「なんで永理を選んだんだ」
万丈目の指摘は、それはもうえぐいくらいにネフレン=カに突き刺さった。クリティカル出るくらいに。
しばしの沈黙……やがて涙目になり、ネフレン・カが口を開く。
「……ないじゃん」
「……おっ、おい。ネフレン・カ?」
「仕方ないじゃん! 一番魂の波長合うのがこいつだったんだもん!! 俺もここまで弱いとは思わなかったし!! つーか普通器が大きければその分身体能力もあると思うじゃん!! こいつなんなの!? 小学四年生相手に腕相撲本気でやって負けるてなんなの!? 俺だって……波長さえ合わなけりゃ……なんでこいつが一番合うんだよ……なんでだよ……」
器の大きさとは、魂の可容範囲のことである。
器の小さい人間に、ネフレン・カのような巨大な魂を入れてしまえば、さながら水風船に過剰な水を入れてしまったかのように魂が破裂してしまい、結果的にどちらもが壊れてしまう。
そして器の大きさは、魂によって決まる。そして器の大きさは概ね肉体の強さ、精神の健全さの繋がるのだ。
……そう、『概ね』である。中には例外もいるのだ。
そのほかにも、魂の相性というものがある。魂の波長は、もう一つの魂の住み心地を完全左右すると言っても良いだろう。
そしてネフレン・カと波長がこれ以上ないくらいに合っていたのが……そう、珍しき例外、月影永理だったのだ。
「そもそもさこいつ何十回も死ぬしさ。なにこいつ、悲惨な過去でも作ろうっての? 全部自業自得で解決しちまってるし周りに恵まれてたからそんなん一個も無えよ! 中学時代とか三歳児より心配されてたわ! 聞いたことねーわ三歳児より心配になる中学生とか!? そもそも危ないところに近づくなよ! 落ちて撃たれて落雷直撃熊に襲われ自転車避けようとしたら車が接近一週間飲まず食わず徹夜でゲームしてゲロ喉に詰まらせて銃で撃たれて止まるんじゃねぇぞごっこ……せめて人助けろや! 全部自分だよ、全部自分の好奇心のせいだよ! つうか遊んでんじゃねぇよ死にかけてるくせに! 毎回毎回蘇らせるこっちの身にもなれや! 疲れるんだぞ!! ……もうやだ助けてニャル様」
「あー、なんか……ごめん」
「うちの永理が迷惑かけてしまって本当すみません」
あまりに凄い気迫で永理への恨みつらみを一気に激しく羅列したものだから、万丈目と十代は思わず謝罪してしまった。
当然であろう、聞いててものすごい大変だったんだなというのが、これ以上無いってくらいに直に伝わってきたのだから。
「……すまん、続きやってもいいか」
「あー、いやなんか、こっちこそすまん。なんか愚痴聞いてもらう感じになって……」
なんかもう、世界の命運とか微妙な空気になっているが、とりあえずは続けなければならない。
万丈目としても、ぶっちゃけやる気がかなり削がれたのだが……まあやることないし世界救うか、的な感じで続けようと思った。
「ヘルレイザーで直接攻撃」
まあ若干投げやりな言い方になってしまうのは仕方ないといえるだろう。
ヘルレイザーの杖に真っ黒なエネルギーが集結したかと思うと、こぶし大の大きさになったところでネフレン=カの胸を貫く。
が、全く動じず、貫通した箇所から流れる真っ黒な血液を垂れ流しながら、自身を落ち着かせる為に深呼吸をしていた。
「カードをセットしてターンエンドだ。よし十代、終わらせてやれ。この悲しい戦争を……」
「いや万丈目? お前思い切り永理攻撃してるけどさ、ちゃんとあいつ救うつもりある?」
「無い、なんか永理よりネフレン=カの方に情が湧いてきた。というかもういいんじゃないか? あいつの方が綺麗好きだし色々と授業とか真面目に出そうだし夜中にゲームとかやらなそうだし……」
「俺がいるぞ万丈目ェ!」
「亮てめぇは自分の部屋でやれやァ!!」
万丈目、心からの叫び。全くの寸分の隙も無いくらいの正論である。
だが当然、それが亮に届くはずもない。届いていたら、三馬鹿と纏められることも無かっただろう。永理と同じ馬鹿である。
「……やりにくいなぁ、ドロー!」
「スタンバイフェイズ、太陽龍インティの効果発動! 墓地の月影龍クイラを特殊召喚する! 我はクイラを守備表示で特殊召喚!」
先ほどの愚痴をかき消すような大声で、ネフレン=カは処理をする。
地面から青い龍の頭が四つ現れ、それに引き上げられるように顔の付いた月も登る。
クイラを破壊した際は、次のスタンバイフェイズまで蘇生に時間がかかる。万丈目が与えた情報アドバンテージ、決して無駄には出来ない。
「罠カード、ハイレート・ドロー! 自分場の機械族をすべて破壊し、破壊され墓地へ送られた機械族モンスターの数だけカードをドローする! 俺の場にいる機械族はカードガンナー三体、よって三枚ドロー! 更にカードガンナーが破壊され墓地へ送られたとき、カードを一枚ドローする! 三枚ドロー! 魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のカードガンナー三体と、フェザーマン、デブリ・ドラゴンをデッキに戻し、カードを二枚ドローする! デブリ・ドラゴンを召喚! 効果により墓地の攻撃力500以下のモンスター、沼地の魔神王を守備表示で特殊召喚する!」
十代の場に現れる、痩せぎすなドラゴンと、全身を藻に覆われた男。
十代の定積コンボ。だが、ただ破壊するだけでは駄目なのだ。
「レベル3沼地の魔神王に、レベル4のデブリ・ドラゴンをチューニング!
氷結界に封じられし暴力の龍よ、その力で我が敵を氷像に代え力を示せ! シンクロ召喚! 現れろ、氷結界龍グングニール!!」
十代の最も信頼するシンクロモンスター。氷の暴虐龍が、羽を広げ氷片をまき散らし咆哮する。
効果は強力、だがこれではまだ足りない。グングニールの効果は一ターンに一度という制限がある。
ならばどうするか、どのようにしてダメージを与えるのか。答えは万丈目が導き出してくれた。
「グングニールの効果発動! 手札を捨てることで、捨てた枚数分相手のカードを破壊する! 俺は手札を二枚捨て、月影龍クイラと生還の宝札を破壊!」
グングニールが翼を広げ、身も凍るような冷気を放つ。
冷気に当てられたクイラは生還の宝札共々凍り付き粉々に砕け散るが、すぐにまた太陽が昇った。
「ふむ、で? 我の場には攻撃力3000の太陽龍インティが存在する、君のグングニールではダメージを与えることは不可能では━━」
「そいつはどうかな? 墓地から罠カード、スキル・サクセサーを除外し効果発動! このカードは墓地から除外することで、自分場のモンスター一体の攻撃力を800ポイントアップさせる! グングニールの攻撃力に800ポイントプラスして、攻撃力は3300!!」
亮がライフを削り、万丈目が活路を開いた。
あの厄介なモンスターへの考察はすべて揃っている。相手の残りライフは2100、今と同じ状況を創り出すのは難しい。
故に、ここで決めなければならない。奴を倒せば永理が元に戻るのかは未知数だが、倒さなければ世界は暗雲に飲み込まれてしまう。
「バトルだ! グングニールで太陽龍インティを攻撃!」
グングニールが冷気を口に凝縮させ、冷気の塊を放つ。インティは四つの首から炎を吐くが、冷気の塊に触れた瞬間炎が凍る。
なんとか落とそうと炎を吐き続けるも間に合わず、四つの龍の口が凍り付いてしまう。そのままグングニールは空中に巨大な氷柱を作り出し、太陽を貫いた。
貫かれた箇所が一瞬ひび割れたかと思うと、まるで悪鬼羅刹の百鬼夜行のように炎がグングニールへと迫り、その姿を飲み込んでいった。
その炎はグングニールだけでは飽き足らず、その背後にいる十代にまでも襲い掛かる
「ぐっ、があああああああっ!!」
「インティの効果によりグングニールを破壊し、グングニールの攻撃力の半分ダメージを受けてもらう!」
「はあ、ぜはっ……だが、これでお前の場はがら空き……フェニックスガイで直接攻撃!! これで終わりだ!!」
フェニックスガイがネフレン=カに肉薄し、右腕の鍵爪を思い切り突き立てる。
肉が抉れたのを感触で確認すると、腕をねじり振り上げた。抉られた肉が空を舞う……かと思いきや、代わりに舞ったのは茶色い毛だった。
「手札からクリボーを捨て、戦闘ダメージを0にした。ここで終わらせると思ったか?」
ネフレン=カの馬鹿にしたような笑い声と共に、クリボーの姿が消える。
ここで仕留められなかったのはかなり大きな痛手だ。だが、ライフは着実に削れている。それに、手札補充の要であろう生還の宝札を破壊できたのも大きい。
当然、ネフレン=カのデッキに一枚しか入っていないとは限らないが。
「カードを四枚セットしてターンエンド」
「おお怖い怖い、ドロー。
スタンバイフェイズ、墓地のクイラを守備表示で蘇生させる。……さて、そろそろ頃合いか」
ネフレン=カが独り言ちると、一枚のカードを発動させる。
「永続魔法、トライアングル・フォース発動! デッキから二枚のトライアングル・フォースを発動する! では見せてやろう、神の力を! このカードは三枚の魔法カードを生け贄に捧げることで特殊召喚できる。現れよ三幻魔が一、降雷皇ハモン!」
ネフレン=カが神のカードをディスクに置くと、雷雲がカードを中心に吹き上がる。
落雷がそこら中に落ち、天を上る黒い光が揺らめく。
黒い光から這い寄り出たのは、骨だった。
深い闇を吸ったような黄色い身体をした、蝙蝠のような羽根を持った悪魔。鎧に包まれた尻尾が漏電し、今にも貫かれそうだ。
「……攻撃力たったの4000か、低いな」
「いやカイザー、それはお前の基準が狂ってるから」
「ふん、余裕でいられるのも今のうちだ。バトル! ハモンでフェニックスガイを攻撃! 失楽の霹靂!」
「墓地の超電磁タートルを除外し、バトルフェイズを終了させる!!」
「甘い甘い、永続罠王宮の鉄壁を発動! このカードが存在する限り、カードを除外することはできない!! さあ大人しくダメージを受けてもらうぞ、十代!!」
ハモンが蝙蝠の羽根を広げると、それに吸収されるように黒い光が降り注ぐ。
やがてハモンの全身が青い稲妻で包まれたかと思うと、それを一気に放出した。
フェニックスガイは全身から熱風を起こすも、濁流が如き雷を抑えることは不可能。あっという間に飲み込まれてしまう。だが、フェニックスガイは健在。
しかし、その効果も主人までは守れない。稲妻が、十代を襲った。
「ぐあああああっ!!」
「カードを二枚セットし、ターンエンドだ!」
もはや十代のライフは風前の灯火。いくら三人のライフの合計が買っていたとしても、一人欠けるだけで勝ち目はぐっと薄くなる。
「ぐっ……なぜ……?」
「ん?」
「なぜ、俺がスキル・サクセサーを発動した時に王宮の鉄壁を発動しなかった」
十代の疑問はもっともだ。スキル・サクセサーを使用したターンに使っておけば、余計なダメージを受けずに済んだ。その疑問は当然、といえるだろう。
ネフレン=カはその問いに、くつくつと嗤いながら答える。
「貴様がスキル・サクセサーを発動させたとき、こう思っただろう?『これで勝てる、俺たちの勝利だ!』と……その希望を崩すためさ。どんな気持ちだった? 渾身の攻撃が我にダメージを与えられなかったときは」
極限まで相手を馬鹿にした理由。ネフレン=カはこう言いたいのだ。
『貴様らなぞ、手を抜いてても勝てる』と……。それは、デュエリストに対する最大の冒涜である。が、それはすなわち、凄まじいプレッシャーを与える。事実、そのような嘗めプをする余裕があるという証左だ。
その事実が、十代に重くのしかかる。
万丈目は唾を飲んだ。嫌な汗が額を濡らす。
いざ自分がネフレン=カの立ち位置になったとき、そのような余裕を持つことが出来るか? 答えは不可能だ。
万丈目の時とは違う。十代、万丈目、亮の三人はデュエルアカデミアでもかなりの強豪だ。それを相手取っているというのに、未だ余裕の表情。
未だ突破口は見つからない、相手のデッキの全貌が見えない。ネフレン=カの言葉、『半分は永理だ』という言葉を信じるのであれば、あのデッキは永理の知識で作られたということになる。
そんなもの、予想しろという方が土台無理な話だ。永理のデッキはいうなればパンドラの箱、何が出てくるのか全く分からない。
そもそも三幻魔とインティ&クイラをうまく両立させているのがおかしい。確かに決闘王武藤遊戯は三幻神と融合、更に上級モンスターを大量投入したデッキを使いこなしていたが、それでもこれまでのルール通りの召喚方法の組み合わせだった。
永理の場合は違う。新たな召喚方法に、特殊な召喚条件。決闘王のデッキもかなり重いが、永理の場合はそれ以上に重い!!
「ドロー!!
サイバー・ドラゴン・コアを召喚し、効果発動! このカードが召喚に成功した時、デッキからサイバー、またはサイバネティックと名の付いた魔法・罠カードを手札に加える! 俺はサイバー・レヴシステムを手札に加える!」
亮の場に現れる、メタリックなミミズのようなモンスター。
サイバー・ドラゴンのコア部分に接続するものであろう機械の触手が、のたうち回っている。
「魔法カード、パワー・ボンドを発動! 手札のサイバー・ドラゴンと場のサイバー・ドラゴン・コアを融合し、サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚する! 更にパワー・ボンドの効果で攻撃力は倍になる!」
二つの頭を持った機械の龍が、紫電をまき散らしながら羅われる。
亮は永理と長い間、楽を共にしてきた。苦からは逃げていた。
約一年一緒に馬鹿をやっていたから分かる。永理のデッキは、ギミックを積めば積むほど防御カードが薄くなると。特に、シンクロと三幻魔を両立しているのだから、デッキ構築難易度の高さは相当なものだ。防御を考えていては、うまくデッキが回らない可能性がかなり高い。
「除外ビートダウンや昆虫族ならある程度余裕はあっただろうが、今回のデッキでは防御カードは組み込みづらかろう! バトルだ! サイバー・ツイン・ドラゴンで降雷皇ハモンを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!!」
二つ頭の龍が紫電を口へと凝縮すると、ほぼ同時にそれをハモンへと放出した。
パワー・ボンドにより召喚されたサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は5600、たかが攻撃力4000のハモンでは太刀打ち不可能。
インティとクイラの除去は不可能になったならば、せめて三幻魔は破壊しておきたいところだ。
だが……。
「ダメージステップに永続罠、銀幕の鏡壁を発動! 攻撃してきた相手モンスターの攻撃力を半分にする!」
突如現れた鏡の壁にその光線が吸収されたかと思うと、ハモンに当たり力なくはじける。
銀幕の鏡壁、孔雀舞が使用した超レア永続罠。一ターン限定で永続的に収縮をかけさせるという使い方も可能な、恐ろしい性能を秘めたカード。
「さあ、神に仇名す愚か者を抹殺せよ! 失楽の霹靂!!」
ハモンが羽根を広げ紫電を凝縮し、サイバー・ツイン・ドラゴンに向けて発射した。
サイバー・ツイン・ドラゴンはそれを迎撃しようと口を開くも、時すでに遅し。全身を激しくスパークさせ、がらがらと崩れ落ちる。
「ぐっあああああああ!! クソッ、読めるか……! 銀幕とか!! だが、次のターン一時休戦を使えば……」
「貴様に次は存在しねぇ! ハモンがモンスターを破壊し墓地へ送ったとき、相手ライフに1000ポイントダメージを与える! これで終わりだ、カイザー! 地獄の贖罪!」
ハモンが尻尾を天に掲げ電気を打ち上げると、亮の頭上から無数の稲妻が降り注ぐ。
稲妻は亮の腕や足を貫通し、闇へと溶かしていく。
もはや人間とは思えない、喉が焼けきれるのではないか思うくらいの悲鳴。やがて雷が上がり、煙を海風が吹き消すと、そこには亮の姿は無かった。
まるで、最初から何もなかったかのように。
「ほう……」
「……カイザー? おい、どこ行ったんだよカイザー!」
万丈目が何やら関心したような声を上げ、十代がうろたえ、消えた亮の姿を探す。
だが、どこにもその姿は無い。
「お前、カイザーをどこへやった!?」
「どこへ? これは闇のゲームだ、決まっているだろう?」
そう言ってネフレン=カが胸ポケットから出したのは、一枚のバニラカード。不思議なことに属性もレベルもテキストすら書かれていない。だがそこには、苦痛の表情を浮かべる亮の姿があった。
「お前、ふざけるな! 今すぐ亮を返せ!!」
「返してほしくば我にデュエルで勝つことだな。最も、貴様ら全員我が願いの為の生け贄となるだろうが……」
ふとネフレン=カは、激昂する十代ではなく、変わらず静かに立っている万丈目の方に目をやった。
恐怖で声も出ないのか、震えている。どのような表情か、髪で隠れており見えない。
「どうした万丈目、怖くて声も出ないか。安心したまえ、すぐに貴様も一緒のところへ━━」
「素晴らしい」
「……は?」
万丈目は顔を上げる。
そこには、狂気に満ち溢れた狂喜で彩られた笑みがあった。仲間が闇に消えたというのに、心の底からなにかに喜んでいるような。
「これだ、こういうスリルだ! ひとたび死ねばもはや助からない、しかし相手は決して敵わぬ強敵!! これだ、俺が求めていたのは!! 偉いぞネフレン=カ百株贈呈」
「ま、万丈目……?」
「狂ったか、否……」
この狂気は元からだ。しかし、明らかに悪化している。
月影永理の傍に置いていたせいだろうか、とネフレン=カは訝しむ。
己が正確も、この身体に乗り移ってからかなり変わった。昔であれば、あのように弱音を吐いたりしなかっただろう。
浸食されているのだ、気づかぬうちに。
「万丈目……人が、消えたんだぞ? わかっているのか万丈目!!」
「貴様こそ何を言っている。人が消えた? だから何だ、俺たちのやることは変わらんだろう。勝利報酬にバカイザー亮が追加されただけだ」
「なにを、言って……?」
「……人の話はちゃんと聞け、奴が言っていたではないか。『返してほしくばデュエルに勝て』と」
そう言い切って、万丈目は獰猛に、心底楽しそうに笑う。
狂っている。命の危機が迫っているというのに、嬉々としてそれに迎え撃とうとするなんて。
だが、万丈目の言うことは最もだ。ネフレン=カが本当のことを言っているとは限らないが、現状ではそれを信じる他ない。
「カイザーのライフが0になったということは、俺のターンか。ドロー! さて、じり貧持久戦としゃれこもうか! モンスターをセットし、ヘルレイザーを守備表示に変更! カードをセット! ターンエンドだ!」
万丈目のデッキパワーは、この中で一番低い。高攻撃力モンスターで一気に決めるのではなく、最上級モンスターを並べて相手を倒すデッキを主としている。
それ故に、現在万丈目に課せられている役割は観察。相手の情報を一つでも引き出すこと。デュエルモンスターズというトレーディングカードゲームは情報戦だ。どのカードがどのようなコンボをするかですべてが決まる。
「十代、悔しいが……このデュエル、キーマンはお前だ。分かっているな?」
「無茶苦茶言いやがる……けど、やるしかねえか! ドロー! 罠カードを三枚発動させる、ゴブリンのやりくり上手! 更にチェーンしリバースカード、非常食を発動! やりくり上手を全て墓地へ送り、ライフを3000回復する! ゴブリンのやりくり上手は、墓地の同名カードの枚数プラス一ドローし、手札のカード一枚をデッキの一番下に戻す! 俺は合計、十二枚ドローし、三枚をデッキの一番下に戻す!」
いわゆるやりくりターボと呼ばれるコンボ。実際に決めるのは難しいのだが、十代の類まれなるドロー力でそれを可能にしている。
注目すべきは、このコンボによるハンドアドバンテージであるが、ライフアドバンテージもまた無視できない。
「魔法カード、融合を発動! 手札の沼地の魔神王とスパークマンを融合し、E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマンを融合召喚!」
もはや説明不要であろう、十代のエースモンスターがメタリックな羽根を広げ、降臨する。
「シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は、墓地のE・HEROの数×500ポイント攻撃力をアップさせる。墓地にいるE・HEROの数は八体、よって攻撃力は6500だ!」
「だが、銀幕の鏡壁が存在しているのを忘れるな! これにより攻撃力は半分になる!」
「ああ、でもそれは
ネフレン=カの残りライフはたったの1600、これでは銀幕の鏡壁の維持コストである2000を支払うことはできない。
モンスターがいかに強力でも、それを操るプレイヤーはそうではない。ラーの翼神龍を出したとしても、人造人間7号の直接攻撃で負けるのだ。
「俺はフェニックスガイを守備表示に変更し、ターンエンドだ! さあネフレン=カ、お前のターンだぜ!!」
「生意気な……ドロー! スタンバイフェイズ、ライフコストは支払わず、銀幕の鏡壁は破壊される! 魔法カード、おろかな埋葬! デッキからクリッターを墓地へ送る! ……フィールド魔法、失楽園を発動!」
場が、荒れ地に変わった。ネフレン=カの傍にぽっつりと立つ枯れ木、枯れ木の中には魔物らしきものが目を光らせている。
失楽園、キリストのある詩人が、アダムとイブが楽園を追われるエピソードを記した叙事詩のタイトル。
「失楽園の効果発動! 三幻魔が場に存在するとき、カードを二枚ドローする!」
「毎ターン、実質強欲な壺を発動する効果か……こうなったらデッキを切らせる方が早いか?」
「なんだそのインチキ効果!?」
デュエルモンスターズにおいて、手札はライフより重要視される。ライフが1になっても手札さえ十分にあれば、逆転が可能だからだ。
その手札をほぼ無条件で、リスクなしで増やせるなんて、三幻魔の召喚難易度を加味しても、インチキとしか言いようがないだろう。
「魔法カード、二重召喚を発動。これにより我は二度、通常召喚が可能! 幻銃士を召喚!」
ネフレン=カが墓地から呼び出したのは、背中に砲を乗せた小さな悪魔だ。背中には、肩鎧と同じ藍色の羽根を携えている。三つの手の指と二つに分かれた足指が、ひどく不気味だ。
「幻銃士は召喚・反転召喚に成功した時、自分場のモンスターの数だけ銃士トークンを特殊召喚する。我の場のモンスターは三体、しかし場に並べられるモンスターには上限があるので、我は銃士トークンを二体特殊召喚する!」
幻銃士の姿と全く同じ、少し色が薄いトークンが二体現れる。
「さあ、貴様らに見せてやろう! 二体目の神を! 幻銃士と銃士トークン二体を生け贄に捧げ、現れろ! 幻魔皇ラビエル!」
おらっ、オリ主の悲しい過去だぞ。