沈黙していても時間を無駄にするだけと思い至り、八幡は少女に声を掛ける。
「あ~、その。何だ……もう良いよ」
「……えっ」
「俺の悪口…だよ」
「ゆ……許して、くれ…る……の?」
少年の言葉に雪ノ下は、酷く気落ちした相貌を向ける。
相手の口から出た言葉を咀嚼し、徐々に暗い彩が薄まって行く。
改めて彼女の容姿を目にした八幡は、思う。
(雪…ノ……下、ゆき…の……した。あ~、学年で1位の成績の奴か)
曖昧な記憶を辿り、一つは雪ノ下雪乃に関する事柄を思い出した。
まだ、引っ掛かりがあった事を認識した。
(噂…?うさわ……、何だっけか?クラスのリア充(笑)が可愛いとか美人だとか言ってた女か。そうか、違和感の正体はこれだ)
八幡の趣味の人間観察で、蓄積された情報から引っ張り出した‟噂”から答を導き出す。
問題が、解決し満足にしていた少年に声が掛る。
「比企谷君、大丈夫?何やら難しそうな顔をしているみたいだけれども」
「へ?」
少年が、暫く黙りこんでいたのを不思議におもったのか雪ノ下は顔を覗き込む。
男共の話題に上るのも頷ける美しい瞳・同性も憧れる長い睫が視界に入る。
一気に八幡の意識が、現実に引き戻された。
(近い。近い。近すぎるから孤独を愛する俺には、無理な距離だから)
「?」
急な接近で、言葉が出ず双方
無言のまま時間が過ぎる。
最初に行動を八幡が起こす。
(もう、無理だ)
「えっ」
八幡は、直視出来なくなり顔を逸らす。
彼の行動で、少女の顔が曇った。
「あの、雪ノ下さん?近過ぎじゃねぇか?」
「あっ、ごめんなさい」
漸く自身の行動に気付き顔に朱を点す
完熟した林檎にも見える様子になった。
少年から離れ、上がってしまったのか呼吸を整える。
「なぁ、勘違いする奴が出ると思うから
余り、さっき見たいな事は避けた方が良いぞ?」
「えっと、はい」
「もしかして、癖とかか?」
「……ぃます。………違います」
八幡からの指摘を大声で否定する。
大人しい少女の行動とは、思えず少年は驚く。
(中々、読めないな)
行動の裏を探ろうとするも今迄に接した人間とは、明らかに違う少女の行動に好奇心が湧く。
観察を続けるべく、視線を雪ノ下雪乃に向けた。
「落ちついてくれ。こちらも不用意な言葉を選んだ事は、謝る」
「いえ、急に大きな声を出してしまってすみません」
自身の行動を思い出し恥かしくなったのか、雪ノ下は俯く。
八幡は、困り頭を掻くと言葉を掛けた。
「なぁ、ここって何て部なんだ?」
「え?」
「何部かって事だよ」
「もしかして、聞いていないのかしら」
「ん?あぁ」
八幡の言葉を聞き、先程とは別の理由で雪ノ下雪乃は俯いた。
自分をここに拉致同然で、連れて着た教師の被害者に同情する。
(雪ノ下さん、お疲れ様)
内心、合掌する様に八幡は思った。
蟀谷を抑える様にしてから少女は、依頼人?に言葉を掛ける。
「こほん、さて。比企谷君、ゲームをしましょう」
「ゲーム?」
「えぇ。この部の名称を当ててもらえるかしら」
「分かった」
雪ノ下から言われ八幡は、考え込む素振りを見せる。
内心、別の事を考えた。
(ここは、正解を言わないのが“正しい”だな)
結論付けると間違ったそれでいて“正しい”回答を出題者に答えた。
「机・椅子が、後ろに下げれられなお且つ特殊な用具を必要としない部活」
「えぇ、そうね」
「答えは、読書部だ。どうだ、」
相手からの返答を大体予想できるものの八幡は、自信ありげに少女に答えた。
少年の口より正解が出ない事で、雪ノ下は勝ちを確信する。
「残念。不正解」
「まだ、続けるかしら」
「いや、遠慮しておく」
「そう。解ったわ」
「正解を教えてくれないか?」
自身の回答によって少女の機嫌を害さなかった事で、八幡は安堵する。
相手に対し、己が興味・関心や正の思考を持っている事を伝えた。
少年から出た言葉を受けて、雪ノ下雪乃は答えた。
「持たざる者に本人の望む結果への指針を示し、救いを求める者に術を共に考える集い
奉仕部よ」
「相互扶助の発展系か?」
「そうね。解り易く言えば、最後まで手や口を出すのでは無く、手段を示すと言った活動ね」
「理解した」
想像とは、違うが興味深い回答を聞き八幡は納得した。
更に少女が、言葉を続ける。
「ようこそ、迷える子羊さん。ようこそ、奉仕部へ
私は、雪ノ下雪乃。奉仕部部長よ」
可憐な華の如く少女は、微笑む
思わず見惚れる様に周囲の景色すら違って見える。
しかし、八幡は流されない。
形式的に告げた。
「こちらこそ。よろしく、雪ノ下さん」
短く礼を失さない程度、返事を返す。
自身の思考の整理を付ける必要を感じ、意志を言葉にした。
「き、……」
唐突に言い終わらない内に闖入者が、現れた。
当然ながら言葉は、遮られる。
「おい、何だこの茶番は。私が、期待していた展開と違うぞ」
「は?」
理解に苦しむ暴力教師の言葉に少年は、言葉が止まる。
特に気に障ったのは、自分と少女の遣り取りを盗み見る様にしていた事だ。
(納得もしていない罪状で人を拉致紛いに連行し自身の管理にある良く解らん集りに置き、剰え一つ一つの行動に注文を付けるだと)
いつもなら些細な事を気にしない八幡も立て続けに横槍を入れられれば、気も立ってくる。
飽く迄、逆らうと今より面倒な事になるのを忘れない。
感情を表に出さず、注視した。
「先生、どう言った意味ですか?」
「ん、雪ノ下か?どう言う事だ」
怒気すら纏い少女に詰め寄る。
雪ノ下は、視線に臆せず意見を述べた。
「?彼には、部の理念を示していた所です。」
「で?」
「はい。比企谷君に部の簡単な説明をして、理解してもらった所です」
雪ノ下の言葉に不機嫌さを隠そうともせず、状況説明を聞き自身の意見を押し付ける。
理不尽、この上無い。
「君と比企谷は、思想・信条・思考が相容れない」
「そうでしょうか?」
「そうだ。ここは、対立する君たちが啀み合い。私が、仲裁して問題を調停する所だろ」
頭が、痛い。
只、その一言に尽きる。
八幡は、教師から発せられた言葉と思えない発言に発言者本人が、居るにも関わらず頭を押さえたくなった。
本人に気付かれない様、視線を向ける。
(嗤ってやがる。人を何だと思ってる)
自身の言葉に酔うように楽しみを語る女に呆れをもって見遣る。
ここは、更に頭痛すらしそうな発言をされる前に追い払うのが、得策と八幡は判断する。
「分かりました。僕と雪ノ下さんで、勝敗をどちらが正しいかを証明すれば良いんですね?」
「お、比企谷。話が、解るじゃないか」
相手の発言に折れる様にして、話を纏める。
方針を決め、上手く誘導した。
「では、君ら二人で依頼者からの問題を解決しどちらが正確に問題を収めたかを私の独断と偏見で判断する。異論・反論と拒否は、一切認めない。あ、後な負けた方には、-が発生する。では、確り励みたまえ」
自分の言いたい事だけを述べると教師は、部室を後にした。
生徒二人が、後に残される。
「比企谷君?どう言うことかしら?」
「ひっ」
先程の優しげな態度が、嘘の様に霧散し微笑みながらも凍てつく雰囲気で雪ノ下雪乃が相手を見る。
八幡は、思わず悲鳴を上げそうになるも踏みとどまった。
空かさず少女に説明に説明する。
「悪い。雪ノ下さん、勝手な事を言ってあんたの意志を確認しなかった事は深く反省してる。謝る」
「えっ。あ、そう…なの」
「すまなった。許して欲しい」
相手が、自分の予想に反して自身の非を認めた事に面食らう。
少年…比企谷八幡は、今まで自分に会った人間と違うと感じ
会話を続けた。
「で?あなたは、先生の注文にどう応えるつもり?」
「今は、従うべきじゃないですか?あちらは、教師だ」
「そうね」
「ここは、大事にするべきでは無い。時期が、来たら必ず解決策を説明します」
「うっ。解りました。でも…」
「でも?」
「約束を違えたら…責任をとってくれるかしら?」
「…あぁ」
美しいからこそ出来る冷た過ぎる視線を受け躰は竦み、言葉に詰まる。
相手に意志を伝えるべく返事をした。
(雪ノ下さんからの印象を最悪にする事だけは、回避できた)
少女が、今の所ではあるが納得しているのを確認し安堵する。
何故か解らないが、雪ノ下雪乃とはここで仲違いをしたくない。
八幡は、漠然とそう思った。
「話は、変わるが」
「何かしら」
「そろそろ帰っても良いか?直に最終下校時刻だ」
「あら。もうそんな時間?確かにそうね」
「今日は、帰るよ」
「ええ、分かったわ。さようなら、比企谷君」
「じゃあ、雪ノ下さん。また、明日」
少女は、少年に微笑むと別れの挨拶を告げる。
その姿に見惚れ相貌が崩れそうになるも理性を総動員して防いだ。
不自然にならない歩調で、教室を後にし自宅への帰路を急ぐ。
今日の出来事を頭で整理しながら思考を巡らせる。
(雪ノ下雪乃か……。想像とは、大分違うな)
卒直な意見を纏め、明日からの対応を練る。
答が、出るかは定かでは無いが……
自宅にたどり着き、扉を潜った。
食事の用意をしているのか、物音が聞こえる。
「たでーま」
「およ?お帰り、お兄ちゃん。遅かったね、何かあったの?」
「ん。あー、後で言うわ」
「了~解。物わかりの良い女、小町的にポイント高い」
「あー、高い高い」
「ぶぅ~。お兄ちゃん、対応が雑過ぎない?」
妹の声を背に聞きながら階段を上り、自室に入る。
制服のまま寝床に倒れるのも良いが、翌朝に行う手間の方が面倒だと言う事に思い至り丁寧に脱ぎ片付けた。
(明日から部活?か……。何をするのかね)
唐突に教師に連行され挙句、全体の理解をしていない部活に入れられた。
普段の自分ならのらりくらりと煙に巻くが、相手の権威を全面に出されては出来る筈も無い。
(只、約束をしたからな。このまま、手を拱いて居る訳にもいかんだろ)
初対面の人物に啖呵と迄言えないが明確に約束をした手前、放置する事は不可能になった。
状況と裏腹に少女との遣り取りを面白く八幡は、捉える。
小町が、食事の準備をしていたので直に夕食だろうと思い時間をどう潰すかを思案する八幡
無駄に時間を過ごすのもどうかと思い授業の復習を始めた。
小一時間も過ぎた所で、軽めで少し騒がしい足音が聞こえる。
年頃の娘なのだから、少しは慎みや淑やかさを憶えて欲しいと思わないでも無い。
それでも、可愛い妹には違い無く八幡は甘く接していた。
「お兄ちゃん、ご飯だよ~。早く来てくれると嬉しいな」
部屋の扉を叩くと返事を相手の確認しないまま、開けた隙間から顔を覗かせて食事の事を告げた。