月影永理の暴走   作:黄衛門

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第43話 救いの手

 荒れ放題の食堂。テーブルは落ちてきた天井の破片で割れ、辛うじて残っている蛍光灯がチカチカと点滅する。壊れた水道から水が湧き水のように溢れ、粉状になったコンクリートを泥に変える。

 そんなおよそ地獄絵図との表現が的確であろう空間に立つツァン・ディレ。否、アヌビスは、血が流れ塵で汚れた腕のデュエルディスクを畳み、床に倒れる天上院明日香を見下ろしていた。

 

「中々の強者であったぞ、天上院明日香……まさか、ツァンをここまで追い詰めるとはな」

 

 頭から流れ出る血を乱暴に拭い、鞘から刀を抜き取る。

 拭った血がオベリスクブルーの白い制服に染みを作るが、彼女──彼には関係ない。あくまでツァンは、彼女は道具であって、アヌビスはその操り主。道具の評判がどうなるとうと知った事ではないのだ。

 点滅する蛍光灯の光を受け、妖しく光る妖刀。本体を大きく掲げる。

 

「貴様はこれより我が身体として生きるのだ、歓喜と苦痛の中で逝け」

 

 ぴちょん、とツァンの血が地面に流れ落ちた音を合図に、アヌビスは勢いよく刀を、明日香の喉目がけて振り下ろした。

 風を切る音を鳴らし、さながらギロチンのように振り下ろされる刃。しかしそれは明日香に当たる直前、手元からすっぽ抜ける。

 刀が床を転がるように滑り、瓦礫の一つに当たって止まる。そして、刀の前に突き刺さる一枚のカード。

 

「ガード・ブロック、生け贄がもう一人……」

 

 歪んだ笑みを浮かべ、ツァンはカードの飛んできた方を見る。

 茶色い髪、オシリスレッドの服。そして──七精門の鍵。アヌビスの獲物、遊城十代は恐ろしい形相をしている。ツァンを睨み殺さんばかりの、強い殺意を隠そうともしない。歯を食いしばり、目を吊り上げた表情。それがアヌビスには、とてつもなく愉快だった。

 

「お前、明日香に何をした」 

 

「……殺しはしないさ、天上院明日香は俺の大事な大事な人形なのだから」

 

 怒気、いや殺気というべきか。それを含んだ低い声。だがそれも、アヌビスにとってはただの愉悦にしかならない。

 手を振ると同時に弾いた筈の刀が手元に戻り、それを何事も無かったかのように鞘に戻す。洗練された一連の動作。もし頭から血が滴ってなければ、もし明日香をその刃に掛けようとしなければ、きっととても絵になっただろう。十代も、見惚れていただろう。だが、今はただの、殺人鬼のようにしか見えない。

 見えないからこそ、友を手に掛けようとしたからこそ、十代は絶対的な敵と認識した。

 

「それに、勝者は敗者を好きにできる。これは古来より伝えられてきた伝統、貴様の様な有象無象の一つに過ぎないカスが、とやかく言う権利は無い」

 

「知るか糞野郎。お前がどんだけ偉かろうが、俺の友達を殺そうとした奴を許せるかよ」

 

「ならば行動で実戦してみせよ。貴様の守るべき者のようにな」

 

 十代の意思は、アヌビスにとっては格別の餌となる。身体を頂くには少々──というよりアヌビスも一応男なので、あまりそそられはしない。

 だがアヌビスは自身の目的以外にも役目があり、そしてそれはアヌビスにとっては必須とも言えた。

 十代の闘志、戦意。これらはアヌビスの腹を満たすに丁度いい分量と質。三か月ほどは何もせずとも問題ないだろう。

 十代とアヌビスは同時にデュエルディスクを展開させ、静かにデュエルを開始した。

 コードだけで支えられていた蛍光灯が自重に耐え切れずガシャリと音を立てたと同時に、十代はカードを引く。

 

「魔法カード、増援を発動。デッキからレベル4以下の戦士族一体を手札に加える。俺はエアーマンを手札に加え、召喚。効果でデッキからHEROと名の付くモンスター一体、スパークマンを手札に加える。カードをセットしてターンエンド」

 

 足元から渦巻く風を出し、背中に二つのファンと滑空に使う鉄製の羽を付けたヒーローが現れる。

 怒りの割には、堅実な出だし。状況把握はちゃんと出来ているようで、アヌビスは感心したように頷く。

 

「俺のターン、ドロー!

 ……チッ、成金ゴブリンを二枚発動! 相手ライフを2000回復させ、カードを二枚ドロー! 

 永続魔法六武衆の結束を発動! 真六武衆―カモンを召喚し、効果で手札から六武衆と名の付いたモンスター、六武衆の影武者を召喚! 六武衆の結束に武士道カウンターを二つ乗せる!」

 

 四刀流の武者の隣に、赤く長い髪が黒い武者兜の隙間から出ている、緑の和服の上から鎧を着た武者が現れる。手には長い、漆塗りされた棍を持っている。

 六武衆の影武者、チューナーモンスターだ。

 

「武士道カウンターが二つ乗った六武衆の結束を墓地へ送り、カードを二枚ドロー! ……チッ、レベル3真六武衆―カモンに、レベル2の六武衆の影武者をチューニング!

 旧時へと置き去りにされた武者の亡霊よ、当世へ残りし同類の叫びへ応えよ! 真六武衆―シエン!」

 

 紫色に燃える冥府の炎を、ノコギリのような刃で散らし現れる、真紅の武者。悪魔のような羽と肩の棘、血の様に赤い鎧には金色の模様。目元以外を覆い隠す武者兜の下から覗く眼光は、生者への恨み妬みが募っている。

 

「バトルだ! シエンでエアーマンを攻撃!」

 

 ノコギリのような刃を構え、シエンは一気に上体を落とし接近する。鎧を着ているとは思えない素早さに呆気にとられエアーマンは動けず、呆気なく袈裟斬りの餌食となった。

 斬り千切られた腕と上体が、真っ赤な血を吐き出しぼとぼとと落ちる。

 

「カードをセットし、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー。

 手札から沼地の魔神王を墓地へ捨て、デッキから融合を手札に加える。更にデブリ・ドラゴンを召喚。召喚成功時、墓地の攻撃力500以下のモンスターを一体特殊召喚する。効果で沼地の魔神王を特殊召喚」

 

 顔が尖っており、胸と肩に黄色い琥珀のようなものが埋め込まれた水色のドラゴンが小さな羽を羽ばたかせ現れ、その横から緑色の泥を集めて藻でコーティングしたような、丸い人型の物体が現れる。

 それを見てアヌビスは愉悦の表情。あの伏せカードになにかあるのが見え切っている。が、手札にサイクロンは無い。

 で、あれば。罠を仕掛けられていると解っていても突っ切るしかない。

 それに、明日香には悪いが、強者とのデュエルを楽しんでいる自分が居る。こんな状況だというのに、不謹慎だというのに。

 

「レベル3沼地の魔神王に、レベル4デブリ・ドラゴンをチューニング。氷結界に封じられし暴力を司る龍よ、今一度結界より解き放たれ、我が敵を滅ぼせ! シンクロ召喚! 氷結界の龍グングニール!」

 

 パキパキと空気が凍り、主人の怒りを代弁するかのように瞳を紅く光らせ現れる四足の龍。

 十代が最も頼った、と言っても過言ではないだろう。故に、また力を貸してもらう。

 

「グングニールの効果発動! 手札を一枚捨てて、お前のシエンを破壊する!」

 

「カウンター罠、六尺瓊勾玉! 六武衆と名の付くモンスターが場に存在する場合にのみ発動可能! カードを破壊する効果を無効にし破壊する!」

 

 大気の水分を凍らせツララを作るグングニールを、シエンの首に現れた勾玉が光り輝き包み込む。するとまるで、最初からそこには何もなかったかのようにグングニールは姿を消していた。

 しかし、まだ十代の手札は三枚ある。

 

「魔法カード、融合を発動!」

 

「許すと思うのか? 真六武衆―シエンの効果発動! 一ターンに一度、魔法・罠の効果を無効にし、破壊する!」

 

 十代の場に現れた融合の渦は、シエンの薙ぎ払いによって現れた衝撃波によって爆散してしまう

 しかし、十代は静かに口角を上げる。融合はおとり、本命はこっちだ。

 

「リバースカードオープン! 魔法カード、ミラクルシンクロフュージョン!」

 

「なっ、罠じゃないだと!?」

 

「こいつは場・墓地のモンスターを除外して、シンクロモンスターを素材を指定する融合モンスター一体を特殊召喚する! 俺は墓地のグングニールと、エアーマンを除外! 融合召喚! 波動竜騎士ドラゴエクィテス!」

 

 大きな槍を持ち、大きな羽で羽ばたく竜の槍騎士が現れる。青い大きな鎧が、とても頼りになるように見えた。

 ミラクルシンクロフュージョンはたとえ破壊されたとしてもカードを一枚ドロー出来る効果を持つカード、破壊されなければその時は普通に使えばいい。ブラフには持って来いなカードだ。

 

「バトルだ! ドラゴエクェテスで真六武衆―シエンを攻撃!」

 

「ぐぅっ、迎え撃て!」

 

 見合い、蛍光灯の光が落ちるのを火蓋に二体のモンスターは地面を蹴る。ドラゴエクィテスの振り下ろした槍をシエンは剣で受け止めるも、ドラゴエクィテスは身体を回転させ尻尾で相手の身体を吹き飛ばす。横からの攻撃に耐性を崩し、鎧も含めての自重で倒れるシエン。それに容赦なく槍を突き立てると、真っ赤な鎧を染めるように赤い液体が噴出する。

 

「ターンエンドだ!」

 

「チィッ! 驕るな小僧! ドロー!

 俺は永続魔法、六武の門を発動! 更に手札から魔法カード、戦士の生還を発動し、墓地の戦士族モンスター、真六武衆―カゲキを手札に加え、召喚! 効果によって手札からミズホを特殊召喚! 六武の門に武士道カウンターが四つ乗る!」

 

 四刀流の武者と、赤い鎧を着た女性の武者。

 逆転に次ぐ逆転、既にその布石は切られており、アヌビスは勝ちを確信した。

 元々真六武衆のデッキは、ワンショットによって相手のライフを一気に削り取る事に特化したデッキ。成金ゴブリンのせいで多少相手のライフが増えているものの、その程度は誤差の範囲内。

 あっという間に終わらせる。相手のデッキパワーは明日香には負けるも、侮れない。

 

「六武の門に乗ったカウンターを四つ取り除き、デッキから六武衆と名の付いたモンスター、真六武衆―シナイを手札に加え、ミズホが場に居るので特殊召喚! 場に六武衆と名の付くモンスターが二体以上存在するので、大将軍紫炎を手札から特殊召喚する!」

 

 真っ黒な鎧を身にまとった武者と、青いマントをはためかせ、真っ赤な兜に真っ赤な鎧を身にまとった絶対将軍が降臨する。

 相手の場には攻撃力3200のドラゴエクィテスが存在するが、それも余裕で倒せる。そして魔法・罠を一ターンに一度のみに封じた。もし仮に仕留めきれなかったとしても、次のターン相手に勝機は、まず無い。

 

「ミズホの効果発動! 場の六武衆と名の付くモンスター一体を生け贄に捧げ、相手モンスター一体を破壊する! 俺はシナイを生け贄に、ドラゴエクェテスを破壊! 更にシナイは生け贄に捧げられた時、墓地の六武衆と名の付いたモンスター一体を手札に戻す! 俺は六武衆の影武者を手札に戻す!」

 

 シナイの力を込めた、短刀がドラゴエクェテスに迫り、何とも呆気なくその首を地に落とした。

 ぷしゅりぷしゅりと水音を立てて崩れる龍。ブーメランのようにミズホの手元に短刀が戻った瞬間、大槍が倒れ、ドラム缶を鉄パイプで殴ったような音が響き渡る。

 十代は苦虫をかみつぶしたような表情となった。相手の場のモンスター、総合計は5800。容易に十代のライフを消し飛ばす。

 

「バトルだ! 真六武衆達で貴様に直接攻撃!」

 

 カゲキが飛びあがっての四刀流の斬撃を振り下ろし、それの横をサポートするようにミズホのナイフが滑り込み、十代の膝を貫き、そして咄嗟に防御した腕にクロスの傷を浮かび上がらせる。更にすぐに真六武衆達はその場を離れ、刀を携え走って来た紫炎は逆袈裟に斬りあげた。が、ガキンと音を立てて刃が零れる。

 

「墓地のネクロ・ガードナーを除外し、紫炎の攻撃は無効にさせてもらった」

 

「あの時のか……小癪な、ターンエンドだ!」

 

 そう、グングニールの効果を使った際に切った手札が、ネクロ・ガードナーなのだ。

 しかし、どう動こうと十代が不利なのには依然変わりは無い。一ターンに一度しか魔法カードが使えず、苦労して出したとしてもミズホですぐに破壊されてしまう。

 今の手札ではどうしようもない、訳ではないが少しばかり厳しいのが現実。このドローに全てがかかっており、賭けに勝ったとしても勝負にまで勝てるかは解らない。

 我ながら歩の悪い賭けだ、と十代は苦笑する。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 最も、歩の悪い賭けに勝つのは得意ではあるが。

 

「スパークマンを召喚!」

 

 背中に二つのアンテナを付けた、青いスーツに黄色いプロテクターを付けたヒーローが、バチバチと火花を散らして現れる。顔は上が青く下は黄色いヘルメットに守られており、うかがい知る事は出来ない。

 アヌビスはそのモンスターを見た瞬間、嘲るように笑った。

 

「ふん、通常モンスターを召喚した所で何になる? 残る手札はジャスティブレイクとでもいうのか?」

 

「融合ってのは、場・手札だけでやるもんじゃないんだぜ! 魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動! 場のスパークマンと墓地の沼地の魔神王を融合!

 来い! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 スパークマンが藻に塗れた人型に飲み込まれ、ドロドロに姿を溶かし、不定期な球体を作る。やがてそれは空中へと浮かび、まずは右腕に発火装置を付けた両腕が現れた。

 そして脚、身体の順に形成され、大量の泥をまき散らしながら、鋼鉄製の羽が姿を現す。

 首元がスライドしヘルムが現れると、急激に冷え固まり完璧にシャイニング・フレア・ウィングマンの姿となる。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマン、墓地のE・HEROモンスターの数だけ攻撃力を上げるカードか……」

 

「行け! シャイニング・フレア・ウィングマン! ミズホを攻撃しろ!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは大きく飛び上がり、天井を蹴って加速を付けて急降下。素早くミズホの懐に潜り込み、右ストレートを腹に叩き付けた。

 拳が鎧を砕き、腹筋にめり込んだ瞬間に右手の発火装置が起動。白い炎を出して、爆竹を飲ませた蛙のように弾け飛んだ。

 白い炎の余波が、ツァンの身体にも襲い掛かる。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンは、戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分ダメージを与える。俺はこれでターンエンドだ!」

 

「きっ、貴様……いい気になるなよ! ドロー!」

 

 アヌビスは引いたカードを見て、思わず顔をしかめる。モンスターではなく、しかもサーチカードでもない。

 カゲキの攻撃力は、既に元の200に戻っている。相打ちをさせてまでシャイニング・フレア・ウィングマンを仕留めるべきか。

 しかし、それでは返しのターンにシンクロをされて負けてしまうやもしれん。相手のデッキは融合とシンクロの両立、一度回れば噴火の様にアヌビスの命を狩り取るだろう。

 六武の門を自己強化に使うのは、まだ早計か。否、これが正しい選択なのだ。

 アヌビスは自分にそう言い聞かせる。相手が逆転する前に、倒す。

 

「六武の門の効果発動! 武士道カウンターを二つ取り除き、六武衆・紫炎と名の付くモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる! 俺は、大将軍紫炎の攻撃力をアップさせる!」

 

 そうだ、相手に打てる手は無い。勝利の風はこちらに吹いている。必死に自分にそう言い聞かせるアヌビス。鞘の中でかくはずの無い汗が、背筋に悪寒を走らせる。

 

「バトルだ! 大将軍紫炎で、シャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃!」

 

 紫炎の袈裟斬りはなんて事の無いようにシャイニング・フレア・ウィングマンのプロテクター諸共砕き斬り、真っ白な光と化した。

 攻撃してから一瞬オネストを警戒したが、杞憂だったようでアヌビスは、ばれないように胸を撫で下ろす。

 しかし、未だ相手は余裕の表情。隠し玉を仕込んでいるのか、それとも……そこまで考えて、アヌビスは考察をやめる。思考の沼に陥るのは危険だ。今は柔軟に対処せねばならない。

 

「カードをセット、カゲキを守備表示に変更し、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 余裕な表情を浮かべては見たものの、十代は焦っていた。

 現状打てる手立てはほぼ皆無に等しい。運よく防御系カードを引けたものの、はたして上手く行くのか。

 しかし零パーセントより一パーセントの勝利の可能性に縋り付かなければ、十代は負けてしまう。これまでいつもこの調子で、ぶっちゃけ傷が絶えないので七精門の鍵を受け取って後悔し始めていた十代。

 しかし綱渡りは今さらの話だ。何も恐れる必要は無い。いつものように

 

「無い可能性に縋り付くしかないってか。モンスターをセットし、カードをセット! ターンエンドだ!」

 

「無い可能性……なるほど、打つ手なし、か。ならば潔く死ね! ドロー!

 俺は真六武衆―キザンを特殊召喚! このカードは、場に六武衆が存在する時特殊召喚出来る! 更に、カゲキを攻撃表示に変更!」

 

 黒を基調とし金をあしらった鎧を身にまとった武士が現れ、武士道カウンターが門に乗る。

 カゲキまでも攻撃表示にする必要は無い。場には大将軍紫炎が存在する。もしカゲキまでも攻撃表示にしたら、ひょっとすればあの伏せカードはミラーフォースかもしれない。そんなリスクを被るような事はしないのが吉だ。

 

「バトルだ! 大将軍紫炎で伏せモンスターを攻撃!」

 

 紫炎によって振り下ろされた刀は十代の伏せていた、黒い壺を一刀両断。断面から黒い液体のようなものが漏れ出て溶けるように消えた。

 刀に付いたぐじゅぐじゅの液体を振り払い、アヌビスの場に戻る。

 

「メタモルポットの効果! 互いに手札を全て捨て、五枚ドローする!」

 

「ふん、それが何になる!? トドメだ! 真六武衆-キザンで直接攻撃!」

 

 鞘に手を添え、居合抜きの構え。

 一気に地面を蹴り、そのまま逆袈裟に斬りかかる。が、それは寸前でかかしによって防がれてしまう。

 

「手札から速攻のかかしを墓地に捨て、攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる!」

 

「チィッ! カードを三枚セットしターンエンドだ!」

 

 悪あがきをする十代に舌打ちを洩らすアヌビス。とっとと終わらせたいというのに、面倒に過ぎる。

 伏せたカードは魔宮の賄賂と奈落の落とし穴。どのようなカードが来ようと、ある程度のであれば対処出来る完璧な布陣。凌ぎ切った後はトラップ・スタンを使用してからの高速展開で、一気に勝負を決める。

 それに、たとえそれを突破出来たとしても、既に勝利はアヌビスの手の中。楽な仕事だ。

 次のターン、一気に仕留める。

 

「俺のターン、ドロー!

 リバースオープン! ブレイクスルー・スキル! 紫炎の効果を無効にする!」

 

「なっ、許すと思うか!? カウンター罠、魔宮の賄賂! 魔法・罠の効果を無効にし、相手にカードを一枚ドローさせる!」

 

 十代の折角発動したブレイクスルー・スキルは破壊されてしまう。

 しかし、十代の口端は上に上がっていた。ここに来てアヌビスは、しまったと歯を噛みしめる。

 これが狙いだったのか、と。

 

「大将軍紫炎の効果は、無効にされた場合使用のカウントには入らない。魔法カード、ブラック・ホールを発動! 場のカード全てを破壊する!」

 

 場の中心から巨大な黒い重力の塊が現れ、六武衆達を瓦礫諸共飲み込む。ぐちゃぐちゃに身体がひしゃげ、鎧の破片が喰いこみ、口から血を吐く。それの上から追加でやってくる瓦礫の山。

 やがて塊が全てを飲み込むと、綺麗さっぱり六武衆の姿は無くなっていた。

 傷ついているのはツァンだが、そのような事露知らず唇を、血が出るほど噛みしめるアヌビス。十代はそれに対し、してやったりという表情だ。

 

「貪欲な壺を発動! 墓地のデブリ・ドラゴン、波動竜騎士ドラゴエクィテス、シャイニング・フレア・ウィングマン、速攻のかかし、メタモルポットをデッキに戻し、カードを二枚ドローする! 強欲な壺を発動! カードを二枚ドロー!

 そして! カードガンナーを召喚し、効果発動! デッキトップからカードを三枚墓地へ送り、攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 

 十代の場に現れたおもちゃの様な外見をした戦車。ドラム缶を横半分にしたような身体の上にガラスで守られたカメラが、サーチライトを照らして輝いており、きゅるきゅると青い装甲の下でキャタピュラが鳴る。

 攻撃力1900となった、アヌビスのライフを消し飛ばすには十分な数値。だというのに、アヌビスはまるで、勝利を確信したかのようにくつくつと不気味に笑う。

 

「なっ、何が可笑しい!?」

 

「いや、なぁに……お前は、俺には勝てない。何故だか解るか?」

 

 ツァンが顎を上げ、首筋を十代に見せる。

 そこには横一直線に、まるで切ったかのような跡があった。ぐじゅぐじゅと切れ目が大きく開かれており、内部の肉が露出している。

 

「俺を殺せば、こいつは死ぬ。こいつの身体は俺のおかげで現世に存在出来るのだ。お前に覚悟はあるのか? 殺人鬼になる覚悟が、無関係の女を殺す覚悟が!?」

 

「……卑怯者が」

 

 十代は吐き捨てるように言った。要するに、アヌビスが言うのはこういう事だ。

 ツァンは人質となっている。一人の女を殺すか、ここで死ぬか。

 デュエリストとして風上にも置けないような糞野郎だ。だが、命を懸けた戦いにおいては、卑怯も糞も関係ない。ルール無用の相手としては、非情に正しい選択といえるだろう。それが理に反するかどうかはともかくとして。

 

「さあ、どうする? ここで殺すか、潔く死ぬか!?」

 

『クリクリー!』

 

 突然、十代の前にハネクリボーが姿を現した。

 ハネクリボーも、相手に怒りを覚えているようだ。そして、まるで「俺に頼れ」とでも言いたげな眼をしている。

 

「ハネクリボー……ああ、任せた! カードを二枚セットしてターンエンド!」

 

 で、あれば主人として、ハネクリボーを信用して、思いを託すしかない。

 

「ほう、まだ続けるか。ドロー!

 では俺が、潔く引導を渡してやろう! リバースカードオープン、トラップ・スタン! 場の罠を全て無効にする!」

 

 十代はそのカードを見て一瞬、苦い顔をした。それが更に、アヌビスの勝利を確定的なものにさせる。

 伏せていた二枚のカード、相手の先の顔からして、それらは罠である可能性が高い。で、あれば、もはや何も恐れるものはない。

 だが、警戒は更に強めておくべきだ。

 

「魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地から真六武衆―シエンを特殊召喚!」

 

「手札からエフェクト・ヴェーラーを捨て、シエンの効果を無効にする!」

 

 既に勝利は手の内に在り。戦は始まる前から勝敗は決しているのだ。仮にシエンの効果を無効にされたとしても、相手は何も手を打てまい。

 

「バトルだ! シエンでカードガンナーを攻撃!」

 

 シエンが刀を構え、一気に突撃する。

 これで勝負は決まった。俺の勝ちだ! そうほくそ笑むアヌビスの心に、余計な茶々が入った。

 

「速攻魔法発動、クリボーを呼ぶ笛! デッキからクリボー、またはハネクリボーを手札に加えるか、場に召喚する!」

 

 笛が鳴り響き、十代の場に黒い毛玉にマスコットのようなクリクリ目玉、そして天使の様な羽を付けたモンスターが現れ、シエンは突如足を止めた。

 だからどうした、とアヌビスは毒づく。ハネクリボーを召喚した所で、戦闘の巻き返しが起こるのみ。カードガンナーを狙い直せばいいだけの話なのだから。

 

「だからどうした、攻撃は続行せよ! カードガンナーを斬り捨てろ!」

 

「まだ終わってない! 手札を二枚捨て、ハネクリボーを生け贄に捧げ速攻魔法、進化する翼を発動! 効果によって手札かデッキから、ハネクリボーLV10を特殊召喚する!」

 

 進化する翼。アヌビスは聞いた事の無いカードだが、恐らく厄介な効果を持っているのだろう。

 だが、シエンの前ではそれも無力。二枚とも速攻魔法なのには少々驚いたが、所詮それだけ。勝つのはアヌビスだ。

 しかし、それも攻撃力たったの300。恐れる程のものではない。それに仮に強力な効果を持っていたとしても、相手は発動出来まい。何せ、ツァンを殺す訳にはいかないのだから。

 ハネクリボーの身体に現れる、金色の鎧。

 まるでドラゴンのような形状をしており、そこに背中にあったものを猛禽類のように大きくさせた白い翼と、白い鳥のような尻尾。更にアンカーのような二つの飾りがぶつかり合い、かちゃかちゃと音を立てる。

 

「だが! そいつが仮に俺を殺せるような効果を持っていたとしたら! ツァンは死んでしまうのだぞ!?」

 

「俺はハネクリボーを信じる! もし無理だったらその時は、俺も一緒に死んでやるだけだ!」

 

「阿呆が! 理解出来ぬ! 無理なら一緒に死ぬだと!? ならば貴様だけが死に、我を生かしておくべきではないか!! 自らの命が惜しければ、昨日今日会っただけの女を切り捨てれば良いではないか! 綺麗ごとばかりを並びたてるな!」

 

 もし永理なら、きっと最低な方法を思いついただろう。もし万丈目なら、一切の迷いなく、自らの強さの糧としてツァンを見捨てただろう。それもまた、強さ。見捨てる強さだ。

 だが、十代は強くない。自分に関係の無い人であったとしても、出来る事なら助けたい。自分の眼の届く範囲であれば、当人が敵でもない限りは。

 切り捨てられない弱さ、甘っちょろい正義感。十代自身も、それをよく自覚している。だからこそ憧れたのだ、ヒーローに。

 

「ハネクリボーLV10の効果発動! バトルフェイズ中このカードを生け贄に捧げ、相手場の表側攻撃表示のモンスター全てを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力の合計分ダメージを与える!」

 

 ハネクリボーが身体を丸め、まばゆく神々しい光を出す。すると、斬りかかろうとしていたシエンの刀が塵のように消え去り、指先から順番に消えていく。

 断末魔を上げ消えていくシエン、塵となった兜の下から一瞬現れた怨邪の表情。やがてそれらすらも包み込み、食堂全てを包み込み、ライフを一気に消し飛ばした。

 そして光が晴れると、まるで糸が切れたように倒れたツァン。

 十代は慌てて駆け寄り、それを抱きとめる。女の子特有の甘い香りを感じながら、十代は一人、帰ってくるはずの無い問いをかけた。

 

 ──最後は武藤遊戯(あこがれの人)の力を借りたけど、少しは近付けたかな、と。




 次回は、次回はちゃんとオリ主メインだから……!! きっと、多分、恐らく、IF……
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