月影永理の暴走   作:黄衛門

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第40話 それ即ち愛

「十代! この子すっごいモフモフ! 凄い! モフモフ!」

 

「危ないから離れなさい!」

 

 ピラミッドめいた石造りのコロシアム、授業に出てなかった生徒を見つける為森の中を探していたら見つけた建物の中、そこでは生徒が重労働をしていた。

 そして永理は、左眼に傷のある虎に抱き着いていた。虎も突然の事にどうすればいいのか解らず、動きが固まっている。

 ちなみに十代と三沢、大徳寺と隼人、ついでに明日香は石柱にしがみ付いている。まあ虎に追いかけられたらそういう風に反応するのは至極当然。というか、永理の行動がイレギュラーすぎるのだ。

 

「田舎の猫ちゃん思い出すな、いいなこれ。いいな」

 

「……その虎は人を喰わない、だから安心して降りてくるといい」

 

 侍めいて髪の毛を束ねた褐色の女が、永理に呆れた眼を向けながら言う。

 左眼に爪で引っかかれたような傷、肩が全部出ちゃっている灰色の服。腰にはベルトが巻かれ、ズボンは黒いジャージのようなもの。ノーブラだとうかがえるが、どうも興奮は出来ない。何せ腕の筋肉が凄いからだ。

 言われるがまま、怖々と降りてくる五人。その間永理はずっと虎をモフモフしてた。肝が据わっているというか、何というか……度し難い馬鹿である。

 褐色の女は五人が下りてくる間に、コロシアムを作ってくれていた生徒達に給料袋を手渡していた。いくらくらい入っているのか永理はモフモフしながら少し気になっていたが、非力な永理が居たとしても足手まといになっていただけだろう。

 全員が下りてくる頃には、何故かクロノスががっくりと膝をついていた。

 何故いるんですにゃ、クロノス教諭。そして何やってるんですにゃ、という大徳寺の虚しい言葉。まあ同僚のこんな様を見たら思わずそう言ってしまうのも無理はないだろう。

 

「待たせて済まない。私の名はタニヤ、セブンスターズとかいうのの一員にしてアマゾネスの末裔だ。このコロシアムで──そこの、いい加減放してやってくれないか」

 

「あっ、すまん」

 

 名残惜しそうな表情で永理が虎から離れたのを確認しうんと頷いてから、猫なで声になり、すぐ自己嫌悪に陥る。。

 

「でもね、あたしと戦えるのは男の中の男だーけっ。やっぱ無理あるなこのキャラ」

 

「では俺が行こう」

 

 そんなタニヤの意思をあえてスルーし、まず、永理が挙手する。明日香の冷ややかな眼は今に始まった事では無い。

 次に手を挙げたのは十代だ。

 

「いいや、俺が行く。アマゾネスとデュエルなんて滅多に出来ないからな!」

 

「なっ、なら俺が──「「どうぞどうぞ」」……最近十代、キャラ代わってきてないか?」

 

 三沢は思わずといった様子で言うが、十代は自覚が無いのか首を傾げる。

 まあとにかく、とんとん拍子に対戦相手は決まった。後はセブンスターズの幕引きだけだ。

 

「虎、モフってていいか」

 

「ああ、構わんぞ…というか、よくそんな度胸があるな」

 

「はっはっはっ」

 

 許可を取るより早く虎に抱き着く永理。これがショタならばとてもいい絵になったのだろうが、実際はオバケめいた人間。虎の顔も若干 強張っているように感じる。

 まあそんな永理と虎は置いといて、三沢とタニヤはデュエルディスクを起動させる。

 

「先に訊いておく。貴様はどちらのデッキを選ぶ? 勇気のデッキか、それとも知恵のデッキか。はたまた未来のデッキか」

 

 タニヤは両手に持ったのと、既にデュエルディスクにセットされているデッキを三沢に見せ、相手に選択させる。

 見様によっては舐めプにも見えるその行為。だが三沢は、それを鼻で笑う。

 

「どのデッキでも代わりにあ、俺の勝率は百パーセントだ。貴様の最高のデッキで来い」

 

 タニヤは一瞬眼を見開くも、獰猛な笑みを浮かべ二つのデッキをズボンのポケットに仕舞い、新たなデッキを取り出し、デュエルディスクにセット。

 

「良かろう。その蛮勇さを称え、貴様には未来のデッキで挑んでやる」

 

「未来なんぞに価値は無い、あるのは必然過去だけだ」

 

 三沢は見るからに論理的思考タイプの人間なので、その心のうちを知らぬ者が見ればとてもかっこよく見える事だろう。知識は過去より学び、万全を持して動く。これは中等部時代、三沢が掲げた言葉の一つだ。

 とはいえそれも過去の話。今の三沢の過去というのはつまる所「ロリショタって……いいよね(意訳)」という意味である。そう考えればタニヤの外見は、デッドボールくらいアウトだろう。三沢に筋肉属性は無いのだ。

 

「先に言っておくがこのデュエル、闇のゲームではない」

 

「婿のゲームだな」

 

 タニヤの言葉に永理が合いの手を入れ、十代達はくすりと笑った。

 一気に緊張感が、まあ元々無いようなものだが拡散した。大徳寺に至っては何処から持ってきたのかレジャーシートを広げ、そこでお茶を飲む始末。ついでに永理と十代もそれにお伴する。

 

「「デュエル!」」

 

「先功は私が貰う、ドロー!

 魔法カード、増援を発動! デッキからアマゾネスの剣士を手札に加え、召喚!」

 

 タニヤの場に獣めいた長い髪をした褐色ムキムキの女戦士が、三日月刀を振るい現れる。青い胸当てとパンティめいたという痴女真っ青な服装ではあるが、ムキムキなので全くエロくない。

 

「カードを二枚セットし、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 ふむ、ここは少々堅実に行かせてもらう。俺はマスマティシャンを攻撃表示で召喚し、効果発動! デッキから地霊使いアウスを墓地へ送る! 更に永続魔法、魔法族の結界と補給部隊を発動し、カードをセット! ターンエンドだ!」

 

 三沢の場に床にまで付く程伸びた白い髭を蓄えた、眼鏡をかけた爺さんが現れる。学術師っぽい帽子を被り、魔法使いらしく真紅のローブを羽織っている。手には顔のようなものが付いた、先端がひし形の杖。

 そしてその背後、三沢の頭上に紫色に光り輝く、幾何学的な模様の結界が浮かび上がる。円の中には、線で繋げば四角の形になるように、丸い箇所がぽっかりと空いている。

 三沢の手札は一気に二枚となったが、手札補充の手を三つほど打ってある。まるで、堅実を体現しているようだ。

 

「ふむ、攻撃は来なかったか……私のターン、ドロー!

 私はアマゾネスの剣士を召喚! 更に二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! フォトン・バタフライ・アサシン!」

 

 黒い渦の中に二人のアマゾネスの剣士が吸い込まれ、中から現れたのは、カラスアゲハのような羽を背中に携えた、肩のプロテクターが凄く尖った女であろう戦士。

 黄色い、足首辺りまで伸びた、腰辺りで黒く塗り替わったピエロのような服。光で出来ているような腕、両方の手にはカミキリムシの顎のような刃物が握られている。

 羽の模様が、まるで大きな星の様に輝いている。

 エクシーズモンスター、三沢にとってはデータの少ない未知に近い相手。

 

「フォトン・バタフライ・アサシンで、マスマティシャンを攻撃!」

 

 フォトン・バタフライ・アサシンの手に持っているカミキリムシのような刃物でマスマティシャンはズタズタに引き裂かれ、破壊される。

 しかし、三沢は喜々として罠カードを発動させた。

 

「永続罠、憑依解放を発動! 一ターンに一度、自分場のモンスターが破壊され墓地へ送られた時、そのモンスターと違う属性の守備力1500の魔法使い族モンスター一体を攻撃表示か、裏側守備表示で特殊召喚する!

 俺はデッキから、光霊使いライナをセット! 更に補給部隊とマスマティシャンの効果でカードを二枚ドローし、魔法族の結界に魔力カウンターが一つ乗る!」

 

 三沢の頭上にある結界の一つに、紫色の光が灯る。

 三沢の掌で踊らされていた事を痛感したタニヤは、思わず歯噛みする。しかも相手のデッキは、コンセプトはアイドルデッキ。そんなのがセブンスターズと戦い、それも有利に立っている。その事実をタニヤは、未だ受け入れられないでいた。

 

「ぐっ、ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー!

 モンスターリバース、光霊使いライナ! リバース効果で相手場の光属性モンスター、フォトン・バタフライ・アサシンのコントロールを得る!」

 

 白いボブショートの女の子が、光り輝く宝石を埋め込んだ杖を持って現れる。白と黒の服、その上を羽織るように冒険者めいた、身体を包む大きな布。そして何より特徴的なのは、ホットパンツである。

 そう、ホットパンツなのだ。

 光霊使いライナ(ホットパンツ)が杖を光らせると、まるで洗脳されたかのようにふらふらとフォトン・バタフライ・アサシンはライナの所へと向かう。その光景を見て永理が何故か「ヒッ!?」と悲鳴を上げた。

 三沢は相手の動きを注意深く観察し──落胆した。何か手を打ってくるのであれば、今。だのになにも打たないという事は、抗う術が無いのだろう。

 勿論、警戒心は未だ解かない。だがそれでも、少しばかり気が緩んでしまうのは仕方がない。

 もしこれで攻撃が全部通れば、その瞬間三沢の勝ち。これで勝ったら思う存分、思いつく限り罵ってやる。そう心に決め、三沢はバトルフェイズに入る。

 

「バトルだ! フォトン・バタフライ・アサシン、光霊使いライナで直接攻撃!」

 

「罠カード発動、聖なるバリア―ミラーフォース―! 相手の攻撃表示モンスター全てを破壊する!」

 

 ライナの杖から放たれた光の魔法と、アサシンの両手に持った刃物による斬撃。それらが突如現れた虹色の壁に跳ね返され、自らの身を亡ぼす。

 ミラーフォース。効果は解りやすく、そして強力なカード。厄介なのを伏せていたものだ、と三沢は内心で毒づく。

 三沢の頭上にある魔法陣が、また一つ光り輝く。

 

「補給部隊の効果で一枚ドローし、魔法族の結界にカウンターが一つ乗る。見習い魔術師を召喚し、効果発動。魔力カウンターを一つ乗せる。俺は魔法族の結界に、魔力カウンターを乗せる!

 更に憑依解放の効果で、デッキからファイヤーソーサラーをセット!」

 

 黄色い髪を赤い鉢巻でまとめた女が、手に持っている杖を光らせ、三沢の頭上にある魔法陣に魔力を送る。ピチピチな魔法着、ふんどしの様に腰にはためく青い布。更に老け顔。イラストではなく効果で入れてあるカードだ。

 

「カードを二枚セットし、ターンエンド!」

 

「私のターン、ドロー!

 私はアマゾネス訓練生を召喚!」

 

 まだ未成年の、青い部族服を着た褐色の女が現れる。すらりと伸びた脚、程よい筋肉。あどけない顔には強い意志を感じ取れる。胸は平坦であったが、そこが更に彼女の、言葉に言い表せない良さを引き出している。

 永理は思わず生唾を飲み込む。これだよ、こういうアマゾネスだよ。こういうのを求めてたんだよ。そういう意思を持ちうんうんと頷くと、翔が永理に向かってサムズアップをしていたので、永理も返す。

 ここにまた、妙な絆が産まれた瞬間であった。

 

「バトルだ! アマゾネス訓練生で、見習い魔術師を攻撃!」

 

 アマゾネス訓練生の手に持っている鎖が、見習い魔術師の腹を貫き臓物をまき散らす。が、鎖の先端が抜けないように変形し、見習い魔術師をそのまま持ち上げ、見習い魔術師を三沢のデッキに思い切り叩き付けた。

 無駄にハイテクな鎖である。

 

「アマゾネス訓練生が破壊したモンスターは墓地へは行かず、デッキの一番下に戻す!」

 

「魔法使い族が破壊された事により、魔法族の結界に魔力カウンターが一つ乗る!」

 

 三沢の頭上にある魔法陣がすべて埋まり、まばゆい光を出す。

 これで一気に四枚のアドバンテージを得る事が可能になってしまう事になるのだが、それを許すタニヤではない。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動! 魔法族の結界を破壊する!」

 

「先を見極めるのは俺だ! カウンター罠、魔宮の賄賂! 魔法・罠の効果を破壊し、相手にカードを一枚ドローさせる!」

 

「ふん、貴様の事は知っている。故に、その手は読めていた! カウンター罠、カウンター・カウンターを発動! カウンター罠の効果を無効にし、破壊!」

 

「言っただろう、先を見極めるのは俺だと! 二枚目の魔宮の賄賂を発動!」

 

 サイクロンはタニヤの手元で、力を振るうことなく渦が拡散する。それを見終えタニヤは、苦い表情でカードを二枚ドローした。

 三沢は魔宮の賄賂によって二枚のカードをドローさせてしまったが、代わりに四枚引けるカードを温存させてしまった。

 そして三沢にとって見習い魔術師は、いわばカウンターを乗せる為のカード。リクルートも兼ねてはいたが、別にデッキに送られてしまったとしてもさして問題は無い。

 

「……モンスターを戦闘で破壊した事により、アマゾネス訓練生の攻撃力は200アップする」

 

「憑依解放の効果で、デッキから地霊使いアウスをセット!」

 

「カードをセットし、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

 ……アマゾネス訓練生、素晴らしいカードだ。可愛い童顔、貧乳、露出の高い服装……」

 

 三沢がじろじろとアマゾネス訓練生を見ると、訓練生は顔を真っ赤にして胸を隠し、三沢から身体を背けさせる。

 三沢の眼は見るからに変態のそれだ。

 

「ジェスター・コンフィを召喚!」

 

 三沢の場に、コックのような黒と紫のシマシマ模様の帽子を被った、太ったピエロが現れる。紫色の、ズボンと一体となっている服にはS字カーブのように黄色い模様が走っており、緑色のボタンで止められている。

 

「魔法族の結界と魔法使い族モンスター、ジェスター・コンフィを墓地へ送り、このカードに乗っている魔力カウンターの数だけカードをドローする! 四枚、カードドロー!」

 

 紫色の結界が破片の雨と化し、三沢に膨大な魔力と共に降り注ぐ。魔法陣から放たれた光が三沢の手に、可能性を持たせる。

 

「だが、まるで、全然! この俺を萌え殺すには、ほど遠いんだよねぇ!

 モンスターリバース! 地霊使いアウス! &ファイヤーソーサラー!」

 

 三沢の場に現れる、二人の女性。一人は眼鏡をかけた、ボーイッシュといった感じの女の子が可愛らしくターンし、現れる。旅人めいた茶色い上着の下は緑色の毛糸の服。下はスパッツ。見た所霊使いで一番巨乳だ、と永理は直観的に感じた。

 そして、その隣で若干悔し気に現れるのは、黒く長い、下の方まで隠れる服を着た、金髪の長い少女。頭にはUFOめいた帽子を被っている。

 

「まずはアウスの効果で、アマゾネス訓練生のコントロールを得る!」

 

 アウスが手に持っている、水晶が先端に大量につけられた杖を振るう。すると茶色いビームがそこから出て、アマゾネス訓練生に直撃。まるで操り人形かのようにふらふらと、三沢の場に移動するアマゾネス訓練生。その眼はレイプ眼であった。

 そしてアウスの前で跪くと、アウスは訓練生の顔に手を添え、何かを呟く。すると訓練生の顔は喜びに満ち溢れたような笑みとなり、それに満足げに微笑んだアウスは彼女のおでこにキスをした。

 百合である。生半端ない百合である。これは永理の何かが危ない。

 

「そして、ファイヤーソーサラーのリバース効果発動! 手札をランダムに二枚除外し、相手ライフに800ポイントダメージを与える!」

 

 三沢の手札から選ばれたカードは、ブラック・ホールと我が身を盾に。そのカードをファイヤーソーサラーは三沢の手から引っ手繰り、帽子の中に入れる。そして両手を合わせ膨大な火炎球を作りだし、それをバレーボールのようにタニヤに放った。

 色々とツッコミ処満載な効果処理。ちなみにこのカード、永理からもらい受けたカードである。

 

「ぐっ……神聖なデュエルに、そんな邪まなカードで戦うとは」

 

「婿を求めてデュエルする貴様が言うな!

 バトルだ! アマゾネス訓練生で直接攻撃!」

 

「リバースカードオープン、リビングデッドの呼び声! 墓地からフォトン・バタフライ・アサシンを特殊召喚!」

 

 大地が割れ、その中からフォトン・バタフライ・アサシンが這い出てくる。

 三沢の場に、攻撃力2100を超えるモンスターは存在しない。舌打ちを一つ漏らし、カードを発動させる。それと同時に三沢の頭上に、またあの魔法陣が現れた。

 

「魔法族の結界を再度発動し、ターンエンドだ!」

 

「私のターン、ドロー!

 魔法カード、RUM-アストラル・フォースを発動! 一番レベルの高いエクシーズモンスター一体を素材とし、同じ属性・種族のエクシーズモンスターをエクシーズ召喚する! 私はフォトン・バタフライ・アサシンを素材とし、フォトン・ストリークバウンサーをエクシーズ召喚!」

 

 フォトン・バタフライ・アサシンが光と化し、渦の中へと吸い込まれる。そして渦が膨張し、その中から光り輝く身体に赤いプロテクターを付けた、若干猫背気味なメカウルフが現れた。両肩のプロテクターには、眼の様に光り輝くエネルギーが入っている。しかし、輝いているのは片眼だけだ。

 足は短く、簡単に折れてしまいそう。見た感じギリ重量過多にはなってない、というちょっとズレた印象を持った永理であった。

 

「更に戦士の生還を発動し、墓地からアマゾネスの剣士を手札に戻し、召喚!

 バトルだ! アマゾネスの剣士で、ファイヤーソーサラーを攻撃!」

 

 アマゾネスの剣士が素早くファイヤーソーサラーに迫る。ファイヤーソーサラーは手から炎を出し迎撃しようと試みるが、不規則に動くアマゾネスの剣士を捉え切る事は出来ず、袈裟に切り捨てられてしまう。

 しかし、彼女から溢れ出た魔力が結界に補充され、魔法陣を光らす。

 

「憑依解放の効果で、デッキから二枚目ライナをセット! 更に補充部隊の効果でカードドロー!」

 

「フォトン・ストリークバウンサーでアマゾネス訓練生を攻撃!」

 

 フォトン・ストリークバウンサーは身体を縮め、バネのように一気に跳躍する。アマゾネス訓練生はそれを空中で打ち払おうと鎖を縦に振るうが、それを掴まれ、バウンサーはそれを力任せに引っ張り、訓練生との間合いを詰め、落下の速度も追加された右拳がアマゾネス訓練生の身体を貫いた。

 

「私はカードをセットし、ターンエンドだ!」

 

「……確かに、あんたは強かった。それは認めよう。だが、お前では俺には勝てない! ドロー!

 モンスターリバース、ライナ! ライナの効果でフォトン・ストリークバウンサーのコントロールを得る!」

 

「今度はそうはいかんぞ! フォトン・ストリークバウンサーの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、相手の効果を無効にし、相手ライフに1000ポイントダメージを与える!」

 

 フォトン・ストリークバウンサーの肩の光が消えると同時に、フォトン・ストリークバウンサーは雄たけびを上げる。それにライナは怯み、三沢はそれを愛おしそうに見て、フォトン・ストリークバウンサーを親の仇めいた眼で睨み付けた。

 

「地霊使いアウスを生け贄に捧げ、ブリザード・プリンセスを召喚!」

 

 場に巨大な氷塊が現れ、それを粉砕し、ダイヤモンドダストのように空中を漂う氷の中から現れたるは、青い髪の活発そうな少女。白に青色のアクセントが入った。スカートと一体化した服。白いスパッツ。手にはステッキに繋がれた巨大な氷の塊。それをまるで重さを感じていないかのような軽快さで頭上で回す。

 

「罠カード発動、激流葬!」

 

「ブリザード・プリンセスを召喚したターン、魔法・罠を発動する事は出来ない!」

 

 途中で開きそうになった伏せカードにブリザード・プリンセスは氷の球体を思い切り叩き付け、地面と一体化させる。更に駄目押しとばかりに指を鳴らし、地面を凍らす。

 タニヤは苦い表情となった。アイドルデッキに負ける事が、彼女のプライドには許せなかったのだろう。だが、それに文句を言う事が出来るのは勝者のみ。

 そして今、この場において勝者は、絶対的に三沢なのだ。

 

「バトルだ! ブリザード・プリンセスでフォトン・ストリークバウンサーを攻撃! ブリザード・アロー!」

 

 ブリザード・プリンセスの手元から水晶玉のような、人の頭ほどの大きさのある球体が現れる。そして、そこから大量の矢が発射され、フォトン・ストリークバウンサーを見るも無残に貫く。更にトドメとばかりに手に持っているステッキを大きく振りかぶって、相手にぶつける。するとまるで塾れたトマトのように身体を弾けさせフォトン・ストリークバウンサーは爆裂四散した。

 

「ぐっ、だがっ! 私の場にはまだ、アマゾネスの剣士が存在する! 霊使いの攻撃力では、私のアマゾネスの剣士を破壊する事は不可能!」

 

「お馬鹿と言って差し上げよう! 速攻魔法、ディメンション・マジック! 場の魔法使い族、ブリザート・プリンセスを生け贄に捧げ、手札から魔法使い族一体を特殊召喚する! 俺は手札から、氷の女王を特殊召喚!」

 

 三沢の場に現れる、文字通り全身が氷で出来た女王。髪は長いが氷なので角ばっており、その顔に表情は無い。死人のように冷たく白い肌に合う、白いドレス。胸と腰に、赤い宝石のアクセサリーが付けられている。手には氷の、人を貫き殺せるような槍。

 そんな女王にバトンタッチをして姿を消すブリザード・プリンセス。心なしか氷の女王が、何処となく微笑ましそうな表情を浮かべているように、永理は見えた。

 

「更にディメンション・マジックは相手モンスター一体を破壊する!」

 

「なっ、馬鹿な!?」

 

 アマゾネスの剣士の背後から現れる、氷性の棺桶。そこが開き、いくつもの、登山家らしき腕がアマゾネスの剣士を、死の世界へと引きずり込む。地面に剣を突き立て、アマゾネスの剣士はそれに必死に抗うが、抵抗虚しく、氷の棺桶に引きずり込まれた。

 

「わっ、私のデッキは……未来のカードを組み入れたデッキの筈だ。だのに、だというのに! シンクロ召喚も使わないデッキに負けるのか!?」

 

「貴様と俺では、決定的に違う、決定的な差がある! 氷の女王!」

 

「……なん、だと」

 

 氷の女王の杖から放たれた、超特大つらら。それが一切の躊躇も無くタニヤに落とされる。土と氷の煙が、タニヤの視界を覆い隠す。

 その土と氷の煙の中から現れたライナが満面の笑みで、杖に魔力を装填させ、タニヤに零距離で光の魔法を発動。

 

「それ即ち、愛、ですよ。マジシャンズ・サークルを発動! 互いのデッキから、攻撃力2000以下の魔法使い族一体を特殊召喚する! デッキからピケルを特殊召喚!」

 

「何故そこで愛!?」

 

「愛とは無限の力! 最強の原動力! これが、このデュエルが、この俺の魂の生き様だ!!」

 

 もわもわ羊の帽子を被った、ピンク髪の幼女。白い魔導服が更にロリっぽさを上長させ、三沢の欲望を満たす。

 ゲスた笑みを浮かべ、三沢はピケルに、己が嫁に命ずる。

 

「愛しているんだピケルたんを! 愛情砲!」

 

 ピケルの杖から放たれた、光のビーム。それは決して大きくは無く、大した威力は無い。だが三沢には、それが万物の創造主相手でも通用するように思えた。

 それもひとえに愛のおかげ、恋は盲目。人の正しい視界を奪い、幸福で誘惑する。

 三沢はそれに負け、だが人生で勝利した。たとえ虚しい勝利だとしても、それは三沢の心を満たす。

 それを心から理解した翔と永理は、何も言わず、ただ黙って敬礼をした。心から、三沢へのリスペクト。尊敬の念を相手に送る。

 そしてそれを冷めた目で見つめる明日香。やがてビームはタニヤに当たり、そのライフを削り取った。

 三沢は勝利し、ただ黙って右腕を上げる。俺は勝ったぞ、愛の力で。暗にそう言っている。背中が、そう語っている。

 

「負けた……何故、この私が。アイドルデッキに」

 

 膝から崩れ落ち、ブツブツと言うタニヤ。明日香にはなんとなく、その気持ちを察する事が出来た。

 というか、自分がその立場なら恐らく同じようになってしまうだろう。アイドルデッキに、完膚無きにまで叩きのめされたら。

 そんなタニヤの服を虎は咥え、自らの背中に乗せる。

 そしてまるで一礼でもするように頭を下げると、何処か森の中へと去って行った。




 論理を壊す、馬鹿が居る。これも全部、月影永理って奴の仕業なんだ。
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