予告『アルビオン動乱編』&一部本編先行公開
それは、新たな戦いの始まり。
「『祭り』は派手な方が、より楽しい。そうだろ?」
潰えた王権。空の大陸アルビオン。
戦火の中で折れた杖の上に立つのは、業炎を操る悪鬼。志々雄真実。
悪鬼の横暴に腹を据えかねた連合軍たちが、空の国へと攻め込んでいく――――。
攻めるは、水の国トリステインと皇国ゲルマニア。
ある者は名誉のため、ある者は私怨のため、またある者は悪の進撃を止めるため。
浮遊大陸で、再び戦乱が巻き起こる――――。
「これはわたくしが起こした戦なのですよ。わたくし自身がきちんと最後を見届けずして、何とするのですか」
戦の中で、少年少女は見えない何かを掴み始めていく。
それは確かな成長の証――――。
「困っている女の子を助けるのに、理由はいらない。そうだろう!?」
「ミス・エレオノール、ここいらでエルフを見かけませんでしたか?」
「……っ、くそぉ。強くなりてぇ……」
「まあ任せなお姉さま。こっちには最終兵器がある」
それぞれの思いを胸に、進撃を続ける青の種子たち。
これに対抗するは、志々雄が
「は――――っはははは! やりましたぞシシオ様! 遂に! 私も修羅の道へと至りましたぞ!!」
「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ♪」
「必ず、その火をオレのものとしてやる」
「そう、では我々は手筈通りに動きましょうか。シシオ様なら何の問題もないでしょうけど」
「
「さあ観念しろルイズ! 今度こそきみをこの手で貫いてやろう!」
そして空の大陸で蠢くのは、この二勢力だけではない。
戦の裏で暗躍する、影の刺客たちもまた、それぞれの野望・信念を胸に、静かに動き出す。
一つは、交差した二本の杖。魔法大国として名を馳せるガリア王国。
「かの飛天御剣流でも、時間と空間は飛び越せまいか」
「もう二度と、あんな……ッ! 無様を晒してなるものか……ッ!!」
一つは、始祖の遺志を何よりの拠り所とする『狂信』の国。
宗教庁を頂くブリミル教の頂点。ロマリア皇国。
「今はぼくが『ヴィンダールヴ』だ! 虚無の使い魔の実力をきちんと見ててくれよ!」
一つは、遥か東で密かに暮らす、ハルケギニア最強の種族。
「人間を、決して侮るな」
「……その力、やはり『悪魔』由来か」
「蛮人が
かくして白の大陸に、役者は集う。
様々な情理をその身に抱いて。
「待ってなさいよちびルイズ。あんたは絶対に連れ戻してやるんだから!」
「ここから先、貴殿を故郷の敵と思って……、打ち込んでもいいか?」
「ケンシンさんのことが好きっていう。その気持ちだけは本当なのでしょう!」
戦を、使い魔を通じて、主人もまた成長していく。
「わたし、ケンシンと一緒に戦いたい。この戦争、あんたの宿敵との因縁もあるんでしょう? わたしはあんたの主人なんだから、そんな因縁をきちんと払ってあげるのも、役目だと思っているの」
「だからわたし。頑張る。頑張ってみる」
そんな中、少女は垣間見る。使い魔の記憶。
『十字傷』の原点。もう一本の傷に隠された、秘密。
そんな中、遂に自覚する。少女の確かな恋心。
しかしそれは、無情にもほろ苦い想いへと、徐々に移ろいでいく……。
戦の中で徐々に振り返っていく、六千年の記録――――。
「……ブリミルが、エルフを使い魔にしていたってござるか? 拙者のように?」
「まあね。とにかく、サーシャとおりゃあ、いいコンビだった。二人して、散々暴れたもんだ」
「もう逃げるのは止めにするわ。ケンシンに、ちゃんと伝える。わたしの想い」
「お前ら全員、俺の傘下に入れ。そうしたら命だけは見逃してやってもいいぞ」
「どんなことを言われようと、どんなに下に見られようと、わたくしは絶対、屈しない。お前なんかに!!」
戦争は徐々に激化していく。
それについていけない者たちは、ただ、悲痛な涙をこぼして慟哭する。
「いやああああああああああああ! ケンシンさああああああああああああん!!」
「嘘だ、なあぁっ……、嘘だといってくれよおおおおおおおおおおおお!!」
慟哭は、思いは、やがて大きな進路をも作り出す。
それが意味するものとは――。
「お願いだよ。あの子を助けてやって……。この世界は、あの子にどこまでも優しくできていないんだ」
激動巡る中、遂に相対する。かつての宿敵。
一方は『逆刃』、一方は『無限』。京都で交わった二つの剣がまた、交わる――。
「こいつが、俺が
「いくぞ志々雄真実!!」
「あなたとは『使い魔』とかじゃなくって、『お友達』になりたいの」
この度は「るろうに使い魔」を読んで頂き、誠にありがとうございます。
作者のお団子です。
今年もあと僅かとなりました。今年の正月から投稿を再開し、何とかここまで進めることができました。
ここまで読んで頂いた方々には、感謝してもしきれません。
この場で改めて、お礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
さて、来年から「アルビオン動乱編」となります。
こんなに多数の人物を一気に出して大丈夫なのか? という疑問もあるかと思いますが、アルビオン編自体はもう、実は全て書き上がっております。
後は細かな齟齬や誤字脱字を直す作業くらいです。
なのでちょっとした予告編などを作ってみた次第です。
上記のセリフも、全部これから投稿する本編からの抜き出しなので、嘘予告では決してありません。
どのような状況でこのやりとりがおこなわれているのか、楽しみにして頂ければと思います(予告編では色々遊びましたが、本編自体は従来通りの形式で進めます)。
本年はこの予告編をもって、最後の投稿とさせて頂きます。
以下、本編の一部抜粋となります。今後も、何とか一週間投稿で続けていければと思います(投稿が遅れそうな場合は連絡いたします)。
それでは、来年もよろしくお願いいたします。
よいお年を。
抜粋其の一『ギーシュの闘い』
「それでは諸君! 決闘を始めるぞ!!」
太陽が地平線に傾きかけている中、水精霊騎士専用の陣中で、ギーシュとド・ロレーヌは向き合っていた。
その周囲を、学生たちがぐるりととり囲んでいる。隊長の座を懸けた決闘だ。俄然観戦にも熱がこもった。
「平民かぶれのギーシュに負けんなよ! ド・ロレーヌ!!」
「ラインの意地を見せてやれ!!」
ド・ロレーヌ派の学生がヤジを飛ばす。彼らは剣ばかり鍛えるギーシュのことを、「平民に被れた」とバカにしているのだ。
「おうギーシュ! 生意気なド・ロレーヌの奴なんかぶっ飛ばしてやれ!」
一方で、彼の事を応援する者もいた。日頃修行せず自慢話ばかりしてくるド・ロレーヌを鬱陶しがっている者もいたからだ。その中には当然、マリコルヌたちも入っている。
「負けそうになったら代わってやるぞギーシュ!」
豪快なギムリも叫ぶ。実際本気でそう考えているのだろう。
だがギーシュは冷静に返す。
「心配しなくても、負けやしないさ」
そして木剣を握る手に力をこめる。
しかし、内心では少し怯えていた。相手はラインクラス。自分よりも優秀な『風』を操る名門だ。
昔だったら、多分彼に挑もうとは思わなかったろう。
(だが、今は違う)
あの時……、ヴェストリの広場で、剣心と決闘したことを思い出す。
七体のワルキューレを赤子のようにあしらい、杖を奪って負けを認めるよう迫ってくる。あの峻烈な表情は、今の状況よりも数倍怖かった。
あれを真正面から見ているからこそ、次のさらなる無謀な行動にも、自然と移せたのだろう。
「では早速始めようか。杖を抜きたまえ」
厭味ったらしい顔で、ド・ロレーヌは杖を使って礼をする。決闘に慣れた所作だ。
これは貴族の決闘。相手の杖を吹き飛ばした方の勝ちである。昨今の情勢では、よりスマートに杖を飛ばした方が洗練されているとまで言われていた。
だが、これに対しギーシュは、杖を懐にしまい、木剣を前に突き付けた。
「ぼくは今これを鍛えている。だから、この決闘でも杖ではなく、剣でお相手仕る」
「なんだそれは? ぼくを馬鹿にしているのか?」
杖でも負けるとは微塵も思ってないからこそ、今のギーシュの対応は凄く癪に障ったのだろう。
しかし、ギーシュも譲らない。
「そう思うのならかかってきたまえ。きみは杖、ぼくは剣を飛ばされたら負け。それでいいじゃないか」
「後悔するなよ。その言葉」
ド・ロレーヌから笑みが消えた。そして思い切り風の魔法をギーシュに向かって放った。
抜粋其の二『ガリア、動く』
「先ほどからしているその移動術、それは『虚無』の魔法『加速』という技ではござらぬか?」
「ほう、流石は『ガンダールヴ』。当に気付いておったか」
杖を指先で弄びながら、悪戯好きの小僧の様な笑みを浮かべるジョゼフ。
「最初に会得したのがこの技でな。全く始祖はおれに何をさせようというのか……、まるで『急げ』とせかされているように感じるよ」
そして、改めて剣心の顔をまじまじと見つめた。
「お前、年は幾つだ?」
「二十九でござる」
「……結構いっているのだな。二十歳少しくらいかと思っていたが…」
当てが外れて、真っ当に困惑するジョゼフ。
「眩しいぐらいに、まっすぐな目をしているじゃないか。まったく顔は違うが、どことなくシャルルに似ているな」
「やはり、シャルル殿でござるか」
この男にとって、弟の存在はかなり大きなものだろう。
「おれにもお前のような頃があったよ。己の中の正義が、すべてを解決してくれると思っていた頃が……。大人になれば、心の中の卑しい劣等感は消えると思っていた。分別、理性……、なんだろう? そういったものが解決してくれると、信じていた」
そう言いながら、ジョゼフはすっと短剣を取り出す。剣心の周囲を歩きながら、滔々と語りだす。
「だが、それはまったくの幻想に過ぎなかった。年を取れば取るほどに、澱のように沈殿していくのだ。自分の手でつみとってしまった解決の手段が、いつまでも夢に出てき て、おれの心を虚無に染め上げていくのだ。迷宮だな。まるで。そしてその出口はないと、おれは知っているのに」
そして、剣心の背中へとやってきた。一方の剣心は、静として動かず。むしろゆっくりと目をつむった。
「こんな技を、いくら使えたからと言って、何の足しにもならぬ」
抜粋其の三『サウスゴータは燃えているか』
「よう」
志々雄真実はそれだけ言うと、優雅に上座へと腰かけた。『和平』を請う立場なのに、さも当然といった対応で。
アルブレヒト三世は、この男に対しただ唖然とした表情を浮かべていた。やがて……、苦虫をかみつぶした表情へと変わる。
その様を見て無理もない、とアンリエッタは思っていた。自分だって前情報なしに彼の姿を見たら、その気迫に呑まれてしまっていたことだろう。
「何だその姿、仮装パーティーから抜け出してきたのか? 新皇帝殿? まあ、つかみとしては満点だがな」
一方のジョゼフは笑いながらそんなことを平然と言う。何処から本気でどこから冗談なのか、その表情からは推察できない。
「ここは和平……、ああ、お前らアルビオンの命乞いを聞く場だぞ。お前たちの態度次第で、おれたちの大砲はいかようにも火を噴くのだからなぁ」
なあアンリエッタ殿? と、ジョゼフはにこやかに問いかける。アンリエッタは「えっええ……」とどもりながらも、冷静になって志々雄を見た。
そうだ、自分には剣心がいる。いざという時には、彼が助けに来てくれるはず。
(ウェールズさま。わたしに力を……!)
テーブルの影、膝の上に置いた手で『風のルビー』を触りながら、アンリエッタは顔を上げた。
「ではアルビオン新皇帝、シシオ・マコト殿。どのような形での和平をお望みか、ここで申しなさい」
どんな策を出されようとも、対抗する準備は整っている。少なくとも呑まれるようなことだけは絶対避けなくては。
毅然とした表情で、アンリエッタは問うた。
対する志々雄は、じろりと一瞬、アンリエッタの方に目をやる。志々雄の表情を見た瞬間、またアンリエッタの中でぞわりとした恐怖が芽生え始める。
瞳の奥に燃える野心。それを隠そうともしない表情。弱い奴は死んで当然と言う笑み。
弱肉強食。その理念を教え込むかのような雰囲気。その四文字熟語に…自分の恋人は巻き込まれその身を焼かれてしまった。
いや、下手を打てば自分もまた、その後を追う羽目になるのかもしれない。本当に、細心の注意をもってかからねば……。
そんな風に考えていた時だ。
「じゃあ、端的に言うぜお姫さま」
志々雄はニヤリとした口元を浮かべ、そして悠然と言い放った。
「お前ら全員、俺の傘下に入れ。そうしたら命だけは見逃してやってもいいぞ」
抜粋其の四『ティファニア争奪戦』
「……あっ」
ここで、ティファニアは目が覚めた。
自分は今、誰かに背負われているようだ。
「マチルダ、姉さん……?」
「あぁ……、やっと目が覚めたかい?」
どうやら彼女に背負われていたようだ。ティファニアは、笑うマチルダの後頭部に視線を映した。
「とにかく、あんただけでも逃がさなきゃ。ミスタさえ来れば、何とかなるんだけど……」
「あれ、あの子はどうしたの?」
ティファニアはここで、ギーシュがいないことに気付く。自分の胸をいやらしい目で見てくるため、苦手意識はあるのだが……いないといないで気になってしまう。
「分かってる。わたしもアイツを助けに行きたいけど、今は一刻を争うんだ。とにかくあんたはすぐに逃げな」
「なんで!? マチルダ姉さん!!? 何でそこまでわたしを……」
そこまで言った時、気付いた。
マチルダは今、体中から血を流している。そんな様子なのに、自分を背負って、あろうことか走っているのであった。
「嘘!? 待って、どうしたのその怪我!?」
「ドジっちゃっただけさ。はは……、大丈夫大丈夫。人間にはたくさん血が流れているんだ。ちょっとぐらい零れたって……」
「そんな怪我じゃないじゃないの!」
ティファニアは暴れた。降りて『治療』しようと思ったからだ。しかし、マチルダは歯を食いしばってそれを抑える。
「やめて、降ろして! 死んじゃうよ!? ねえ姉さん!」
「分かってるよ……。でもあんたには、生きててほしいのさ……」
息も絶え絶えに、マチルダは言った。
実際、自分のやっていることは、無駄な抵抗なのかもしれない。
「抜刀斎! さっさとあの子らを探しに行きな!」
そんな声が背後で聞こえるくらいには、まだ『奴ら』との距離がある。
だが、マチルダは後ろを振り返るようなことをしなかった。ただただ、前だけ向いて走った。
精神力が枯渇した以上、もうこうやって逃げるしかない。原始的だが、最後まであがいてやると、マチルダは気合を入れていた。
「それより、あんた……」
「姉さん!」
「サモン・サーヴァント、やりなよ……」
「何言ってるの!?」
ティファニアは未だ困惑気味に叫んだ。しかし、マチルダは止まらない。
「そして、今度こそわたしの事なんか忘れて……、召喚したそいつと幸せに暮らすんだ。なあ、あんたはいっぱい辛い思いをしてきたんだ。これから楽しく遊んで暮らしたって……、罰は当たらないだろ?」
マチルダの声は、徐々に弱くなっていく。もう、体力が限界なようだった。
どうやらマチルダは死ぬ気らしい。それを察したティファニアは、涙を流して叫ぶ。
「忘れられるわけないじゃない! 姉さんのおかげで、今のわたしがあるのよ!!」
「『忘却』があるじゃないの、それでわたしの事なんかきれいさっぱり……」
「ふざけないで! そんなこと、嘘でも言わないで!!」
そんなやり取りの最中、二人に強烈な衝撃が走る。
抜粋其の五『エルフの思惑』
「まあ、何が言いたいかというとのう、よく聞け。若き騎士よ」
「……はい」
背を正し、次の統領の言葉を待った。
テュリュークは、遊びが一切ない視線と声で、こう告げた。
「人間を、決して侮るな」
「……っ!」
蛮人ではなく、あえて『人間』と言い直してまで送られる忠告。
「確かに彼らは、わしらと比べて技術や知識に大きく後れを取っておる。侮りたい気持ちはどこかにあるじゃろう。……故にこそ、彼らの国で揉まれることには大きな意味がある」
「何故です? 彼らから学ぶことがあると?」
「そうじゃ。そこできみがもし、わしの真意……『彼らと戦を恐れる理由』について、分かってもらえれば、きみは大いに成長するじゃろうて」
技術も魔法も、確かにエルフが大きなものがある。そうした自信や増長故に、人間を滅ぼしてしまえと宣うエルフは多い。そんな連中は、大体が鉄血団結党に入っているが。
だがこの統領は、その択はありえないとばかりに諫めてきた。だからこそ、主戦派が大きく喚いているのであるが。
「確かに今の彼らを、魔法を、技術を、恐れる理由はどこにもない。だがたまに出てくるのじゃ……。わしらエルフの技術も、精霊の力も、何者も畏れぬ本物の悪魔のような連中が……人間の中に……」
「それは虚無とは……」
「無関係、とはいわぬ。だが事実、わしは人間に殺されかけ、そして人間に救われたことがある」
「え!? 統領がですか!?」
ルクシャナもその言葉には目をぱちくりとさせた。見れば統領は…机についたひじから先が、若干震えている。
抜粋其の六『月夜に輝く
「ぐわぁ!?」
戦列艦船上。船内にて。
剣心は今、最後のメイジの杖をへし折っていたところであった。
持ち主の方は逆刃の一撃を受けて、白目をむいて倒れていく。
これで五隻目。これで船団真下からの急襲を受けることはなくなったはずだ。
「あとは風石蔵でござるな」
「あぁ……、そうだな」
デルフがゆるゆる鍔を鳴らして呻いた。どうやら剣心の無茶ぶりに相当ドン引きしているらしい。
「ったく、無茶しすぎだぜ本当に。乗ったこともねえ竜にまたがるしよぉ……」
「でも、これでこれ以上船団の被害は抑えられたでござるよ」
「何にしても……、もう紐無しバンジーは勘弁願いてぇもんだ。サーシャの奴だって、こんな馬鹿やらなかったぞ……」
それを聞いて、剣心は目を丸くした。
「サーシャ?」
それを聞いたデルフは、ハッとしたような様子で鍔を一際大きく鳴らした。
「サーシャ、おおサーシャ! 懐かしいなぁその名前! 大昔の相棒!」
「そのサーシャ……殿が? 昔のお主を使っていたのでござるか?」
「おうよ! エルフだったんだけどな。ブリミルの『ガンダールヴ』として、その背中を守ってたんだ。懐かしいなあ……」
しれっと爆弾発言を続けるデルフ。この世界の人間ではない剣心ですら、その言葉を聞いて少し唖然とした。
「ブリミルがエルフを使い魔にしていたってござるか? 拙者のように? でもエルフって……」
学院で、歴史の授業をルイズの隣で聞いていたことを思い出す。この世界でいう『エルフ』という種族は、高い能力を持ち何千年にもわたって『聖地』をめぐり争ってきた、不倶戴天の敵だと教えていたからだ。
勿論、その授業だけで『エルフは敵』という認識までは持っていない。実際に会うまでその考えは保留にしていた。
しかし、始祖とエルフがそんな密接な関係にあったということに、少し驚く。
「まあね。とにかく、サーシャとおりゃあ、いいコンビだった。二人して、散々暴れたもんだ。まっすぐな子だったなあ。ちょっと気が強くって、プライドが高くって、そんで泣き虫で……」
「……なんか、ルイズ殿のような御仁でござるな」
「おお! 言われてみりゃああの娘っ子に近かったな!!」
風石蔵まで歩きながら、剣心はデルフの思い出話に耳を傾けていた。
「色んな冒険をしたのでござるか?」
「それがよお、結構断片的なんだわ。つまらねえことは覚えているんだが、細かいところまでは靄みてぇのがかかってなあ。けど……」
それからデルフリンガーは、どことなく寂しそうな声で言った。
「ぼんやりと、だけどな……。とても悲しいことがあったのは覚えてる」
「……失敬、踏み込みすぎたでござるか?」
「いや、相棒が謝るこっちゃねえ。ああそうだ――――」
ここでデルフは、何か思い当たるような節でこう続けた。
抜粋其の七『アンリエッタの決断』
アカデミーは三十階もある魔法の塔だ。円形の塔の周りに部屋が配置され、部屋に包まれるようにして廊下が走る。
風石を使った昇降装置で最上階まで上がると、五芒星が描かれた鉄の扉が顔を出す。
左右に控えたガーゴイルの目が光り、エレオノールを暗く照らす。しばらくして、扉が開いた。
(相変わらず不気味ねこれ。何とかならないのかしら?)
そんなことを考えながら、アカデミーの評議会長室の玄関に立つ。更に進み玄関室に向かうと、室内で議会長秘書のミス・ヴァランタンが立っていた。
「お待ちしておりましたミス・ヴァリエール」
ヴァランタンは畏まった口調でエレオノールを歓迎する。
理知的で、冷たい感じのする瞳に気後れすることなく、つっけんどんな口調で言った。
「ゴンドラン卿が、わたしに用だとお聞きしましたわ」
「ええ、こちらへどうぞ」
事務的な対応で、左手の扉をさす。それと同時に、ガチャリと、鍵の開くような音が聞こえた。
エレオノールは臆することなく扉を開けた。
執務室の中は、様々な魔道具や美術品で溢れていた。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような部屋の真ん中で、背の高い老紳士が椅子から立ち上がった。
髪は銀色に光り、鼻の下には小さく刈り込まれたひげを蓄える。整ってはいるが、あまり覇気の感じられない顔立ちだ。それが、この老人の印象を、薄いものにしていた。
「やあやあミス・ヴァリエール。よくきてくれた」
アカデミー評議会議長、ゴンドラン卿は、そういってそそくさと椅子に座るよう勧める。
エレオノールは険しい顔を崩さず、足を組んで優雅に腰かけた。
「それで一体、今度は何を作らせようとしてますの?」
前に一度、そんなことがあったエレオノールは尖った口調で尋ねる。
あの時は予算や新しい魔法炉の提供云々で根負けし、渋々折れたが……、自分を何でも屋みたいに思われるのは当然我慢ならない。何を言われようと「NO」を突きつけるつもりであった。
一方、ゴンドラン卿は彼女の気迫に気圧される様に汗をかきつつも、きっぱりと告げた。
「で、でははっきりと言おうかね。エレオノール女史、きみには極秘でアルビオンに向かってほしいのだよ」