恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

白蓮「あ、麗さん! ご無沙汰じゃないすか(訪問)」

袁紹「ドウモォ(抱)」

劉備「今日のゲストぉ……(二人)」

ハワワ&アワワ「DJ!DJ!}



袁紹「ん? 今どんな気持ちなんだ三国志で例えるとどのくらいだ(無茶振り)」

周瑜「……黄巾」

袁紹「黄巾じゃねぇ! 武将で言え武将!」

周瑜「李恢です」

袁紹「誰だよ(素)」


だいたいあってる




第33話

 軍儀を終えた袁紹は自陣に戻ると、星に劉備軍への援軍の件を説明した。

 

「そんな……主殿は私をもう要らないと申すのですか」

 

 よよよ、と乙女座りからの泣き真似。彼女のそれが演技である事は皆熟知している。

 しかし解っていても尚、美女の弱弱しい姿と言うものは心に響くもので。彼女の部下達は仇を見るような視線を袁紹に向けていた。

 

「こ、これ! 人聞きの悪いことを言うでない。戦力として貸し与えるだけだ、我が星を手放すはず無かろう!!」

 

 だからいい加減演技を止めよ。

 

 袁紹に対する男達の嫉妬は目を見張るものがある。袁家の必要経費に壁修繕の項目が追加されるほどだ。

 慌てふためく袁紹の姿に満足した星は、意味深な笑みと共に立ち上がった。

 

「仕方ありませぬなぁ……では、メンマ一年分で手を打ちましょう」

 

「く、やむを得ぬ」

 

「フフ、決断の早さは流石ですな」

 

 以前は袁紹の弱点を見破れなかった星。それもそのはず、彼の弱点は自身でなくその周りにあるのだ。

 他者を重んじる袁紹は誰かが傷つくことのみならず、負の感情にすら敏感に反応する。

 袁紹を慌てさせるのに効果的なのは周りを利用する事だった。

 

「指揮に従うかどうかは星の判断に任せる、向こうもそれは承知済みだ」

 

「……ふむ」

 

 聡い星はその一言で理解する、余りにも割を食う指示には従わずとも良い――と。

 

「この任はお主が一番の適役者だ。頼むぞ星!」

 

「任されましょう、大船に乗った心算で帰りをお待ちくだされ」

 

 一見いつも通りの星だが、彼女の瞳の奥に闘志が(みなぎ)っていた。

 久しぶりの実戦と言うのも理由の一つだが、なによりも袁紹から頼りにされた事が大きい。

 

 袁紹は物事を一人で抱え込む傾向がある。そんな彼から、武では数段上を行く恋や、幼少期からの付き合いで一番信を置いているであろう猪々子や斗詩でも無く、この趙子龍を!

 

「フフ、フフフ!」

 

 袁紹と別れ、兵の編成へと向かう星の足取りは軽かった。

 それでいて全身に力が漲る感覚、今なら単身で汜水関を突破出来るのではないだろうか。

 現実を見据える星がそのように仮想するほど、彼女はやる気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

そして明朝、まだ日が昇りきっていない時刻。開戦を前に星は兵を連れて劉備軍に合流、簡単な挨拶を済ませ諸葛亮からの指示を聞いていた。

 

「ふむ……後詰めか」

 

「はい」

 

 狙うは敵将華雄。その挑発による誘き出しと討伐を任されたのは、劉備軍きっての使い手関羽。

 華雄を討ち果たした後その軍が出てくるはず、そこに星は彼女の兵、そして劉備軍の将の一人である張飛と共に突貫。

 関羽と張飛達に華雄軍の相手をさせ、突破力の高い趙雲隊で汜水関の門を確保しようと言うもの。

 

「……」

 

 全体を見れば趙雲隊が割を食いそうだが、義勇軍である劉備達に門の確保は難しい。

 まさに適材適所、利に適っている。最終的に星はこの要請を受けた。

 

「趙雲、貴女ほどの武人と共に戦えるのは光栄だ」

 

「それは此方も同じ事、後ろは気にせず行かれよ」

 

「……ああ!」

 

 自軍の隊列に戻っていく星の背中を、関羽は頼もしそうに見つめる。

 

 二人はまだ二度ほどしか顔を合わせていないが、互いの力量は察している。

 自身と同等、あるいはそれ以上。

 特に趙雲の軍勢は良く鍛え上げられているようで、隊列に乱れも無く動いている。

 それだけでも精強さが窺えるが、注目すべきは兵士達の顔つきだ。

 どの者達も汜水関を静かに見据え静観している。恐怖心などの類は一切感じられず、それでいて闘志を燃やす瞳。

 あの軍勢であれば無理難題な指示にも従い、それを成せるだろう。そしてその兵を鍛え上げたのはあの趙雲。

 

 ――あの者が我が軍に居ればどれだけ……

 

 関羽は頭を振り雑念を払う。

 

 義勇軍という形ではあるものの兵を、そして将来有望な軍師二人に関羽と張飛。

 劉備軍はまだまだ大きくなるだろう、そこに必要不可欠なのが武将だ。

 いっそのこと趙雲を勧誘したい所だが、袁紹軍と劉備軍では待遇に天と地ほどの差がある。

 それに彼女は飄々としているが、主である袁紹には他の者達と変わらない忠義を持っている様子。

 

「……ふぅ」

 

 小さな息を吐くと共に意識を切り替える、開戦は間近だ。

 

 

 

 

 

 

「華雄様、いよいよですね」

 

「ああ」

 

「姉御が居れば俺らに負けはねぇ、そうだろてめぇ等!!」

 

『応ッッ!』

 

 華雄軍は汜水関の上に布陣、そこから連合軍を眺めていた。

 

 地平線を埋め尽くさんばかりのその光景は圧巻の一言。しかし、戦力差に劣る華雄軍の士気に乱れは無い。

 それどころか、どこからでも掛かって来いと言わんばかりに高揚していた。

 

「……」

 

 それが絶望から自分達を紛らわせる為のものだと華雄は理解している。

 本来ならば絶望し、武器を落としかねない光景なのだ。彼等が士気を維持できているのは華雄の存在が大きい。

 圧倒的な軍勢に堂々と立ちはだかるその姿は、華雄軍全員の心の拠り所だ。

 

 華雄は自身の存在が如何に重要なものか再確認した。

 

 

 

 

 

 

『あ、あーテステス。本日は晴天なり~』

 

 緊張感で張り詰めいてるその地に、似つかわしくない声が響き渡る。

 

 黄金の御輿に座り連合の先頭でそれをするのは、何を隠そう我らが迷族(袁紹)だ。

 天和達から借り受けた拡声器の調子を確かめ、声を張り上げる。

 

『お前達はすでに包囲されている。諦めて武器を捨てなさーい』

 

 この時の為だけに(あつら)えたトレンチコート風の衣服で警告する、無駄に派手な配色は仕様である。

そんな袁紹に猪々子はキラキラと瞳を輝かせ、斗詩は白い目を向けていた。

 

 ――そんな目で見るな斗詩、降伏勧告は義務なのだ。

 

 やがて華雄軍の中から一人前に歩み出た。

 その姿には見覚えがある、初の武芸大会で恋に敗北した華雄本人だ。

 同一人物だが袁紹は一瞬別人かと錯覚した。それ程に彼女の纏う空気が変わっている。

 おそらくあの敗戦から、一日も休まずに研鑽してきたのだろう。

 

「私が華雄だ! 今は董卓様の家臣である事を排し、大陸に住む一人の民として問う」

 

『聞こう』

 

「どのような理由で天子様の居る洛陽に刃を向けている……答えろ!」

 

『知れたこと、暴政を働く董卓から救出するためである』

 

「……そのためならば刃を向けても構わないと?」

 

 主である董卓を擁護するのは簡単だ、しかし証拠が無ければ意味を成さない。

 そして仮に、主の汚名を返上する確固たる証拠があっても連合は止まらないだろう。

 既に賽は投げられているのだ。

 

 だからこそ、天子の存在を引き合いに出したのだが――

 

『主が危機に瀕しておればそれを助ける。又、主が道を踏み外せばそれを正すのが真の忠臣だ。

 今度は我が問おう、華雄――お主は忠臣か?』

 

「!?」

 

 袁紹の問いに華雄は顔を伏せ肩を震わせる。 

 怒りからではない、恥辱でもない、悔しさでも憎悪でもない。この感情は――歓喜だ!

 

 この場に至って尚、華雄にはある疑問があった。

 

 主である董卓の暴政は当然彼女の耳にも入った。その時は張遼と共に馬鹿馬鹿しいと鼻で笑ったものだ。

 しかし火の無いところに煙は立たない。なまじ生粋の武人である華雄は、主を信じてはいるものの噂の真意を確信できなかった。

 そこで彼女は来たる連合との戦いに皆が鍛練を積む中、一人抜け出し洛陽の街を調査した。

 調査と言っても簡略的なもので。小汚い布で身を覆い、物乞いに扮して街角に座り様子を窺うというもの。

 

 洛陽の街の住民達は連合軍の噂で不安そうにしていたが、どの者達も一様に(董卓)を心配していた。

 そして極めつけは街の男達だ。彼等は老いも若いも関係なく兵士に志願し、董卓軍の規模は倍近く膨れ上がった。

 暴政が行われていればこのような事は起きない。

 

 ――やはり、我が主は潔白だったのだ!

 

 そして死地へと向かう覚悟が出来ると同時に疑問が生まれる。

 

 ――自分は本当に、忠臣なのだろうか

 

 同じ将である張遼は噂を歯牙にもかけなかった、それに比べ自分はどうか。

 華雄の思う忠臣は主に疑問を抱かず、どこまでも献身出来る武将である。張遼のような――

 

 そのような経緯から華雄はしこりを残したまま連合と対峙している。しかし彼女のソレは、皮肉にも敵の総大将の言葉で消え去った。

 思えば自分が街の調査をしたのも、万が一主が道を踏み外していた場合それを正そうと考えていたのだ。

 張遼とはまた違う形だが、華雄のそれも紛れも無い忠臣の証である。

 

「フフフ……アッハッハッハッ!」

 

「か、華雄様!?」

 

 突然笑い出した華雄に部下達から『姉御ォ!』と、心配そうな声が上がる。

 それを手で制し、華雄は顔を上げた。

 

「無論! 私は真の忠臣としてこの場に立っている!!」

 

 その時、突風が吹いた。

 

 それは大きな砂埃を作り上げ、汜水関に居る華雄軍を覆い隠したが――

 

「……フンッ」

 

『オオッ!』

 

 華雄が戦斧を横薙ぎに一閃、振り払う。

 武芸大会で辛酸を舐めさせられた彼女の武は、自身の得物『金剛爆斧(こんごうばくふ)』を片手で扱えるまでに磨かれていた。

 

「もはやこれ以上の問答は不要! 死にたい奴から前に出ろ、一人残らず我が戦斧の錆に変えてくれるわッッッ!!!」

 

『オオオオオオオオオォォォォォッッッッッッッ!!』

 

 まさに咆哮。

 

 馬に跨う者達は驚く愛馬を御す事に苦心し、歩兵達は僅かに肩を震わせる。

 微動だにしない御輿は流石と言うべきか。

 

「見事だ……華雄」

 

 拡声器を離し袁紹は呟く。先程の問答には暴政の真偽を確かめる狙いがあった。

 袁紹の見立てでは、華雄は放たれた矢のように真っ直ぐな人間である。疑問が出来たら己の目と耳で確かめるタイプだろう。そしてあの言葉『主が道を踏み外せばそれを正すのが真の忠臣』

 それに対して華雄は自分こそが真の忠臣であると宣言してみせた。

 恐らく彼女なりに噂の真偽を調査し、董卓の潔白を確信したのだろう。

 

「劉備軍に伝令、『華雄攻略を開始せよ』」

 

「ハッ!」

 

 矛盾する想いがある。華雄攻略の指示を出したが、死んで欲しくない。

 

 華雄の威風堂々とした姿は、その地に居る全員の記憶に刻み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー! 流石姉御だ、連合の奴等ぶるってるぜぇ」

 

「華雄様、連合軍に動きが!」

 

「前に出てくるのは何処の軍だ?」

 

「軍旗から察するに……劉備軍かと」

 

「……チッ」

 

 兵士から舌打ちが聞こえてくる。

 

 開戦に至るまで董卓軍はのんびりしていた訳ではない。兵力や門の補強、軍師である賈駆が特に力を入れたのは情報だ。

 連合軍に集う諸侯、兵力、武将、その他諸々調べ上げている。華雄軍は一兵卒に至るまでその情報を頭に叩き込んだ。

 その中には劉備軍の情報もあるのだが――。多少名のある武人が二人、後は民に毛か生えた程度の義勇軍だ。

 華雄軍の面々が『舐められている』と錯覚するのも無理は無い。

 

「あん? 一騎飛び出して来やがるぜ」

 

「先程のように降伏勧告でもする気なのでしようか……」

 

「姉御にびびって向こうが降伏するんじゃねぇか?」

 

 どっ、と笑いが起こる。

 それが静まる頃、近づいてきた一騎の姿が解る所まで接近し――

 

「別嬪さんじゃねぇかッ!」

 

 美しく長い黒髪、抜群のプロポーション、整った顔立ちに歓声が起きた。

 

「……おい」

 

 緊張感を持たせようと華雄が部下を睨むが、その視線を勘違いした部下がフォローすべく言葉を続ける。

 

「も、もちろん姉御も別嬪ですぜ! 嫁さんになるのは想像できねぇけど……」

 

「余計なお世話だ!」

 

「ひでぶっ!!」

 

 的の外れた言葉に拳が返って来た。手加減しているとはいえ、怪力を誇る華雄の拳は相当のもの。しかし部下達も頑丈で、目を回しながらもヨロヨロと立ち上がる。この一連のやりとりは華雄軍のコミュニケーションの一つである。

 

「我が名は関雲長! 猛将と名高い華雄殿に一騎打ちを所望する!!」

 

「……はぁ? 何が悲しくて義勇軍の将ごときと姉御が一騎打ちしなきゃならねぇんだ」

 

 口汚い言葉だが、それは華雄軍全員の気持ちを代弁していた。

 劉備軍だけならば簡単に蹴散らせるだろう、しかし背後には連合本隊が待ち構えている。

 地の利を使い戦う事が最上なこの場にあって、何故自分からそれを手放し一騎打ちに応じると思うのか。

 

「……」

 

 華雄軍の反応にを見て関羽は眉間に皺をよせる。

 簡単にいかないことはわかっていた。だからこそ華雄の武に唾を吐いてでも挑発しなければならないのだが――

 

 関羽が思い出すのは先程の華雄の姿。

 圧倒的戦力差の連合に啖呵をきる華雄は正に理想の将軍。その見事な光景が頭にのこり、彼女に浴びせるはずの暴言を吐けずにいる。

 しかし子供の使いとして此処に居るわけではない、己の信念を曲げてでも任を全うしなければ。

 自分にそう言い聞かせ、口を開こうとしたその時だ。

 

「降りるぞ」

 

「な、華雄様!?」

 

 部下に制止されながら華雄が姿を消す、恐らくは下に降りているのだろう。 

 

 ―――なんだ?

 

 関羽が感じたのは違和感。華雄が武に誇りを持ち、好戦的な性格であることは聞いている。

 しかし実際に目にした華雄は、荒々しくも研ぎ澄まさせた闘志を漂わせていた。

 それ程の武人が挑発されていないにも関わらず地の利を捨てるだろうか。

 確かに一騎打ちを成立させるため、軍を大分後方に置いて来たが――

 

「いや、今は目の前に集中すべきか」

 

 猛将華雄の名は幾度と無く耳にして来た。相当手強いだろう。

 

 やがて重々しい汜水関の扉が開き、騎乗した華雄が姿を現す。

 

「な!?」

 

 華雄だけでは無かった。彼女の兵士達も騎乗し抜刀している。

 これは、これではまるで――

 

 

 

 

 

「突撃!」

 

『オオオォォッッッッ!』







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