恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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第13話

武芸大会の後、呂布と陳宮の両名を謁見の間に呼び出していた。

 本戦まで駒を進めた者達には袁紹自ら賞金が手渡される、ついでにそこで人格を見極めて勧誘する手筈だ。

 

「優勝は逃したものの、その方の奮戦見事であった。これが賞金だ」

 

「やりましたぞ呂布殿!これでごはんにありつけますな!」

 

「(……コク)」

 

賞金を受け取った陳宮が喜びの声を上げ呂布が頷く

 

「ところでお主らは何処かに仕官する予定があるのか?」

 

「(フルフル)」

 

「呂布殿の武を活かせる陣営は少ないのです。大会で名を売ってどこかに売り込む手筈だったのですが……」

 

「……負けた」

 

「でもあれは仕方なかったですぞ!お腹が空いては戦は出来ないのです!!」

 

優勝は逃しても十分名は売れたと思うが……

 

「ふむ……もし良かったら我が袁家に仕官せぬか?」

 

「な、なんと!袁家で召抱えてもらえるのですか!?」

 

「……」

 

「うむ、呂布の武もさることながらお主も磨けば光る原石と見た。優遇するぞ?」

 

「呂布殿!」

 

陳宮はあくまで呂布の意見を尊重するようだ。彼女の答えを聞こうと顔を向ける

 

「……条件」

 

「ふむ、可能なかぎり聞こう」

 

(さて条件とは一体……、大将軍の位か?、酒と金か?、まさか女子ではあるまい)

 

史実の淫蕩極まりない呂布の私生活を頭に浮かべ振り払う、目の前の少女にはそんな気配は無かった。

 

「家族……一緒」

 

「家族がおるのか?かまわぬまとめて面倒を見よう」

 

「来る」

 

「何、ここにくるのか?」

 

すると謁見の間の扉のほうから悲鳴が(嬉しそうな?)聞こえてきた。

 

「ちょっと、何の騒ぎよ!」

 

居合わせた桂花が扉に手を掛け様子を窺おうと開けたその時。

 

「ワンッ!」

 

「キャア!?」

 

犬の一鳴きと共に沢山の犬猫が転がり込んできた。

 

「すごい数だな、皆飼っているのか?」

 

「違う、皆家族」

 

袁紹の問いは強い口調で否定されてしまう、どうやら彼女にとって譲れないことらしい。

 

「これほどの大家族ともなれば食費が大変であっただろうな……」

 

「そうですぞ、ねね達の出費の大半は食費なのです」

 

「ふむ、まぁ呂布と陳宮の両名を家臣に出来るなら安い出費だな」

 

「……じゃあ」

 

「うむ、万事我に任せよ、お主とその家族が飢える事が無いよう取り計らおう。」

 

「わかった……仕える」

 

「呂布殿が仕えるのならねねも一緒ですぞ!」

 

「~~っ麗覇様!」

 

「どうした桂花、まさか反対するわけでは―――、おおっ?」

 

声がした方に目を向けると一点に沢山の犬や猫達が群がっていた。

 

「た、たすけて下さい~~」

 

姿が見えないがその中心に桂花が埋もれているようだ。本来彼女を助けるはずの斗詩や猪々子に目を向けると、斗詩は猫達と、猪々子は犬達と戯れていた。

 

「これお前達、桂花が気に入ったようだが彼女は困惑している。その辺にするがよい」

 

袁紹のその言葉に犬猫達は桂花から離れ、彼女はその隙に袁紹の背後まで逃げてきた。

 背後で小刻みに震えながら恐る恐る顔を出す様子は、どちらが小動物なのかわかったものでは無い。

 

「助かりましたぁ……麗覇様」

 

憔悴しきった感じで礼をする桂花の服は、破れてはいないものの色んな足跡が付きボロボロだ。

 気のせいか頭巾の猫耳に力が無い。

 

「「……」」

 

「む、どうしたのだ?華雄が戦斧を片手で止められた時の様な顔をして」

 

余談ではあるが彼女は敗戦の悔しさからか、本戦出場者に贈られる賞金を受け取らずに南皮を離れていた。

 

「驚きましたぞ……彼等が呂布殿以外の命令に従うなんて。」

 

「……(コクコク)」

 

「あら、あなたの命も聞かないの?」

 

「ねねだとお願いしないと無理なのです」

 

「フハハハハハ!我の威光にかかれば造作も――「キャンキャン」む?」

 

話しの途中で他の犬達よりも一際小さい子犬が袁紹に向かってくる。

 

「お主は他の者達より小柄だな、それに大分軽いではないか」

 

足元によってきた子犬を抱き上げると、先ほどよりも驚いた様子の二人が居た。

 

「他の者に続いてセキト殿まで!?」

 

「……すごい」

 

「む?人懐っこそうに見えるが……」

 

「セキト殿は人を見る目が厳しいのですぞ!」

 

「袁紹様……いい人だから」

 

どうやらセキトと呼ばれる子犬は特別な存在らしい。

 

(それにしてもセキトか……、馬はいるのだろうか)

 

史実で呂布が董卓から譲り渡された『赤兎馬』を思い出し疑問に思っていると呂布が口を開いた。

 

「……恋」

 

「む?それは呂布の真名か?」

 

「真名……恋」

 

「ねねは音々音です。呂布殿と二人お世話になりますぞ」

 

「そうか、では我が真名麗覇を預けよう。二人の働き、期待しているぞ!」

 

「(コク)」

 

「おまかせですぞ!」

 

「だがその前に」

 

頷いた恋に呼応するように声を上げる音々音、彼女は恋の補佐として働くことに喜びを見出しているが、袁紹は主君として言わねばならないことがあった。

 

「音々音、お主はしばらく恋の側から離す事とする」

 

「な、なんですとーーーっ!?」

 

袁紹の言葉にバンザイをするような格好で叫ぶ音々音、やはり恋と離れるのは相当嫌らしい。

 

「お主は恋の補佐として大きな欠点を抱えている」

 

「欠点?そんなの――」

 

呂布殿にかかればあってないようなもの――そう口にする前に袁紹に言葉を遮られる。

 

「音々音、お主は恋のお荷物になりたいのか補佐になりたいのか、どちらだ?」

 

「ねねはお荷物なんかでは無いです!!」

 

可愛らしく頬を膨らませながら憤慨する音々音、彼女は今まで恋と旅をしてきて縁の下として支え続けてきた自負がある。

 大雑把な恋に代わり食費の計算を行ったり、賊退治では効率よく殲滅できる箇所を指摘したり、仕える主君探しのため武芸大会に出場したのも音々音の案だ。

 未熟ながらも自分に出来る精一杯で恋の傍らに有り続けた音々音には、主君といえ会ったばかりの袁紹にお荷物扱いされる謂れは無かった。

 

「麗覇様……ちんきゅー頑張ってる」

 

「りょ、呂布殿ぉ……」

 

大好きな人に庇われ音々音は、改めて自分がお荷物ではないと確信し袁紹に目を向ける。

 しかし彼の目には納得した様子は無い。

 

「なるほど……、今まで補佐として力になってきたようだな」

 

「そ、そうですぞ」

 

「ならば問おう、何故恋は優勝出来なかった?」

 

「っ!?」

 

その言葉に音々音の目が驚愕で見開かれる。しかしその驚きは核心を突かれたからでは無く、的外れな質問だと思ったからだ。

 

「大会は個人競技ですぞ……、ねねが助言する必要は無かったのです」

 

「違うな、お主に助言できる重要な事が一つあった。……恋の『遊び』だ」

 

「!?」

 

「……遊び?」

 

何かに気が付いた音々音とは対照的に、恋は首を傾げている。きっと彼女の頭の中では犬や猫達と戯れている光景が広がっているのであろう。

 その様子に袁紹は苦笑しながら言葉を続ける。

 

「その遊びでは無い、戦いの最中の『様子見』の事だ」

 

大会中の彼女は、実力差があったにも関わらず。終始相手の攻撃を有る程度受けてから勝負を決めていた。

 始めから本気で動いていればどの勝負もすぐに方が付いていたであろう。

 

「始めから本気で攻めて勝利していれば、それだけ大会の進行も早くなったはずだ。体力の温存にもなったであろう。そして音々音はそれを知っていたはずだ」

 

「ちなみに呂布の動きが鈍くなっていたのを見抜いた麗覇様は、最後猪々子に賭けたわよ?」

 

「ええっ、麗覇様アタイに賭けてたんか!?くぅ~、それを知っていれば!!」

 

「そう言う問題なの?文ちゃん……」

 

「あっ、ちなみに猪々子、相手に賭けるのは違反だから後でお仕置きよ」

 

「うぇっ!?」

 

気の抜ける会話がされているが、音々音は俯き袁紹の言葉に考え込み口を開く。

 

「確かにねねが試合前に、いえ試合中であっても呂布殿に注意すれば決勝まで力がだせていたかもしれないのです。……でも」

 

「『でも呂布殿なら大丈夫だと思った』であろう?仲間を信頼するのは悪いことではない。だが行き過ぎて盲信しては恋の為にならぬ」

 

袁紹の言葉に力なくうな垂れる音々音、以前までの彼女ならば『そんな心配は無用ですぞ』と鼻で笑っていたかもしれない。しかし音々音の頭に浮かぶ光景は、決勝戦で猪々子に吹き飛ばされ壁に力なく背を預けるようにして倒れていた最愛の人の姿、助言していた所で恋の体力が持ったかはわからない。

 それでも余力が残せていた可能性はあった。そして自分は彼女を盲信するあまりその助言をしなかった。

 

「……」

 

(大分反省しているようだが……、ここで情けをかけては彼女のためにならぬな)

 

俯く音々音に、心を鬼にした袁紹はさらに言葉をぶつける。

 

「そして今回の一件が戦場であったら、恋の命に関わっていただろう」

 

「っ!?」

 

音々音もその事は理解していたものの、考えるのが怖くて頭の隅に追いやっていた。

 

―――今までの賊退治でも似たような場面があった。数が多い賊たちに時間がかかり恋の動きは鈍くなっていたが、それでも他者を寄せ付けないその武力に音々音は度々突撃を指示していた。

 もしこの先も同じように突撃させ、疲弊した状態で猪々子のような強敵に出くわしたら――

 

「うっ……うぅ」

 

そこまで考えて音々音は現実へと意識を戻した。彼女はただの盲信者ではない。

 これまで恋を支え続けてきたことからも解るように、元々理解力は高いのだ。

 

「うわぁぁん!呂布殿、死んじゃ嫌ですぅ!!」

 

そして許容量をこえたのか泣き出してしまった。

 

(さすがに言い過ぎたか……いや、この問題を残せばのちのち――「麗覇様」む?)

 

泣き出した音々音に袁紹が胸を痛めていると斗詩が近くに来ていた。

 良く見ると猪々子や恋も側にいる。

 

「こんな小さい子を泣かせるなんてひどいです!」

 

「……何?」

 

「そうだぜ麗覇様、いくら何でも言いすぎだろ~」

 

「……泣かせた」

 

「ちょ、ちょっとあんた達!麗覇様は陳宮の事を思って!!」

 

その後、三人の剣幕に圧され(桂花は味方)音々音が泣き止むまであやす破目になった。

 

 

 

………

……

 

 

 

「「「ごめんなさい」」」

 

「わかればよい」

 

音々音が泣き止んだ後、袁紹は自分の考えを丁寧に聞かせ三人を納得させていた。

 

「まさか斗詩までわからなかったわけではあるまい?」

 

「うっ、頭では理解していたのですが小さい子が泣いているのを見たらつい……」

 

どうやら幼子の涙には弱いらしい。以後気をつけねば

 

「わ、私は麗覇様の心中を察していました!」

 

「うむ、感謝するぞ桂花」

 

「はい!」

 

軍師として厳しい対応にも慣れている桂花だけは、情に流されず叱咤した袁紹の気持ちを理解してくれていたようだ。

 

「音々音、お主が持つ大きな欠点……わかったであろう?」

 

「グスッ……、盲信」

 

「そうだ、お主はこれからも恋を補佐するに当たってその欠点を取り除いてもらう」

 

「その為にしばらく呂布殿と離れるのですか?」

 

「うむ、桂花の補佐として彼女からいろいろ学んでもらう」

 

「そ、そこの厳しそうな人ですか?」

 

「ちょっと、誰が厳しそうなのよ」

 

「違うのですか!」

 

「……違わないわね」

 

一瞬喜びの表情を見せたものの桂花の最後の一言に再び涙目になる音々音、表情がころころ変わって愛らしい。

 

「ちんきゅー……」

 

「呂布殿ぉ」

 

そんな彼女に恋が話しかける。その表情は心配していると言うより、『無理ならいい』とでも言いたそうだ。

 音々音の盲信の一因は、彼女の甘やかしにもあるのかもしれない。

 

「……いえ、頑張りますぞ!ねねは立派になって呂布殿の補佐に返り咲くのです!!」

 

「……ん」

 

思わず止めようとした袁紹だが杞憂だったようだ。音々音はきちんと先を見据えている。

 

―――こうして袁紹の陣営に天下無双の武と、のちにその補佐として名を馳せる軍師の両名が仕官した。

 

 

 

 

………

……

 

恋と音々音が仕官した数日後

 

「ここが南皮ですか~、大きな街ですね~」

 

まるでバスガイドのような格好をした少女が南皮へとたどり着いていた。

 

「さてさて、お嬢様の件をどうお伝えしましょうか~」

 

彼女―――張勲は、袁紹から妹である袁術に送られる手紙の返事と、近況報告のために来ていた。

 

(袁紹様が噂通りの方なら誤魔化すのは容易ではないですね~、気合をいれなくては!)

 

もっとも彼女には、真実を報告するつもりは無かったが――

 

 

 

 

 

 




猫耳軍師 荀彧 変動無し


NEW!暴食無双 呂布

好感度 50%

犬度 …… 

状態 差し出す食べ物により変動

備考 食べ物を持ち自分を呼ぶ見知らぬ人と、
   何も持たず呼ぶ袁紹がいた場合、食べ物に釣られる


NEW!盲信軍師 陳宮

好感度 10%

猫度 にゃんですと!?

状態 主君<<<<呂布

備考 初対面から厳しい言動で諌められたため少し怯えている
   呂布と袁紹なら迷わず呂布をとる





   

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