月影永理の暴走   作:黄衛門

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第59話 月影永理の暴走 partFINAL

 幻銃士達が激しく痙攣し始めたかと思うと、爆竹を詰め込んだカエルのようにはじけ飛び、真っ黒い血だまりがネフレン=カの血と混ざりあう。

 そして、その血だまりから凄まじい勢いで飛び出す巨大な竜の姿が。

 血の滴るその化け物は、何千万という亡者の手を組みながら作られた、骨ばった竜だった。人間のような上半身に竜の頭と下半身を無理くりくっ付けたような歪な姿は、うすら寒い恐怖を掻き立てられる。

 

 だが、それ以上に異質なのが眼だ。イレイザーの肉が鼓動するごとに、無数の黒い筋肉繊維が脈動するごとに、全身に潜む有象無象の赤い眼が瞬きする。

 その眼が神に挑む二人を視界に映すたびに、根源的恐怖が腹の底から這い出てくる。

 

「THE DEVILS ERASER……こいつは相手場のカードの枚数×1000ポイントの攻撃力となる」

 

「……序盤ならばともかく、一人減った終盤ではたった攻撃力6000。運が無いようだな」

 

 万丈目が言うように、ERASERの攻撃力では、十代の場に存在している本来の攻撃力を取り戻したシャイニング・フレア・ウィングマンを倒すことはできない。現在、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は7200、ERASERでは戦闘破壊をすることはできず返り討ちに遭うだけ。

 もし亮がいる状況で出せていたのならば、かなりの脅威となっていただろう。だが、ネフレン=カはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「なにか勘違いしているようだが、このカードの真価は攻撃力じゃあない」

 

 そう、神のカードが、たかが攻撃力の増減だけで終わるはずが無い。

 

「我はライフを500支払い、神を生け贄に捧げ、人造人間サイコ・ショッカー召喚!」

 

「なっ、神を生け贄に!?」

 

 十代が驚くのも無理は無い。

 神とは、それ一つだけでデュエルの戦局を簡単にひっくりかえせるカードだ。罠も、魔法も、モンスター効果すら寄せ付けない。神は神か、それを打倒するだけの力を持ったモンスターでしか破壊できない。

 それをわざわざ生け贄にしたということは……生贄の抱く爆弾でも警戒したのだろうか。

 だが、すぐにその答えは出ることとなる。

 

 ERASERの肉体がどろりと蠢いたかと思うと、水にドライアイスを入れたかのようにふつふつと膨れ上がり、破裂した。

 吹き上がるおどろおどろしい肉が、まるで豪雨のように降り注ぐ。

 その肉の雨に触れた瞬間、シャイニング・フレア・ウィングマンが溶けた。

 まるでアイスクリームに熱湯をかけるかのように、シャイニング・フレア・ウィングマンが溶けていく。生身も鉄も関係なく、すべてが。

 そして、それはシャイニング・フレア・ウィングマンだけではなかった。エアーマンは上空に風の屋根を作ろうとするも、その風もろともが黒い肉に侵され、溶かされる。

 スカイスクレイパーのあちこちから悲鳴が上がり、ビルがなにかも諸共、鉄も光も関係なく溶けていく。

 見れば、他のカードも同じように溶けていく。万丈目のレジェンド・デビルも、伏せていたカードも。

 

「ERASERが場を離れたとき、すべてのカードを墓地へと送る。当然アーミタイルも代償も墓地へと送られるが、まあ些細な問題だ」

 

 当然のように、ネフレン=カは神を切り捨てた。

 あれほどまでに尽くしたアーミタイルを、まるでそこらの石ころのように視界にすら入れず、血に濡れた笑みを浮かべている。

 混沌帝龍と同じような、フィールドリセット効果。これが神の効果、これがネフレン=カの切り札。

 

 やがてなにもかもがきれいさっぱり消え、元の崖へと戻っていた。

 否、一つだけ違う。ERASERがすべての血肉を吐き出し倒れると、そこから現れる、緑色のサイバー服に身を包んだ、血管の浮き出た頭をしている男。

 

「サイコ・ショッカー……チッ、奇を衒わず素直に面倒なカードを出してきやがった」

 

 サイコ・ショッカー。決闘王『武藤遊戯』の友人、城之内克也の使うエースカードの一体。

 その効果は罠カードの封印。王宮の封印を内蔵した、2400打点のモンスターだ。

 

「ではとどめを刺してくれよう! サイコ・ショッカーで十代、貴様にダイレクトアタック!」

 

 サイコ・ショッカーが十代へと肉薄し、サ首を掴む。

 人知を超えた動きに、ただの学生が対応できるわけもない。そのまま持ち上げられ、十代を掴んだままサイコ・ショッカーは、掌にサイコエネルギーを集中させる。

 

「ぎゃああああああああっ!!!」

 

 眩い光が十代を内部から照らし、肉を焼く。

 そのまま十代は、サイコ・ショッカーに首を掴まれたまま、闇へと消えていった。

 

「クックックッ、ターンエンド!!」

 

 サイコ・ショッカーが場に存在する限り、罠カードに意味は無い。だが突破されないとも限らない。

 だというのに、豊富な手札を持っているくせに、何も伏せずにターンを終了させた。

 あそこまで引いてカードが何もないのか……それとも、何か狙いがあるのか。

 どちらにせよ、万丈目の取れる手段は限られている。丹精込めて育てたレジェンド・デビルはもう無い。

 デッキ内のパワーカードは少ない。それもサイコ・ショッカーを相手にするのならば……

 

「俺のターン、ドロー!

 魔法カード、闇の誘惑! カードを二枚ドローし、手札の闇属性モンスター、ヘル・エンプレス・デーモンを除外する! そして手札一枚を捨て装備魔法、D・D・Rを発動! 来いっ、ヘル・エンプレス・デーモン!!」

 

 紫色の雷雲の中、突如現れたいびつに歪んだ次元を、悪魔のような模様を付けた先端が二つに割れた杖で振り払い、紫色の肌をした悪魔が現れる。

 万丈目のエースモンスターの一体。そして、万丈目と一番長い付き合いのカード。だからといって万丈目は、決して彼女の為にはデュエルしないだろう。

 彼は最初から最後まで、自分勝手な人間だ。生きるためではなく、名を遺す為に。壮大で満足な死を得る為にデュエルをする。

 

「キラー・トマトを召喚! バトルだ! ヘル・エンプレス・デーモンでサイコ・ショッカーを攻撃!」

 

 ヘル・エンプレス・デーモンが杖を振り、暗黒の電を目の前に作り出し、サイコ・ショッカーに放つ。

 サイコ・ショッカーはそれに対抗する為にサイコエネルギーを手元に集めるも、一歩遅く━━呆気なくサイコ・ショッカーのサイコエネルギーはかき消され、全身をショートさせ、消滅した。

 これでネフレン=カの残りライフは1400、リクルーターのキルラインへと突入した。

 

「キラー・トマトで直接攻撃!」

 

 キラー・トマトが途轍もない速度でネフレン=カへと転がる。

 これが決まれば、ネフレン=カのライフは0となる。そしてついでに永理も消える。その攻撃に躊躇は無い。

 だが、突如として鳴り響いた鐘の音によって、キラー・トマトの攻撃が中断されてしまう。

 戦闘の巻き戻し、ではない。

 ネフレン=カの場に存在している、悪魔のような姿をした振り子がそれを物語っている。

 

「バトルフェーダーか……」

 

「そうとも、貴様のバトルフェイズは終了した。とっととターンを我に明け渡せ」

 

「チッ、墓地のキラー・トマトとレジェンド・デビルを除外して、手札からダーク・ネフティスを墓地へ送る。ターンエンドだ」

 

 未だライフ差は万丈目の優勢、だが相手はあの永理モドキだ。永理の発想力に、ネフレン=カの常識力。この二つが組み合わさったときの厄介さは、ここまでのデュエルが物語っている。

 故に決して油断はしない。どのような動きをしようと、永理ならばあり得るからだ。

 

「我のターン、ドロー!

 クックックックッ……冥途の土産だ、貴様に最後の邪神を拝ませてやろう! 手札から幻銃士を召喚し、効果発動! トークンを二体特殊召喚!!」

 

 この動きは予想していた。していたが……確率は低いと切り捨てていた。

 いくら永理の知識で作ったとはいえ、相手はネフレン=カだ。最悪の悪意と常識を併せ持つ厄介なファラオ。

 最上級モンスター四体に重い召喚コストを必要とする二体を投入したデッキなら、どこかで妥協しているのではと思っていたが……どうも、そううまく動いてくれないらしい。

 とはいえ、することは変わらない。永理をネフレン=カごとぶっ飛ばすだけだ。

 

「魔法カード、二重召喚! これにより召喚権を増やす! さあ三体のモンスターを生け贄に捧げ、現れろ! THE DEVILS AVATAR!!」

 

 そこに現れたのは、これまでの邪神と違い━━否、これまでのモンスターと違い、明らかに異質だった。

 DREAD-ROOT、ERASERも他のモンスターに比べれば異質といえば異質であったが、彼らには姿があった。

 だが、これは違う。

 無い(・・)のだ、なにも。

 なにも無い(・・)というのに、なにかがある(・・)という認識だけが一方的に流れ込んでくる。

 

 神は、海外では不可侵の存在として崇められている。

 人間では近づくのはおろか、その姿を拝むことすら許されていない。故に人は想像で神を創り、それを崇めたのだ。

 であれば、万丈目の目の前に存在するこれは、本当に神なのだろうか。

 

「━━面白い! 来い!!」

 

「ふん、精々踊れ道化! バトル! AVATARでヘル・エンプレス・デーモンを攻撃!」

 

 ヘル・エンプレス・デーモンの影が独りでに動いたかと思うと、なぜか本体である筈の彼女自身が、自らの首に手をかける。

 顔に浮かぶ恐怖の表情、だが無情にも力は緩めない。まるで機械のように、一切力を緩めることなく、首を絞める。

 やがて白目をむき失禁したのを影が確認すると、突如糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

「ヘル・エンプレス・デーモンの効果発動! 場のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、ヘル・エンプレス・デーモン以外の闇属性・悪魔族・レベル6以上のモンスターを特殊召喚する! 来い、レジェンド・デビル!!」

 

 効果は問題なく発動したのを見て、万丈目は自分の残りライフを一瞥する。

 2999、攻撃されることによって1ライフが削られている。

 

 デュエルモンスターズにおいて『1』というのは特別な意味を持つ。

 例えばラーの翼神龍はライフを1になるように払うことで攻撃力を上げ、とある神は相手ライフを強制的に1にする効果を持つ。

 『1』とは原初である。始まりである。物事においては全て『1』より作られる。

 そして今回、万丈目はライフを1減らされた。

 それだけで、万丈目にとっては十分な情報だった。

 

「ふん、無駄な足掻きを! カードをセットしターンエンドだ!」

 

「無駄に足掻いているのはお前の方だろう、ネフレン=カ」

 

「……ふん、虚勢で吠えるな負け犬めが。所詮貴様のようなクソガキに、AVATARを倒すことはできまい!」

 

 万丈目はその言葉に、己の予想が当たっていたと確信する。

 そして、脳内でこれまでネフレン=カが言っていた言葉を全て掘り返す。そこに答えが眠っている。記憶の底の底、そこには確かに転がっているのだ。ネフレン=カが自分で語った、邪神の弱点が。

 

 そして、一つのピースを見つけ出した。

 だが、今そのカードは手元に無い。無いのであれば、なんとしても手繰り寄せるしかない。

 

「いいや、貴様はこれで永理諸共に終わりだ。ドロー! スタンバイフェイズ、墓地のダーク・ネフティスを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 万丈目の場に現れる、真っ黒な鎧。上半身こそ女性の姿をしているが、下半身はまるで鳥のように膨れている。

 やがて酷く焼け付く乾き声と共に、鎧を肉が満たしていく。

 骨は筋肉となり、筋肉に皮膚が浮かび、青い肌を作り出す。

 それが完全に人の姿となると、まるで覚醒を待っていたかのように、下半身の上背近くにある羽根が大きく広がり、血を燃料としたような赤黒い色合いの炎を出した。

 まさに不死鳥、闇に身を堕とせし不死鳥の貫禄。

 だが、それでも。神には到底届かない。

 

「ダーク・ネフティスが特殊召喚に成功した時、相手の魔法・罠を一枚破壊する! 俺はその伏せカードを破壊!」

 

「チッ、銀幕が……だが、それでも! AVATARを倒すことは不可能だ!! そんなチンケなモンスターではな!!」

 

「いいや、こいつは養分さ。魔法カード、アドバンスドロー発動! レベル8以上のモンスター一体を生け贄に捧げ、カードを二枚ドロー!」

 

 ダーク・ネフティスはその姿を消し、万丈目に手札という金を与える。

 それが果たして農夫と同じ結末を辿るのか……引いた二枚を確認し、万丈目は口角を上げる。

 

「邪神、それは三幻神が奪われた際の抑止力……ならもし、二種類とも奪われたとしたら、その抑止はいったい何が行うか」

 

「貴様、何を━━ッ!! まさか、貴様!」

 

「そう、そのまさかだ! 魔法カード発動、死者蘇生!」

 

 万丈目が引き当てた逆転のカード、死者蘇生。

 効果は単純、だが単純だからこそ強い。思えば、これも鍵だったのだろう。神を殺す為の、一般人でも抑止出来るようにとの。

 

「貴様の墓地からTHE DEVILS DREAD-ROOTを攻撃表示で特殊召喚する!!」

 

 ネフレン=カの墓地から万丈目へとカードが飛ぶ。

 そして万丈目の場に現れる、混沌の王。それと同時に、万丈目の全身を酷く厭な感触が駆け巡る。

 まるで神経全てにヒルを這わされているような、それでいて凍えるような激しい悪意が万丈目の脳を汚染する。

 

 常人には耐えがたい、激しい嫌悪感。ただの人間にはそれを耐えることは不可能である。

 であるが故にネフレン=カは、圧倒的優位でいられるのだ。常人であれば廃人となる悪意すらも操るネフレン=カだからこそ。常時発狂し常時本能的理性で動く永理だからこそのカード。

 

「ハッ、ハハハッ。馬鹿め、こいつは邪神であるぞ? 我と波長が合い、常時発狂しているような奴ならばともかく、貴様のようなただのガキが━━」

 

「クッ、クハハッ……」

 

 だというのに、万丈目は嗤った。

 ネフレン=カは、その姿に目を見開く。

 脂汗で髪は濡れ、息も上がっている。邪神に仕込まれた『悪意』という名の爆弾は起爆している。

 だというのに万丈目は、心底楽しそうに嗤っている。

 

「生憎だが、俺は既に発狂している。デュエル狂という名の発狂をな!」

 

「あっ、あり得ない……そんな、貴様が邪神を……」

 

「さあバトルだ!」

 

 万丈目の言葉に、呆然としていたネフレン=カは意識を取り戻す。

 あり得ない話ではない。永理という例外がいたではないか、と。

 それに、未だ優位に立っているのはネフレン=カの方だ。相手はまだAVATARの効果を完全には知らない。

 知らないのであれば、勝てる。なぜならAVATARは必ず相手の攻撃力を上回るのだからら(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「DREAD-ROOT、目障りな神を殺せ!!」

 

「馬鹿め! 死ぬ前に教えてやろう、AVATARは絶対に戦闘で破壊されない! 全てのモンスターの攻撃力を必ず1上回るんだからな!!」

 

「逆に教えてやろう。同じ階級同士であれば永続効果ってのは━━」

 

 DREAD-ROOTは自らの影に拳を振るう。拳は空気摩擦によって闇の炎を灯し、AVATARを━━大量の臓器と目玉が球状に凝縮されたものを浮かび上がらせる。

 そして拳はAVATARへと叩き込まれ、AVATARの内部で一度手を開き、臓器をひっつかみ無理やり引きずり出した。

 宙に浮かぶ、AVATAR。DREAD-ROOTは大きく振りかぶりその肉塊を狙う。

 

「最後に出した効果が優先されるんだ」

 

 DREAD-ROOTが拳を叩き込んだ瞬間、AVATARは数多の臓器と真っ黒い血液をまき散らしながら、ネフレン=カの方へと吹っ飛んでいく。

 それはネフレン=カの足元まで吹っ飛びめり込んだかと思うと、手りゅう弾のように肋骨やら臓器やらをまき散らしながら派手に爆発した。

 

 ネフレン=カのライフが0になり、勝負は決した。

 やがてネフレン=カの顔から生気が消え━━死後三日は経った野心溢れていたであろう革命家のような瞳に戻っていた。

 

「やっと終わったか」

 

「チッ、生きていやがったか……」

 

 一瞬、死んだ眼をしているので本当に死んだかと期待したのだが、どうやら未だ生きていたようだ。

 だが明らかに致死量な血と傷が出来ている、いつ死んでもおかしくは無いだろう。今はデュエルエナジーのおかげで、なんとか延命できているだけに過ぎない。

 空を見れば黒い竜巻も暗雲も消え去り、暗黒のファラオが消えたのを祝福するかのような青空が広がっている。

 

「しっかしあの野郎、派手に傷つけやがったな……腕とかもうこれ千切れかけじゃ━━」

 

 永理が愚痴りながらDREAD-ROOTの攻撃の衝撃で影ぎりぎりまで吹っ飛ばされたアタッシュケースを回収しようとすると、不意に足元が崩れた。

 咄嗟に右手でアタッシュケースを掴み、左手を天へと伸ばす。

 だが、そこには誰もいない。そう、突き抜けるほど青い空が広がっているだけ。

 ああ、このまま死ぬのか。どちらにせよこの傷では遅かれ早かれといったところだ。

 

「潮時かね……」

 

 意地になって生き恥を晒してきた。前の人生より好き勝手しようと自重しなかった。『生きたい』という願いを優先し、悪魔の契約に乗った。

 その結果がこれだ。好き勝手やってこの最後、悪くないと永理は笑った。

 最後に手にしたのは、アタッシュケース。ネフレン=カが持ってきた、永理の生前のカード達。

 自分が集めたカードと一緒に死ねるなら……それはきっと、この世界なら本望といえるだろう。地獄の沙汰も金次第ではあるが、この世界なら金代わりにカードで支払えるのだろうか。

 どちらにせよ、死んでみなければ分からない。当然、死にたくはない。だが、もう、助からないのは永理にも分かっていた。

 そう笑いながら死を受け入れ、永理は眼を閉じると……ふいに、伸ばしていた左手を掴まれた。

 

「このっ……なに、死を受け入れてんだ馬鹿永理!」

 

「このカイザー相手に、勝ち逃げは許さんぞ……!」

 

 それは、腹を壊した時に助けてくれた恩人であり、アカデミア学生で一番最初にできた友人の声。

 それは、アカデミアで同じ趣味を共にし、お互いを認め合ったちょっと年上の友人の声

 その二人が、痛い目を合わせ殺しにかかった元凶である永理を助けようと、身を乗り出してまで手を伸ばしたのだ。

 身を全て乗り出して永理の手を掴む亮、それと必死に支える十代。

 

 そんな二人に対し、永理の口から最初に出たのは……疑問だった。

 

「なんで……なんでお前ら、そんな命を張れるんだよ……なんで俺なんかの、他人の為に、そんな、馬鹿じゃねえのか!?」

 

 永理は、何も与えていない。何も助けていない。

 ただ互いに、楽しく話したりしただけの、ただの友達……命を張る程の、危険を冒してまで助ける程の義理が無い、薄い縁の、卒業すれば終わりな友達だ。

 

「俺は、助けてもらうような借りを作ってない……なにも、なにもしていない! なのに、なんで俺なんかを」

 

「うるせぇ! テメェが助けてって言ったんだろうが!!」

 

「友人を助けるのは当然だろう……おい万丈目貴様も手伝え、このままじゃヤバいマジでヤバい」

 

 永理の手はネフレン=カによって傷つけられ、血でベタベタとぬらついている。そしてもう一つの手にはアタッシュケース。

 しかも十代と亮は万全な状態ではない。闇の力の影響か傷こそ治っているものの、まだ本調子ではない筈だ。

 それゆえか、プルプルと震え出した。

 

「……カイザー? 震えが尋常じゃないんだけど。落とすなよ、絶対落とすなよ!?」

 

「クッ、最近ずっとゲームやってたせいで色々と鈍ってる!」

 

「永理、そのケースから手ぇ放せ! このままじゃお陀仏だ!」

 

 アタッシュケースの重みは、割と馬鹿にできないほどある。満身創痍な状態である二人では、永理とアタッシュケースを一緒に救い上げるのは不可能だろう。

 だが、永理は首を横に振った。

 

「……手がしびれてて動きそうにない」

 

「クッソ、マジか……おいカイザー引き上げ━━」

 

 十代が言葉を言い終える前に、亮が足を滑らせたのだろう。

 突如として襲う浮遊感、重力に引かれる感覚。

 このまま三人死ぬのか、と思った時、突然グイっと後方へ引っ張られる。

 

「マスター、死んじゃ駄目です!」

 

「永理はともかく、貴様ら二人を殺す訳にはいかんからな」

 

「それがお望みとあらば、マスター……あっ、いい匂い」

 

「ふふっ、素直じゃないなーマスターは……後で交代だからね」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが亮の腰を掴み、それを万丈目、ヘル・ブランブル、ヘル・エンプレス・デーモンが支える。

 実体化、十中八九ブラック・マジシャン・ガールの仕業だろう。だが、今はそれが有難い。

 これだけいれば、拒食症気味の体重しかない永理を引き上げるなぞ、造作もないだろう。

 

「せーので引き上げますよ! せーのっ!」

 

 臓器が宙を浮く感覚と同時に、ぶちっという音が鳴った。

 急に掴んでいた手が軽くなり、見ると、永理が崖へと落ちていくところだった。

 

「えっ━━━━」

 

 十代は必死に手を伸ばす。だが、永理の千切れた腕に浮かぶ白い骨を掴むことも出来ず、永理の姿は、崖の下へと落ちていく。

 やがて永理の姿は波に飲み込まれて、消えた。




 有志の方が原作イレイザーの効果を考えてくれました。マジ感謝。

➀.このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールドのカードの数×1000ポイントになる。
⓶.このカードがアドバンス召喚の為のリリース以外の方法で墓地へ送られた時、フィールド上のすべてのカードを破壊する。
⓷.このカードが墓地へ送られアドバンス召喚した時に、そのアドバンス召喚したモンスター以外を墓地へ送る。
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