月影永理の暴走   作:黄衛門

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第5話 グロとアベックと馬鹿2人

 タッグデュエル。永理の前世の世界ではタッグフォースと同じルールであったが、この世界では違う。おおまかなルールは以下の通りだ。

 場もライフも共通しない。

 片方が敗北した時点ではパートナーは敗北とならない。

 パートナーのモンスターを生け贄や壁にしたり、墓地のカードを利用することができる(ただし、利用される側のプレイヤーの許可が必要となる)。

 ライトニング・ボルテックス等のフィールド全体に影響のあるカードは双方に適用される。

 お互い最初のターンは攻撃出来ない。

 順番は1→2→3→4→1。

 相談や手札の見せ合いは出来ない(マイク等を使えば可能、要するにバレなきゃ反則ではない)。

 といった感じだ。

 永理は元の世界で何度かタッグフォースを嗜んだ事はあるが、図書館エクゾやらメタモルワンキルデッキデスやらと、ワンターンキルデッキばかりを使用していた。そしてヒロインのキャラを掴んでから同人誌を漁る日々を送っていたのだ。

 故に初心者ではないが、ルールが違うとやはり戸惑ってしまうのが人間というものだ。慣れ親しんだ下手な経験者よりも、初心者の方が上手い事動く事が出来る事もある。ACVに慣れた後でラストレイヴンをやったら、操作性の違和感にライオウ処か他のACも倒せなくなっていたという事もザラにある。まあガチタン使えばいい話なのだが。ライオウ? 引き撃ちしなさい。

 そんな訳で、実質的タッグデュエルの初心者である永理の処女を切ったのは、何だか闇のゲーム臭がプンプンする幽霊相手な訳だ。

 しかもライフを共通しないとはいえ、どちらかのライフが0になったら恐らくだが闇に飲まれる。永理の昔読んだ漫画に、人は勝負に負けると心にダメージを負い隙が出来るといった感じの台詞があったのを覚えている。大方闇のゲームも、それの類いなのだろう。そして霊体は、その隙から入り込み、浸食するつもりだろう。手段はどうであれ、負ければ身体は乗っ取られるのは確実だ。

 

「先功は俺が貰うぜ、ドロー!

 モンスターをセットし、魔法カード封印の黄金櫃を発動! デッキからネクロフェイス一体を除外し、二ターン目の俺のスタンバイフェイズに手札に加える! 更にネクロフェイスが除外された事により、互いのプレイヤーはデッキトップからカードを五枚除外する!」

 

「ちょっ、おまっ!!」

 

 慣れてない故、こういったミスが出るのもまた然り。しかし永理の中に後悔も反省も無い。まずは自分が助かる、それが第一だ。亮のサポートをするのは、自分の安全が完璧に確保出来てからだ。

 除外されたカードは威圧する咆哮、メタモルポット、闇次元の解放、ダーク・グレファー二体。今日の運はどうやら、亮とのデュエルで使い果たしてしまったようだ。

 

「先功は最初のターン攻撃出来ない。カードを二枚セット、更にモンスターをセットしターンエンド」

 

《俺の……ターン……》

 

 男の霊体が紫色のカードを引く。カードまで霊体化しているのだろうか。恐らく禁止制限も当時のままだろう。しかし、それを追及したところでどうしようもないのがまた現状である。面倒な話ではあるが。

 一度始まってしまった闇のゲームを止める手段は無い。

 

《カードをセット……モンスターセット……ターン……エンド……》

 

 ソリットビジョンは普通に作動するようだ。普通のカードが、相手の場に二枚現れる

 

「ちっ、とっとと終わらせたいものだ! ドロー!

 速攻魔法、サイクロン発動! その伏せカードを破壊だ!」

 

 稲妻交じりの竜巻が、男の霊体の伏せカードを破壊する。破壊されたカードは、和睦の使者。タッグデュエルでは最初のターン攻撃出来ないので、発動しても無意味なカードだ。

 

「サイバー・ドラゴン・コアを召喚し、効果発動! このカードの召喚成功時、デッキからサイバー、またはサイバネティックと名の付く魔法・罠カードを手札に加える! 俺はデッキから、サイバー・ネットワークを手札に加える! 更に魔法カード、機械複製術を発動! 場の攻撃力500以下のモンスターを複製する。しかしサイバー・ドラゴン・コアは名をサイバー・ドラゴンとして扱う。よってデッキから、二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚! 更に魔法カード融合を発動、サイバー・ドラゴン・コア一体とサイバー・ドラゴン二体を融合し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚! カードを二枚セットし、ターンエンド!!」

 

 しょっぱなから攻撃力4000のモンスターと、2100のモンスターを揃える。しかし最初のターンでそれを行うのは、少しリスクが高すぎる。亮も焦ってしまっているのだ、命を懸けたデュエルに。過去にそういったデュエルをした経験は、さしもの亮でも無いのだろう。最も、一介の高校生が何度も闇のゲームをしている事自体おかしな話なのだが。

 

《私の……ターン……。

 モンスターセット……カード……二枚セット……エンド……》

 

 女性の霊も随分とまあ消極的な動きだ。男と同じような、瓜二つの動き。何とも永理をイラつかせる。永理はこういった、アベックが大嫌いなのだ。とにかく嫌いなのだ。理屈ではなく、本能的に。生理的にもう無理なのだ。自分の惨めさが浮き彫りになってしまうから。

 

「俺のターン、ドロー!

 スタンバイフェイズ、封印の黄金櫃のカウントは一進む。メイン一に突入」

 

 手札を見やる。闇属性のモンスターカードが一枚、そのうちの一枚は上級モンスター。ならば、伏せているリバース効果のあるモンスターをオープンしても、何の問題も無いだろう。

 

「モンスターリバース、魔導雑貨商人! 魔法・罠カードが出るまで自分のデッキをめくり、そのカードを手札に加えるが、それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る」

 

 永理の場に、服を着たフンコロガシのような虫が現れる。どういう訳か服装はトルネコそのもので、手にはせいぎのそろばん。やっぱりシリアスな雰囲気の闇のゲームでもギャグに走るようだ、永理の持つカード共は。

 魔導雑貨商人はそろばんをしゃかしゃかと振る。それが効果発動の合図らしい。ちょいと前にそれをぼーっと眺めていたら殴られた。古今東西西洋東洋探しても、自分がコントロールする自分のモンスターに攻撃されたという経験を持つのは永理ぐらいだろう。

 

「一枚目、終焉の聖霊。二枚目、紅蓮魔獣ダ・イーザ。三枚目、死霊伯爵。四枚目、ダーク・ネクロフィア。五枚目、魔導雑貨商人。六枚目、カオス・ソーサラー。七枚目、終わりの始まり。終わりの始まりは魔法カードなので手札に加える」

 

 かなりいいカードが落ちた。この場合いいカードというのは、落ちてほしくない方のいいカードだ。特にこのデッキの切り札である三枚が落ちたのはかなり痛い。

 しかし嘆いても仕方なし、これは所詮運だ。それに墓地回収カードも無くは無い。

 

「魔導雑貨商人を生け贄に捧げ、死霊伯爵を召喚!」

 

 魔導雑貨商人の身体が突如切り裂かれ、レイピアを構えた初腐の紳士が、緑色の血と虫の切れ端を演出にかっこよく構えながら現れる。

 頭は禿げているのだが、何故か妙に無駄にかっこいい動き。銀チャリのような剣捌きだ。だが攻撃力2000の、今となってはあまり強くもない通常モンスターである。残念。

 永理も地獄詩人ヘルポエマーやらデーモンの召喚やらをデッキに入れたかったのだが、前世からカードを送ってくれるという神の言葉を信じて、買うのを諦めてデッキに投入していたのだ。しかしそこそこの活躍をする所から、今となってはたまーにエースカードになったりもしている。

 だが、伏せモンスターが少しばかり怖いのは事実だ。魔法使い族デッキであれば入っている可能性のある執念深き老魔術師や、見習い魔術師から面倒なカードをリクルートされるとそこそこ困る。

 故に、様子見といかなければならない。ちょうどそれに使える魔法カードが手札にあるのだから。

 

「魔法発動、『守備』封じ! お前の守備モンスターを攻撃表示にしてもらうぜ!」

 

《伏せモンスター……闇霊使いダルク……このカードがフィールド上に……表側表示で存在する限り……相手フィールド上の……闇属性モンスター一体を選択し……コントロールを得る……。死霊伯爵、おいで》

 

 若干ボブショートっぽい髪型のショタっ子が、死霊伯爵に手を向ける。どうやら誘っているらしい。そして死霊伯爵もまた、それにふらふらと、何かに操られたように導かれる。

 しかし、永理とてそうやすやすと死霊伯爵を相手に渡すわけにはいかない。そもそも死霊伯爵は、このカードの発動トリガーとして入れてる感じが若干あるからだ。

 そして相手のデッキはほぼ確実に、お互い霊使い。であるならば、このカード以上に刺さるカードもそうそう無いだろう。

 

「残念だったな糞幽霊共! 罠カード発動、魔のデッキ破壊ウイルス!! 攻撃力2000以上の闇属性モンスターを媒体とし、1500以下の攻撃力を持つモンスターを手札・場構わず破壊破壊破壊!! 全部ぶっ壊れろ!! ヒャーッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 死霊伯爵はゆっくりとダルクに近付き、差し出された幼い手を取る。しかしその瞬間死霊伯爵の身体は爆裂四散し、体内から黒い血を大量の噴き出す。それは弱いモンスターソウルを全て破壊する未知なるウイルス。ダルクも、女性の霊の伏せていたモンスターであるライナもそのウイルスに侵され、口から黒い血を吐き出しながら死んでいく。そしてその血は霊共の手札にも感染し、破壊される。おお、なんと地獄絵図か!!

 隣で亮がうわあ、という顔をしている。しかし永理の知った事ではない。相手の手札も二枚まで削る事が出来た。

 気分爽快、ぶち壊し。特にリア充の悔しそうな顔は、永理の最も大好きな顔だ。最も霊体は霧故顔は見えないが、心の中ではそりゃあもう悔しそうに顔をゆがめている事だろう。悪趣味とよく言われるが、永理はその性癖を直そうとは思わない。まあ一度DQNな奴らに絡まれた時は直そうかなーとは思ったが、闇のデュエルにおいては強者こそが絶対正義なのだ。三下の子悪党染みた笑い声は気にしない気にしない。

 

「霊使いも! リア充も!! 俺の気分を害する奴は、全部消えてしまえばいい!! ターンエンドだ、精々足掻け低能が」

 

 霊共の手札は既に三枚。女の使ったカードから察するに、残ったのは霊使いをサポートするような魔法・罠カード類だろう。

 この勝負、勝ったも同然。永理の気分はかなり爽快だ。さながら盗みたての好きな子のパンティを履きながら過ごす新年のように。

 

「永理……お前、お前」

 

 隣で亮が何か言いたげな顔をしているが、永理はさして気にしない。自らが行ったバイオ・テロの破壊力に酔いしれている。

 これでサレンダーするもよし、足掻くもよし。どちらにせよ、永理の勝ちは確実だ。

 

《俺の……た、ターン……》

 

「おーっと、ドローカードを確認させてもらうぜ」

 

 相手の引いたカードは、太陽の書。大方、霊使いの能力を速攻で使う為に投入したのだろう。今となっては使いようの無いカードだ。

 

《カードをセット、ターンエンド……》

 

「俺のターン、ドロー。

 悪く思うなよ。サイバー・エンド・ドラゴンで女に直接攻撃。エターナル・エヴォリューション・バースト」

 

《と、罠カード……発動……》

 

 女は罠カードを発動する。二枚目の和睦の使者。しかしそれも、亮の発動した罠カードによって効果を発揮する間もなく、墓地へと送られた。

 

「罠カード、トラップ・スタン。このターン、場の罠カードは全て無効だ。潔く彼岸にて心安らかに暮らすがいい」

 

《あ、あう……たす、助け……》

 

 亮は指をパチンと鳴らす。するとそれが合図だったのか、亮のサイバー・エンド・ドラゴンは三つの首から光線を出し、女の霊を無情にも撃ち貫く。

 一切の躊躇も無く、一切の遠慮も無く、全てを焼き尽くさんとただただ光の粒子をぶつけ続ける。ミンチより酷い。

 光の粒子が無くなった後には、何も残っていなかった。

 

「お前よくそれで俺にあんな顔向けてきたよな」

 

「いや、あの破壊描写は……なあ。あっ、ターンエンドだ」

 

 確かにそれに関しては永理も最初驚いた。R-18ぐらい行くんじゃねーか、とも思った。実際永理が小学生の頃、このカードを使って同級生を泣かせてしまった事がある。

 というかどう見ても相手モンスターの死に方が……人型とか獣型だとグロすぎて、永理もあまり好んで使おうとは思わない。

 正直プロになったらウイルスカードは封印するだろう。あまりにもグロすぎて、何処のテレビ局も使ってくれる気がしないからだ。

 

《俺の……ターン、ドロー!》

 

「ドローしたカードを見せてもらおう」

 

《引いた……カードは、ディメンション・マジック!》

 

 ディメンション・マジック。場の魔法使い族モンスター一体を生け贄にし、手札から魔法使い族モンスター一体を特殊召喚するという速攻魔法だ。更に厄介な破壊効果まで内臓しているので、非常に面倒くさいカードと言えるだろう。

 特に厄介なのは、効果解決時に破壊効果を使うかどうか選択する効果である。このカードは発動時は魔法使い族モンスターを特殊召喚する効果として扱う為、効果発動時には「フィールド上のカードを破壊する効果」として扱われない。

 このため我が身を盾にや、この世界ではまだ出ていないシンクロモンスターのスターダスト・ドラゴン、マテリアルドラゴンで無効化することは出来ない。最も、無効化出来る処理だったとしても今の二人に無効化する術があるかと問われれば答えはNOだ。

 

《魔法カード、死者蘇生……墓地から、闇霊使いダルクを特殊召喚!

 速攻魔法、ディメンション・マジック! 魔法使い族を生け贄に……手札から、混沌の黒魔術師を……特殊……召喚!!》

 

 ダルクの背後から鎖に繋がれた、少々形のおかしい棺桶が生え、開く。その空間から鎖は飛び出し、ダルクの手足に絡みつく。ダルクは痛そうな表情を見せるも、さして抵抗もせず棺桶の中へと引きずり込まれた。

 ぎぎぎと音を立て蓋が閉まり、更にその上から山賊が持っている剣のような物が空中に現れ、棺桶を突き刺す。中から悲鳴が上がり、血飛沫が舞う。

 しばらくすると、流れ出る血の色が赤から青へと変わり、闇の魔力だろうか。溢れ出んばかりの魔力によって棺桶の蓋が開かれ、場の闇の煙を一段と濃くする。

 そして、その闇の煙を黒い杖で振り払い現れたのは、真っ黒な服を着た肌色の悪い魔術師だった。

 

《ディメンション……マジック……! 俺の、最愛の彼女を……殺したあいつを、殺せ!!》

 

 混沌の黒魔術師が居なくなった棺桶からいくつもの鎖が飛び出し、サイバー・エンド・ドラゴンの首に巻きつく。サイバー・エンド・ドラゴンは必死で抵抗するも、ずるずると棺桶の中に引きずり込まれていく。

 

「……足掻くか、亡霊。まあそれもいいだろう、手向けにサイバー・エンドぐらい破壊させてやる」

 

 突然鎖の引きずり込む力が増し、サイバー・エンドの首は棺桶の縁に突っ返させる。しかし力は全く緩まず、首から嫌な音が漏れ始める。

 ひび割れ始めた装甲から青白い光が走り、サイバー・エンドは悲痛な叫びをあげる。が、それがまるで断末魔かのように、サイバー・エンドの首が弾け飛んだ。サイバー・エンドのコードが、まるでねずみ花火のようにのたうち回る。

 

《混沌の黒魔術師、効果発動……!

 墓地の魔法カード……死者蘇生、手札に!》

 

 墓地回収、それも魔法カードの回収というのはかなり厄介だ。永理は思わず舌打ちを洩らす。更に回収したカードが死者蘇生。ディメンション・マジックとのコンボと絶妙に噛み合っている。

 今、サイバー・エンド・ドラゴンは亮の墓地に存在する。そしてサイバー・エンド・ドラゴンは融合召喚に縛りこそあるが、特殊召喚に関しては特にこれと言った縛りは無い。

 となれば、相手が取る手段は一つ。

 

《死者蘇生、発動……! サイバー・エンド・ドラゴンを、特殊……召喚!》

 

 味方にすれば攻撃力4000の貫通効果ととても頼もしいが、敵として立ちふさがると途端に厄介になる。強力なカードは奪われた時、こういうデメリットが生じてしまうのだ。

 

《バトル……サイバー・エンド・ドラゴン、赤い男を……攻撃!》

 

「罠カード発動、立ちはだかる強敵! 攻撃対象を亮のサイバー・ドラゴンへ!」

 

「なっ、てめっ! チッ、永続罠発動! サイバー・ネットワーク! 場にサイバー・ドラゴンが存在するときに発動、デッキから光属性・機械族のモンスターカード一枚を除外する! 俺はデッキから、エメス・ザ・インフィニティを除外する!」

 

 助かる手段はこれしか無いので、永理は心の中で亮に謝っておく。沈黙の邪悪霊もデッキに1枚だけ入れているが、それを土壇場で引けるほど永理の運はよろしくない。そもそもが、ストレージで買ったカードと付録のカードで完成させたのが今の永理のデッキなのだ。ちなみにネクロフェイスはスパム缶に付いてきた、肉の缶詰に付けるものではないだろうが、永理としてはとても有難かった。

 サイバー・エンド・ドラゴンのエヴォリューション・レザルト・バーストによって、サイバー・ドラゴンはしめやかに爆発四散。

 そしてその余波として、サイバー・ドラゴンの破片が亮の身体を襲う。

 

「ぐっ、ああああ!! ……痛い、だと? 馬鹿な、ソリットビジョンに……ここまでの痛みは」

 

「闇のゲームだからだ、気を抜くなよ亮」

 

「お前が言うな!」

 

 最もである。亮を攻撃させたのは永理なのだ。その永理が気を抜くな、というのは甚だおかしい。敵は一人だけとは限らないという事か。いや、永理はただ単に亮を盾として使っただけだ。要するに一応、味方なのだ。

 

《だけど……これなら、通る! 混沌の黒魔術師で、攻撃!!》

 

 混沌の黒魔術師は杖から黒い雷を出し、永理の身体を貫く。

 鋭い痛み、何十本もの針で突き刺されたような痛みが全身を走った。

 

「あ、あっ……」

 

 雷が通過した部分を手で押さえ、思わず蹲る。永理は痛みにそれほど強くない、むしろ弱い部類だ。そして人間とは、どうしようもなく痛い時は声も出ないものだ。

 身体が震え、足が震え、思わず涙を流す。どうして俺が、なんで俺がこんな目に……理不尽だ、と永理はそう思わずにはいられない。

 しかし、だからこそ。膝をつくことなく、永理は立つ。理不尽な目に合わされたのだ。仕返ししなければ、気分が晴れない。

 やられたらやり返す。たとえ自分が100%悪くとも。必ずやり返し、二度と立ち向かえないように徹底的に痛めつける。しかし幽霊を痛めつけるだけでは気が晴れない。ならばどうするか、どうすればいいか。

 

《カードをセット……ターンエンド》

 

 相手のエンドフェイズ。どうしてやるかは、まずは引いてから。それから考える。デッキは可能性、手札は希望。しかし永理にとってそれらは全て、手段でしかない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 来た。最良のカードではなく、最悪のカード。肉体的にも、精神的にも徹底的に潰す。失敗しても次のターンは亮が動く。リカバリーは容易だ。

 

「糞幽霊がぶっ殺してやる! スタンバイフェイズ、ネクロフェイスを手札に。メイン一、魔法カード発動!

 死者蘇生! 墓地より光霊使いライナを、攻撃表示で特殊召喚!」

 

《ライナ……》

 

 永理の場にボブショートというのだろう。そういう髪型の女の子が現れる。霊使い、リバースモンスターであり、裏側表示でセットしなければ効果の発揮出来ないモンスター。しかしこのカードを召喚した瞬間、幽霊の雰囲気が変わった。

 そう、効果自体は発揮出来ない。しかし、プレイヤーの心理を動揺させる事は可能なのだ。恐らく相手はライナを、彼女に見立ててくるだろう。被せてくるはずだ。であるならば、挑発はどうとでも出来る。我ながら下種だな、と永理は思うも、永理はそんな自分が大好きだ。

 

「魔法カード発動、闇の誘惑! カードを二枚ドローし、手札の闇属性モンスター……ネクロフェイスを除外! 更にネクロフェイスの効果で、互いのプレイヤーはデッキからカードを五枚除外!」

 

 永理の除外したカードは強欲な壺、和睦の使者、天使の施し、トラップ・スタン、終末の騎士。落ちはよくないが、幽霊のデッキは闇属性主体。であれば既に成果は十分。

 

「終焉の聖霊を召喚!」

 

 黒い悪魔、そう説明されてすぐ想像に付くような存在。見るからに何処かのRPGゲームで雑魚キャラをしてそうなモンスターが、永理の場に現れる。

 効果は非常に厄介であるが、正直あまり永理のデッキとの相性はよろしくない。4枚目のダ・イーザとしてしか運用出来ないのが現状だ。

 しかし中々侮れないのもまた然り。

 

「こいつの攻撃力は、互いの除外している闇属性モンスター×300ポイントの攻撃力となる」

 

 デュエルディスクは攻撃力を計算してくれる機能もある。今現在の攻撃力は3900、中々だがまだ足りない。であるなら、足りるようにするまでだ。

 

「魔法カード、魂の解放。貴様の墓地のダルク、そして俺の墓地のダーク・ネクロフィア・終焉の聖霊、死霊伯爵2体を除外する。これで終焉の聖霊の攻撃力は5400! バトル、混沌の黒魔術師を攻撃!」

 

 終焉の聖霊は身体を闇に溶け込ませ、混沌の黒魔術師の背後から爪で首を引き裂く。青い血飛沫、思わず杖を床に落とし、切れた箇所を手で押さえる。

 しかしその瞬間、首から丸ごと終焉の聖霊の手刀によって、切断。噴水のように血が溢れ出る。永理はその光景を見て、やっぱり俺のカードまともじゃねーわと思った。

 

「ターンエンドだ」

 

 混沌の黒魔術師は、破壊された際墓地へ行かず除外される。それによって終焉の聖霊の攻撃力が5700になるが、さして関係は無い。サイバー・エンドの攻撃力はとうに超えている。

 

《俺の……ターン!

 サイバー・エンドで……ライナを、ライナを……》

 

「どうした、攻撃しないのか?」

 

 口角を上げ、とびっきりのゲス顔をしながら永理は挑発する。ライナを攻撃すればそれで終わり、しかし相手はライナを彼女と重ね見ている。であるならば攻撃する事は不可能。

 

《ッ……ごめん、ライナを攻撃!》

 

 決意を固め、ライナへの攻撃指示を出す。感動的だ、実に感動的だ。仇討ち、とは少しばかり違う。しかし永理は、こういった強い意志を持った敵が好きだ。

 

「手札からクリボーを捨て、ダメージを無効。残念だったな」

 

 こういう覚悟を踏みにじるのが、とても大好きなのだ。

 

「……リスペクトの欠片も無いな、お前」

 

「心配するな、自覚はある」

 

 サイバー・エンドからの余波を、毛むくじゃらのかわいいマスコットが守ってくれる。永理はどういう訳かこのカードを、屋根裏の物の怪のリメイクカードとばかり思っていた。

 幽霊は悔しそうに、伏せモンスターをセットしエンドを宣言。次のターンは、亮だ。

 

「ドロー!! まあ、闇のゲームで相手をリスペクトしても仕方がないとは思うが……俺も人の事を言えないしな。

 カードを二枚セットし、魔法カード天よりの宝札を発動。互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。更に壺の中の魔導書、互いのプレイヤーはカードを三枚ドロー。強欲な壺を発動、カードを二枚ドローだ」

 

 これでもかというぐらいのドロー加速。流石に永理も、これには笑ってしまう。いくら破格のドロー力があるといっても、限度があると永理は思ってしまうのだ。出鱈目すぎる、馬鹿げている。永理が持った感想はそれだ。

 一気に手札が八枚、ワンキルの素材は集まったようだ。

 

「リバース魔法、発動。死者蘇生。墓地よりサイバー・ドラゴンを特殊召喚。更に融合呪印生物―光を召喚し、効果発動。このカードと融合素材モンスターを生け贄に捧げる事で、融合モンスターを特殊召喚できる。サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚」

 

 流れるように融合呪印生物が召喚され、そしてサイバー・ツイン・ドラゴンの片側となる。洗礼された流れ、全部デステニードローなのだろうか。永理は思わず、そう疑ってしまう。

 更にまだ、恐らく隠し札を持っているのだろう。亮とはまだ短い付き合いではあるが、そういう男だというのはよく知っている。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃」

 

《サイバー・エンド・ドラゴンの……攻撃力……4000……無駄だ、攻撃……しても》

 

 サイバー・エンドの光線とサイバー・ツインの光線がぶつかり合う。しかしやはりパワー負けしているのか、サイバー・ツインは徐々に押され始めている。

 しかし亮はニヤリと笑い、手札の一枚のカードを相手に見せる。

 

「ダメージ計算時、オネストの効果を発動する」

 

 ガチムチ天使が光りを放ち、その光が、亮のサイバー・エンド・ドラゴンの光線を吸い込み、それをサイバー・ツイン・ドラゴンに分け与える。

 すると火力の差はひっくり返り、今度はサイバー・エンドが押され始めた。勝つ手段はもう無い、サイバー・エンドは光線に飲み込まれ、その鉄の身体を溶かされる。

 

「オネストはダメージ計算時、手札から捨てる事で相手モンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせる。サイバー・エンドの引導は渡してやった、次は貴様だ」

 

《だっ、だけど……もう、攻撃出来る……モンスターは……!!》

 

「サイバー・ツインは二回の攻撃が出来る。残念だったな、エボリューション・ツイン・バースト!!」

 

 亮のサイバー・ツインは強化された状態で、幽霊の男に止めを刺す。増した攻撃力から繰り出される光線、それは霊体を消し去るには十分な火力だった。

 その攻撃によって紫色の人型の霧は消え、やがて暗闇の空間も、見慣れ──まだ入学初日なので、全然見慣れてない元の部屋へと戻った。

 外から太陽の光が差し込み、スズメが鳴いている。余談ではあるが、あの声は威嚇しているらしい。

 

「……何だったんだ、あれは」

 

「さあな、夢……ではなさそうだ」

 

 一先ず砂嵐のチャンネルを変える。朝のニュース番組、丁度外国株の相場がやっていた。時刻は午前五時、いや六時ぐらいだろうか。

 チャンネルを変えると、天気予報。今日の予報は晴れらしい。そして日付は、ちゃんと昨日から一日しか経ってない。霊体験で数か月ぐらい異世界に飛ばされたという体験談通りではなく、あの出来事を現実だと立証するための証拠も無い。

 

「……昨日、翔に会ったよな?」

 

「聞いてみるか」

 

 永理の問いに、亮が答える。

 ふと、永理は足元に落ちていたカードを拾う。闇霊使いダルクと、光霊使いライナ。何処となく目つきの悪そうな顔をしている。

 まさかな、と思い直し、一先ず机の上にでも置いておく。そしてからファミコンを取り出す。早起きした時に時間を潰す手段は、決まっている。

 

「ファミコンで時間潰すか」

 

「そうだな」

 

 くにおくんの時代劇だよ全員集合を取り出し、カセットをふーっとする。いけない事と解っていても、ついつい儀式的な意味でやってしまうのは何故だろうか。

 そしてカセットをセット。永理達の朝は、これからだ。




グロ描写書くの楽しい
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