恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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第16話

趙雲が客将として袁家に来る事になった後日、彼女の紹介で二人の少女と顔をあわせていた。

 

「郭嘉と申します。以後お見知りおきを」

 

「風は程立と言うのですよ、どぞよろしく~」

 

『俺は宝譿(ほうけい)だぜ、よろしくな兄ちゃん』

 

「……」

 

程立の頭上に乗っかっている人形も自己紹介する。

 

(いや、今の声はどう考えても……)

 

思わず郭嘉に視線を送るが、彼女は目を伏せ静かに首を横に振った。

 どうやら触れてはいけない事柄らしい。

 

「……良く来てくれた。我が袁本初である」

 

袁紹は空気を読んで話を進めた。

 

「お主達は袁家に仕官する……と認識して良いのか?」

 

「いえ、私達は」

 

「星ちゃんと同じく、客将として雇って欲しいですよー」

 

どうやら彼女達も趙雲と同じく、いろんな陣営を見て回っているようだ。

 

「良かろう。歓迎する」

 

「……麗覇様、宜しいのですか?」

 

快諾する袁紹に対して桂花は難色を示している。それもそのはず、武官ならまだしも文官として働くという事は、この地の政務に携わることになる。

 そのまま袁家に仕えるのなら問題ないが、他の諸侯に仕える事になれば情報の漏洩に繋がる。

 彼女はそれを危惧していた。

 

「構わん、後ろ暗い政策などしていないし、むしろ他でも真似て欲しいくらいだ」

 

軍務だけ厳密にすれば良い――と、彼女に言い聞かせる。

 

「畏まりました。出過ぎた口を利いてしまい申し訳ございません」

 

スッと後ろに一歩下がり深々と頭を下げる桂花、相変わらず仕事の時の彼女は真面目だ。

 その様子に苦笑しながら口を開く

 

「桂花の発言を、出過ぎたものだと思ったことは無い。むしろ――」

 

そこで言葉を切り、顔を上げた彼女と目を合わせる。

 

「お主が気を張ってくれるから大胆な決断も出来るのだ。感謝しているぞ桂花」

 

「も、勿体無きお言葉!」

 

「「……」」

 

そんな二人のやり取りを見ていた郭嘉と程立は、袁紹の器をはかろうと思考する。

 

(演技……には見えませんね、そもそも無名な私達にそこまでする必要は無いでしょうし。

 星から聞いた通り、周りの者に慕われているようですね)

 

郭嘉は袁紹の器を素直に賞賛し。程立は

 

(あらら、荀彧さん惚けてますね~、あれで素だとしたら女たらしです。

 星ちゃんの言う通り、美女に囲まれるわけですね~。―――でも)

 

そこまで考えた後、目を鋭くし――

 

(得てしてそういう人ほど身内には無防備なのですよ、これだけ大きな勢力であれば獅子身中の虫も多いはず。袁家にそれを駆除する人材はいるのですかね~?)

 

袁紹の甘さと、彼に足りない物を見抜いた。

 

「では麗覇様、彼女達の能力を見た上で、適した仕事を任せたいと思います」

 

「うむ、頼むぞ桂花」

 

………

……

 

―――数日後

 

「桂花、二人の様子はどうだ?」

 

「えっと、優秀……です」

 

「歯切れが悪いな、何かあるのか?」

 

「な、何でもありません!」

 

「……?」

 

「フフフ、この間の模擬戦の結果を気にしているんですね?」

 

「ちょっと風!?」

 

何処からとも無く現れた程立の発言に慌てる桂花、さらりと真名で呼んでいたが、この世界の女性達は仲良くなるのが本当に早い。

 

「……実はこの間、兵達を指揮して模擬戦を行いまして」

 

桂花が率いる兵達と、郭嘉、程立の両名が率いる兵で模擬戦を行ったようだ。

 二人とも攻守優れた指揮能力だったが、郭嘉は状況に応じて臨機応変に動くのが早く、程立は合理的な策を理解したうえで、桂花の虚を突く様な策を編み出して見せた。

 

結果、桂花が敗北を喫する事となったが―――

 

「二人だったから勝てたのです。一人ずつ相手をされていたら厳しかったでしょう」

 

程立の後からやって来た郭嘉が、桂花を賞賛する。

 

「そうでしょう?風」

 

「……ぐぅ」

 

「寝るな!」

 

「おぉっ!?」

 

そして、話の途中にも関わらず眠りだした程立を叩き起こした。

 真面目な郭嘉に対して、どこまでものんびりした様子の程立、対象的な二人だからこそ仲が良いのかもしれない。

 

………

……

 

その日、普段飄々としている趙雲にしては珍しく、瞳を闘志でぎらつかせていた。

 

「今日こそは、恋から一本取らねば!」

 

彼女が袁家に客将として招かれ早数週間、その間斗詩、猪々子、恋の三人と武を競い合っている。

 斗詩には勝ち越し、猪々子とはほぼ互角、しかし恋を相手には一度も白星を上げることは出来なかった。

 だが趙雲の毎日は充実している。ここに来るまで彼女は、自分の武に絶対の自信を持っていた。

 

それもそのはず、生まれ持った武の才能を長い期間実戦の中で鍛え上げてきたのだ。

 今の彼女は文字通り一騎当千の武力を持っている。……はずだった。

 

しかし趙雲は出会ってしまった。真の一騎当千、武の頂に居るであろう人物――呂奉先、真名を恋

 普段の眠そうな雰囲気からは想像も出来ない武力、ひとたび得物の方天画戟を手にした彼女を、単騎で止められる気がまるでしない。

 

―――始めの模擬戦では一瞬だった。様子見のつもりで突きを放った瞬間衝撃が走り、気が付くと槍が弾き飛ばされていた。

 二回目の模擬戦では数瞬だった。前回の反省を踏まえ、開始と同時に全力で突いたが、趙雲が一突きする頃には彼女は三度も矛を振ることが出来ていた。

 

斗詩や猪々子曰く彼女は、ある日を境に模擬戦でも最初から全力で向かっていくようになったらしい。

 

「私としてはありがたい」

 

自分の武は頂に届いてなど居なかった。まさか彼女のような遥かな高みと出会えるとは……

 

………

……

 

「調子はどうだ?」

 

「悪くありませぬなぁ、恋達と鍛練するたびに武が冴える実感が沸きます故」

 

「まだ伸び代があるのか……」

 

「恋と出会って武の極地はまだ遠いと思い知らされましたからな、ところで……」

 

様子を見に来た袁紹を軽く問い質すように語りかける。

 

「何故彼女ほどの者が未だ無名なのです? あれほどの腕前で諸侯に名が広まっていないとは……」

 

「腕が立ちすぎるのも考えものでな」

 

各地で賊の動きが活発になっているが、ここ南皮においてその被害は少ない。精々他の地域から賊が流れてくるだけだ。

 その程度の相手には恋はおろか斗詩達でも過剰戦力である。故に賊の相手は訓練を兼ねて新兵達が鎮圧していた。

 

なら武芸大会はどうか――、それこそ過剰戦力である。彼女の武力は文字通り次元が違う。

 圧倒的過ぎる力で若い芽を潰す可能性もある。大会としても盛り上がりに欠け、袁家としては賭けの利益的に赤字になるなど、いろいろと問題があるため最初の大会以降彼女の出場は無かった。

 

「だがもうすぐ天下に響き渡るだろう。否が応にも……な」

 

「……」

 

話しの途中にも関わらず。遠くを見るような目で呟く袁紹、趙雲はそんな彼の横顔を見ながら思いを巡らせる。

 

ここ数週間で袁紹の人となりを見てきたが、彼を一言で表すと『寛大で豪快な当主』だ。

 一見、単純明快な人柄のように思えるが、稀に現在のように遠い何かを見つめ考えを巡らせている。

 その内容は桂花達にも語られることは無く、彼が何を見据えているのか誰にもわからない。桂花曰く、この先の時代を憂うているのではないか、と彼女は予想していたが

 

「貴方は一体、何を見据えているのですか?」

 

「さて……な、袁家に仕官し我の側に居れば、その一端がわかるかもしれぬぞ?」

 

カマを掛けて見るも今のようにはぐらかされてしまう。

 趙雲の中に、袁紹の隣に立ち視点を共有してみたいという欲求が出来ていた。

 

………

……

 

それからさらに数日後、三人と袁紹達は再び謁見の間で顔を合わせていた。

 

「それで、お主達の答えは決まったのか?」

 

袁紹のその言葉に趙雲が歩み出る。

 

「では私から、此処に来た時も申しましたが袁家に……いや、袁紹様に仕えたいと思います」

 

からかい甲斐のある軍師、研鑽し合える武官達、そして嗜好品の件を抜きにしても敬愛できる主。

 少しからかうのが難しそうだが、それはこれから弱点を見つければ良い。

 

「我が陣営を見てきて出した答えのようだな、ならば歓迎しよう。期待しているぞ星」

 

「ハッ」

 

改めて臣下の礼をとる星、余談だが、袁紹が直接仕官を受け入れた家臣とはその場で真名を交換し合う。

 星は初日で真名を預けていたが、今日改めて家臣となったため彼女を真名で呼んだのだ。

 

「では次は風なのですよ~……ぐう」

 

「「寝るな!」」

 

「おぉ?」

 

歩み出ておきながら眠りだす程立に対して、袁紹と郭嘉の両名が声を出す。

 

「フフフ、失敬失敬、実はこの話題の前に重要な話しがあるのですよ」

 

「ふむ、聞こう」

 

「どもです。実は風は程昱と名乗る事にしまして」

 

「改名……か、理由を聞いても?」

 

「もちろんですー」

 

程立――もとい程昱が言うには、彼女がこの袁家に来てから『泰山に登り両手で太陽を掲げる夢』をよく見たという。

 

「太陽か」

 

「そうなのですよ、それで思ったのですが此処はお日様のような陣営です」

 

「我が袁家がか?」

 

はい、と柔らかい笑顔で話しを続ける。

 

「この暗い時代において、民を日輪の光で照らすかの如く笑顔にしていますね。風はそれを支えて行きたいです」

 

「ふむ、と言うことは」

 

「はい、風は程昱、真名を風と言うのです~。無防備な太陽さんを守ってあげるですよ」

 

「……?」

 

風の言葉に袁紹は首を傾げる。そんな彼の様子を見ながら彼女は楽しそうに笑っていた。

 

「では、最後に私ですね」

 

そして郭嘉が歩み出る。

 

「私は、旅を続けていきたいと思います」

 

どうやら彼女は袁家には仕えないらしい。てっきり風と共に残るものだと思っていた面々には驚きだ。

 

「……理由をきいても良いか?」

 

「はい」

 

彼女、郭嘉が言うには、ここ袁家に知の才が足りているとのこと、桂花は元より、まだ未熟だが磨けば光る音々音、そして今日加わった風、この環境では自分の力を十全に活かせないとの事だ。

 

「我が袁家でも十分活かせると思うのだがな……」

 

「ありがたいお言葉ですが、自分をもっと必要としている陣営に行きたいと思います」

 

「ふむ、では旅に役立つ物を後で与えよう」

 

「ありがとうございます」

 

余談だが、旅に出る郭嘉に袁紹が与えたのは、食料、馬、その他消耗品、旅の護衛、それらは給金とは別に渡され、それを知った郭嘉が目を白黒させたとか、させていないとか……

 

「寂しくなりますね~。稟ちゃん」

 

「そうですね……。風」

 

「何、別に今生の別れでは無いのだ。また出会えるさ」

 

「星ちゃんの言うとおりです。稟ちゃん、それまで鼻血を出さないように気をつけるですよ」

 

「だ、出しません!」

 

こうして新たに、袁紹の陣営に星と風の両名が加わることとなった。

 

 

………

……

 

 

数ヵ月後、南皮

 

「うっわー、すごい人だかりだね~」

 

「これ鈴々、余り離れるでない」

 

「でも愛紗、あそこすごいうまそうな匂いがするのだ!」

 

「フフフ、まだ時間あるし食べて行こうか?」

 

「……桃香様がそう仰るのであれば」

 

「それじゃあ決まりなのだーー!」

 

三人の娘が姦しく歩きながら――

 

「食事したあと袁紹様に謁見を頼まなきゃね!」

 

「……袁家当主とそう簡単に謁見出来るでしょうか」

 

「大丈夫だって! 心配性だな愛紗ちゃんは~」

 

南皮でも有数の『高級』料亭に入っていった。

 

 

 

 

 




NEW!常山の蝶 趙雲

好感度 30%

猫度 ……はて?

状態 普通

備考 魚醤の一件でも、主の器としても尊敬している。
   ……ように見えて実は弱点を探っている。


NEW!居眠り軍師 程昱
 
好感度 30%

猫度 ……zzz

状態 普通

備考 袁紹を太陽みたいな主と思っている。
   実は彼の無防備さに苛立ちを感じている。

 

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