月影永理の暴走   作:黄衛門

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第7話 月影永理とプヒィィィップ!(前編)

 デュエルアカデミアは学校である。後に七つの鍵を巡ってバトルをしたり、変な宗教が流行ったり、異世界に飛ばされたりするが学校である。

 故に学校らしく、進学校らしく月一にテストがあるのだ。実技と筆記、その両方の点数がそこそこ良ければオシリスレッドはラーイエローへ、両方の点数がかなり良ければラーイエローからオベリスクブルーへ昇格する事が出来る。

 とはいえそれらは、オシリスレッドである十代、翔、永理には関係の無い話だった。いや、約一名十代と永理の間で机に突っ伏してる翔はかなり気にしていたようだが、どうやら爆死に終わったらしい。

 

「うぅ……もう駄目だ、おしまいだぁ」

 

「大丈夫なんだな、翔。また次の機会があるんだな」

 

 翔の後ろから、コアラっぽい見た目の大男。前田隼人が励ます。年上ではあるが、実力主義であるデュエルアカデミアなので留年しているのだ。いわゆる一つの強くてニューゲームである。

 

「大丈夫だって翔、まだ実技があるだろ!」

 

「盛大に遅刻してすぐに寝始めたアニキはもう少し危機感持った方がいいと思うっすよ……」

 

 十代はテスト終了十分前に来て、速攻寝始めたのだ。実技に自信があるからこそ、なせる所業なのだろう。

 永理はほうじ茶を飲みながら励ましの言葉を翔に投げかける。

 

「なーに、人生割となんとかなるもんさ。良くも悪くも、楽しまにゃ損損」

 

「……所で、永理君はテストの出来どうだったんすか?」

 

 永理は思わず目を逸らす。授業中教師に当てられたとしても大体は答える事が出来るし、ノートもしっかりと取っている形だけは優等生ではあるが、いざテストとなるとやはり厳しいものがあるようだ。

 向上意欲はあるものの、それに追いつかない知能。まさに永理。

 

「翔、十代、テストの出来は……っと、確か君は、99番君だったかな。グレートモスを召喚してた」

 

 不意に永理の後ろから、声を掛けられる。振り返ると黄色い制服に身を包んだ、黒髪の青年。後に全裸で走ったりサイクリングデュエルとかやったりする優等生、三沢大地が居た。

 99番、永理の受験番号だ。正直筆記テストがかなり足を引っ張り、オシリスレッドに入ってしまったと言っても過言ではない。遊城十代も同じような感じだ。

 

「正しくは究極完全態・グレート・モスだ。攻撃力が違うのだよ、攻撃力が」

 

「それはすまない。確かにあったね、グレート・モス」

 

 ついでに召喚難易度もかなり違う。グレート・モスは自分のターンで数えて四ターン目に特殊召喚が可能だが、究極完全態・グレート・モスは六ターン以上、攻撃力0守備力2000となったプチモスを生かさなければならない。

 正直どちらも、召喚するのは至難の業である。召喚出来ただけでも勝率に関係なくプロデュエリストとしてやっていけるぐらい難しいのだ。ぶっちゃけ浪漫の塊である。

 

「俺は三沢大地だ、よろしく」

 

「俺は月影永理、気軽にえーりんとでも呼んでくれたまえ」

 

 三沢と永理は握手を交わす。論理的タイプのデュエリストとロマン派のデュエリスト、その性質は一件対極に見えるが、三沢も三沢でウォーター・ドラゴンという究極完全態・グレート・モスに比べればまだ実用性はあるがかなりの難易度のある召喚条件のモンスターを使っているので、ぶっちゃけて言うとどっこいどっこいだ。

 

「そういえば、君達は新しいパックを買いに行かないのかい?」

 

「新しい……」

 

「パック?」

 

「って、なんすかそれ!?」

 

 十代、隼人の言葉に続く翔のシャウトに三沢、隼人、永理、十代の四人は少しばかり驚いた。

 新しいパックの存在を完璧に知らなかったのか、翔は三沢に詰め寄る。

 

「なんすかそれ、聞いてないすよ!」

 

「お、落ち着け。今日購買部に入荷したという……何でも、次世代の召喚も取り入れたパックだとか」

 

「こうしちゃいられないっす! 何としても手に入れなくちゃ!!」

 

 そう言い翔はダッシュで購買へと向かって行った。既に人が居なくなって久しいので、時すでに遅いのだが、それでも人間とは難儀なもので手に入らないと解っていても買いに行きたくなってしまうのだ。

 永理はそんな翔の背中を眺めながら、ふとドラクエⅢ発売時のあの騒動を思い出していた。一応前世でもまだ生まれていない頃の話なのだが、何故それで感傷に浸れるのだ永理は。

 

「なあ、あれ間に合うと思う?」

 

「無理だと思うんだな……」

 

「……今翔君が走ってたけど、あれ何?」

 

「オシリスレッド、最後の足掻き。最新キャードが負けるわけねーだろ理論。OK?」

 

「……雑な説明ありがとう」

 

 永理が朝のうちに作っていた卵パンを取り出し、状況説明をし終えてから食べる。ゆで卵を潰しマヨネーズで和えただけの簡単なサンドイッチだが、割と美味い。本来であれば間に焼きスパムとか挟みたい所なのだが、デュエルアカデミアではなかなか売ってない。取り寄せる事も可能なのだが、態々取り寄せてまで食べたいかと聞かれたら首を横に振るような、微妙なものなのだ。

 

「貴方達は買いに行かないの?」

 

「興味はあるけどもう無いだろうしな。それにしばらくしたらまた入荷するだろう、慌てて買う必要も無い」

 

「俺は俺のデッキを信じるぜ!」

 

「ガンプラで金使いすぎた」

 

 明日香の問いに三沢、十代、永理と答えが続く。確かに、入荷するのが今日だけとはならないだろう。一週間に一度しか入荷は来ないと聞いたが、逆に言えば一週間待てば入荷するのだ。特にデュエル専門学校であるデュエルアカデミア、それに関するものなら確実に入荷するだろう。

 十代は真っ直ぐな答えだ。しかし、その心構えこそが大切なのかもしれない。永理は相変わらずだ。

 

「永理、お前って奴は……」

 

「まあ、どうせ亮のせいでしょうけど」

 

 十代が冷めた目を、明日香は溜息を吐いてから言う。

 確かに亮の影響は大きい。ぶっちゃけ亮のせいで、ガンプラとガンダムアニメをぶっつ見のせいでろくに勉強も出来なかったのだ。とはいえそれにノリノリで便乗した永理も自業自得と言えば自業自得であるのだが。

 

「……そういや明日香、昼飯どうだ? これから一緒に食堂行くんだけど」

 

「遠慮しとくわ、友達との約束があるから」

 

「よし十代、奢ってくれ」

 

「断る」

 

 明日香は手を振りながら、実技試験会場へと向かって行った。あそこで食べるのだろう。

 さてと、と永理も立ち上がり、十代達と食堂へ向かう。永理は口で卵パンを落とさないよう咥えながら、財布の口を開く。五百円玉が一つ、おやつ程度なら買える金額だ。

 食堂は購買部を抜けた先にある。その購買部の前で項垂れている、見知った水色頭のちっちゃな少年。丸藤翔の姿が。

 

「どうした翔、やっぱり買えなかったか?」

 

 十代が項垂れいる翔に声をかける。その隙に永理は揚げバターなるものを手に取る。外側をシナモンたっぷりのパンケーキ生地のようなもので包んだ、バターの揚げ物。ずっと味は気になっていたのだが、手に取る勇気は無かった。しかし今日は、蛮勇に身を任せて買ってみる事にしたのだ。

 

「うぅ……発売した瞬間に買い占めとかあんまりっすよ……」

 

「おばちゃん、これ一つ」

 

「あいよ、二百五十円……あれは友達じゃないのかい?」

 

 太ったおばさん、トメさんが永理の隣で項垂れている翔に関して聞くが、永理は五百円玉を置いてから言った。

 

「俺が声かけるより、十代に任せた方がいいんすよ。あっ、レシートいらない」

 

「はい、お釣りの二百五十円。そういうもんかねぇ……」

 

 永理は早速、買ったばかりのバター揚げの封を開ける。茶色いフランクフルトのような形をしているが、中に詰まっているのはウインナーではなくバターだ。串部分を袋の中に入れながら、食べれるぐらいの部分まで押し上げる。

 恐る恐る一口。口の中にバターとシナモン、そしてむせかえるほどの甘味がいっぱいに広がる。そしてバターの塊、時間が経つとバターは固まり始めるのだ。それがまたしつこい、かなりしつこい!

 

「……三沢、ちょい水持ってきて。これヤバい、マジヤバい」

 

「あ、ああ。おばちゃん、これ一つ」

 

「あいよ、百十円」

 

 三沢からペットボトルの水を受け取り、中の水で口の中のシナモンと砂糖とバターを洗い流す。半分ほど一気に飲み、飲み口から口を放しぜーぜーと肩で息をする。

 

「あっ、十代ちゃん。これ今朝のお礼だよ。ありがとねえ、おかげで助かったよ」

 

 そう言いトメさんが取り出したのは、見慣れないパック。翔が反応した所から、そうなのであろう。十代が遅れた原因は人助けのようだ。永理は思わず主人公してるな~と思いながら、手持ちにあったものをパクリと一口。勿論シナモンバター揚げである。すっごい甘さだ、まるで砂糖の腕で口の中を思い切り殴られたような衝撃。疲れた時に食べたら余計疲れそうだ。

 

「気にすんなってトメさん、困った時はお互い様だ!」

 

 十代は少年らしく笑いながら、パックを開ける。

 

「おおっ、ハネクリボーのサポートカードだ!」

 

「それ以外は……、シンクロ・フュージョニストにジャンク・シンクロン。スカー・ウォリアー、アームズ・エイドまであるとは……お前運良すぎだろ」

 

 十代の当てたカードを横から見ながら、永理は思わずそう口に出す。

 シンクロ・フュージョニストはシンクロ素材として墓地へ送られた時、デッキから融合またはフュージョンと名の付くカードをサーチ出来るカード。ジャンク・シンクロンはそれを釣ってこれる。スカー・ウォリアーは他の戦士族を守り、自身も一度だけなら戦闘破壊されない効果を持っている。アームズ・エイドは攻撃力1000アップの効果と、フレイム・ウィングマンと同じ戦闘破壊したモンスターの元々の攻撃力分ダメージを与えるユニオンのようなモンスター。

 十代のデッキには増援も入っているのでジャンク・シンクロンのサーチはやりやすく、少々扱いは難しくなるもののかなり強くなる事だろう。

 

「んじゃ永理、一緒に構築考えてくれ!」

 

「俺とお前、まだデュエルしてないというのに手の内を明かすのか……?」

 

「あっ、それもそうだな」

 

 そう言いそくさくと十代は食堂の方へと向かって行った。デッキ調整をするのだろう。その後を翔、隼人が付いて行く。

 

 

 実技試験会場は、入学の試験とは違い方の力を抜いて撮りかかる事が出来る。巨大な体育館のような建物、永理はその上からぼーっとデュエルを眺めていた。

 永理はあまりもの、故に数はハブられており誰かをもう一度戦わせるのだ。それが決まるまで、永理はものすごく暇なのだ。隣の十代の出番もまだのようだが、クロノス教諭による嫌がらせか何かだろう。永理には関係の無い話だ。教師に逆らえるほど永理は自分の力を過信しておらず、そしてメリットが無い事も知っている。

 作って来た卵パンをむしゃむしゃと食べる。翔はビークロイドという、あまり火力の足らないデッキを使い危なげではあるが勝利したようだ。隼人は負けたらしい。

 三沢は……場に最上級のモンスターが四体も並んでいる。場には冥界の宝札のカードが三枚が見られる。冥界軸最上級多様デッキ、しかし冥界の宝札によるドローラッシュは凄まじいが、強制効果故ドローしすぎてはデッキが無くなってしまう。というかそれよりも相手が可哀想だ。

 

「ガンナードラゴンと神獣王バルバロスを生け贄に、光神機‐轟龍を召喚! 冥界の宝札の効果で六枚ドロー!

 揃った! エクゾディア! エクゾード・フレイム!」

 

 最上級モンスター達が道を開け、そこからエクゾディアが姿を現す。そして巨大な炎を両手から相手に出す。オーバーキルだ、場の状況でも十分相手のライフを0に出来たというのに、更にエクゾディアによる特殊勝利。これは酷いとしか言いようがない。

 隣を見ると、十代も苦笑いだ。流石の十代も、あれには笑いしか出ないのだろう。

 

「終わったな……さて、次は俺と十代か?」

 

「どうだろうな。まあ相手が誰であれ、俺は全力でやるぜ!」

 

『一年、オシリスレッド。遊城十代、第一フィールドへ』

 

 第一フィールド、先ほどまで三沢が使っていたフィールドだ。十代はそのフィールドへと向かって行った。

 永理は一先ず卵パンを全て食べきる。すると丁度に、永理も呼ばれた。

 

『一年、オシリスレッド。月影永理。第四フィールドへ』

 

 永理も呼ばれたので、第四フィールドへと向かう。

 斜め後ろでは十代がデュエルをしているが、永理は一先ずそれを思考から外す。対戦相手を見やると、黄色い制服が目についた。そして次に目についたのは、トゲトゲの髪。そして緑色のスカーフを首に巻いている。

 

「実技テストは同じ寮同士でやるんじゃないのか?」

 

「俺が頼んだんだ、お前とやりたいってな」

 

 後ろからは万丈目という少年と、十代の声。どうやら向こうはオベリスクブルーの生徒と当たったようだ。

 永理の目の前に居るラーイエロー生徒はそう言うが、永理は身に覚えが無い。名前はともかくとして一度でも関わった事があったら顔ぐらいは覚えている筈だ。

 故に、眼を付けられるような事をした覚えは……亮と仲良くガンプラ雑談に花を咲かせている事ぐらいだろうか。オベリスクブルーにはそれが邪魔に見えるらしい。永理としてはどうでもいいが。

 

「まずは自己紹介をしておこうか、月影永理。俺は神楽坂、百のデッキを操るデュエリストだ!」

 

「……神楽坂。ああ、確かどんなデッキも巧みに操るっていうラーイエローの」

 

 他人のデッキをコピーし、製錬させ、本物より強いコピーデッキを作り上げると噂のある生徒だ。永理も小耳に挟んだ事がある。

 曰く、古代の機械巨人もサイバー・エンド・ドラゴンも操る事が出来るらしいが、まず何処でどうやって手に入れたのかがかなり気になる所だ。

 

「俺はお前を研究していた! デッキ、性格、プレイング……しかし、お前の性格がどうしても解らないんだ!

 だから今日、俺はデュエルを通じてお前を知り、そして全てを俺の物にしてみせる!!」

 

「……たかがオシリスレッドの生徒に、えらい熱の入れようだな」

 

 神楽坂が真似る人物は、どれも実力のある者ばかり。それもそうだ、弱い奴を真似したって損するだけ。ステカセキングに二年前のキン肉マンの超人大全集があったので負けたように、弱い奴の癖が出てしまったらデュエルも思い切り不利になってしまう。

 

「究極完全態・グレート・モスを召喚したお前は、半ば伝説と化している。故にお前をコピーしなければ、俺の名がすたる!」

 

「……いいだろう、相手になってやる」

 

 あのデッキと比べて安定した火力の悪魔族軸除外ビートデッキをディスクから抜き取り、デッキケースから新たにデッキをセットする。

 二度と使う事は無いだろう、そう思っていたデッキ。しかし、ここまで期待されているのだ。ならばそれに答えねば、デュエリストとして失礼というもの。

 

「その熱意、気に入った! 行くぞ、神楽坂!」

 

「ああ。お前の全てを真似てやる!」

 

 ほぼ同時にデュエルディスクを展開し、デッキからカードを五枚引く。

 

「「デュエル!」」

 

「先功は俺が貰う、ドロー!」

 

 引いたカードを横目見、一枚のカードを手に取る。通常モンスター、吸血ノミだ。

 

「魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札のモンスターカード、吸血ノミを墓地へ送り、デッキからレベル一のモンスター、プチモス一体を守備表示で特殊召喚する!」

 

 永理の場に、ちっちゃい芋虫が現れる。全く持って可愛くないし、かっこよくもない。だがこのデッキのキーカードだ。攻撃力はたったの300、ワイトとは相打ちだが正義の味方は倒せる。

 更に、と永理は右端のカードを手に取る。

 

「プチモスに進化の繭を装備! このカードは手札から装備カード扱いとして、プチモスに装備出来る!

 そしてプチモスの攻撃力、守備力は進化の繭参照となる! 更に装備魔法、明鏡止水の心をプチモスに装備! カードをセットしターンエンド!」

 

 プチモスは口から糸を吐き出し、丸い繭となる。防御力2000、そして装備魔法である明鏡止水の心は完全な破壊耐性をモンスターにもたらすカード。プチモスとの相性はばっちりだ。

 

「一ターン目から来たか、俺のターン! ドロー!

 相手側にモンスターが存在し、自分場にモンスターが存在しない場合、このカードは特殊召喚出来る! 来い、サイバー・ドラゴン!」

 

 神楽坂が召喚したカードに対し、会場が湧く。サイバー・ドラゴン、とびっきりとまではいかないがかなりのレアカードだ。持っている者もそれほど居ないだろう。攻撃力は2100、進化の繭の守備力を上回っているものの、戦闘によっては破壊する事が出来ない。

 

「まずはその伏せカードを破壊する、魔法カード発動! エヴォリューション・バースト! 相手場のカードを破壊!」

 

「ならばチェーンで発動しよう、永続罠安全地帯。フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動。選択したモンスターは相手のカードの効果の対象にならず、戦闘及び相手のカードの効果では破壊されない。俺はサイバー・ドラゴンを選択」

 

 本来であれば、自分のモンスターを守る為に使うカードである。しかしこのカードには、それ以外にも利用方法があるのだ。

 

「このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。サイバー・ドラゴンを破壊!」

 

「なっ……くっ、モンスターをセットし、ターンエンド!」

 

 神楽坂は苦虫を噛み潰したように歯噛みする。よもやこのようなかわされ方をされ、更にサイバー・ドラゴンを破壊されるとは思っていなかったのだ。

 精々明鏡止水の破壊を守るカードとばかり思っていたのだ。

 

「俺のターン、ドロー!

 一ターン経過。魔法カード、強欲な壺を発動! カードを二枚ドロー! コアキメイル・ビートルを召喚し、バトル! 伏せモンスターを攻撃だ!」

 

 永理の場に赤い角をしたカブトムシが現れ、伏せモンスターに突撃する。相手モンスターはリバースし、メタリックな翼でその攻撃を受けようとするものの、胴体部分を破壊されコードやらチップやらをまき散らし、爆散した。

 

「サイバー・フェニックスが破壊された事により、カードを一枚ドローする!」

 

「カードをセットし、エンドフェイズに効果発動! 手札の昆虫族モンスター、ゴキボールを相手に見せ、自壊効果を防ぐ。これでターンエンドだ!」

 

 正直大体の戦闘は、コアキメイル・ビートルが頑張って終わらすのだ。それぐらいコアキメイル・ビートルは強力なのである。ただでさえ永理のデッキの下位モンスターの打点は低いのだから。

 

「俺のターン、ドロー!

 サイバー・ドラゴン・コアを召喚! 効果によってデッキからサイバー、またはサイバネティックと名の付く魔法・罠カードを手札に加える! 俺はデッキから、サイバネティック・フュージョン・サポートを手札に加える! 更に魔法カード、機械複製術を発動! 攻撃力500以下のサイバー・ドラゴン・コアを対象に発動! サイバー・ドラゴン・コアは場、・墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱う! よって、デッキから二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 

「おっと、コアキメイル・ビートルの効果で、特殊召喚された光属性、または闇属性のモンスターは守備表示となる!」

 

 コアキメイル・ビートルが角から特殊な電波を出すと、サイバー・ドラゴンが蜷局を巻き守備表示耐性となった。

 神楽坂は真ん中のカードを手に取る。

 

「まだだ! 魔法カード、エヴォリューション・バースト! コアキメイル・ビートルを破壊する!」

 

 二体のサイバー・ドラゴンと一体のサイバー・ドラゴン・コアが三体同時に口から熱光線を出し、コアキメイル・ビートルを無残にも破壊する。

 

「これで邪魔物はそいつだけだ! 魔法カード融合を発動! 場のサイバー・ドラゴン三体を融合し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」

 

 神楽坂がサイバー・エンド・ドラゴンを召喚した瞬間、会場が湧く。それもそうだろう、物まねとはいえ巧みに操るデュエリストが、生ける伝説となっているカイザー亮の切り札を召喚したのだから。最もその生ける伝説は、永理とガンプラ雑談に花を咲かせるような奴ではあるが。

 しかし、そんな中身を知っているからこそ永理は笑みを浮かべる。確かに、神楽坂は強い。しかし本物にはまだ及ばない。あと一歩、という所だ。とか偉そうな事を考えているが、今追い詰められているのは永理の方だ。手札は既に使い切ってしまったのだから。

 

「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでプチモスを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

「明鏡止水の効果で、プチモスは破壊されない!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの熱線を受け、必死に耐えるプチモス。本来であれば既に潰れている筈だというのに、意地になって耐えている。サイバー・エンド・ドラゴンは、口から吐き出す熱線の量をさらに増やす。

 高圧度の熱線、しかしプチモスは耐える。だがその余波は、永理のライフを大きく削る。

 

「サイバー・エンド・ドラゴンは貫通効果を持っている! 俺はこれでターンエンドだ!」

 

「……なるほど、中々やる。ドロー!」

 

 既にライフは半分、サイバー・エンド・ドラゴンのもう一撃を喰らうだけで消し飛ぶライフだ。次の攻撃で、風前の灯火、というには少しばかり多いが、乾紙に火を付けたようにすぐ消え去ってしまうだろう。

 しかし、永理は思わず口角を釣り上げる。最強、その力に一歩及ばないものの、かなりの強敵。少しでも、少しでもカイザーに近付く。別に決闘王になるつもりはない、しかし大きい力に抗いたくなるのが、男の性なのだ。

 

「……後四ターンか、下手すりゃこのままでは負けるかもな。しかし足掻いてみせるさ、リバースカードオープン、強欲な瓶! カードを一枚ドロー!」

 

 これで永理の手札は三枚になった。しかしそのうち一枚はゴキボールである。それ以外のカードでは、首の皮一枚繋ぐ程度しか出来ないだろう。しかし、それで十分、永理としては十分だ。

 

「カードを二枚セット、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 バトル! サイバー・エンド・ドラゴンで、プチモスを攻撃!」

 

 またしてもサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃がプチモスを焼き尽くさんと炎を吐く。しかし永理は、一枚の罠カードを発動させた。

 

「ドレインシールド、攻撃を無効にし、攻撃力分ライフを回復する!」

 

 緑色のエネルギーのような防御膜が、永理の目の前に展開しサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を吸収し、その破壊力を生命力へと変換する。

 これで永理は、最低でも後二回分、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を受ける事が出来るようになった。

 

「ターンエンドだ!」

 

「残り三ターン! ドロー!

 モンスターをセットし、ターンエンド!」

 

 残り三ターン、それがまた、長い。そして相手の場には攻撃力4000の化け物が一体、まだ大嵐は使われていない。

 流石に亮の鬼ドロー力まではコピー出来ない神楽坂だが、それでも厄介な相手だということに変わりは無い。冷や汗が永理の身体を冷やす。

 

「俺のターン、ドロー! 来たっ、魔法カード発動、大嵐! 場の魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

 大きな風が吹き、場のカードを全て破壊しようとする。しかし、それはすぐに収まってしまう。

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂。魔法・罠カードの発動を無効にし、相手はカードを一枚ドローする」

 

「チッ、カードドロー! ならば、伏せモンスターを破壊させてもらう! エヴォリューション・レザルト・バースト!」

 

 サイバー・エンドの炎が永理の伏せモンスターを攻撃する。その瞬間伏せモンスターがオープン、現れたのはムキムキマッチョマンの、笑ったような仮面をかぶった変なのが現れたかと思うと、すぐにサイバー・エンドの熱線で消え去る。

 もはや見慣れた光景だ。

 

「メタモルポットの効果発動!」

 

「えっ、ちょっと待て。あれメタモルポットか!? 変な仮面被ったダイ・グレファーとかじゃないのか!?」

 

「……メタモルポットの効果発動!」

 

 永理は強引にメタモルからの話を逸らし、効果処理をする。何か言われたとしても、どうしようもないのだ。永理はどう対処しようもないし、ソリットビジョンがおかしいから変えてくれとも言えないのだ。というか言ったら変な目で見られてしまうのだ。

 

「……カードを三枚セットし、ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー!

 二ターン、残り二ターンか。魔法カード強欲で謙虚な壺を発動。デッキトップから三枚カードをめくり、一枚選んで手札に加え、残りはデッキに戻す! 一枚目、ネオバグ。二枚目、火器付機甲鎧。三枚目、究極完全態・グレート・モス! 俺は究極完全態・グレート・モスを手札に加える! カードを二枚セットし、ターンエンド!」

 

「次の次のターン、確実に究極完全態・グレート・モスが出てくるという事か。

 ならば、その前に倒す! 俺のターン、ドロー!」

 

 神楽坂も永理もかなり燃えているが、たとえ究極完全態・グレート・モスを出せたとしても、高いとはいえ3700の攻撃力では、サイバー・エンド・ドラゴンを倒す事は不可能である。

 まあ永理としては、出せればそれで満足なのだ。要するに自己満足に特化しすぎたデッキなのだ。やはり永理は馬鹿である。

 

「バトルだ! サイバー・エンド・ドラゴンでプチモスを攻撃!」

 

「永続罠、スピリット・バリア! 俺の場にモンスターが存在する限り、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 

「チッ、ターンエンドだ!」

 

 ジリ貧、ずっとこれである。しかし、こうしなければ出せないのだ。究極完全態・グレート・モスという面倒なカードは。

 手間をかけた割に弱いと言われるし、実際永理も使用してみてそう思っている。しかし、出せば目立てるのだ。出せば、出せれば目立てるのだ。

 

「残り一ターン! ドロー!」

 

 永理の発言に、会場が湧く。そして巻き起こる、グレート・モスコール。羽蛾が使っていた時とは全く対応が違うが、恐らくそれは本人の性格の違いだろう。

 

「カードセット、エンド!」

 

「俺のターン! チッ、ターンエンドだ!」

 

 神楽坂のエンド宣言と同時に、「来る……」「来る……」とどよめきが起こる。まるで待ちわびるように、アイドルを待つファンのように。

 永理は静かにカードを引き、人差し指を大きく天に向ける。そして連続に巻き起こる、来るとグレート・モスのコール。

 そのテンションが最高潮に達した時、永理は上げた指で強欲で謙虚な壺で手札に加えたカードを手に取る。

 

「プチモスを生け贄に……答えてみせよう皆の期待に! カモン! 究極完全態・グレート……モスゥゥゥゥゥ!!」

 

 わあああという歓声と共に、繭が割れ、まず白い羽が生える。その羽が外気に曝され蒼く染まると同時に繭から緑色の脚が生え、六本生え、蒼く染まった羽を羽ばたかせる。

 繭は飛び散り、空気に溶けていく。

 青い眼で敵を睨み付け、究極完全態・グレート・モスは進化を喜ぶように、我が主の敵を殺す為の気合いを入れるかのように、大きく鳴いた。

 

『プヒィィィップ!』

 

「……やっぱなんか違うな」




まさかグレート・モスを使うデュエルがここまで長くなるとは……恐るべし、究極完全態。そして前後編がこんな序盤にあるなんて、この小説ぐらいだろうね。なんでこうなった、恐るべしグレート・モス。取りあえずグレート・モスデッキはもう使いません。
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