月影永理の暴走   作:黄衛門

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第4話 オカルトじみたサムシングの霧

 草木も眠る丑三つ時……というには少し早い午前一時、オンボロアパートのようなレッド寮の一室。亮は永理の部屋でアニメを見ていた。

 部屋は他の部屋とは違いシングルベッド一つだけ。他の部屋は三段ベッドだというのに何故一段ベッドが置かれているのかというと、この部屋は元々開かずの部屋で倉庫として使われていたらしい。だが予想より一名だけ多く入学させてしまい、仕方なくこの部屋を解禁したのだとか。永理は何か嫌な予感こそしたが、やはりシングルベッドというのに魅力を感じこの部屋に決めたのだ。あわよくば女を連れ込み……と思っていたが、どうやら友人を部屋に招き入れる程度で役目を終えそうだ。

 丁度ククルスドアンのザクを、ガンダムが海へと投げ込むシーン。作画崩回と名高く、エピソード自体はそこそこいいのだが色々と展開に無茶がある回。ガンダムシリーズのアニメを入学初日の夜から永理は、亮と一緒に一気見しているのだ。

 どう考えても高校初日の過ごし方ではない。

 ちなみにククルスドアンの島は作画がかなり変で、ザクが旧ザクのように妙に細かったり、岩でミサイル潰したりと色々とおかしな事をやっている。リアルロボット路線は何処へ行った、と言いたくなるが気にしてはいけない。

 

「毎回思うんだけどよ、これジオン軍が襲ってきたらどうするつもりなんだ?」

 

「俺が知った事か」

 

 ベッドの上で二人して座り、スナック菓子を貪りながらテレビを見ている。ピザポテト、ポテチにしては少々高い値段と臭いが気になり、味も人を選ぶが気に入る人はめっさ気に入るお菓子だ。勿論永理も亮も大好きだ。

 既に床には、空っぽになったピザポテトが数袋ほど転がっている。まるで引きこもりのような惨劇の部屋だが、二人ともこの部屋に入ったのは今日が初めてなのだ。

 EDの永遠にアムロが流れ、話は終了。永理は慣れた手つきでビデオを取り出す。レッド寮の倉庫を漁ったら、まさかのビデオプレイヤーがあったのだ。これを好機にと思い実家から送られてきたガンダムを一気見、一先ず十五話ほどではあるが消化は終了した。

 しかし高校生の夜更かしの仕方ではない。こういうのは大学生のクソが付くようなオタクにこそ相応しいと言えるだろう。だが永理と亮も、世間体というものをあんまり気にしない。基本自由だ、自由すぎるぐらい自由だ。

 

「しかし、まさか永理が当時のを録画したテープを持っているとはな……というかお前世代じゃないだろ」

 

「爺ちゃんがガンダム好きでな。俺もそれに影響された節がある」

 

 ちなみに永理の爺ちゃんもジオン派で、永理がジオン派になった要因の一つは確実に爺ちゃんの影響だろう。

 何故爺ちゃんがジオン派だったのかは知らないが、ドズルを見て『こんな上官が居ればなあ……』と呟いていたのを覚えている。一応爺ちゃんは戦後生まれの筈なのだが。

 ふと永理はあくびを洩らす。もう午前1時、もうそろそろ寝る時間だ。

 

「……そういえば永理、知ってるか?」

 

「何がよ?」

 

 ふと唐突に亮は、声のトーンを落としながら何かを言い始める。どうも雰囲気的に怪談っぽい気がするが、永理はそういうのに耐性がある。別に幽霊を信じていない訳ではないが、別に怖くも無いだけだ。

 ビデオプレイヤーが空気を読んだのか、ブルーの画面から突如砂嵐へと変わる。流石にこれには永理もビクッとなった。

 

「特待生寮って知ってるか?」

 

「あー、パンフレットで見たな。立ち入り禁止になってるあそこだろ?」

 

 今は既に廃寮になっている所、オシリスレッドの寮から割と近い場所にある廃寮だ。何でも昔は闇のデュエルに関する研究をしていたとか、よく解らない噂が絶えない所だ……とネット掲示板で一時期盛り上がっていた。

 永理には、今は腐れアベック共の青姦スポットになってるだろうな。という認識しか無かったが。

 

「先輩から聞いた話なんだが……あそこがまだ特待生寮として機能していた頃の話だ。

 ある寮に、誰もが憧れ魅了されるような美貌を持った女性生徒が居た。勿論女子はオベリスクブルーだ。その女子生徒はある男に恋をしていた。それは……言っては何だがかなり格下のオシリスレッドの男。ロミオとジュリエット処が王族と貧民ほどの身分の違い。勿論オベリスクブルーの男子共はそのオシリスレッドの男を酷く恨んだ。

 当然だ。自分より格下の奴に、惚れた女が行ってしまうのだから。故にその男は周囲から、言うのもはばかれるようないじめを受けていた。正直拷問に近いのもあったらしい。

 だが男は恋を諦めなかった。酷いいじめを受けて尚、その女性と交際した」

 

 何ともありきたりな話だな、と永理はぼんやりと聞いていた。

 よくある携帯小説の、ご都合主義満載の恋愛ものにしか思えない。永理の嫌いなタイプの話だ。だが態々それをこの時間でしてくるとなれば、それで終る筈が無い。

 

「オベリスクブルーの男子共は更に妬んだ。どれだけ嫌がらせをしようと、あの二人は必ずくっ付く。ならばどうしてやろうか。自分に手に入らない魅力的な花を、自分のモノにならないのであれば、どうしてやるか」

 

「……自分のモノにならないのなら、いっその事壊してしまえ。か?」

 

 永理の言葉に、亮は頷いた。

 自分の手に入らない。自分の手に入らない物が人の手に渡ってしまうのであれば、いっその事壊してしまえ。そう思うのはある意味必然なのかもしれない。

 あまり物に執着しない永理でさえその結論がすぐに出たのだ。無駄にプライドの高いオベリスクブルーの男であれば、それを迷いなく実行してしまうだろう。

 

「オベリスクブルーの男達はオシリスレッドの男の部屋に殴り込み、オシリスレッドの男の両手を縛った。

 そして次は既にオシリスレッドの男の彼女となっていた女を連れて来て──」

 

「輪姦したって訳か、何とも悪趣味だね」

 

 そこらのネットで転がってそうな、悪趣味なエロ漫画でよくありそうな展開だ。永理としてはそういった類の漫画も嫌いではない。

 

「それで生きるのが嫌になった二人が心中したのが、この部屋らしい」

 

「……そうかい」

 

「まあ、単なる噂話だ。本当かどうかは定かではないけどな」

 

 亮はそう言いながら笑った。つられて永理も笑みを浮かべる。こういうのは雰囲気を楽しむものだ、それが真実かどうかはどうでもいい。それに仮にこの部屋で、もし本当に心中があったとしても関係の無い話。地球上で人が死んでいない土地なぞ存在しない。そんなのをいちいち気にしていたら、何処にも住めないというものだ。

 ふすまを開け、布団を取り出す。ふと上から、ぱらりと一枚のカードが布団の上に落ちた。

 いったん布団を置き、そのカードを拾う。

 

「どうした永理、何か落ちてきたのか?」

 

「ん? いや、これがな」

 

 亮にそのカードを見せる。刻の封印、相手のドローを封じる罠カードで強力な効果を持ち、月読命と闇の仮面を用いる事で完全に相手のドローを封じられるが、今となっては禁止となっているので使い道の無いカードだ。

 誰かの忘れ物か? と永理は思っていたが、そういえばこの部屋は元々開かずの間だったな。という事実も思い出した。その途端にどういう訳か、冷や汗が流れだす。

 

「あっ、永理君まだ起きてた……って、なんでここに兄さんが!?」

 

「ああ、久しぶりだな翔。永理とはちょいとした友人でな」

 

 隣の部屋の翔が部屋を覗いてきた。水色の髪をした、ちっちゃい少年。そういえば少しばかり暑かったので窓と扉を開けていたのを思い出した。

 まだ春、いくら夜中とはいえ本来であれば少し肌寒い程度なのだが、どういう訳か刻の封印が落ちて来てから、気温が下がったような気がする。

 耳鳴りもする。耳鳴りは幽霊が居る証拠だと、永理の中学時代の友人は言っていた。その友人の言葉が正しければ、今この場に幽霊が居るという事になる。

 何処となく部屋が、紫の霧に包まれているような気がする。いや、永理の気のせいではない。実際に霧が、永理の部屋に充満しているのだ。ダッと逃げる亮の服を咄嗟に掴み、それに連鎖するように亮も弟の服を掴む。翔も異常事態に気付いていたのか逃げようとしていたが、亮が手を放してくれそうにない。

 

「ええええ永理、手を放せ!! 同志であるなら『俺を置いて先に行け!』ぐらい言えるだろう!!」

 

「ッザケンナオラァ! 俺一人で死ねるものかよ!! テメェも道連れだ亮さんよォ!! つか最上級生なんだから俺の代わりに犠牲になりやがれよォ!」

 

「僕を置いて先に逝ってくださいっす兄さん!!」

 

「道連れだ翔! お兄ちゃんこんな時に見捨てるような弟に育てた覚えは無いぞ!」

 

「死ぬ時に道連れにするような兄に育てられた覚えもないっす!」

 

 永理が亮を、亮が翔を逃がすまいと引っ張る。足の引っ張り合いではなく服の引っ張り合い。何とも醜い争いだ。

 だがそんなコメディじみた争いも、謎の紫色の霧には通じないようで。その霧はやがて、女性と男性、2つの人の姿となった。最も後ろを向いている永理と亮には、素知らぬ事。そもそもまず見ていないのだ。

 ガキン、と妙な音が鳴ったかと思うと、翔の身体は飛ばされ外の手すりへとぶつかった。けほっと息の塊を吐き出すが、翔は亮の魔の手から解放されたといえるだろう。

 ついでに亮もそれに乗じようと外に手を伸ばすも、謎の壁によって遮られてしまう。

 

「そんな! 翔、置いて行かないでくれ!! 頼む、まだ死にたくない!!」

 

「テメェ見苦しいぞこの野郎! 俺を逃がせコノヤロウ!!」

 

 どちらも見苦しいと言わざる得ない。

 紫の人型の霧は腕部分に当たる所であろう場所にデュエルディスクのような霧の塊をまとわせる。

 

《デュエルだ……》

 

《身体を……身体を寄越せ……》

 

「ちょっ、亮! これやばいんじゃないの!?」

 

「……嫌だー、死にたくなーい!」

 

 そう叫び出口部分に蹴りを入れるが、全く効果は無し。亮の言い分はもっともだ。得体のしれない化け物とデュエルなんて、正気の沙汰ではない。そういうのは主人公の仕事だ。一応永理もこの作品の主人公だが、永理は特例だ。色々と、駄目な方の意味で。

 部屋の全てを紫色の霧が包み込む。咄嗟に永理は口元を袖でガード。亮は未だにどうにか逃げ出せないか足掻いている。

 ふと、足元に妙な浮遊感が現れた。だがそれも一瞬で終わり、暗闇の中永理は立っていた。

 

「何だ、どういう……事だ!?」

 

「さあな、俺が知るか。解っている事はただ一つ、助けを呼んでも無駄って事だけだ」

 

 外に繋がっていた筈の扉も、ビデオプレイヤーも、ベッドもスナック菓子の袋も無い。暗闇、漆黒の闇というに相応しい空間。だというのに何故か、紫色の謎の霧達と永理、そして亮の姿ははっきりと見える。

 オカルト、としか言いようがないだろう。

 

《ディスクを……構えろ……我々、と。我々とデュエ……デュエルするの……だ》

 

《私……まだ、生きたい。彼と……彼と……》

 

 どうにも亮の言っていた怪談話は本当で、今永理の目の前に居る二つの紫の影はその心中した2人らしい。永理も若干の同情する心はあったが、こんなのに巻き込まれてまで相手を憐れむような気持ちは持てない。

 永理はそこまで聖人君子ではない。むしろ器の小ささには少しばかり自信があるぐらいだ。

 

「……どうやら、やるしかないようだな」

 

 先ほどまでの取り乱し様は何処へやら、覚悟を決めた亮はデュエルディスクを構える。もしデュエルをせずとも、助けが来る可能性は低い。となれば、今出来る事をやるしかない。どうせやらなくても、いずれ餓死するだけ。

 永理もデュエルディスクを構える。デッキは亮と戦ったのと同じ、亮も同じ。火力は充分、だが相手の実力は未知数。デュエルに勝っても助かるとは限らない。もしかしたら、永理と亮を置いてただ消えるだけかもしれない。

  そんな考えを、ネガティブな思考を永理は頭の中からかき消す。こういうのは、やらなければ何も終わらないのだ。

 

「好きに生き、理不尽に死ぬ。それがデュエリスト……だが、まだ死ぬにはちょいと早いし、犬死にだけは御免だね!」

 

 永理も覚悟を決め、ディスクを構える。敵を消し去る為、この闇の空間から逃れる為。相手は未知数、気力はあまり無し。状況は最悪、恐怖はマシマシ。気分は最悪。何ともまあ不利な条件が揃ってしまっている事に対し、永理は思わず笑ってしまう。

 永理と亮、そして二人の亡霊は、ほぼ同時にデュエル開始の宣言をした。




 はい、今回はデュエル描写無しです。ついでに次回からは、ちょいと文字数増やしてみようかなーと思っとります
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