「吹雪ちゃん、睦月ちゃん、おはようっぽい~」
早朝の学生寮。すがすがしい早朝に、女の子の声が聞こえる。
「ううん…夕立ちゃん」
この子は吹雪ちゃん。どこにでもいる普通の女子学生。決して芋ねえちゃんではない。
「おはよう、夕立ちゃん」
この子は睦月ちゃん。3人で同じ部屋に寝泊りしている。
「今日はおでかけっぽい~!」
ぽいぽい言ってるのは、夕立という女の子である。
「ええと、確か、新艦船、が来るんだっけ?」
やや寝ぼけ気味の吹雪。
「ちがうよ吹雪ちゃん、新幹線よ。」
睦月が答える。
「北陸新幹線に乗るっぽい!」
実はこの日は、鎮守府メンバー、略してチンメンが、石川へ出張する日であった。
ラボメンなら響きは良いが、チンメンとは響きが悪い。
チンシュメンとした方が良いかもしれない。
チャーシューメンがなまったような響きである。
長門秘書官がチンメンを集める。
「ゴホン。では、これより石川へ出張に出かける。石川産あんころもちを調達し、
鎮守府の物資の拡充を行う。
念のために言っておくが、これは修学旅行ではない。
大事な事なので、もう1回言っておくが…」
「ひゃっほーい!」
テンションマックスなチャーシューメン達。
「おまえら…」
頭を抱える長門。
なんだかんだあって、東京駅に到着。
「睦月ちゃん、おみやげ売ってる!これいいな… 買ってこうよ!」
吹雪が目をきらきらさせて言う。
「石川への出張なんだし、石川で買った方がいいと思うよ…」
苦笑いしながら返事する睦月。
「夕立はぽいぽい焼が食べたいっぽい」
…謎の食べ物である。
駅のホームに立つ、一同。
そこに、轟音とともに列車が入ってくる。
ゴゴゴゴゴ キーッ、キッ!
目の前に停車した流線型の車両。
「これが新幹線…!」息を飲む吹雪。
「大きい座薬っぽい!」驚く夕立。
新幹線をじっと見る長門。
「この車両、ぜひ我が鎮守府にも欲しいものだ。
時速200km以上で走行する艦娘、しかも抜群の輸送能力だ」
陸奥もうんうんとうなづく。
「全車両に爆弾詰め込んで体当たりさせれば、物凄い爆発力出せそうね」
「いや陸奥… 購入していきなり自爆は無いだろう…。それはともかく。
よーし、みんな全員いるな。じゃあ乗るぞ」
長門が合図する。
チンメン達がぞろぞろと車内に入り、それぞれ指定席に着席する。
「くーっ、座り心地、最高デース!」
大喜びする金剛。
「車内販売が楽しみね。カレーライスは売ってるのかしら」
赤城は相変わらず食欲旺盛のようである。
そして新幹線が動きだす。
「すごい静か…。まるで滑っているみたい」
驚く吹雪。
「おならしたら聞こえるっぽい!」
残念そうな顔をする夕立。
どんどん加速していく新幹線。
窓の外をかじりついて見ている夕立。
「景色がびゅんびゅん飛んでいくっぽい!」
もじもじしている吹雪。
「ん?どうしたの吹雪ちゃん?」
睦月が声をかける。
「その、トイレに行きたくて…てへへ」
席から夕立が立ち上がる。
「夕立もトイレに行くっぽい!」
「へーいブッキー、オシッコ行くですか~私も行くネー!」
金剛も立ち上がる。
「じゃあ、私も。膀胱が轟沈なんて、恥ずかしいし」
睦月も席を立つ。
ぞろぞろとトイレに向かう4人。
廊下を歩くと、両脇にトイレが見えてくる。
「これが…車内トイレ」
驚く吹雪。
「じゃあ、まずはブッキーから行ってくるネー!絞り出してくるネー!」
金剛が吹雪の肩をぽんと叩く。
「じゃ、じゃあ、行ってきます…」
唾をごくりと飲んでから、恐る恐る女子トイレに入っていく吹雪。
「な、なんなのこれ…」
吹雪が固まる。
そこにあったのは、ぴかぴかに光り輝く真珠の様な便器であった。
それはまるで、うずらの卵のような形をしたモノであった。
「え…?これも、いわゆる水洗便所ってやつなの…?」
鎮守府に着任した当時、水洗便所にカルチャーショックを受けていた吹雪。
右手をゆっくりと便器のふたへと近づける。
「ういーん」
「……!!」
血相を変えてトイレから飛び出す吹雪。
「どうしたの吹雪ちゃん?」
睦月が心配そうに吹雪に尋ねる。
「トイレが、トイレが、ふたの所が、なんか、動いた…う、う、う、うええん」
睦月に抱き付く吹雪。
「ブッキーを泣かせる奴は許さないデース!」
金剛が勢いよくトイレに突入する。
「ヘイ!カモン!」
「ういーん」
「…!! …ハーウ・アー・ユー!?」
「…」
金剛がトイレから飛び出す。
「英語が通じないネー!」
続いて夕立がトイレに突入する。
「ういーん」
便器をじっと見つめる夕立。
ボカッ
便器のふたにゲンコツを食らわせる夕立。
「おとなしくなったっぽい」
みんな用を足して、自分の座席につく。
車内販売のスタッフが歩いてくる。
勢いよく手を振る赤城。
「あ、あのぅ… キ、キーマカレーはありますでしょうか…!?」
ラムネを購入して、ぐいっと飲む金剛。
「新幹線のラムネ、くーっ、最高デース!」
長門が小さい声でスタッフに声をかける。
「ところで… コアラのマーチは売ってないのか?」
新幹線は長いトンネルを出て、日本海側へと進んでいく。
トンネルの向こうは…雪景色でした。新潟県上越地方を通り抜けていく新幹線。
眼下に広がる銀世界。
苦笑いする長門。
「なぁ、陸奥。今は何月だ?」
ニコニコしている陸奥。
「今は8月よ」
眼下に広がる、新潟の町並。
窓に顔をくっつけながら外を覗き込む夕立たち。
「玄関が2階にあるっぽい!」
「積雪3mといった所か。ここで行軍訓練すれば、かなり鍛練になるやもしれんな」
長門がうんうんとうなづく。
「いっそ、鎮守府を新潟に移転するのはいかがかしら」
陸奥が提案する。
長門が苦笑いする。
「それもいいかもしれんな。深海棲艦もここまでは追ってはこれまい。
まさに焦土作戦だ」
わいわい言っているうちに、新幹線が金沢に到着する。
防寒装備で身を包む一同。まるでロシア軍のような外見である。
長門が指示を伝える。
「では、これより、あんころもちの調達任務に入る!
どこを探すかは各自の判断に任せる!
一応、兼六園の近くに多くあるとは聞いている!以上!」
吹雪が少しうつむく。
「あの…、長門秘書官、その…」
「ん?どうした?」長門が尋ねる。
「あんころもちって消費期限あったと思うんですが…
大量に買って保存して、もし消費期限が切れたら…」
長門がきりっとした顔になる。
「問題はない。貯蔵場所は我らの胃袋だ。詰め込めるだけ詰め込んでくと良い」
「なるほど」
睦月がぽんと手を叩く。
「は、はあ…」
苦々しい顔をする吹雪。
さらに長門が続ける。
「とりあえず、30分、全力で探せ。もし時間内に見つからなかったら、
宿泊予定の旅館前に集合だ。生還する事を最優先にしろ」
「30分かぁ、長いなぁ。ずるる」
鼻水をすする吹雪。
こうして、過酷なあんころもち捜索が開始されたのであった。