月影永理の暴走   作:黄衛門

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第54話 狙ったおまけが出ないのは紅蓮の悪魔の仕業でございます

 枕元に置いてある目覚まし時計を止め、万丈目はむくりと起き上がった。

 昨日の晩、十代と永理と連絡が取れず、二時間待ちぼうけして結局そのまま帰ってふて寝したのだが、万丈目の今日の気分はすこぶる良かった。

 久しぶりに二時という(いつもと比べれば)早い時間に就寝でき、六時間も眠れたのだから。

 万丈目は元々ショートスリーパーであったが、それでも流石に連日二時間睡眠はキツいものがあった。ショートスリーパーにも限度というものがあるのだ。

 というより、連日徹夜でゲームして三日に一度五時間しか眠らない生活で永理が何故あそこまで元気に動けるのか……今日は不在のルームメイトに疑問と不満を抱きながら、ベッドから降りる。

 大きく伸びをして、いつものように歯ブラシを手に取ろうとし、ふと気がついた。

 

「ゴミが落ちていない……?」

 

 いつもであれば……具体的に言うなら昨日までは、まるでゴミ屋敷といわんばかりに散らかっていた筈の部屋。それが一晩、それも六時間の間に綺麗にされている。

 ふと壁を見れば、カビも綺麗さっぱり取り除かれており、まるで新品のようだ。

 これが本来の正常な環境だとは分かっている。だがこの空間においては、これは明らかに異常である。

 亮は食べ物飲み物を持ってくるだけ持ってくるが、片付けることは滅多にしない。精々ゲームの整理をするくらいだ。

 あまりにも不自然な変化。好転しているからといって、素直に喜ぶことは出来ない。むしろ薄ら寒い不気味さすらある。

 とはいえ、元凶である永理の姿は無い。いつもであれば布団の中でぐっすり眠っているか死んだ眼でゲームをしているかのどちらかなのに……見れば、そこらに乱雑に脱ぎ捨てられていた制服が無くなっている。

 

「……どういうことだ? エンプレス、永理の様子はどうだった?」

 

『……いつもと違い、朝六時に起きてラジオ体操を終えた後、三十分かけて目立つゴミを集めて捨て、歯を磨いて制服に着替えて部屋を出て行ってたかな。まるで真人間みたいで、少し不気味だったような』

 

『普通にしているだけで不気味がられるんですか、彼……普通に真人間になっただけだと思うんですけど』

 

 ヘル・ブランブルが苦笑気味に、エンプレスの言葉にツッコミを入れる。

 確かに、本来であればそれは喜ばしい事だ。だが、それにも順序というものがある。

 

「何のきっかけも無く変わられても怖いだけだ」

 

 人間、性格を取り繕うことはできても、そう簡単に変えられるものではない。

 三つ子の魂百までというように、根本は絶対に変わらないものだ。そして永理の場合、散らかし癖とものぐさなものはほぼ絶対に変わらないと断言できる。

 そもそもきっかけすら不明だ。別に「片付けが出来る男はモテる」とかいう特集でもあったのならば理解はできるのだが……。

 

『そういえば、月影さんの雰囲気がいつもと違ったような……』

 

『あー、それ私も思った。なんか、いつもより雰囲気が黒いというか、でもいつもより行動がまともだったような……朝からゲームとかしてなかったし』

 

 どちらかといえば朝からゲームというより朝までゲームという感じではある。

 というより基本朝までゲームをして、そのまま丸二日完徹でし続ける馬鹿である。朝からスナック菓子を貪り、ゲームテレビインターネットの三つで自己世界を回しているカウチポテトだ。

 なぜあれであんなにやせ細っているのか、女子生徒たちの間で物議が起こったりしている。

 

「……確かめてみるしかないか」

 

 万丈目が歯ブラシを口に突っ込んだ瞬間、遠くから授業開始のチャイムが鳴った。

 

 

 十代が目を覚ました時、膝辺りに重みを感じた。

 顔を上げてみてみると、丁度ツァンの寝顔があった。規則正しく、スースーとかわいらしい呼吸をしている。

 時計を見てみると、既に五時を過ぎていた。外はほんのりと夕焼みはじめており、暖かな光が、ベッドの傍に立てかけられている点滴装置と輸血パックを照らしている。

 今が今日が何日で、何時まで眠っていたのか分からない。服装も検診衣に着替えさせられており、七精門の鍵もどこに置いてあるのか分からない。

 セブンスターズのアムナエルには勝てた。彼が燃え尽きで行き、何か言っていたのは覚えている。だが、十代は肝心の内容を思い出せないでいた。

 ひとまずは状況確認をしておかなければならない。十代は、起き上がる為に、自分の膝で寝ているツァンをゆすり起こす。

 

「ん……十代……? もう少し寝かせ━━って、十代!?」

 

 ツァンががばっと飛び起き、信じられないかのように目を丸くしたかと思うと、勢いよく十代を抱きしめた。

 

「バカッ! バカバカバカバカッ! なんでこんな無茶したのさ!」

 

「まっ、待てツァン、おっおちっ落ち着け!!」

 

 十代とてどこにでもいるごく普通の思春期男子である。それが巨乳で、しかも可愛くていい匂いのする女の子に抱きしめられたら……そりゃあもうたまらんくなるであろう。

 とはいえ十代、股間ではなく頭で考えるタイプの人間である。スケベ心はあるものの、理性が勝る人間であった。

 

「相変わらずだな、十代」

 

 保健室の出入り口から呆れた声が聞こえた瞬間、ツァンは十代から離れ、わざとらしく口笛を吹く。

 そのように取り繕っても既に見られているのだが、流石にくっつかれているのを見られ続けるのは彼女も恥ずかしいのだろう。十代としては、正直生殺し生き地獄だったので素直にありがたかった。

 十代に声をかけてきたのは、三沢だった。手には二リットルペットボトルのポカリスエットと、購買で買ってきたのだろう、表紙にブラマジガールが印刷されているチョコレート菓子。

 明らかに得点のシール目当てなのは明白だ。

 

「鮎川先生の話では目覚めるのに最低三日はかかるという話だったんだが……」

 

「ふーん……そんなにヤバい状態だったのか?」

 

「まあ、死にはしないだろうが……最悪、脳に障害が残る可能性がある、とはいわれたな。どうだ、なにか違和感があったりはしないか?」

 

 十代は手をグッパーと動かしたり、身体を起こして腰をひねってみたりしたが、特に違和感は無い。壁に貼り付けられていた手洗いうがいのポスターも問題なく読めた。

 

「特にないぞ」

 

「なるほど……目覚めたのはさっきか?」

 

「ああ」

 

「ふむ……」

 

 三沢は顎に手を当て考える仕草をする。どうも、容態を確かめに来ただけではなさそうだ。

 三沢はツァンの隣に座ると、手に持っていたチョコレート菓子の箱を開けて中のシールを確かめる。そして、ウエハースに挟まれたチョコを半分にして十代とツァンへと渡した。

 

「食べないの?」

 

「目的はおまけの方だからね、正直もう食べたくない。……それよりも、だ。ツァン・ディレ君、君に一つ二つ聞きたいことがある?」

 

「聞きたいこと?」

 

 ツァンが首をかしげる。三沢はシールを『売却用』と書かれたクリアファイルに保存した。十代がそれを横目見ると、当てたシールはブラック・マジシャン・ガールのようだ。オークションで出せば数万円の値が付くことだろう。

 

「永理君を見なかったかい?」

 

「永理って……あの三馬鹿の一人の? いや、見てないけど……でもボク、ずっといた訳じゃないし。明日香にちょっと聞いてみようか?」

 

「ああ、頼むよ」

 

 ちなみに三馬鹿とは永理、三沢、亮の三人組の総称である。少し前までカイザー亮とか言われていたのに、今となってはバカイザー亮で通じるようになってしまっている。

 まあ地が出始めたということなので、悪いことばかりではない。むしろ今が一番生き生きしていると巷で評判だ。……百年の恋も冷めたという者も多いが。

 

「しっかし、今日は静かだな……ハネクリボーの姿もブラマジガールの姿も無いし」

 

「ん? ……十代、君は何が見えているんだ?」

 

「……いや、何でもない」

 

 三沢は十代の独り言に、怪訝そうな顔をする。

 三沢は精霊の見えない人間である。十代は普段見えている人間で、その周りも精霊が見えている人間ばかりだったので、うっかりそれが当たり前のようになっていたようだ。

 とはいえ、今日はいやに静かだ。聴覚的にもであるが、何より視界に精霊の姿が全く見えない。普段は姿だけは見えている、というのが普通だったというのに……。

 異常といえば異常であるが、普通の人間にとっては正常なのでなんとも言えないものだ。

 

「あっ、返信来たよ。えっと……『永理君みたいな後ろ姿を見たかもしれない。少なくとも会話はしていない』だってさ」

 

「会話はしていない……何かこう、見舞いの品とかは置いてなかったのか聞いてみてくれ」

 

「うん、分かった」

 

 ツァンが明日香へ、三沢からの質問を送ると、すぐに返事が返ってきた。

 ツァンはそれを三沢に見せる。

 

「無かった、か……」

 

「なあ三沢、なんでそこまで永理について聞いてくるんだ? ……何かあったのか」

 

「あった、と言えばあった。まず最初の異常から話そう」

 

 三沢は、ついでに持ってきていた紙コップを三つ取り出し、それにポカリを注ぎながら説明する。

 

「まず一つ、アカデミアのデータベースに記載されている筈の、永理のデュエル履歴が無いという点だ」

 

「……ただ単にセブンスターズがいなかっただけじゃないのか? セブンって言うくらいだから、俺が倒したアムナエルで最後の筈だけど」

 

「そう、確かにそうだ。では二つ目の異常だ。これを見てくれ」

 

 そう言って三沢が取り出したのは、このデュエルアカデミア全土の衛星写真だった。ところどころ転々と青く塗りつぶされている箇所がある。

 

「どこでデュエルが行われたか、デュエルによるエネルギーゲインを可視化させたもの……だそうだ。で、十代がデュエルをしたのはここだな」

 

 三沢が指さした箇所は廃寮、十代がアムナエルと死闘を繰り広げた場所だ。そこは他の箇所よりもかなり濃く塗られている。

 なぜ一介の高校生にすぎない三沢がこんな紙を持っているのかははなはだ疑問だが……。とはいえ、それは今の話の本題ではないので、あえてツッコみを入れない。

 

「で、次に万丈目がいた場所が……ここら辺だったか?」

 

 三沢は、何も塗られていない、火山の近くを指さす。

 確かに分担した時、万丈目はそこで待ちぼうけを食らったのだ。十代も、確か万丈目はそこだったかな? とそこそこうろ覚えではあるが、とりあえず頷いておく。

 

「で、永理のいた場所━━つまり森だが、見てくれ」

 

 見ると、そこは明らかに異常だった。一面に緑の広がる紙上の森は、まるでインクをぶちまけたかのように真っ黒に塗りつぶされていた。

 まるで悪意が加色化されたかのように。

 

「なんだこれ……」

 

「さあな。俺にも分からん……というより、どうもこれを社員が確認したところで、海馬コーポレーションの衛星に急遽点検が入ったとかなんとか」

 

「……いやなんでそんなのを学生が持ってるんだ!?」

 

「十代、これ普通に閲覧できるものだよ?」

 

 ツァンの思わぬ指摘に、十代は「マジか……」と愕然とする。

 確かに、超技術だ。しかも何の用途に使うのかすらわからない技術だ。それが一般公開されていたとしても、あまりにマイナーだと誰も認知しないだろう。

 まあ、ただ単に十代がネットに詳しくない、というのもあるだろうが。

 

「まあそれは置いといて、だ。これが昨夜、突如として起こった謎の事象。俺はこれに永理が関わっているんじゃないかと睨んでいる」

 

「睨んでいるって、何を根拠に……」

 

「勘だ」

 

「勘て……」

 

 理論的な三沢にしては似合わない言葉だ。

 だが、三沢自身もそう説明するしか無い。何せ、プログラムされていない突然現象が起こってしまったのだから。

 

「で、……クロノス教諭から聞いた話だと、明け方に十代にお見舞いに来たのは永理との話だ」

 

「……まあ、随分と早い時間ではあるけどよ。でも偶然朝に起きてってのもあり得るだろ……」

 

「いいやあり得ない、絶対にあり得ない。あいつは零時回ったら徹夜でゲームして昼までぶっ通しで続けるタイプの人間だし、もし仮に見舞いに行ったとしても━━十代が重症を負ったという情報が出る前の話だ」

 

 十代は、三沢の言葉にハッとした。言われてみれば、そうである。

 ただの、一介の高校生に過ぎない永理がなぜ、誰よりも早く情報を手に入れ、十代のところにたどり着けるのだろうか。

 最初から『十代が入院するほどの怪我を負う』ということを知っていなければ、あり得ない動きだ。

 

「最後にだが、実をいうと永理とすれ違った━━あれが本当に永理かは分からんが、まあその時から、だ。無いんだよ、七精門の鍵が」

 

「無いって……それヤバいじゃねぇか!?」

 

「多分だが十代、お前の所持していたものも無くなっていると思う。お前の来ていた服はどこだ?」

 

「えっと、多分だけど処分しちゃってるんじゃないかな? でも制服の中に入っていた物なら、ここにあるよ」

 

 そういってツァンが指さした籠には、PDAや財布一式と寮の鍵が入っていた。

 だが、そこに七精門の鍵は見当たらない。

 もし三沢の話が本当なのであれば……犯人は、十代の見舞いに最初に来た永理以外考えられない。

 

「どこかに落としたとかは?」

 

 ツァンの言葉に、三沢は苦々しく笑う。

 

「残念だけど、しっかりと落とさないように首にかけていた……筈なんだけどね」

 

「首にかけていてスられるんだ……でもそれ、本当に月影君なの?」

 

「どういうことかな、ツンデレ君?」

 

 ツァンは永理の印象を思い出しながら、ぽつぽつと語る。

 永理の印象を。

 

「まず、月影君がそこまで器用そうには見えないんだよね。首にかけられたその……なんたら門の鍵を盗むなんて芸当。ほら、いつも月影君猫背でしょ? あの状態だと、まず三沢君の首の鍵に手が届く前に気づくと思う……あとツンデレ君はやめて」

 

 そう、確かにツァンの言う通り、普段の永理はかなり猫背だ。それはもう、身長が三十センチ変わるくらいには。

 その状態で気づかれずに首のペンダントを盗む、なんてのは盗みの達人でも難しいことだろう。というより、幾ら盗みの達人でも不可能だ。

 

「確かに、かなり背筋真っすぐだったような……」

 

 三人が七精門の鍵を盗んだ犯人について考察していると、不意に十代のPDAに着信が入った。

 ツァンがそれを籠から取り出すと、十代に手渡す。

 相手は万丈目のようだ。

 

『やはり起きていたか……馬鹿は死なないとはよく言ったものだ』

 

「何の用だ? 嫌味言いたいだけなら切るぞ、俺腹減ってんだよ」

 

『ふん、その程度後でガールフレンドにでも集れば良かろう。それよりもだ、外を見てみろ』

 

 万丈目に促され、十代はフラフラと立ち上がる。ツァンに支えられながら窓へと近づき、覗き込んでみると、目を見開いた。

 そこには、異様な光景が広がっていた。

 まるで闇のように黒い竜巻が、天高くそびえたっていたのだ。しかも不気味なことに、空には雲一つ無い。まるでちゃちな合成のように竜巻だけが、そこにはあった。

 

「なんだ……これ……」

 

『驚いたか。ガキでも分かる異常気象のお手本みたいなものだな。その竜巻は膨大なデュエルエナジーを━━』

 

「シャークネードでも来たのかこれ!?」

 

『なんでそこでそれが出てくる!? 事態を把握してないのか貴様は!?』

 

 十代の口から出た言葉に、PDA越しの万丈目は思わずツッコむ。

 確かに、ワールドタイフーン辺りで見たような気がしないでもない光景だ。これでデュエルアカデミアのドームが分離してファンネルのように動き始めたら完璧である。

 

『全く……あの馬鹿の影響が出始めたのか? まあいい。とにかく、その竜巻の方向に膨大なエネルギー反応が起こっている。俺は確かめに向かうが、十代、貴様はどうする?』

 

 デュエルエナジー……三幻神やそれに連なる特別なカードや、凄まじいデュエリスト同士のデュエルで発生する謎のエネルギーである。

 これを利用することによって半永久的にエネルギーを生み出す『モーメント』という、デュエルエナジー式エネルギー生成装置を学会に提出し見事受け入れられている。それほどまでに、デュエルエナジーというのは強大な力を秘めたエネルギーなのだ。

 

『病み上がりなんだから、寝てても良いんだぞ?』

 

 万丈目の一言に、十代はニヤリと笑いながら答える。

 

「当然、行くに決まってるだろ! こんな楽しそうな状況、眠る時間すら勿体ない!」

 

『フッ、遅れるなよ』

 

 そう言って万丈目は通話を切った。

 デュエルディスクを取ろうとベッドの方へ戻ろうとすると、ツァンがその服を掴んで止めた。

 

「……行かないで」

 

「止めないでくれよ、頼む」

 

 ツァンが目に涙を溜め、十代の背中を抱き止める。

 背中から、すすり泣く音が直接伝わる。

 心から心配しているのが、十代にも伝わってくる。三沢はどうでも良さそうに二杯目のポカリを飲んだ。

 

「なんで、なんで行くの。死んじゃうかもしれないんだよ?」

 

「ああ、死んじゃうかもな。多分、今度死にぞこなったら助からねぇかもな」

 

「十代、死にかけたばかりじゃん。なんで、そう、死にに行くの? あんなの、他の誰かにやらせれば、いいじゃん。十代、もう充分頑張った、じゃん」

 

「……なあ、ツァン。大丈夫、死んだって戻ってくる。だから━━」

 

 十代が振り向いた瞬間、頬に痛みが走る。

 ツァンに、ぶたれたのだ。

 

「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!! なんでこんなに心配してるのに分かってくれないの!? ボクは十代に死んでほしくないんだよ!? 傷だらけの十代を見てどれだけ辛かったか分かる!? もう、あんな思いするのはやだよ……」

 

 泣きじゃくるツァン。十代の無残な姿を見て、どのように感じたのか……それが十代にも、痛いほど伝わってくる。

 確かに、辛いかもしれない。……いや永理の場合はなんかいつも通りな感じはするが、それ以外であれば、ツァン気持ちは少しは理解できる。

 十代はツァンの涙を指で拭うと、しっかりと目を合わせて断言した。

 

「大丈夫だツァン、俺は必ず生きて帰る! だから、その……応援して、待っててくれ!」

 

「……絶対?」

 

「ああ、絶対。五体満足で━━」

 

 そこで十代は、ツァンの口によって言葉を塞がれた。

 透明な橋がぷつんと切れ、呆然とする十代に、ツァンは悲し気な笑みを浮かべながら言う。

 

「死んだら斬るから、絶対に戻ってきてよ」

 

「……あっ、ああ!」

 

 十代はツァンの言葉に頷くと、デュエルディスクと制服の上着だけを持って保健室を出ていった。

 その背中を見送り、姿が見えなくなったところでツァンはへなへなと、顔を真っ赤にして床へと座り込んだ。

 そして顔を両手で覆ってゴロゴロと、お世辞にも綺麗とはいいがたい保健室の床を転げまわる。

 

「ううっ……恥ずかしい! なにこれめっちゃ恥ずかしい!! ボクこんなキャラじゃないのに……てか十代ビンタしちゃった、謝らなきゃ……うう、なんでこんなことしちゃったのボク……あああああうううああああああ!!!!」

 

「うん、感動的だったぞ。青春だったな……おめでとう、ツァン・ディレ。というよりもはやデレデレ」

 

 ツァンの動きが固まった。

 そう、ここにはもう一人━━十代とツァン本人以外、もう一人いたのだ。

 そしてその、目立たない狂気のロリコン野郎は、足を組んでどうでも良さそうな顔でポカリを飲んでいた。ちらりとツァンに視線を送ると、グッと親指を立てた。

 

「うっ……」

 

「ん?」

 

「うわああああああああああっ!!!!」

 

 ツァン・ディレは逃げ出した!




 バーチャルYouTuberを知っているか、俺の中で流行っている……。
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