野望に満ち足りたギラギラと輝く生き生きとしたものとは正反対の、まるで死後三日は経った野心溢れていたであろう革命家のような瞳。ガサガサに痩せこけた顔とアンバランスすぎて不気味なくらい、謎の自信に満ちあふれた良い表情。
十代が呆然とした顔で、万丈目が苦虫をまとめて噛みつぶしたような表情で、見慣れた奴の姿を見る。
痩せぎすで死んだ眼をしているくせに妙に生き生きとしたそいつは、気づかれていないと思ったのかもう一度最初から、謎の決めポーズへと繋がる動きをしながら叫んだ。
「……この俺こそがッ、真実の人! 月影ェェェェェェッ永理ィィィィィィィィッ!!」
「うるっせぇ聞こえてるんだよ! ただでさえ厄介なの相手してるってのに更に厄介になりやがって!!」
「ひっでー! 万丈目ひっでー!!」
万丈目の心底思っているような嘆きの言葉に、いつもの調子で返す永理。だが全身から血がびしゃびしゃ出ているので、かえって不気味さを醸し出している。
本来であれば、もともとの精神が戻ったことに安堵するものだろう。だが、そんな伏線とか全然無しに出てこられたとしても、正直反応に困るというもの。
事実、十代は未だに放心状態である。
「ほっ、本当に……本当に永理、なのか?」
「いかにも! いつも心にアクシズ教団、誰もが認める主人公! 月影永理たぁ俺のことよ!」
「なっ……なん、で……? いやマジでなんで!?」
「フッフッフッフッ、驚くのも無理は無い。事実、こいつはここまで抵抗しているからな」
永理の右手は独りでに、左腕を刺し続けている。まだ拮抗しているということだろう。
故に、それが十代には信じられなかった。
永理の精神は、面白おかしく娯楽に生きて、それ以外は切り捨てる。将来よりも楽しい今を生き、楽な方に流されて、我慢もせずに本能の赴くまま生きるという、まるでどこぞの水の女神を信仰する宗教の教義めいた生き方の具現化。
そんな生き方をしている人間の精神が強いなんて、どう考えても信じられない。というより、それで強かったらもはや世界は理不尽の塊だ。
永理は血まみれの手を振るい邪魔な血を散り落としながら、十代の問いに答える。
「俺とネフレン=カの関係は、いわば表と裏さ。カードならこのように」
そう言って永理が、十代達に手札の一枚を見せる。
THE DEVILS AVATAR、一言でいえば黒い球体。そのカードだけ、他のカードと雰囲気が違う。三幻魔を見た時とよく似た、しかし決して違うと確信できる憎悪を走らせる。
「表には情報が、そして裏には不明が記されている。だが硬貨の表裏はどっちだ? コインの表と裏は誰が決める? それは他者多様、人や場所や状況やらで全ては決まる。魂だってそうさ。表と裏は『0と1』ではなく、もっと近くにある……墨汁と水を分けた和紙くらい薄っぺらい境界線でしかない」
「もっとわかりやすく言え、無駄に意味深にしすぎて意味が分からん」
万丈目の言葉に永理は露骨に不満げに「えー」とぶーたれる。
正直、十代も万丈目と同じ気持ちだった。無駄に詩的にしているせいで、結局何を言いたいのか全然伝わってこない。
「まあ分かりやすく言うと、ネフレン=カの魂という水に俺、月影永理という墨汁を垂らしまくって汚染したぜってこと」
「いや汚染て……というか、そんなの、簡単にできる訳が━━」
「出来るとも!」
永理がくるくると血をまき散らしながら、天に向かって叫ぶ。
どう見ても致死量、というか人体の内臓量以上の血が出ているが、永理は気にしない。
「転生者にして厨二設定持ち! 更に悲惨な過去持ちでもう一つの魂は闇の大神官という定食屋のチャレンジメニューもかくやという激盛り設定! そんな俺に、主人公である俺に不可能なんてのは彼女を作るってこととスポーツで活躍するってこと以外無いのさ!!」
「無茶苦茶だ!」
「無茶も道理もぶっちぎるのが主人公さ! もっとも、ライフの半分を俺の魂と勝手に直結させていたせいで、少々復活に手間取ってしまったがな!」
フハハハと、ネフレン=カ以上に悪どい、ひどく言えば三下めいた笑い方をする永理。もはやその顔は主人公ではない、どう見ても、ついでに台詞も主人公ではない。
とはいえ、事実永理はそれを実現させた。
そして、永理の意識さえ戻ったのならば、この闇のデュエルもすぐに終わらせられる。万丈目は不服だろうが、世界の命運には代えがたいだろう。
「まっ、まあ……とりあえず、永理が元に戻ったってなら、もうこのデュエルも終わるよな? 神との対決は確かにすっげぇワクワクするんだけど、世界の命運を天秤にかけたら流石にな……」
「ふんっ、カードで壊れる世界なぞ壊れてしまえば良いだろうに」
十代の言葉に、目に見えて不機嫌になる万丈目。
当然だろう。彼の目的はデュエル、その言葉に表も裏もなく、純粋であるがゆえにひどく歪んでいる。
その為なら友達も家族も、世界だって切り捨てるくらいには。
「んー、確かに! このまま俺がサレンダーすれば物語は解決、亮も戻って何もかもが完璧パーペキ元に戻る……とはならないのさ十代」
「なんかお前、この状況を楽しんでないか?」
「人間いざとなりゃ世界崩壊も大戦争も楽しめるのさ。さて十代、なにか異常に感じたことはなかったか? そう例えば、なにか大切なものを失ったりとか」
大切なもの、月影永理の言うそれに、十代は思い当たるものがあった。
失血多量による後遺症なのかと勝手に結論付けて、勝手に納得していたのだ。
「そういや、精霊が見えなくなったけど……まさか!」
「そう! そのまさかさ! 精霊はすべて、こいつとあと二枚のカードに吸収されている!」
そういって永理は、黒い球体の描かれた紙のカードを十代に見せた。
そのまま永理は、謳うように言葉を紡ぐ。
「精霊はいわば燃料、それを消費し起動させる為の電気がデュエルエナジー! もし神を殺さずデュエルを終えてしまえば、我らが世界は助かる……が、はてさて精霊はどうなるか」
「そんな、まさか……!」
永理が意味深に、妙に影の差した笑みを浮かべながら、不吉なことを言う。
しかし、であるのならばなぜ、万丈目は何も言わなかったのか。彼にも二人、大切な精霊がついていた筈。もし二人の姿が見えなくなるのであれば普通、多少は取り乱すはず。
だというのに万丈目は、いつもと変わらぬ様子でデュエルをしていた。
故に十代は、それを異常とは気づかなかったのだ。
「そう! 精霊もとろもまとめてドカンさ! さて十代、遊城十代……真の英雄たるものとして、どう動くのが正義か……分かるだろう?」
「お前絶対楽しんでるだろ!!」
あきらかに、あからさまに永理はこの状況を楽しんでいる。
それがなぜかは分からない。だが、楽しんでこそいるが、永理が嘘をついているとも思えない。
故に十代は、永理の言葉を信じ、掲げられた選択から選ぶ。
「……もちろん、決まっている」
「そう! 精霊もろともついでに俺も助け出しのハッピーエンド!! これこそが真の英雄にふさわしい最後だ!」
十代の言葉を遮り、自分の出した結論に余計なものも付け足して永理が横槍を入れる。
確かに永理も助けるつもりではあった。まあ、世界かどちらかと言われたら世界を取ってしまうのだが……。
「ふん、要するにこういうことだろう。貴様をぶちのめし腹の中のものをすべてぶちまけさせれば、どっちの世界も救われる……良いじゃないか、貴様がサレンダーする理由が消えた」
「ねえ万丈目お前からの殺意半端ないんだけど……っと、どうやら立て直したみたいだ」
自らの心臓部にナイフを突き立てながら、永理はいつものように、何を考えているか分からない笑みを浮かべる。
そして勢いよく刺し、血をぶちまけさせると、そこには元の、生気を取り戻した瞳をしたネフレン=カの姿があった。
言いたい放題言うだけ言って、無駄にプレッシャーをかけ、ネフレン=カを無駄に疲弊させて帰っていった。
「チッ、奴のせいで色々と計画が台無しだ! なにが『このままでは埒が明かん、何よりちっとも面白くない』だ! なぜ我が奴を楽しませねばならんのだ!? なぜああまで無茶苦茶なのだ!?」
どうやら永理と切り替わる前に、ネフレン=カになにかアドバイスを送ったようだ。ネフレン=カは忌々し気に毒を吐き、十代はその言葉に同意した。
「本当めちゃくちゃだなあいつ、今さらだけど……」
「何を今さら。奴のせいで俺は毎日毎日ピコピコチカチカドンパチと……あの馬鹿に人としての常識があると思うな、人としてはネフレン=カの方が何十倍もマシだぞ」
万丈目はネフレン=カを指さしながら言う。
世界を三千年前に戻そうとする怪物、それが、まだ人間としてまともと万丈目に言われるとは……。
とはいえ、十代も同じ思いだった。もっとも、だからこそ何をしでかすか分からず、一緒にいて飽きないのだが。
「奴の言葉に乗るのは癪だが……ええい、事実なのがまた腹立つ! ライフを2000ポイント払い、魔法カード発動、次元融合! このカードは、お互いの除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する魔法カード!」
「カウンター罠、魔宮の賄賂! 魔法・罠カードの発動を無効にし、一枚ドローさせる!」
万丈目の発動した罠により、不自然に歪んでいた空間が砕け、そこから一枚のコインがネフレン=カの頭上に落ちた。
ネフレン=カは渋い表情でカードをドローする。引いたカードを確認すると、くつくつと笑みを浮かべ、発動させる。
「フィールド魔法、失楽園を発動! カードを二枚ドローする! 更に魔法カード、魔法石の採掘! 手札二枚をコストに、墓地の次元融合を手札に! そして2000ライフポイントを払い発動! 現れよ、除外されている三幻魔よ!」
ネフレン=カの場にまたしても、三体の神が現れる。
一気にのしかかるプレッシャーはやはりかなり重いが、だが、そのどれもが十代のシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力より下のモンスターばかりだ。またアーミタイルで攻撃したとしても、返しのターンに万丈目のモンスターから総攻撃を受け負けてしまうのは、ネフレン=カもよくわかっている筈。
「見るがいい! こやつら三幻魔のような贋作の神とは違う、真の神の姿を!」
三幻魔の足元に突如闇より濃い影が現れたかと思うと、無数の闇の棘が三幻魔を貫き、寄生植物のように身体にまとわりつく。
闇が三体の幻魔を飲み込み、足元からグズグズに溶かしていく。ペースト状に溶けたそれはどこへ垂れ広がる訳もなく、足元の闇へと吸収されていく。
やがて闇が大きく膨張し、骨すらも飲み込んだ。
「三幻魔を生け贄に捧げ、現れろ、THE DEVILS DREAD-ROOT!」
それが現れた瞬間、とてつもない重圧が十代達に伸し掛かる。
足元に広がった闇に、まるで引き寄せられるように何千本という、不気味な色をした触手が、太陽を引きずり込まんとばかりに伸びる。
それはさながら、実現されたバベルの塔のようだ。
その触手が複雑に絡み合い、ねじり切り合い、徐々に人の姿を作っていく。
最初に現れたそれは、翡翠のような色をした肉だった。触手が一本ずつ繊維になっていき、次第に巨大な身体を作っていく。
それは、まるでボディビルダーから無理やりはぎとったような、やや不自然な筋肉だった。
不自然ながら、だが人と分かる肉体を作り上げていく。やがて完璧に肉体を作り上げると、今度は身体の外側を這うように、ゴリリと骨が浮き上がってくる。
手の甲と肘から、楔のように巨大な黒い棘が生える。頭に浮き出た骨が、羊の角のように捻じれる。
そして出来上がったのは、冒涜的な威圧感を放つ巨大な悪魔だった。
「こ、これが、ネフレン=カの切り札……」
呆然と、十代が呟く。まるで、この世ならざるものを目撃したかのように。
一方的に放たれる圧倒的威圧感に、膝をつきそうになる。これにはどうやっても勝てない。本能が、そう叫んでいるかのように。
そして、その重圧は、ソリッドビジョンという作り物にも影響しているようだ。
まるで邪神に畏怖するかのように、絶対に敵わないと絶望しているかのように、あらゆるモンスターたちの攻撃力が半減している。
それは、恐怖に打ち勝つべき英雄も例外ではない。
「我が邪神の前には、あらゆるモンスターの攻撃力は半減となる! まずは危ない芽を摘んでおこうか……DREAD-ROOTよ、シャイニング・フレア・ウィングマンに攻撃せよ!」
THE DEVILS DREAD-ROOTがシャイニング・フレア・ウィングマンに手を伸ばす。
指が何千との数に裂け、冒涜的に悍ましい触手が、シャイニング・フレア・ウィングマンへと襲い掛かる。
もしこのまま攻撃が通ってしまえば、十代のライフは尽きてしまう。そうなれば、万丈目に残された勝ち筋は潰えてしまう。
「くっ、シャイニング・フレア・ウィングマン!」
確かに、万丈目はデュエルが好きだ。世界の危機な状況でも嬉々としてデュエルが出来るくらいには好きだ。
だが、勝ち目の無いデュエルは嫌いなのだ。故に、途轍もなく屈辱ではあるのだが、万丈目は十代を守らなければならない。
「ネフレン・カの攻撃宣言時、速攻魔法虚栄巨影を発動! 場のモンスター一体、つまりシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力を1000ポイントアップする!」
「だが! それでも全然、DREAD-ROOTを倒すには程遠いぞ!」
THE DEVILS DREAD-ROOTの効果は、処理の都合上最後に計算するようになっている。
すなわち、シャイニング・フレア・ウィングマンはたった500しか攻撃力のサポートを受けられないということだ。
確かに、ネフレン・カの言うように、これではドレッド・ルートを倒すことはできない。
「だが、耐えることはできる!」
シャイニング・フレア・ウィングマンが腕から出した炎で、ドレッド・ルートの出した触手を焼き払う。
触手は凄まじい質量と速度で迫っていたため、その余波が十代の方にも流れてしまった。
「ちょっ、結構辛い!?」
「ふん、たった150のライフでなにが出来る!」
ネフレン=カが嘲るように笑う。
そう、ネフレン=カの言うように、十代の残りライフはたったの150。ギゴバイトの攻撃力分しかライフは残されていない。
対し、ネフレン=カのライフは4400。血とか臓物とか色々と出ているが、現状、ライフアドバンテージを制しているのはネフレン=カの方だ
だが、十代は不敵に笑った。まるで、このような状況なんてへの河童とでも言うように。
「ヘッ、でもまだ150もライフが残ってるんだ! デュエルってのは、最後まで何が起こるか分からないもんだろ?」
「ならばその強がりも打ち砕いてくれよう! アーミタイル、止めを刺せ!」
アーミタイルが全身から黒い血を吹き出し、その血が亡者の手の波を作りシャイニング・フレア・ウィングマンへと迫る。
アーミタイルの攻撃力はバトルフェイズのみだが10000、この攻撃がまともに通れば、十代のライフは尽きてしまう。
だが、ここまで窮地に追いやられているというのに、十代は不敵に笑った。
「罠カード発動!」
「ふん、神にどのような小細工も通用しない!」
「ああ、神にはな! 罠カード、ホーリージャベリン!」
十代の足元に、天使の羽が生えた投げ槍が刺さる。
すると、迫りくるどす黒い冥府の手と相反するように、ジャベリンから虹色に輝く手が同じように生え、波を打った。
ぶつかり、打消し合う手の波。だが虹色の波は、肌を焼く瘴気を抑えきれなかった。
冷たい死者の腕の余波が、十代を襲う。
「ぐわああああああ!!」
「……本当に回復しているのか、あれは」
万丈目は訝し気な目で、傷つく十代を見やる。
闇のデュエルでは痛みを感じることはあっても、それを癒される感覚は無い。回復すればするだけ、痛みを感じる時間が増えるだけだ。
だが、ネフレン=カ好みの苦痛を与えているというのに、その表情は苦々しいものだ。
彼は、永理の記憶を、人格を、思考回路すべてを記録し、模写し、参照している。そのネフレン=カが取り入れた永理が警鐘を鳴らすのだ。『このままでは不味い』と。
「チッ、しぶとい! カードを二枚セットしターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!
レジェンド・デビルを守備表示! カードをセットしターンエンドだ!」
壁モンスターではなく、魔法か罠かを伏せてターンを終了させる万丈目。
十代はその万丈目を信用し、カードを引く。
「ドロー!
……ネフレン=カ、お前の負けは決定したようだぜ!」
「ハッ、世迷言を! 我がドレッド・ルートは攻撃力を半減させる高火力モンスター! 攻撃力8000以上でなければ、我が神を戦闘破壊するなど不可能だ!」
「恐怖に打ち勝つのがヒーローってもんだぜ! 手札からE・HEROキャプテン・ゴールドを墓地へ送り、デッキから摩天楼-スカイスクレイパー-を手札に加える!」
そのカードの名前を聞き、ネフレン=カの記憶に映した永理が警鐘を鳴らす。
E・HEROより攻撃力の高いモンスターと戦闘を行う場合、E・HEROの攻撃力を1000ポイント上げるフィールド魔法。
「フィールド魔法、摩天楼-スカイスクレイパー-を発動!」
十代がカードを発動させると、血の滴る海岸だった場所が、まるでタイムズ・スクエアのように、縦に積まれている看板や背の高いビルが並ぶ大都会のど真ん中へと変化する。
墓地にキャプテン・ゴールドが行ったことで、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は300ポイントアップした。そしてスカイスクレイパーの効果でドレッド・ルートを攻撃すれば、本来の上昇値の半分である500ポイントの攻撃力を加えれば……総攻撃力は4200、ドレッド・ルートの攻撃力を200上回った!
「バトル! シャイニング・フレア・ウィングマンでDREAD-ROOTを攻撃!」
シャイニング・フレア・ウィングマンが看板を伝って天高く飛ぶ。満月に照らされた機械仕掛けの羽は神を思わせるほど美しく輝く。
その輝きは炎となり、シャイニング・フレア・ウィングマンを包み込む。
「シャイニング・スカイスクレイパー・シュート!」
その炎は、さながら神の投げた槍が如き美しさでTHE DEVILS DREAD-ROOTへと飛来する。
この攻撃が通れば、ネフレン=カのライフは大きく削られる。一気に不利に陥ってしまう。それだけは、なんとしても避けなければならない。
月影永理とかいう雑念のせいで負けるなど、あってはならない!
「速攻魔法、サイクロン発動! スカイスクレイパーを破壊!」
ネフレン・カの足元から現れた竜巻が、ビルをなぎ倒さんと膨張する。
だが、突如飛来した小判が爆発したかと思うと、その竜巻を霧散させた。
「カウンター罠、魔宮の賄賂。サイクロンは破壊だ」
哀れ、無情な罠がネフレン=カの希望を打ち砕く。
このままでは、夢半ばで死んでしまう。永理という化け物を取り入れ、浸食されながらも足掻いたすべてが、消えてしまう。
そんなの――――そのようなこと、あってあろうはずが無い!
「おのれ――――おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれェェェェッ!! DREAD-ROOT!! 貴様は神なのであろう、オシリス・オベリスク・ラーすら破滅させる為の抑止力! 我が半身であろう!!! であれば! その程度の炎如き防いでみろ!!!」
無茶を承知でネフレン=カは神に命ずる。
その命令を聞き届けたのか、DREAD-ROOTは右腕の血管触手を一点に凝縮し、巨大な杭のようなもので覆う。
そして落下してくる白い炎の塊に向けて、渾身の右ストレートを放つ。
打ち込んだ衝撃で看板が吹き飛び、ビルの窓ガラスが雨となる。
シャイニング・フレア・ウィングマンの炎とDREAD-ROOTの拳が激突し、衝撃波が大地を蹂躙する。
やがて炎は消え去り、シャイニング・フレア・ウィングマンは地面へと落下した。
「や、やった……ハッ、ハハハハッ、アハハハハハハッ! やはり神の前には、どのような攻撃力を持とうと――――」
だが、DREAD-ROOTの腕に白いヒビが入ったかと思うと、途端にそれが伝線するように、腕から肩へ、肩から全身へと広がっていく。
神とてゲームにおいてはルールに服従する下僕でしかない。
デュエルモンスターズは、時に現実より優しく、時に現実より厳しいのだ。
「感謝するぜ、ネフレン=カ。お前のおかげで、俺の長年の夢をかなえることが出来たんだからな」
「ばっ、あっ、ありえん……そんな、そんなことが! そんなことが!」
やがて白いヒビがDREAD-ROOTの頭部へ到達したかと思うと、爆発したように爆ぜた。
冒涜的な色をした内臓と、飛び散った脳みそが濁流となりネフレン=カを濡らし、破片となった頭骨がネフレン=カの全身を切り刻む。
そして、その血がまるでガソリンのように、シャイニング・フレア・ウィングマンから着火してしまった炎が纏いつく。
「あああああああっ!! あっ、きっ貴様あああああああっ!!!!」
「ちょっ、まっ永理!!」
「シャイニング・フレア・ウィングマンが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った場合、相手にそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。ここまでやって、ようやく形勢逆転か」
炎に悶えるネフレン=カとそれを心配する十代を眺めながら、万丈目がウンザリしたように呟く。
亮というアカデミア最強の犠牲と、限界まで削られたライフ。全身には血が滲み、火傷が痛々しく存在を主張する。
ここまで苦労してようやく追い詰めた。だが、油断は出来ない。
転げまわることでなんとか鎮火したものの、全身が炎で焼けただれたネフレン=カは荒い息で十代をにらみつける。
「ぐっ、殺す……貴様だけは、必ず!!」
「えと、カードをセットしてターンエンド!」
ネフレン=カをあんな目に遭わせてしまったとはいえ、十代は気を抜かない。手も抜かない。防御をしっかりと固め、相手の動きに対応する。
神であろうと何であろうと、確実に堅実に動く為に。
ネフレン=カは無言で、血をまき散らしながらカードを引き、口角を上げた。
「……失楽園の効果で二枚ドロー!
もはやこのカードも必要あるまい。魔法カード、マジック・プランターを発動! スピリット・バリアを墓地へ送り、二枚ドロー!
来たか……魔法カード発動、至高の木の実! こいつは自分のライフが相手より少ない場合2000ライフポイントを回復し、相手より多い場合は1000ポイントダメージを受けるカード。十代、貴様の使用したホーリージャベリンのおかげで、その条件を満たすことが出来たわ! 我はライフを2000回復!」
ネフレン=カの言葉に、十代は歯噛みする。
もし十代がホーリージャベリンではなくホーリーライフバリアーを入れていたら、ここまで追い詰めたとしてもライフは十代の方が下、つまり至高の木の実を発動できなかった。
結果論ではあるが、十代はネフレン=カを優位に立たせてしまったのだ
「幻銃士を召喚し、場のモンスターの数だけ銃士トークンを特殊召喚する! 現れろ、二体の銃士よ!」
これでネフレン=カの場に、三体のモンスターが揃ってしまった。
だが、すでに召喚権は消費済み。このままでは何も召喚することはできない。
が、ネフレン=カは不敵に嗤う。
「永続罠発動、血の代償!」
「ライフを500削ることで召喚権を増やすカード……まさか、まだデッキに入れていたのか!? 神を!!!」
「然り、ならば見よそして慄き跪き恐怖しろ! ライフを500支払い、幻銃士とトークン二体を生け贄に捧げ、現れろ! THE DEVILS ERASER!」
みなさんお待ちかね!
ついにドレッド・ルートを倒した十代。
ですが、怒りに燃えるネフレン=カは、これまでの苦労と己の野望を懸け、最大最悪の邪神を召喚し、二人に挑みます!
月影永理の暴走『さらば永理! マスター・おバカ、暁に死す』に、レディ・ゴー!!