世界が終わるとしたら、このような光景が巻き起こるのだろう。そう感じずにはいられない現象が、十代の目の前で巻き起こっている。
切り立った崖から伸びる黒い光は渦を描き、青く綺麗な空を黒く侵している。
遠くから見れば、サメを巻き込んだ黒い竜巻のようだ。
この世の悪意全てを組み込んだような光の塔の前、永理らしき人物が立っていた。
天高く掲げる右手には、七精門の鍵が七つ。足下には五芒星のなり損ないみたいなものの中心に、火のような模様が記されたシンボルの付いたスーツケースが転がっている。
「永理! お前抜け駆けはずるいぞお前!!」
「……いや待て、様子がおかしい。亮スティ、スティ」
抜け駆けで願いを叶えようとしている永理に、獰猛な犬ばりに噛みついていく亮。万丈目がそれを収める姿を見て、どこまでもシリアスになれねぇなーと十代はため息をついた。
だが、確かに様子がおかしい。永理は馬鹿であるが、抜け駆けをするような人間では無かった――多分無かった筈だ。
それに何より、猫背でない。永理は普段、異常と言えるほど猫背だというのに、今は背筋真っ直ぐ。しかも服もきちんとしわ一つ無く整えられている。平気で三日くらい使い回す永理では、とても考えられない状態だ。
明らかに不自然な永理らしきものが、三人の喧噪を聴き、振り返った。
「来たか、鍵に選ばれしデュエリスト達……よ……?」
そして、三人の姿を見て表情が固まった。
「……き、貴様ら……他のデュエリストはどうしたのだ? 鍵の守護者だけで我に挑むにしても、一人足りないのではないか?」
「『全世界の幼女を俺のカキタレにしたら陵辱出来ねぇ!!』と結論が出て、願いを叶える権利を俺に譲ってくれたのさ!」
「せっ、世界の命運がかかっているのに……なんたる緊張感の無さ……」
永理らしきものが嘆く。
その点に関しては、十代も同意だ。何せ今回集まったメンバー三人のうち、一人は自らのメカ幼女ハーレムを作る為、もう一人がただ単に楽しいデュエルをしたい為、だ。
正直世界の命運とかどうでも良いと思っている奴しかいないのだ。残念ながら。
「それで、貴様は何者だ?」
「……酷いな万丈目、どこからどう見ても月影永理じゃないか」
「貴様が永理なものか。奴がそんな背筋真っ直ぐなわけないし眼に希望の光も宿ってないしそもそもアングラ的暗さが足りん。ふざけているのか貴様」
「あれっお前友人だよな? 永理と友人だよな?」
あまりにもボロクソな物言いに、思わずツッコミを入れる永理らしきもの。
一応万丈目は永理と友人ではあるが、万丈目から見た永理の評価そのものだった。歯に衣着せぬ言葉ではあるが、正鵠を射ていた。
永理らしきものは仕切り直しとばかりに咳払いし、己が名を語る。
「……我が名がネフレン=カ、偉大なる暗黒のファラオ。貴様ら現代人も名前くらいは聞いたことがあるだろう」
「いや全然知らね、万丈目知ってるか?」
「俺に振るな。……俺も知らん、第一聞いたこともない」
「PDAで調べても全然出てこないな。あれだろ、自分のことをファラオだと思い込んでいる一般人だったなにかだろ」
「貴様ら殺す絶対殺す」
永理……ネフレン=カが足下のスーツケースを蹴ると、スーツケースが開き三枚のカードが宙に浮かぶ。
黒い光が霧散し、赤・黄色・青の光がカードへと吸い込まれる。
「……完全復活させるには魂が足りなかったところだ」
空中に浮いていた三枚のカードがネフレン=カの掲げるデッキへと重なる。
そして、なんとも不思議なことに、まるでデッキ自身が意思を持つかのように空中でシャッフルされ、ネフレン=カのデュエルディスクへと収まった。
「貴様らの魂で、帳尻合わせするとしよう」
目を黒く変色させ、悪魔が嗤った。
「十代、亮。貴様らはそこで眺めておけ。こいつの相手は俺がやる」
「ふん、抜け駆けする気か。メカ幼女を手に入れられるのはこれが最後のチャンス!」
「……なあお前ら、少しは世界のこととか気にかけたりは━━」
「「知らん!!」」
十代の発した言葉を遮るように断言する二人。
十代はため息をつき、デュエルディスクを起動させる。
「三人纏めて来い、分けて相手するのも手間だ」
「チッ、余計なおまけ共が……」
「メカ幼女……メカ幼女……」
「……大丈夫かこれ」
「「「「デュエル!!」」」」」
三人闘志に燃え、一人はこれから先の展開に少し不安を感じながら、デュエルを開始した。
「三対一のハンデということで、先攻は我がもらう。ドロー!
我はカードを一枚セットし、ターンエンド!」
三対一のバトルロイヤルルールにおいて、ハンデはいくつかある。
一つは、相手分のライフの合計値を自分のライフとするもの。一つは、相手の手札の数の合計値を自分の初期手札とするもの。そして最後が先攻を取るというものだ。
先攻というのはバトルロイヤルにおいて最初に攻撃が許されるターンである。が、かといってそれが、絶対に有利になるという保証もない。三つあるハンデの中で一番得をしないのが、先攻であるといっても過言ではない。
ではなぜ、ネフレン=カがあえてそれを取ったのか。それはひとえに自己満足である。
「ライフを12000にしなくて良かったのか?」
「ふん、それを万丈目が言うか……然り、神である我には、この程度のハンデで十分よ!」
傲慢にも、実力者相手にそう言ってのけるエジプトの王。
これがただの無謀であるか、それとも策があっての行いか。どちらにせよ、やることは変わらない。
ただデュエルで勝利するのみ。
「ドロー! 手札から魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札のモンスターカード、超電磁タートルを墓地へ送り、デッキからサイバー・ドラゴン・ヘルツを特殊召喚!」
亮の場に現れたのは、バチバチとショートするコードをウジ虫のように動かす、小さな機械の竜だった。
球体が繋がったような身体には青く光る五画の模様が記されており、青く鈍く光っている。
「更に魔法カード、機械複製術を発動! このカードは攻撃力500以下のモンスターを対象に発動出来るカード! そして同名という縛りであれば、特殊召喚するモンスター自体の合計力は問題ではない! サイバー・ドラゴン・ヘルツは場でサイバー・ドラゴンとして扱うのでな、デッキから二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚する!」
現れる二体の機械の竜。亮の、サイバー流の代名詞ともいえるカード達。
「そして魔法カード融合! 場のサイバー・ドラゴン三体を融合し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚する!」
機械でできた鉄の翼をはためかせ現れる、三つ首の竜。胸と羽根のオーブにはバチバチと動力源の電気がはじけており、三匹分の身体は凄まじい威圧感を齎している。
「サイバー・ドラゴン・ヘルツの効果発動! このカードが墓地へ送られたとき、自分のデッキ・墓地からサイバー・ドラゴンを手札に加えることができる! 俺はデッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える! さらにカードをセットしターンエンドだ!」
様子見としては過剰な攻撃力のモンスター。ネフレン=カの表情も少しひきつっている。
とはいえ、サイバー流を極めた人間であれば、この程度は当然に出せるというもの。伊達に師匠越えはしていない。
「俺のターン、ドロー!
モンスターをセット、カードをセットしターンエンドだ!」
万丈目は手早くターンを終わらせる。
相手の動きが不可解だ。何を考えているのか、全くさっぱり分からない。
だからこそ、ここは堅実に動く。相手は雑魚とは違う、厄介な馬鹿に得体のしれないなにかの融合体だ。どんなデッキだか予想はつかない。
ネフレン=カは前二人と違い静かな動きに、内心ホッとする。万丈目まで一ターン目からドデカいモンスターやコンボ、墓地肥やしをしてきたら流石に心情的にヤバかった。
「俺のターン、ドロー!
魔法カード、融合を発動! 手札のフェザーマンと、バーストレディを融合! E・HEROフェニックスガイを守備表示で融合召喚!」
バーストレディとフェザーマンが混ざり合い現れたのは、白い羽根とドラゴンを思わせるような赤黒いぴっりちスーツを着た、筋肉ムキムキの男だ。
デュエルモンスターズにおいても珍しい、同じ融合素材を使うのに、違う融合召喚モンスターだ。
効果は戦闘破壊耐性。正直言うと始祖竜ワイアームを使った方が良いのだが、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力を上げる素材にする為にも、これが丁度いい。
「カードガンナーを召喚し、こいつを対象に魔法カード機械複製術を発動。同名カードをデッキから二体特殊召喚する! カードガンナー三体の効果を発動! デッキトップから合計九枚を墓地へ送り、攻撃力をアップさせる! カードを一枚セットしターンエンド!」
フェニックスガイの隣に現れる、ブリキの戦車。カタカタと揺れながらネフレン=カに狙いを定めるさまは見ていて少し不安だが、こいつの仕事は決して戦闘ではない。
墓地肥やしとカードドローの為の道具。このカードの真価はそれだ。
「……ハンデ、マズったかな。いや大丈夫、ネフレン=カよ自分を信じろ。我は神を束ねる邪悪なファラオ、いけるいける。ドロー!
相手の場にのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる! 現れよ、太陽の神官! さらに赤蟻アスカトルを召喚!」
ネフレン=カが出したのは、頭に大きな羽根を二つ付け、首に太陽を模した首飾りを下げた男だった。民族衣装を纏い、手には不気味なほど白い羽根の付いた杖を持っている。
その隣には、血を思わせるほど全身が赤い巨大な蟻。ギチギチと顎を鳴らしている。
最初のターン、モンスターを出さなかったのはこれが理由なようだ。
「レベル3赤蟻アスカトルに、レベル5太陽の神官をチューニング! 冥府の月登るとき、
光の塔から現れたのは、顔の付いた巨大な太陽だ。
ソリッドビジョンだというのに、肌が焼けるようにチリチリと痛む。
その背後から、まるで水をかけられたハリガネムシのように四頭の赤い鱗の龍が現れる。
二人は、出されたモンスターを見て……否、召喚方法を見て目を大きく開き、驚愕していた。
初めに、口を開いたのは十代だった。
「シンクロ召喚……あの永理が」
「まさか、どれだけカードを買ってもシンクロモンスターが出ないことでぼやき、諦めて趣味に金をつぎ込んでいた永理がシンクロ召喚とは……」
「ふん、これでようやく、俺達とデッキ状況は同じになっただけだ。驚くことでもないだろう」
「然り、この程度で驚かれては困るぞ! 永続魔法、生還の宝札を発動! 永続罠発動、リミット・リバース! 墓地から攻撃力1000以下のモンスター、太陽の神官を攻撃表示で特殊召喚! 宝札の効果! 墓地から自分のモンスターの特殊召喚に成功した時、カードを三枚ドローする! 魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札の暗黒の召喚神を墓地へ送り、デッキからスーパイを特殊召喚!」
太陽の神官の顔に被さるように現れたのは、巨大な日本の角が生えた木製の仮面だ。口元には笑みを浮かべており、真っ青に塗られた瞳が不気味に輝いている。
太陽の神官は、それを外そうともしない。ただ不気味に、それを被って佇んでいる。
「レベル5太陽の神官に、レベル1スーパイをチューニング!
冥府の
新たに登ったのは、顔の付いた月だ。それの背後から、這い出てくるように青い龍が現れる。
攻撃力3000と攻撃力2500のモンスター……操られてなお、否、操られて更に、永理のデュエルタクティクスに磨きがかかっている。
だが、これだけ出したとしても、攻撃力4000のモンスターという巨大な壁が聳え立っている。ネフレン・カはそれを凝視し、ニヤリと笑みを浮かべた。
「バトルだ!」
バトルフェイズの宣言を聞き、万丈目はいつでも罠カードを発動できるように身構える。
狙うのならば、どのようなモンスターか確定していないが、唯一、特別な効果が無くても破壊可能な可能性がある万丈目に攻撃が行くと、この場にいる誰もが考えていた。
「太陽龍インティでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」
「ダメージ覚悟で攻撃するだと!? 一体何を隠しているかは分からんが、迎え撃て!」
「メテオレッド・サン!!」
インティが口を開き炎を放とうとするも、それより前に三つ首の機械龍の口から放たれたプラズマ砲によって、インティの頭が消し飛んだ。
感覚はすべて共有していたのだろう、最後に残った一匹はあまりの痛みに口を閉じ、自らの炎を暴発させ頭を吹っ飛ばしてしまう。
更にサイバー・エンドはダメ押しとばかりに、太陽にプラズマ砲をそれぞれ数発ずつ撃ち込んだ。
「さて、鬼が出るか……」
「……太陽龍インティの効果」
プラズマ砲で撃ち抜かれたインティの、貫かれた箇所から光が漏れ出てくる。
やがて太陽が膨張したかと思うと、内側から巻き上がるように炎が、まるで蛇のようにサイバー・エンドに襲い掛かった。
炎はサイバー・エンドを容易く包み込む。が、別に装甲が溶ける訳でもない。ただ、全身がショートしたかのように漏電し、内側からドリルで抉られたかのように不気味な動きをしたかと思うと、バラバラになり、亮に対し崩れ落ちてきた。
「ぐああああっ!!」
「太陽龍インティが戦闘によって破壊され墓地へ送られたとき、こいつを破壊したモンスターを破壊し、そのモンスターの攻撃力の半分ダメージを与える。さあ、まずは一匹! 月影龍クイラで貴様に直接攻撃! ブルームーン・レイ!」
ネフレン=カは無慈悲に、トドメの一撃を命じる。この攻撃が決まれば、完全に亮のライフは尽きてしまう。
そしてこれは闇のデュエル、生命を失った者がどうなるかは誰もが知るところ……。
「亮!」
「慌てるな万丈目、二撃目は食らわん! 永続罠、リビングデッドの呼び声を発動する! 俺は墓地から、サイバー・エンド・ドラゴンを蘇生!! そうそう同じ効果は持っていない筈……さあ来い、化け物!!」
亮の場に再び現れる三つ首の鉄龍。最高打点の攻撃力ではあるが、もしクイラがインティと同じ効果を持っていたら、亮の負けがそこで決まる。
サイバー・エンド・ドラゴンは高い攻撃力を持つが、それだけのモンスター。様子見には最適だ。
「チッ、カードを二枚セットしてターンエンドだ」
「ふん、なるほど……俺のターン、ドロー!
永理よりデッキの総合火力はあるようだが……度肝を抜かれるようなプレイングではない、か。同時に召喚したということはつまり、同じ場に並べることで効果を発揮するモンスターだ、違うか?」
亮の言葉に、ネフレン=カは一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をした。
亮の推察は当たっていたようだ。瞬時に表情を戻すのは流石の勝負師と言えるだろうが、表情が表に出た時点で、デュエリストはすべてを察してしまう。
亮は嬉々として、攻撃を宣言する。どのような効果を秘めていようと、数を減らすのが先だ。
「魔法カード、死者蘇生を発動。墓地からサイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚! バトルだ、サイバー・エンド・ドラゴンで月影龍クイラを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!!」
亮のサイバー・エンドが口から吐き出したプラズマ砲が三つ一束、クイラに向かって迫る。
クイラは咄嗟に四つの首から、透き通るような青い光線を放つが、攻撃力の差は歴然。当然敵うはずもなく散ってしまう。
が、散ったはずの光がクイラの目前を包んだかと思うと、その光をも貫き、爆散した。
「永理を返してもらうぞ、サイバー・ドラゴンで貴様に直接━━」
「残念だが、直接攻撃は出来ない」
煙の中から、ネフレン・カが言葉を遮った。
強い海風が吹き、煙を吹き飛ばす。
すると、そこには。
「なっ、馬鹿な……!?」
破壊されたはずのインティが、ネフレン・カを悍ましく照らしていた。
それも、ネフレン・カのライフが回復している。たった500ではある……が、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を受けて、ライフを回復し、攻撃力3000のモンスターを蘇生させ、しかも手札も三枚増えているのだ。
「月影龍クイラは攻撃してきたモンスターの攻撃力の半分ライフを回復させる効果、破壊され墓地へ送られたときインティを蘇生させる効果を持っている……そして蘇生に成功したので、生還の宝札の効果でカードをドローした。君は本当に、読み通りに動いてくれる」
読まれていた……亮の思考が。
そう、フェイク。亮が指摘したときのあの表情、クイラの効果でライフを回復し、手札を一気に増やすための陽動……。
一般的にデュエルモンスターズにおいて、小手先のテクニックはあまり歓迎されない。真の実力者であるならば、そのようなものに頼らなくても結果を示せる筈だ。という認識がまかり通っている。これはひとえに、決闘王である武藤遊戯やそのライバル海馬瀬戸が、そのような小手先の技を使わず実力で這いあがってきたからだ。
だが、現実は違う。誰をもしのぐ実力を持って、小手先にすら手を広げる。勝利へ貪欲な者こそが、真の強者、一流の勝負師!
真に厄介なのは、実力を持った卑怯者なのだ。
「ペテン師め……カードをセットし、ターンエンドだ」
デュエリスト同士、表情の読み合いというのはかなり重要になってくるものだ。だが、ことネフレン・カに関しては全く当てにならない。
そもそも、デッキの全容がまだ見えていない。太陽龍に関してすら、未だ完全に能力を把握してすらいない。あれが蘇生能力を持つのか、それとも無いのかすら……。
「俺のターン、ドロー!
どう動くにせよ、まずは殴って確かめるしかないか……儀式魔法、高等儀式術を発動! このカードは儀式の供物をデッキの通常モンスターで代用できる儀式魔法! デッキからレベル4の通常モンスター、地獄の裁判二体を墓地へ送り、仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを儀式召喚!」
万丈目の場に現れる、恐竜のように太い二本足で立つ、上半身が人間の形になったモンスター。下半身についている大量のマスクがギョロギョロと動き、顔の無い頭に代わり、手にもっている杖が汚い笑い声をあげる。
攻撃力3200、本来であれば十分に通用する攻撃力を持つモンスター。だが、何の効果も持たないモンスターだ。当然、効果破壊耐性なんてものは持ち合わせていない。
「リバースモンスターオープン、ニュードリュア!」
全身が骨のように細い、赤い皮膚をした男が現れる。上半身裸で、だぼだぼのズボンをはいている。頭には目元を隠すヘルメットが巻かれており、髪はそれに割かれ、まるで蝙蝠の羽根を思わせる。
いわゆる地雷モンスター、破壊した瞬間相手のモンスターも持っていく効果を持つカードだ。
「さあバトルだ!」
万丈目のデッキは、最高打点が3000超えるモンスターが存在しないデッキである。
それゆえに、自らの役割が何であるかを理解していた。
情報収集、今重要なのは、未知なるモンスターの効果だ。これまでは戦闘破壊によって蘇生されてきた。であれば、効果破壊であればどうなるか?
「正体を現せ! ニュードリュアで太陽龍インティを攻撃!」
ニュードリュアは地を蹴り、頭を突き出しながらインティへと走る。
「ニュードリュア……確か面倒な効果を持っていたな。であれば! 罠カード発動、デストラクト・ポーション! 自分場のモンスター一体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけライフを回復する!」
インティが爆発したかと思うと、青色の煙がネフレン=カを包む。
自らのモンスターを破壊する罠を仕込んでいるということはつまり、効果破壊にも蘇生が対応しているということに他ならない。
万丈目は舌打ちする。クイラが蘇生してしまえば、ネフレン=カにダメージを与えることは不可能だ。それこそ、攻撃力5100以上のモンスターを出さなければ。
だが、太陽は登らない。代わりにネフレン=カは苦々しい表情をしている。
その光景を、状況処理を見て十代が叫んだ。
「そうか、即時蘇生効果を持つのはクイラだけ! インティを破壊した場合は蘇生にタイムラグが発生するのだな!」
「チィッ、面倒なガキが……」
「ふん、やはり隙があったか。ニュードリュアで直接攻撃!!」
ニュードリュアがネフレン=カに肉薄すると、肩を掴み思い切り頭突きを打ち込む。
頭の棘が顔を貫き、真っ黒な血を吹き出した。
びちゃびちゃと、身体を汚す。黒く染めていく。突き刺さった目玉がニュードリュアの棘から、ぼとりと落ちた。
「なっ、なんだ……これ……」
「まるでブラッドボーンの化け物だな」
あまりの光景にうろたえる十代と、冷静に、しかしどこかずれた感想を述べる亮。
万丈目はただ、ネフレン=カを凝視していた。否、目を逸らすことすらできなかったというべきか。逸らしてしまえば飲まれてしまう、浸食されてしまうという言い知れぬ恐怖が、視線を固定していた。
「くっ」
ネフレン=カが、血に濡れた声で声を発する。
「くっ、ははははは……あはははははは!! 万丈目……貴様言ったな、『貴様が永理なものか』と」
声が、一瞬ではあるが万丈目のものとなった。声真似とかそういう次元ではない、万丈目自身ですら一瞬、自分でしゃべったのかと錯覚するくらいだ。
永理が顔をドロドロに溶かしながら、言葉を垂れ落とす。
「永理なものか……こいつは半分正解だが、半分正解じゃない。『月影永理』という存在は元々、我自身だ」
「我自身……ネフレン=カ自身、だと? どういうことだ、さっぱり意味が分からん」
亮の言葉に、ネフレン=カはケタケタと嗤う。ドロドロに溶けた顔から眼玉や歯が落ち、その中から新たな永理の顔が現れる。
「亮、何も難しいことはないさ……我、ネフレン=カが、月影永理をこの世界に引きずり込み、この肉体を与えたのだ!!」
ネフレン=カの発した言葉に、一同は言葉を失った。
信じられないとでも言いたげに目を丸くする一同を見て、ネフレン=カはふふんと笑みを浮かべた。
十代なんかは驚きのあまりに、カードを落としそうになっている。亮も珍しく口を開けたまま驚いており、万丈目は口を押さえている。
ネフレン=カは三人の驚きように気分を良くしたのか、上機嫌に言葉をつづけた。
「もともと永理はこの世界の住人ではない。我と波長の合う死者の魂を探していた時に偶然こいつの魂を見つけ━━」
「……すまん、ちょ……ちょっといいか」
ネフレン=カの言葉を、万丈目が言葉を遮った。
驚きか、それとも恐怖のあまりか、声が震えている。
「なんだ、万丈目。永理の魂を手に入れた話を聞きたいのであれば黙って聞いておけ」
「いや……違うんだ……。お前にひとっ……一つだけ、言いたいことがあってだな」
万丈目は落ち着くように深呼吸を一つしてから、ネフレン=カに尋ねた。
「お前、部屋を掃除したよな」
「ああ、したな」
「なんで掃除なんてしたんだ?」
「いや誰でも汚い部屋は嫌だろ」
何言ってるんだこいつ、的な目で言葉を返され、十代は肩を震わせる。亮はしきりに太ももを叩いている。
万丈目は大きく深呼吸し、ネフレン=カに尋ねる。
「もう一つ、永理のあの力━━腕力とかその辺は、お前の影響か?」
「いいや、あいつ自身のものだ。我は一つたりとも手を下して……いや、少しだけ力を貸したが、あそこまで虚弱なのは本人のせいだ」
「……なるほど、んじゃ聞こう」
万丈目が何を言いたいのか、ネフレン=カには到底予想がつかなかった。
だが、これだけは、今のデュエルを放置してでも聞きたいことであった。デュエル馬鹿である万丈目でさえも。
「それならなんでお前、永理を選んだんだ」
デュエル全部完成してから投稿しよう思っていましたけど、それじゃいつまで経っても投稿できそうにないので投稿します。
……五話くらいで終わるかなー?
04/29見直してみたら、なんかターンの順番間違えていたので順番入れ替えました。