そんな感じの話です。
「お、帰ったのかシュナムクル様。
おゆはんは天然物のゾンビーフが手に入ったから、今夜はゾンビシチューにしようと思うのだがどうだ?
ステーキにしても良いのだが」
とりあえず準備が必要だと思い、<シュナムクル魔界>へと一気に飛んできたわけだけど、そんなシリアスな空気をぶち壊すのはやはり一応腹心のシードルの発言だったりする。
というかエプロン姿のシードルってのも、何度も見ていれば慣れてくるもんなのね。
「あんたね~、悪魔のくせに、元魔王のくせに、何『おゆはん』とか言ってんのよ。
気が抜けちゃうじゃないの」
「くっくっくっ……、オレのエプロン姿にときめいたのか?
別にそれ自体は構わんが、オレはシュナムクル様に対して呪いで忠義を誓っているだけで、愛情はないと改めて言っておこう」
「別にあんたから愛情なんて欲しいとは思わないわよ。
あ、おゆはんはゾンビシチューでお願いね」
まぁ、悪いことじゃないし、いいんだけどね。
相変わらずプリニー隊は仕事を与えてもサボりまくるから、掃除のみをやらせてるし。
家事全般がシードルの仕事になるのも当然よね。
そんな訳で、今日はこのまま寝ることにしました。
意地でも、シードルのおゆはんが以外と美味しかったなんて言わないんだから。
◆ ◆ ◆
「……」
「お、目覚めたか主。
昨日は夜9時に寝たというのに、目を覚ますのが朝10時とは見た目同様に子どもみたいなのだな」
「……状況説明をお願いするわ、シードル。
な・ん・で、あたしは毛布にくるまったまま、あんたに背負われて空を高速で飛んでいるのよ!?」
あたしの今の状況。
パジャマ姿で、泥棒の風呂敷のごとく毛布でくるまれてシードルに背負われている。
犯人は誰?
もちろん、現行犯であたしを背負っているシードルに決まっているわ!
「くっくっくっ……、そう怒るなシュナムクル様。
オレとしてもシュナムクル様を起こすために、ありとあらゆる手段を用いたのだが、それでも起きないからこうして背負って空をかっ飛んでいるのではないか。
魔界<ヴェルダイム>行きの電車の発車時刻まであと30分だぞ?」
「……そういえば、新幹線のチケットとかもあんたに全部任せてたんだっけ。
それにしてもパジャマ姿のまま担がれるなんてね~」
いや、そうは言ってもシードルなんかにあたしの裸を見せるのは勿体ないし、着替えさせてほしいというわけではないんだけど。
「くっくっくっ……、安心しろ。
オレは準備の段階から任されていたのだ。
当然着替えも向こうの魔王への土産も手抜かりなくこなしている。
<シュナムクル魔界>名物の『シュナ饅頭』はデフォルメしたシュナムクル様の顔だから土産にもらえばウケるはずだ」
「さすがシードルぐっじょぶ♪」
「く~っくっくっくっくっ♪」
あたしを包んでいる毛布の中に潜ってみれば、確かに旅行鞄も入っているし、開けてみたら中には着替えも入っていたの。
……でもね、その着替えがコスプレ衣装しかないってどういうことよ!?
「オレの趣味だ!(ドーン)」
「あんたは自分の主に何をさせるつもりなのよっ!!」
「ん? そりゃ決まっているだろう。
その衣装に合わせたキャラを演じてもらいたいのだ。
サイズもちょうどのはずだぞ、シュナムクル様」
何故か男物もあるのはスルーしましょう。
どこぞの悪のカリスマである吸血鬼が身に纏っていた個性的な黄色い服とか、似会うわけないじゃん。
他にも定番のナース服やバニー、メイド、おまけに執事服まであるって……もうこいつの趣味が分からんわ。
「くっくっくっ……、オレの趣味は天よりも高く海よりも深く、どんなものでも受け入れる懐の広さを有しているのだ。
別に、主にどんな服装を着せようと構わんのだろう?」
「構うわボケ!」
でも、パジャマ姿で電車に乗るのも勘弁だし、とりあえず普段着ている『呪術師』衣装に近いボンテージでも着ておこうかな。
皮製だから防御力もそこそこあるし。
「防具による防御力など、シュナムクル様には必要ないだろう?」
「? どういう意味よ?」
「言葉の通りだ。
朝、オレが起こしに行ってもシュナムクル様は全然起きなかったからな。
だからバールで殴り、ハンマーで叩き伏せたというのに傷一つ付かなかったからな。
あれで死んでさえいれば、今頃シュナムクル様の魔界はオレのものだったろうに」
「うぉい!?」
あたしがシードルにかけた『不死の魅了』の呪いは、殺意が伴わない行動に関してはスルーなのよね。
危うく殺意なく殺されるところだったわ。
……サムライが刀を使わなかったのはスルーした方がいいのかしら?
「でもまっ、今回はどんな刃物も鈍器も素で通さないあたしの柔らかさと丈夫さを兼ね備えた身体に感謝しておきましょう」
「くっくっくっ……、それでこそシュナムクル様だ」
「でもシードルを許す訳じゃないからね♪(ザクッ)」
あ、今の効果音はシードルに対して愛の鞭をくれてやっただけだから。
言葉通り、今のボンテージ衣装とセットで旅行鞄に入っていた鞭を使ったからシードルもきっと期待していたのよ。
うん、そうに違いないわ♪
「シ、シュナムクル様。
鞭は鞭でも、魔力を鞭に流して槍のようにピンと鋭く伸ばしてからの刺突攻撃は流石に痛いのだが……」
「あくまで鞭よ♪」
どんな形状になろうとも、鞭は鞭。愛の鞭なんだから♪
なぁに、あたしの従者がこの程度で死ぬわけないわよ。
「それよりも、電車に間に合わなくなったら鞭攻撃10回追加しちゃうわよ」
「うぉぉぉぉぉー!」
そうして駅弁を買ったあたしたちは見事電車に乗り込み、世にも珍しい人間と悪魔の共存する魔界<ヴェルダイム>へと向かうのでした。
「くっくっくっ……、オレはただのコックだ」
「いや、あんたは魔神でしょ?」
「じゃあ、ただの魔神コックだ」
「キッチンの近くだと強くなるコック?」
「そのネタを知っていて意地悪を言わないでほしいなシュナムクル様」
チャンチャン♪