午前零時、オシリスレッド寮の屋根から、座りながら満月を眺める、一人の生徒──万丈目準が居た。
万丈目と共に綺麗な満月を、寄り添うように眺める者の姿は半透明。ヘル・エンプレス・デーモン、万丈目準の持ち精霊だ。
万丈目の右手には、串焼きの魚。折角の月に食堂で食べるのも味気ないと思い、態々寮の腕で、月を眺めながら食べているのだ。
決して、永理と亮と三沢によるロリアニメ徹夜マラソンのせいで眠れないとか、流石にあの空間に一緒に居るのは嫌とか、そういうのではない。決して、そういうのではない。
万丈目は月を眺めながら、魚にかぶりつく。月を眺めながら、飯を食べる。空には宝石箱をひっくり返したような星々が、二人を祝福するようにきらめいている。
「……悪くないな」
『悪くないね』
二人同時にそう言い、顔を見合わせ笑い合う。精霊は持ち主に似るらしい、というのは本当だったようだ。
セブンスターズが迫ってきているとは思えない、穏やかな時間。ずっと続けばいいのに、意図せず二人は、同時にそう思った。
万丈目の下からは相も変わらず、あの三色馬鹿の声が聞こえる。三沢の部屋で見た方がいいと思うのだが、何故態々狭い部屋で見るのだろうか。ちなみにカビはトメさんが撤去したので、もう残ってはいないらしい。永理の事だからすぐに生やしそうではあるが。
夜風が、二人の髪を優しく揺らす。海沿いの家、ボロさに眼を瞑ればこれ以上のデートスポットは無いだろう。
『マスター、それだけで足りるの?』
「夜は軽くが一番だ」
心配そうに尋ねてきたエンプレスに、微笑みながら万丈目は答える。というのもこの魚、鯵は脂が乗っており、そこそこに腹に来る。これ一匹、軽い夜食には最適だ。
あまり軽すぎるのも問題ではあるが、永理のように馬鹿みたいに味の濃いものを食べるのもまた問題ではあるのだが。
「しかし、エンプレス。見てみろ」
『……うん、綺麗だね』
万丈目が顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべながら万丈目は、何度も同じような事を言い、そしてエンプレスは何度も同じように返す。
そこに煩わしさといったものはない。ただ純粋に楽しむ、夜の二人。
不意に万丈目が、口を開いた。
「今夜は、月が綺麗だな」
万丈目の言葉に、エンプレスは眼を見開き、そして明るい笑みを浮かべながら
『私、死んでも──』
『ちょっと待った、です』
エンプレスの言葉を遮り、ヘル・ブランブルがジト目でエンプレスを睨み付けながら、幽霊のように浮き出てきた。心なしか何処か口調も可笑しい。
そして両手で身体を持ち上げ、よっこいしょとエンプレスの反対側に、ブランブルはもたれ掛る。
『抜け駆けは厳禁ですよ、エンプレスさん』
『そりゃ残念。まあ私は、貴女が良けれりゃ共有出来るんだけどねー』
『お断りです。不潔です、そんなの。それに、この人と死んでもいいのは私だけです』
『それだったら私だってそうよ』
互いに言い合いながら、万丈目の腕に腕を絡ませ、徐々に万丈目へと密着していく二人。万丈目は溜息をつき、魚に残った肉を食べきった。
ぐぬぬと万丈目の前で、おでこをくっ付け合わせながらにらみ合う二人。仲が良いのか悪いのか、きっと良いのだろう。いつもなら二人の頭を撫でて収める所だが、今の万丈目の手は魚の油でギトギト。
軽く右手を上げると、ブランブルがその手を放す。これまで押し合っていた相手が居なくなった事で体制を崩し、万丈目の膝に倒れ込む。
それを嫉妬を含んだ眼で睨み付けるブランブルに呆れながら、万丈目はウェットティッシュで手を拭いていると──
急に、周囲の空気が変わった。月の近くに──否、天高い空中に浮かぶ黄金立方体が突然現れていた。何の前触れも無く。
謎のそれと同時に、背後に人の気配。重苦しいエモトスフィアを感じ取ったエンプレスとブランブルもそれに気付き、デッキへと戻る。
「これはこれは、随分と呑気なものだな。ええ? 万丈目準=サン」
それは、黒いニンジャ装束に身を纏ったニンジャであった。赤いマントを棚引かせ、膝には盾のような形のプロテクター。左腕にはニンジャディスク。口元を覆い隠すメンポには『決』『殺』の二文字。
ニンジャ、それは平安時代、カラテによって日本を支配した半神的存在である。
紅い瞳に浮かびし絶対的な赤黒い殺意を隠そうともしないニンジャ、万丈目はそのニンジャの名をよく知っている。
「……速攻の黒い忍者、か」
「ドーモ、万丈目準=サン。ブラックニンジャです。決闘者、貴様を殺す!」
お辞儀をし、赤黒い蝙蝠めいた形状のデュエルディスクが起動させる。デュエルディスクがキャバーン! と音を鳴らす。
万丈目は不敵に笑い、同じようにデュエルディスクを起動させた。
向かうは死地、メリットはあまりに少なくデメリットの大きい対決。だが強者という相手と戦う、それだけで万丈目は、数多の戦う理由に勝る。
「「デュエル!」」
「俺の先功、ドロー!」
先手を取ったのは万丈目だ。
「俺はモンスターをセットし、カードをセット。ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!
ニンポ、手札抹殺を発動! 互いの手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする! 私の手札は五枚、よって五枚捨て、五枚をドロー!」
「俺は四枚ドローだ」
手札抹殺、手札交換としても墓地肥しとしても実際役立つカード。デッキ破壊を危惧されデッキに一枚しか入れられないカードである。そして初心者は墓地肥しの概念をよく理解出来ない、だというのにニュービーデュエリストであるブラックニンジャがそれを使うと言うのは、実際スゴイ。
「相手場にモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚出来る! 機甲ニンジャアース=サン!」
『ドーモ、アースです』
右手以外の三体をサイバネ義手義足化させ、顔の半分を違法サイバネ手術させた、茶色のニンジャ装束に身を纏ったニンジャが、土くれを巻き上げ鮮やかにお辞儀をする。顔の下半分はメンポによって隠れているので、実際露出しているのはたったの四分の三しかない。
「更にアース=サンをセプクさせ、手札より黄昏のニンジャジェネラル―ゲツガ=サンを召喚!」
アース=サンが自らの腹に刃を入れ、己がニンジャソウルをあえて暴発させる。それにより巻き起こった悍ましい黒い暴風が天高く巻き上がり、その中から一人のニンジャが召喚される。
ブラックニンジャ=サンが召喚したそのモンスターは、一言で言うなれば異質であった。
鋼鉄のパープルカラーなニンジャ装束に身を纏い、右腕が二つある。背中にはイチョウめいた黄色い家紋の旗が二本背負われている。
それが手を合わせ、お辞儀をした。
『ドーモ、ゲツガです』
「ニンジャジェネラル―ゲツガ=サンのユニーク・ジツ発動! 攻撃表示のこのカードを守備表示とし、墓地からニンジャ二人を特殊召喚する! 私は墓地からニンジャマスターHANZO=サンと、レッドドラゴン・ニンジャ=サンを特殊召喚!」
ゲツガが腰だめな体制になると同時、まず最初に現れたのは、ブラックニンジャとはまた別系統の黒いニンジャ装束に身を包んだ、カトゥーンに出てきそうなニンジャ。武士めいた出で立ち、棘の付いた兜、そして口元を隠す布のメンポ。黒い布がマフラーめいて棚引き、お辞儀をする。
そして、その隣に現れしはメンポを付けていない、金髪の美形な青年のニンジャ。赤いニンジャ装束、右手には赤いドラゴンの背中めいた棘の付いたガントレットを装着してある。そして彼を守る妖精のように、炎のドラゴンが彼を守るように渦巻き、レッドドラゴン・ニンジャのお辞儀と同時に、その炎が当たらないようにうねり動く。
『ドーモ、HANZOです』
『ドーモ、レッドドラゴンです』
特筆すべきはその展開力。たった三枚の手札消費で二体の上級ニンジャをエントリーさせたワザマエ。とても初心者とは思えぬ動きだ。
「レッドドラゴン・ニンジャ=サンのジツ発動! 召喚・特殊召喚・反転召喚時に墓地のニンジャ又はニンポと名の付いたカードを除外する事で、相手のカード一枚をデッキの一番下か一番上にバウンズさせる!
私は貴様の伏せモンスターを、デッキの一番下へ!
更にHANZO=サンのジツによって、デッキからニンジャと名の付くカード、黄昏のニンジャジェネラル―カゲツを手札に加える!」
レッドドラゴン・ニンジャが右拳による強いカラテチョップを地面に打ち付けると、さながら間欠泉めいて噴出した炎が万丈目の伏せていたモンスターを吹き飛ばした。
「これで貴様を守る要は無くなった! バトル! レッドドラゴン・ニンジャ=サンとHANZOサンで、貴様を直接攻撃!」
『イヤーッ!』
『イヤーッ!』
レッドドラゴン・ニンジャのカラテは2400、HANZOのカラテは1800。すなわち合計4200のダメージ。これを防ぐ事が出来なければ万丈目は確実に爆発四散してしまう。おお、ナムダミダブツ! レッドドラゴンが襲い掛かり、HANZOによって投擲されたスリケンが万丈目に迫る。このままでは万丈目は焼きネギトロとされてしまう事は実際想像に難くない。サツバツ!
しかし、ゴウランガ! 万丈目はそれの一つ、レッドドラゴンの攻撃を見事防いだのだ!
「赤竜の忍者の攻撃宣言時、墓地のネクロ・ガードナーを除外し、攻撃を無効にした!」
「なっ、まさかあの時……!」
そう、ブラックニンジャの手札抹殺の際、万丈目の手札から墓地へと送られていたのだ。インガオホー!
しかし、HANZOの攻撃を止める手立てはない。くるくると回るスリケンに身体を切り刻まれ、万丈目は悲鳴を必死に噛み殺し、不敵な笑みを浮かべる。
「一気に決める事は出来なかったが、貴様の不利に変わりは無い! カードを二枚セットし、ターンエンド!」
「それはどうかな。俺のターン、ドロー!
手札を一枚デッキに戻し、墓地のゾンビキャリアを特殊召喚! 更に、キラー・トマトを召喚!」
万丈目の場に現れる、汚い布を身にまとった、紫色のゾンビー・セキトリ。そしてその隣にはジャック・オ・ランタンめいた顔を付けた殺人トマト。
闇属性の扱いにおいては右に出る者の居ない万丈目のデッキ、本領はここからだ。
「レベル4キラー・トマトに、レベル2のゾンビキャリアをチューニング!
卑しき妬みに彩られし野薔薇の女王よ、我が僕となりて鋭き棘で敵に後悔と死を与えよ! シンクロ召喚! ヘル・ブランブル!」
右手を覆うような棘、左手の部分は赤いハサミのようになっている。イチゴのようなスカートを履き、緑髪の上に赤いとんがった帽子を被った女性が現れる。おおよそマッポーめいたこのデュエルには相応しくは無いと思えるほどの上品さだ。
しかし、彼女は主の為ならば、どのように汚れる事も辞さない。彼女にとって主は、万丈目は何を差し置いてでも守るべき存在なのだ。
「厄介ではあるが、所詮そこ止まりよ! 罠カード発動、奈落の落とし穴! 攻撃力1500以上のモンスターを破壊し、除外する!」
「甘いな! 罠カード発動、トラップスタン! このターン、罠の効果を全て無効にする!」
スタングレネードが弾け、その光を浴びた奈落の落とし穴は石化する。
ブラックニンジャは歯噛みした。ヘル・ブランブル、効果は地味ながら実際厄介。下手に手を打てば自滅し、打たなくともジリー・プアー。何とか相手を、ある程度損害無しに倒したい所だ。
最も、レッドドラゴン・ニンジャのカラテをもってすれば、倒す事も出来なくはない。だがそれは、相手も重々承知の筈だ。
「バトルだ! ヘル・ブランブルでHANZOを攻撃!」
ヘル・ブランブルが素早く駆ける。HANZOはそれを迎撃しようとスリケンを投擲するも、左手のハサミのようなものを大きく広げ、それを防御。そして肉薄し。HANZOの腹を鋭い棘が貫いた。
『グワーッ!』
口から血を吐き、崩れ落ちるHANZO。更にヘル・ブランブルは左手のハサミでHANZOの首を掴み、空中高く放り投げる。そして左手のハサミから放たれた火炎が、HANZOを燃やし尽くす!
『さっ、サヨナラ!』
HANZOは熱い炎に包まれ、しめやかに爆発四散!
「カードをセットし、ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!
ゲツガ=サンを攻撃表示に変更!
レッドドラゴン・ニンジャ=サンでヘル・ブランブル=サンを攻撃! 燃やし尽くせ!」
ゲツガが腰を浮かせ、薙刀を構える。それを見てレッドドラゴン・ニンジャは頷き、行使しているレッドドラゴンが燃やし尽くさん勢いで燃え上がり、炎の軌道を描いてヘル・ブランブルの喉元に噛みつこうとする。
しかし突如、それを縛る鎖が、レッドドラゴンをがんじがらめにした。
「デモンズ・チェーンで攻撃も効果も無効にした!」
「ふん、その程度私のニンジャ第六感からすれば、突破するのはベイビーサブミッションよ! 永続罠、ニンポ変化=ジツを発動! ニンジャ一人をハラキリさせ、手札・デッキからそのニンジャのレベル+3以下の獣族・鳥獣族・昆虫族のいずれかのモンスター一体を特殊召喚する! 私はレッドドラゴン・ニンジャ=サンをハラキリさせ、デッキからダーク・ネフティスを特殊召喚!」
レッドドラゴン・ニンジャがハラキリし暴走したニンジャソウルが爆発すると、その中から黒い羽を携え、赤黒の炎を出す黒鎧の人鳥が現れる。
ダーク・ネフティス。最上級モンスターにしては少々攻撃力が心もとなく、効果も特殊召喚時に魔法・罠を一枚破壊するだけという、少しばかり地味感が否めないカード。
しかし、墓地の闇属性三体を除外する事で、少しばかりタイムこそかかるが自信を特殊召喚出来る効果と、何より一枚のみという地味ながら使い勝手は良い効果によって、決して悪くは無いカードだ。
「ダーク・ネフティスの効果で、貴様の伏せカードを破壊! そして! ダーク・ネフティスでヘル・ブランブル=サンを攻撃!」
ダーク・ネフティスの羽から放たれた赤黒い炎はヘル・ブランブルのまるで人形のように綺麗な肌を醜く焼き尽くす。
そこに慈悲は一切ない。まるで復讐の炎のように赤黒く燃え上がる炎に包まれ、ヘル・ブランブルは燃やし尽くされた。
万丈目は歯噛みする。自らの読みの浅さに。
「更にゲツガ=サンで直接攻撃!」
ゲツガの手に持っている薙刀が勢いよく投擲、見事万丈目の腕に突き刺さり、そこから血が噴き出す。
屋根の上に赤い雫が、まるで壊れた蛇口めいて濡らす。
「ぐっ、クソッ!」
「メイン2、モンスターをセットしターンエンド」
「ッ、俺のターン、ドロー!
俺は手札から、緊急テレポートを発動! 手札・デッキからレベル3以下のサイキック族一体を特殊召喚する!
俺はデッキからサイコ・コマンダーを特殊召喚! 更に魔法カード、死者蘇生を発動! 貴様の墓地から機甲忍者アースを特殊召喚!」
万丈目の場に、UFOめいた円盤機械に乗った、ナチっぽいモンスターと、ニンジャが姿を現す。相手モンスターの利用、デュエルモンスターズではチャメシ・インシデントである。
しかしここで死者蘇生を引かれるとは思っていなかったブラックニンジャは少しばかり焦る。相手の場に合計レベル8が揃ってしまったからだ。こんな事ならダーク・シムルグを入れておくべきだったと後悔する。これでは負けてしまったカミューラやダークネスを笑えない、ケジメ事案である。
「レベル5の機甲忍者アースに、レベル3のサイコ・コマンダーをチューニング!
心地よき闇深まる時、血の地獄より現れ光と閉ざす! シンクロ召喚! ブラッド・メフィスト!」
久しぶりの出番に心躍らせながら現れる、赤黒いピエロ。黒いシルクハットをかぶり、黒い貴族服に身を包んだ悪魔。外見は怖そうだが、足が日本のコミカル幽霊めいていて少しばかり気が抜ける。
「ブラッド・メフィストでダーク・ネフティスを攻撃!」
ブラッド・メフィストの口から放たれたゲロめいた溶解液はダーク・ネフティスに直撃し、その羽を溶かす。じゅうじゅうと金属の溶ける音が鳴り、身体をゲル状に代え、沈んでいくダーク・ネフティス。異臭が立ち込める。
「魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のサイコ・コマンダー、キラー・トマト、ヘル・ブランブル、ヘル・エンプレス・デーモン、ヘル・セキュリティをデッキに戻し、二枚ドロー! 更に闇の誘惑を発動! カードを二枚ドローし、手札の闇属性モンスター──ヘル・エンプレス・デーモンを除外する! カードを二枚セットし、ターンエンド!」
「私のターン、ドロー!」
「この瞬間、ブラッド・メフィストの効果発動! 相手場のカードの枚数×300ポイントダメージを与える!
貴様の場に現存するカードの数は二枚、よって900ポイントダメージだ!」
ブラックニンジャは溶解液を受けながら、必死にニューロンを稼働させ、この場の解決方法を導く。手札のカードで突破しても、すぐにまた逆転されてしまう。訝しむべきはあの伏せカード。
しかし、それを破壊する手立てはない。死者蘇生もリビングデッドも無く、いかにして損害を出さず、この場を乗り切るか。ブラックニンジャの復讐は始まったばかり、ここで足踏みしている時間は無い。タイムイズマネー、時間は金である。
月がブラックニンジャを嘲笑うかのように静々と輝く。
苛立ちを押さえる為、一先ずは気持ちを落ち着かせる。
「スゥーッ! ハァーッ!」
フーリンカザン、チャドー、そしてフーリンカザン。相手は訝しんだ眼でブラックニンジャを見るが、関係ない。もとよりその程度の視線は承知の上。
「私は成金ニンジャ=サンを召喚!」
煌びやかなニンジャ装束、純金製ガントレットを両腕にはめた見るからに成金だと自己主張しているニンジャが、小判を巻き上げながら現れ、お辞儀をした。
『ドーモ、成金ニンジャです。拙者の金は数十億あるぞ!』
「効果発動! 手札の罠カードを墓地へ送る事で、デッキからレベル4以下のニンジャを特殊召喚する! 私は砂塵の大竜巻をデッキから忍者マスターHANZO=サンを特殊召喚! 更にHANZO=サンのジツによって、デッキからニンポを手札に加える! 私はデッキからニンポ超変化ジツを手札に加える!」
『ドーモ、HANZOです。先ほどのとは別人です』
成金ニンジャが小判を地面に叩き付けると、その中から金色の煙に塗れながらまたしてもHANZOが姿を現す。
手札補充、最上級モンスターを出す布石。そしてニンジャ、全てが揃った。
「そしてHANZO=サンと成金ニンジャ=サンでコトダマ空間を構築! エクシーズ召喚! 機甲ニンジャブレード・ハート=サン!」
パープル色の鋼鉄なニンジャ装束に身を纏った、二本の光り輝く刀を携えたニンジャが華麗に現れる。
両手の剣を地面に突き刺し、手を合わせお辞儀。そしてもう一度剣を手に取る。お辞儀、これだけで相手には相当のプレッシャーが与えられるのだ。
『ドーモ、ブレード・ハートです。ハイクを詠め、貴様を我が剣の錆びにしてくれる!』
「更に! 永続魔法、連合軍を発動! 場の戦士族・魔法使い族の数だけ戦士族の攻撃力を上げる! 更にゲツガ=サンの効果発動! このカードを守備表示にし、墓地からレッドドラゴン・ニンジャ=サンとHANZO=サンを蘇生させる!」
これで相手の場は四つ埋まり、しかもそのうち四体は戦士族。攻撃力は800ポイントアップしてしまい、相当ヤバい。
「更にブレード・ハート=サンの効果発動! ニンジャに力を与え、二回攻撃を可能とさせる! 私はレッドドラゴン・ニンジャ=サンを対象に発動!」
ブレード・ハート=サンの片方の刀から光が消える。しかし、決してくすんだ訳ではない。刀に宿っていたオバケめいた怨念のニンジャソウルが、レッドドラゴン・ニンジャ=サンに乗り移っただけなのだ!
「まさに貴様はバックウォーター・フォーメイション! 既にサンズ・リバーに肩までゆっくり使っているのだ!
死ね! デュエリスト! レッドドラゴン・ニンジャ=サンでブラッド・メフィスト=サンを攻撃!」
『イヤーッ!』
レッドドラゴンが奇術師めいた格好の黒い悪魔に襲い掛かる。自らの身体をロープめいて使用し、ブラッド・メフィストの身体を縛り上げる。そして醜い断末魔を上げ青い炎となり、しめやかに爆発四散した。
「これで貴様はサンズ・リバーの向こう岸行きだ! 総攻撃せよ!」
『イヤーッ!』
『イヤーッ!』
『イヤーッ!』
ブラックニンジャ=サンの号令と共に、大量のニンジャが襲い掛かる。レッドドラゴンが炎を吐き、HANZOのクナイ・ダートが直進し、ブレード・ハートの二刀から放たれたブレード・ソニックウェーブが襲い掛かる。
しかし、それらの攻撃は全て、万丈目の目前で止まった。そう、振り子人形めいた悪魔の前で。
「バトル・フェーダーを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させた」
「ぐっ、足掻くなデュエリストが! 貴様のせいで私は、私達は!」
「貴様に何があったのかは知らんし理解しようとも思わない。とっととターンを終了させろ!」
「貴様……カードをセットし、ターンエンドだ!」
吐き捨てるようにカードを伏せ、ターンを終了させるブラックニンジャ。その言葉に籠った怨念、異常な殺意を万丈目は感じ取ったが、万丈目には関係ない。
ただ相手が向かってくるのであれば、ただ倒すのみ。ただ最強を目指す為に。
「俺のターン、ドロー!
罠カード発動、デビル・コメディアン! コインの裏表を宣言し、当たった場合は相手の墓地を全て除外し、外れた場合相手の墓地の枚数分、デッキからカードを墓地へ送る! 俺は表を宣言!」
両者の間に、巨大なコインが落ちる。相手の墓地は八枚、コインが運命を決める。
勝利とは、常に持っている者に与えられるのだ。
「結果は裏! よって、デッキからお前のカードの枚数、つまり八枚を墓地へと送る!」
墓地へと送られたカードは、八枚全て闇属性のモンスターカード。運とは、自分が追いつめられた時に発揮されるものだ。
特に、命を賭けたデュエルは特に。
「魔法カード、終わりの始まりを発動! 墓地の闇属性モンスター、キラー・トマト二体、終末の騎士、ダーク・リゾネーター、ダーク・ネクロフィアの五体を墓地から除外し、カードを三枚ドロー!
更に魔法カード、ブラック・ホールを発動! モンスターを全て破壊する!」
「ぬううっ、貴様ァ!」
黒い渦が現れ、ブラックニンジャの従えているニンジャを全て、暗闇の重力渦に飲み込む。
断末魔を上げブラックホールの中心でしめやかに爆発四散する四人のニンジャ。そこに慈悲は無い。
「そして! 墓地に三体の闇属性モンスターが存在する場合、ダーク・アームド・ドラゴンを手札から特殊召喚する!」
背中に鋭いエッジの付いた拘束具を着た黒い二本足のドラゴンが、万丈目の場に現れる。
万丈目のデッキのエースモンスター。そして、ブラックニンジャに引導を渡すモンスターである。
「きっ、貴様……貴様!」
「どう足掻こうと、運命は変えられん。墓地のダーク・ネフティスを除外し、伏せカードを破壊!」
背中から放たれたエッジが回転して飛び、ブラックニンジャの伏せていたカードに突き刺さり、爆発する。伏せていたのは万能地雷グレイモヤ。
既にブラックニンジャには打つ手なし。手札で効果を発動するモンスターでも存在しない限り、防ぐのは不可能。
「馬鹿な……私が、ここで……無念も晴らせず、死ぬというのか!?」
「ああ、そうだ! バトル! ダーク・アームド・ドラゴンで直接攻撃!」
ダーク・アームド・ドラゴンの背中から放たれたエッジの雨が、ブラックニンジャに降り注ぐ。
落下してくるエッジに腕を、足を、腹を、メンポを切り刻まれ、『0』と『1』の電子と化した。
「グワーッ1000011100010011100!?」
ブラックニンジャの悲鳴にノイズが混じり、攻撃を受けた箇所から次々と『0』と『1』のノイズになって、風に解けていく。
「更に永続罠、闇次元からの解放! 除外されている闇属性一体を特殊召喚する! ヘル・エンプレス・デーモンを特殊召喚!
攻撃しろ!」
闇の次元の中から現れる、黒い炎。羊めいた帽子を被った紫色の肌をした悪魔は、右手から出した炎の塊をブラックニンジャに振り下ろし、焼き尽くす。離れている万丈目でさえニューロンを焼き尽くされそうな膨大な火力が、ブラックニンジャの身体を黒く包む。
電子と炎が融解し、ブラックニンジャの装束を、身体を焦がし、電子と化し。
「ア10001ァー00111! わ、忘れ0001なよ、万1100目=サン!! 1始00ま10101ある010も010必0110終わ00110る!! 1そ0111010ま00101獄01100101で010待っ0100100ぞ111010……」
ブラックニンジャの身体が崩れ断末魔の叫び声を、ノイズ交じりに上げる。それと同期するように、さながら旅立ちを共にするように、万丈目達を囲んでいた空間も『1』と『0』に変貌し、崩れていく。
その中から現れるのは、いつもの深淵のように暗い海。大きな月と、輝く星。黄金立方体は浮いていない。
やがて一筋の風が吹くと、ブラックニンジャをまるで、塵のようにかき消した。風に舞い、母なる海へと流れていくブラックニンジャの残骸。万丈目はそれを、何も言わずに見送る。
「始まりあるもの、必ず終わる時がある……か」
あれは、あの言葉に込められている怨念は、ただものではなかった。
まるで、一度死んだかのような。そんな重さがあった。一体それが何なのか万丈目には皆目見当もつかない。
が、今はただ最強を目指すだけだ。せめて、生きている間に。
それが彼の、弔いとなるのだから。
見慣れない名前のカードはオリカではなく言い換えただけ、イイネ?