るろうに使い魔‐ハルケギニア剣客浪漫譚‐   作:お団子

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第六十幕『真の覚醒 前編』

 

(そうそう、それで良いのですわ。ドゥドゥー兄さま)

 剣心とドゥドゥーが戦っている。その様子を遠巻きに見ながら、ジャネットは内心頷いていた。

 あの男を仕留めるのは、心身ともにふらついている今の状態が一番、成功率が高い。ルーンに洗脳されかけていて、実力の半分も出ていないからこそ、唯一暗殺できるチャンスなのだ。

 流石のジャネットもルーンを消した(・・・・・・・)程度で剣心を殺せるのであれば、先にルイズを殺しても良かった。それをしないのは気に入った云々も……、あるにはあるが、「彼女を殺そうとしたら此方の命も危うくなる」という、単純な理由が一番にあった。

(やっぱり、あの眼は危険すぎる)

 遠くで見ながら、冷や汗を垂らしてジャネットは思う。奴は強い。先程の小舟の襲撃……、実を言うと、まったくと言っていいほど気づけなかった。

 

 あの時、彼が躊躇せず『殺す気で』剣閃を放っていたなら、自分の首は今頃……、湖面辺りを漂っていたことであろう。

 

 それをギリギリの線で気付いたのか、あからさまに速度を落とした。それを偶々杖で防いだに過ぎなかったのだ。

 ジャネットは思わず、忌々しげに自分を睨みつけるルイズに視線を移した。彼女の様子から、自分が内心、こんなに悄然としている事には気づいてはいないのだろうが……。

(もし、この子を殺そうとして……、結果、奴が完全に洗脳されるきっかけをつくってしまったら――――)

 多分、一瞬で殺される。

 ドゥドゥーも、ジャックも、無論自分も。恐らく死んだことすら気づけないかもしれない。

 使い魔は主人に絶対服従。だからこそ迂闊にルイズに手を出せば、完全に覚醒するきっかけを与えてしまうだろう。一応、やるからには死ぬ気でこの依頼に挑んではいるが、それでも軽々しく命を捨てる気にはなれない。

 それゆえに、今の自分はただ「ルイズを抑える」ことしか出来なかった。

 下手な魔法を唱えて、奴を刺激する事だけは避けなくてはならない。

(それにしても、ジャック兄さまはどうしたのかしら……?)

 

 

 

 

 

第六十幕『真の覚醒 前編』

 

 

 

 

 

「ケンシン!」

 片膝をついて蹲った剣心に向かって、ルイズは思わず叫んだ。

 手助けしようにも、ジャネットに身体を抑えられて身動きすらできない。

 ルイズは不安だった。彼の傷のこともあるのだが、それ以上にまた、剣心が「人斬り抜刀斎」になるのではないのかと。

 もしそうなっても、今の状態では……、助けることもできない。

(わたし、本当に何をやっているのかしら……)

 命を懸けて、剣心の助けになるつもりだったのに。

 これではただ、捕まっただけではないか。

 結局、この苦境を抜け出すには……、彼の力に頼るしかない。

 でも、その彼の力も、自分のルーンの所為で、力を出し切れなくって……。

(ケンシン……)

 それでも今は、泣くのを必死でこらえて、成り行きを己の使い魔に、任せるしかなかった。

 

 

 さて、その剣心とドゥドゥーとの局面。

「何があったかは分らないけど、その足じゃもう満足に動けないだろ?」

 そう言ってはみるものの、警戒の様子は崩さずにドゥドゥーは杖を構える。

 確かに足は奪ったが、それでも精々かすった程度。完全に当ったわけじゃない。無理に走ることだってできるだろう。

 だが、それでも速度は先程よりも何倍も落ちた筈。こればっかりはゆるぎないアドバンテージではあるはずだ。……そうでなくては困る。

 そう思案する中、相手側の剣心はゆっくりと立ち上がった。

「このっ、いい加減くたばったらどうだい!」

 苛立った様子を隠そうともせずに、ドゥドゥーは再度杖を向ける。再び『ライトニング』を放つつもりだ。

 だが、杖を突き付けられても剣心は直ぐには動かなかった。ただゆっくり、その鞭のような細長い杖の先端を見やる。

「――その足で何度も避けられると思うなよ!」

 刹那、杖の切っ先から『稲妻』が放たれる。

 それがまた剣心に触れる瞬間、目を見開き駆け出した。

 一瞬だけ『ガンダールヴ』の力を引きだした剣心は、足を怪我しているにも拘らず……、刹那の拍子でドゥドゥーの目の前にまで接近する。

「うわっ……――!」

 右足怪我して、まだそれだけ動けるのか! ドゥドゥーは内心呻いた。

 その合間にも、いつの間にか納めた逆刃刀の、神速の抜刀術が顔面に向かって襲い掛かる。

「うおおおおおおおおおおお!」

 それに対し、ドゥドゥーはあらん限りの声を上げ、のけぞって回避する。すぐさま『ブレイド』で叩き潰そうと杖を振り多そうとした時―――気づく。

 

(え、ここで鞘――!?)

 

 死角から飛んでくる鞘の攻撃。剣心得意の二段抜刀術『双龍閃』だ。

 しかし――。

「ぐっ!?」

 ルーンではなく、純粋に右足の痛みで踏ん張りがきかず、若干滑ってしまった。

 結果、鞘の攻撃も完全に失敗。

「うわあああぁっ!!」

 対するドゥドゥーも、二段攻撃を回避しようとして後方へのけぞってそのまま転んだため、反撃はできず剣心と距離をとった。

 

(噓でしょ!? ケンシンの双龍閃が、失敗するなんて……)

 ワルドの腕を折り、刃衛を再起不能にした技。双龍閃。あまねく強敵を撃破していったので、ルイズにとっても印象深い技となっていた。

 それが外れた。二回とも……。初めて見る。頼れる使い魔の苦戦する表情。

 刺客も、強いことは強いだろうけど、間違いなく刃衛よりは劣る。間近で狂気を見ていたからこそ、ルイズもそれは分かっていた。

 だからこそショックだった。万全の状態だったら、絶対絶対絶っっ対、負けるはずがないのに……。

 格下に苦戦する剣心。そんなの、ルイズは見たくなかった。

(やっぱり、わたしの契約の所為なのね……)

 ルイズは目線を地面に落とす。そして下で倒れているカトレアに、視線を移した。

 もし、万が一、億が一、兆が一もないことは分かっていても、剣心がもし負けたら……、自分の命も、勿論カトレアの命もないだろう。

 アンリエッタと同じくらい大切な、最愛の人の一人。幼い頃から嘲笑と叱咤の中で育ったこの家の中で、唯一と言っていいくらいの理解者。

 彼女の笑顔だけが、子供の自分にとっての支えだった。今、戦ってくれている剣心と同じくらいに。

 このままでは、その支えを、二人を失ってしまう。そんなことになるぐらいなら――――。

(舌を噛んで、死んでやるわ!)

 人質になっているから、援護もできない。何もできないからこその最終手段。

 自分が死ねば、ルーンも消える。そうすれば剣心も存分に暴れられる。カトレアも助かる。

(ケンシン、ちいねえさまを……、姫さまを……、お願い!)

 一筋の涙を流しながら、目を閉じ、意を決して、ルイズは大きく口を開けた。

 

 

(やはり、まずいですわね……)

 対するジャネットも、この攻防を見て苦い顔を浮かべる。いくら弱体化しているとはいえ、ドゥドゥーがここまで手こずるものなのか。

 自分たちは『吸血鬼と人間のハーフ』だ。並のメイジよりも遥かに強い魔力と身体能力を有している。だというのに……。

(本当にこいつ、人間ですの? わたし達と同類と言っても驚きませんわよ?)

 いっそのこと、亜人や魔物の類と言ってくれた方がまだ腑に落ちるというのに。ただただこの人間の底力に驚くばかり。しかもルーンの洗脳に翻弄されてこれなのだから、なおのこと『本来の力』がどんなものなのかが計り知れない。

 亜人の血を引くからこそわかる。これで実力の半分でもないのであれば……否、これでルーンまで自在に使いこなすようになったら……。

 

(間違いなくエルフ共でも持て余すでしょうね。末恐ろしいことこの上なしですわ……)

 

 東方の砂漠に住む異種族たち。強力な精霊の力を使い、高い知能と技術を誇る彼らですら、この飛天の剣の前では、等しく霞むことであろう。

 とにかく、今が千載一遇の好機。これを逃す手はない。そう思い、人質であるルイズに視線を移せば――。

「なっ……!」

 意を決したルイズが、ちょうど舌を噛み切ろうとしている瞬間であった。

「待って!」

 ジャネットに構わず、ルイズは自分の舌めがけて歯を振り下ろす。慌てたジャネットは、そうはさせまいと自分の腕をルイズに噛ませた。

「ぁぐうぅ――!!」

「いっ……、だぁああああああああ!」

 ルイズの両腕は、左手を使って後ろ手にして抑えている。だから仕方なく杖を持つ右腕を差し出すしか方法がなかった。

 しかし、いくら自分がただの人間じゃないとはいえ、思い切り噛みつかれたら血も出るし悲鳴も出るし涙も出る。

 だがジャネットも必死だった。ここで主人に舌を噛まれたら間違いなく奴は本気で襲い掛かってくるからだ。狂犬の首輪を外させるわけにはいかない。

「ジャック兄さま! ジャック兄さまはまだですの!? もう持ちこたえられそうもありませんわ!」

 もう余裕を保つことすら忘れ、ジャネットは叫んだ。ルイズはルイズで、暴れながらも噛みつく力を強くする。それを何とか抑えながら、ジャネットは対峙する剣心とドゥドゥーに目線を移す。

 すると、彼女の声が届いたのか、彼らの周囲を複数のゴーレムが取り囲む。『土』系統を極めし二番目の兄、ジャックの魔法によるものだ。

(良かった、これで少しは……!)

 ほんの少しだけ、安堵の笑みを浮かべようとしたジャネットだったが……突如気づく。

(これは、火薬の匂い……?)

 亜人である自分たちにしか分からないように薄っすらとではあるが、確かに火薬の匂いが鼻孔へ入ってくる

 それと同時に、嫌な予感も覚える。

(まさか、ジャック兄さま……)

 自分たち諸共……、抜刀斎とルイズを消し飛ばすために……。

(この屋敷ごと全て、爆破するおつもりですの――――!)

 心身ともに追い詰められた次兄が取った狂気の策。錬金で火薬に変えての大爆発。

 ヴァリエール家全てを吹き飛ばしかねないくらいの粉塵を、見えないようにばらまいているから遅れていたのかと……。

 

 

 刹那、赤月を背に一つの影が飛来する。それは勿論ジャックであった。

「待たせたな」

「んもう、遅いよ兄さん!」

 そう言ってドゥドゥーが、着地した兄の顔を見つめ……、そこで妹同様、彼も嫌な予感を覚える。

「ねえ兄さん、あの時『先に行ってろ』って言ってたけどさあ。……その、今まで何してたの?」

 どこまでも静かな狂気を孕む兄の目に、若干竦みながらドゥドゥーは尋ねる。

 だが兄は答えない。ただ一言。

「ドゥドゥー、ジャネット」

 そして怖気が走るほどの冷徹な視線を、剣心に向けた。

「腹ぁくくれ」

 瞬時にジャックは、杖を振り詠唱。ゴーレムを精製し剣心に向かわせる。無論こんな集団戦法で殺せるとは毛ほども思っていない。ただ時間を稼ぐためだ。

 

(もう少しだ。もう少し……)

 先の爆発に失敗した後、ジャックはドゥドゥーを先に行かせ、ヴァリエールの警備に気づかれないよう、屋敷を巻き込むほどの巨大な魔法陣を書いていた。

 系統魔法と先住魔法の合わせ技。魔法陣内の地面を一瞬で火薬と鱗粉に変える『錬金術』。決まればまず、いかに抜刀斎といえど回避は不可能。何せ半径五リーグもの巨大な魔法陣だ。屋敷も当然無事では済まない。

 自分一人だけで書き上げていると日が明ける為、陣を書ける精巧なゴーレムを多数配置していたので、遅れたのだった。

 無論、火薬量も大幅に底上げしている。自身が『硬化』をしても無事では済まないであろう威力にするため、ジャックの精神力はほぼ底をつきていた。当然、完全展開までにも時間がかかる。

 その間、抜刀斎を逃がさないよう、自身がやってきたというわけである。

(本来ならば、オレは姿をさらさず、完全に書き切ったタイミングで奇襲気味に使うのがベストだがな……)

 しかし、いくら弱体化しているとはいえ、相手は伝説の『虚無』が呼びし一騎当千の使い魔。弟妹だけでは心許ない。しかもその担い手は、魔法を強制解除するという術を持つと聞く。もし気づかれでもしたら……。

 この策に、文字通り全てをかけているのだ。絶対に失敗させてなるものか……!

「やるぞドゥドゥー!」

 ジャックはそう叫び、ゴーレムを殺到させた。

 ドットクラスのギーシュとは違う、殺意で塗り固めた鎧人形だ。無論武器は鉄製の物を作って持たせ、剣心に斬りかからせる。

 自身はまだ攻め込まない。なにせ前回は無謀に攻めて痛い目を見たのだ。ここで倒れるわけにはいかない。

 しかし……―――。

「なっ――!」

 刹那、剣心に向かって飛び掛かったゴーレム三体、その全ての胴体が綺麗に泣き別れとなった。先ほどのドゥドゥーとの戦いは何だったのかと思えるくらい、再び速さに、神が宿り始めた。

「うわぁああ! 動きがまた戻ってきている!」

 勘弁してくれと言わんばかりにドゥドゥーが叫ぶが、ジャックは思考停止をしない。恐らく人ではないからだろう、手加減の必要がない分、ルーンの抑制を緩めているようだった。

(そういえばこ奴、やけに『不殺』というものに拘っていたな……)

 忌々しい船での戦い。そこでのやり取りと思い出し、即座に判断を下す。

(もしや、これが弱点か……?)

 ならば勝機は、まだある。

「ドゥドゥー! 鎧を着ろ!」

「えっ? 急に何を――」

 有無を言わせず、ジャックは土から鎧を精製し、ドゥドゥーに無理やりまとわせる。無論ジャック自身も身に着けた。

 兜もキチンとつけ、外見上は他のゴーレムと分からせないようにする。

(視界はその分狭めるが、致し方ない)

「ねえこれ見づらいんだけど!? 兄さん!」

 鎧にすべて包まれたためか、こもった声でドゥドゥーは抗議する。

 しかしジャックは弟の文句に一切耳を貸さず、他のゴーレムに紛れて奇襲を狙う。

 勿論、鎧を身にまとう瞬間は剣心にあえて見せていた。そちらの方が動揺を誘えるからだ。

 これなら、先ほどのような斬撃はしてこないだろう。無論やられた時、重傷を負うリスクは大幅に上がるが、ここは死中に活を求めた。

(これぐらいせねば、こいつらには絶対届かん! 絶対に……っ!)

 どこまでも、どこまでも抜刀斎の殺害に思考を研ぎ澄ませる。そのためならば最早自分どころか『大事にしていたはずの』弟妹の命すら厭わない。

 あの飛行船の戦いで、ただただ翻弄された屈辱から、ジャックの思考は徐々に『狂』へと走っていった……。

 

 

 さて、一方の剣心はというと。

(何だ、これは……)

 ゴーレムの攻撃をやり過ごしながら、体の異変を感じ始めていた。

(体が、重い。……いや、重くなっていく)

 動きが徐々に鈍くなっていくのだ。どんどん足は遅くなり、身のこなしはぎこちなくなる。このままでは、ゴーレムの攻撃につかまってしまうだろう。

 またルーンの所為か? 一瞬だけ左手に視線を落とす。

(これは――?)

 見れば、確かに左手のルーンは光り輝いていた。しかし真っ赤な鮮血色ではなく、今度は淡い桃色。ルイズの髪の色に近い光を、宿していた。

 何故? そう剣心が逡巡した刹那、ついにゴーレムの拳が、剣心の腹にクリーンヒットした。

 刹那、脳裏にはじけ飛ぶ記憶。

 

(スッとろいぞバカ弟子!)

(初見でそんなの見切れるわけないだろ!)

(阿呆が、飛天御剣流は手取り足取りなんてやらねえんだ! 食らって覚えた方がいざって時に役に立つんだよ!)

 

 吹っ飛び、転がりながらふと思い出す。修行の毎日。あの時はただ地獄の連続だった。

 ひたすら叩きのめされ、痣とたん瘤を作りあげる。だが、確かに今の自分の礎にもなった日々。

 続けてくる別の鎧人形による攻撃。それを紙一重でかわしながらも、別の鎧武者による蹴りで吹っ飛ばされる。

 するとまた、あの日の光景がフラッシュバックした。

 

(いいか、飛天御剣流はその強さゆえ、自由でなくてはならない。今で例えるなら『陸の黒船』。そのためにはだな――)

 

 どんどん過去が、少年時代に揺り戻っていく。抜刀斎時代ではない。『剣心』の名を貰って間もない頃の記憶――。

 突如巻き起こる、記憶の乱気流。剣心は当惑しながらも、身体はボロボロにされながらも、その流れに身を任せていた。

「お、おいどうしたんだ相棒!? さっきから攻撃を食らって――」

 意識の外では、デルフが困惑の叫びをあげていた。攻撃をやめ、ただただゴーレム(と、ドゥドゥー及びジャック)の猛撃をやりすごしていたからだ。

 刃物による致命傷は避けてはいるものの、打撃による攻撃だけは、『あえて』貰っているようにも感じていた。

 

(ったぁ……!)

(今のが飛天御剣流『龍鎚閃』。天高く飛びあがり強烈な一撃を与える。飛天の名に恥じない技だろう?)

 飛び上がった鎧人形の、上空からの腕撃を、わざと貰うとそんな記憶が視界に飛び散る。

 

(うわわわ!)

(飛天御剣流『龍巣閃』。容赦ない連撃をあびせる技だ。いっとくが考えなしに振るなよ。ちゃんと敵の急所を見極めて振れ)

 容赦ない剣と槍の攻撃。血が少し飛び、かすり傷にとどめながら避けていると、そんなやり取りもあったっけ……、と少し頬を緩ませる。

 

(飛天御剣流『土龍閃』。地を抉り土砂を相手にぶつける。強弱次第で相手に生き地獄も味わわせられるぞ)

(……これ、剣と関係ある?)

 巻き上げた土砂に吹っ飛ばされると、そんな一幕もあったなあ……、と感慨深い思いに駆られた。

 

 何故だろう、体は間違いなく叩きのめされているのに、心はだんだん静かになっていく。あんなにも荒れていた『抜刀斎』ではないからか……。ただ純粋に『強くなりたい』と剣を振っていたあの日々が、ルーンによって思い起こされていたからだった。

 

「ふぇ、ふぇんひぃん(ケンシン)!」

 まだ腕を噛まされたままのルイズが、涙を流して声にならない声を上げる。無理もない。いきなり無抵抗に殴られ始めたら動揺もすることだろう。

 だが不思議と、今度は彼女の声が透き通るように聞こえてくる。船の時は、蚊の音ほども聞こえなかったというのに――――。

 

 

 そんな、自分を案じて泣く彼女の姿が……、幼少期、死ぬ寸前まで守ってくれた三人の女性と、はっきりと重なって見えた。

 

 

 また彼女には心配をかけて、泣かせてしまってつくづく使い魔としては失格だなあ……。と、そんなことを考える余裕すらあった。

 次の瞬間、ゴーレムの一体が、剣心に向かって突貫する。それを食らうと、また視界に閃光が飛んだ。

 

(これが飛天御剣流『双龍閃』だ。覚えておけ、飛天御剣流の抜刀術は全て――)

 

 しかしこれで終わらせるジャックではない。好機、そう心中でつぶやくと、体当たりしたゴーレムに手で触れ、その表面を火薬に変える。

 そして瞬時に爆発を起こし、剣心を大きく吹き飛ばした。

 

(隙の生じぬ二段構え。――――でしたよね、師匠)

 

 そんな記憶を思い起こしながら、剣心は吹き飛ばされ、仰向けに倒れるのだった。

 

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