「東京に帰ってきたっぽい!」
金沢豪遊の旅、もとい、物資調達の任務を終えて東京に帰ってきた、
鎮守府メンバー一同。
人は彼女達の事を、鎮守府メンバー、略してチンシュメンと呼ぶ。
「よし、みんなそろってるな」
長門がメンバーに点呼を取り、人数を確認する。
「では、そろそろお昼だ。何か食べてこようか」
長門が提案する。
「やっぱ、これも税金なのよね…」
後ろめたそうな睦月。
「そうだ、私の知り合いに、おいしい目玉焼き屋がいる」
「!」
長門の提案に、驚く一同。
この世界において、目玉焼きとは、究極の中の究極と呼ばれるごちそうであった。
この世で最も簡単で、最も極めるのが難しい、まさに究極。
「赤城さん!」
倒れそうになる赤城を抱きかかえる吹雪。
目玉焼きの「め」の字で卒倒したようである。
「場所は秋葉原。食いたければ食うが良い。そこに全てを置いてきた…!」
さすが長門、艦娘王である。艦娘王に私はなる!
そして一行は秋葉原へと向かう事となった。
「ここが、例のお店だ」
チンシュメンの前に、ボロボロの幽霊屋敷のような木造の小屋のようなものが建っている。
げんこつしたら、今にも崩れそうである。
「そうそう、金剛、お前は後ろに…」
「フォーロミー!」
長門が言いかける瞬間、思いっ切り戸を引く金剛。
秋葉原のゲーセンでパンチングマシーンを3台ほどぶっ壊した張本人である。
電車内で痴漢を退治したこともある。相手は総合格闘家だったが、
ストレート一閃で失神KOだったらしい。
まさに電車女である。
「どしゃん」
玄関が崩れ落ちる。
「ヘーイ、ナイスデース!」
あはは…と苦笑いする金剛。
「主人、いるか?」
長門が言う。
奥に進む長門。
「失礼します」
後ろを歩くチンシュメン。
店の奥、調理場に…女性が1人立っていた。
「あ、あの…」
「吹雪」
言いかける吹雪を遮る長門。
女性の目の前に卵が浮かぶ。
その次の瞬間、卵の殻が砕け散り、お椀の中に生卵が落ちる。
「相変わらずの腕…だな」
ふうと息をつく長門。
「目玉焼き道、永世10段。七冠王、泊地棲姫」
パチパチと手を叩く長門。
奥からドカドカと女の子が走ってくる。
「ほっぽは、たこ焼き食べたい」
ほっぽをよしよしと撫でる泊地棲姫。
「ごめんね、たこ焼きは無いの…」
「うーうーうー」
ちょっとふてくされた顔のほっぽ。
「すまん、玄関を壊した」
謝る長門。
「いいのよ、あの戸は横に引いたら壊れるの…」
「え?」
「後ろに引いたら、ちゃんと開くのよ」
「なっ…!」
ちょっと長門がへこむ。
「そ、そうか、どちらにせよ、すまんな。ええと…」
長門の後ろにいる一同。
「よし、じゃあ、ここで目玉焼きを食べるとしよう」
こうして、チンシュメン達は目玉焼きを食べることとなった。
「まずは、目玉焼きの刺身です」
「おぉ…」
息を飲むチンシュメン一同。
「ポン酢か醤油で召し上がって下さい」
吹雪が一切れにポン酢をかけて口に入れる。
「どうだ?」
長門が聞く。
もぐもぐ食べる吹雪。
「はい、おいしいです」
こうして一同は目玉焼き屋を後にし、
東京を離れる事となった。
「疲れたな。よし、今日は一泊しよう」
「わーい」
長門の提案に湧き上がるチンシュメン達。
「じゃあ、とりあえずビジネスホテルにでも泊まるか」
「いつもの場所ね。長門…」
うふふと笑う陸奥。
タクシーに乗ってホテルの前に到着する。
「大日本帝国ホテル…なんかすごい名前ね」
驚く睦月。
「ホテル大蔵省、ホテルネオオータニってのも候補にあったらしいね…」
あまりよく分からない、という表情の吹雪。
ぷいとする夕立。
「国民の血税っぽい!」
豪華なホテルである。くらくらする吹雪。
吹雪にとって宿泊所といえば、田舎の民家の屋根裏部屋というイメージであった。
屋根裏部屋というと、魔法使いの少女が住んでいて、
ステキな男の子とゴールインできるという話を小さな頃から聞かされていた。
だからこそ、吹雪の家の玄関の傘立てには、いつもほうきが置いてある。
いつか、にしんパイを持って王子さまが訪れる事を夢見て…。
ホテルのロビーでチェックインを済まし、部屋に向かう一同。
見渡す限り、豪華絢爛である。
廊下のところどころにシャンデリアが飾ってある。
純金、プラチナ、そして宝石が散りばめられているらしい。
「バッキンガム宮殿よりすごいネー!」
驚く金剛。
それぞれ自分の部屋に入り、トイレを済ませて、テーブルのお菓子をちょっと食べる。
「なんだろう…このお菓子。ん?長崎かすてら?」
むしゃむしゃカステラを食べる吹雪。
ロビーに集合。
「部屋によーしみんな風呂入るぞー」
長門は風呂が好きである。諸君、長門は風呂が好きだ。
「洗いっこしましょうか」
陸奥がうっとり顔でいう。
「おいおい陸奥…。君はあれだ、のぼせて、いきなり轟沈しないようにな」
そんな訳で、とりあえずホテルの露天風呂に入ることとなる。
「すごい…ミネストローネのお風呂…」
驚く吹雪。
トマトソースのお湯。野菜の具がぷかぷか浮いている。
浴室内においしそうなイタリアンの香りが漂う。
ちなみに新潟にはイタリアンという謎の県民食があるらしい。
見た目は焼うどん、ソースはトマトケチャップである。
もちろん吹雪たちも食している。
「飲んでもいいかな?」
お湯をごくごくと飲む吹雪。
続いて睦月もお湯を飲む。
「おいしーい!」
隣では、赤城が風呂の具をむしゃむしゃ食べている。
「おいおい、晩ごはん前なんだから、食べ過ぎない方が…」
前菜の食べ過ぎをちょっと心配する長門。
ゆったりする一同。
「いーい、湯っだぁな~ あははん」
くつろぐ長門。
「あははん」
にやにやする陸奥。
「ゴホン。い、いや…なかなか良い湯であるな」
少し赤くなる長門。
「おいしそうね、長門。食べちゃおうかしら」
何を食べたいのか名言しない陸奥。危ない女性である。
「ん?」
何かに気付く。吹雪。
「なんかどんどん熱くなってきたような…」
立ち上がる夕立。
「ゆでられてるっぽい!」
お風呂から出て、
食堂に集まる一同。
「すごい…」
息を飲む吹雪。
目の前には半径3mのテーブル、その真ん中に高さ1mほどのカニの山が出来ている。
ずらりと並ぶシャンパン。寿司コーナーには大トロがずらりと並び、
うなぎのかば焼きを料理人が目の前でじゅうじゅう焼いている。
「タラバガニ食べ放題だって…」
同じく息を飲む睦月。
「食欲には抗えないのね…」
バケツ1杯のよだれを流す赤城。
ぷーっと膨れる夕立。
「国民の血税っぽい!」
高級シャンパンを飲み干す金剛。
「ぷはーっ!くーっ!最高デース!」
ラムネの一気飲みシーンは、もはや金剛のための役になっているようである。
このシーンをCMに使っても良いくらいである。
「バァーニングぅ、あぶるぅ~!あぶるぅ~!あぶ~ぅるぅ!」
うなぎのかば焼きを手に大はしゃぎする金剛。
「金剛さん、酔っ払ってますね…」
心配そうにみつめる吹雪。
長門がチキンをもぎゅもぎゅしながら現れる。
「大丈夫だ。いつもの彼女だ。アルコールは入っていない。
彼女の場合、普段酔っていて、アルコールが入ると、しらふになる」
しらふになった金剛というのも見てみたいものである。
金剛がチキンを手にしてくるくる回りだす。
「ローリングぅ~!ラアァーブぅ~!」
金剛がチキンを持つ。金剛のチキンである。黄金ではない。黄金よりも肉質が固い。
「君…ちょっと静かにしたまえ」
おじさんが近づいてくる。
「ラァ~ブゥ~!」
おじさんに裏拳を打ち込む金剛。
「ぶっ」
1mほど吹っ飛ぶおじさん。
「しゅ、首相、大丈夫ですか!?」
黒服の男が集まってくる。
「あれ?どこかで見た事のあるおっさんっぽい」
「確か…新聞で見たような」
「え?もしかして…首相?」
夕立、吹雪、睦月が顔を見合わせる。
「し、失礼しました」
長門が金剛の頭を押さえながら謝る。
「いいんです、いいんです。
あべこべミックス第4の矢、それは萌えです!
萌えでこの国の経済は変わるんです!」
鼻にちり紙を詰め込む首相おじさん。
「はて、君はどこかで…」
「海軍鎮守府、連合艦隊所属、秘書官の長門です」
丁寧にお辞儀する長門。
「おお、君が長門君か、ぜひお会いしたかった。
どうだ、大和君は元気でやっとるか?陸奥君、沈んでないだろうな?」
話が弾む上層部。
猛烈な勢いでタラバガニを食べる吹雪。
「食いだめ、食いだめ、食いだめ」