幻銃士達が闇に飲まれ、現れるは青い巨人だった。
悪魔を思わせるH字の頭、蝙蝠というよりは怪鳥の類の羽根。恐竜を思わせる尻尾を携えたそれは、鋭い地響きを立て降臨する。
獣が、咆哮した。
「永続罠、リビングデッドの呼び声を発動! 墓地の太陽龍インティを特殊召喚する!」
再び、ネフレン=カの場に太陽と月が並んだ。
しかし、二体の龍を並べたところで何のメリットも無い。一体何の真似だ、と万丈目が訝しんでいると、ネフレン=カは驚きの言葉を口にした。
「幻魔皇ラビエルの効果発動! 二体のモンスターを生け贄に捧げ、生け贄にしたモンスターの元々の攻撃力分、ラビエルの攻撃力をアップさせる! 我は太陽龍インティと月影龍クイラを生け贄に捧げ、5500攻撃力をアップ!!」
ラビエルの丸太のような両腕に太陽と月がひっついたかと思うと、突如発光しはじめた。
赤青の龍が、まるでアイスをバーナーで炙ったかのようにドロドロに溶けていく。惑星の輝きが徐々に薄まっていき、次第に力なく地面へと落ちた。
ラビエルの両腕は、太陽と月と同色に、幻想的に輝いている。
だが、ネフレン=カのプレイはまだまだ続く。
「そうだ、リミット・リバース一枚とリビングデッドの呼び声、王宮の鉄壁を生け贄に捧げ、神炎皇ウリアを特殊召喚!」
ネフレン=カが最後に出したのは、真っ赤な龍だ。顔の無い、口だけの龍が、吹き上がるマグマとともに羽ばたき上がり、現れる。
三幻魔。この男、ネフレン=カは、あっという間に三幻魔を全て揃えてしまった。
絶望、圧倒的絶望である。三体の神。生物では決して敵わない、絶対的存在。
「ウリアの攻撃力は、我の墓地の罠カードの数×1000ポイントアップする。我の墓地に存在する罠カードの枚数は五枚、よって攻撃力は5000! さぁて、少しでも不確定要素を消しておくか……神炎皇ウリアの効果発動! 万丈目、貴様の右の伏せカードを破壊する! 獄炎の鎖!」
ウリアの口が開き、中から現れる新たな顔。そのウリアの口から放たれた真っ赤な鎖が、万丈目の伏せていたカードを貫く。
やがて鎖は、貫いたカードと共に発火し、万丈目の伏せていたカードを破壊した。
「ぐっ、ミラーフォースが……」
「ふん、杞憂であったか……さあ、忌々しい光を消し去ってやろう! バトル! ラビエルでシャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃! 天界蹂躙拳!!」
ラビエルが両腕を太陽と月のように輝かせると、両手を合わせ、シャイニング・フレア・ウィングマンの頭に、月のように大きな拳を振り下ろす。
この攻撃が通れば、十代のライフは大きく削られてしまうだろう。否、それ以前に……ネフレン=カに勝つ手段を、ほぼ失ってしまう。
十代のデッキには、神を倒す手段は一つしか用意されていない。神を倒せそうな亮は闇に食われているし、万丈目のデッキではパワー不足だ。
だが、相手は神だ。神の前には、例え攻撃を跳ね返す無敵のバリアだろうが、攻撃を吸収するシールドだろうが、神の前には無力。
であれば対抗策はなにが残るか? 攻撃力の増減。だが十代は、一時的な攻撃力の増加より、安定した火力を求める。耐性を持たせる、十代のデッキはコンボ特化のデッキだ。そんなものはいるスペースは存在しない。
「永続罠、発動!」
「無駄だ! 神の前に小細工なぞ通用せん!」
そう、十代のデッキには。
「確かに、神のカードに罠カードは効果が無い。とはいえ、神は効果を受け付けないだけで、効果を無効化する訳ではあるまい?」
シャイニング・フレア・ウィングマンは羽根で自らをラグビーボールのように丸めたかと思うと、ラビエルの足元を潜り抜けていった。
対象を失ったラビエルの拳が地面へと突き刺さり、その衝撃が十代を襲う。
「永続罠、安全地帯。モンスターに破壊耐性を与えるカードだ」
「ぐっ、おのれ……邪魔をするな、万丈目!」
そう、万丈目の言うように、神は決して万能ではない。
相手の効果を無効にすることは出来ない。もし出来るのであれば、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力を元に戻し、十代に引導を渡せたはずなのだ。
そして、これで相手は、ネフレン=カは、十代の切り札でもあるシャイニング・フレア・ウィングマンを葬るチャンスを失った。
「ならば貴様が死ぬか! ハモン、万丈目の伏せモンスターを攻撃せよ!」
ハモンが全身から放った雷が、万丈目のモンスターを貫く。
気味の悪い笑みを浮かべたトマトは、醜悪な笑い声を出しながら燃え尽きていく。
「キラー・トマトの効果発動! デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター一体を、攻撃表示で特殊召喚する!」
「だがその前に痛みを受けてもらおう、地獄の贖罪!」
ハモンが翼を広げ、万丈目へ雷撃を下す。
雷撃は万丈目の身体を貫き、焼けるような痛みが全身を襲う。もはや、立っていられないほどの激痛。万丈目は膝をつき、震え出した。
「恐ろしいか万丈目、ならばサレンダーするが良い。痛みも無くすぐに死ねるぞ?」
見え透いた挑発。だが同時に、その誘いはひどく甘い。
足の底からノコギリで薄く切り落とされ続ければ死を懇願するだろう。三幻魔の齎す痛みは、それほどのものだ。
神のカードは闘志をも根絶やしにする。何物も触れられない、届いてはいけない領域にあるのが神なのだ。
「くっ、ククク……アーッハッハッハッハッハッハッ!!」
突如、万丈目が激しく笑いだした。
さも愉快そうに、まるで喜劇でも見ているかのように。その様子に十代は、ネフレン=カでさえも恐怖を覚える。
万丈目はさも愉悦そうに、口を開く。
「サレンダー? 馬鹿じゃないか、そんな勿体ないことするものか! 痛みが現実になるなんて……これだ、これだったんだ。俺の探し求めていたものは! これだったんだ!」
大きく開かれた眼は狂気に彩られ、口は三日月を描いている。
それは虚勢ではない。心の底から、その痛みを楽しんでいる。眼が、それを物語っている。
「狂ったか、万丈目!」
「狂ったか、だと? 元より俺はこうさ。命を賭けたスリル、貴様にもそのドキドキ感、楽しみは分かるだろう? さあ続けよう、命の掛け合いを! 俺はキラー・トマトを特殊召喚する!」
「ならばウリア、哀れなトマトを焼き尽くせ! 煉獄火炎!」
ウリアが羽ばたき、万丈目の上空で旋回しはじめたる。
そして勢いをつけて一気に急降下し、口から炎を吐き出す。
それは、まるで火の槍のようにキラー・トマトへと落下し、勢いよく貫いた。
「手札からクリボーを墓地に捨て、戦闘ダメージを0にする!」
「だが効果ダメージは受けてもらう!」
万丈目に稲妻が降り注ぎ、身体を貫く。
「くっ、キラー・トマトの効果により、デッキからレジェンド・デビルを特殊召喚!」
万丈目の場に現れたのは、四つの腕を持った、水色の悪魔だ。蝙蝠のような黒い羽根に、猛禽類のように禍々しい足。一目見ただけで悪魔と分かる。
素の攻撃力はたったの1500、自分のスタンバイフェイズごとに攻撃力こそ上がっていくが、そのためには四ターンは維持せねばならない。
元々、安全地帯はその為に入れていたカードだったのだろう。
事実、ネフレン=カとしても、レジェンド・デビルは決して無視できないカードである。早急に破壊せねばならないもの。いつ攻撃を上回られるか分かったものではない。
「厄介な……!」
だがそれ以上に厄介で、ネフレン=カの行動を縛っているのは、十代のシャイニング・フレア・ウィングマンだ。
守備表示にしても効果ダメージは入るのは当然ながら、単純にあそこまでの攻撃力を出すモンスターなんてのはそうぽいぽいと召喚できないものだ。
であれば、どうするか。ネフレン=カの行動は決まっている。
「チッ、出来ればこいつは使いたくなかったが、仕方ない……次元融合殺! 我は場の降雷皇ハモン、幻魔皇ラビエル、神炎皇ウリアを除外し、混沌幻魔アーミタイルを守備表示で融合デッキから特殊召喚!」
ネフレン=カの手元に現れた、中心部分がまるでドクロのようになっている、巨大な手裏剣のようなものを投げた。
するとそれは空中で停止し、黄金色に輝く鎖が伸びる。
伸びた鎖は幻魔の身体へと突き刺さり、真っ黒な血が地面を染める。
苦しみ、もがく幻魔達。だが抵抗むなしく、伸びた鎖が三幻魔と共に元の場所へと戻っていく。
当然、その巨体がそのまま無事にごっつんこで済むはずもなく……まるで戦車がコンクリート壁に激突したかのような音を出したかと思うと、神々しい身体が歪にひしゃげ、肉が食い込んでいく。
ラビエルの右腕がウリアの顔へ、ハモンの羽根がラビエルの背中へ。下半身がウリアのものとなり、それをハモンが黄色く浸食する。
そして、墨汁のように黒い血を垂れ流す、巨大で歪な化け物が完成した。
「カードをセットし、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、レジェンド・デビルの攻撃力を700ポイントアップ! ……さて、どうするか」
ネフレン=カの出したアーミタイルの能力は不明。現状、分かっているのは攻守ともに0で、何らかの効果を持っているだろう、ということだけ。
神のカードを素材にしたということは、どのような効果を秘めていてもおかしくはない。それこそ『ダメージ計算を行った後に4000ポイントダメージを与える』とかでも、十分にあり得る。
「……まあ、その場合は死なばもろともだな。俺はマッド・デーモンを攻撃表示で召喚!」
万丈目の場に現れる、餓死者のように醜くやせ衰えた身体と、まるで栄養がそこにしか行っていないような両腕持ち、胸にドクロの入った巨大な口を持った赤髪の悪魔が現れる。
マッド・デーモン。高い攻撃力と貫通効果の代わりに守備力が0であり、攻撃された際に守備表示になってしまうというデメリットを持ったモンスター。
だが、ことこの場においてそれはメリット効果となるのだ。
「バトルだ! マッド・デーモンでアーミタイルを攻撃!」
「罠発動、攻撃の無敵化! モンスターに戦闘及び効果の破壊耐性を与えるか、プレイヤーが受けるダメージかを選び、発動する! 我はダメージ無効を選択!」
マッド・デーモンが両腕を大きく振りかぶり、アーミタイルの腹をクロスに切り裂く。
アーミタイルの肉体にバツ印の傷が出来、そこからどろりと黒い血が流れだした。
そして、独りでに傷が触手のように蠢いたかと思うと、あっという間に塞いでしまう。
「そしてアーミタイルは戦闘破壊されない。残念だったな、万丈目!」
「……なるほど、戦闘に関しては何も支障は無いのか。十代! 貫通効果を持ったHEROがいただろう? そいつで決めてしまえ!」
万丈目の言葉に、十代はどこか気まずそうに、視線を逸らしながら答えた。
「えっと……エッジマンのこと、だよな? ……最近、デッキから抜いてて……」
「そうか。ならば他の手を考えねばな……レジェンド・デビルを守備表示! カードをセットしターンエンド!」
態々防御カードを伏せていたということは、ダメージは通るということ。そして、大抵の貫通効果持ちのモンスターならば、ネフレン=カの残りライフを削りきることが可能。
故に、十代がエッジマンをデッキから抜いているというのは非常に痛い。だが、突破口は見えている。
「俺のターン、ドロー!
魔法カード、強欲な壺を発動! カードを二枚ドロー!
カードを二枚セット! ターンエンド!」
「我のターン、ドロー!
我は失楽園の効果発動!」
「馬鹿なっ、三幻魔だけ効果に対応しているのではないのか!?」
「こいつは
「攻撃力0のモンスターで攻撃だと!?」
アーミタイルの肉が弾け、どす黒い血が、地面を飲み込むかのようにあふれ出す。
血はシャイニング・フレア・ウィングマンの目前で大きく波打ったかと思うと、それが巨大な槍の形を作り、貫かんとする。
「アーミタイルはバトルフェイズの間、攻撃力を10000にする! さあ消え去れ!」
「罠カード、ヒーロー見参を発動! 自分の手札一枚をランダムに相手が選び、それがモンスターカードだった場合、場に特殊召喚できる!」
「ならば、我は右のカードを選ぼう!」
「お前の選んだカードはこれだ! E・HEROエアーマンを守備表示で特殊召喚! 効果によりデッキからHEROと名の付くモンスター、シャドー・ミストを手札に加える!」
「だからどうした、攻撃続行だ!」
十代の場に現れる、羽根のようにフィン二つを背負ったHEROが現れる。
新たなモンスター出現による、戦闘の巻き戻し。だが、ネフレン=カの狙いは変わらない。精々が、的が増えたくらいだ。
シャイニング・フレア・ウィングマンが右手から繰り出した炎により血の槍は軌道を逸れ、十代の胸へと突き刺さる。
「罠カード、エレメンタル・チャージを発動! 場のE・HEROと名の付くモンスターの数×1000ポイントライフを回復する! ぐあああああああっ!! ……やっぱ、きついな」
「チッ、生き延びたか……カードを二枚セットし、ターンエンドだ!」
ネフレン=カは忌々し気にカードを伏せる。
十代の残りライフはたったの250。もはや風前の灯火……だが、ネフレン=カの場には攻撃表示の、攻撃力0のモンスター。
ダメージを0にしたことから、あるのは戦闘破壊耐性のみ。隠された効果は無い、と、万丈目は確信した。
「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、レジェンド・デビルの攻撃力を700ポイントアップさせる! ……さてネフレン=カ、貴様の隠し玉のタネも割れたところだ。もはや不安要素は無い、そろそろ永理諸共死んでもらうぞ! レジェンド・デビルを攻撃表示に変更!」
「いや万丈目殺しちゃ駄目! 永理は殺しちゃ駄目だ!」
「バトルだ! マッド・デーモンでアーミタイルを攻撃!」
「無駄だ! 永続罠、スピリットバリア! これにより場にモンスターが存在する限り、我の受ける戦闘ダメージは0になる!」
マッド・デーモンのクロスチョップはアーミタイルの腹を深く切り裂く。だがそれだけで、またしても傷は独りでに蠢き塞がってしまう。
スピリットバリア、失楽園のドローで引き当てたのだろう。でなければ、前のターンに伏せておいたはずだ。
たった1600、レベル4のモンスターの直接攻撃で削り切れる程度のライフが、どうしようもなく遠い。
「チッ! カードをセットし、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!
……さて、どうすっかな。とりあえず、邪魔なカードを破壊しておくか! 手札を一枚捨て速攻魔法、ツインツイスターを発動! 相手場の魔法・罠カードを二枚破壊する! 俺はスピリット・バリアと失楽園を破壊!」
突如巻き起こった竜巻がひび割れた大地を、枯れた木を天高く巻き上げ、きれいさっぱりと消し去る。
これで、最大の懸念だったドローエンジンは消し去れた。とはいえ、ネフレン=カのデッキに一枚だけしか入っていないという保証もない。
「ツインツイスターの効果で捨てたシャドー・ミスとの効果発動! デッキからシャドー・ミスト以外のHEROと名の付くモンスターを手札に加える! 俺はスパークマンを手札に加える! さて、ここで決められると良いんだけど……スパークマンを通常召喚!」
全身に電気を駆け巡らせ現れるは、青いタイツに黄色いアーマーを着込んだ、顔をマスクで覆い隠したヒーロー。
攻撃力はきっかり1600、この攻撃が決まれば十代の勝ちだ。
「フェニックスガイ……はちょいと怖いから良いか。バトル! スパークマンで、アーミタイルを攻撃! スパークフラッシュ!」
「甘い甘い! 手札からクリボーを捨て、戦闘ダメージを0にする!」
スパークマンが手から放った雷がネフレン=カを襲うが、その攻撃を茶色い毛皮が吸収、誘爆し防いだ。
「だったらこれだ! シャイニング・フレア・ウィングマンで攻撃! シャイニング・シュート!」
「あまり使いたくはないのだがな……リバースカードオープン!」
シャイニング・フレア・ウィングマンが宙高く飛び、アーミタイルへ向けて純白の炎を出す。
だが、それはアーミタイルの目前で球場の何かに阻まれる。
否、透明なバリアがシャイニング・シュートを吸い取り、白く染まっていく!
「罠カード、ドレインシールド」
「なっ、永理が……」
「攻撃反応型罠だと!?」
月影永理は、基本的に攻撃反応型のカードを使わない主義だ。
サイクロンといった魔法・罠カードを破壊されやすいこの環境、永理が好んでいたのは和睦の使者や威圧する咆哮といった、フリーチェーン。いつでも発動できるカードばかり。
故に、それ故に読めなかった! 無意識のうちに、伏せているカードの選択肢から外していたのだ!
「我はシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力分、我のライフを回復する……」
1600だったネフレン=カのライフが、一気に8400へと膨れ上がった。
4000の時でさえ削るのに尋常ではないくらい苦労したというのに、更にその倍。しかも、今度は削り要因である亮がいないのだ。
故に今、ネフレン=カは絶対的優位に立っている。だというのに、なぜだ。
「ぐっ、クソッ……これだから使いたくなかったのだ」
「ネフレン=カが、苦しんでる? ライフを回復したってのに」
「まさか回復がダメージになるゾーマ体質じゃあるまいし……」
「万丈目、お前もすっかり永理思考に」
「奴と一緒にするな!」
十代と万丈目がそんなことを駄弁っていると、ネフレン=カが胸を抑え蹲る。
そして苦しそうに震え嗚咽を漏らしたかと思うと、次第に笑いと嗚咽が混じり合っていく。
口から泡を吹きながら、なにかを必死に抑え込む。
言い知れぬ不気味さが漂い、十代と万丈目は生唾を飲む。これから、とても恐ろしいことが起こりそうだ、と。
「グッ、黙れ……今貴様に用はない! 我の、三千年前に世界を戻す計画を! 貴様に苦労させられた十六年間を、無駄にしてたまるか!!」
ネフレン=カは必死に抗う、己の奥に眠らせた強敵を。
利用しようとして引き出したはいいものの、予想以上に苦労させられた、彼の崇める混沌の神よりも行動の読めないカオスの化身を。
ネフレン=カはおもむろにナイフを取り出す。サバイバルナイフ、軍人が使うような刃渡りの長いナイフだ。
「ねっ、ネフレン=カ……何をするつもりだ、おい!」
「なにを、だ、と? き、決まって、いるだろう!」
口から泡をまき散らしながら、ネフレン=カは自らの胸に、永理の胸に突き刺した。
深々と突き刺さったナイフから、血が流れ出る。足元の水たまりに血が混ざり、渦巻きを描きながら溶け込んでいく。
「うっ……おえっ」
「十代、貴様はあれよりひどい状態で運ばれてきたと聞いたぞ?」
「いや、自分と他人じゃ違うだろ」
万丈目の呆れたような言葉に、十代は口元を抑えながら反論する。
ちょっと前まで普通の中学生だった人間に、これはあまりにも刺激が強すぎるのだ。
当然、万丈目も少し前までは、こんなものを見る機会なんて無いようなごく普通の中学生だった筈だ。だというのに、万丈目はケロリとしている。
「つか、なんでお前は平気なんだよ」
十代の問いに万丈目は、ふんと鼻で笑うだけ。
確かに、突然こんなものを見せつけられるのはかなりショッキングである。だが、万丈目にとってそれは至極どうでもいいことだ。
なにせ、デュエルに関係しないのだから。
ネフレン=カは、自らに突き刺さったナイフをぐりぐりと動かす。動かすたびに血が、こぽこぽと音を立ててあふれ出す。
「やめろ……やめろ! それは永理のもんだぞ、やめろ!」
それにより抑えたのか、ネフレン=カは血走った眼で十代を睨みつける。
脂汗を浮かべ、苦虫をかみつぶしたように口元をゆがめながら、ネフレン=カは答えた。
「……予想以上に抵抗が激しかったんでね。我とて、好き好んでこんなことせんよ」
皮肉気にネフレン=カが笑う。
流れ出る血はすぐに止血しなければならないほど激しい。もはや、立っているのも不思議なくらいだ。
「さあ続けろ、我を━━この男を殺したくなければ!」
「……魔法カード、馬の骨の対価を発動。通常モンスター一体を生け贄に捧げ、カードを二枚ドローする。……カードをセットしてターンエンド」
「ぐっ、ドロー! ……れ。黙れ……黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ!」
どうやら、あのナイフでも抑えきれなかったようだ。
引いたカードを確認もせず、そのカードを持ったまま頭をかきむしる。胸に突き刺さったナイフを引き抜き、向かい側の胸を突きさす。
ネフレン=カとて決して痛みを感じていない訳ではないのだろう。その表情は、苦悶に満ちている。
だが、今度はそれでも、ナイフを突き刺す程度では打ち消せないようだ。
「永理もうやめろ! このままじゃ……このままじゃ、お前が身体を取り戻す前に死んじまうぞ!」
十代の言葉も届いていないのだろう。ネフレン=カは狂ったように自分をナイフで切り裂き続ける。
もはや怨念、執念すら感じるほどに。
血が、切り刻まれた肉が辺りに散らばる。どう考えても心臓部だろうという場所にまでナイフが行っている。
やがて、糸が切れたようにネフレン=カが動きを止めた。
「チッ……死んだか」
「しばらく夢に出そう」
万丈目が消化不良気味に舌打ちし、十代が青い顔をしながら呟く。
だが、ぴくりと、ネフレン=カの指が動いた。
デュエリストは視力すらも超人クラスだ。当然、その反応を見逃さない。
十代はネフレン=カの動きに警戒し、万丈目はまだ続けられるとニヤリと笑う。
「……………くっ」
「どうしたネフレン=カ、早くターンを進めろ」
万丈目の言葉にネフレン=カは答えず、俯いたまま肩を震わせ始めた。
空気が、ネフレン=カを纏う空気が、変わった。
やがてネフレン=カがゆらりと立ち上がると、裂けたような笑みを浮かべ、ギラギラと汚く輝いた目を開かせる。
「クックックックッ、ファーッハッハッハッハッハッゲホッゲホッ!!」
「まさか……」
「嘘、だろ……?」
やがてネフレン=カは━━否、奴は高笑いをあげる。あげすぎて若干むせた。
そして無駄にスタイリッシュに、無駄にクールにキレッキレの無駄なポーズを決め、叫んだ!
「嘘もヘチマもあるもんか……この俺こそ真実の人! 月影ェェェェェェッ永理ィィィィィィィィッ!!」
北海道舞台で、デュエルディスクに地図の切れはしが封印されていて、それをデュエルで奪い合う。五十枚集めると財宝のありかが示されるって設定思いついた。
タイトルは「ゴールデン遊戯」、おら誰か書けよ。変態出せるぞ。