恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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閑話―猪々子― 

 第一回の武芸大会から月日は流れ、恋、音々音、星、風など、頼れる仲間が増え、劉備達と邂逅した後日。

 

『第一回袁家主催チキチキ、出された料理は全部平らげろ大食い大会~~』

 

『うおおおおおおおおおおおおお!』

 

 猪々子発案による大食い大会が決行されていた。

 

 

 

 

 

 時を少し遡る。

 

 ここ南皮では袁家主催の祭りが度々開かれる。その内容は武芸大会に留まらず数多く存在する。

 今の時代では娯楽が少なく退屈な日々が続いている。そんな民衆に生きる活力を与えようと様々な催しを企画しているのだ。

 

「さて、他に案がある人は?」

 

 袁家の屋敷、その一室で通例となる会議を開く、進行は桂花が務め、斗詩が書記だ。

 祭りの主な目的は民衆に娯楽を与えることだが、それと同時に南皮の経済を活性化させる役割も担っている。特に武芸大会など、他地域から強者を呼び寄せるような催しは陣営の強化にも繋がるため、袁家にとって祭りの企画は重要な政務になっていた。

 

「我が出した案でよかろう?」

 

「否、私の案こそ最善ですぞ!」

 

『却下』

 

 自分達の案を薦める袁紹と星の両名。その二人を除く全員から即座に反対の声が上がった。

 

 袁紹発案の祭りの内容は『お御輿』 自由に作り上げた御輿を担ぎ上げ街を練り歩くというもの。一見普通の祭りだが問題が多い。南皮での祭りは宣伝をしてから開かれるため基本的に人で埋め尽くされる。人が通るのもやっとな状況に多数の御輿は危険である。

 

「隙間を風のように駆け抜ければよかろう!!」

 

『無理』

 

 確かに袁紹の御輿は驚異的な機動力を発揮し人ごみさえ物ともしない。だがそれが出来るのは彼の御輿だけであり、一般人にそれを求めるのは酷と言うものだ。そもそも御輿祭りでは大した経済効果は望めない。

 皆の反応に意気消沈した袁紹は真っ白になりながらうな垂れる。彼の闘い終わったのだ……

 

「フ、やはり私の――『それも無い』せめて最後まで言わせよ!」

 

 再び名乗りを上げた星に対し食い気味に口を挟む。彼女の発案した祭りは―――

 

「何故だ!? メンマと酒の需要は大陸一であろう!!」

 

 彼女の趣向丸出しな『メンマと酒』の品評会であった。――そこまで悪くは無い。

 御輿に比べれば利益を得られるだろうし。美食は娯楽にもってこいだ。だが――

 

「需要が狭すぎるわ!」

 

「ば……馬鹿な」

 

 桂花は歯に衣着せぬ言葉で一蹴した。彼女の言うとおり需要が余りにも狭い。

 酒は兎も角、そのツマミがメンマだけでは飽きられてしまう。それに利益があるとは言え、あくまで御輿と比べてであって、大した経済効果は望めないだろう。

 

「星」

 

「……恋?」

 

「恋も…………メンマ好き」

 

「お、おぉ……私の心の友はお主だけだ! 恋!!」

 

 皆に一蹴されうな垂れる星を見かねたのか、恋は彼女を励まそうと声を掛ける。

 心に冷たい風が吹雪いていた星は歓喜しながら立ち上がり、恋に抱きつくと同時に頬擦りした。

 普段飄々としている星の変わりっぷりに皆は目を見開きつつ、桂花の進行に基づき会議を進めた。

 

「猪々子、貴方は何かあるかしら?」

 

「え、アタイ?」

 

 とりあえず色んな案を提示させようと、桂花は何故か会議に消極的な猪々子に声を掛ける。

 普段の彼女なら、このような議題には喜々として参加するのだが……

 

 本日の猪々子は上の空、皆のやり取りを見ているだけだった。

 

「うーん、大食い大会とか?」

 

『……』

 

「だ、駄目か? 祭りだから盛り上が――『それだ!』わッ!?」

 

 猪々子の何気ない提案に皆が食いつく、余りの勢いに提案した本人が椅子から転げ落ちそうになったが……そんな彼女には目もくれず、大食い大会について話し始めた。

 

「武芸大会のように競うことで賭け事による利益が見込めるわ」

 

「一般人も参加しやすいですね~」

 

「宣伝になると銘打って、各地の料理人を呼び寄せられますぞ!」

 

「南皮でも料理人は多いですし……大会の料理以外は出店で提供するのも良いかもしれません」

 

「私の盟友であるメンマの料理人も呼び寄せましょう!」

 

「沢山……食べられる」

 

「そして見世物として御輿を――『却下』チッ」

 

「……」

 

 発案者を他所に大会の内容が練り上げられていく、猪々子としては己の欲に従っただけの発言なので、ここまで皆の琴線に触れるとは考えておらず目を白黒させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして冒頭に戻る。

 

「それでは、本大会の注目選手達の入場です!」

 

 開かれた大食い大会には多数の参加者が集っている。出場するのに資格や決まりなど無く、武芸大会よりも参加のハードルが低いことが幸いしたようだ。

 しかし百人に及ぶ参加者達を管理するのは難しい。そのため、一般の参加者達は広場の簡易食卓に、司会者が呼ぶ注目選手――所謂『優勝候補』と目される者達は急遽設置された高台の上で大会に参加することになった。

 

「まずは一人目、『その食い意地は袁家一?』皆さんご存知文醜様ーー!!」

 

「やってやるぜ!」

 

『うおおおおおおおおおお!!』

 

 司会者の微妙な紹介と共に現れた優勝候補の一角、猪々子。

 

 ここ南皮の住民であれば彼女=大食いは常識である。食欲旺盛な猪々子はよく街で食事しているのだ。それも袁家での食後にである。

 袁紹は家臣たちと共に食事をすることを好む、その中において猪々子の大食いに配慮し。彼女の食事には数倍の量を出されるのだが―――常人であれば見ただけで満腹感を感じるほどの料理を難なく平らげ、その上で食い足りないと称して街に繰り出すのだ。

 

 そしてその過程で広大な南皮にある食事処を制覇していた。間違いなく優勝候補である。

 

「続いて二人目、『武も胃袋も次元が違う』呂奉先様ーー!!」

 

「……」

 

『うおおおおおおおおおおおおッッッッ!!』

 

「あ、またアタイの時より声援が大きいじゃないか!!」

 

 静かに歩み出る恋、その姿に観客、参加者問わず沸きあがる。呂奉先の名は武芸大会の頃から話題沸騰だった。そんな彼女も猪々子のように街に繰り出しては食べ歩きをしている。

 

 武芸大会での熾烈な活躍もあり、初めは敬遠される存在だったが今は民衆に愛されている。

 その大きな理由は恋の食事風景だ。黙々と口を動かし食事するその姿は、リスのような愛らしい小動物を連想させ見る者全てを癒してしまう。今では彼女の食事見たさに無料で料理を提供する場所があるほどだ。

 

 そしてそんな彼女も例に漏れず大食いである。街に繰り出す理由は猪々子と同じく、南皮の食事処はおろか屋台に至るまで制覇済みなのだ。そのため最優勝候補と噂されており、賭け金は彼女に集中していた。(次点で猪々子)

 

「そして三人目、『今大会最年少』トントンちゃーん!!」

 

「沢山食べるのだ~!」

 

『おおおおお!』

 

 三番目に現れた娘は猪々子達に比べとても体が小さい。体格は音々音より少し大きいくらいで何故か……豚の被り物をしていた。

 

 先に紹介された猪々子、恋とは違いこの娘の素性は不明である。参加者達の中で最も幼いであろう彼女は、司会者のノリで注目選手の一人にされてしまった。

 別に悪気があった訳ではない。他所から来たであろう童子に良い思いでを作ってあげようという多少の善意と、見た目幼く奇怪な被り物をした選手の登場に、観客がどのように反応するか見たかっただけだ。

 

 そんな司会者は彼女の食べっぷりに驚愕することになるが――

 

 

 

 

 

「鈴々ちゃーん! がんばれーー!!」

 

「桃香様、今は」

 

「あ、そうだった! トントンちゃーん! がんばれーー!!」

 

 観客達の中に見覚えのある顔ぶれが紛れている。劉備と関羽だ。

 袁紹と謁見した彼女達は、彼の要請により幽州へと出立していたが途中で引き返して来ていた。

 

「それにして桃香様、以後は今回のようなことが無いように頼みますよ?」

 

「あ、あはは……ごめんなさい」

 

 幽州へと向かっていた劉備達一行は途中で路銀が尽きてしまった。そもそも、以前料亭での支払いが出来なくなったと言う経緯がある彼女達が、多くの手持ちを持ち合わせていないことは当然である。

 

 そしてそれに気がついたのはあろう事か、南皮を出発して一週間が経った道中。

 金銭管理を担当していた劉備が確認した時であった。幽州まではまだ遠く、難儀していた劉備達は大事を取って引き返してきたのだ。

 

 とは言え、既に料亭の一件で助けになった袁家に無心するわけにはいかず。短期間の働き口を探して途方に暮れていると、今回の大食い大会を人伝に知った。そして優勝賞金を狙い彼女達の中で一番の大食いである張飛が参加することになったのだ。……無論、保険として料亭で働いてもいるが

 

「何も被り物をさせずとも……」

 

「だって恥ずかしいじゃない!」

 

 張飛の顔を隠すために被らせた豚の被り物を見て言及する関羽。劉備はまくし立てるように弁論した。

 

 言うまでも無いがこの祭りは袁家主催である。そうなれば袁紹達とも出くわす可能性が高い。

 会わせる顔が無い――謁見の際に醜態を晒したのもあるが、本来であればすでに幽州に到着しているはずの自分達が此処に居るのはまずい。

 

 袁紹は気にしないかもしれない。彼ならきっと高笑いと共に路銀を融通してくれるだろう。

 だが、袁紹に尊敬の念を抱き始めていた劉備は、これ以上無様な姿を見せたくなかった。

 

「……」

 

 両の手で顔を隠し。耳まで赤くなった主を見ながら関羽は溜息を洩らす。

 それまで唯我独尊な主が羞恥心を覚えたのは嬉しいが、それとあの被り物は話が違う。顔を大きく覆っているため隠せてはいるが体が出ている。服装も変えておらず口調も今まで通りだ。本気で誤魔化そうとしているのだろうか

 

 既に隣の食卓に着いている文醜と親しげに話している。そんな様子を見て関羽は頭を抱えそうになった。

 

 

 

 

 

 

「そして最後に登場するのは何とあのお方『名族の胃は無限大?』袁本初様ーー!!」

 

「フハハハハハ! 我、参・上である!!」

 

『……』

 

 金色の光と共に現れた袁紹に皆が数瞬惚け、そして――

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッ!!』

 

 大地を揺るがすような歓声が響き渡った。猪々子と恋は目を丸くしている。

 袁紹の参戦は彼女達に伏せられていたのだ。

 

 他の参加者達よりも一際豪華な食卓に着く袁紹。猪々子は思わず話しかけた。

 

「麗覇様……参加すんの?」

 

「愚問である。この席に着いているのだからな!!」

 

「……」

 

 猪々子は首を傾げる。他の大会ならまだしも今回は大食い大会なのだ。これまで袁紹と共に過ごしてきたが、彼の食事の量は普通だ。大食いなどではない。

 余興として参加したと見るのが普通だが――あることを確認しなければいけなかった。

 

「な、なぁ麗覇様……もしかして賭けていたりする?」

 

 その言葉に袁紹は笑みで答えた。あ、これ賭けてるわ、と察し戦慄する。

 参加者が他人に賭けるのはご法度である。そうなれば必然的に自分に賭けた事になる。何故それに戦慄するか――

 

 袁紹を語る上で無視できない特徴がある。運の良さだ。それも並大抵のものではない。

 頭上から鳥の糞が落下してくれば、何かで立ち止まりそれを回避し。

 何かを始めれば必ず成功し。くじを引けば必ず当たり、気がついたら美女の臣下に囲まれていて、そして賭け事は――外したことが無かった。

 

 だが猪々子は不敵な笑みを浮かべる。今回は『大食い』大会なのだ。運が関与する場面は無い。

 そこまで考え視線を恋に移す。やはり注目すべきは彼女だ。

 

 恋には沢山の『家族』がいる。そのため食費も袁家で一番掛かっているのだが、大部分は恋の大食いが原因だ。個人の食費だけで言えば猪々子よりも上である。猪々子はあえて袁紹と張飛を無視。恋を好敵手に定めた。

 

「それでは一品目、巨大肉まんーー!!」

 

 そしてついに大食い大会が始まる。小手調べとばかりに現れた巨大な肉まん。

 司会者の合図と共に皆がかぶりついた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五品目、特盛チャーハン完食ーー! 一般の方々はもう残っていませんが、有力選手はなんと四人全員残っています! 信じられません!!」

 

「マジかよ」

 

 その事実に猪々子は素直な感想を洩らす。両隣の恋、そしてトントンと言う娘は兎も角、袁紹がここまで大食いなのは予想外だ。

 

「麗覇様ってそんなに食えたっけ?」

 

「我がいつ食えないと言った。普段は『食わぬ』だけだ」

 

 袁紹にとって食事とは量よりも質である。美味な料理を適量堪能する事を好む彼は、その言葉の通り満腹まで食事したことが無いだけで、胃袋の限界まで挑戦したことが無い。

 普段であれば名族として大食いを自重するところだが、今日は祭りである。遠慮はいらない。

 

「……」

 

「あれ、恋?」

 

「む、どこにいくのだ?」

 

「んにゃ?」

 

 突然立ち上がった恋に皆が反応する。彼女はのんびりとした足取りで近くにいた『家族』達の所へ向かいそして――毛玉に倒れこむように体を預け寝息を立て始めた。

 

「おおっと!? 最優勝候補の呂布選手ここで限界を迎えたーー!!」

 

 そんな馬鹿な! 各所で信じられないと言う声が上がる。

 

「はいはい皆さんお静かに、私が呂布選手を良く知る陳宮様から、理由を聞いて参りましたので」

 

 騒然としだしていた会場は司会者の言葉で沈静化した。驚きはしたが理由があるのなら――と皆が静まり返ったのを確認した司会者は言葉を続ける。

 

「えっと、陳宮様の話しでは『呂布殿は大会前に、出店の料理を堪能してきたのです』とのことです。流石の呂布選手も全出店を制覇した後では満腹が近ったようですね」

 

「恋の奴、出店のまで堪能してたのか、アタイは我慢したっていうのに……」

 

「何故悔しそうなのだ」

 

 

 

 

 

 

 

「桃香様、嫌な予感がするのですが……」

 

「だ、大丈夫だよ愛紗ちゃん! 私達には出店で食べる持ち合わせ無かったし!!」

 

「それはそれで悲しいです」

 

 劉備達一行は大会の会場に向かう前に幾つもの出店を見てきた。恋と同じく、食に遠慮のない自分達の妹を思って関羽は不安を口にしたが、主の情けなくも説得力ある言葉に頷く。

 

 張飛は劉備以上に唯我独尊な所があるが、最低限の常識は弁えている。

 少なくとも無銭飲食をするような娘ではない。料亭の一件があるが、あれは劉備の手持ちに余裕があると見た上での暴走だ。

 

 関羽は自身にそう言って聞かせる。しかし胸騒ぎが収まらない。何かを見落としているような――

 

「ん? あーっと! 呂布選手に続きトントンちゃんまで脱落だーー!!」

 

「いつの間に」

 

「うむ、恋に釣られたのか、仲良く寝息を立てているな」

 

 そしてその不安は現実のものとなった。会場から聞こえる司会者の声に反応して視線を送ると、そこには呂布と一緒になって多くの犬達に寄り添い。気持ちよさそうに寝息を立てている義妹の姿があった。

 

「え、な、なんで!?」

 

「……恐らく」

 

 実は大会前に張飛は広場に遊びに行っていた。祭りというだけあって出店のみならず。様々な催しがあったためそれを見に行っていたのだ。

 本来であれば義姉の二人もそれについてくはずであったが、万が一に備え張飛に我慢するように言い聞かせていた結果、彼女は二人の目を盗んで遊びに出かけたのだ。

 

 そして大会前に戻ってきた。勝手に離れたことを咎めようとした二人だったが、広場の見せ物が凄かったと、目を光らせながら語る義妹の姿に毒気を抜かれ、寧ろ大会前に戻ってきたことを褒めていた。

 

「でも、鈴々ちゃんに手持ちは――」

 

「桃香様、想像してみて下さい」

 

 瞳に涙を浮かべ、可愛らしく腹を鳴らしながら出店を凝視する童子(張飛)。それを見た大人たちは――

 

 余談だが、ここ南皮は袁紹の影響を強く受けている。彼の豪快さや寛容さは尊敬を集め、いつしか住民達にもその性質が移っていた。金に余裕の無い者や足りない者達、そんな相手でも邪険にすることなく接客し。無料で食べ物を提供するほどだ。

 

 そんな彼等が目の前で空腹を訴える子供を放って置けるだろうか、答えは否。

 可愛らしい少女に我こそがと食べ物を提供しだし。それに味をしめた張飛は出店を回り、同じ手法で食べ物にありついていたのだ。量こそは恋に劣っていたものの、無償で出店を制覇していた。

 

「――と、思われます」

 

「そんなぁ……」

 

 関羽の説明で肩を落とす劉備、優勝賞金に期待していたが駄目のようだ。

 その後、彼女等は料亭で接客業に励み(関羽は厨房から追い出された) 路銀を工面した後幽州へと出発した。

 

 

 

 

 

「さぁ残るはあと二人! 文醜様と袁紹様の一騎打ちだーー!!」

 

 かなりの時が経っていたが歓声に衰えは感じられない。その中で、選手として残った二人は目を合わせ笑みを浮かべる。

 

「どうだ猪々子、そろそろ限界が見えてきたのではないか?」

 

「まさか! それにアタイには秘策があるんだぜ!!」

 

「……ほう?」

 

 何てことは無い。その秘策とはただの絶食である。正し前日の夜から――

 

 大食いな猪々子にとって一食でも食事を抜くのは死活問題だ。それを大会開始の昼まで、前日の夜と当日の朝の二食分を抜いてきたのだ。会場に向かう途中漂ってくる出店の料理の匂いと、悲鳴のような音を鳴らす空腹に耐えて――

 

 その甲斐あって未だ余裕がある。腹六分目といったところか……、猪々子は勝ちに来ていた。

 

「それでは六品目! 特盛麻婆豆腐です!!」

 

「おお! 麻婆豆腐はアタイの好き……な……」

 

 眼前まで運ばれてきた好物であろう物体を見て固まる。真紅を通り越して赤黒い見た目。

 気泡がボコボコと発生しているが、それは熱のせいなのか、それとも別の物か、猪々子が思い描いた好物とは余りにもかけ離れた『ソレ』に、頬をヒクヒクと痙攣させた。

 

「で、でもまぁ、味は普通かもしれな――うぎゃあああああ!?」

 

「猪々子!?」

 

 現実逃避に近い希望を抱き、『ソレ』の匂いを嗅ごうとした猪々子は悲鳴をあげ、両目を押さえた。

 

「目が、目がぁぁぁあ!」

 

 激痛。『ソレ』に顔を近づけることで湯気が目に入ったのだ。見かねた袁紹が湿らせた手拭を用意し。彼女の目にあてがう。それで猪々子が落ち着きを取り戻した所で、司会者は続けた。

 

「ご察しの方もいると思いますが、六品目は激辛料理です!!」

 

「わからいでかぁぁあ!!」

 

 目を赤く充血させた猪々子が叫ぶ、『アレ』が激辛であることを身をもって知ったのだろう。

 見開いたことで再び痛みが走り、再度手拭を目頭に押し当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは~食事再開!!」

 

 ゴォォォン、と開始を知らせる銅鑼が鳴る。袁紹の要望により、猪々子が落ち着くまで開始時間を遅らせたのだが、幾分か熱が冷め、湯気の量が控えめになった『ソレ』は、未だにボコボコと気泡が発生している。

 

「……」

 

 猪々子はゴクリと喉を鳴らす。但しそれは、今までのように絶品の料理を前にした時のものではない。目の前の『ソレ』に対する戦慄、否、歓喜、否、そうこれは――まごうことなき恐怖だ。

 

「ええい。ひびっていても始まらねぇぜ!」

 

 やがて意を決し口に運ぶ。だが意外、彼女が想像していたものは訪れない。

 あれ? 全然――などと油断したその時である。

 

「ッッッッ!? ~~~~っ!!!」

 

 一瞬にして顔を赤くし。声にならない悲鳴を上げる。元来、辛さとは強ければ強いほど後から刺激がくるものだ。それを猪々子はあろう事か、口に入れた途端油断し。舌全体で味を確かめようとしてしまった。

 

 「~~~ッッッ」

 

 毛穴という毛穴から汗が吹き出る。飲み込まなければいけないのに、これほどの刺激物を喉に通す気になれず。口内に残ったソレがまた刺激を生み出し。悪循環となっていた。

 

「~~……はぁ、はぁ」

 

 ややあって何とか飲み込む。顔面は蒼白、汗を流しすぎて水分が不足しているのか、意識は朦朧としだしている。そしてふと、隣で『ソレ』に挑んでいるであろう人物に目を向け――

 

 目を見開いた。其処には激辛料理をものともせず。口に運び続けている主であろう者の姿。

 

「す、すげぇ……」

 

 その言葉を最後に猪々子は意識を手放した。

 

「――文醜選手気絶、よって勝者! 袁紹様ーー!!」

 

 係の者達に運ばれていく猪々子を横目に、袁紹は大会優勝者として腕を掲げる。

 やがて歓声が止み、彼は会場全域に響かせるように声を張り上げた。

 

「皆のもの、夕食時の出店の料理は無償とする! 支払いには今大会の優勝賞金を当てる故、好きな物を好きなだけ食べて行くと良い!!」

 

 その豪快な宣言に再び大歓声が鳴り響く、それに紛れて桂花の悲鳴が聞こえた気がしたが――気のせいだろう。袁紹は始めからこれが目的で大会に出場していた。民衆に祭りを楽しんでもらう為でもあるが――

 

 やはり祭りの中の自分はこれ位派手であるべきだ。という私欲から来ていた。

 自分に発せられる大喝采に、僅かに震えながら歓喜する袁紹。彼の派手好きは、様々な祭りで民を、そして自分を喜ばせるものだった――

 

 

 

 

 

 

 もしも六品目が激辛料理で無かったら袁紹は負けていただろう。そこには必然ではなく、彼の豪運が大きく関係していた。

 

 実は大会用の料理は五品目までだったのだ。一般の大食い自慢たちが全員脱落しているように、その量は半端な物ではない。係の者達が甘く見ていたわけでもない。

 まさか合計で体積の数倍もする五品を、平らげる人間がいると誰が思うだろうか、だが実際に袁紹と猪々子の両名は五品に届いてしまった。

 

 係の者達は焦った。六品目を用意していなかったからだ。そこで出店に目をつけた。

 いくつか見て回ったが昼時というのもあり、殆どの出店が料理を出し尽くしていた。

 そんな中、大きな鍋から大量の湯気を出している出店を発見、係の者は藁にすがる思いで、売り子とされる三人娘に交渉を持ちかけた。

 

『君達、その鍋一杯の料理、私達に売ってくれないか?』

 

『おお! ほら見ろ二人とも、この料理、わかる人にはわかるんだ』

 

『な、鍋一杯は止めといた方が良いと思うの……』

 

『せやせや、兄さんもまだ死にたくはないやろ?』

 

『……? 何のことか良くわからないが大量に必要でな、鍋ごと頼む』

 

 こうして六品目が用意された。しかし運び込んで蓋を開けてみると―――

 猪々子のような被害者が続出、激辛の類だとわかった。しかしここまで来て別の物を探すわけにもいかず。『ソレ』が六品目となったわけだ。

 

 かくして、辛さに耐性がある袁紹が優勝をもぎとったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、今日はひどい目にあったぜ」

 

 祭りが終わり、自室で意識を覚醒させた猪々子は、通路を歩きながら呟く、楽しく無かったのかと聞かれれば――楽しかったのだが、如何せん最後の『アレ』を思い出すと汗が滲み出る。もはやトラウマに近かった。

 

 そんな猪々子は優勝を果たした袁紹に祝いの言葉と、激辛料理をたべてなぜ平気だったのかなど、色んなことを話したくて彼の部屋に向かっていた。日は既に沈み、異性の部屋に訪ねるような時間ではなかったが、良くも悪くも天真爛漫な彼女には関係なかった。

 

「……ん?」

 

 部屋の前に差し掛かると、中から袁紹以外の人の気配がした。もしや賊が? とも思ったが、話し声を聞く限り違うようだ。

 

「やべ!!」

 

 中の気配が扉に近づいてきたことで思わず身を隠す。そして扉が開かれ――半裸の星が姿を現した。

 

「っ!?」

 

 それを見た猪々子は息を飲み込む。星は袁紹のからかいに失敗して追い出されただけだが、他者からみれば逢引のそれである。邪推しても仕方が無い。

 

「やれやれ、一筋縄では――そこにいるのは誰か!」

 

「あ、アタイだよ星」

 

「なんだ猪々子ではないか、こんな夜分遅くに何をしているのだ?」

 

「何をって……それはアタイの台詞だろ、星はこんな夜中に麗覇様の部屋で何をしていたんだよ、それも、そんな格好で」

 

「ん? ……ほほぅ」

 

 若干頬を赤らめながら問い返す猪々子を見て、星は口角を上げる。その笑みには悪戯心がにじみ出ていた。

 本来の目標である袁紹にはあしらわれてしまった。他の者をからかって楽しもう。

 猪々子は不幸なことに、その標的にされたのだ。

 

 

「何って、夜分に男女が一つの部屋にいたのだ……ナニに決まっているだろう?」

 

「そ、そうなのか」

 

 星の含んだ言い方に、ますます顔を赤らめる猪々子、その様子に畳み掛けるように言葉をだそうとしたが――

 

「アタイもう寝る……じゃあな星」

 

「む、主殿に用があったのでは無いか?」

 

「明日で良いや、大した用事じゃないし」

 

「そうか、お休み猪々子」

 

「ああ」

 

 猪々子は早々に踵を返してしまった。からかいすぎたか? などと少し反省する星。

 空気を読むことに長けた彼女にしては珍しく、猪々子の表情の変化には気がつかなかった。

 

 

 

 

 

「……」

 

早足で自室に向かいながら猪々子は、先ほどの星との話を思い出して不機嫌そうに顔を歪めた。

 そしてそれでハッとする。自分は何に腹を立てているのだろうか、わからない。だが――

 

 思えば、袁紹の部屋にいるのが女だとわかった時からだと思う。

 あれ、何故女だと腹が立つんだ?

 

「き、きっとあれだ。斗詩を放っておいて星に手を出したからだ!」

 

 そう結論付けた。それが一番自分の中で納得できる理由だからだ。

 だがその理由だと、袁紹の部屋にいたのが女だとわかった時点で、斗詩の可能性もあるのに腹を立てたことの説明にならないのだが――猪々子はそれを頭の中からかき消した。

 

 

 

 

「斗詩、真面目な話しがある」

 

「ぶ、文ちゃん? どうしたの急に――」

 

 その翌日、猪々子は昨晩の出来事を、斗詩をたきつける理由に使おうとした。

 

「この間、麗覇様の寝室から星が肌着で出てきた」

 

「……嘘」

 

 表情が固まり、言葉の真意を聞こうとする斗詩。効果は抜群だ! と内心口角が上がる思いで言葉を続ける。

  

「マジだって、アタイがこの目で見たんだからさ!」

 

「でも、星さんにそんな素振りは無かったじゃない!」

 

「いや、そうでもないぜぇ? この前なんか麗覇様の事を根掘り葉掘り聞かれたしさぁ」

 

「……」

 

 猪々子の言葉に顔面蒼白になっていく斗詩。少し気の毒だが、彼女はこのくらい言って聞かせないと動くような女じゃない。基本的に一歩引いた性格ゆえに消極的だ。

 

「だからさぁ斗詩は、夜這いでも何でも仕掛けていかないとヤバイぜ? そん時はアタイも協力するからさ! 声掛けててくれよな!!」

 

「……」

 

 まるで魂が抜けたのではないかと錯覚するほどに、こちらの言葉に反応を示さない親友。

 猪々子は諦めるものかと言葉を投げかけ続け、曖昧ながらも、彼女を頷かせることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 変化が訪れたのはその翌々日である。前日までの呆けた表情が嘘のように笑顔を振りまき、鼻歌まで歌いだしながら仕事に励む斗詩。

 あ、これヤッたな、と一瞬で猪々子は理解した。星の時のようなイラつきは感じられない。

 だが何故か、何かを失った虚無感に苛まされた。

 

 いつも通りの猪々子なら、ここであっけらかんと斗詩に初夜の感想でも求めていただろう。だが何故かそれをする気にはなれず。彼女に便乗して自分も袁紹に~などと言い出せなかった。

 

 

 

 結局、彼女に真意を聞けたのは大分後、袁紹が張角の救出及び、黄巾の吸収のために広宗へ向かった後だ。南皮の守りを命じられた猪々子達、他の者がいないのを良い事に斗詩に聞きたい事を話した。

 

「なぁ斗詩、麗覇様とは……」

 

 だが、いざ言葉にだそうとすると口ごもってしまう。そんな猪々子の様子に、斗詩は彼女が聞きたい事を察し。顔を赤らめながら答えた。

 

「うん、私、麗覇様と結ばれたよ」

 

「そ、そっか、おめでとな斗詩!」

 

「ありがとう」

 

 まただ。何かを失ったような喪失感を感じる。思い人が男と結ばれたから? 違う。

 それならこの感情は嫉妬のはずだ。

 

「なぁ斗詩、アタイも麗覇様と……その、結ばれたいって言ったらどうする?」

 

「……」

 

 猪々子らしからぬ消極的な言葉に絶句する斗詩。だがすぐに表情を戻し。彼女に聞き返した。

 

「文ちゃんは、麗覇様のこと――好き?」

 

「……良くわかんねぇ」

 

 これは猪々子の素直な気持ちだった。幼い頃から一緒に過ごしてきた主、袁紹。

 なまじ共に在った期間が長かったせいか、それとも彼の包容力がそうさせるのか、猪々子にとって袁紹は出来の良い兄のような存在だった。

 

 故に、彼を異性として好きか――と聞かれると首をかしげてしまう。

 だがもし。もしもだが袁紹から猪々子を欲した場合。きっと自分は拒まないだろう。異性として自分を御せるのは彼ぐらいのものだろうし。それを受け入れられる程度には性的な魅力を感じている。

 

 では何故、そこまで曖昧な胸中で袁紹と関係を持とうとするのだろうか、斗詩には理解できた。彼女は仲間はずれが嫌なのだ。だから先ほど、自分が袁紹と結ばれたという事実を聞き、表情を暗くしたのだ。

 別にこのくらいのことで三人の輪が崩れるとは思えないが、斗詩がそう思うのと、猪々子が感じていることは違うのだろう。

 

「わかったよ文ちゃん」

 

「おお! さっすが斗詩、頼むぜ!!」

 

 そこで斗詩は一計を講じることにした。彼女が仲間外れを嫌うのは兎も角、袁紹に対する想いに無自覚なのは大問題だ。そもそも、家族同然に好いているからと言って、抱かれても良いなどという結論に到達するはずもない。この鈍感な親友は、心の奥に袁紹に対する異性としての好意を隠しているはずだ。

 

 猪々子の要望は斗詩と共に袁紹と一夜を過ごすこと、初めてで勝手がわからない故の提案だろう。

 そこで斗詩はこの件を掻い摘んで袁紹に説明。彼の采配に期待する事にした。

 この敬愛して止まない主なら、大事な親友の心を救ってくれるだろう。そう信じて――

 

 

 

 

 

 

 そしてその日は訪れた。決行日は広宗から袁紹達が帰って来たその日、善は急げと言わんばかりに斗詩は猪々子を捲くし立てた。

 始めは何やら羞恥心から渋っていた彼女も、観念したのか承知した。

 

「き、緊張するな」

 

 袁紹の部屋の前で柄にも無い台詞を呟く猪々子、斗詩の話しでは、彼女は先に袁紹を労っておくとのこと、事情は説明しておくから、途中から部屋を訪ねるように言われていた。

 

「たのもー! 斗詩一人に麗覇様の相手なんて無茶させられ……ない…………ぜ?」

 

 不安をかき消すように勢い良く扉を開け硬直する。部屋の中には袁紹一人で、先に来ているはずの親友の姿が無い。

 

「良く来たな猪々子、話しは聞いている」

 

「え、ああ――へ?」

 

 予想外の展開に目を白黒させる猪々子、袁紹はお構いなしに彼女を部屋の中に引き入れる。

 

「斗詩……そうだ斗詩は!?」

 

「斗詩は来ない。今宵は我と二人きりだ」

 

「え、そ、そんな!」

 

 いつに無く積極的な袁紹に落胆とも、歓喜とも取れる声を上げる。

 自分の目的は袁紹に便乗して斗詩を愛することだ。だが斗詩がいない今、何故か落胆よりも恥ずかしさが勝り、袁紹の顔をまともにみれない。

 

 格好も精一杯誘惑しようと、いつぞやの星のような出で立ちであったため、さらに恥ずかしさに拍車が掛かる。

 

「ふむ、普段も可愛らしいが、今日の猪々子は美しいな」

 

「な、何言ってんだよ麗覇様~、冗談は御輿だけにしてくれよ」

 

「猪々子、今の言葉が嘘かどうか、わからぬお主ではあるまい?」

 

「~~っ」

 

 その通りだ。長年付き添ってきた期間は伊達ではない。袁紹が嘘を苦手としていること、相手の目を見ながら発する言葉に嘘が無いことは知っていた。

 だが、それを認めると言う事は袁紹は自分に女としての魅力を――

 

「我は当の昔から、猪々子を一人の女として好いていたぞ」

 

「うえ!?」

 

 そこへ畳み掛けるように言葉を続ける袁紹。すでに猪々子は混乱中だ。それを知ってか知らずか、袁紹は彼女に問いかける。

 

「猪々子は――我をどう思う?」

 

「あ、アタイ……アタイは――」

 

 そこまで声に出した猪々子は、徐々に近づいてくる袁紹の端正な表情に臨界点を迎え

 

「……キュー」

 

「猪々子!?」

 

 気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタイは、麗覇様を実のアニキのように思っていたんだ……」

 

 しばらくして意識が戻り、落ち着いた猪々子はポツポツと心情を語り始める。

 

 袁紹と関係を持とうとしたのは斗詩が目的だったこと、学に自信の無い自分を、力強く、そして寛容に引っ張ってくれる袁紹に、母親から感じるような家族愛に似た安心感を得ていたこと、それを理由に袁紹を兄のように思っていたことを話した。

 

「でもさっきわかったよ、アタイは女として、何時からか麗覇様に魅かれてたんだ」

 

 先ほど袁紹が見せた異性の態度、それは猪々子の女を刺激し。彼女の心を溶かした。

 猪々子は心のどこかで女であることを否定していたのだ。想い人は同姓。自身は男被れ、だがそんな自分を袁紹はどこまでも女として扱い。包んでくれた。

 

「もう一度言うぞ、(オレ)は猪々子が好きだ。臣下としてだけではない。一人の女性として」

 

「うっ」

 

 余りにも真っ直ぐな言葉に思わずたじろぐ、自身の想いに気がつき、覚悟をしたとはいえ、この恥ずかしさには当分慣れそうに無い。だが、袁紹にここまで言わせて無言でいるわけにもいかない。猪々子は意を決し。口を開いた。

 

「アタイも、麗覇様が好きだ。あ、愛していると……思う」

 

「……」

 

 顔を赤らめながら答える猪々子、その表情は間違いなく女のそれだ。

 袁紹は鏡を持ってきて、彼女にその表情をみせつけてやりたいという衝動にかられたが、そのような行為は無粋である。部屋の明かりを消し。暗闇の中であっても、赤面をしているであろう猪々子の顎に手を掛け、顔を近づけた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな寝台の上で、袁紹と猪々子は互いに全裸で横たわっていた。

 室内はまだ早朝、朝日が昇りきらない故に薄暗く、互いの呼吸もあわさって淫靡な雰囲気を醸し出していた。

 

 情事後の猪々子は袁紹にぎゅっとしがみつき、愛しい主を体全体で感じていた。

 そんな彼女に彼は腕枕をしてやり、少し汗で湿った髪を優しく撫でる。

 

「なんだろう。すごい恥ずかしい」

 

「今更であろう」

 

「そ、そうなんだけどさ……う~、麗覇様の馬鹿」

 

「……」

 

 初夜を通した女性はここまで変わるものなのだろうか、その可愛らしい言動に、再び欲情させられながらも自制する。初めての相手にそこまで求めるのは酷だろう。

 

「麗覇様……アタイさ、女に生まれてきて良かったよ」

 

「……そうか」

 

 へへっと眩しい笑顔の猪々子に袁紹も表情を崩す。二人はそのまま、心地よい疲労と共に寝息を立て始める。

 起きたら待っているであろう。昨日よりも輝かしいこれからに思いを馳せながら――

  

 

 




袁家の大刀 文醜

好感度 120%

猫度 ニャ、ニャンだよぉ……

状態 親愛

備考 家臣としての意識は高い
   女に生まれてきたことを幸運と捉える
   それでも斗詩が好き

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