今回の話の最初の予定としては、シリーズを進めていくごとに、着実に酷くなっていっていくラハールを、少しは活躍させてあげたいという考えから書き始めた話だったりします。最初は。
そんな感じの話。
「……魔王ラハール殿でござるか……」
「ってもしかしてあの魔王ラハールかの?
自身の魔界だけでなく、天界、人間界も含めて支配した三界の魔王ラハールが相手では、妾たちもきつそうじゃのぅ」
パピロンちゃんも言ったように、魔王ラハール殿と言えば宇宙最強魔王であるゼタ殿に匹敵するであろう実力を持つ魔王でござる。
倒した勇者の数も百人どころではないし、その功績のみならず、家来である魔神エトナ殿、堕天使フロン殿という猛者がいるとも聞く。
これは……。
「スマヌ、拙者達では勝てぬでござる」
勝てない相手にぶつかるのは幾ら根性魔法の使い手である拙者にも不可能でござる。
状況を悪化させる恐れがある以上、関わらないことこそが最善かもしれぬ。
「うぅぅ、儂ら孤児院は魔王ラハールに苦しめられておるじゃて。
助けてくれる者がおらんのから最後の希望として有名な魔王の娘さんであるお譲さんらに頼んだというのに見捨てるのか……」
流石に良心が痛むでござるな~。やっぱり助けるべきか……うーむ。
「泣き落としが通じる事態は軽くないじゃろ。
妾らも命は惜しいが、それ以前に勝てぬ戦いに手を出すほど「待ったぁ!」……チリパウダーちゃん?」
この孤児院のあり様やボニー院長の雰囲気から察するに泣き落としを使わねばならぬほどの状態なのだろう。
ならば、そのために出来ることを何か一つでも探ってからでなければ名が廃る!
「勝てはせんでござろうが、それでも少しは助けになりたいでござる!
ラハール殿に拙者は会ってみるでござる!!」
「えぇ!? ちょっ、チリパウダーちゃん本気!?」
「おぉ、助かる。
魔王ラハールはこの近くの領主の館を奪い取って居座っておる故、そこにいけば会えるはずじゃて。
頑張るんじゃぞ」
「任せるでござる!」
「(やれやれ、この辺がチリパウダーちゃんの可愛いところじゃが、魔王ラハールが相手とはのぅ。
妾が何とか穏便に済ませる作でも練るとするかの。
今回の一件はどうにもきな臭いしの)」
「行くでござるパピロンちゃん!
こうなったら悪の根源には何としても倒さねばならんでござるぅぅぅー!!!」
もう勝てるか勝てないかではないでござる!
勝負ってのは心が折れなければ負けではない!
それを示すためにも拙者はここで逃げてはいかんのでござる!
「(かかっ、先ほどまでの勝てない勝負に挑むのは余計酷い状況になりかねない云々を華麗に忘れとるのじゃ)」
パピロンちゃんは何か言いたげでござるが、拙者の熱き武芸者魂に火をつける『悪』を野放しには出来んでござるからな。
いざ! 魔王ラハールの元へ!
……
…………
………………
「……それで、オレさまのところへ来たという訳か?」
「ぐぐっ……、そうでござる!
拙者の中に流れる母上の『面白いことに首を突っ込みたくなる性(さが)』が貴様を倒せと叫ぶのでござる!(悪を憎む気持も一応あるでござるがこれが本音)」
魔王ラハールの住みついた館に着いた拙者たちは、門を吹き飛ばし、開口一番に「悪滅」の叫びと共に突撃したのはいいものの、あっさり負けてしまったと言う訳でござる。
「ふん、悪魔の癖に騙されるとは情けない。
それではまるで、オレさまが悪役のようではないか」
「ふむ、やはり魔王ラハールが悪役という訳じゃないのじゃな?」
ボロボロの拙者を抱きかかえて膝枕してくれているパピロンちゃんが問う。
何故か彼女は拙者と違って特攻せず、話し合いから始めようという作戦だったらしい。
「妾は最初に孤児院で話を聞いた時、どうにもあの院長が胡散臭く感じたのじゃ。
魔王ラハールは悪魔の中の悪魔、魔王の中の魔王。
しかし、何の関係もない者のために地上げ屋をやってやるほどお人好しとは思えんかったのじゃ」
「オレさまが地上げ屋だと?
どういうことだそれは?」
はて? 拙者達が聞いた話では、突然やってきたラハール殿が地上げ屋をやって孤児院を潰そうとしているという話であったが、これはどうしたことか?
「かかっ、そこら辺こそ話し合いの余地があると言うものじゃ。
どうじゃ? 情報交換でもせぬか?」
「ふん、貴様らごときと手を組むのは不本意だが、手を貸してやってもいいぞ」
「OKじゃ♪ それで手を打とう。
力を貸してほしいのじゃ♪」
何やら拙者抜きで話が進んでいるでござるが、これは一体どういうことなのか……。
◆ ◆ ◆
結論から言うでござる。
ラハール殿はバカンスとしてこの辺りにやって来たが、そこは悪臭漂う場所であった。
折角の観光地なのに嫌な臭いの煙を出すのは何処だ? と探し出した館が気に食わなかったためにそこを制圧。
その館の主こそが孤児院院長のボニー殿。
ボニー殿はラハール殿に復讐するために拙者達を寄こしたらしい(推測)。
そして場面は孤児院へと戻る。
「はーっはっはっはっはっ!
よくもオレさまを殺すのにこんな雑魚どもを差し向けたな!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~」
孤児院に戻って陰から様子を窺っていたところ、ボニー院長が独り言で事件のあらましを口にするというご都合展開だったためにラハール殿がキレて攻撃。
拙者達は見ているだけでござった。
「くくっ……、せっかくの研究所を奪われ、この孤児院のガキどもを実験材料に魔術の新たな領域へと足を踏み入れて歴史に名を残す予定だったというのに……ぐふっ」
ボニー院長は息絶え、残された拙者達はどうすればいいのでござるか。
「見たか、これが本当の悪だ。
オレさまは悪魔らしく――魔王らしく生きるために他者を傷つけることはあるだろうが、それでも悪魔としての道を踏み外してはいない!」
「申し訳ないラハール殿。
拙者達が未熟だった故、本当の悪に手を貸すような行いをしてしまった」
「かかっ、だから妾の言うとおりにしとけばよかったのにチリパウダーちゃんったら先走っちゃって可愛いもんじゃ♪」
しかしラハール殿――三界の魔王の実力がこれほどとは、世界の広さを感じるでござるな……。
「あ~、殿下ったらまた暴れちゃったんですか?」
「むむっ、ラハールさん。暴力はいけませんよ」
先ほどから視線を感じていたので誰かはいると思っていたが、この場面で現れたのがラハール殿の側近である魔神エトナ殿と堕天使フロン殿だろうか?
「孤児院……、倒れた院長……あたし達が奪った館……。
はっは~ん、さては殿下。
また命狙われたんですね? そして報復をした、と」
「鋭いなエトナ。その通り、この孤児院はそこの雑魚悪魔どもをオレさまに刺客として差し向けてきたからな」
「というか、雑魚悪魔と言っても、この子たち“呪術王”シュナムクルと、“魔王神”ロザリンドの娘じゃないんですか?」
そう言って、パピロンちゃんに敵であるかのような怨念の如き視線と、拙者に同類を見るような慈愛たっぷりな視線を向けてくるエトナ殿。
拙者はまだまだ成長の余地があるから仲間ではないでござる!
「ふっふっふっ……、これは愛を試すチャンスですよラハールさん! それにエトナさんも!!
この孤児院は建物がボロボロなだけでなく、院長までも死んでしまっているじゃないですか!
となると、子ども達のためにも誰かが後を継がねばなりませんよね?
そこを私たちが導いてあげましょう。愛で!!」
……何か話がおかしな方向に行っているような……。
「えーっと、ラハールさんの命を狙ったお二人、チリパウダーさんとパピロンさんですね?
実は私もかつて、ラハールさんの命を狙ったことがあるんですよ♪
つまりはお二人の仲間! お二人も一緒にこの孤児院で愛のために働いてくれますよね?
さぁ、共に手を取り合って頑張っていきましょう♪」
愛を口にするフロン殿の笑顔はどう見ても厄介事を押し付けようという顔だった。
いや、厄介事を厄介とすら感じていないから一緒に楽しもうとしているだけなのだろう。
尚のこと、性質(たち)の悪い笑顔だった。
「け、けっこうでござるぅぅぅ~!」
拙者は逃げた。
恥も外聞の無く、ただただラハール殿よりも恐ろしく感じたフロン殿から逃げた。
何故か自分の弱点のような人種だったのだ。
母上の言っていた面倒事に首を突っ込むことのリスクとはこういうものなのでござろう……。
「かかっ、まだ旅は始まったばかりじゃと言うのに騒動ばかり。
やはり、チリパウダーちゃんとの旅は楽しいものじゃな♪」
後日、新聞にてラハール殿たちが立て直しを図った孤児院は、暗殺ギルドへと生まれ変わり、そこの子ども達は元気に悪魔らしく魔界各地で名をあげていくのであった……。
チリパウダーは炎攻撃無効化体質を持ってはいないので、レベルも格段に上のラハールには勝てないということですね。
もうちょっとラハールを活躍させてあげても良かったかな?
次話で最終話ですが、正直ここまでの第二部の全てが次話の前振りみたいなものなんですよねw
すなわち百合!