時は少し、永理と神楽坂がデュエルを始める頃まで遡る。
万丈目準はデュエルアカデミア中等部を主席で卒業した天才児であり、実質一年のトップに立っている男だ。実力、運、そして永理の持っていない財力(趣味に金をつぎ込んでるせいとか言わない)。それら全ての頂点に立つ男だ。
しかし、自らの実力を過信はしない。常に向上心を持ち、上を目指す。天辺を、頂点を目指す。故にあの男を、オシリスレッドのダークホースを全て倒さなければならない。最強にならなければならない。兄を見返す為に。
故に、遊城十代。仕留めそこなった相手が居てはならないのだ。負けも引き分けもあってはならない。故にクロノス教諭に頼み込んだのだ。遊城十代と戦わせてくれ、と。
「また万丈目とデュエル出来るなんてな! お互い楽しもうぜ!」
「……ククッ、そうだな」
万丈目と対決する相手、遊城十代。デュエルを常に楽しみ、今まで負けなしの男。ダークホースの一人だ。万丈目は他のオベリスクブルーとは違い、オシリスレッドだからといって色眼鏡で見たりはしない。
故にあの時とは違い、新たに強化したデッキ。あの時より数段強くなったと自負出来るデッキ。それのテスターとしては最適であるし、何よりあの深夜のデュエル……途中で警備員が来なければ、あのデュエルの勝敗は解らなかった。ちなみに永理はその頃、亮と一緒に幽霊と闇のデュエルをしていた。
「お前は本気で、俺に勝てると思っているのか?」
「負けると思ってデュエルする奴なんて居ないだろ?」
「……確かにな、その通りだ」
負けると解っていてデュエルをする奴は、よほどの物好きだろう。たとえ尊敬する相手とデュエルする事になったとしても、必ず勝つと心に思いデュエルをする。それがデュエリストとして、決闘者としての礼儀だ。
壁の向こうから、永理と神楽坂のデュエル開始の宣言が聞こえた。
……雑談はこれまで、万丈目はディスクを構える。十代もだ。ダークホースと中等部主席、油断は禁物だ。
「「デュエル!」」
互いにカードを五枚引く。十代は少々強化されたデッキ、対して万丈目は大々的に強化されたデッキだ。
先手を取ったのは万丈目だ。
「俺の先功、ドロー! 魔法カード、手札断殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ送り、カードを二枚ドローする!」
手札断殺は手札交換・墓地肥しにおいてかなり有効なカードである。手札抹殺と比べたら、発動条件等で優劣を付けられるが、暗黒界相手でも安心して使う事が出来るのはかなりの利点だろう。最も、相手の墓地を肥やさせるという欠点も持っているが、その程度は容認しなければならない。
「更に魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札のモンスターカード、地獄将軍・メフィストを墓地へ送り、デッキからレベル1のモンスター一体を特殊召喚する! 来い、ヘル・セキュリティ! 更に地獄戦士を召喚!」
万丈目の場に、頭にサイレンを持ち、警棒と拡声器を持った小さな悪魔と、黒い鎧に身を包み山賊のようなサーベルを持った戦士が現れる。
チューナーモンスターとチューナー以外のモンスターが並んだ。来る、と十代は直観で悟る。
「レベル4の地獄戦士に、レベル1のヘル・セキュリティをチューニング!」
ヘル・セキュリティは空中高く飛び、光の輪となる。その中を地獄戦士が飛び込むと、まるで3Dモデル製作時のように線となり、五つの星と化す。
シンクロ召喚、次世代の新システムを先駆けデュエル高であるアカデミアで今日から販売されているパックの、目玉となるカード。
「地獄に住まいし悪徳警官よ、我らに逆らう愚者を轢き殺せ! シンクロ召喚!」
星が回転し、光の塔を作る。白い光が視界を包む。
光が晴れると、二つの爬虫類のような首が特徴的な悪魔警官が、黒いトゲトゲとしたデザインのバイクに乗って現れる。
「権力振りかざし魔物、ヘル・ツイン・コップ!」
「シンクロ召喚……一ターン目から、やるじゃないか万丈目!」
「万丈目『さん』だ! カードを二枚セットし、ターンエンド!」
万丈目が『さん』付けに固着するのは、言い知れぬむず痒さを覚えるからだ。中等部からずっとそう呼ばれてきたので、違和感が出てしまう。ただそれだけなのだ。それにこの言葉を半ば口癖のように言っておけば、デュエリスト相手には困らない。タクティクスを磨くのも、カリスマを養うのにも最適だ。
「俺のターン、ドロー! 魔法カード、融合を発動! 手札のスパークマンとクレイマンを融合し、サンダー・ジャイアントを融合召喚!」
「サンダー・ジャイアント……確か、手札一枚をコストに攻撃力以下のモンスターを破壊するカードだったか。面倒なカードは、除去させてもらう! 罠カード発動、奈落の落とし穴!」
巨体を持った黄色い身体を持ち、コアに稲妻を秘めたヒーローは穴より現れた赤い悪魔の手に引きずり込まれる。HEROモンスターは融合召喚以外で召喚する事は不可能だ、故にこういった除去には滅法弱い。
「手札から速攻魔法、禁じられた聖槍を発動! サンダー・ジャイアントの攻撃力を800下げ、このターンこのカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない!」
「甘い甘い甘い! カウンター罠発動! マジック・ドレイン! 相手は魔法カードを手札から捨てなければ、魔法カードの発動を無効にし破壊する!」
サンダー・ジャイアントの脇腹を目がけて突撃してくる槍が、粉々に砕け散る。それと同時に奈落の底へ完全に引きずり込まれた。
融合カードはもう、手札には無い。大量展開に欠けるのが融合デッキの弱点だ。
「俺はモンスターをセット、カードをセットしてターンエンドだ」
一先ず守備を固める。何もしないよりはマシだろう。伏せたモンスターは破壊されたとしても一枚はカードをドロー出来る。
相手は主席、そうそう迂闊には攻めてこないだろうが、だとしてもやらないよりはマシだ。僅かでも手札を削れるのならばそれでいい。
「俺のターン、ドロー!
俺はキラー・トマトを召喚!」
万丈目の場に、真っ赤なトマトに直角三角形の形をした眼を付けたトマトが現れる。ギザギザな口は邪悪な笑みを浮かべ、ケッケッケッと笑い声を上げる。
トマトを口に詰め込まれ、窒息死した者の末路がこのカードである。元々のモデルはカルト映画であるアタック・オブ・ザ・キラートマトであるのだが、その映画に出てくるトマトに口も眼も無い。ただのトマトから逃げているシーンはかなりシュールである。
「バトル! ヘル・ツイン・コップで貴様の伏せモンスターを攻撃!」
トカゲ悪魔はバイクのアクセルを吹かし、フルスロットルで伏せモンスターに突撃する。当たる瞬間、おもちゃのような形をしたモンスターが現れるが、まるで当たり前のようにそれを踏み壊す。バチバチッと嫌な音が鳴り、煙を吹く。
「カードガンナーが破壊され墓地へ送られた事により、カードを一枚ドロー! 更に罠カード、ヒーロー・シグナルを発動! 自分場のモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、手札・デッキからレベル4以下のE・HEROと名の付くモンスター一体を特殊召喚する! デッキからスパークマンを守備表示で召喚!」
カードガンナーのカメラアイから、天井に向けてHの文字のサーチライトが映し出されるが、それを黒いバイクで押し飛ばす。
するとそれに答えるように、青を基調とした青タイツの上に、黄色いプレートを付けたヒーローがバチバチとスパークをまき散らし現れる。しかし腕を胸の前でクロスさせ、しゃがんでいる守備状態だ。
「チッ、ヘル・ツイン・コップの効果発動! このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、攻撃力を800ポイントアップさせ追加攻撃が可能! 行けっ、ヘル・ツイン・コップ!」
ヘル・ツイン・コップはバイクを進行方向から横に向け停止を試みる。否、慣性の法則を利用し、足を軸にバイクの向きを変え、勢いを出来るだけ殺さずに再度バイクを吹かし突撃する。先ほどより加速度の乗った突撃によって、スパークマンの身体は壁に吹っ飛ばされる。
そしてそのまま万丈目の前まで行き、目の前で急旋回。髪にヘル・ツイン・コップの片方の頭が当たる。場に戻るだけならもっと静かにしろ、と万丈目は愚痴りたくなる。というかちょっと涙目だ。
「きっ、キラー・トマトで直接攻撃!」
「なあ万丈目、大丈夫か……?」
「うっ、うるさいっ! あと万丈目さんだ! キラー・トマトで直接攻撃!」
万丈目は若干涙目になりながらそう命ずる。キラー・トマトはケッケッケッと笑いながら、跳ねて十代の目の前まで移動すると、移動する時よりちょっと高めにジャンプし十代に体当たりをする。傍目から見たら可愛く思えるが、あの顔が笑いながら迫ってくるのはちょっとしたホラーだ。
「カードをセットし、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
十代の手札は二枚、このままでは少々心もとない。手札は可能性、特に融合デッキの場合はそれが躊躇に現れる。融合デッキでは、三枚の可能性では足りないのだ。
「サイバー・ヴァリーを攻撃表示で召喚!」
さながら深海魚のような、眼を持たない機械の竜が現れ小さな雄たけびを上げる。このカードの登場により、会場はどよめく。サイバー、その名を持つカードを使う者をサイバー流と呼ぶ。サイバー流のカードは人気が高く、かなりの高値が付く。そんなカードが現れたのだから、どよめくのもまた当たり前と言えるだろう。とはいえそれのインパクトは小さい、何せ攻守共に0なのだから。
しかし、万丈目は違った。サイバー・ヴァリーほど厄介なカードは厄介なカードだと認識していた。
「更に魔法カード、機械複製術を発動! 場の攻撃力500以下のモンスター、サイバー・ヴァリーをデッキから二体、特殊召喚する!」
サイバー・ヴァリーの身体が光り輝き、新たに二つのヴァリーが分かれるように現れる。カイザーや神楽坂のようにサイバー・ドラゴン・コアの効果でサイバー・ドラゴンを大量展開するテクニックに注目されがちだが、これが本来の扱い方だ。
「サイバー・ヴァリーか……面倒なカードを」
「へっへへ、サイバー・ヴァリー二体を除外し、カードを二枚ドロー! 更に魔法カード、精神操作を発動! ヘル・ツイン・コップのコントロールを得る! ただし、攻撃も生け贄にする事も出来ないけどな」
サイバー・ヴァリー二体が雄叫びを上げ、光に包まれる。それと入れ替わるようにヘル・ツイン・コップはバイクを押して十代の場に移動した。
精神操作、シンクロの実装が発表されてから評価が高くなっていったカードだ。実際ノーコストで相手モンスターを奪え、シンクロ召喚に関する規制は一切ないので素材とすればデメリットも問題ない。
しかし、シンクロ以外にも使い道はあるのだ。
「ただし、ヴァリーの効果には関係ないぜ! ヴァリーとヘル・ツイン・コップを除外してカードを二枚ドロー!
更に強欲な壺を発動し、カードを二枚ドロー!」
「チッ、面倒な事を!」
これで万丈目の場はトマト一体のみになり、更に十代の手札は四枚になった。万丈目は思わず悪態を付く。
手札補充、その技術は同じオベリスクブルーであれば称賛に価したであろう。しかし万丈目にも立場があり、何より今は対戦相手だ。態々褒め称える必要も無い。
しかし、これで確信した。十代の実力は凄まじく、そして強い。であれば、最強になるには避けては通れぬ相手だと。
「魔法カード死者蘇生! 墓地のカードガンナーを特殊召喚し、効果発動! デッキトップからカードを三枚墓地へ送り、攻撃力を1500ポイントアップ! バトル! カードガンナーで、キラー・トマトを攻撃!」
カラフルな両手付き自走戦車は銃口をトマトに向け、撃ち放つ。キラー・トマトは弾け、そこらに赤い汁をまるで血のようにまき散らす。
その血のような汁の下から、新たにモンスターが現れる。
十代は相手にダメージを与えるのを優先させたようだ。
「キラー・トマトの効果! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター一体を攻撃表示で特殊召喚する! 来い、ダーク・リペアラー!」
青い肌と赤い眼、そして身体を覆うような黒い毛をまとった耳の尖った悪魔が現れる。青い小さな手は自らの身体の前で捏ねるように合わせているが、背中から生えている黒い六つの手にはナタとフォーク、そして金槌を持たせている。
「カードを三枚セットし、ターンエンド!」
「三枚だと!? ……手札事故か、それとも。まあ、どちらでも構わん。なぎ倒すまでだ! ドロー!
魔法カード、強欲な壺を発動! カードを二枚ドロー!
魔法カード、ダーク・バーストを発動! 墓地の攻撃力1500以下のモンスター一体を手札に戻す! 俺はキラー・トマトを手札に戻し、召喚!」
墓地回収カード。万丈目のデッキは闇属性主体のデッキなので、愛称はかなり良い。とはいえ低攻撃力のモンスターはそれほど多くは無かったのだが、シンクロをデッキに組み入れる際必須になってしまったのだ。
再び現れるトマト、先ほどとは何処か違うものの、素人目には同じにしか見えない。
「レベル4のキラー・トマトにレベル2にダーク・リペアラーをチューニング!」
ダーク・リペアラーは手に持っている三つの道具をお手玉のように回し、それで光の輪を作る。その中をトマトが通ると急に輪は縮まり、トマトを六つの星へと変える。
そしてリペアラーは一礼をしてから、どろんと姿を消した。
「卑しき妬みに彩られし野薔薇の女王よ、我が僕となりて鋭き棘で敵に後悔と死を与えよ!」
光が収まると、その中から野薔薇の女王が現れた。右手を覆うような棘、左手の部分は赤いハサミのようになっている。イチゴのようなスカートを履き、緑髪の上に赤いとんがった帽子を被った女性が現れた。
ギャラリー(主に男性)から歓喜の声が上がる。やはり女性型モンスターは人気なようだ。
「シンクロ召喚、ヘル・ブランブル!」
ヘル・ブランブルはその声に答えるようにスカートの裾をつまみ、上品にお辞儀をする。
「バトルだ! ヘル・ブランブルでカードガンナーを攻撃! ヘル・ソーンスラッシュ!」
ヘル・ブランブルは地を蹴り大きく飛び、左手のハサミでカードガンナーの身体を繋いでいる鉄色の部分を固定させ、身動き出来ないようにすると、右手の棘で抉るように何度も何度も突き立てる。
がちゃん、がちゃん。と音が鳴り、螺子が飛び、カメラアイのライトが何度も点滅する。腕を振り、キャタピュラを回し拘束から逃れようとするが、それを断ち切るように頭を貫く。
するとまるで生き物が死んだかのように腕の大砲ががちゃん、と地面に力なく落ちた。
「カードガンナーの効果で一枚ドロー!」
「モンスターをセット。ターンエンド」
罠では無かった。ではあのカードは、あの伏せカードは何だ? と、万丈目は自問自答する。デュエルにおいて頼れるのは己のみ。己の頭脳を酷使し、勝利を掴みとる。
これまでもそうしてきたし、これからもそうするつもりだ。強いデュエリストはデュエルモンスターズの精霊が見えるらしいが、万丈目はそういったオカルトなんぞ信じない。あの時のあれも、きっと幻覚に決まっている筈だ。
「俺のターン、ドロー!
へへへっ、万丈目。スゲェな、新しく出たばっかりのシンクロ召喚を使いこなしてるなんてさ」
「当然だ、俺は天才だからな。あとさんを付けろ」
「それじゃあ、俺もそれに答えなきゃな! ライフポイントを半分払って、手札から速攻魔法、ヒーローアライブを発動!
自分場に表側表示モンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下のE・HEROと名の付くモンスター一体を特殊召喚する! 来いっ、E・HEROスパークマン!」
十代の場に再び、スパークマンが稲妻をまとって現れた。既に十代のライフは、このカードを使用した事によって400まで減ってしまっていたが、元々800だったのだ。大して変わりは無い。まずはアドバンテージを稼ぐ、それが十代の狙いだ。
万丈目は舌打ちする。十代がここで終わる訳が無いと解っているからだ。ただ壁モンスターを出しただけではないと、解っているからだ。
「罠カード発動、ゴブリンのやりくり上手! 墓地に存在するやりくり上手+一枚だけ、カードをドローする!
更に手札から速攻魔法、非常食を発動! ゴブリンのやりくり上手三枚を墓地へ送り、ライフを3000ポイント回復する!」
チェーンは最後に発動したカードから処理される。そしてゴブリンのやりくり上手は墓地に存在するやりくり上手+一枚カードをドローするカード。そして非常食は、魔法・罠カードを墓地へ送る事で一枚ごとにライフを1000ポイント回復するカード。
まず非常食の処理によってやりくり上手は墓地へと送られ、その後でやりくり上手の効果が発動する。墓地へ送られたとしても、破壊されたとしても効果は無効にはならない。
「やりくりターボか!」
「ご名答! ゴブリンのやりくり上手の効果で、カードを十二枚ドローし、三枚をデッキの一番下に戻す!」
一気に十代の手札は、〇から九になった。手札補充、最上級生でもそれをどのようにデッキに組み込むか死苦するというのに、十代はいとも容易くやってのけた。
やはり、と万丈目は笑う。強敵はこうでなければならない。追い込む事で真価を発揮する、万丈目の眼に狂いは無かった。
しかし、面倒な事にもなった。融合特化型デッキにとって手札とは、シンクロの手札以上に可能性を秘めたものだ。手札は無限の可能性、それは相手がどのように動くか完璧に判断する事が出来ないという意味だと万丈目は捉えている。だからこそ、デュエルは面白い。
「魔法カード、融合を発動! 場のスパークマンと手札の沼地の魔神王を融合し、シャイニング・フレア・ウィングマンを融合召喚!」
緑色の怪物と黄色いプロテクターを付けたヒーローが溶け合い、白い鎧を被ったヒーローがまばゆい光を放ち、悪を滅さんと現れる。
手札は残り七枚。万丈目の背中を、嫌な汗が流れる。
「更に魔法カード、融合回収を発動! デッキから融合と、融合に使用したモンスター……沼地の魔神王を手札に戻す! 更に融合を発動! 手札の沼地の魔神王とフェザーマンを融合し、フレイム・ウィングマンを融合召喚!」
シャイニング・フレア・ウィングマンの隣に、左肩に白い羽を生やし、右腕にドラゴンの顔を持ったヒーローが現れる。フレイム・ウィングマン、隣のシャイニング・フレア・ウィングマンの進化前と呼んでもいいモンスターだ。
既に二体のヒーローを召喚したというのに、十代の手札はまだ六枚も残っている。やりくりターボ、決めるのはなかなか難しいのだが、一度決めた時の爆発力は凄まじいのだ。流石に万丈目も顔が引きつる。こうなると解っていたのに。
「更に最後のカードガンナーを召喚し、効果発動! デッキトップからカードを三枚墓地へ送り、攻撃力を1500ポイントアップ!」
「へっ、ヘル・ブランブルの効果発動! 植物族以外のモンスターが手札から召喚・特殊召喚された時、そのプレイヤーに1000ポイントのダメージを与える!」
ヘル・ブランブルは右手の棘を地面に突き刺す。すると十代の足元からその棘が飛び出し、十代の胸を貫いた。
シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は、カードガンナーの効果で墓地へ送られたカードも合わさって5800まで膨れ上がった。もしこの一発を喰らったら、それで終わりだ。
「まだまだ! フィールド魔法、摩天楼‐スカイスクレイパー‐を発動!」
アメコミチックなどこかのっぺりとしたビルが、二人の周りを囲むように生えてくる。路地裏、煉瓦の壁に左右を封鎖された通路。そこに万丈目と十代は立っている。
ビル風が吹き、二人の服を揺らす。万丈目の予想を大きく上回って来た。流石にここまでやるとは思っていなかったのだ。
「バトル! シャイニング・フレア・ウィングマンでヘル・ブランブルを攻撃! シャイニング・シュート!」
シャイニング・フレア・ウィングマンは煉瓦の壁を登り、ビルの方へ飛び、それを蹴り上げる事で空高く急上昇、そして天辺まで上り詰めると、そこから飛び降りるように急降下。そして右手の丸いよく解らない装備品から白い炎を出し、ヘル・ブランブルへと突撃。まるで爆撃のようだ。
しかしシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃は、ヘル・ブランブルの目の前に突如現れた壁によって中断される。
「……墓地のネクロ・ガードナーを除外し、攻撃を無効にした」
「なら、フレイム・ウィングマンでヘル・ブランブルを攻撃! スカイスクレイパー・シュート!」
やっと出番が来たとばかりにシャイニング・フレア・ウィングマンの上ったビルよりはちょっと低い、時計塔の天辺の上に上り、そこから回転しながら急降下。ヘル・ブランブルは天へ棘を突き刺すが、それを手で軽く制しドラゴンのような右腕でヘル・ブランブルの顔に噛みつき固定し、ほぼゼロ距離で火を放つ。
ぼうぼうと燃え盛るヘル・ブランブル、そこに容赦なくフレイム・ウィングマンは左拳を固く握り、腹を貫いた。
「スカイスクレイパーが場にある時、E・HEROと名の付くモンスターより攻撃力の高いモンスターに攻撃する時、攻撃力を1000ポイントアップする! 更にモンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
フレイム・ウィングマンは右腕のドラゴンの口を万丈目に向け、炎を吐く。一気にライフを3200も削られてしまった。次の攻撃での勝利を確信し、十代は口角を上げる。
しかし、炎が晴れてから現れたモンスターを見て、一気にその表情が凍り付いた。
「……自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、
このカードを手札から特殊召喚する事が出来る! 冥府の使者ゴーズ!」
黒い鎧を身にまとい、右手にうねうねと曲がった剣を持った、黒い鎧に身を包んだオレンジ色のトゲトゲ頭の男が現れる。
腰には大きな赤い布きれ、トゲトゲとした攻撃的な鎧。その眼は真っ直ぐ、十代の方に敵意を向けている。
ゴーズは足を踏み込み、大きく剣を振り、斬撃を飛ばす。黒くうねる斬撃。その斬撃は十代の場のモンスターを通り抜け、十代の身体を切り刻む。
「このカード自身の効果で特殊召喚した時、通常攻撃なら受けたダメージ分のトークンを自分の場に、カード効果によるダメージなら受けたダメージ分を相手に与える!
「ぐっ、カードを四枚セットしターンエンド!」
これで十代も万丈目も、下手に動けなくなった。十代のライフはたったの1200、万丈目のライフは800。僅かに十代の方が優っているが団栗の背比べ、どちらもすぐに消えてしまう。
だというのに二人の顔には、笑みが浮かんでいた。
「俺のターン、ドロー!
魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のヘル・セキュリティ、キラー・トマト、地獄戦士、ヘル・ブランブル、ダーク・リペアラーをデッキに戻し、カードを二枚ドロー! 更に強欲な壺を発動し、カードを二枚ドロー!」
一気に万丈目の手札が四枚に回復する。そして墓地の闇属性モンスターは二体、魔法・罠が怖いが張る罠を破壊するカードも無い。
であるなら、このターンに全てを掛けるしかない。
「墓地のヘルウェイ・パトロールを除外し、手札の攻撃力2000以下の悪魔族モンスター一体を特殊召喚する!
来い、地獄将軍・メフィスト!」
黒き鎧をまとった黒い馬に乗り、黒い霧の中から全身真っ黒な悪魔の戦士が現れた。悪魔の角を光らせ、黄色いスカーフを棚引かせる。手には巨大な斧、とても攻撃力1800とは思えない。
「速攻魔法、異次元からの埋葬を発動! 除外されているヘルウェイ・パトロールとヘル・ツイン・コップ、そしてネクロ・ガードナーを墓地に戻す! 更に墓地のヘルウェイ・パトロールを除外し、手札から地獄将軍・メフィストを特殊召喚! 墓地に闇三体、召喚条件は満たした! ダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚!」
二体の地獄将軍・メフィストを押しのけ、黒い拘束具に身をまとった黒いドラゴンが現れる。背中と肩、腕輪と尻尾を纏うプロテクターに痛々しい棘が付いており、顔を半分覆う赤い眼は殺意に満ち溢れている。
闇、何処までも闇。殺す為に特化した文字通りのモンスター、その効果も何処までも攻撃的だ。
「墓地の闇属性モンスター、地獄詩人ヘルポエマーとヘル・ツイン・コップ、そしてネクロ・ガードナーを除外し、伏せカード三枚を破壊!」
「速攻魔法、クリボーを呼ぶ笛を発動! デッキからハネクリボーを特殊召喚!」
ダーク・アームド・ドラゴンの刃のような棘が、フレイム・ウィングマンとシャイニング・フレア・ウィングマンの後ろにある伏せカードに刃が突き刺さる。切り刻まれ、塵と化す。その塵が晴れ現れたのは、丸っこく茶色い、天使の羽を生やしたマスコットだった。女子から黄色い悲鳴が巻き起こる。
「更に罠カード、サンダー・ブレイクを発動! 手札を一枚捨て、ハネクリボーを破壊!」
登場したばかりのモンスターを、自らの罠で破壊。万丈目には相手が、何を狙っているのか解らない。しかし、ここは臆せず攻めるのが万丈目だ。
それが利点でもあり、欠点でもある。
「バトル! ダーク・アームド・ドラゴンでカードガンナーを攻撃!」
ダーク・アームド・ドラゴンの大きな鍵爪が、カードガンナーを押し壊す。装甲から中の部品が飛び出し、ガラスが割れる。
「カードガンナーが破壊された事により、カードを一枚ドロー!」
十代は当たり前のようにカードをドローする。デュエル終了の合図は鳴っていない。何故だ、と思考を、記憶を呼び起こす。
「ハネクリボーが破壊され墓地へ送られたターン、エンドフェイズまで自分は戦闘ダメージを受けない!」
「……そんな効果を隠し持っていたのか。なら、冥府の使者ゴースでフレイム・ウィングマンを攻撃! 切り裂け!」
ゴーズは地を蹴り、一瞬でフレイム・ウィングマンの目の前まで駆け寄る。右脚を止め、右腕に大きく力を入れ、左に袈裟斬り。フレイム・ウィングマンの両腕と羽、そして胴体を真っ二つに引き裂いた。
たとえダメージを与えられずとも、相手の場に居るモンスターは少ない方がいい。ボード・アドバンテージは万丈目が握った。
そして、駄目押しの一発。
「地獄将軍メフィスト二体を生け贄に、地獄からの使いを召喚!」
大きな角を付けた鎧を装備した、黒く大きな獣が現れる。鎧は全身に棘を施されており、口の端と四股を繋ぐ鎖がじゃらりと音が鳴る。
地獄の門番、最強のチューナーだ。攻撃力2600、最上級モンスターとしてはそれほど強くないが、チューナーなのでイージーチューニングによって他のモンスターの攻撃力を爆揚げする事が出来る。が、そのカードは今、万丈目の手札には無い。
しかし、これで弾は揃った。補充された。
「墓地のメフィスト一体を除外し、シャイニング・フレア・ウィングマンを破壊! カードをセットし、ターンエンドだ!」
ダーク・アームド・ドラゴンの背中から発射された刃が、シャイニング・フレア・ウィングマンに当たり破壊される。
ボードアドバンテージは圧倒的に万丈目の方が有利。サレンダーするか、それとも諦めず足掻くか……どちらにせよ、この布陣を突破し、800のライフを消し飛ばすのは容易ではないだろう。
「俺のターン、ドロー!
楽しいな、万丈目! ここまで強いのか、強かったのかお前は!」
「万丈目さんだ。……で、お前はこの布陣をどう突破する?」
伏せカードは攻撃を防ぐカードではない。正直言って手札に置いておくだけ腐るカードだ。
だが、負けはしない。少なくとも、負ける事は無い。逆転はされるだろうが、ライフ尽きない限り可能性は〇じゃない。
「さあな、だからこそワクワクするんだ! 魔法カード、ホープ・オブ・フィフスを発動! 墓地のエアーマン、スパークマン三体、シャイニング・フレア・ウィングマンをデッキに戻し、カードを二枚ドロー!
更に貪欲な壺を発動! 墓地のハネクリボー、フレイム・ウィングマン、クレイマン、沼地の魔神王二枚をデッキに戻し、カードを二枚ドロー! 天使の施しを発動! カードを三枚引き、二枚捨てる!」
怒涛のドローラッシュ、一気に手札が五枚に回復。万丈目は自分のドロー運はかなりの物と自負しているが、十代のそれは万丈目を軽く凌駕している。
五枚の手札、デュエリストにとっては十分な数の可能性。
「俺はチューナーモンスアー、ジャンク・シンクロンを召喚! ジャンク・シンクロンの召喚成功時、墓地のレベル2以下のモンスター……シンクロ・フュージョニストを特殊召喚!」
オレンジ色の帽子を被った、丸い眼鏡が特徴的な小さな機械仕掛けの戦士が、白いマフラーを棚引かせ現れる。その隣に現れたのは、初期から存在する魔法カード、融合に描かれているモンスターだ。それが細長い脚で立っている。
「チューナーだと!? それにシンクロ・フュージョニストだと……何時の間にそんなモンスターを墓地に」
「お前の手札弾殺の時にだ! レベル2のシンクロ・フュージョニストに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」
ジャンク・シンクロンは尻辺りにあるヒモを引っ張ると、光の輪となる。その輪をシンクロ・フュージョニストは潜り抜け、五つの光と化す。
しかし、十代の持っているシンクロモンスターはアームズ・エイドとスカー・ウォリアーの二体のみ。どちらも万丈目のモンスターを倒す事は不可能だ。
「大地の痛みを知る傷だらけの戦士よ、その健在を示し同士を守れ! スカー・ウォリアー、シンクロ召喚!」
右手に巨大な刃を持ち、白い鎧を右半身に纏わせた褐色肌の戦士が、光を散らしながら現れた。古強者の風貌を漂わせる、岩の様な筋肉を持っている。
散った光の一枚が、十代の手札を灯す。現れて悪いが、今回はスカー・ウォリアーの効果を使う事は無い。
「シンクロ・フュージョニストの効果! このカードがシンクロ素材として墓地へ送られた時、融合又はフュージョンと名の付く魔法カード一枚を手札に加える! 俺は融合を手札に加え、発動! 手札の沼地の魔神王とフェザーマンを融合し、フレイム・ウィングマンを融合召喚!」
再び緑色の、竜の咢を持ったヒーローが十代の場に降り立つ。
攻撃力2100、しかしスカイクレイパーの効果で1000ポイント攻撃力を上げられる。
「バトル! フレイム・ウィングマンでダーク・アームド・ドラゴンを攻撃! スカイクレイパー・シュート!」
態々時計塔の上に上り、そこから急降下。回転しながらダーク・アームド・ドラゴンの頭をかち割りに行く。
ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力は2800、フレイム・ウィングマンの攻撃力は2100。しかしスカイクレイパーの効果によって、攻撃力は3100となる。
しかし、と万丈目は笑う。
「速攻魔法、突進を発動! ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力を700上げる!」
ダーク・アームド・ドラゴンは落下してくるフレイム・ウィングマンの腕を取り、地面に打ち付けやんとする。勝負は決まった、次のターンの勝利を確信している。しかし、十代の顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいる。
「速攻魔法、決闘融合‐バトル・フュージョン‐を発動! 自分フィールドの融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動!
自分のモンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする!
よって攻撃力は4000!」
咢となっている右腕と普通の左腕で腕を掴み、ダーク・アームド・ドラゴンの関節を固定し動けなくする。そして赤い尻尾で、ダーク・アームド・ドラゴンの鎧の隙間に絡みつき、一気に締め上げる。
口から泡を吐き、振りほどこうと暴れまわる。しかし決して離さず、更に力を込める。バキッ、という音と共に首がだらんと、フジの花のように垂れた。
「なっ、なっ……」
万丈目の頭の中に浮かび上がる。初めての感情、負けたくない。これまで負け知らずだった。大会には何度も出て優勝し、上級生相手にも大人相手にも決して負けなかった。勝利、絶対的な勝利。初めての挫折が、今万丈目の前に迫ってきている。
しかしそんな万丈目の前に、ダーク・アームド・ドラゴンの身体から飛び降り、フレイム・ウィングマンの右腕の咢から炎が吐き出される。
「負けた……のか、俺が……」
「ガッチャ、楽しいデュエルだったぜ!」
三つの指で万丈目を指差し、十代はそう告げる。
万丈目はまるで長い夢から覚めたように、薄く笑う。すると万丈目もそれを真似るように、十代を指差した。十代は一瞬きょとんとしたが、すぐにヘヘッと笑いかける。
「ああ、楽しいデュエルだった。初めて負けたが……これが挫折、か。悔しいな」
万丈目の中にある感情は悔しさ、それと同じぐらいの楽しかったという感情。そしてそれが終わってしまった事に対する寂しさ。それらが複雑に混じり合っていたが、何処か清々しさがある。まるで付き物が落ちたような顔だ。
ふと十代は、万丈目も永理の方に意識を向けた。来る、という観客からのコールと、それに答える永理。姿は見えなくとも、永理の楽しそうな表情が容易に想像出来る。
「プチモスを生け贄に……答えてみせよう皆の期待に! カモン! 究極完全態・グレート……モスゥゥゥゥゥ!!」
わあああという歓声と共に、永理の方からポケモンで聞きなれた声が聞こえ、十代は苦く笑った。相変わらずだな、と。
万丈目のデッキは昔TFで適当に造った地獄デッキを改造した感じのです。ファンデッキではありますが、割と戦えました。