恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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この作品の戦闘描写に期待してはいけない(戒め)


文章がいつもより長い(確信)


第12話

「ついに南皮に着きましたぞ!」

 

「……広い」

 

武芸大会開催を翌日に迫っていた南皮に少女二人が到着した。

 

―――うわッ!?何だ!!

 

―――犬と猫が大量に!

 

―――撫でたいな

 

―――ぼ、僕はあの大きな犬の上にいる小さい子を

 

―――衛兵さんこいつです

 

沢山の動物を連れて歩く二人は嫌でも周りの目を引いてしまう。

 

「何だ?貴様らも武芸大会の出場者か?」

 

その二人に、戦斧を持ち歩く女性が話しかける。

 

「出場するのは呂布殿です」

 

「……ん」

 

「ほう、見たところかなり出来るようだな」

 

「フッフッフッ、やはり呂布殿の素晴らしさがわかりますか、優勝は間違いなしなのです!」

 

「大層な自信だな、だが優勝はこの私が貰う事になっている。精々私とあたらぬ様祈るのだな、ハハハハハ!」

 

お前の自信も大層ではないか、とツッコミをうけそうな言葉を残しつつ女性はその場を後にした。

 

「ぬぅ~~、何なのですかあいつは!」

 

「……ちんきゅー」

 

「呂布殿?」

 

憤慨する少女の頭に手を置き安心させるように撫でる。

 

「大丈夫……負けない」

 

「呂布殿……はい!」

 

 

………

……

 

 

「おおっ、満員御礼ではないか!!」

 

武芸大会用に設備された袁家の演習場を見ながら袁紹が声を上げる。

 

「はい、ただでさえ娯楽が少ないですし」

 

客席が民衆で埋まっているのを確認した桂花が返事をした。

 

「むぅ、……やはり客席が少ないのでは無いか?」

 

急拵え(きゅうこしら)ですので仕方ありません、……麗覇様の案でしたら開催すら出来ませんでしたよ?」

 

「ぬぅ、良い案だと思ったんだがなぁ」

 

実はこの袁紹、武芸大会をするにあたってローマのコロッセオのような円形闘技場を建てようとしていた……が、桂花に理論付けで反対され見送られていた。

 

「あの『ころっせお』の規模ですと建造に途方も無い時間と費用がかかりましたから」

 

「確かに冷静に考えてみればそうであるな、良くぞ止めてくれた、感謝するぞ桂花」

 

「いえ、それも私の仕事ですから」

 

礼を言いつつもどこか残念そうにしている主に、桂花は苦笑しながら答えた。

 余談であるが袁紹の暴走を理論付けで止められる人間の登場に、側近の一人が涙を浮かべながら喜んだとか……

 

 

………

……

 

 

「優勝はアタイがいただきだぜ!」

 

「頑張ってね文ちゃん」

 

大会参加者の控え室で、意気込む猪々子を斗詩が鼓舞していた。

 

「斗詩も参加すれば良かったのに~」

 

「私はほら、運営係の一人だから」

 

「あっそうだ!斗詩もアタイに全額賭けなよ、大儲け出来るぜ!」

 

「ええっ!?文ちゃん賭けてるの!」

 

「おう!もちろん全額自分だぜ!」

 

実はこの大会の賭けの元締めは袁家である。 これほどの規模の大会であれば裏で賭け事が起きるのは必須、ならば余計な騒ぎを呼ばぬよう袁家で取り仕切る、という理由から桂花により発案されていた。

 だがそれは建前であり彼女の本当の狙いはその儲けによる利益である。

 

「そこのお前、この私を差し置いて優勝狙いとは無謀だな」

 

そこに戦斧を携えた女性が話しかけてきた。

 

「?誰だ斗詩」

 

「えっと、名簿には……華雄さん!?」

 

「そうだ、私が華雄だ」

 

「有名人か?」

 

「最近活躍してる董卓軍の将軍だよ文ちゃん!」

 

「おおっ、すごそうだな!」

 

「凄そうではなく凄いのだ!まぁいい、優勝して証明してやる」

 

そう捨て台詞をのこし華雄はその場を後にした。

 

「……何だお前達、からまれていたのか?」

 

「おおっ!春蘭!!ひっさしぶりだな~」

 

そこへ華雄と入れ替わるようにして春蘭が顔を出す。

 

「お久しぶりです夏侯惇さん、秋蘭さん達もここに?」

 

「いや私一人だ、武芸大会のことを知ってそわそわしていた私に華琳様が『どのみち政務の邪魔だし行って来なさい』と、送り出してくれたのだ!」

 

「え、えっとそれは送り出してくれたと言うより――」

 

「さすが曹操さんだぜ、わかってるぅ!」

 

「フフン、そうだろう華琳様はすごいんだぞ!」

 

「……あはは」

 

久しぶりの再会に和んだ雰囲気で談笑していたが、突然春蘭の目が好戦的に鋭く光る。

 

「……また腕を上げたようだな猪々子」

 

「ああ、悪いが今日は勝たせてもらう」

 

「そうはいくか!私が勝ち星を増やすのだ!!」

 

二人は獰猛に睨みあい火花を散らす。

 

「他の出場者の事、二人とも忘れているなぁ……」

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

「ではこれより『第一回チキチキ!血湧き肉躍る武芸大会!!』を開始します!進行は私、顔良が務めさせていただきます」

 

『うおおおおおおおお!!』

 

「この本戦は袁紹様考案の『とーなめんと』制となります。制約は予選の時と同じく

 

 一つ、命を奪う、又は致命的な怪我を負わせる事なかれ

 

 二つ、寸止め、もしくは相手の戦闘不能で勝利とする

 

 三つ、武器が破損した場合や降伏した時点でも負けとする

 

以上の三つです、なお規定を破られる方がいた場合、後方で控えている衛兵達に制圧されてしまうので絶対に守ってください」

 

『うおおおおおおお顔良ちゃん結婚してくれぇぇぇ!!』

 

「結婚!?ぜ、絶対駄目です!!」

 

観客のふざけた発言にも律儀に返事をする斗詩に、袁紹と桂花の二人が思わず苦笑する。

 しばらく慌てていた(しきりに袁紹を見ながら)彼女だが、気を取り直して進行させる。

 

「では第一回戦南方、董卓軍所属『華雄』!」

 

「華雄か……」

 

「優勝候補の一角ですね」

 

南方から歩いてくる華雄に目を向ける。髪は短く華奢な体つき、顔は端正で男装が似合いそうだ。

 そして手に持つ戦斧はかなり使い込まれている、猛将の噂に偽りはないだろう。

 

「北方、無所属『呂奉先』!」

 

「何だと!?」

 

「れ、麗覇様?」

 

斗詩の口から出てきた名を聞いて思わず袁紹は立ち上がる、彼が知っている呂奉先は一人しかいなかった。

 

(てっきり丁原あたりが抱えていると思っていたが在野だったとは……これで本物ならどうするか)

 

天下無双の武力を持ちながらも欲望のために二度主君を殺め、最後には曹操に処刑された史実

 

(本物だとしても我に御する事が出来るか?いや、史実通りの人物かはまだわからぬか……さて)

 

そして北方から出てきた呂布らしき少女に目を向ける。

 燃えているような赤髪、顔は端正だがどこか眠そうなたれ目、体は豊満で女性らしい魅力があるが非常に引き締まっている。一見可愛らしい少女だが纏う圧力が尋常ではない、相対している華雄が余裕そうにしているが彼女は鈍いのかもしれない。

 

「お前はあの時の娘ではないか、一回戦で私とあたるとは運がないな」

 

「……」

 

言って戦斧を構える華雄、しかし呂布は構えない。

 

「あの、呂布さん?構えは――」

 

「……いい」

 

「フンッ、勝負を捨てたか」

 

構えない呂布に対してつまらなそうに声を上げる華雄、仕方なく斗詩は開始の合図を出した。

 

「では――始め!」

 

「おおおおっっ!!」

 

開始と同時に呂布に接近し戦斧を横なぎに振るう華雄しかし――

 

「……遅い」

 

それを後方に下がり間合いから逃れる呂布、その動きには大分余裕が感じられる。

 

「なにっ!?」

 

今の一撃で決めるつもりだったのか華雄は目を見開く

 

「……終わり?」

 

「っ!?なめるなぁぁぁっっ!!」

 

叫びながら猛攻をしかける華雄、しかし最初と同じように避けられ続ける。

 良く見ると呂布の体勢は変わっていない、足捌きだけで避け続けている。

 

「ハァハァ……クッ、ちょこまかと!」

 

華雄は一旦距離をとり肩で息をしている。対する呂布は涼しい顔だ

 

「当たりさえすれば――「無駄」!?」

 

華雄の言葉を遮った彼女は、試す?とでも言いたそうに一歩近づき立ち止まった。

 

「っ!?、貴様!」

 

その態度に憤慨し華雄は彼女を睨みつける、視線だけで人を殺せたら呂布は死んでいたであろう。

 

「……いいだろう、その思い上がり私の戦斧で断ち切ってくれる!」

 

呂布の挑発に乗った華雄は戦斧を構え直す。

 

「――はあぁぁぁぁっっっ!!」

 

そして一呼吸置いた後渾身の力で上段から振り下ろした。

 

「……」

 

「ば、馬鹿な!?」

 

大きな金属音を立てながら見事華雄の一撃を凌いだ呂布、しかも―――

 

「私の金剛爆斧(こんごうばくふ)を片手だと!?」

 

彼女は片手で戦斧を受け止めていた。

 

「クッ、クソッ!」

 

たまらず距離をとる華雄、ここまで圧倒されてしまえば流石の彼女も実力差を理解したようだ。

 

「……」

 

「うっ……」

 

無言で近づこうとした呂布に対して後ろに下がる華雄、その目には恐怖の色があった。

 

「お前……弱い」

 

「っ!?」

 

その言葉に自分の武に誇りを持つ華雄の目が見開かれる。その目から恐怖は消えていないが、今の言葉は彼女にとってとても看過出来るものでは無かった。

 

(そんな、そんな事――)

 

「――あってたまるかぁぁぁぁっっっっ!!」

 

「……」

 

「がっ!?」

 

華雄が最後に放った斬撃は荒く軌道がみえみえだったため、呂布は難なくかわし彼女の首筋に一撃入れて意識を刈り取った。

 

「しょ、勝者北方、無所属『呂奉先』!」

 

『うおおおおおおお!』

 

………

……

 

「あ、圧倒的でしたね麗覇様」

 

「うむ、まさかここまでとは……華雄は未熟であったが弱くは無い、呂布が強すぎたのだ」

 

「かの者を我が軍に入れられれば良い戦力になるでしょう」

 

「うむ……」

 

桂花の言葉に少し難色を示す。最高の戦力になるのは間違いないが如何せん史実の呂布の行いが頭をよぎる。

 

(あれほどの腕前が刃向かえば止めるのは容易ではないな、何にしても会って話しをし見極めねば)

 

 

………

……

 

 

その後も呂布は難なく勝ち続け決勝戦まで生き残った。

 そしてついに反対のシードで戦っていた猪々子と春蘭が準決勝であたることとなった。

 

「ではこれより準決勝を開始します」

 

 

「南方、曹操軍所属『夏侯惇』!」

 

『うおおおおおおお!』

 

南方から現れた夏侯惇に声援が上がる。彼女も又持ち前の武力で他者を寄せ付けない実力を示してきた。

 

「北方、袁紹軍所属『文醜』!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

「ちょっと待て!何で私のときより声援が大きいんだ!?」

 

「そりゃあアタイの本拠地だからな」

 

「むむむ……ずるいぞ!」

 

「何がむむむだ……ずるくないね!」

 

緊張感の無いやり取りをしつつ阿吽の呼吸で同時に構える。

 

「では―――始め!」

 

………

……

 

準決勝が開始してから何度目かわからない剣戟の音が会場に響き渡る。

 観客達の眼前には―――

 

「ほらほらどうした春蘭、防戦一方か!?」

 

「クッ……おのれぇ!」

 

猪々子が春蘭を追い込んでいた。

 

「ぬぉりゃぁぁぁ!」

 

「グッ!?」

 

(いちいち止めの刃が弾かれてしまう、反撃が間に合わない!)

 

私塾に居た頃の猪々子は、大剣に『振り回されていた』が今はしっかりと『振り回している』あの頃とは雲泥の差だろう。

 

「――だぁっ埒が明かないな春蘭!堅すぎだっての!!」

 

「当たり前だ!――って誰が岩女だ!!」

 

「そんなこと言ってないだろ!?……こうなったら必殺技でけりをつけてやるぜ!」

 

「ひ、必殺技だとぉっ!?」

 

まだこの上があるのか―――と戦慄しながら猪々子を観察すると彼女は大剣を肩に担ぐようにして構えた。

 

「いっくぜぇ『大刀一閃(だいとういっせん)』!!」

 

「ぬわぁっ!?」

 

そして一呼吸溜めてから繰り出された一撃は今までのよりも鋭く速いのだ。たまらず春蘭は防ぎにいったが腕ごと弾き飛ばされてしまう。

 

「クッ、なんて衝撃だ……」

 

「――アタイの勝ちだな春蘭」

 

「何を言っている、まだまだ私は……ってあああああ!?」

 

勝利を宣言した猪々子に対してすぐに構え直そうとしたが武器に違和感があった。

 

「わ、私の剣がっ!?」

 

何と夏侯惇の剣は刃が綺麗に斬られ紛失していた。

 

「――勝者北方、袁将軍『文醜』!」

 

『うおおおおおおお!!』

 

「……~~っっいっよっしゃぁぁっっっ!!」

 

思わず叫ぶ猪々子、春蘭に勝つことは彼女の目標だったのでその喜びは計り知れない。

 

「くぅ……負けた」

 

春蘭は力なくうな垂れていたがすぐに立ち上がる。

 

「ずるいぞ猪々子!武器破壊を目的とした必殺技なんて!!」

 

「あれは武器破壊じゃなくて『武器ごと相手を斬る』技だよ、大会だから武器だけ斬ったけどな!」

 

実戦だったら真っ二つだぜぇ?とニヤリ笑いながら言葉にする猪々子

 

「ぬぅぅぅ、もう一度!もう一度勝負だ!!」

 

「っても武器が駄目になってんじゃ~ん」

 

「ええい猪々子!武器なんか捨てて素手でかかって来い!!」

 

「なんかその台詞に嫌な予感がするからおっことわり~」

 

「あっ!?待てい!」

 

激しい試合の後にもかかわらず二人は追いかけっこを始めてしまった。

 

 

………

……

 

 

「よくやったわ猪々子!よくその猪女を負かしたわね!!」

 

「け、桂花?夏侯惇とは面識があるのか?」

 

「い、いえ、でもなんか癪に障ると言うか相性が悪いというか、何か気にいらないんです!!」

 

「そ、そうか……」

 

面識のないはずの夏侯惇に敵意をだす桂花に軽く引くと、「誰が猪だーーっ!?」と聞こえてきた。

 

「決勝は、……少しきついですね」

 

「ああ、猪々子の腕は格段に上がったが相手は次元が違う。勝ち目は薄いだろうな」

 

 

………

……

 

「ではこれより決勝戦を開始します」

 

『うおおおおおおおおおお!!』

 

「南方、袁紹軍所属『文醜』!」

 

「ここまで来たら優勝したいっしょ!」

 

「続いて北方、無所属『呂奉先』!」

 

「……」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

「あっお前等!アタイを応援しろよ!?」

 

………

……

 

「呂布の声援が多いと言うことは……」

 

「はい、ほとんどが呂布に賭けています」

 

「むぅ……我は猪々子に賭けたのだがな」

 

「ええっ!?最後の大口は麗覇様だったんですか!!」

 

「うむ、我の見立てではこの勝負はまだわからぬ」

 

「猪々子にも勝ちがあると?」

 

桂花の疑問に頷き、袁紹が気になったことを口にする。

 

「理由はわからぬが呂布の動きが鈍い、それも連戦を重ねる毎に悪くなる一方だ」

 

「疲れ……でしょうか?」

 

「断定は出来ぬがそれに近い何かであろう」

 

――始め!

 

「む、始まったな」

 

開始と共に斬りかかる猪々子、呂布は最初の試合のように動かず待っているが――

 

「……え?」

 

「む?」

 

次の瞬間には呂布が吹き飛ばされていた。

 

 

 

………

……

 

 

「あ、あれ?」

 

吹き飛ばした張本人である猪々子にもわけがわからない、今まで呂布が見せてきた武力なら問題なく対処されるはずだった。

 

「……呂布選手気絶!よって勝者南方、袁紹軍所属『文醜』!」

 

『うおおおおおおおおお!?』

 

「りょ、呂布殿ーーー!!」

 

壁にもたれる様にして倒れている呂布に少女が駆け寄る。

 

「……ちんきゅー」

 

「呂布殿……まさか」

 

『ぎゅるるる~~~』

 

「お腹……すいた」

 

「ああっ、やっぱりなのです!審判!!」

 

「え?はい何でしょう」

 

「この試合は無効なのです!後でやり直しを要求しますぞ!!」

 

「ええっ!?だ、駄目だよ決まりだから」

 

「ぬがーーっ納得いかないのですーーっ!」

 

そしてしばらく呆けていた猪々子が意識を取り戻し

 

「あれ?アタイの勝ちって事は賭け金がぱぁじゃんか!!」

 

優勝したにも関わらず悔しそうに叫んだ。

 

 

………

……

 

「あの子、最後に呂布に賭けていたのね……」

 

「フハハハハハ手堅いというか何と言うか、猪々子らしいな!」

 

 

こうして記念すべき第一回武芸大会は猪々子の優勝により幕を降ろした。

 

 

 

 




猫耳軍師 荀彧

好感度 75%

猫度 ニャン!

状態 敬愛

備考 呼ぶと小走りで近づいてくる。
   褒められると目を閉じ謙遜するが口角が上がる。
   反射的に撫でようとして手を止めるとチラチラ見て何か言いたそうにしている。

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