月影永理の暴走   作:黄衛門

42 / 59
第42話 明日香死す

 授業が終わった、アカデミア食堂は静かなものだ。夕日に照らされながら永理は、オシリスレッドでごった返す、購買の隣にある方の食堂で焼肉丼を食べながら、永理は思う。

 オシリスレッドの飯は不味い。故に夕飯をここで済ませる者も少なくは無いのだ。流石に毎日ここで済ませる者は少ないが。

 永理の隣に、珍しく明日香が座る。金髪ボインで身長の高いチャンネー、というのが永理が持った、彼女の印象である。ちなみにあながち間違いでは無い。

 

「珍しいな、この時間でここで食べるとは」

 

「たまーにさ、ジャンクフード的なの食べたくなる時ってあるじゃない?」

 

 ふと明日香のトレイを見ると、そこにはどデカいステーキ。あまり柔らかくはないがどぎついニンニクと塩胡椒が食欲をそそる、最高の食べ物だ。

 永理も十代を連れている時はたまに頼むが、どうしても残してしまう。永理も昔は大食い出来たのだが、今となってはまったく食べる事が出来ない。老化が進むにはまだ早いが、それが永理だ。

 明日香の言葉は永理も同意出来る所がある。別に美味しいとか好きとかいうのではないのだが、たまにマックを食べたくなるような気持ちだ。ちなみにマックはパソコンの方ではない。

 

「牛か……昔、うちの地元にチュパカブラが出た事があってな」

 

「それ、嘘よね?」

 

「勿論さ」

 

 適当な話をしながら焼肉丼を食べる永理と、中々切れないステーキにイライラとしてきた明日香。傍から見たらとてつもなく奇妙なコンビといえるだろう。

 というか、この二人が並んでいるのはかなり珍しい。何せ永理は、あまり積極的に女子へと話しかけるタイプではないのだから。

 まあ話しかけられたらそれなりに返したり、席が近くになったりすれば適当に話す事は出来るが。コミュ力こそ高いが積極的に行ったりはしない、それが永理なのだ。

 

「そういや昔流行ったよな、チュパカブラ」

 

「そういえばそう……いや、待って。それかなり昔の話な気がするのだけれど」

 

「あっ、俺の地元に牛が居るのはマジな話な」

 

「……あー、そうなの」

 

 何だか投げやりな対応だが、永理は気にせずご飯を掻き込む。甘辛いたれと薄い肉が米ととてもマッチしており、大変美味い。安い肉でも薄けりゃ柔こいのだ。

 空になった食器をトレイに乗せて、永理は席を立つ。

 食器を返す永理を尻目に必死にステーキを切る明日香。行儀よく、では切れないと悟るも幼い頃からテーブルマナーを叩きこまれた明日香には、それ以外のやり方は思い浮かばない。

 こんな時ジュンコかももえがいてくれたら……と思わず愚痴りたくなるも、それを言っても仕方がない。もはやマナーとか関係あるかとばかりにステーキを切らずにかぶりつく。なんと男らしい事か。

 

「……」

 

「!?」

 

 しかも間の悪い事に、いつの間にか明日香の向かい側には、一人の女子生徒が立っていた。

 明日香の顔が一気に朱に染まる。恥ずかしい所を見られてしまった。口からステーキが、ぼてりと零れ落ちる。

 

「えっとね、その……これはステーキが切れないからで、ふっ、普段の私はこんなんじゃなくってね!?」

 

「……」

 

 明日香の見苦しい弁解に、その女子生徒は何も答えない。

 ピンクのショートカット、赤いカチューシャが特徴的な少女。胸は明日香にも負けていないだろうか。しかし、まるで実在しないかのように気配を感じず、生気も感じない。

 まるで幽霊のように。

 明日香の背中に、冷たい汗が走る。

 明日香は昔、兄からこんな話を聞いた事があるからだ。曰く、『夕方になると食堂には幽霊が出る』と。あの時はただの噂話と笑い飛ばしたが、実際にそれと会ってみたら過去の自分を殴り飛ばしたい気持ちに駆られる。

 というか、純粋に怖い。

 

「おい、貴様」

 

 気が付けば周りから──否、食堂から、あれ程まで居た筈の生徒の姿が、まるでテレビを消したかのように消えていた。

 辺りの空気が冷えていく感覚がし、重苦しい緊張感に包まれる。口に溜まった唾液を飲み込む音が、いやにうるさい。

 声は聞いた事がある。確かツァン・ディレという、六武衆なるモンスターを使う相手だったと、明日香は記憶している。さして関わり合いのある相手という訳ではないが、デュエルの腕は立つとの評判であった。

 ちなみに六武衆の事を永理に話したら、どこぞのボトムズの予告みたいな事を言ってきたと一度だけ話した事があり、その時は顔を真っ赤にして怒りをあらわにしていた。

 だが、今の彼女にはそのような、表情豊かな様子は見受けられない。まるで幽霊でも乗り移ったかのように不気味な、感情の無い顔。

 

「七精門の鍵の守護者、だな」

 

「……そうだと言ったら?」

 

 明日香が答えると、直後、テーブルが粉々に切り裂かれる。当然、ステーキも鉄板ごと。

 木くずと共にボトボトと落ちる鉄板とステーキ。びしゃり、と床にたれと脂が広がる。

 一体何が起きたのか、彼女を──ツァン(仮称)を見れば、その理由は明らかだ。まるで日本刀のようでいて、不気味な雰囲気を醸し出している刀を、刃をむき出しの状態で持っている。

 もうこの時点で明日香は逃げ出したくなった。だって相手は、何だか話とか通じ無さそうだし、七精門の鍵を殺してでも奪い取ってきそうな雰囲気なのだから。

 がくがくと部屋の隅で震えて失禁しながら命乞いをしない自分エラい、と明日香は現実逃避に自画自賛する。

 

「我が名はアヌビス、セブンスターズが一人……アヌビス、なり」

 

「アヌビス……?」

 

 ふと明日香は、日本刀を見やる。まず、ツァンの本名がアヌビスという可能性は限りなく低い。となれば、あの刀が問題なのだろうか。

 というより何で日本刀なんて持ってるのこの子、というのが明日香の正直な感想だ。そりゃあ昔、刀が好きとか言っていたが。それでもまさか本物持ってきて、しかもその刀が妖刀で、それもモノホンの妖刀だったとか。もう奇跡も魔法もあるんだよとしか言いようがない奇妙な偶然。

 

「七精門の鍵ついでに貴様の身体も奪ってやる! この女と同じように!」

 

「そう……なら、あなたを見逃す訳にはいかないわね」

 

 ツァンはまるで操り人形のように、日本刀を鞘に戻し、デュエルディスクを起動させる。その表情に感情は無く、まるで幽霊。あまりの不気味さに明日香は思わず生唾を飲む。逃げ出したい衝動に駆られるが、必死に我慢。

 何故なら同じ寮の友人だから、見捨てたら後悔するから。そんな気持ちのみで明日香は立ち、デュエルディスクを起動させる。

 

「「デュエル!」」

 

 何か負けたら日本刀でばっさりを行かれそうだが、明日香はそれを考えないようにする。変に考えてしまっては、余計恐怖が掻き立てられるからだ。

 

「私の先功、ドロー!

 私はマンジュ・ゴッドを召喚し、効果発動! デッキから儀式モンスター、または儀式魔法を手札に加える!

 私は影霊衣の万華鏡を手札に加える!」

 

 明日香の場に現れたのは、さながら阿修羅のような形相をした、青銅色のモンスターだ。無数の手が身体の中から伸びているが、何処か神聖な雰囲気を感じ取れてしまう。

 

「更に儀式魔法、影霊衣の万華鏡を発動! このカードは儀式召喚するモンスターと同じレベルになるように場・手札からモンスターを生け贄に捧げるか、エクストラデッキのモンスター一体を墓地へ送り、任意の枚数儀式召喚する事が出来る!

 私はエクストラデッキから星態龍を墓地へ送り、手札からグングニールの影霊衣、ユニコールの影霊衣を儀式召喚!」

 

 まず現れるのは、グングニールと同じような氷の羽を生やし、グングニールを催した帽子を被った、長い赤神の女性。腰には重力に逆らった氷製のリングが浮いており、その真ん中部分、人中に当たる部分には赤い宝石が埋め込まれている。手には氷で出来たミミズクのようなものがあしらえられた杖。

 そして、その女性の隣に現れたのは、オオカミのような髪を一つ括りにした女性。紫色のマントの下には留め金に止められた赤い布、見るからに高級そうな白い生地。さながら馬のような鉄のレギンス。そして箒のような尻尾が特徴的だ。手には神々しく輝く、白を基調とした矛が握られている。

 

「カードを一枚セットし、ターンエンド!」

 

 グングニールの影霊衣は手札の影霊衣を墓地へ送る事で効果を発動するサンダー・ボルトのような効果。ユニコールの影霊衣はエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を封じる。

 六武衆で真に警戒すべきはシンクロモンスター、真六武衆-シエン。奴を先手で封じ、ついでに行動も封じる。完璧な出だし。伊達や酔狂で、オベリスクブルーの女帝の二つ名を背負ってはいない。いや、実際は勝手にそんなのを付けられただけなのだが。

 

「俺のターン、ドロー!

 ……影霊衣。効果こそ解らんが、警戒すべきだな……永続魔法、発動! 六武衆の結束!」

 

「ドローは封じさせてもらうわ! グングニールの効果発動! 手札の影霊衣の大魔道士を墓地へ送り、六武衆の結束を破壊!」

 

 グングニールの影霊衣が手に持っている杖を薙ぎ払うと、そこに連動するように、中心の黒い塊を覆い隠すような氷が現れ、六武衆の結束を貫く。そしてその中に入っていた黒い塊が六武衆の結束に溢れ、闇の中へと飲み込んだ。

 

「やれやれ、これではどちらが悪者か解ったものではないな」

 

「黙りなさい。私は、もう負けたくないだけ。誰にも、何にも」

 

「では、ここで負けていただき、更に身体も手に入れてやる! スペアは多い方が良いからな!

 魔法カードを二枚発動! 永続魔法、六武の門!」

 

 してやられた! 明日香は思わず舌打ちすると同時に、相手の場に現れる、石を積み立てた柱と、瓦屋根。そして巨大な木製の門には、水色で大きく摩訶不思議な模様が描かれている。それが二個、圧迫感が半端ない。

 結束はドロー効果だが、六武の門はデッキサーチ。これが非常に面倒なカードなのだ。何せ、カウンターさえ溜まればいくらでもサーチ出来るのだから。一ターンに一度とか、そういう制限は無いのだ。

 とはいえ、それを悔いても仕方がない。結束は結束で脅威のカードだったのだから。

 

「面倒なカードを……」

 

「ふははは! 真六武衆―カゲキを召喚!」

 

「真六武衆!?」

 

「そうよ、その通り! カゲキの効果で、手札から真六武衆―ミズホを特殊召喚!」

 

 ツァンは六武衆を使うデッキだった筈、真六武衆なんて使っていた記憶は無い。混乱する明日香を他所に、現れる四刀流の剣士。

 ヘルメットを彷彿とさせる、背中の機械腕を動かす為の、脳波でコントロールする為の管が通った茶色い兜を被り、茶色い鎧を着ている。そして生身の手で持っている二本の剣を地面に突き立てると、そこがバチバチと鳴り響き、新たな剣士が姿を現す。

 もう一人は、真っ赤な鎧に大きく捻じ曲がった剣を両手に持った、一人の女性。髪は長いが、顔は白い布で覆い隠されており窺う事は出来ないが、恐らく大和撫子な美人だろうと推察出来る。

 胸は平坦であった。

 

「これによって武士道カウンターがそれぞれ四つずつ乗る! 更に俺はそれらのカウンターを全て取り除き、デッキから六武衆と名の付くモンスター、真六武衆―シナイと真六武衆―キザンを手札に加え、特殊召喚!

 真六武衆―シナイは場にミズホが存在する時、キザンは場に六武衆と名の付くモンスターが存在する時に手札から特殊召喚出来る!」

 

 更に新たに現れる、二人の武将。

 一人は真っ黒で顔の半分を布で隠した、一人の荒武者。黒い鎧にはLEDのようなライトが付いている。両手には鬼も真っ青になるだろう金棒。

 そしてもう一体、カゲキと拳をぶつけ合い友情を確かめ合っているのは、荒武者とは違い品のある、黒を基調とし金をあしらった鎧を身に着けた、一人の男。手には日本刀を持っており、髪は長い。

 

「更に六武の門にカウンターが四つずつ乗り、それらを全て取り除き、デッキから六武衆の師範と真六武衆-キザンを手札に加える!

 そして、ミズホの効果発動! 一ターンに一度、場の六武衆と名の付いたモンスター一体を生け贄に捧げる事で、場のカード一枚を破壊する! 俺は真六武衆―キザンを生け贄に捧げ、グングニールの影霊衣を破壊!」

 

 キザンが自らの腹を切り、そこから溢れ出た力をミズホが受け取り、手に持っている剣を思い切り投擲。友情パワーの乗った一撃が、グングニールの影霊衣を纏った女性に直撃し、哀れ爆発四散した。

 

「そして! 真六武衆―キザンを手札から特殊召喚!」

 

 新たに現れるキザン。またしても武士道カウンターが乗る。

 だが、警戒すべきは、最初の手札の一枚。あれからは、とてつもなく嫌な予感がする。そう、十代が強欲な壺を引き当てた時のような、嫌な予感が。

 そして、残念ながらその予感は的中してしまう。

 

「更に! 場に二体以上の六武衆と名の付くモンスターが存在する場合、大将軍紫炎を特殊召喚する!」

 

 青いマントをはためかせ、真っ赤な兜に真っ赤な鎧を身にまとった絶対将軍が降臨する。

 総ダメージ数、ユニコールの影霊衣とマンジュ・ゴッドをクッションにしても5400。これでは確実に死んでしまう。

 アヌビスは勝利を確信したのか、今にも笑い出しそうなテンションで命令を下す。

 

「バトルだ! まずは大将軍紫炎で、ユニコールの影霊衣を攻撃!」

 

「ぐっ、罠カード発動! ダメージ・ダイエット! 攻撃によるダメージを半分にする!」

 

 ダメージ・ダイエット。ももえとのデュエルの際に投入していたカードを抜き忘れていたらしい。運がいいと喜ぶべきか、苦しむ時間が長くなったと後悔すべきか。

 紫炎の刀をユニコールの影霊衣は受け止めようとするも、矛は真っ二つに斬り折られ、そのまま両断された。血飛沫が弾け、真っ赤な血が床を濡らす。

 鉄臭さと酸っぱい臭いが充満する。気分の悪い臭いだ。出来ればあまり嗅いでいたくない。というか闇のゲームそこまで再現すんな、というのが明日香の心からの叫びだ。

 

「ふん、耐えたか。だがまだまだよ! カゲキでマンジュ・ゴッドを攻撃!」

 

 今度はカゲキの番。久しぶりの出番とばかりに気張り、まずは両手の素早い剣捌きで、マンジュ・ゴッドの腕を全て斬り落とす。そして痛みのあまり絶叫する間もなく、背中の剣がマンジュ・ゴッドの喉を刺し貫いた。

 かぱっ、と青い血を口から溢れさせ、床へと崩れ落ちる。

 

「ライフが残ってしまうのが残念だが、仕方あるまい。やれ!」

 

 残るシエン、ミズホの剣撃を明日香は両腕を組み防御するも、雪のように柔らかい肌に赤い線がスッ、と入り、血が溢れ出す。

 痛み、決して普通のデュエルでは得る事が出来ないだろう痛み。それはたかが一介の高校生の身には、余りある恐怖だ。

 唇を青くさせ、二の腕を掴み必死に震えを押さえる。十代はこの恐ろしさの中、兄さんを倒したんだ。万丈目はこの痛みの中、敵を倒したんだ。自分にも出来ない筈がない。そう必死に言い聞かせる。まるで呪詛のように。

 しかし、それでも年端もいかぬ少女の口からは、弱みが漏れ出てしまう。

 

「……んで、なんで私が……私はただ、学校で楽しく──」

 

「なんで、とはおかしな話だ。貴様が選んだ道だ、そこに脅威がある事は、貴様が一番よく知っている筈だ。それすらも飲み込んで、貴様はその鍵を手に取ったのだろう?」

 

 そう、アヌビスの言う通り。この鍵は紛れも無く、自分の意思で手に取った。

 こうなるとは思っていなかった、こんな目に合うなんて思っていなかった。どう言い訳をしようにも、彼女は既に鍵を手に取った。

 一度選んだ選択肢を手放す事は出来ない。それが、この世界。不条理ながらに平等に、選択肢のあるこの世界なのだから。

 世界はいつも残酷で、足掻く人間を見て嗤う。

 

「俺はターンエンドだ。さあ人間、足掻いて見せろ! 私を──ボクを助けたいのだろう?」

 

 そう言いアヌビスは、親指で自分を──ツァンを指し、嘲るように、醜悪に口元を歪ます。

 そうだ、何も今戦うのは、決して七精門の鍵の為ではない。彼女を──こんな事件に巻き込んでしまった、ツァンを助ける為だ。

 その為に、その為なら、明日香はどんな痛みも、どんな恐怖も押さえつけてやる。たった一人の、友達を助ける為に。

 

「ドロー!

 痛みなんて、気合いと根性で押さえつける!

 魔法カード、一時休戦を発動! 互いにカードを一枚ドローし、このターン受けるダメージを0にする!

 更に墓地の影霊衣の万華鏡の効果を発動! 自分場にモンスターが存在しない場合、このカードと墓地の影霊衣と名の付くモンスター一体を除外し、デッキから影霊衣と名の付く魔法カード一枚を手札に加える!

 私は墓地のグングニールの影霊衣とこのカードを除外し、デッキから影霊衣の降魔鏡を手札に加え、発動! 手札の影霊衣の術士シュリットを供物とし、手札からトリシューラの影霊衣を儀式召喚!」

 

「馬鹿な、儀式召喚にはそのレベル分のモンスターを生け贄にしなければならないのではないのか!?」

 

 三つに分かれた角が特徴的な氷製の兜と、氷の鎧を身にまとった赤髪の少年。トリシューラと同じような尻尾が揺れ、ドラゴンのようなブーツが地面を凍らす。手には氷で出来た、分厚い剣。

 アヌビスの驚きは最もだ。本来儀式召喚とは、そのレベル分のモンスターを供物とせねば召喚出来ない召喚法。見せられた影霊衣の術士シュリットのレベルは、少なくとも4以下。これでは供物には不足な筈。

 

「勉強不足のようね。モンスター効果の中には、それ一体で全てのレベルを賄えるものもあるのよ!  トリシューラの影霊衣の効果発動! 相手の手札・場・墓地のカードを一枚ずつ除外する! 私は大将軍シエン、真六武衆―キザン、そしてあなたの手札を除外! そして影霊衣の術士シュリットの効果発動! このカードを儀式の供物として生け贄に捧げた場合、デッキから戦士族の影霊衣と名の付く儀式モンスターを手札に加える! 私はクラウソラスの影霊衣を手札に!」

 

 トリシューラの影霊衣は羽ばたきで作りだした、絶対零度の冷風の塊を大将軍シエンへと放つ。

 空気中の水分が凍り、ダイヤモンドダストの渦が大将軍シエンを飲み込むと、悲鳴を上げる間もなく凍り、砕け散った。

 

「ぐうっ、小癪な!」

 

「除外してしまえば、紫炎を復活させる事も出来ない! バトルよ! トリシューラの影霊衣で、ミズホを攻撃!」

 

 トリシューラの影霊衣が分厚い剣を振り下ろす。ミズホはそれを両手の刃で受け止めるも、その剣から放たれる冷気には抗えず、凍傷によって指が落ち、力を失った手からからんと剣が落ちた。

 そのまま頭から一刀両断されたミズホは、しかし傷口は氷の剣の通過によって凍らされ、塞がれている。血が噴き出す事も無く、ただ静かにその命に幕を下ろした。

 

「 魔法カード、サルベージを発動! 墓地の水属性モンスター二体を手札に戻す! 私は影霊衣の術士シュリット、影霊衣の戦士エグザを手札に戻す! 更に強欲なウツボを発動! これは手札の水属性モンスター二体をデッキに戻し、カードを三枚ドローする! 私は手札に戻したユニコールの影霊衣、影霊衣の戦士エグザをデッキに戻し、カードを三枚ドロー!  手札からサンダー・ドラゴンを墓地へ捨て、サンダー・ドラゴン二枚をデッキから手札に加える! そして打ち出の小槌を発動し、手札に加えたサンダー・ドラゴン二枚をデッキに戻し、ドロー!

 カードを三枚セットして、おろかな埋葬を発動。デッキから儀式魔人プレコグスターを墓地へ送る! ターンエンド!」

 

「ふん、ミズホを倒したか。しかし所詮は悪足掻きよ、ドロー!

 俺は六武衆の師範を特殊召喚! これによって六武の門に武士道カウンターが乗る。そして武士道カウンターを四つ取り除き、デッキからミズホを手札に加え、召喚!」

 

 左眼に傷があり、それを隠すように眼帯を付けた、古強者という印象を抱かせるご老人。髪は長く白い。和服の袖の上から奇妙奇天烈な模様の描かれた篭手が付けられており、両手で剣の柄を持ち、地面に突き刺している。

 そしてその隣から現れたミズホは、そのご老人に軽く目礼し、それに片手を上げる事で応えた。

 

「罠カード発動、奈落の落とし穴! ミズホを破壊し除外する!」

 

 だが、それも突如現れた穴の中に引きずり込まれてしまう。

 ミズホは身代わり効果を持ち合わせていない。故に、こういう罠にも効果的なのだ。

 

「チィッ! 師範の効果で、墓地のミズホを手札に加える! 更にミズホの召喚には成功していたので、武士道カウンターを乗せる! 更に武士道カウンターを取り除き、デッキから六武衆の師範を手札に加える! カードを一枚セットし、ターンエンド!」

 

「エンドフェイズ時、罠カードリビングデッドの呼び声を二枚発動! 自分の墓地からモンスター一体を特殊召喚する! 墓地からマンジュ・ゴッド、儀式魔人プレコグスターを特殊召喚する! 私のターン、ドロー!」

 

 阿修羅のような形相の菩薩と、薄紫色の太った悪魔の戦士が現れる。さながらオーバーオールのように、しかしクロスしてズボンと繋がっている、どういう原理で浮いているのかよく解らない鉄製のベルト。ベルトと同じ濃い藍色の兜の下には、醜い顔が。肩にかけている鎖が、髑髏の中に棘を仕込んだモーニングスターを動かす度にじゃらりと鳴る。

 このターンに仕留めなければ、明日香の負けは確定する。相手のデッキは真六武衆、召喚速度の速さは群を抜いている。

 というかツァンのデッキってあんなに強かったっけ? という疑問が湧いて仕方がない。最近パック買って強化したとか嬉しそうに話していたが、強化されすぎだろというのが明日香の正直な感想だ。

 

「──来た! 魔法カード二枚発動! 一枚目は波動共鳴、これでトリシューラの影霊衣のレベルを4にする! 更に儀式の準備を発動! デッキからレベル7以下の儀式モンスターを手札に加え、墓地から儀式魔法一枚を手札に戻す! 私はデッキからレベル6ブリューナクの影霊衣を手札に加え、墓地から影霊衣の降魔鏡を戻す!

 ブリューナクの影霊衣を墓地へ捨て、デッキからSophiaの影霊衣を手札に加える! 儀式魔法、影霊衣の降魔鏡を発動! 場のマンジュ・ゴッド、儀式魔人プレコグスター、トリシューラの影霊衣を生け贄に捧げ、Sophiaの影霊衣を儀式召喚!」

 

 現れたのは、神々しい後光の差す、赤い髪の女性だった。紫色の赤い刺繍の入った、足を全て覆い隠すほどのローブ、胸には乳房を外から持っている、鏡の付いた胸当て。さながら天使のような装飾品が付いた、神にも悪魔にも見える冠を被っている。二の腕には植物のつたのようなタトゥーが掘られており、右掌の上に浮かぶ光の球体と、左掌に浮かぶ黒い球体に照らされている腕を覆い隠すように、その球体が司る色の手袋が付けられている。

 

「Sophia? これまでの儀式モンスターとは違い、聞いた事の無い名だな」

 

「Sophiaの影霊衣は儀式召喚成功時、このカード以外の場のカード全てを除外する!」

 

 Sophiaの影霊衣が光と闇の羽を展開すると、そこから神々しくも荒々しい光の風と、禍々しくも静寂な闇の風が吹き、空中に次元の裂け目を作る。

 そこからまるで吸引されるかのように重力の塊が現れ、六武衆は門諸共吸い込まれていった。一瞬、伏せていたカードがオープンするも、明日香の眼にはそれが魔法カードである事しか解らなかった。

 

「ぐぅっ、……馬鹿な! 俺の六武衆が全滅だと!?」

 

「これでもう、あなたを守るものは何もない! ツァンの身体は返してもらうわ! バトル! Sophiaの影霊衣で直接攻撃!」

 

 Sophiaの影霊衣の腕を包む光と闇が一層激しく蠢き、膨大なエネルギーを作りだす。そのまま腕を頭上へと掲げ、そのエネルギーを空中に放出し、固定。徐々に大きくなっていく、白と黒の混沌としたエネルギーの球体が、さながら太陽のように大きく、時折プロミネンスを出しながら大きくなっていく。

 だが、アヌビスの顔にはまだ余裕がある。Sophiaの影霊衣では、アヌビスの無傷なライフを削りきる事が出来ないからだ。

 

「だが! そいつで攻撃したとしても俺のライフは残る! 次のターン、俺の手札から六武衆を展開すれば貴様の負けだ!」

 

「そうかしら? 手札からディサイシブの影霊衣を墓地へ捨て、Sophiaの影霊衣の攻撃力を1000上げる!

 やりなさい! ワールド・デストラクション!」

 

 明日香の号令と共にSophiaの影霊衣は腕を勢いよく下げると、空中に浮かんでいた混沌の球体は勢いよく地面へと落下し、その衝撃で床が、まるで蛇が獲物を狙うように伝い、ツァンの身体をアヌビス諸共包み込む。

 膨大なエネルギーによって壁にヒビが入り、天井が砕け上の階にあった勉強机がガラガラと落ちてきた。ツァンの姿は土煙に包まれ、その安否は不明。攻撃が終わってから明日香は、自分が仕出かした事に対し冷や汗を流す。

 ──やりすぎた。そう、後悔する前に、くつくつと笑う声。

 

「だから言っただろう? そいつで攻撃しても、ライフは残ると」

 

 恐らくアヌビスであろう刀を振り払い、土煙を晴らす。ツァンの額から血が垂れ流れ、身体の節々は痛々しい切り傷の痕。しかし、痛みによって苦悶に歪む表情は無い。当然だ、あの身体はツァンのものであって、アヌビスのものではないのだから。

 しかし、では何故、アヌビスは無事なのだ。これは闇のゲーム、勝てば消えるのではないのか? 絶望の中、八つ当たりのようにそんな疑問が、嘆きが浮かぶ。

 

「そんな……何故、何故消えてない!! Sophiaの影霊衣の攻撃力は3600、それに1000足したら4600! あなたのライフは消し炭になる筈!!」

 

 土煙を払いながらアヌビスは、何でもないかのように答える。

 ごくごく当たり前のように、魔法・罠カードゾーンに刺さっていたカードを引き抜き、相手に見せながら。

 

「汎用性の高いカードというのは、一枚は仕込んでおくものだ。当然だろう?」

 

「……収縮、まさかあの時に!!」

 

「そう、その通りだ。既に君が行える行動は全て終わった。俺にターンを譲って貰おう。ドロー!

 俺はミズホを召喚し、更に手札から師範を特殊召喚する。そしてミズホの効果で師範を生け贄に捧げ、Sophiaの影霊衣を破壊」

 

 師範が腹を切り、ミズホの両手に持っている刀をクロスに薙ぎ払う。エネルギーがSophiaの影霊衣の腹をクロスに引き裂き、そこから血が溢れ出す。

 せっかく掴みかけた勝利への栄光が、まるで砂の城のように呆気なく崩れていく。砂浜に書いた絵が波に飲み込まれたかのように、容易く消えていく。

 

「中々面白かったぞ、明日香……だったか。しかし、それもこれで終わりだ。バトル」

 

 アヌビスが指を鳴らし、ミズホは両手の剣をブーメランのように投げる。それは立ち尽くす明日香の腹に吸い込まれるように入り、明日香の意識を狩り取った。




 いつの間にかめっちゃシリアスになってた……やってるのカードゲームだけど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。