霊魂・ア・ライブ 有頂天道   作:曙光

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第零訓 甘い誘いには気を付けよう

───神様になりたい。

子供の頃、一度は思った幻想。

思い通りの世界を造りたいと切に願ったくだらない戯言。

古来より、自然の出来事は自分達とは違う存在が起こしているのではないかと信じられてきた。

作物の恵み、天候、大地の変革。

人間達は様々な超常現象をこう敬称した。

──神と。

人間達は現象に名前を付け、ただひたすらに請い願った。

 

わたしたちはあなたの下僕になって、あなたを奉りましょう。

その替わりに生活を保証してください。

 

自分達では制御出来ない存在を神と形容し、かしずいて恩賞を与えて貰おうという考えだ。

 

東洋と西洋では、神という考えが大幅に違う。

西洋は、神は人間が制御し操る存在だと言う。

東洋は、人間こそが神に制御されていると言う。

 

それは概念、自然に対する敬意の違い。

科学という自然を御し利用する力を手に入れた人類の傲慢なのか。

神の力の一部を行使するなら、奉ろうという謙虚さなのか。

 

………神様になりたい。

人が持つ傲慢。

世界を思い通りにしたいという子供染みた身勝手な戯言。

ゆえに私は問い掛ける。

 

あなたは神様になったら、いかな世界を造りたいのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

侍の国。

かつてそう呼ばれたこの国は、今やその在り方を変えていた。

二十年前、突如として地球に舞い降りた異星人、天人。

彼らの台頭により、侍は衰退の一途を辿っていた。

街には異人が闊歩し、空には異星の船が飛び交う。

……それでも、江戸の空は果てしなく青かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと銀さん!聞いてるんですか!?」

「………」

 

しつこく呼ばれた声に、手元のジャンプから目を離す。

江戸かぶき町にある何でも屋───万事屋銀ちゃん。

金さえ払えば如何なる仕事を引き受けるこの店に、朝から馬鹿でかい声が響きわたった。

俺はここの主の坂田銀時。

で、今目の前で大声出してるのが従業員の志村新八。

ツッコミをやらせたら江戸一番の眼鏡だ。

 

「聞いてるよ。艦これ改が八月に発売が決まったことだろ」

「違ぇよ!なんで艦これ改の発売日を話さにゃならんのさ!」

 

おお相変わらずいいツッコミだ。

万事屋銀ちゃんにツッコミ眼鏡ありとはまさにこのことだね。

 

「うるさいネ新八。どうせお前はツッコミしか出来ない駄眼鏡だって嘆いても、雷に「大丈夫よ。わたしが付いてるじゃない」って慰められたいんダロ」

「おぉい!人をダメ男みたいに言わないでくれる!?」

 

ソファーに座りながら毒舌を吐いたのは万事屋の紅一点、神楽。

夜兎族と呼ばれる戦闘民族の生まれで、その食欲で家の食費を食い荒らす酢昆布娘。

 

「いや神楽。こいつの事だから多分如月や睦月辺りに甘えたいんだろ。あとはオタク繋がりで夕張か秋雲とイチャコラしたいだけだ」

「うわマジかよキモイアル」

「オイ!僕は百歩譲っても香取さん一択ですよ!」

「慎吾ママに甘えたいとか業が深ぇな」

「そっちの香取じゃねぇよ!つうか今の子慎吾ママ知ってる人いる!?」

 

まぁ冗談はさて置こうか。

バサリとジャンプを机に放り投げ楽に座り直した。

 

「で?何だっけ志村提督」

「誰が提督だよ…。だからですね、もう家賃を滞納しまくってお登勢さんキレてますよ。だから仕事見つけて、少しでも払わないと駄目だって話ですよ」

 

そんな話?

いくら何でも無理だろ。

基本万事屋は客が来るまで暇な商売だし、遠征行ってボーキサイトや燃料が手に入るほど楽な商売じゃねぇよ。

 

「そうポンポン仕事が来るもんじゃねぇだろ。果報は寝て待て、待ち人は来るってね。ここで堕天使のようにグウタラしてようや」

「堕天使でもまだ働いてるわ!」

 

やれやれと机に足を載せて背もたれに寄りかかる。

あ~あ、どこからか大金持って依頼するヤツこないかなぁ。

 

「………あ?」

 

ピンポーンとチャイムの鳴る音が聞こえる。

俺達は音の発信源、玄関の方に顔を向けた。

 

「ババアか?」

「いや、お登勢さんならいちいちチャイム鳴らしませんよ」

「依頼人じゃないアルか?」

 

こんなタイミングで依頼人?

余りに都合が良すぎんだろ。

大抵新聞の勧誘か、押し売りの類だな。

 

「新八出てみろ。押し売り、勧誘だったら四十六センチ三連装砲で暁の水平線に沈めるぞって脅しとけ」

「依頼人なら、燃料のお茶とボーキサイトのクッキーを出すヨロシ」

「いつまで艦これネタ引っ張ってんですか!」

 

まったくと憤りながら玄関に向かう新八。

向かってから待つこと数瞬──

 

「銀さん銀さん!」

 

ドドドっと、急くように新八が戻ってきた。

 

「なんだよ」

「あの、ボーキサイトのクッキーってありますか?」

「──え?」

 

オイ…まさか………。

 

「い、依頼人です……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「報酬さえ払えば如何な仕事を引き受けると聞いて参りました」

 

そう言った依頼人は女だった。

パリッとしたスーツ姿で、いかにもキャリアウーマンといった風貌の女は、席に着くなり懐から名刺を取り出した。

 

「………運送会社アヴァロン 代表取締役秘書」

「影宮と申します」

 

名刺を受け取る。

肩書きから大層な役職だと分かるが、そんな名前の会社は聞いたことがなかった。

 

「アヴァロンなんて会社知らねぇな」

「わたくし共の会社は最近出来たばかりなのですよ。主に物資、食品の運送を幅広く行っております。これを機にお見知り置きを」

 

深々と頭を下げた。

この手の企業や会社から依頼されるが、大抵は上から目線の傲慢な態度をとるパターンが多い。

だから、礼儀を持って接してくる態度に少し戸惑ってしまう。

 

「で?依頼はなんだ?」

「単刀直入に言いましょう。坂田銀時さん。あなたの力をお貸しください」

 

凛とよく通る声が響く。

ただ事ではないと、背筋を伸ばして聞く姿勢をとった。

 

「先ほども申し上げた通り、わたくし共は新参ですが、少しずつ顧客も確保しております。ですが、ライバル会社バビロニアの嫌がらせにあっております。運送の妨害、社員の引き抜き、社長がヅラだと暴露されたりと散々な目にあっております」

「最後のは割とどうでもよくない?」

 

新八の言うとおり、最後以外は割と深刻じゃねぇか。

まぁ、一般人の俺達にゃ関係ないことだが。

 

「ところがある日、向こうの社長が一つの提案をして来ました。「各々が出す代表を戦わせ、此度の問題の解決をしようではないか。そちらが勝てばこれまでの無礼を謝罪し、相応の慰謝料を支払う。こちらが勝てば、そちらの会社の権利を貰う」と。要は会社の乗っ取りを目論んでいるのです」

「んだよそれ無茶苦茶じゃねぇか。断ればいいだろうよそんなの」

「いえ、ヅラであると暴露された社長は冷静さを無くし、まんまとこの条件を飲み込みました」

「アホだろあんたのとこの社長!」

 

つか、どれだけヅラをばらされたことに怒ってるんだよ。

 

「ですから、こちらで用意出来る最強の駒を探し、ここに行き当たりました。万事屋の坂田銀時という男は腕の立つ者だと知り、恥を忍んで参りました」

「……………」

 

要は決闘の代理ってわけか。

まるで初期の花山みたいだな。

 

「まぁ、依頼なら受けるけど。そこまでするなら報酬は?それなりに払ってもらわないと割に合わねぇぞ」

「あぁそれならご心配無く」

 

よっこいしょと、横に置いていたトランクを机の上に置き、パチリと小気味よい音を立てながら蓋を開けると──

 

「「ぶっ!!」」

 

吹き出す程の大金が詰め込まれていた。

額にして一億かそこら。

今まで見たことない大金に、一瞬頭の中が真っ白になる。

 

「前金です。依頼が完了すれば、この倍をお支払いします」

「分かりました!謹んでお受け致します!!」

「決断早っ!」

 

サッと立ってビッとお辞儀をする。

すげぇよこれ。

イベントマップの敵が全部駆逐イ級かってくらいのラッキーだよ!

やっと俺達にも幸運がやってきたね!

 

「ですが、一つだけ条件があります」

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜。

波止場の倉庫街を歩く。

潮の香りと波の音を聞きながら目的の場所に向かう。

昼間、影宮さんの提示した条件とは「俺一人で来ること」だった。

あまり騒ぎにならないように最小限の人員で行うと言うことらしい。

 

──どこか胡散臭かった。

よもや狐に化かされたかと思ったが、受け取った前金はすべて本物だった。

……まぁ、貰うもん貰ったし、依頼人の条件はこの際いいだろう。 

 

「こちらです銀時さん」

 

十三と描かれた倉庫の前に立つ影宮さん。

周りに誰もいない。

ただ静かに、中に入るのを心待ちにしている扉だけがあった。

 

耳障りな金切り音と共に扉が開かれる。

中は空っぽだった。

コンテナや荷物の類は何も置かれていない。

──そう、何もなかった。

 

「向こうの相手はおろかヅラの社長さんもいないけどどうなってるんだ?」

 

時間は指定通り。

誰かいなくてはおかしいのに人はおろかネズミ一匹いやしない。

これはどういうことだと影宮さんの方に振り返ると──ドサリ、と唐突に影宮さんが倒れ込んだ。

 

「ちょっ!?おいっ!」

 

余りに唐突に倒れたから一瞬呆けたが、すぐに駆け寄って影宮さんを抱え起こす。

もしかしたら向こうが奇襲したのかと警戒したがそれはすぐに頭から消した。

それならまず俺を狙うし、立ち会い人を気絶させたら決闘の意味は無い。

──だがその杞憂は、女を抱え起こした時に消え去った。

 

「………なに?」

 

軽い。

女なら軽く思うかもしれないが、これは人間の軽さじゃない。

人形を抱えてるような、それでいて女の柔らかさが逆に怖気が走る。

……一体これは何だと思った刹那──弾けるように影宮さんの身体が四散した。

 

「な──!?」

 

それだけでも驚愕なのに、飛び出したのは血でも臓物でもなく黒い影だった。

それがまるで意志を持ったように俺を包み込もうとする。

…抜け出す隙はなかった。

包み込まれた瞬間、光と音がシャットアウトすると同時に、坂田銀時の意識もまた、闇の彼方へと消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【少し回りくどかったけど、ようやく招待できたね。これで後はあの子の元へ送り込めば大丈夫かな?期待してるよ、サムライ殿】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──肌に当たる熱気に目を覚ました。

 

「え……?」

 

起き上がり、目にしたのは火の世界。

地獄の釜をひっくり返したような惨状。

町は燃え、建物が炎に包まれる。

明らかな災害現場が、目の前で繰り広げられる。

 

「………ていうか、ここどこ?」

 

確か、影宮さんから変な影が飛び出して、それが俺を包み込んで、目を覚ます直前に変な声を聞いた気がしたがよく覚えていない。

最初、知らん内に江戸で火災があったのかと思ったがそれは違うと直ぐに断言出来た。

江戸の象徴──ターミナルがどこにも見えなかったからだ。

天高くそびえるアレが無いということは、必然的にここは江戸ではない。

どこかに転送された?

ターミナルも見えないほど遠くにか?

最初からこれが目的だとすると何の為だ?

 

「………取りあえず移動するか」

 

考えるのはあとだ。

いつまでもここにいたら危ねぇし、火災なら避難所みたいな場所があるはずだ。

だが方角も分からねぇし、どうしたものか──

 

「ん?」

 

遠くの方に誰かいるのを見つけた。

女の子だ。

神楽より小柄の子供が誰かを探すように歩いている。

──避難し遅れたのか?

ちょうどいいや。

あのガキと合流すれば避難所みたいな場所にいけるかもしれねぇ。

それにガキを見過ごすわけにもいくまい。

すぐさま駆け寄ろうとした瞬間……。

 

「あ──!」

 

それに気付いた。

土台が焼け、バランスを崩した建物の柱が、バキリと嫌な音を立てながら倒れる。

しかも運の悪い事に、避難が遅れたガキの上に倒れようとしていた。

──風に乗って悲鳴が聞こえる。

気付いたガキは反射的に身を守ろうと頭を抱えながら座り込んだ。

 

「チィッ!」

 

舌打ちしながら走る。

瓦礫を土台に踏み進み、速度を維持しながら、

 

「ちぇりあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

跳躍と同時に柱を蹴り飛ばす。

……ギリギリだった。

後少し遅かったら確実にお陀仏だったぞ。

座り込んでないで逃げろと思ったが、小さいガキに無理な話だったわ。

蹴り飛ばした柱が轟音を立てながら崩れ落ちる。

もう崩れそうな建物は無いなと、へたり込んだガキに向き合った。

 

「おい、怪我は無いか?」

「…………………」

 

放心しながら、ガキは俺を見上げる。

…見た目は小学生くらいか。

白い髪が風に揺れる。

こんなとこに一人でいるなんて迷子ってレベルじゃねぇぞ。

 

「────あの…」

 

しばらく放心していたガキの口が開く。

 

「おじさんだれ?」

「…………」

 

その問われた声で、静かに服や肌の臭いを嗅ぎながら、

 

「俺ってそんなにおっさん臭い?」

 

静かに、質問を問い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

鳶一折紙と子供は名乗った。

友達と遊びに出ていた帰り、突然町が火の海になってしまい、急いで家に帰る途中だったそうだ。

 

「オジ……お兄さんはどうしてここに?」

「……知らん間に来てたんだよ」

 

子供に気を使われた……。

オジサンって呼ばれた事にガチで凹んでいたからか、申し訳なさそうに言ってくるこの気遣いがさらに傷口を抉る。

俺まだ若いと思ってたけど、子供からしたらみんなおっさんか……。

 

「まぁいいや、折紙だっけか?俺も親探すの付き合ってやるよ」

「え?でも……」

「俺右も左も分からねぇし、さっきみたいに危ねぇかもしれないから付き合ってやるよ。袖振り合うも多生の縁ってな」

「……はい」

 

それにこんな小さなガキを一人残すのもしゃくだしな。

乗り掛かった船だ。とことん付き合うだけさ。

 

 

 

 

 

 

 

──炎の町を歩く。

このあたりの建物は完全に焼け落ちてるかまだ原型を持ってるかの二つだけ。

風に乗って消防車のサイレンが聞こえてくる。

熱が満ちる空間を俺たちは歩いた。

 

「────」

 

折紙は先頭に立ち瓦礫の上を進む。

帰巣本能か、家を目指して黙々と歩いていく。

──燃えた臭いが鼻をくすぶる。

木材、鉄、そして、人の臭い。

逃げ遅れたのか、瓦礫の下に死体らしき影が見えた。

 

「………」

 

幼い子供には酷な惨状。

確実にトラウマになってもおかしくない状況でも、折紙は家を目指してひた歩く。

それすらも気にしていない、いや気にしないようにしているのか。

親の安否がこいつにとって重要だから、泣いてる場合ではないと奮い立たせているのか。

 

「この先が私の家です」

 

商店街らしき通りを抜け、未だに燃えている住宅街に入る。

このあたりはまだ倒壊していないが、いつ崩れるかまだ分からない。

──にしても、いったいなにがあったらあったらこんな事になるのか。

町の上に爆弾でも落とされたのか?

嫌な世界に来ちゃったなぁと、折紙の後に続く。

角にさしかかり、通りに入った瞬間……、

 

「あ……ああ………」

 

絞り出すような折紙の声がこぼれた。

目線の先にある家屋。

表札には"鳶一"と掲げられた建物が炎上していた。

 

「お父さん!お母さん!」

 

悲痛な声を上げながら折紙が駆け出す。

家の前に立つと、熱風が肌を焼く。

まだ中に、こいつの親はいるのだろうか。

 

「クッ!」

「バカ待て!」

 

中に入ろうとした折紙を、肩を掴み無理やり止める。

ジタバタと暴れる折紙。

気持ちは分かるが、それは無謀だ。

 

「ここで待ってろ。俺が中に入って確かめてくる。いなかったら避難してるかもしれねぇ」

「……」

「もしいたら、その時は──」

 

覚悟だけはしておけと、諫めるように呟いた。

折紙の前に出て、家の中に入ろうとしたその時──

 

「!?」

 

蹴破るように開かれた扉。

その奥から、男が女の肩を抱きながら外に出て来た。

 

「お父さん!お母さん!」

「折紙!?」

「帰って来たのか!無事か!?」

 

その姿が誰なのか分かった瞬間、折紙が二人のもとに駆け出した。

やっぱり折紙の両親だったか。

無事だったんだな。

安堵するように息を吐いて三人のもとに歩みよった。

 

「えっと……あなたは?」

 

折紙を抱きしめながら、俺の存在に気付いた父親が口を開く。

 

「この人が助けてくれたの」

 

両親にしがみつきながら折紙が代弁する。

二人はそうかと頷きながら俺に向き合った。

 

「うちの折紙を助けてくださってありがとうございます」

「いやいや、こっちも成り行きだったから。お礼を言われるような事はしてねぇよ」

 

頭を下げながら礼を言われるなんてこそばゆい。

俺がやった事なんて大したもんじゃないさ。

 

「取りあえず避難しましょう。ここは危ないですから」

 

母親が口を開き、目的を思い出した。

早く逃げないとこっちも危ない。

 

「あの、ありがとうございます」

 

親から少し離れ、折紙がぺこりと礼をする。

──あぁ駄目だ。

こそばゆくて視線が泳いじまう。

 

「良かったな。親が無事で」

「では急ぎましょう。避難所は」

 

父親が促すように声を出した刹那──天から極光が舞い降りた。

 

「な────!?」

「きゃあ──!?」

 

眩い光が落ちた刹那に飛び込んでくる衝撃。

至近距離で爆発した火薬のような風圧が俺と折紙を吹き飛ばした。

咄嗟に折紙を抱えこみ、受け身を取るように背中を丸めた。

 

「グ──フッ」

 

ゆうに数メートルは飛ばされたか。

偶々あった塀のおかげでなんとかなった。

 

「……大丈夫か?」

「はい…」

「いったい何が──」

 

起こったのかと、痛みを堪えながら前を向いて、

 

「……は?」

 

それを目撃した。

陥没した地面。

ついさっきまであった折紙の家が跡形もなく無くなり、隕石が落ちたのかと思うほど地面が抉れていた。

 

……視線を落とす。

瓦礫に混じって、折紙の両親らしき物体が、身体の半数を消失して転がっていた。

 

「あ──ああああ────!!」

 

腕に抱かれていた折紙が飛び出す。

叫びながら両親だったモノに縋りつくように駆け出した。

 

「お父さん!!お母さん!!ねぇ嘘でしょ!?起きてよ!!嫌だぁぁッ!!」

 

……再開出来た両親が一瞬で死ぬ。

その事実を否定するように、折紙は狂ったように泣き叫ぶ。

……声を掛ける事が出来なかった。

今の折紙に何と声を掛ければいいのか分からないのもあるが、それ以上に、

 

「………」

 

いったい誰がこんな事をしたのかと、光を落とした空を睨んだ。

 

「あれは…」

 

炎に照らされ紅くなった空。 

地獄の天井に似つかわしくないモノがそこにあった。

 

神々しく光る何か。

一瞬太陽かと思ったが、それは紛れもなく人の形をしていた。

 

「天使…か?」

 

人型で空を飛び、光ってると言えば天使だと、安着な考えだったがそれしか浮かばなかった。

この距離では顔は判らない。

ただこちらを見下ろしていることだけが理解出来た。

 

「……お前が」

 

同じように空を見ていた折紙が、怨嗟の声音で呟いた。

涙で泣きはらし、狂った眼で空に立つ天使を睨み付ける。

 

「許さない……絶対に許さない……!殺してやる……!必ずこの手で殺してやる!!」

 

天に呪詛を吐くように、折紙の絞り出す声が眼前の光に向けられる。

幼子が出すべきではない、痛ましいほどの怨嗟の(こえ)

 

───それは、こいつの人生(みち)が決まったように思えた。

 

天を見る。

空高く飛翔していた天使は、まるで掻き消えるように霧散した。

……その間も、折紙のむせび泣く声が地獄に木霊する。

それは──亡くなった優しい両親に対する折紙からの鎮魂歌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

簡易ながら両親を埋葬してやった。

会って数分だけだが、弔ってやるには十分だった。

その間も、折紙は茫然と俯いていた。

目の前で親が死んだ。

押さえ込んでいた恐怖と怒りが複雑に絡み合い、散々と泣きはらし、落ち着いたのか静かに瓦礫に腰掛けている。

 

「………」

 

声が掛けれない。

今俺が何か言っても慰めになるのか判らない。

ただ折り合いがつくまでそっとしておくことにした。

 

──いつの間にか火災が収まり始めている。

もうじき救助が来るかもしれない。

……それに、折紙が動こうとはしなかったから、俺も隣に座って待つことにした。

 

「──折紙は、これからどうするんだ」

「……………………」

 

何も言わない。

ただただ俯きながら両親の墓標を見据えているだけ。

これは何言っても難しいなと、赤い空を仰ぎみていると、

 

「………お兄さん」

 

ふと、折紙の口が開いた。

 

「私は、これからあの天使を追いかけます」

「……あぁ?」

 

視線を折紙に移す。

俯いていた折紙も同じように顔を上げていた。

──その瞳から、光を消しながら。

 

「何年掛かるか判らない。でも、必ずこの手で殺してやります。あらゆる手段を身につけます。あらゆる方法を考えます。生涯を掛けて、あの天使を──」

 

必ずこの手で斃します。

そう折紙は言った。

 

「だから、その証に、"私の感情をあなたに預けます"」

「……………」

 

俺の言葉も聞かず、折紙は勝手に話を進める。

 

「笑うことも泣くことも私はこれっきり。だけどこの怒りと憎しみは私だけのもの。この醜い感情だけで、私は──」

「アホッ」

「ぐぁっ!?」

 

まだゴチャゴチャと喋っている折紙の言葉を遮って、拳骨で無理やり黙らせる。

折紙は頭を抑え、呆けたように俺を見た。

 

「他人に自分の感情(もん)預けるとか、馬鹿だろお前。それはお前のだろうが。やすやすと渡すもんじゃないだろ」

「でも………」

「でもじゃない。復讐の為に生きる?止めとけよ腹が減る。お前の親は──ホントにそれを望んでるのか?」

「……………」

「お前の両親はそりゃ残念だよ。けどな、助かったお前が仇を討つために、テメーの人生を棒に振る事は望んじゃいない。自分たちの分まで幸せになって欲しい。親の幸福なんてそんなもんさ」

 

懐に手を入れる。

さっき埋葬する時に取り出したものを、折紙の目の前に差し出した。

 

「これは……」

 

同じように広げた手のひらにソレを乗せる。

チャリン、という金属音。

乗せられた物は──銀に輝く二つの指輪だ。

 

「あいにく、それしか無かったよ。でも、お前の親達の形見だ。しっかり持っとけよ」

 

おそらく結婚指輪だろう。

生涯を共に歩むという誓いの証。

あの夫妻は仲睦まじかった。

これ以上にないほどの、形見だ。

 

「……………」

 

それを握りしめながら、折紙は静かに涙した。

唯一残った親との繋がりを、離さないように固く握り締める。

 

……俺が出来るのは精々このくらいだ。

あんたらの娘さんは、道を間違えずに済みそうだぜ。

 

墓標の方を見る。

同じ墓で眠る二人は、こころなしかありがとうと言ってるような気がした。

 

「お兄さん!身体が!?」

「え?」

 

折紙の声で手元を見る。

俺の身体が、キラキラと瞬くように輝き始めた。

 

「………もとの世界に帰れるのか?」

 

なら、ここに来た役目はコイツを救えってことか?

なにそのラノベみたいな話。

意味判んねぇが、終わったなら帰れるってことか。

 

「いいか、親の敵討ちなんてするなよ。幸せに生きろよ。親の分まで」

「お兄さん……」

「まぁ、縁があったらまた逢おうや」

 

意識が薄れ始める。

感覚も緩慢になってきた。

後少しで消える俺に向かい、折紙の口が開いた。

 

「あの!最後に、お兄さんの名前は……!?」

 

……そういや名乗ってなかったな。

こりゃうっかりしてたわ。

 

「俺は坂田銀時──」

 

そして消えゆく刹那の時に、

 

「────侍だよ」

 

己の名前を折紙に告げ、次の瞬間に意識を失った。

 

 




銀八「はい、皆さんこんにちは~。みんな大好き銀八先生で~す。東方万事屋録をご覧になった方はご存知ですね。……え~まぁ最初に言って置きます。「この作品、デート・ア・シルバーソウルじゃね?」と思った方、正解です。突如消えたデート・ア・シルバーソウル。なぜうちの作者が書いているのか、それは次回で話しましょう。それでは皆さん、霊魂・ア・ライブ 有頂天道をよろしくお願いしま~す」
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