ダータルネスの闘技場は、静寂に包まれた。
カラン、カラン……と、『
奥義、『天翔龍閃』を撃ち放って残心していた剣心は、油断ない目でジョゼフを睨む。
対するジョゼフは、――――この狂王にしては珍しく、心底唖然とした様子で、粉々に砕け散った剣士人形を見ていた。
余程、先程巻き起こった現象に、驚きを隠せないようであった。
しかし……。
「ふ、……ふふ」
やがて、ニンマリと口元に笑みを浮かべて
「はっ……ははは」
最初は小さく、だが徐々に、音量が大きくなり。
「はーっはっはっはっはっは! はぁぁぁっはっはっはっはっは!!」
狂ったような三段笑いが、闘技場に響き渡った。
「何という激闘! 何という現象! これが奥義か!? 我が『ヨルムンガンド』が木の葉のように吹っ飛ぶとは!? 成程これは『最強』の二文字に偽りなしだな!!」
心底楽しそうに、ガリアの国王は高笑いを続ける。
「ああシャルルよ!! お前にも見せてやりたかったな!! こんな驚天動地甚だしい戦いを、俺一人だけで楽しむなど勿体なく感じるわ……」
剣心は目を細めた。やはり……シャルル。弟の死が、彼を狂わせている要因なのだろう。
暫くそうして笑っていたジョゼフの隣に、シェフィールドがトボトボとやってきた。
その目は涙で真っ赤に泣きはらしている。
「申し訳、ございませぬ。ジョゼフ様……」
捨てられるのを心底恐れるかのような声で、ふらふらと傅く。
それを見ていたジョゼフは、一瞬冷たい目で自身の使い魔を睨んでいたが…、やがて呵呵大笑の笑顔でもってシェフィールドを抱きしめた。
「そんな顔をするな余のミューズよ! お前はよく頑張った! 負けはしたが大いに楽しませてくれたお前に、罰を与えることなどせぬわ!」
「ジョゼフさま……」
「だから泣くな余のミューズ! お前にはまだやってもらわぬことがある。受けてくれるな?」
そう言いながら、涙をぬぐい優しく頬を撫でる。
シェフィールドは恍惚の笑みを浮かべながら「はい」と頷くと、力強く立ち上がり、再び闇の影へと消えていった。
それを見た剣心は素早く反応する。どうやらまだ、連中は何かを企んでいるようだ。
自分もまた闘技場を後にしようとした矢先、目の前にジョゼフがいきなり現れた。
闘技場の中、王と剣心、二人は対峙していた。
「何故情けをかけた? あ奴はお前を殺そうとした女だぞ?」
「そうせねば、お主は彼女を斬り捨てるでござろう」
薄ら笑いを浮かべながら問うジョゼフに対し、淡々と剣心はそう答える。
ヨルムンガンドの左足を砕いた直後に言ったこと。あれは間違いなく、本当に実行しようとしていた事だというのを強く察していたからだ。
だからわざと、奥義を『見せてやった』のである。
「ふふ……成程、蜂蜜の如く甘い奴とも聞いていたが、どうやらそれも本当のようだな」
くっくっと笑うジョゼフに対し、剣心は油断なく睨み据える。
この男……先ほどから原理不明な移動術を見せている。
ヨルムンガンドを呼び出し、中央台から一気に観客席に移動した時と、今。これで二回目だ。
昨夜、デルフの話によれば……ルイズは新たな『虚無の力』を会得して吸血鬼を翻弄していたと言っていた。
恐らくはこれも……。
「先ほどからしているその移動術、それは『虚無』の魔法『加速』という技ではござらぬか?」
「ほう、流石は『ガンダールヴ』。疾うに気付いておったか」
杖を指先で弄びながら、悪戯好きの小僧の様な笑みを浮かべるジョゼフ。
「最初に会得したのがこの技でな。全く始祖はおれに何をさせようというのか……、まるで『急げ』と背中から言われているように感じるよ」
そして、改めて剣心の顔をまじまじと見つめた。
「お前、年は幾つだ?」
「二十九でござる」
「……結構いっているのだな。二十歳少しくらいかと思っていたが」
当てが外れて、真っ当に当惑するジョゼフ。
「眩しいぐらいに、まっすぐな目をしているじゃないか。まったく顔は違うが、どことなくシャルルに似ているな」
「……やはり、シャルル殿でござるか」
この男にとって、弟の存在はかなり大きなものなのだろう。
「おれにもお前のような頃があったよ。己の中の正義が、すべてを解決してくれると思っ ていた頃が……。大人になれば、心の中の卑しい劣等感は消えると思っていた。分別、理性……、なんだろう? そういったものが解決してくれると、信じていた」
そう言いながら、ジョゼフはすっと短剣を取り出す。剣心の周囲を歩きながら、滔々と語りだす。
「だが、それはまったくの幻想に過ぎなかった。年を取れば取るほどに、澱のように沈殿していくのだ。自分の手でつみとってしまった解決の手段が……、いつまでも夢に出てき て、おれの心を虚無に染め上げていくのだ。迷宮だな。まるで。そしてその出口はないと、おれは知っているのに……」
そして、剣心の背中にやってきた。一方の剣心は、静として動かず。むしろゆっくりと目をつむった。
「こんな技を、いくら使えたからと言って、何の足しにもならぬ」
刹那、ジョゼフは消えた。ナイフを突き立て、剣心を刺し殺そうとした。
その刃の切っ先を、逆刃刀の鉄ごしらえの鞘が防いだ。
ジョゼフはあえて『剣心の正面』にやってきたのだ。背後に回った不意を、更に意表を突こうとしたのだ。
しかし、見切られた。あっけなく。
「―――!?」
さしものジョゼフも驚いた。
「驚いたな。お前の速度に勝るとも劣らぬ『加速』を、繰り出したのだと思ったのだが…」
「経験則、でござるよ。拙者より速い手合いとも、何度もやり合った。それに比べれば、『殺気』が出ているお主の攻撃は、至極読みやすい」
速度。それを制されれば大抵の敵は無力になる。それは『ガンダールヴ』とて同じな筈。
そう思って、あえて速さ比べを仕掛けてみたのだが……何とこ奴は、自分より速い相手とも何度もやり合ったという。
「お前以上の速さを持つ者がいるのか!? なんとまあ、マコトから聞いてはいたが、『バクマツ』とはおれの思う以上に修羅の世界のようだな!!」
キィン!! とナイフはあらぬ方向へ飛んでいく。ジョゼフはもう、拾う事すらしなかった。
「いや天晴、大義である。お前もマコトも、『バクマツ』の世界を見た連中は本当によく楽しませてくれるな。……それに免じて、一つ教えてやろう」
愉快な笑みを浮かべたまま、ジョゼフは更にこう言った。
「今夜零時、サウスゴータは炎に包まれる」
「―――!?」
剣心は驚きで目を見張った。ジョゼフは悪戯小僧の様な稚気のある笑みを浮かべて続ける。
「港が静かだとは思わんかったか? 実は今日……サウスゴータへ向けて艦隊をやったのだ。奴らにはこう命じた。『サウスゴータを砲撃せよ』と」
「何だと!?」
剣心は肩を怒らせ叫んだ。しかしジョゼフはやれやれと肩を竦めるばかり。
「おれにキレても仕方ないぞ。もう命令は下したのだからな。お前も早く行った方が良いぞ。それとも……」
にやっと、笑みを浮かべ更にこう続けた。
「かの飛天御剣流でも、時間と空間は飛び越せまいか」
「お前は一体、何がしたい? 志々雄と何を企んでいる!?」
余裕もなく、剣心はジョゼフに食って掛かった。
「なにも。強いていえば……これは『祭り』だ。おれは友が開催する『祭り』に呼ばれただけに過ぎん」
「祭りだと!?」
「そうだ。お前も知っておろう。あ奴がこういった饗宴が好きなことを。……ああそうそう、お前にあったら伝えて欲しいと言っておったな」
ここで振り向き、更にこう続ける。
「キョートの『どんどん焼け』……、あの炎を再び楽しもう、と」
剣心は動揺した。『どんどん焼け』。それはかつて幕末の京都で起こった悲劇『禁門の変』を指している。
禁門の変、通称蛤御門の変。
京都から追放された長州藩勢力が、会津藩主を除こうと挙兵し、京都市中で市街戦を繰り広げた戦。
この戦、剣心も当時参加したが……相手は新選組擁する会津と幕府だけではない、後に維新側に回る薩摩、大垣、福井と様々な藩が長州を廃せんと戦ったのだ。
結果は敗北。桂も失脚し、その勢力は大きく後退することとなった。
そして……この戦で燃えた家は約三万戸。大砲も導入されたのだ。戦地となった市街地は悲惨の一言だった。
どうやら志々雄は、これから起こるサウスゴータの戦火を、当時の京都市街地となぞらえてそう言ってきているようだった。
攻め込んできたトリステイン、ゲルマニアが長州……そしておそらく、迎え撃つレコン・キスタ、そしてガリアが……当時の幕府側としているようだ。
志々雄らしい、皮肉を交えたその言伝に、剣心は動揺を覚える。
(奴はまだ、何か策を練っているのか……?)
だとしたらアンリエッタたちが危ない。
冷や汗をかく剣心を見つつ、ジョゼフは笑いながら杖を振った。
「生憎と、これから和平会談に出ねばなるまいからな。……ああ、宣戦布告をするだろうから和平では無いな。ま、どうでも良いか」
刹那、ジョゼフは消えた。先ほどの『加速』とはまた別の移動術。
移動の軌跡が全く見えず、文字通り『消えた』のである。
(まだ、他に移動術があったのか…!?)
「おれはこれにて。また縁があれば会おうぞ。『人斬り抜刀斎』よ」
その言葉を最後に、今度は大きな高笑いが上空から聞こえてきた。見上げれば、月光を背に浮かぶ小さな船が見えた。どうやらジョゼフはあそこまで一気に移動したらしい。
船はどうやら高速船のようだ。羽が動き始めるとあっと言う間にサウスゴータへ向かって消えていった。
「何者だ貴様!! そこを動くな!!」
遅れて、闘技場の入り口方面から多数の騎士たちが姿を現す。どうやら騒ぎを聞きつけた花壇騎士が、援軍を引き連れやってきたようだった。
全ての杖が剣心に向く。しかし剣心の視界はいまだ、ジョゼフが乗った船の方へ向いていた。
「聞いているのか!!? 貴様、大人しく投降し―――」
そこで一番前方で杖を構えていた騎士の言葉は切れる。
次の瞬間、不審者……剣心のいたところから、突如台風が巻き起こったのだ。
花の名を関する騎士たちは、抗うこともできず倒される、散る、踏み荒らされる。
豪雨と土砂でひっくり返った花壇のように……倒れた騎士たちで闘技場がごった返すのに、そう時間はかからなかった。
降臨祭最終日、午後八時半頃―――。
(もう、あまり時間が無い―――!)
剣心はサウスゴータの港を素早く脱し、高台の所までやってきた。
馬が一匹、繋がれたままだ。どうやらフーケたちはちゃんと脱出できたらしい。この馬は剣心用にと残しておいてくれたのだろう。
剣心は乗馬する。サウスゴータへ向かうか、フーケたちの安否を確認するか、どちらにしようか迷った矢先……。
(ん? 何だ―――?)
左目の視界が急激に変わった。
どうやら、
そして、その先に映っていたのは――。
(――ワルド!?)
かつて二度ほど退けた元グリフォン隊隊長、ワルドが、どうやらルイズと相対している様子が映し出されていた。
ここで、時間を少し巻き戻し、ルイズ視点へと移る。
降臨祭最終日、午後四時五十分頃――。
「じゃあシエスタ!! 行ってくるわ!!」
「ええ! お気を付けください! 無事に帰ってきてくださいね!!」
そう言って、ルイズはジュリオと共に、風竜でウエストウッドへ向かう途中だった。
「アズーロの速度なら、もしかしたらケンシン達より先についちゃうかもね」
ジュリオは笑みを浮かべながら、アズーロに問いかける。
竜は「きゅい」と鳴いた。
「……これで、『虚無の担い手の四人』が全て、揃うこととなるわけだね」
「そうね……」
ルイズは空返事する。確かに揃うのはいいのだが……素直に喜べない。
虚無がそろえば、志々雄一派を完全に倒せる保証があるのだろうか? それに四の一つ……それはガリア国の誰かと剣心は推測していたが、まだ詳細な正体まではつかめていない。
それに何より、ガリア国の対応の不鮮明さ。色々、不安要素が山積みである。そうなってくると手放しで喜べないというのが正直な感想だった。
「『四の四』がそろえば……レコン・キスタを倒せるって保証はあるの?」
ルイズは問いかける。するとジュリオは苦笑して言った。
「それはきみが一番よく分かっているんじゃないかい? かのタルブの光……あれはきみが起こしたものなのだろう?」
「生憎と、『あれ』を期待しているのならわたしは降りるわ。もう撃てないわよあんな力」
「いいのかい? 祖国が蹂躙されるよ?」
ルイズは思いっきりジュリオを睨みつけた。暫くして……ジュリオは笑い出す。
「冗談だよ冗談。僕たちロマリアはちゃんと考えているさ。なにせ『虚無』や『始祖』について何千年も前から研究しているからね」
「あっそう! さぞ素晴らしき御力があるみたいね。是非ともお目にかかりたいものですわ!!」
大言壮語も大概にしろと言わんばかりに、ルイズは大仰な態度で言った。
ただ、今度はジュリオも笑わなかった。ただ一言。
「いずれ分かるさ。いずれね」
ただ……と、ジュリオはここで、ルイズの方を振り向き言った。
「そのためには一つ、重要なピースが必要となってくるのさ」
「へえ、何よ」
聞くと、ジュリオはルイズの、『水のルビー』が嵌っている手にそっと触れる。
「綺麗な青だ。不思議に思ったことはないかい? どうしてこんなに青いのに『赤石』と呼ぶんだろう?」
「知らないわよ」
つっけんどんにルイズは返した。ただ、言われてみれば確かにそうだ。
「『四の四』を司る四つの秘宝、水のルビーは鮮やかな青、風のルビーは透明、土のルビーは茶色……」
「………」
歌うように話すジュリオを、無言で見つめるルイズ。
「噂ではこれらの宝玉は、始祖の血で作られたと言われているらしいんだ。だから、ルビーと言われている。本当かどうかは知らないけどね」
「だとしたら、『始祖』の血はさぞカラフルな色をしていたのでしょうね」
敬虔なブリミル教徒が聞いたら発狂しそうなことを、ルイズは言った。
正直……『虚無』の力は不審が過ぎる上に分からないことだらけで、始祖に対する信仰心をあまり覚えなくなってきているのだった。
ジュリオは、はは……と苦笑い気味に続ける。
「そういう類の言葉は、ロマリアの神官たちに言わないほうが良いよ。彼ら本当に冗談が通じないから」
「いいわよ別に。で、あんたは何が言いたいわけ?」
「宝玉は大昔にハルケギニアの各王家に伝えられた。水はトリステイン、風はアルビオン、 土はガリア、そしてロマリアには『火』というわけさ」
「ふぅーん、で?」
何にも知らないかのような顔で、ルイズは尋ねる。
「ロマリアの神官たる僕は『火』のルビーを探している。その名の通り、火のように赤い宝玉だ。変な話だが、一番ルビーらしい『赤石』さ」
「へぇー」
「かつてロマリアから盗まれたが、トリステインにあるというもっぱらの噂でね。聞いた ことはないかい?」
即座にルイズは首を振った。
「そんな石、見たことも聞いたこともないわ」
無論嘘だ。剣心が持っているのを、ルイズは知っている。だが本当に何にも知らないかのように、ルイズは首をかしげた。
「嘘じゃないだろうね?」
「ええ。嘘をついたって仕方ないでしょ」
しばしジュリオとルイズは睨み合った。ルイズは内心冷や汗を垂らしながらも、きょとんとした仕草でジュリオを見続ける。
「……そうか、ならいいや」
「いいの? なきゃ困るんじゃないの?」
四の四の話を振り返りながら、ルイズは尋ねる。しかしジュリオは手を振った。
「だって、知らないんじゃ仕方ないだろ? それとも―――」
ここでジュリオはずいっと、更にルイズに顔を近づけた。
「……本当は知っているとか、あるんじゃないかい?」
真剣な眼差しで此方を見るジュリオの圧に、一瞬ルイズは負けそうになる。
ここは上空だ。逃げ場はない。もし隠しているのがバレたら……、どんな手段で聞き出しに来るか。
そう考えていた時だ。
「―――あっ!! ジュリオ!! 前、前!!」
ルイズの叫びに、ジュリオは前を振り返る。
アルビオンの分厚い雲。積乱雲が、視界に広がっていたからだ。
「たかが雲じゃないか、こんなの、回避すればいいだけの事―――」
だが次の瞬間、アズールが鳴いた。それを聞いてジュリオは豹変する。
「何、まさか…!!?」
「へ、どうしたの?」
しかしジュリオは、アズーロに雲の中に入るよう命じた。
視界が白で染まる。口に凝結した液体が入り込み、ルイズは思わず咳をした。
「あっ、あんた! 何で雲の中に入ったのよ!」
「しっ、静かに」
真剣な表情で、ジュリオは人差し指を立てた。やがて……、ルイズの耳にも何か大きな音が聞こえてくる。
何だろう、何か巨大なものが雲中に紛れて進んでいるかのような――。
「ねえ、もしかしてこれって……」
ルイズも気付いた。やがて、薄暗い雲握れて、『それ』は現れる。
杖を交差させた紋章。ガリア王国のエンブレムを帆に掲げた船が、目の前に現れたのだ。
「嘘でしょ? ガリアの『両用艦隊』!? 何でここに――」
「さあ。ただ、この船の進路方向先にはサウスゴータがあるね」
先頭を進む巨大な船とすれ違いながら、二人はひそひそ声で話し合う。
雲中航海で、わざわざ隠れながらサウスゴータへ進行……一体何を考えているのだろうか?
ただ、良からぬ予感だけは嫌でも覚えた。
「ちょっと、探り入れてみましょうよ」
「おいおい、目的を忘れたわけじゃないだろうね?」
「ウエストウッドまですぐ行けるんでしょう? このことを姫さまたちに報告しないと―――」
そんなことを話していた時だ。
ガリア船の甲板から、竜騎士が何機か飛び立つ。ルイズは嫌な予感がした。
「……船底に隠れてやり過ごしていたんだけど、流石ガリア、接触の時点で気付いてきたか」
どうやら此方の存在がバレてしまったようだ。竜の群れが、ぶわっと扇状に広がった。
「一旦撒こう。しっかり捕まってくれよ」
「えっ!? ちょ――――」
言うや否や、ジュリオはアズーロに命じて急降下した。
即座に雲から脱し、視界が再びアルビオンの地表へと映る。
遅れて、敵竜騎士が雲を脱してこちらに向かってくる。風竜同士のドッグファイトが、始まった。
ジュリオは背後で追いかけてくる竜騎士隊の数を数えた。全部で十騎、なら、問題ない。
「ルイズ、きみは乗馬は好きかい?」
「え、ええ。ヘタではないわ」
「じゃあしっかりつかまってて! ギャロップで柵や植え込みを飛び越えるみたいにね!アズーロ!」
風竜は、きゅい、と小さく鳴いた。そして敵に向かって加速する。
「ちょっと! 突っ込んでどーすんのよ! あんた魔法使えないんでしょ!」
まっすぐに、ジュリオは敵の竜騎士編隊に突っ込んでいく。ルイズは悲鳴をあげた。
「いやぁあああああ!」
十騎の竜騎士が、次々と魔法を放つ。氷の槍が、火の玉が、飛んでくる。
敵の魔法が当たる……、と思われた瞬間、風竜はとんでもない動きをした。身体をひねり、まるで空中で激しく踊るように身をくねらせ、次々と魔法を回避する。
(信じられない。風竜ってこんな機敏に動かせるの―――?)
まるで小鳥のような動きである。これが、動物を意のままに操るという『ヴィンダールヴ』の能力なのだろう。
そう思いながら、依然不敵な笑みを浮かべるジュリオを見る。しかし一瞬、ルイズは何かの違和感に襲われた。
その違和感の正体は、この時はまだ、分からなかった。
一方、敵は度肝を抜かれたらしい。一瞬、速度が鈍る。その隙をジュリオは見逃さない。
「ブレスだ! アズーロ!」
刹那、風竜の口から、火竜のような火炎弾が飛んだ。 一騎の竜騎士が正面からまともに 食らい、 地面へと落ちていく。そしてすれ違いざまに爪を使い、もう一騎の翼を裂いた。
八騎に減った敵の竜騎士は、反転して再び戻ってくる。さすがガリアの竜騎士。立て直しも早い。
味方が二騎撃墜されたにも関わらず、怯まず突っ込んでくる。広がって包囲する構えの ようだ。
しかし無造作ともいえる動きで、アズーロは包囲網の中に入った。やがて一定の距離をとっていた敵の一騎が突っ込んでくる。その敵に首を向けた瞬間、後方から別の一騎が飛んでくる。前方のは囮らしい。
「後ろ! 後ろ!」とルイズが絶叫したが、ジュリオは薄笑いを浮かべたまま、囮を追いかけている。
後ろについた敵は、てっきり囮に注意をひきつけたと思ったのだろうか。ぐんぐんと距離を詰めてきた。
真後ろについた敵の魔法攻撃と同時に、アズーロは身体をひねらせる。鮮やかに宙返り して攻撃をかわすと、アズーロはブレスを放った。ブレスを食らい、攻撃をしかけてきたガリアの竜騎士は墜落していく。
「竜って、こんな動きをする生き物だったのね……」
唖然として、ルイズはことの成り行きを見守っていた。
……ただ、どこかしら覚えた違和感は強くなっていく。
「しゃべると舌噛むよ」と、落ち着き払った声で、ジュリオ。
三騎をやられ、敵の空気が変わる。包囲を縮め、一騎を除いて敵騎士が一斉に突っ込んできた。瞬間、ルイズの視界が上下にゆれ、左右に回転した。目をつむることも忘れ、ルイズはジュリオにしがみついていた。
アズーロが身をひねるたびに、ブレスか爪か牙で、敵の風竜が深刻なダメージを受けるのが見えた。敵の攻撃を避ける動作が、そのまま攻撃の動作になっている。
わずか四秒ほどの間に、突っ込んできた六騎は叩き落とされた。
その上空を、最後の一騎が突っ込んできた。
「むっ!?」
ジュリオも唸った。どうやらこの竜騎士たちを束ねる大将首らしい。装飾が他の竜騎士より豪華だ。
事実、竜捌きも他の奴らとは比べ物にならない。先んじて仕掛けなかったのも、此方の動きを観察するためか。
だが―――。
「残念ながら、それでもぼくたちには敵わないよ!!」
アズーロは回転しながら落下する。ルイズは吐きそうになるのを必死にこらえた。
遅れて敵大将が追っかけてくる。落下しながらぴったりと追従する、その動きは見事の一言。
ジュリオはここで口笛を吹いた。するとアズーロは、仰向けになりながら口元を、敵大将に向けた。
「撃て!!」
その掛け声と同時に、ブレスが叩き込まれる。至近距離からまともに喰らった敵大将も、まともに貰って遂に落ちて行く。
しかし―――。
「…あっ、やられた」
「は!? えっ、どういう―――」
ジュリオは真面目な顔で舌打ちした。ルイズは見えなかったが、動物と意思伝達できる『ヴィンダールヴ』はすぐに察知する。
アズーロの首筋に、針みたいなものが突き刺さっていた。どうやら対竜用の毒針のようだ。
先ほどの大将は、己の命を引き換えに、此方のブレスと同時に放っていたのだろう。本当に、大した執念とプライドである。
「……しびれ薬か、しかたない。一旦着陸させるよ」
「えっ、うそぉ!!?」
翼の動きがぎこちなくなっているのを察したジュリオは、仕方なくアズーロを草原へ軟着陸させた。
草原へ降りたルイズとジュリオは、岩陰でアズーロを休ませることにした。
「大丈夫なの? アズーロ……」
「問題ないね。これぐらいの毒なら、薬を使わなくても自然回復するだろう」
針を抜き、首筋に包帯を巻きながら、ジュリオはそう答える。
きゅい、とアズーロは主人の愛撫を受け入れていた。
どうやら問題なさそうだ。ルイズはほっと胸をなでおろすと、サウスゴータへ近づく積乱雲を見上げた。
「……ガリアの連中、一体何を企んでいるのかしら?」
どうやらもう、追撃は来ないようだったが…。結局敵の目的は分からないまま。
ただ、所属を誰何せずにいきなり攻撃を仕掛けてきたところから見るに、決して友好的な態度ではない事だけは嫌でも分かった。
「さあね、奴らもまた、何か仕掛けてきたのだろうけど」
「姫さまに、このことを伝えに行った方が良いんじゃないかしら?」
割と本気で、ルイズはサウスゴータへ戻ろうか思案していた。ウエストウッドには既に剣心が向かっていると聞くし、このままヘタすれば、ガリアに背中を刺されるかのような状況だからだ。
しかし、ジュリオは首を振った。
「今更、サウスゴータまで徒歩で戻ろうとすると日が暮れるよ。近くに馬駅もないみたいだし」
「……あくまで、あんた達の目的は『虚無の担い手』ってワケね」
じろっとルイズはジュリオを睨む。彼にとっての優先順位は国のトップではなく、始祖の力を賜った者なのだろう。
ジュリオももう、開き直ったかのような笑みを浮かべた。
「その通り。これから会う担い手は、きみにとっての大切な仲間になるかもしれない。顔合わせは大事だろう?」
「………」
「まあそう睨まないで。女神のような美貌が台無しだよ」
ジュリオは優雅な動きで、ハンカチを取り出しルイズの顔を拭こうとする。それをしれっと避けながら、ルイズは辺りを見渡した。
「……で、ここからどうするの? アズーロが回復するまで待つの?」
「流石にそれは悠長にもほどがある。まあ、任せてくれ」
草原に降りたのは幸いだった。周囲には草を食んでいる馬がそこここにいる。
ジュリオは口笛を吹く。するとそれを聞いた一頭が、すぐにこちらへ向かってきた。
動物を操る『ヴィンダールヴ』の能力だろう。まるで昔の知古に会ったかのような対応で、馬はジュリオの頬を舐めた。
「あはは、こらこら、くすぐったいよ」
そう言いながら、颯爽と馬にまたがるジュリオ。
「さあどうぞレイディ、鞍が無いから窮屈に感じるだろうけど、ご容赦願いたい」
「……鞍どころか、手綱もないけど。まあ、大丈夫なのでしょうね」
普通に考えれば即座に振り落とされるのだろうが、そこは『ヴィンダールヴ』の補正でどうにでもなるのだろう。
先の空戦でもう、それは疑ってはなかった。
(でも、なんか引っかかるのよね。なんだろ……う~ん)
「ほら、早くしないと日が暮れるよ!」
結局心の底に付き纏った違和感には気づけないまま、とりあえず言われるがまま、ルイズはジュリオの背に渋々、本当に渋々捕まった。
降臨祭最終日、午後六時半頃―――。
「……すっかり暗くなったわね」
「けど、あともう少しだよ」
一時間以上草原をかけて、何とか広大な森の入り口までルイズ達はやってきた。ここが噂のウエストウッドらしい。
「痛たた、腰が痛いわ……」
鞍が無いせいで、呻き声を漏らすルイズ。とはいえ、鞍も手綱もなしに、一度も振り落とされずにここまで来れたのは、流石『ヴィンダールヴ』といったところか。
一方ジュリオは、「ははは」と笑った。
「笑い事じゃないわよ。全く、アズーロを使えば一瞬でウエストウッドに着くって言ってたのは、何処のどなたかしら?」
「まま、そのおかげでぼくは麗しいレディを乗せてランデブーできたわけだからね。差し引きゼロってとこかな」
「馬鹿言ってないで、早く行くわよ」
呆れたようにため息を零しながら、ルイズはジュリオの背中を叩いた。しかし、ジュリオは動かない。
「何よ、どうかしたの?」
「何かこっちに向かってくる」
ジュリオは真顔な顔で、しっと人差し指を立てた。
ルイズは内心また!? と叫んだ。腰にある軍杖の鯉口を、静かに切る。
先は空戦だったから何もできなかったが、今度なら――。と、此方へやってくる気配を睨んだ。
「……あら?」
やがて、やってきたのは台車を引いた馬だった。乗り手はフードを被っている。
「誰!?」
ルイズは厳しい声で誰何する。やがてフードを被った人物は、その正体を自ら明かす。
それは、あの盗賊、土くれのフーケだった。
「あんたっ!? フーケ!?」
「落ち着いてくださいませ。わたしはあなた達と争う気はございません」
一方のフーケは、丁寧な口調と態度でルイズを諫める。
「そうだよ。サウスゴータに向かう時に話したじゃないか。彼女は此方についたってことはね」
ルイズは唸った。フーケがティファニアを助けたい一心で剣心に頼み込んできたという話は、ジュリオから聞いている。
だが、ルイズからしてみれば割り切れないのも事実だった。お宝争奪戦やラ・ロシェールでは、危うく彼女に殺されかけたのだから……。
「それに、多分だけどこれは人形だろうね」
「なんですって!?」
それを聞いて、ルイズは改めて凝視した。
だが、どう見てもフーケにしか見えない。
「恐らく、スキルニルだろう。古代に伝わるというマジック・アイテムさ」
そうだろう? とジュリオが尋ねるとフーケは恭しく一礼をする。
「その月目の方の言う通り、わたしは本物に命じられ、この子たちをサウスゴータに送り届けるところです」
と、ここでルイズは台車で蠢く正体に気付く。そこには子供たちが隠れていたのだ。
恐らく、ウエストウッドに住んでいたという孤児だろう。
「そうなの。……ところで、ケンシンたちはどうしたの?」
その問いには、台車に乗っている子供、エマが答えた。
「マチルダ姉さんたちは、テファお姉ちゃんを助けに……、えーっと、ダー……タルネスってところに向かったわ」
「ダータルネス……えっ? ダータルネスまで行ったの!?」
ルイズは唖然としていった。ジュリオも一瞬、真顔になる。
聞けば、剣心達が来る前にガリアの人形軍団が、最後の『担い手』ことティファニアを連れ去ったのだという。
ルイズは確信する。昼間のガリアの船団といい、奴らは必ず何か仕掛けてくる。
「分かったわ。じゃあ気を付けて行きなさいね」
エルザの事を一瞬思い出しながらも、優しい微笑みを作りながら子供たちにそう呼びかけるルイズ。
「うん、お姉ちゃんも気を付けてね」
子供たちもそう返すと、フーケ人形は再び一礼してそのままルイズ達とすれ違い去っていった。
「ねえ、ジュリオ。やっぱり今からダータルネスに向かうのって、手間じゃないかしら?」
ウエストウッドの森を後にしながら、ルイズはジュリオに呼びかけた。
今から向かっても、多分剣心が全部終わらせてくれるだろう。そんな確信があるからこそ、ここは一刻も早くアンリエッタに、ガリアの動向を伝えたかった。
「う~ん、確かにそうだなぁ。正直、当ても外れてしまったしね」
ジュリオもジュリオで、思案する。今まで遊んでいた筈のガリアの動きが、思いの外速いのだ。
ティファニアの所在についても、奴らはいち早くつかんでいた。先手は取られたと言ってもいい。
ジュリオも、剣心の強さは知っている。彼なら、間違いなくティファニアを救出するだろうという確信は、ルイズ同様持っていた。
本音を言えば、虚無の担い手ことティファニアとは早く顔繋ぎしておきたかったのだが、そうも言ってられなさそうだ。
「……分かった、一旦戻ろうか。サウスゴータへ行くだけならアズーロもそろそろ動かせるだろう」
馬から降りて、口笛を吹く。暫くして……すぐにアズーロはやってきた。
「……あの子たちも乗せてあげればよかったわね」
ジュリオと共にアズーロに乗りながら、ふと別れた子供たちのことを思ってルイズは呟いた。
「仕方ないさ。あの台車を担いでは、まだ今のアズーロには負担になるからね」
アズーロはばっさばっさと翼を羽ばたかせ、上空へと向かう。毒の状態を感じさせない動きに見えるが……、ジュリオがそう言うあたり、まだ万全ではないのだろう。
「やれやれ、こういうのを骨折り損のくたびれ儲け、っていうのかねえ」
「ホンッットウにそうね。だからあの時引き返してればよかったのよ」
よくあんたみたいのが使い魔になれたわね……。
内心そう呟いた途端、ルイズは遂に気付く、違和感の正体。
そうだ、こいつ……。さっきから凄いのは『ヴィンダールヴ』の能力だけだ。
竜のコントロールには確かに圧倒されたが、それは全て始祖の力。いわば借り物のものに過ぎない。
自分が召喚した緋村剣心は……『ガンダールヴ』がなくとも、飛天御剣流という、他を圧倒する強さを既に得ている。
志々雄真実も、恐らく始祖とは関係ない力をもってアルビオンを征服したのだろう。まだ会ったことはないが、それは剣心の説明やエルザや、ワルドの言から、何となく察せられる。
そう、このジュリオ・チェザーレが、この壇上に上がるに足る実力者には到底見えないのであった。
仮にも『虚無』によってこの地に召喚された者なら、ルーンに拠らない、素で既にメイジをねじ伏せる力を持っているのだと、ルイズは信じて疑ってなかった。
それとも『四の四』で力の序列みたいなのがあるのだろうか……? そこまで思案した時、ふと、あの夜にジュリオがぼそりとつぶやいた言葉の正体に、遂に行きつく。
『……もらい物だけどね』
あの時、心底つまらなさそうにジュリオは右手を眺めていた。
もしかして……。
「キョート」
「うん? 何だい?」
「あんたって、そこの出身?」
ルイズのこの言葉に、いきなり何を言い出すんだといわんばかりの態度を、ジュリオはした。
「いや、ぼくは生まれも育ちもロマリアさ。孤児院にいてね。そこでガキ大将だったんだよ。ついたあだ名が大王『ジュリオ・チェザーレ』。面倒だから、そのまま名乗ってるのさ」
大昔のロマリアの王の名を名乗っているのは、そういうことなのさ、とジュリオは言った。
だがルイズは、そんなことどうでも良かった。少なくともこの月目の神官は、剣心や志々雄真実のいた世界から来たわけでは無い。それが重要な情報だった。
「ねえ、聞くんだけど。あんた……正規の召喚で呼び出されたの?」
「どういう意味だい?」
声は柔らかいが、どこかとげのあるような感じを受ける。あまりされたくない、嫌な質問だという事をルイズは察した。
「ずっと思ってたのよ。あんたの『ヴィンダールヴ』は、確かに大したものよ。でもね……あんた自身を凄いと思えないの」
「……」
「使い魔自慢と言われても仕方ないだろうけど、わたし、ケンシンは本当にすごいって思ってるの。『ガンダールヴ』だからってわけじゃない。心の強さも含めてあんな人、他には絶対いないって言いきれるわ」
「…………」
「そしてシシオ・マコトも、ルーンとは関係ない所で、恐らくすごく強いとも思ってるの。他国のワルドだけじゃない、人類の敵である吸血鬼すらも心酔させるような奴なのよ。それはわたしも、この目で見て分かっている」
「………………」
ルイズが話している間、ジュリオはずっと無言だった。ただ、その表情は氷のように固まっている。
「はっきり言うわね。あんたが、ケンシンやシシオに並び立つ人物には、到底思えない」
「……やれやれ、本当にはっきり言うねきみは」
努めて、冷静な笑顔を保ちながら、ジュリオは振り返った。
「で? 結局きみは何を言いたいんだい?」
「これはわたしの推測になるけど、あんたの主……教皇は、本当は別の……それこそケンシンのいた世界の人間を、召喚したんじゃないかって思ってるの」
「それで?」
「そして契約を結ぼうとして失敗した。強すぎるから、もしくは、あんたたちの理想に乗ってくれなかったから、だから
再びジュリオは黙った。それに構わず、ルイズは続ける。
「だからこそ、わたし達との関係はなるべくよく取り持っておきたい。そう思ってあんたを、タルブやこの国に遣わしたんじゃないかしら? それは逆に言えば、ロマリアには『余裕』が、今はないということ。……どう?」
言いたいことはすべて言った。当たらずとも遠からず、そうルイズは見ていた。
一方のジュリオは、しばし何も言わず、じっとルイズを見つめていた。
やがて、何を言おうかと口を開こうとした時だ。
「――なにあれ?」
「……うん?」
けだるそうな顔で、ジュリオは振り向いた。何かが、此方にやってくる。
どうやら風竜らしい。上に人を乗せている。
ルイズ達は目を細めた。またガリアの竜騎士だろうかと思案していた矢先……ジュリオは懐から小石を取り出し、上空に投げた。
時間経過で発光する強力な閃光石だ。これで暗闇を照らし、相手の正体を探ろうとしたのである。
やがて風竜の装飾から、ガリアの者ではないことは分かった。
あれは、あの三色の色は―――。
「レコン・キスタか!?」
「い、一体誰!?」
刹那、風竜はすさまじい速さですれ違った。相手の竜裁きは相当なものだ。多分、昼に会った大将格より練度が上なのが伺える。
だが何より、その上に乗っている人物を見て、ルイズは騒然とした。
「う、うそ……」
「どうしたんだいルイズ!」
ジュリオが尋ねるが、返事を聞く暇がない。相手の竜が、月光を背に上空から迫ってきたからだ。
上空からの奇襲をやり過ごしながら、ジュリオは竜に乗る人物に誰何する。
「誰だ!?」
「……ふっ、久しぶりだな。ルイズ」
つばの広い帽子とマントを翻しながら、義手となった右腕を見せながら、人影はルイズに問いかける。
「あなた……ワルド……!」
「その通りさ。今度こそ、きみの命をもらい受ける」
一切の油断ない目で、かつての婚約者……ワルドはルイズ達と向き合った。