ハターン・モンスータの狩りと愛の日々 作:ヨイヤサ・リングマスター
ちなみにこれが最終章です。
武士道精神
突然だがここでトイダーヴァの街とその街のハンターの序列について説明しよう。
トイダーヴァの街は元々一人の竜人族のハンターが興した街で、最初に街の長をしていた竜人族はハンターとして稼いだ金と人脈を使い、あっという間に街を大きくしたという。
もちろんこれはかなり昔、俺が生まれる前の話だから聞いただけなのだが。
そしてハンターが長をする街ということでその街長にあこがれた強いハンター達が次々に集まりだし、他に類を見ないほどに腕のいいハンターが揃っているのだ。
ありえないような話だが、街のハンターの一割がG級ハンターというのはこの街が特別なのであって、大抵の街と呼ばれるだけの大きな場所でもG級ハンターは数える程度しかいない。
そしてこの街の一割のG級ハンターの中でも特に一線を画したハンターが序列持ちと呼ばれている。
第一位がこの俺ハターン・モンスータ。
第二位が俺の元弟子のサラ・ムーイ。
第四位が俺の母さんの弟子のロッド・キツサ。
そして第五位が俺の今の弟子のイトラ・ウボンガ。(イトラの前に第五位だった奴は名前忘れたな)
そもそも序列持ちは名指しの依頼も多いので街に留まることは少ないし、第六位から下は直接の面識がないから俺もどんなやつなのかは知らない。(ちなみに俺は強すぎるために滅多に来ない国を巻き込むような超大物の中の大物の依頼か、弟子の育成以外で狩りに出ることはない)
が、俺が面識があり、尚且つさっき意図的に除外したこの街の第三位が今回の話の登場人物でもある。
大仰な始まりになってしまったが話を始めようと思う。
トイダーヴァの街の序列第三位、シドー・ブイセシンの話を……
「そういえばぁ~、そろそろ彼が帰ってくる頃ねぇ~♪」
俺宛ての依頼は最近はトン爺さんの手伝い以外全く来ないので仕方なくのんびりしていた俺は久しぶりに外食をしようと思い、こうしてギルドに来ていたわけだが、不意にマルがそんな事を言ったのだ。
「彼って誰だ?」
マルは顔が広いから誰と仲が良くても不思議ではないが何か嫌な予感がしたので訪ねてみた。
「彼ってのはぁ~、彼のことよぉ~♪
ハターン君もよぉ~く知ってるわよぉ~♪」
「俺とお前の共通の知り合いで会いたい奴なんていないな」
「もぉ~、彼はハターン君のこと好いてるんだからぁ~、帰ってきたら一目顔見せてあげなさいよぉ~♪」
正直に言えばマルが言う『彼』について心当たりがある。
俺の嫌な予感というのはけっこうな確率で的中するのでマルが言う『彼』が俺の知る『アイツ』ではないことを願うが展開から言ってまず間違いなくアイツだ。
俺のことが好きなやつはどいつもこいつも粘着質で鬱陶しいという奴が多いのだがその中でも特に厄介なアイツだ。
急いで店を出ようとしたが時すでに遅し。
その時には店の入り口の戸が勢いよく開かれたのだった。
「ややっ! そこにいるのは我が友ハターン殿ではござらんか!
拙者が帰ってくる日にちょうどギルドで会えるとはまさに感激の極みでござるな!」
俺の勘は的中した。
テオ・テスカトルのブレスよりも暑苦しく、ネンチャク草よりも粘着質で俺に寄ってくる男。
トイダーヴァの街の第三位、シドー・ブイセシンだった。
その性格は鬱陶しいだけなのだがその見た目が俺の寡黙で渋いハードボイルドな雰囲気と合わないからあまり一緒にはいたくない男なのだが見つかってしまった位上は仕方がない。
シドーは周りを気にもかけることなくドカドカと店の中に入ってくると、さも当然といった流れで俺の隣に座る。
「よう久し振りだなシドー。
俺はあんたに会いたくなかったし出来ることなら狩り場から戻ってこないことを願っていたんだがな」
「またまたそんな冷たいことを言っちゃって~。
ハターン殿は本当は拙者に会いたいのに素直になれないだけのツンデレさんでごさるな~」
シドーの十八番、『都合のいい解釈』。
こいつは俺がハンターになるより前からこの街でハンターをしていたかなりのベテランなのだが、なぜかけっこうな年だというのに必要以上に俺に構ってくる鬱陶しい奴なんだ。
俺がこの街に来る前までシドーはトイダーヴァの第一位のハンターだったのだが俺が現れて、さらに俺の弟子のサラがメキメキ実力をつけたことで今は第三位の席に着いているがそれでも一流の狩人であることには変わりない。
ちなみにシドーが第三位というのには無類のお人好しなために依頼外で追加の仕事をボランティアで受けて、いつも狩り場から帰ってくるのが遅くなったりはしているためにクエストクリア数が少ないからでもある。
「とりあえず久し振りに帰ってきたお前に顔は見せたし、俺はもう家に帰るぜ。
早く帰らないと弟子達が暇つぶしで家を完全に壊しかねないからな」
ついさっきの出来事なのだが、食っちゃ寝ばかりしていたサラをイトラが咎めたところ、二人にしては珍しく喧嘩になり、おまけになぜかディオシキまでも加わってしまい大暴れだったのだ。
そこで俺が喧嘩を止めたらなぜか『決着をつけるために壁を殴りっこして勝負しようぜ♪』、という流れになり三人によって家中の壁が壊されてしまったんだ。
さすがに俺もキレたんだが涙目で謝ってくる三人に怒れず、三人は反省する事はなかった。
「……ハターン殿の長い回想はともかく、先程まで拙者が出向いていた依頼先で面白い話を聞いたのでござる」
おっと、俺としたことが気を抜いていたか。
まぁいい。
「面白い話?」
こいつにしては妙に真面目な顔をしているな。
「メラナト島にて新種のモンスターが大量に見つかっているそうでござる。
ハターン殿を名指しで来る依頼は滅多に無いでしょうし、たまには拙者と一緒に狩りに出かけてみないでござるか?」
眼を輝かせて語るシドー。
ここでシドーの装備について説明しておくと、こいつは頭をラオシャンロンの頭部を模した気ぐるみで隠し、それ以外は暁丸・覇のハンマー使い(ハンマーを二本使う二刀流でもある)という変わった装備なのだ。
シドーは俺が贔屓にしている鍛冶屋、トン爺さんの店で俺以外の数少ない客でもあるのでそのマスクは被ったまま食事や風呂も可能という優れもので、実際にこいつがマスクを脱いだところを見たことがない。
しかも頭部の『ラオシャンロンフェイク』はその性能とは裏腹に、妙に可愛らしくデフォルメされているので傍にいる人間を芸人に見せる隠しスキル? も持っているのだ。
つまり現在コイツの隣にいる俺は目の前のマルに笑いを堪えられながら接客されているわけだ。
そしてシドーはよほど俺と一緒に狩りに行きたいのか、尻尾があるならちぎれんばかりに振っているだろう喜びに満ちた笑顔だ。
ここで断るのは簡単だが、以前母さんがメラナト島に父さんが向かったと言っていたし興味はある。
このあいだタイムマシンで過去に行った時にイトラの両親を襲った古龍も方角的にはメラナト島に逃げた可能性が強いし行ってみるのも悪くない。
「断る……と、言いたいところだが、それもいいかもしれないな。
よし、行きたい依頼もないし俺もメラナト島に行ってみるか」
「おお、それは嬉しいでごさるな♪
すでにマル殿に船の用意は済ませてもらっているでござる!」
なんとも手回しのいいことだ。
だがこれを利用して今回の狩りをイトラの弟子卒業試験としよう。
遅すぎた位だがいつまでもイトラを俺の手元に置いておくわけにはいかない。
「まぁ、一人立ちの時期ってやつだな」
そのあと無駄に熱いシドーに先に港向かうように言った俺は三人の弟子を呼ぶために家に帰るのだった。