恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

袁紹「この辺にぃ、飯の用意してあるらしいっすよ」

曹操「……は?(威圧)」



袁紹「ほら、見ろよ見ろよ」

曹操「どうりでねぇ」

郭嘉「完成度高いから、完成度高いから安心!」



袁術兵「じゃあ俺、手柄貰って帰るから」

孫策「こんなんじゃ独立になんないよ~、こっちの事情も考えてよ」

周瑜「……(暗黒微笑)」


大体あってる


第25話

 ―広宗での戦いから数週間後、荊州、袁術の屋敷―

 

 

 

「困ります! 面会の許可を頂いていません!!」

 

「袁術様と張勲様は多忙を極めております。どうか今日のところは――」

 

「どきなさい!!」

 

 張角の首の一件から孫策は、袁術――そして張勲に謁見を求めた。だがそんな彼女を嘲笑うかのごとく期日を先延ばし。ついに堪忍袋の緒が切れた彼女は直接屋敷に乗り込んだ。

 

「大事な用なの、これ以上は待てないわ――」

 

「うっ」

 

 その言葉に孫策を制止させていた兵士がたじろぐ、例の一件から時間は経ったものの彼女の怒りは色あせていない。幾らか理性を保てているだけで、殺気に近い怒気を静かに発していた。

 

「双方お待ちを、袁術様から謁見の許可を頂いてまいりました」

 

「……どういう風の吹き回しかしら?」

 

「当家までご足労頂いた孫策様を無碍には出来ないとのこと、他意はございません」

 

「……そう言う事にしておいてあげるわ」

 

「感謝致します。では、私の後に」

 

「ええ」

 

 一触即発の空気の中、現れた兵士の言葉によりその場は取り持たれた。

 そして袁術達の所へと、兵士に続いて歩き出す。

 

「貴方、確か張勲の側近よね?」

 

「はい、非才な身では在りますが」

 

「ふぅん、非才……ね」

 

 よく言うわ、と孫策は兵の背中に目を向ける。先ほどの場で自分の怒気に怖気づかず。こうして前を歩きながらも背後の警戒を怠っていない。袁術軍にも隠れた逸材がいたようだ。

 

 だがこの逸材は張勲の側近、どのような経緯があったかは不明だが忠を置いている様子。

 勿体無い。そう思いながら追従した。

 

 

 

 

「こちらでお待ちです」

 

「そう、案内ご苦労様」

 

「いえ」

 

 謁見の間まで案内したその兵士に軽く会釈して入室する。その際に武器の類は取り上げられたが――使う場面は無いはずだ。

 

「良く来たのう孫策、黄巾ではご苦労だったのじゃ」

 

「……」

 

「お嬢様のありがた~いお言葉を無視するなんて、お仕置きものですよ?」

 

「ピェッ!? お仕置きは嫌なのじゃ~」

 

「やーん、お嬢様じゃありませんよ~、あそこにいる猪です」

 

「なんと!? 孫策は猪だったのかの?」

 

「じゃなきゃ此処に一人で来ませんからね~」

 

「知らなかったのじゃ……」

 

 孫策は歯軋りしながら耐える。見え透いた挑発だ。

 

 武器は入り口で取り上げられている。謁見の間の兵士達も帯剣していない。

 万が一戦闘になった場合、武器を取られない為の処置だろう。素手でも負ける気はしないが、流石の孫策も多勢に無勢で掴みかかられたら、ひとたまりも無い。

 

「今日は、張勲に話しがあって来たわ」

 

「私にですか、一体何の話しでしょう?」

 

「……張角の首の件よ」

 

「はぁ、それが?」

 

「~~っ、惚けないで! 横から手柄を奪ってどういう心算か聞いているのよ!!」

 

 それまで静めていた怒気を爆発させる。張勲の横に居た袁術が震え上がるが、今の孫策にはそれどころではない。

 

「ガクガクブルブル」

 

「わー、怯えるお嬢様も可愛らしいです~」

 

「……」

 

 ズレた愛で方で袁術を可愛がりつつ、張勲は内心、孫呉の軍師周瑜を罵倒する。

 

 手柄を横取りした策に穴は無い。すでに張角の首は漢王朝の名の下、正式に『袁術軍』が挙げたものと発表されている。

 この状況において後から何を言っても無意味だ。彼女(孫策)の行為は徒労でしか無い。

 本来であればそれを周瑜が孫策に言い聞かせ、彼女の手綱を握らなければならないと言うのに。

 

 そこまで考え張勲は小さな溜息を吐く、目の前に居る猪には説明が必要なようだ。

 

「奪ったもなにも、当初の予定通りですよ」

 

「……予定通り?」

 

「出発前に私を通して、お嬢様に許可を頂きましたよね」

 

「ええ」

 

「逆に言えば、お嬢様の命で張角討伐に行った様な物ではないですか~」

 

「な!?」

 

 そこまで言われ孫策は気がつく、自分達は『袁術軍』として組み込まれていたのだ。

 確かに、袁術達に身を寄せている自分達は、広い意味で言えば袁術軍かもしれない。だが吸収された心算など無い。独立を目指す為に此処で活動しているだけだ。

 

 張勲はその事実を歪曲、朝廷に手柄を挙げたのは自分達の『手の者』と報告したのだ。

 

「詭弁だわ!!」

 

「違いますよ~、詭弁とは事実とは違うお話です」

 

 良いこと教えてあげますよ~。と張勲は嗤う。目の前の独立を目指す猪に、状況を頭で理解しつつ、怒りを露にする武骨者に。

 

「事実とは大多数の認識で出来る物です。覚えておくと良いことありますよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―孫家の屋敷―

 

 

「雪蓮、入るぞ」

 

「あ~、冥琳だぁ」

 

「……」

 

 袁術の屋敷から戻ってきた孫策は酒に溺れていた。普段であれば他の者に制止されるが、その日ばかりは彼女の迫力に圧され、誰も咎めることが出来ずにいた。

 

 孫策の部屋に入った周瑜は、親友の様子と充満している酒の臭いに顔を(しか)める。

 言うまでも無いが孫策は無類の酒好きだ。浴びるほど飲むことを好むだけあって酒豪である。

 

 そんな彼女が今は酒に飲まれている。やり場の無い怒りがそうさせるのだろう。

 

「色々報告がある」

 

「なぁにぃ~?」

 

「女狐に張角の首が横取りされたのは…………わざとだ」

 

「……なんですって?」

 

 周瑜から発せられた一言で酔いが醒める。正確にはまだ酔っていたが、周瑜の話に耳を傾けられる程度には理性を取り戻した。

 

 そもそも先の一件、張勲の手の者による手柄の横取り、孫呉の知として動いてきた周瑜が察知でき無い物だろうか、答えは否、自分達に手勢を預けてきた時点で彼女はそれを予測、対策を立てていた。

 対策と言っても、張角の首を討ち取り次第、早馬で朝廷に届け報告するという単純なもの。

 後から要求された所で首が無ければ意味が無い。難癖つけられたとしても、『此度の乱に早々に決着をつけ、漢王朝の安定の為に迅速に動いた』とでも言えば王朝の存在が盾になり、ぐうの音も出ないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、袁紹等が黄巾を降伏させていた同時刻、かねてから懸念を抱いていた甘寧は真相を探るため、三姉妹が監禁されていたとされる屋敷に戻って来ていた。

 

「どうだ! 見つかったか!?」

 

「だめだ。一人も見当たらない……」

 

「そんな……天和ちゃん……」

 

「……」

 

 人の気配から物陰に隠れ覗き込む、すると、屋敷を見張っていたであろう男達が慌てている。

 彼等は趙雲に気絶させられた者達だ。何故彼女が意識を奪う程度に留めたか不明だが、この状況は甘寧にとって僥倖(ぎょうこう)だった。

 

「っ!? 誰だ!!」

 

「女? 官軍か!?」

 

「まさかお前が――「待て」」

 

 姿を現した甘寧に殺気立つ、彼女は待ったを掛け、剣を鞘に収めることで敵意が無いことを伝えた。

 その行動に黄巾達は疑問符を浮かべているが、甘寧は構わず続ける。

 

「――その屋敷に居た『張角』は官軍で保護している」

 

「え!?」

 

 甘寧の言葉に男達は顔を合わせる。その表情には驚きの色が強く出ているが、もう一つ、安堵の感情が感じられた。

 

 ――やはり趙雲が連れていたのは……、甘寧はほぼ確信を得ながらさらに畳み掛けた。

 

「偽の『張角』は広場で討たれた。黄巾は降伏、お前達の戦いは終わったのだ」

 

「あの偽者野郎、討たれたのか」

 

「天和ちゃんの名を使って悪さした末路だべ」

 

「ちげぇねぇ」

 

「……」

 

 自分達の守りたい人物が無事だとわかり安堵していた男達は、甘寧の全てを知っているような口ぶりも相まって、無警戒に口を開く。

 

 ――やはり! 彼等の口ぶりで甘寧は確信する。あの三姉妹こそが張角達だったのだ。

 何故偽の男が手配書に描かれ、袁家がそれを知っていたかは不明だが……

 

 

 

 

「……それは確かか?」

 

「ハッ」

 

「後で間違っていましたでは済まされんのだぞ」

 

「この命にかえても、真実であると進言いたします」

 

「……」

 

 『張角』の首を早馬で届け出す前に、戻ってきた甘寧の情報に周瑜は眉間にしわを寄せていた。

 袁紹達が内部に乗り込む事に躍起になっていた事、旅芸人を保護し早々に陣中に引き返した事、彼女の報告を信じるなら辻褄が合う。証拠は無いが、己の勘働きに命を易々と賭けられる様な者ではない。戦場にあって、その経験則から確信に近い勘を得ているのだ。

 

「それから、これを」

 

「――これは!?」

 

 最終的に周瑜は甘寧の言葉を信じ。『張角』の御首級を袁術達に押し付けた。

 

 

 

 

 

 

「――と、言うわけだ」

 

「ちょっと色々待ちなさい!」

 

 まだ続きがあるのだが……と周瑜は相方に目を向ける。其処には今にでも掴み掛かってきそうな孫策の姿。彼女の立場からしたら聞きたいことが山ほどあるだろう。それを含めて説明するはずだったのだが……

 

 周瑜は小さな溜息を吐き姿勢を正す。無視して進めるという手もあったが、それで血走った目つきの孫策に掴みかかられでもしたら、ひとたまりも無い。無難に質問を聞くことにした。

 

「……何故私に言わなかったのかしら?」

 

「敵を騙す前に、味方を騙す必要があっただけだ」

 

 実質、袁術軍の全権を担っている張勲、彼女はおっとりした見た目や言動に反し。恐ろしいほどに狡猾で用心深い。もしも、『張角』の首を何の波乱も無く手に入れたとしたら……彼女は孫策達を疑い。監視の目を強化するだろう。

 そうさせないためにも孫策に憤怒してもらった。彼女が張勲の手の者に刃を振り下ろした時は肝が冷えたが――おかげで疑われずに済んだはずだ。

 

 そしてダメ押しと言わんばかりに、袁術の屋敷に孫策が乗り込むことを黙認した。

 実際に目の前で激怒している孫策の様子に、張勲は満足しただろう。今頃は自分の思い通りに事が運び、孫呉を手玉に取ったことを嗤っているに違いない。

 

「雪蓮……お前の芝居では、あの女狐の目は誤魔化せない。本気の怒気を見せてやる必要があったのだ」

 

「むむむ……確かに私は芝居なんて苦手よ、だからと言って今回はあんまりじゃない?」

 

「確かにな、だがそれに見合う朗報があるぞ」

 

「朗報? ……張勲が偽の首を挙げたと報告して、朝廷に罰せさせるとか?」

 

「悪いがそれは無理だ」

 

「なんでよ!!」

 

 既に張角は討たれたものとして大陸全土に広まっている。それと同時に黄巾の活動も比較的小規模なものになってきた。そんな中、張角は別にいるなどと報告した所で聞き入れられるわけが無い。たとえその証拠を得たとしても、それごと闇に葬られるのが落ちである。

 

「ちょっと待って、それなら当初の予定通り、私達が手柄を挙げても同じじゃない!?」

 

「ほう、そこに気がつくか……成長したな雪蓮」

 

「誤魔化さないで!!」

 

「なにも誤魔化してはいないさ、私は……いや私達は、張角の首以上の()を手に入れただけだ」

 

「それが…………例の朗報?」

 

 そうだ、と周瑜は頷く、そして持ってきていた書物を孫策に差し出した。

 

「恐らくこれが、袁紹の真の目的だった物だ」

 

「真の……目的……」

 

 その言葉に首を傾げる孫策、無理も無い。袁紹はあの地において十五万の人員と、それを扇動したとされる三人を手に入れたのだ。それ以上の物などあるだろうか、孫策で無くとも思うところである。

 

 そんな彼女の様子に周瑜は笑みを浮かべ、口を開いた。

 

「これは――太平要術の書だ」

 

「ッ!?」

 

 『太平要術の書』武に傾倒している孫策でもその存在は知っている。

 読む者の必要としている知識を与えるとされる妖書、世の賢人達が渇望して止まない書物である。

 

「袁紹の目的は始めから『これ』だったのだろう。残念ながら、『これ』を持っているはずの張三姉妹は手ぶらだが」

 

 今頃、奴は歯軋りしているに違いない。――周瑜は愉快そうに笑い声を上げる。

 

 張三姉妹こそが真の張角だと確信していた甘寧に抜けは無い。彼女は周瑜に報告する前に件の屋敷を調査。手掛かりが残っていないか調べていた。

 そして見つけた。一際高級そうな布に包まれている書物を。

 

「そして私は、これが本物かどうか確かめたのだよ……それが朗報だ」

 

「ま、まさか」

 

「そのまさかだ。これは本物だよ雪蓮……孫呉の独立は成るぞ、それもこの荊州でな!」

 

「な!?」

 

 既に幾度目かわからない驚きの声を上げる。それもそのはず。荊州での独立は不可能だと断言した本人が、それを成せると豪語したのだ。

 

「袁紹がいる限り不可能……それが冥琳、貴方と――穏が弾き出した答えのはずよ」

 

 もう一人の孫呉の知、陸遜――真名を穏。孫呉随一の頭脳とされる二人の意見が合致した答えなのだ。いくら太平要術の書と言えどそれを覆すのは――二人を良く知る孫策は未だ信じられない。

 

「私を信じろ雪蓮、この書物には独立への『確実』な道筋が記されている。あの袁紹を封じる手立てもな……フフッ、フフフ」

 

「……」

 

 頬を上気させながら語る周瑜、恐らく彼女の頭の中には、独立した孫呉の姿が映っているのだろう。

 

 そんな彼女の様子に孫策は何か危ういものを感じた。しかし彼女はそれを指摘しない。指摘できない。

 幼い頃から共に在った親友。もはや半身と言っても過言ではない存在、孫策の良く知る彼女は、何の確信も無く大言を吐く様な愚か者ではない。それに―――独立は孫呉全体の目標でもある。

 

 

 やがて、太平要術の書に記されていた『道筋』を周瑜は嬉しそうに語りだす。

 孫策は黙ってそれに耳を傾けた。胸中に小さなしこりを残しながら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無いです(無慈悲)

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