酷な話である。
「でも永理君、よくラーイエローとかオベリスクブルーから食事貰ってるっすよね?」
「たまに食っても太れないに決まっているだろう」
「……そういうもんっすか?」
「そういうもんっす」
翔は訝しんだ眼を永理に向けるが、そういうものだ。例え月に一度焼肉を食べまくったとしても、そう劇的に体重が変化するという事は無い。
してもたかだか一・二キロ。女子からしてみればそれは大きな増量だろうが、永理からしてみれば全く持って足りていない。というか三十六キロはマジでヤバい体重なのだが。そりゃあもう、拒食症を疑われるくらいに。
「つまり永理を太らせるには、少なくともラーイエローにまで上げるしかないという事か……ムリダナ」
「無理っすねー」
「うむ、無理だな」
永理は授業態度は良いのだが、筆記テストがからっきしといっていいほど苦手である。それはもう、十代とどっこいどっこいなくらい。
そして何より、永理のデュエルはこれからのデュエルモンスターズでは少々デッキ速度が遅いという問題点もある。要するに将来性があまり無いように見えるのだ。教師からは。
「……まっ、これは小さな問題だ。ある程度心当たりもあるし、今は先に解決すべき問題があるだろう」
「いや小さくないぞ、割とヤバいぞ。あと心当たりってなんだ」
「今に始まった事では無い。あと心当たり言うのはちょっと……」
永理の身体が痩せていくというのは、前世からの話。永理にとって優先度はとても低い。
永理は顎に手を当て少しばかり考えると、ふと思いついたように手を叩いた。
「十代、デュエルしようぜ。折角の休みだ、約束を消化するのも悪くないだろう」
「僕は授業があるんすけどね……」
翔の言葉を軽く無視し、十代は永理の言葉に頷く。二人は素早く食器を片付け、外へ、オシリスレッド食堂前へと出た。
ドッヂボールのコートめいた白線が引いてある、グラウンドめいた場所。外装から解るようにやはり、オシリスレッドは安いボロアパートのよう。
そしてコートめいた端に二人が立ち、それを一目見ようとオシリスレッドの生徒もぞろぞろと食堂から出てくる。寮の二階の手すりに座る生徒もちらほら。
「しっかし、いきなりだな。永理」
「いつセブンスターズの奴らが来ても問題が無いようにな。最近やって無かったし」
永理はここ最近、デュエルアカデミアだというのに全くと言っていいほどデュエルをしていなかった。七精門の鍵の守護者に選ばれた特権で授業を休みまくり、日がな一日中ゲーム三昧。朝起きてお茶飲んでゲームして、昼めし食って茶飲んでゲームして、晩飯喰って歯磨きしてゲームしてという生活。このままではダメ人間まっしぐらになってしまうが、さらに拍車をかけるようにそこに亮が突入し、もうどうにも止まらない状態なのだ。
「なあ永理、賭けをしないか」
「賭け? アンティならお断りだぞ」
唐突に十代から投げかけられた提案。永理は取りあえず冗談交じりにそう断っておくと、十代は苦笑いしながら首を横に振った。
「違う違う。俺が勝ったら、永理は生活態度を改める。お前が勝ったら……飯奢ってやる」
「……まあ、いいけどさ」
永理は不敵に笑う。生活態度にとやかく言われるのは正直嫌ではあるが、飯を奢ってくれるというのはとても有難い。これを逃す手は、少なくとも男子高校生には無いといっていいだろう。
それに、永理は果物とアボカド、そして大根おろし以外は好きという、好き嫌いは多いか少ないか微妙な感じだ。大体のものは難なく食べられる。
「飯、絶対に奢れよ」
「当然、男に二言は無いぜ」
「「デュエル!!」」
両者共に獣めいた笑みを浮かべながら、カードを五枚引く。
「俺の先功、ドロー!
俺はカードガンナーを召喚し、効果発動! デッキトップからカードを三枚墓地へ送り、送った枚数×500ポイント攻撃力を上げる! カードをセットして、ターンエンドだ!」
十代の場に赤い身体をした両腕武器腕な戦車が現れ、ターンを終了する。
せっかく弾を装填したのに使ってもらえないのに、若干残念そうに肩を落としているのは、永理の考えすぎだろう。
「俺のターン、ドロー!
モンスターをセットし、カードを二枚セット! ターンエンド!」
永理の場に三枚のカードが現れる。二枚の伏せカード、そして伏せモンスター。守りの手としては堅実といった所か。
最も、それは一般目線から見た場合の話し。相手は永理、普通の行動はしてこないと心構えておいた方が良いだろう。
「俺のターン、ドロー!
E・HEROエアーマンを召喚し、効果発動! デッキからHEROと名の付くモンスター一体を手札に加える! 俺はデッキから、スパークマンを手札に! 更に融合を発動! 手札のスパークマンと、沼地の魔神王を融合し、E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマンを融合召喚! 更にカードガンナーの効果発動、三枚墓地へ送り、攻撃力アップ!」
十代の場に背中にファンを付けた青色のヒーローと、白いメタリックな羽を広げ、暗闇を照らすように白く発光する。白き鎧を身にまとい、右手に発火装置を付けたヒーロー。シャニング・フレア・ウィングマンが降臨した。
カードガンナーも銃弾を装填し、戦闘態勢バッチリといった感じ。
シャニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は1200アップし、攻撃力は3700となっている。いきなり飛ばすな、と永理は冷や汗をかいた。
「バトルだ! カードガンナーで、伏せモンスターを攻撃!」
カードガンナーの両腕から発射された弾丸が、永理の伏せモンスターを貫く。メタモルポット。壺が割れ、ポージングをしながら筋肉モリモリマッチョマンのガングロ変態がにっかりとスマイルし、大量の男フェロモン液と化して姿を消した。
今更永理と十代は、それに対しツッコみを入れる事は無い。
「メタモルポットの効果発動! 互いにカードを全て捨て、五枚ドロー!」
「これを通せばどうなるか、解っているよな! エアーマンで直接攻撃!」
エアーマンが背中のファンを大きく回転させ、それによって生み出した竜巻が永理に襲い掛かる。しかし寸前の所で鐘の音が鳴り響き、竜巻は力を失い拡散した。
永理の場には、悪魔のような姿をした振り子が、何時の間にやら登場していた。
「直接攻撃宣言時、バトルフェーダーを特殊召喚し、攻撃を無効。そしてバトルフェイズを終了させた」
「メタモルポットの時に引いてたって事か……ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!
罠カード発動、デビル・コメディアン! コイントスを一回行い、裏表を当てる。当たった場合は相手の墓地を全て除外し、外れた場合は相手の墓地のカード分、デッキトップからカードを墓地へと送る……俺は表を選択! さあ、運命のコイントス!」
二人の真ん中辺りの場に、表に青眼、裏に真紅眼の描かれた黄金色の巨大なコインが現れる。
デビル・コメディアン。このカードを入れるデッキは、どちらに転んだとしてもメリットになる優秀なカードだ。
コインが場に落ち、砂煙が激しく舞う。結果は裏、永理は不敵に笑った。
「相手の墓地の枚数分、デッキからカードを墓地へ送る! さあ十代、お前の墓地のカードを教えろ!」
「十一枚だ」
「そうか、ではその数だけカードを墓地へ送る!
リバース魔法オープン、終わりの始まり! 墓地の闇属性モンスターの数は八体! そのうちの五体、ネクロフェイス、ダーク・ネクロフィア、終焉の精霊、人造人間サイコ・ショッカー、死霊伯爵を除外し、カードを三枚ドロー! ネクロフェイスの効果発動! このカードが除外された時、互いのデッキからカードを五枚除外する!」
一気に永理のデッキが薄くなる。が、これが永理の動かし方。背水の陣である。
相手の場には攻撃力3700。まさに前門の虎後門のバッファロー。速攻決着、攻撃が封じられた時は潔く死ぬ。ぶっちゃけ守り人にはあまり向いていないデッキコンセプトだ。
「手札を一枚捨て装備魔法、D・D・Rを、除外されているサイコ・ショッカーに装備し、特殊召喚!」
次元を突き破るように拘束具めいた緑色の服を着た、ピンク色の禿げがよいしょと現れる。顔を隠すように、赤い眼鏡と顔の下部分を覆い隠す緑色のメンポ。バイオニンジャ、サイコ・ショッカー=サンのエントリーだ!
「紅蓮魔獣ダ・イーザを召喚!」
ありとあらゆる物を焼き尽くさんとばかりの炎を上げ現れるのは、血を吸ったダニのような胴体に紫色の膜を張った、真っ赤な悪魔。
手首から雑草のように生えている緑色の何かを付けた手を大きく振り、炎を打ち消す。
自分の除外したカードは十枚、攻撃力は4000。サイバー・エンドを超えた攻撃力だ。
「あっ、不味いなこれ」
「俺の勝ちだ、遊城十代!
サイコ・ショッカーでカードガンナーを攻撃! サイバー・エナジー・ショック!」
サイコ・ショッカーが手をパン、と叩き、黒くスパークする電撃球を作りだす。が、突如足元から次元が現れ、ボッシュートとなった。最後に顎をガンッ、と強く打っていたのが少々心配だが、モンスターなので問題は無いだろう。
永理の眼が点となる。そして、一歩遅れて風が永理の髪を揺らす。
「サイクロンを発動し、D・D・Rを破壊した!」
「ファッキンブッダ! なら、ダ・イーザでシャイニング・フレア・ウィングマンで攻撃! ダイザービーム!」
ダ・イーザの眼が光り輝き、恐ろしい量の熱線が勢いよく発射される。視界が歪み、熱によって地面の砂が一瞬ガラス化し、ビームの反動でそれが一気に割れる。
シャイニング・フレア・ウィングマンは右腕に白い炎を纏いそれを受け止めようと差し出すが、手の甲ごと顔面を貫かれ、シャイニング・フレア・ウィングマンはしめやかに爆裂四散した。
「ぐぅっ……やっぱ、強いな永理は」
「はんっ、伊達にグレート・モスは使ってないからな。バトルフェーダーを守備表示に変更し、カードを二枚セット! ターンエンドだ!」
「……そうじゃなくちゃ、面白くないよな。ドロー!
ジャンク・シンクロンを召喚! 効果で墓地からレベル2以下のモンスター、シンクロ・フュージョニストを特殊召喚! レベル2のシンクロ・フュージョニストに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!
知識に貪欲なるサイバー魔術師よ、無限の知性を我が財産によって証明せよ! シンクロ召喚! ハイパー・ライブラリアン! シンクロ・フュージョニストの効果でデッキからミラクル・フュージョンを手札に加える!」
光の塔を白いマントで振り払い、サイバネ魔術師が姿を現す。ぴっちりとした白と黒の服が、何処となく未来っぽさを感じさせる。
「魔法カード、融合回収を発動! 墓地の融合に使用したモンスター、沼地の魔神王と融合を手札に加え、そしてそのまま発動! 手札の沼地の魔神王とエッジマンを融合し、プラズマヴァイスマンを融合召喚!」
バチバチと全身をスパークさせながら現れる、黄色い巨人。青のスーツの上に黄色のプロテクターを身に纏っている。両腕はまるで金槌のように太く、指は短い。
永理は何となく、嫌な予感を感じた。脳内でいつか聞いた声が響き渡るが、その声の主と思われるカードは未だデッキの中だ。
「魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動! 墓地の沼地の魔神王とスパークマンを除外し、サンダー・ジャイアントを融合召喚!」
卵状の胴体を持った上半身はムキムキのヒーロー。下半身はかなり細く、アンバランスだ。
全体的に黄色を基調としており、真ん中のコアに当たる部分はパチパチと稲妻が弾けあっている。
シンクロに融合が加わり最恐に見えるとは誰が言った言葉だろうか。永理の脳内ニューロンで邪神が「あっこれ無理だわ」とネガティブな言葉を発した。
「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を一枚捨て、攻撃表示の相手モンスターを破壊する! ダ・イーザを破壊!」
プラズマヴァイスマンの指から十本の稲光が走り、ダ・イーザに直撃。
ダ・イーザの内部から連続爆発が起こり、永理の身体を覆い隠す。既に永理の中には諦めムードでいっぱいだ。脳内ニューロンの邪神も同じように諦めムードである。
健康な生活を送るほかないか、と永理は肩を落とし、溜息をつく。
「バトルだ! プラズマヴァイスマンでバトルフェーダーを攻撃!」
巨大な肩からブースターの炎が出て、一機に接近し右手がバトルフェーダーの体内に埋め込まれる。そのまま指から大量の雷撃が溢れ出、一本の槍となってそのまま永理の身体を貫かんとする。
しかし、永理の目前に一枚の巨大なカードが立ちふさがり、その槍を受け止めた。
「罠カード、ガード・ブロックを発動! ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」
永理は目を瞑り、カードを引く。THE DEVILS AVATAR、三沢曰く神のカードらしいのだが、今この場面では役に立たないカードだ。
永理は思わず、舌打ちを溢す。
「サンダー・ジャイアントで直接攻撃!」
サンダー・ジャイアントの両手から放たれた雷撃が、永理の身体に直撃する。
永理の伏せている残りのカードは、デビル・コメディアン。防御には使えず、今となっては使えないカードだ。ネクロ・ガードナーは残念ながら手札にある。防御には使えない。
「ぐっ、グワーッ!」
「ラストだ! ハイパー・ライブラリアンで止め!」
ハイパー・ライブラリアンが大きく振りかぶって、手に持っていた本めいたスマートフォンを勢いよく投擲。永理の眼に吸い込まれるように入り、直撃。永理のライフが0になり、膝から崩れ落ちた。これまでの怠惰な生活が送れなくなる事になる、絶望。
「よし、これで生活態度は改めさせるぞ。拒否権は無い!」
「酷い! 悪魔! 鬼! ちひろ!」
「なんでやちひろ関係ないやろ!」
軽い漫才を終えた直後、遠くから授業開始のチャイムが鳴り、オシリスレッドの生徒は慌てて学校へと走って行った。
それを見送り、十代は手札と場、墓地のカードをデッキに戻す。永理も落としたカードを拾い、デッキに戻してから立ち上がり、膝の土を払う。
永理と十代は取りあえず、色々と疲れたので飯を食べ直す事にした。
「そういや心当たりって何だったんだ?」
「オナニーのやり過ぎ」
「……お前なぁ」
溜息を吐く十代の横で、永理はニシシと笑った。
オナニーって日本人が好んで食すライスボール(オニギリ)なら約500個分に相当するカロリー数らしいです、クリスタルボーイが言ってました