ただ駅弁ってコンビニ弁当とかよりも高いので電車に乗る時も買わないんですけど。
あと一応補足説明しますと、魔界全域の通貨単位は「HL(ヘル)」です。
駅弁ってのは旅の醍醐味なのよね。
別にコンビニ弁当でもスーパーの特売弁当でも、それなりに美味しいけど、電車の中で食べるならやっぱり駅弁よね。
だから勿論買った訳よ。
これから向かう魔界<ヴェルダイム>の特産品をふんだんに使った『ロザリンド様万歳弁当』を。
……凄いネーミングセンスね。
「でもこのお弁当……値段が1万ヘルしただけあって、サラダ一つとっても、すんごい美味しいじゃないの♪
てっきりオマケ程度だと思ったのにメインよりも美味しいかも」
「くっくっくっ……、悔しいがオレの手料理よりも旨い……」
隣で同じく駅弁で食事中のシードルも驚いているみたい。
いつもの「くっくっくっ」笑いが本来の余裕の笑いではなくなってるし。
「はぁ~、それにしても予想以上に美味しかったわ、このお弁当。
帰りにもまた買って帰ろうかしら」
「か、帰るまでにこの味を出せるように修行をするから買う必要はないぞ、シュナムクル様!」
「いや、変に意地はらなくてもいいから」
<ヴェルダイム>を統治している魔王ロザリンドは、肉が好きなことでも有名。
故にこの<ヴェルダイム>近辺の駅で買える駅弁はステーキがこれでもかと入った、ボリューム満点弁当だったの。
だけど一番驚いたのは、肉は勿論だけど、サラダの容器を開けた瞬間、色鮮やかな野菜が目を眩ませ、次にその香りが鼻腔から脳天へと突き抜けるかの如く!
こりゃ野菜を「切っただけのもの」とは思えない、料理人の技術の粋を集めた料理だわ。
肝心の味も、今まで食べた料理がかすんでしまうほどに「美味しい」の一言に尽きる味だったの。
肉もいいけど、あたしゃやっぱり野菜の方が好きだねぇ。
このサラダ最ッ高に美味しいわ♪
「それにしても……、こんな良いお弁当が食べれるようになるとは、あたしも出世したとでも言えるのかしら」
「くっくっくっ……、そういえばシュナムクル様は料理がまったく出来ないのだったな。
オレが来るまでは、プリニー如きが作ったケーキを食って満足していたそうだが、オレからすればシュナムクル様が美味いものを知らなさすぎるのだ」
「うっさいわね、シードル。
あたしゃ昔っから塩振って焼くか、生でかぶりつくかのどちらかだったんだから!」
「自慢になっていないな。
どれ、あとでこの弁当を作った業者にでも他の弁当のレシピも聞いておくさ。
シュナムクル様は肉よりも野菜が好きなんだろう?」
「さっすがシーちゃん。
あたしのことをよく理解してるじゃない♪」
「別に好きで理解したわけではない……(プイッ)」
ふふっ♪ そっぽ向いちゃってか~わいぃ~♪
あ、でもあたしの一番はいつだってプラムちゃんだから、シードルにときめいた訳じゃないわよ。
主君と家来としての距離が、段々と近づいてきたな~ってだけの話なんだから。
『次は~、ヴェルダイム~。お下りの方は忘れも物のないようにお気を付けください』
「む? シュナムクル様、もう電車がヴェルダイムに着いたようだ。
降りる準備はいいのか?」
「あ、待って待って、鞄の中のお菓子全部出しちゃってるから今すぐ仕舞う!!」
「食べる分ずつ出せばいいのに、まったくこの主ときたら……」
シードルったら、全部を一度に食べるわけでもないのに狭い電車内で広げるなって言いたいの!?
イヤよ、そんなの。
たくさんの中から選ぶってのも旅行中のお菓子の楽しみ方なんだから!
いざとなればこの電車内で一番偉くて強い魔王としてのあたしの強権を発動させれば停車させ続けることも出来るけど、これから余所の魔王に訪問するってのに印象が悪くなっちゃマズイからね。
そんな訳で、あたしら二人はヴェルダイムの大地へと降り立ったのでした!!
◆ ◆ ◆
「……」
「……何も無いな」
駅を降りてまず目に飛び込んできたのは草原。
勿論草原だから特に何も見えず、見渡す限り建物もなければ人の姿もほとんどない。
というか降りた乗客があたしら二人だけって……。
「くっくっくっ……、ヴェルダイムは田舎とは聞いていたが、駅前でここまで何もない場所だとはな」
「何が『くっくっくっ』よ。
それよりどうすんの?
ロザリーちゃんの城が何処かも分からないし、人っ子一人いないこの状況じゃあ道を聞くってわけにもいかないでしょう?」
「心配するなシュナムクル様。
こんなこともあろうかと、ヴェルダイム周辺の地図も用意してきている。
魔王ロザリンドの城はヴェルダイム駅からだと……北だ!」
「ぐっじょぶ、シードル♪」
「くっくっくっ……、そう褒めるな」
「……」
ん? 何か視線を背後から……。
「……」
「……」
「……こんにちは♪」
それは悪魔にしては珍しい金髪。
それだけでなく、えらく上等な生地を使っているのでしょうワンピース姿の女の子。
「えっと、こんにちは?」
とりあえず挨拶を返したけど、何かこの子……物凄い可愛いんですけど♪
それに気配もなくあたしの後ろに立ってるんですけど。
しかも、あたしよりも小さい♪ か~わ~い~い~♪
でも、この子どっかで見たような……。
「おーい、パピロン。
あんまり遠くへ言っちゃ駄目だって……。
それと観光客さん、うちの娘は誰にでも懐くんだ悪ぃな」
「パパ~♪」
一瞬にして遠くからやってきた赤い髪の男性。
その容姿は髪と同じく真っ赤なネクタイに両頬についた傷……ってもしかして。
「では挨拶でも。こんちは、観光客さん。
俺は“魔界勇者”アデル!
今日は娘と一緒に遠出していて二人を見つけたから声を掛けてみたんだが、良ければ家に来ないか?
観光客なんてめったに来ない田舎だから歓迎するぜ!」
いきなり目的の人物キター!
ってことは……。
「これ、アデル!
余を置いていくとはどういうつもりじゃ!」
やっぱロザリンもいたったたたたったたたららったった♪
てか、こんな辺鄙なところまで散歩ですかい?
「ん? なんじゃ、観光客か?」
「あ、そうそう。
あたしは“呪術王”シュナムクル。余所の魔界の魔王よ。
で、こっちが家来のシードル」
「くっくっくっ……、あんたら二人のガキに用があってな。
なぁに、怪しいもんじゃないさ」
ってコラー! シードルったら、何いきなり警戒されるようなこと言ってんのよ!!
あんたが言ったんじゃどう見ても悪人にしか見えないじゃないの!
「ほう、余所の魔界の魔王がこんな辺境にまで観光に来るとは物好きじゃの。
どれ、余の城まで招待しようではないか」
「ないかー♪」
「そうだな、久し振りの観光客が余所の魔界の魔王だなんてラッキーだぜ!
どうせこの辺には宿屋なんてねえし、やっぱ俺ん家に来いって。
そんで俺と闘えよ。な? いいだろ?」
「だろー♪」
「この戦闘馬鹿!
せっかくの客人を困らすでない!(ポカッ)」
「あははー♪」
あらら、すでに尻に敷かれてるじゃないアデルと女王様なロザリン。
それにまだ幼い二人の子供もベリーキュートだけど……この子があのバビロン爺さんなのよね?
容姿と言い、言動と言い、どう見てもただのロザリンの子どもにしか見えないわね。
(ロザリンをロリ化しただけみたい)
「で、シュナムクル様。どうするんだ?」
「まぁ、こう言ってくれてるんだし、お世話になりましょうよ」
疑うことを知らない幸せそうな三人はアットホームな雰囲気出しまくりの親子だし、見ているだけでも幸せになるからね。
二人の子供がバビロン爺さんの魂から転生したのかってのは、もうどうでもよくなったし、このまま観光で終わらせてもいい気がしてきたわ。
あとこの親子があたしらを疑わないのって、シードルの悪そうな顔も、あたしの可愛さの前には無効化されているのかもね♪
「えーと、それじゃよろしく頼むわね♪
あたしも魔王としちゃ新参者だし、情報交換みたいなのも目的のうちだからね(今考えた理由)」
「うむ、歓迎しよう、シュナムクルとシードルよ。
余の魔界は規模や位置的な理由から田舎と言われておるが、田舎ならではの良さをとくと教えてやろう。
まぁ、家来は里帰りで皆居らんから大したもてなしも出来んがな」
「家来ゼロでも成り立つ城ってのも凄いわね」
「くっくっくっ……、シュナムクル様の城でさえ、オレがいなければ何も機能せんと言うのにな」
こうして潜入に成功したあたしは、ヴェルダイムでの本来の目的を忘れかけていることに、この時はまだ気づいていなかった……。
……って自分でさっき「目的なんてどうでもいい」とか思ったんだし忘れてもいいんじゃないかな?
けっこうディスガイア2の話は変えていきます。
というかストーリーからしてまったく別物になります。
原作のネタバレもこれまでの話よりもずっと多いです。ゲームを未プレイの方はネタバレにご注意ください。
まぁ、「出会っておく」ってのが今後のために重要だったりするんですけどね♪