紅茶のおかわりはいかがですか?(GJ部二次創作に移行しました) 作:橘田 露草
くーさんこと露草です。
追試のレポートがやっと終わりました~。
さて、結果はどうなることやら(笑)
そんな感じでどうぞ!(^◇^)
夏のある日の夕方。
仔犬は自宅から少し離れた駅にいた。
ここである人を待っているのだが。
「あっ、あれかな?」
駅のロータリーに、どう見ても高級車としか思えない車が入ってきた。
仔犬の目の前で車は止まった。
運転手から出てきた初老の男性が後部座席を開けると、仔犬を呼び出した張本人が出てきた。
「御籤さん。」
「すまない、少し遅れてしまったね。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
すまなそうに言う御籤だが、ほんの1、2分なのでまったく気にしていない。
「では、御籤様。私はこれで。」
「ああ、ありがとう。」
運転手さんは御籤と仔犬に一礼し、車に乗って行ってしまった。
「ところで一体なんの用だった……って聞くまでもなさそうですねー。」
御籤は浴衣姿だった。
彼女の髪と同じ藍色の落ち着いた浴衣がよく似合っている。
今になって気づいたが、いつもはストレートにしている長い髪を頭の上で巻いている。
それだけなのにまるで別人のようだ。
「近くでお祭りがあるみたいでね。よかったらワンコくんに付き合ってもらえたらと思って。」
「ああ、そういうことだったんですか。もちろん構いませんよ。」
「ふふっ、ありがとう。」
いつもとは違う可憐な笑顔に思わずドキッとしてしまう。
「で、でもそういうことなら僕も浴衣を着てくればよかったですねー。」
御籤が呼び出した理由が内緒だったので普通の服で来てしまった。
「ふふっ、まあそれは次回の楽しみにしておこう。」
「あはは、そんなカッコいいもんじゃないと思いますけどね。」
「それとも……私の浴衣を貸そうかな?」
「それは絶対やめてください。」
いらずらっぽく笑う御籤に苦笑を返す。
悲しいかな、仔犬と御籤は身長がほとんど変わらないので間違いなく着れてしまうだろうが。
「さて、そろそろ行こう。」
「あっ、はい。」
駅の周りにはお祭りに行くのか、ちらほらと浴衣姿の人がいる。
少し早目に行かないとかなり混雑しそうだ。
「ん、ワンコくん。」
御籤が手を差し出してくる。
一瞬戸惑うも、意味がわかり苦笑する。
「……それは男の役目のような気がしますけど。」
差し出された手を握る。
少し照れたようにお互いの顔を見た後、2人は祭り会場の神社に歩き始めた。
駅から数分、祭り会場の神社に着いた。
まだ夕方だからか人はそこまでではない。
仔犬たちは並んで花火の見えるところまで歩く。
「花火は7時からみたいだね。」
入り口で配っていたパンフレットを読みながら御籤が言う。
「後、1時間ちょっとですかねー。屋台でも回ります?」
御籤にそう言うが、答えが返ってこない。
「御籤さん?」
振り返ってみると、1つの屋台の前で御籤が足を止めていた。
「御籤さん、どうしたんですか?」
「……ワンコくん、これは何だろうか?」
「へ?これって……綿あめのですか?」
御籤の目線の先を見てみると、わたがしの屋台があった。
屋台の周りには、綿菓子の入ったビニールの袋が並べられている。
子供向けのお菓子だからか、プリントされているアニメの絵柄は日曜日の朝やっているようなものばかりだ。
「もしかして……綿あめ食べたことないんですか?」
「う、うむ。本では読んだことあるから存在は知っていたが。」
「存在って。」
言い訳するように言う御籤に苦笑する仔犬。
「……食べたいですか?」
そう仔犬が聞くと、ちぎれるのではないかというくらい首を縦に振る。
仔犬は御籤と手を繋ぎながら屋台に近づく。
並んでいる人もまだいないので、すぐに注文する。
「おじさん綿あめ1つください。」
「おうっ!まいどあり!」
そう答えた屋台のおじさんがざらめを機械の真ん中の穴に入れる。
チラッと御籤を見ると、ドキドキと機会を見つめている。
すると、機械から溶けて綿状になった飴が出てきた。
「うわっ!わ、ワンコ君なんか出てきたっ!」
驚いて声を上げる御籤。
「綿あめはこの綿を割り箸でくるくるってするんですよー。」
「ほぉ……。」
楽しそうに綿菓子ができる様子を見つめる御籤。
やがて、できた綿菓子をおじさんが渡してくれる。
「はい、200円。美人さんだから少し多めにしておいたぞ。」
「ありがとうございます。はい、御籤さん。」
受け取った綿菓子を御籤に渡す。
近くでそれを見た御籤は、目を輝かしていた。
「あ、お金……。」
「せっかくですからおごらせてくださいよ。それより食べてくださいー。」
「……あ、ありがとう。じゃあ、いただきます。」
そう言って御籤は綿菓子にかぶりつく。
その瞬間、目を見開いた。
「こ、これは!優しい甘さとこのふわふわ感。風羽くんのお菓子とは違うおいしさだ!」
「そ、そこまでですか……?」
ものすごく大絶賛する御籤にちょっと引く仔犬。
普段はゆっくりと食べる御籤が1分ほどで食べてしまう。
「おいしかったですか?」
「うむ、本だけではわからないこともあるんだね。」
その勢いのまま、仔犬と御籤は色々な屋台を回った。
たこ焼き、お好み焼き、人形焼……そのどれも御籤は目を輝かせていた。
そして、お腹がいっぱいになった2人は、花火の時間が迫ってるのもあり会場から少し離れた高台に移動した。
会場から離れているからか、人はまばらだ。
夏の夜の涼しさと無言の2人。
いつもなら気まずくなってしまうような場面でも、今回はなぜか落ち着けた。
「……軽蔑したかな?」
不意に御籤が呟いた。
何のことかわからず、仔犬は首を傾げてしまう。
それに気づいたのか、苦笑しながら御籤が言葉を続ける。
「知識はあっても体験はしたことがない。普通の人なら必ず経験したことがあることなのにね。」
そう言われてやっとわかった。
御籤は、自分が知識だけの無知であることを気にしているのだ。
たこ焼きもお好み焼きも、お祭りも普通の人なら体験したことがあるはずなのに。
「……楽しくなかったですか?」
「ううん、違うよ。すごく楽しかった。だからこそ、自分の無知が恥ずかしい。」
自嘲するように笑う。
「私は何も知らないんだ。」
その姿がなぜか嫌で。
そんな顔をしている御籤が嫌で。
仔犬は思わず口を開いていた。
「……一緒に知りましょうよ。」
「……え?」
御籤の目をまっすぐ見つめる。
「知らないことは知ればいいんです。体験すればいいんです。その時には、僕がずっと一緒にいますから。」
驚いたような顔をする御籤。
御籤の事情はほとんど知らない。
でも、一緒にいたら。
一緒にいるからこそ、御籤の世界が広げられるのではないか。
「相変わらず……キミは優しいね。」
目の端に涙を浮かべた御籤が笑う。
「ワンコくん。」
不意に御籤が真剣な目で仔犬を見る。
「私は……。」
少しためらうように御籤が口を開く。
「私はキミのことが……。」
パーン!!
大きな音とともに空に大輪が咲いた。
御籤の声はそれにかき消されてしまう。
「すいません御籤さん。今なんて言いました?」
仔犬が御籤を見ると、なぜか笑いを堪えるように御籤が震えていた。
「くっ、くくくっ!あはははははっ!」
「み、御籤さん?」
「そう簡単に神様は助けてくれない……か。ふふっ、仕方ない。しばらくはこの関係を楽しむとするかな。」
御籤が言っている意味はわからないが、何やら吹っ切れたようだ。
「きれいだね、ワンコくん。」
「ええ。きれいですね、御籤さん。」
「もう大丈夫」。
そう伝えるかのように御籤は、つながれた手を強く握った。