恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

38 / 70
~前回のあらすじ~

天和「ダイナモ感覚!ダイナモ感覚!YO!YO!YO!YEAH!」

地和「DJDJ・・・(届かぬ思い)」

人和「……」






袁紹「どうすっかな~、大陸命運も掛かってるからよー」

使者「クゥーン」





袁術「じゃあ妾、連合率いて出陣するから……」

諸侯「やめろォ(建前)、ナイスぅ(本音)」

大体……これもうわかんねぇな(白目)


第28話

 大陸に住む人々、とりわけ農業を営む者達の朝は早い。日が昇り始めたとは言え、まだ辺りは薄暗く肌寒い。

 そんないつもの朝に、周りの村人と同じく畑仕事の為に起きてきた一人の男。彼にある違和感がよぎった。

 

「今日は随分……静かな朝だぁ」

 

 いつもなら聞こえてくる鳥のさえずり、それが無く不気味なほどに静かだ。

 男と同じく畑仕事に勤しもうとする者達の姿が無ければ、起きるのが早すぎたのではないかと疑うほどだ。

 

 男が不思議に思っていると村の外から一人、必死の形相で此方に向かってきた。

 

「おーい! 大変だぁ!!」

 

「な、賊か!?」

 

「いや、賊ではねぇだよ」

 

「んなら、野生動物が畑に」

 

「それでもねぇだ」

 

「……じゃあ何なんだ」

 

 要領を得ない彼の返事に苛立ちを覚えつつも先を促す。男は朝が早い上にやることが沢山あるのだ。貧乏暇なしである。

 

「そ、それが何とも……とにかく来てくれよ!」

 

「何だってんだ一体」

 

 出来れば口で説明して欲しかったが、よほど形容しがたいものでも見たのか、言葉を詰まらせている。ここまでくると男にも好奇心が湧いた。ただでさえ娯楽が少ない時代なのだ、珍しいもの、面白いものには目が無い。

 

 男は彼の後に続きながら、童心に返ったような気分を味わっていた。

 

 ――こいつは何を見つけたのだろうか、見たことも無い生き物? 変な形の石? それとも……

 

 様々な物を想像しては心を躍らせる。ものによっては家族に話題を提供できるなどと考えながら

 

 

 

 

 

 

 目的地に着いた男は、得意げに遠くを指差す彼のそれに続いて目線を動かし、驚愕した。

 

「……なんじゃありゃあ」

 

「な! すげぇだろ!?」

 

 軍の群れ、それ自体は珍しいものではない。先の黄巾の乱や、各地の賊多発に伴い行軍は良く目にする。では何故驚いているか―――それはその軍の出で立ちに理由があった。

 

 黄色である。身体を守る胸当てに始まり、兜、手甲、剣の装飾に至るまで黄色で統一されている。良く手入れされているのか光沢があり、光の角度によっては金色に輝いているようにも見えた。遠目で見るその光景は、さながら黄金の竜が移動しているようだ。

 

「一体何処の……」

 

「多分、南皮の袁紹様の軍勢だぁ」

 

「おめぇ軍旗の文字が読めるのか!?」

 

「うんにゃ、だどもこげん派手な軍はそこしかねぇべ」

 

「な、なるほど」

 

 軍は金食い虫である。兵糧、装備、賃金、維持するだけでも金が掛かる存在だ。

 鎧を着けているのは正規軍の証、大多数の歩兵は民衆に毛が生えた程度の装備が普通である。

 

 以上を踏まえ眼前の軍はどうだろうか――

 

 永遠に続いているのではと思うほどに長い軍列、その全ての者達が鎧を纏っている。

 騎馬隊、歩兵隊全てである。この軍にどれほどの軍資金が掛けられているのかは想像すら出来なかった。

 そしてこれほどの軍備を維持できる者など、南皮の袁紹ぐらいであろう。

 

「こんな大軍勢で何処に向かっているだ?」

 

「とう何とかって新しい相国様が悪いお人らしくてな、それを退治するために色んな軍が結託したらしいだ」

 

「ははぁ、んじゃあ袁紹様ってのは悪者退治に行くわけか」

 

「そうなるなぁ……ま、オラ達のような辺境には関係ないだ」

 

 雑談をしながらも二人は金色の行軍に魅入る。一糸乱れぬとまではいかないがその行進は規則的で、それだけでも鍛練が行き届いた者達だとわかる。

 

「袁紹様って、どんなお人なんだろうなぁ……」

 

「…………」

 

 ふと一人がそう呟き、二人して視線を動かし軍を観察する。

 彼らの中に在るのは単純な好奇心、幾度も天下に名を轟かせてきた袁紹の存在である。

 隣町の町人、村に訪れる行商人、流浪人、彼らから耳にたこが出来るほど袁紹の噂は聞いてきた。

 

 曰く、幼少の頃より聡明で文武両道の賢人。

 曰く、その先見の明で時代を先取り、巨万の富を生み出す商人

 曰く、空より広く海より深い徳を持ち、未来を詠み人命を救う仙人

 曰く、高笑いしながら高速移動する超人

 曰く、晴れた日は屋上で身体を焼く浩二

 

 ……興味を持たないほうが難しい。 

 

「お、あれじゃあねぇべか?」

 

「顔は……みれねぇな」

 

 二人が注目したのは隊列中央にある三台の馬車だ。これも黄色で染められ、豪華な装飾が成されている。

 まさしく名族に相応しい代物で、この軍の重鎮や、袁紹がいるとしたらあの中だろう。

 この軍の長を人目みたいと思っていただけに落胆し――その二人の目に奇妙なものが映った。

 

「おい、ありゃあ……」

 

「……御輿?」

 

『ふぅん、反袁紹派も愚かな存在に過ぎん。とんだ邪魔が入ったが、俺達の戦いはこれからだ。決戦の地、洛陽が待っているぞ! 進路をとれ! 全速前進DA!』

 

 御輿である。軍列の先頭を進み、上に乗っている者が何やら声を上げていた。

 

「あんなお調子者も、あの軍の一員なのけ?」

 

「袁紹様は派手好きって噂だぁ、気に入られているんだろうなぁ……」

 

 二人が白い目を向けている御輿の上の男。彼こそがこの軍の総大将、袁本初であることは知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を考えているんですか!!」

 

 ひとしきり騒いで満足した袁紹を待ち受けていたのは、桂花による怒りと言う名の落雷であった。

 

「いかんのか?」

 

『いかんでしょ』

 

「いけませんねー」

 

「当たり前です!」

 

「むぅ」

 

 宝譿、風、桂花の順に捲くし立てられ、開き直り気味であった袁紹はたじろいだ。

 

 元々、三台の馬車は奇襲を受けたとき、相手を撹乱(かくらん)するために桂花が用意したものだ。

 可能性は極めて低いが万が一賊等に襲われた場合、主である袁紹の居場所を隠すのが狙いだ。しかしそれも、袁紹が馬車を飛び出したことで効力を失ってしまった。

 

 黄巾以来の大行軍にテンションが天元突破した彼は、秘密裏に持ち込んでいた折りたたみ式御輿と、その担ぎ手達と共に先頭に移動。『一生に一度はやってみたい事集 著・袁本初』に記された一つ『全速前進DA!』を行っていた。

 それもご丁寧に、天和達から借り受けた拡声器を使用して。

            

「お兄さんには、お仕置きが必要ですね~」

 

「ちょっと風、なにもそこまでは……」

 

「甘いですよ桂花さん、少しくらい痛い目を見ないとお兄さんはまたやらかします」

 

 風の言葉にギクリと肩を震わせた袁紹を見て、擁護気味だった桂花の目が細められる。

 

「……それもそうね」

 

「そうですよ~ではお兄さん、目的地に着くまでお膝を拝借」

 

「む?」

 

「ええっ!?」

 

 驚く桂花を他所に、風は素知らぬ顔で袁紹の膝の上に収まる。これではいつも通りである。どこが罰なのだろうかと袁紹が疑問に思っていると――

 

「ちょっと風! それのどこが――」

 

「罰はここからですよ。さぁ、桂花さんもどうぞ」

 

「……ちょ、ちょっとま――」

 

 右ひざに移動し左を差し出す風。彼女のその行動に嫌な予感がし、袁紹は制止を呼びかけようとしたが時既に遅し。

 

「し、失礼します!」

 

「ぐぉっ!?」

 

 風の意思を理解した桂花は、そのまま袁紹の左ひざに腰を落とす。

 

 ――重い! その言葉をなんとか飲み込む。名族として、一人の紳士として、そしてなにより。そのような言葉を婦女子に投げ掛ける訳にはいかない!

 

 とはいえこのままもまずい。いくら小柄とは言え片膝に一人ずつなど、馬車の揺れも重なり袁紹の膝は悲鳴を上げていた。

 とりあえず二人を何とか説得――しようとしたが駄目だ。桂花は林檎のように赤くなり此方に反応を示さず、風に至っては意味深な笑みと共にこの事態を楽しんでいるようだ。

 

 ――自力の脱出は不可能。何故か此処に至って冷静な袁紹は、協力者を求めようと視線を動かした。

 

 ちなみに武官達は皆、自分の部隊を率いて行軍している。馬車内にいるのは袁紹達三人のみで、音々音は本人たっての希望により恋と共に騎乗していた。

 これらの事を踏まえ、袁紹は馬車の窓に目を向け――瞬時に逸らす。何故なら、馬車を警護する親衛隊の面々が血涙を流して見ていたから。

 

 袁紹にとっては仕置きでも、他者からみればただイチャついているだけである。

 桂花、風といった美少女を両手に花のこの状態で、彼女達を慕う親衛隊に助けを求めればどうなるだろうか、考えたくも無い。

 そして結局、しばらく膝上に二人を乗せた状態で馬車に揺られ続けた。

 

 

 

「お兄さん、連合の陣がみえてきましたよ~」

 

「まことか!?」

 

「あ、麗覇様また!!」

 

 桂花の慌てる声を無視して窓から顔を出す。風の言う通り連合の陣が見えた。

 

「ようやく……」

 

 陣中にある『術』と書かれた軍旗を見て呟く、実はテンションが天元突破した理由はあの軍にある。

 術の一文字、彼の妹袁術の軍旗である。思えばこれまで紆余曲折あった。

 

 当主就任の為に妹と顔を合わせることも叶わず。反袁紹派のしがらみで会いに行くことも出来ない。

 まだ見ぬ妹との唯一の繋がりは、月に一度の文のみ。

 そしてとうとう反袁紹派を淘汰しようというこの時に、今回の騒動である……。

 

 袁紹にとって連合での一番の収穫は、袁術との初顔合わせであった。

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様、袁紹殿とその軍が到着致しました」

 

「あら、随分早いわね……」

 

 汜水関から少し離れた場所に位置する連合の陣。そこにいち早く到着していた華琳は、軍師である郭嘉と共に周辺の地形を見直している最中だった。そこへ秋蘭から袁紹の到着を知らされ、華琳は素直に驚いた。

 

『兵は神速を尊ぶ』

 

 これを自軍に掲げその言葉通りに曹操軍は、他では類を見ない速さでの用兵術を得意としていた。

 行軍とは本来鈍足なものである。それも大軍なら尚更だ。しかし袁紹軍はその常識を物ともせず、華琳達の予想を上回る早さで現地に到着して見せた。

 

「軍の速さは精強さに繋がる……そうだったわよね? 稟」

 

「はい、かの軍は良く鍛練されているかと」

 

「我が軍とどちらが上かしら?」

 

「軍の規模からして、鍛練の濃度が違いますので……」

 

 郭嘉の言葉に華琳は満足そうに微笑む。量では負けるが、質では自軍が上回る。

 何かと事を慎重に運ぶ郭嘉故に、断言せず濁したような答えだったが、彼女のそれが性格から来るものと理解している華琳にはわかった。

 

「作業を一時中断よ。秋蘭、皆を集めてきて頂戴」

 

「ハッ! ご挨拶に向かうのですね?」

 

 

 やれやれといった空気で立ち上がる華琳。主のそんな様子を見て、郭嘉と秋蘭はお互いに顔を合わせて微笑んだ。

 長らく彼女に付き添い、心を通わせてきたからこそ二人にはわかる。主が浮かれていることを。

 

 華琳にとって袁紹は対等に話せる数少ない相手である。多忙の中でも文でのやりとりは欠かさないし、それが遅れて苛立っている光景も見たことがある。

 

「以前のように放っておいて拗ねられたら面倒よ。ついでに自慢の娘達を紹介しましょう」

 

 

 

 こうして華琳は信頼できる家臣団を引き連れ、『袁』の軍旗が雄雄しくはためく陣地に歩を進めた。

 

 

 




Q ちょっと待って! 前回の後書き――

A そのような事実は御座いません

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。