ハターン・モンスータの狩りと愛の日々 作:ヨイヤサ・リングマスター
俺に勝てるものなんて誰もいなかった。
最強の名を欲しいままにし、逆らう者は殴り、気に食わない者は殴り、そんなことを続けていた。
そのため俺の力に惹かれてコバンザメのように寄ってくる屑はたくさんいたが誰一人として俺の心を満たしてくれる存在はいなかった。
そんな俺はアイルー村で喧嘩に明け暮れ、ありとあらゆる悪事を繰り返しひたすらに堕落の一途をたどった。
「頼む! 俺には帰りを待つ家族がいるんだにゃ!」
「じゃあその家族もあの世に送ってやるぜ」
殺す。
「私は明日には彼との結婚式を控えて……」
殺す殺す。
「てめぇがワリサか。
俺らのシマで随分好き勝手してくれてるじゃねぇか」
殺す殺す殺す。
俺はいつまで殺しつくせばいい?
いつになったら俺のこの渇きを満たしてくれる?
その問いに応えてくれる者は誰もおらず、周りには敵だった連中の死体しかなかった。
だがそうした敵も俺にとっては敵としては物足りない雑魚でしかなかった。
結局俺は鬼でしかないのか?
「俺は殺したくて殺してるわけじゃないんだけどな……」
どんなに言葉を尽くしても語りきれず、モヤモヤと消えることのない不快感が胸を占める。
どんなに殺し、暴れまわっても積もり続ける殺意。
だがそんな俺に近づいてくる女がいた。
アイルー村でも嫌われ者として誰一人として近寄ってくる者がいない俺に近づいてきたその女を俺は自殺志願だと思ったのは不思議でもなんでもないだろう。
だがその女は自殺志願を考えるような弱い存在ではなかった。
「あなたは最低です」
と、一言面と向かって言ってくる女。
そんな事を言われたらいつもの俺なら怒りに任せて殺すというのが自分らしさだと思っていたのだがそれが出来なかった。
「……そうか」
しばらくして、ようやく口に出来た一言がそれだけだった。
その後その女の顔を見ていることが出来ずに俺の方からその場を立ち去った。
逃げ出したのだ。
しかしその女との因縁は切れなかった。
それからしばらくその女は俺のあとをつけ回り始めたのだ。
俺はやめるように何度も文句を言ったが結局女を殺すどころか一切傷つけることができなかったので女はやめることなく俺について回り、俺の素行の悪さについて口うるさく何度も同じことを言ってきた。
だがそれを心地よく感じる自分がいることにも気づいた。
「お前はいつまで俺についてくるつもりだ」
「あなたが更生するまで何度でも同じことを言い続けます」
こんな会話をしていた。
「あなたの尻尾は毛並み同様に銀色に輝いていて綺麗ですね」
「なんだ、お前が俺を褒めるとは珍しいな」
「尻尾しか褒めるところはありませんけど」
それが俺達の日常だった。
だがそんな日常を悪くないと感じ始める自分がいるのも確かだった。
だがそれがある日劇的に変わった。
女が殺されたのだ。
「ハッハー、ワリサ。てめぇこの女に惚れてたんだろ?
俺らの家族を殺したみたいに俺らがお前の女を殺してやったぜ!」
俺は血だまりに浮かぶ彼女の死体を無言で抱き上げる。
すでに死んでいるのは誰の目にも明白だった。
「俺は……こんな女に惚れてなんかなかった。
だがな! この世のものは全て俺の物だ!
俺の許可なく俺の所有物であるこの女を殺したんだから覚悟はできてるんだろうなぁ!?」
女に出会ってから久しく忘れていた俺の中の殺意、憎悪、憤怒が再び目覚めた。
『あなたは最低です』
彼女の言葉が思い出される。
ああそうさ、俺は最低さ。自覚している。
『あなたが更生するまで何度でも同じことを言い続けます』
馬鹿が、俺が更生する前にてめぇが死んじまってるじゃねえか!
俺はこいつのために怒っている訳じゃない!
断じてこんな女のためなんかに闘う訳じゃない!
「ハッハー、さすがのワリサでもこの人数相手に勝てると思うなよ!
これからはこの俺が新しくこの街のボスになってやるのさ」
名も知らないネコが何か言っているがどうでもいい。
周りを囲んでいる100を越えるネコ達なんてどうでもいい。
とにかく俺の中の憂さを晴らさせろ!
「誰でもいいから殺させろ!!」
その叫びとともに周りの敵の殺戮を開始した。
……
…………
………………
最後に立っていたのはやはり俺だった。
さすがの俺も数の力には苦戦を強いられ、体中に大小100以上の傷を負い、彼女が唯一褒めてくれた自慢の尻尾も千切れ飛んでしまった。
鬱陶しいだけの女だと思っていたがいなくなって初めて分かった。
俺はこの女に惚れていたのだと。
「ぐ……ぐぅぅぅぅ…………」
声を上げずに泣いた。
こんな俺でも涙は出るなんてしらなかったな。
死体の山に囲まれながら俺は女を抱きしめた。
そしてすでに物言わなくなった彼女の唇に自分の唇を重ね、最初で最後の別れの口付けをする。
それからどれくらいの時間が過ぎただろう。
遠くから足音が聞こえ、その足音は俺の背後で止まった。
「お前がワリサか?」
声は若く、というよりも幼い少年の声だった。
「俺がワリサだ」
「そうか、俺はトイダーヴァの街の未来の第一位となる予定のハンター、ハターン・モンスータだ。
凶暴で手に負えない鬼のようなアイルーがいるというのでどんな奴かと思ってきてみればただの噂だったようだな。
……鬼は涙を流せない」
少年は俺に近づき地面に座り込む。
辺りは暗く曇り、ちょうど男のセリフが合図になったかのように雨が降りだした。
「今は思いっきり泣いておけ。
お前は鬼ではない、これからも強くなれる。
俺について来い」
守りたい存在を失った俺に強くなる理由などあるものか!
これまでずっと一人だった俺の唯一親しくしてくれた彼女が死んだんだぞ、と、言いたかったが俺の口からは言葉は出ずにただただ涙が流れ落ちる。
この少年からは女と同じ包み込むような優しさを感じたのだ。
それから行く場所もなかった俺はハターンという人間の少年について行くことにした。
しばらくして、試しに手合わせをしてみたが俺の敗北だった。
俺よりも強い存在がこの世に存在しているだなんて思いもしなかったがとにかくハターンは俺とは別格の強さを持っていた。
負けたことなんてこれまでになかった俺にとって、ハターンはこれからの俺の目標となった。
俺はこの人に尽くすために生まれたのかもしれないと思えるほどに心酔した。
彼女のことを忘れたわけではない。
だがこのハターンという少年との出会いも彼女との出会いと同じくらいに俺の運命を決定づける気がしたのだ。
今度は失わないように、もしもハターンがピンチになることがあれば俺が助けられるくらい強くなるために、俺はトイダーヴァの街について行くのだった。
……トイダーヴァの街には俺を知るネコはいないらしくご主人と一緒に狩りに出ることでオトモネコの序列にて第一位の座も手に入れた。
それからしばらくしてご主人はディオシキさんという女の子を弟子として育てはじめ、それと同時に俺にも初めての弟子ができた。
「ワリサの大将はどうして俺っちらを弟子にしてくれたんだニャ?」
「確かに私たちを弟子にするメリットがワリサさんにはないと思うみゃ」
二人からしてみれば俺みたいにゃ最強のネコに弟子入りできるにゃんて意外にゃ出来事にゃんだろう。
だがその質問に俺はこう返す。
「弟子にしたかったからにゃ」
俺の理由にゃんてこんにゃもんだにゃ。
彼女と出会い、ご主人と出会い、そうして弟子までも持つ身とにゃった今の俺を過去の俺が見たら笑うかもしれにゃいけど俺は今の生活に満足してるにゃ。
「さぁて、今日もいっちょ狩りにでも行くかにゃ~」
弟子を引き連れ、いつでもご主人の力ににゃれるようにさらに己を磨く。
俺はトイダーヴァの第一位、ハターン・モンスータの一のオトモ、ワリサ。
過去の自分が求めても求めても手に入れることの出来なかった充足感を胸に、積もっていく高揚感を感じながら俺はご主人のために今日も己を鍛えるのにゃ♪
前の章で投稿すればよかったかもしれませんが、おまけと考えていたのでここに投稿。
何だかハターンよりもワリサの方がハードボイルドになってる気がするんですよねw