るろうに使い魔‐ハルケギニア剣客浪漫譚‐   作:お団子

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Season3 ~アルビオン動乱編~
予告『アルビオン動乱編』&一部本編先行公開


 

 それは、新たな戦いの始まり。

 

 

「今夜零時、サウスゴータは炎に包まれる」

 

 

 白の国(アルビオン)にて、再び動乱が巻き起こる。

 

 

「『祭り』は派手な方が、より楽しい。そうだろ?」

✘――志々雄真実

 

 

 潰えた王権。空の大陸アルビオン。

 戦火の中で折れた杖の上に立つのは、業炎を操る悪鬼。志々雄真実。

 

 

 悪鬼の横暴に腹を据えかねた連合軍たちが、空の国へと攻め込んでいく――――。

 攻めるは、水の国トリステインと皇国ゲルマニア。

 

 ある者は名誉のため、ある者は私怨のため、またある者は悪の進撃を止めるため。

 浮遊大陸で、再び戦乱が巻き起こる――――。

 

 

「これはわたくしが起こした戦なのですよ。わたくし自身がきちんと最後を見届けずして、何とするのですか」

✘――アンリエッタ・ド・トリステイン

 

 

 戦の中で、少年少女は見えない何かを掴み始めていく。

 それは確かな成長の証――――。

 

 

「困っている女の子を助けるのに、理由はいらない。そうだろう!?」

✘――――『青銅』ギーシュ・ド・グラモン

 

「ミス・エレオノール、ここいらでエルフを見かけませんでしたか?」

「……っ、くそぉ。強くなりてぇ……」

「まあ任せなお姉さま。こっちには最終兵器がある」

✘――――水精霊騎士隊(オンディーヌ)の面々

 

 

 それぞれの思いを胸に、進撃を続ける青の種子たち。

 これに対抗するは、志々雄がこの地(ハルケギニア)に来て新たに携えた、(いびつ)(まがつ)な杖たち。

 

 

 

十 本 杖(じゅっぽんじょう)

 

 

 

「は――――っはははは! やりましたぞシシオ様! 遂に! 私も修羅の道へと至りましたぞ!!」

✘――『かりそめの皇帝』オリヴァー・クロムウェル

 

 

「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ♪」

✘――???

 

 

「必ず、その火をオレのものとしてやる」

✘――『白炎』メンヌヴィル

 

 

「そう、では我々は手筈通りに動きましょうか。シシオ様なら何の問題もないでしょうけど」

✘――????

 

 

臨時収入(ボーナス)でも、狙ってみようかな。いる(・・)みたいだし」

✘――『元素の兄弟・長兄』ダミアン

 

 

「さあ観念しろルイズ! 今度こそきみをこの手で貫いてやろう!」

✘――『閃光』ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド

 

 

 そして空の大陸で蠢くのは、この二勢力だけではない。

 戦の裏で暗躍する、影の刺客たちもまた、それぞれの野望・信念を胸に、静かに動き出す。

 

 

 一つは、交差した二本の杖。魔法大国として名を馳せるガリア王国

 

 

「かの飛天御剣流でも、時間と空間は飛び越せまいか」

✘――『無能王』ジョゼフ一世

 

 

「もう二度と、あんな……ッ! 無様を晒してなるものか……ッ!!」

✘――『神の頭脳(ミョズニルニトン)』シェフィールド

 

 

 一つは、始祖の遺志を何よりの拠り所とする『狂信』の国。

 宗教庁を頂くブリミル教の頂点。ロマリア皇国

 

 

「今はぼくが『ヴィンダールヴ』だ! 虚無の使い魔の実力をきちんと見ててくれよ!」

✘――『神の右手(ヴィンダールヴ)』ジュリオ・チェザーレ

 

 

 一つは、遥か東で密かに暮らす、ハルケギニア最強の種族。

 砂漠(ネフテス)を中心に活動する亜人の集団。エルフ

 

 

「人間を、決して侮るな」

✘――『エルフ統領』テュリューク

 

 

「……その力、やはり『悪魔』由来か」

✘――『エルフ騎士(ファーリス)』アリィー

 

 

「蛮人がエルフ(わたしたち)を恐れてるってのは聞いてたけどさあ。別に何もしてないじゃん。何を怖がってるのかしらねぇ」

✘――『学者エルフ』ルクシャナ

 

 

 かくして白の大陸に、役者は集う。

 様々な情理をその身に抱いて。

 

 

「待ってなさいよちびルイズ。あんたは絶対に連れ戻してやるんだから!」

✘――エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール

 

 

「ここから先、貴殿を故郷の敵と思って……、打ち込んでもいいか?」

✘――アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン

 

 

「ケンシンさんのことが好きっていう。その気持ちだけは本当なのでしょう!」

✘――シエスタ

 

 

 戦を、使い魔を通じて、主人もまた成長していく。

 

 

「わたし、ケンシンと一緒に戦いたい。この戦争、あんたの宿敵との因縁もあるんでしょう? わたしはあんたの主人なんだから、そんな因縁をきちんと払ってあげるのも、役目だと思っているの」

「だからわたし。頑張る。頑張ってみる」

✘――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

 

 

 そんな中、少女は垣間見る。使い魔の記憶。

『十字傷』の原点。もう一本の傷に隠された、秘密。

 

 

『あなたは本当に、血の雨を降らすのですね』

 

 

「あなたは、一体……?」

 

 

 そんな中、遂に自覚する。少女の確かな恋心。

 しかしそれは、無情にもほろ苦い想いへと、徐々に移ろいでいく……。

 

 

 

 

 

わたしだってケンシンのこと、好きなのに!!

 

 

 

 

 

 戦の中で徐々に振り返っていく、六千年の記録――――。

 

 

「……ブリミルが、エルフを使い魔にしていたってござるか? 拙者のように?」

「まあね。とにかく、サーシャとおりゃあ、いいコンビだった。二人して、散々暴れたもんだ」

✘――緋村剣心&デルフリンガー

 

 

「もう逃げるのは止めにするわ。ケンシンに、ちゃんと伝える。わたしの想い」

✘――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

 

 

「お前ら全員、俺の傘下に入れ。そうしたら命だけは見逃してやってもいいぞ」

✘――志々雄真実

 

 

「どんなことを言われようと、どんなに下に見られようと、わたくしは絶対、屈しない。お前なんかに!!」

✘――アンリエッタ・ド・トリステイン

 

 

 戦争は徐々に激化していく。

 それについていけない者たちは、ただ、悲痛な涙をこぼして慟哭する。

 

 

「いやああああああああああああ! ケンシンさああああああああああああん!!」

✘――シエスタ

 

「嘘だ、なあぁっ……、嘘だといってくれよおおおおおおおおおおおお!!」

✘――ギーシュ・ド・グラモン

 

 

 慟哭は、思いは、やがて大きな進路をも作り出す。

 それが意味するものとは――。

 

 

「お願いだよ。あの子を助けてやって……。この世界は、あの子にどこまでも優しくできていないんだ」

✘――『土くれ』マチルダ・オブ・サウスゴータ

 

 

 激動巡る中、遂に相対する。かつての宿敵。

 一方は『逆刃』、一方は『無限』。京都で交わった二つの剣がまた、交わる――。

 

 

「こいつが、俺が異世界(ここ)へ来て積み重ねてきた『弱肉強食』。その、集大成だ」

✘――『蒼の焔を操りし悪鬼』志々雄真実

 

 

「いくぞ志々雄真実!!」

✘――『流浪人・神の左手(ガンダールヴ)』緋村剣心

 

 

るろうに使い魔

-ハルケギニア剣客浪漫譚-

 

 

「サウスゴータは燃えているか」

 

 

アルビオン動乱編

 

開 幕

 

 

 

 

「あなたとは『使い魔』とかじゃなくって、『お友達』になりたいの」

✘――とあるエルフの少女

 


 

 この度は「るろうに使い魔」を読んで頂き、誠にありがとうございます。

 作者のお団子です。

 

 今年もあと僅かとなりました。今年の正月から投稿を再開し、何とかここまで進めることができました。

 ここまで読んで頂いた方々には、感謝してもしきれません。

 

 この場で改めて、お礼を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

 

 さて、来年から「アルビオン動乱編」となります。

 こんなに多数の人物を一気に出して大丈夫なのか? という疑問もあるかと思いますが、アルビオン編自体はもう、実は全て書き上がっております。 

 後は細かな齟齬や誤字脱字を直す作業くらいです。

 

 なのでちょっとした予告編などを作ってみた次第です。

 上記のセリフも、全部これから投稿する本編からの抜き出しなので、嘘予告では決してありません。

 どのような状況でこのやりとりがおこなわれているのか、楽しみにして頂ければと思います(予告編では色々遊びましたが、本編自体は従来通りの形式で進めます)。

 

 本年はこの予告編をもって、最後の投稿とさせて頂きます。

 以下、本編の一部抜粋となります。今後も、何とか一週間投稿で続けていければと思います(投稿が遅れそうな場合は連絡いたします)。

 それでは、来年もよろしくお願いいたします。

 よいお年を。

 


 

抜粋其の一『ギーシュの闘い』

 

「それでは諸君! 決闘を始めるぞ!!」

 太陽が地平線に傾きかけている中、水精霊騎士専用の陣中で、ギーシュとド・ロレーヌは向き合っていた。

 その周囲を、学生たちがぐるりととり囲んでいる。隊長の座を懸けた決闘だ。俄然観戦にも熱がこもった。

「平民かぶれのギーシュに負けんなよ! ド・ロレーヌ!!」

「ラインの意地を見せてやれ!!」

 ド・ロレーヌ派の学生がヤジを飛ばす。彼らは剣ばかり鍛えるギーシュのことを、「平民に被れた」とバカにしているのだ。

「おうギーシュ! 生意気なド・ロレーヌの奴なんかぶっ飛ばしてやれ!」

 一方で、彼の事を応援する者もいた。日頃修行せず自慢話ばかりしてくるド・ロレーヌを鬱陶しがっている者もいたからだ。その中には当然、マリコルヌたちも入っている。

「負けそうになったら代わってやるぞギーシュ!」

 豪快なギムリも叫ぶ。実際本気でそう考えているのだろう。

 だがギーシュは冷静に返す。

「心配しなくても、負けやしないさ」

 そして木剣を握る手に力をこめる。

 しかし、内心では少し怯えていた。相手はラインクラス。自分よりも優秀な『風』を操る名門だ。

 昔だったら、多分彼に挑もうとは思わなかったろう。

 

(だが、今は違う)

 

 あの時……、ヴェストリの広場で、剣心と決闘したことを思い出す。

 七体のワルキューレを赤子のようにあしらい、杖を奪って負けを認めるよう迫ってくる。あの峻烈な表情は、今の状況よりも数倍怖かった。

 あれを真正面から見ているからこそ、次のさらなる無謀な行動にも、自然と移せたのだろう。

「では早速始めようか。杖を抜きたまえ」

 厭味ったらしい顔で、ド・ロレーヌは杖を使って礼をする。決闘に慣れた所作だ。

 これは貴族の決闘。相手の杖を吹き飛ばした方の勝ちである。昨今の情勢では、よりスマートに杖を飛ばした方が洗練されているとまで言われていた。

 だが、これに対しギーシュは、杖を懐にしまい、木剣を前に突き付けた。

「ぼくは今これを鍛えている。だから、この決闘でも杖ではなく、剣でお相手仕る」

「なんだそれは? ぼくを馬鹿にしているのか?」

 杖でも負けるとは微塵も思ってないからこそ、今のギーシュの対応は凄く癪に障ったのだろう。

 しかし、ギーシュも譲らない。

「そう思うのならかかってきたまえ。きみは杖、ぼくは剣を飛ばされたら負け。それでいいじゃないか」

「後悔するなよ。その言葉」

 ド・ロレーヌから笑みが消えた。そして思い切り風の魔法をギーシュに向かって放った。

 


 

抜粋其の二『ガリア、動く』

 

「先ほどからしているその移動術、それは『虚無』の魔法『加速』という技ではござらぬか?」

「ほう、流石は『ガンダールヴ』。当に気付いておったか」

 杖を指先で弄びながら、悪戯好きの小僧の様な笑みを浮かべるジョゼフ。

「最初に会得したのがこの技でな。全く始祖はおれに何をさせようというのか……、まるで『急げ』とせかされているように感じるよ」

 そして、改めて剣心の顔をまじまじと見つめた。

「お前、年は幾つだ?」

「二十九でござる」

「……結構いっているのだな。二十歳少しくらいかと思っていたが…」

 当てが外れて、真っ当に困惑するジョゼフ。

「眩しいぐらいに、まっすぐな目をしているじゃないか。まったく顔は違うが、どことなくシャルルに似ているな」

「やはり、シャルル殿でござるか」

 この男にとって、弟の存在はかなり大きなものだろう。

「おれにもお前のような頃があったよ。己の中の正義が、すべてを解決してくれると思っていた頃が……。大人になれば、心の中の卑しい劣等感は消えると思っていた。分別、理性……、なんだろう? そういったものが解決してくれると、信じていた」

 そう言いながら、ジョゼフはすっと短剣を取り出す。剣心の周囲を歩きながら、滔々と語りだす。

「だが、それはまったくの幻想に過ぎなかった。年を取れば取るほどに、澱のように沈殿していくのだ。自分の手でつみとってしまった解決の手段が、いつまでも夢に出てき て、おれの心を虚無に染め上げていくのだ。迷宮だな。まるで。そしてその出口はないと、おれは知っているのに」

 そして、剣心の背中へとやってきた。一方の剣心は、静として動かず。むしろゆっくりと目をつむった。

「こんな技を、いくら使えたからと言って、何の足しにもならぬ」

 


 

抜粋其の三『サウスゴータは燃えているか』

 

「よう」

 志々雄真実はそれだけ言うと、優雅に上座へと腰かけた。『和平』を請う立場なのに、さも当然といった対応で。

 アルブレヒト三世は、この男に対しただ唖然とした表情を浮かべていた。やがて……、苦虫をかみつぶした表情へと変わる。

 その様を見て無理もない、とアンリエッタは思っていた。自分だって前情報なしに彼の姿を見たら、その気迫に呑まれてしまっていたことだろう。

「何だその姿、仮装パーティーから抜け出してきたのか? 新皇帝殿? まあ、つかみとしては満点だがな」

 一方のジョゼフは笑いながらそんなことを平然と言う。何処から本気でどこから冗談なのか、その表情からは推察できない。

「ここは和平……、ああ、お前らアルビオンの命乞いを聞く場だぞ。お前たちの態度次第で、おれたちの大砲はいかようにも火を噴くのだからなぁ」

 なあアンリエッタ殿? と、ジョゼフはにこやかに問いかける。アンリエッタは「えっええ……」とどもりながらも、冷静になって志々雄を見た。

 そうだ、自分には剣心がいる。いざという時には、彼が助けに来てくれるはず。

 

(ウェールズさま。わたしに力を……!)

 

 テーブルの影、膝の上に置いた手で『風のルビー』を触りながら、アンリエッタは顔を上げた。

「ではアルビオン新皇帝、シシオ・マコト殿。どのような形での和平をお望みか、ここで申しなさい」

 どんな策を出されようとも、対抗する準備は整っている。少なくとも呑まれるようなことだけは絶対避けなくては。

 毅然とした表情で、アンリエッタは問うた。

 対する志々雄は、じろりと一瞬、アンリエッタの方に目をやる。志々雄の表情を見た瞬間、またアンリエッタの中でぞわりとした恐怖が芽生え始める。

 

 瞳の奥に燃える野心。それを隠そうともしない表情。弱い奴は死んで当然と言う笑み。

 

 弱肉強食。その理念を教え込むかのような雰囲気。その四文字熟語に…自分の恋人は巻き込まれその身を焼かれてしまった。

 いや、下手を打てば自分もまた、その後を追う羽目になるのかもしれない。本当に、細心の注意をもってかからねば……。

 そんな風に考えていた時だ。

「じゃあ、端的に言うぜお姫さま」

 志々雄はニヤリとした口元を浮かべ、そして悠然と言い放った。

「お前ら全員、俺の傘下に入れ。そうしたら命だけは見逃してやってもいいぞ」

 


 

抜粋其の四『ティファニア争奪戦』

 

「……あっ」

 ここで、ティファニアは目が覚めた。

 自分は今、誰かに背負われているようだ。

「マチルダ、姉さん……?」

「あぁ……、やっと目が覚めたかい?」

 どうやら彼女に背負われていたようだ。ティファニアは、笑うマチルダの後頭部に視線を映した。

「とにかく、あんただけでも逃がさなきゃ。ミスタさえ来れば、何とかなるんだけど……」

「あれ、あの子はどうしたの?」

 ティファニアはここで、ギーシュがいないことに気付く。自分の胸をいやらしい目で見てくるため、苦手意識はあるのだが……いないといないで気になってしまう。

「分かってる。わたしもアイツを助けに行きたいけど、今は一刻を争うんだ。とにかくあんたはすぐに逃げな」

「なんで!? マチルダ姉さん!!? 何でそこまでわたしを……」

 そこまで言った時、気付いた。

 マチルダは今、体中から血を流している。そんな様子なのに、自分を背負って、あろうことか走っているのであった。

「嘘!? 待って、どうしたのその怪我!?」

「ドジっちゃっただけさ。はは……、大丈夫大丈夫。人間にはたくさん血が流れているんだ。ちょっとぐらい零れたって……」

「そんな怪我じゃないじゃないの!」

 ティファニアは暴れた。降りて『治療』しようと思ったからだ。しかし、マチルダは歯を食いしばってそれを抑える。

「やめて、降ろして! 死んじゃうよ!? ねえ姉さん!」

「分かってるよ……。でもあんたには、生きててほしいのさ……」

 息も絶え絶えに、マチルダは言った。

 実際、自分のやっていることは、無駄な抵抗なのかもしれない。

 

「抜刀斎! さっさとあの子らを探しに行きな!」

 

 そんな声が背後で聞こえるくらいには、まだ『奴ら』との距離がある。

 だが、マチルダは後ろを振り返るようなことをしなかった。ただただ、前だけ向いて走った。

 精神力が枯渇した以上、もうこうやって逃げるしかない。原始的だが、最後まであがいてやると、マチルダは気合を入れていた。

「それより、あんた……」

「姉さん!」

「サモン・サーヴァント、やりなよ……」

「何言ってるの!?」

 ティファニアは未だ困惑気味に叫んだ。しかし、マチルダは止まらない。

「そして、今度こそわたしの事なんか忘れて……、召喚したそいつと幸せに暮らすんだ。なあ、あんたはいっぱい辛い思いをしてきたんだ。これから楽しく遊んで暮らしたって……、罰は当たらないだろ?」

 マチルダの声は、徐々に弱くなっていく。もう、体力が限界なようだった。

 どうやらマチルダは死ぬ気らしい。それを察したティファニアは、涙を流して叫ぶ。

「忘れられるわけないじゃない! 姉さんのおかげで、今のわたしがあるのよ!!」

「『忘却』があるじゃないの、それでわたしの事なんかきれいさっぱり……」

「ふざけないで! そんなこと、嘘でも言わないで!!」

 そんなやり取りの最中、二人に強烈な衝撃が走る。

 


 

抜粋其の五『エルフの思惑』

 

「まあ、何が言いたいかというとのう、よく聞け。若き騎士よ」

「……はい」

 背を正し、次の統領の言葉を待った。

 テュリュークは、遊びが一切ない視線と声で、こう告げた。

 

 

「人間を、決して侮るな」

 

 

「……っ!」

 蛮人ではなく、あえて『人間』と言い直してまで送られる忠告。

「確かに彼らは、わしらと比べて技術や知識に大きく後れを取っておる。侮りたい気持ちはどこかにあるじゃろう。……故にこそ、彼らの国で揉まれることには大きな意味がある」

「何故です? 彼らから学ぶことがあると?」

「そうじゃ。そこできみがもし、わしの真意……『彼らと戦を恐れる理由』について、分かってもらえれば、きみは大いに成長するじゃろうて」

 技術も魔法も、確かにエルフが大きなものがある。そうした自信や増長故に、人間を滅ぼしてしまえと宣うエルフは多い。そんな連中は、大体が鉄血団結党に入っているが。

 だがこの統領は、その択はありえないとばかりに諫めてきた。だからこそ、主戦派が大きく喚いているのであるが。

「確かに今の彼らを、魔法を、技術を、恐れる理由はどこにもない。だがたまに出てくるのじゃ……。わしらエルフの技術も、精霊の力も、何者も畏れぬ本物の悪魔のような連中が……人間の中に……」

「それは虚無とは……」

「無関係、とはいわぬ。だが事実、わしは人間に殺されかけ、そして人間に救われたことがある」

「え!? 統領がですか!?」

 ルクシャナもその言葉には目をぱちくりとさせた。見れば統領は…机についたひじから先が、若干震えている。

 


 

抜粋其の六『月夜に輝くMIRAGE(ミラージュ)

 

「ぐわぁ!?」

 戦列艦船上。船内にて。

 剣心は今、最後のメイジの杖をへし折っていたところであった。

 持ち主の方は逆刃の一撃を受けて、白目をむいて倒れていく。

 これで五隻目。これで船団真下からの急襲を受けることはなくなったはずだ。

「あとは風石蔵でござるな」

「あぁ……、そうだな」

 デルフがゆるゆる鍔を鳴らして呻いた。どうやら剣心の無茶ぶりに相当ドン引きしているらしい。

「ったく、無茶しすぎだぜ本当に。乗ったこともねえ竜にまたがるしよぉ……」

「でも、これでこれ以上船団の被害は抑えられたでござるよ」

「何にしても……、もう紐無しバンジーは勘弁願いてぇもんだ。サーシャの奴だって、こんな馬鹿やらなかったぞ……」

 それを聞いて、剣心は目を丸くした。

 

「サーシャ?」

 

 それを聞いたデルフは、ハッとしたような様子で鍔を一際大きく鳴らした。

「サーシャ、おおサーシャ! 懐かしいなぁその名前! 大昔の相棒!」

「そのサーシャ……殿が? 昔のお主を使っていたのでござるか?」

「おうよ! エルフだったんだけどな。ブリミルの『ガンダールヴ』として、その背中を守ってたんだ。懐かしいなあ……」

 しれっと爆弾発言を続けるデルフ。この世界の人間ではない剣心ですら、その言葉を聞いて少し唖然とした。

「ブリミルがエルフを使い魔にしていたってござるか? 拙者のように? でもエルフって……」

 学院で、歴史の授業をルイズの隣で聞いていたことを思い出す。この世界でいう『エルフ』という種族は、高い能力を持ち何千年にもわたって『聖地』をめぐり争ってきた、不倶戴天の敵だと教えていたからだ。

 勿論、その授業だけで『エルフは敵』という認識までは持っていない。実際に会うまでその考えは保留にしていた。

 しかし、始祖とエルフがそんな密接な関係にあったということに、少し驚く。

「まあね。とにかく、サーシャとおりゃあ、いいコンビだった。二人して、散々暴れたもんだ。まっすぐな子だったなあ。ちょっと気が強くって、プライドが高くって、そんで泣き虫で……」

「……なんか、ルイズ殿のような御仁でござるな」

「おお! 言われてみりゃああの娘っ子に近かったな!!」

 風石蔵まで歩きながら、剣心はデルフの思い出話に耳を傾けていた。

「色んな冒険をしたのでござるか?」

「それがよお、結構断片的なんだわ。つまらねえことは覚えているんだが、細かいところまでは靄みてぇのがかかってなあ。けど……」

 それからデルフリンガーは、どことなく寂しそうな声で言った。

 

「ぼんやりと、だけどな……。とても悲しいことがあったのは覚えてる」

 

「……失敬、踏み込みすぎたでござるか?」

「いや、相棒が謝るこっちゃねえ。ああそうだ――――」

 ここでデルフは、何か思い当たるような節でこう続けた。

 


 

抜粋其の七『アンリエッタの決断』

 

 アカデミーは三十階もある魔法の塔だ。円形の塔の周りに部屋が配置され、部屋に包まれるようにして廊下が走る。

 風石を使った昇降装置で最上階まで上がると、五芒星が描かれた鉄の扉が顔を出す。

左右に控えたガーゴイルの目が光り、エレオノールを暗く照らす。しばらくして、扉が開いた。

(相変わらず不気味ねこれ。何とかならないのかしら?)

 そんなことを考えながら、アカデミーの評議会長室の玄関に立つ。更に進み玄関室に向かうと、室内で議会長秘書のミス・ヴァランタンが立っていた。

「お待ちしておりましたミス・ヴァリエール」

 ヴァランタンは畏まった口調でエレオノールを歓迎する。

 理知的で、冷たい感じのする瞳に気後れすることなく、つっけんどんな口調で言った。

「ゴンドラン卿が、わたしに用だとお聞きしましたわ」

「ええ、こちらへどうぞ」

 事務的な対応で、左手の扉をさす。それと同時に、ガチャリと、鍵の開くような音が聞こえた。

 エレオノールは臆することなく扉を開けた。

 執務室の中は、様々な魔道具や美術品で溢れていた。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような部屋の真ん中で、背の高い老紳士が椅子から立ち上がった。

 髪は銀色に光り、鼻の下には小さく刈り込まれたひげを蓄える。整ってはいるが、あまり覇気の感じられない顔立ちだ。それが、この老人の印象を、薄いものにしていた。

「やあやあミス・ヴァリエール。よくきてくれた」

 アカデミー評議会議長、ゴンドラン卿は、そういってそそくさと椅子に座るよう勧める。

 エレオノールは険しい顔を崩さず、足を組んで優雅に腰かけた。

「それで一体、今度は何を作らせようとしてますの?」

 前に一度、そんなことがあったエレオノールは尖った口調で尋ねる。

 あの時は予算や新しい魔法炉の提供云々で根負けし、渋々折れたが……、自分を何でも屋みたいに思われるのは当然我慢ならない。何を言われようと「NO」を突きつけるつもりであった。

 一方、ゴンドラン卿は彼女の気迫に気圧される様に汗をかきつつも、きっぱりと告げた。

 

「で、でははっきりと言おうかね。エレオノール女史、きみには極秘でアルビオンに向かってほしいのだよ」

 


 

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