恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

兵士「やべぇよやべぇよ、もの凄い衝車だから」

華雄「大丈夫でしょ、ま多少はね?」キサクー



李典「もう許さねぇからなぁ?(ネットリ」

三号「兄!」

四号「仇!」

五号「破壊!って感じで」

華雄「その為の退却、あとその為の軍師(カク)?」



 ?「オイヒキコモリ」

袁紹「働かなきゃ(使命感)」


大体あってる。


第38話

 伝者の報告を聞いた二人は、本陣の天幕から外に出ると。

 見晴らしの良い場所まで移動し、汜水関に向かう袁紹軍に目を向けていた。

 

「あれは……もしや」

 

「知っているの? 稟」

 

「私と風が南皮に身を寄せていた頃、噂を聞いたことがあります。

 何でも、あの荀文若をして『完成すれば大陸最強の騎馬隊』になるとの事です」

 

「詳細は?」

 

「そこまでは、何分軍事機密でしたので」

 

「そう、大陸最強……大きく出たわね」

 

 長い歴史の中で、騎馬隊は戦場の主役として前線で活躍してきた。

 それは今も変わらない。

 

 その騎馬が有名なのは西涼の馬騰や、公孫賛率いる白馬隊だろう。

 そしてこの曹操軍も騎馬隊には力を入れている。春蘭や秋蘭を主軸に鍛練を施し、その完成度は大陸でも五指に入ると自負していた。

 そんな自分達を差し置いて最強を名乗る、その騎馬隊とは如何程の―――

 

「興味があるだろう?」

 

「麗覇……ッ!!」

 

 いつの間にか自身の隣に来ていた袁紹。華琳が驚いたのは彼の姿だ。

 肩から足首にいたるまで縄で縛られ、そんな彼を猪々子が担いでいる。

 その姿は戦場で捕らえられた敵将のようだ。

 

「これか? 袁家が誇る真の秘密兵器を温存しようという、桂花の粋な――」

 

「御輿に乗って飛び出そうとした所を、桂花さんの指示で簀巻きにしたんです」

 

「……そうとも言う」

 

 そうとしか言わない。

 

 状況がわからず困惑する華琳だったが、優秀な通訳(斗詩)のおかげで理解する。

 どうやら私塾にいた頃以上に、周りに迷惑を掛けているようだ。

 桂花と斗詩の気苦労は絶えないだろう。

 

 少し強引にでも引き抜くべきだったか――などと華琳が考えている間。

 猪々子の手により隣に降ろされた袁紹は、先程の続きを話そうと口を開いた。

 

「我の事はさておき、どうだ華琳」

 

「どう、とは?」

 

「惚けるな、あの騎馬隊に興味があるのだろう?」

 

「……」

 

 いつの間にか縄抜けを果たしている迷族を尻目に、彼の言葉を吟味する。

 興味は――ある、大いにある。華琳の好奇心は並の物ではない。

 それも友が手掛け、大陸最強を名乗るのなら――

 

「痛!? ……??」

 

 何だか掌の上で転がされているようで我慢ならない。反射的に隣に居る彼をつねってしまった。

 

 袁紹がここに来たのは汜水関を先んじて通る為、その許可を貰うのが目的だろう。

 興味を持った華琳(自分)なら難なく篭絡出切ると考えて。

 

「いいわ、そこまで言うなら見せて貰おうじゃない。先に汜水関を通るのは私達だけど」

 

「む、何故だ?」

 

「何故って……虎牢関の門に衝車を当てるために決まってるじゃない」

 

 騎馬が本領を発揮できるのは平地の戦だ。いくら精鋭揃いでも、虎牢関の門が閉まっていては真価を発揮できない。

 

「無用だ、我が軍だけで当たる」

 

「!?」

 

 何気なく放たれた一言だが、内包している意味が余りにもでか過ぎる。

 

 衝車による援護を不要と言い放った、虎牢関を突破できる力があるという事だ。

 見たところ自分達のように攻城兵器を持ち合わせているわけではない。華琳が目を丸くするのも無理は無い。

 

「ホホホ、用も済んだことですし帰りますよ斗詩さん! 猪々子……さん?」

 

 理想の上司のような言葉使いで踵を返そうとした袁紹だが、その動きを猪々子により止められた。

 

「猪々子、なんだそれは」

 

「これ? 麗覇様は縄だとすぐ抜け出しちゃうからさ~、こんなときの為に鎖を持ってきたんだ!」

 

「ぶ、文ちゃん! いくらなんでもそれは――」

 

「我は一向にかまわんッッ!」

 

「もう! 何で変な所で自信満々なんですか!!」

 

「あ、いや言ってみたかっただけ――」

 

 そうこうしているうちに鎖で簀巻きにされる迷族。来た時と同じように猪々子に担がれると、観念したのか抵抗はしなかった。

 

「ではな華琳! 事が終わったら飲み明かそうぞ!!」

 

「へ? え、ええ」

 

 一連の出来事に流石の華琳も言葉がない。今更だがあの格好で軍中を移動する事に抵抗は無いのだろうか。

 華琳の疑問に答えるように、袁紹達は何事もなく自陣に向かって歩き出した。

 彼らの背が遠くなった頃、郭嘉が胸中を言葉にする。

 

「まるで嵐のような御仁ですね」

 

「自分が台風の目でないと気がすまない性質、昔からよ」

 

 私塾に居た頃からそうだ。彼は常に注目を浴びる事に、無自覚ながら執着していた。

 能力の高さや、歯に衣着せぬ物言いで袁紹についで問題児だった華琳だが。

 彼女が何かしら問題を起こしても、いつの間にか介入している袁紹に上書きされる。

 

「楽しみね」

 

 心底そう思う。

 

 私塾に居た頃のようにその性質が健在なら、彼は必ず自軍(曹操軍)よりも大きな偉業を成し遂げ、この地の、いや、天下中の注目を掻っ攫っていくはずだ。

 果たして、自動衝車という規格外を越える事が出来るだろうか――

 

 

 

 

 

「な、なんやねんこの騎馬隊は……」

 

 華琳の許可を得て汜水関を通っていく騎馬隊。それを最前列で見ていた李典の呟きは、その場に居た曹操軍全員の気持ちを代弁していた。

 

 この大陸の軍には分かり易い特色がある、色だ。

 曹操軍が蒼、孫策軍が赤とあるように、袁紹軍の特色は黄色だ。

 それを踏まえて李典達の目の前を横切る騎馬隊はどうだろうか、黒だ。

 漆黒の鎧を人馬共に纏っている、旗がなければ誰も袁紹軍だと気付けないだろう。

 

「フッフッフッ、見ましたか呂布殿! 曹操軍は我ら重騎隊に目を丸くしていましたぞ!!」

 

「……」

 

 その隊を率いるは袁紹軍最高戦力、呂奉先。専属軍師である音々音と共に虎牢関へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり虎牢関、その門を超えた先の平地に華雄と、()()の両軍が布陣していた。

 

 華雄から戦の仔細を受け取った賈駆は、虎牢関を一時的に諦める策を考えた。

 汜水関を陥落させた曹操軍は、神速の用兵術を持ち味にして最大の武器としている。

 その軍勢が虎牢関で建て直しを図ろうとする自分達を、見逃すとは到底思えない。

 汜水関の制圧を後回しにしてでも虎牢関を攻め立てるはず、そしてそうなれば――

 

 自軍に手立ては無い。

 故にあえて虎牢関を諦める。衝車を止める術、時間がないなら固執した所で結果は同じだ。

 それよりもその後、虎牢関を抜けた連合に対して策を立てたほうがマシである。

 

 賈駆の策、それは単純にして効果的なものだ。

 虎牢関を通る連合に、陣形を整える間を与えず攻撃する。

 門を通る人数には限りがある、そして大軍であればあるほど陣形を整えるのに時間を有する。

 その大軍に向かって二軍の弓隊で一斉掃射、機を見て騎馬隊で止めを刺す。

 単純にこれを繰り返すだけ。

 

 たとえ無陣形で突撃した所で、董卓軍が誇る二軍の餌食になるだけである。

 そうして連合軍の進入を迎撃し続け、日暮れと共に退却させ。

 夜の内に虎牢関の守りを固めようという段取りだ。

 

「すまんな華雄、ウチが汜水関に合流さえしていれば――」

 

「二軍であたった所で、あの衝車を止められたとは思えん。

 お前が気に病む必要は無い」

 

「……」

 

 不器用ながらも気を使った言葉に張遼は目を丸くする。

 一昔前の華雄なら、皮肉の一つや二つ言い放っていたはずだ。

 敗北から心機一転した事は知っているが、これではまるで別人である。

 

「そんな事より霞、そちらは大丈夫なのか? 迂回路の敵を撃退したという報告は受けていないが」

 

「そうなんよ! あいつら二日目以降消極的やねん」

 

「では、孫策軍は健在か」

 

「ほんますまんなぁ……けどウチの副将と兵を残してきたし、数日は大丈夫なはずや」

 

 迂回路の戦は二日目以降停滞していた。賈駆や張遼の策を警戒する孫策軍、孫策軍の反撃を警戒する張遼。

 両軍が守りに集中していたため小規模な戦闘しか起こらず、孫策軍の進軍を阻む事に成功しているが撃退まではいかなかった。

 そこへ賈駆の指示で汜水関を抜かれたという報が入り、華雄と合流したのだ。

 

「――霞」

 

「合図の旗が振られたな、賈駆っちの予想通り汜水関の制圧を後回しにしてきたか」

 

 虎牢関に配置させた物見達からの敵軍接近を知らせる合図。汜水関を制圧した後なら早すぎる。

 

「……妙だ、役目を終えた物見達が下がらない」

 

「なんやて?」

 

 連合軍が進軍を優先してきたなら、十中八九虎牢関を突破する為の衝車を持ってくるはず。

 そうなれば確実に虎牢関は抜かれる。だからこそ、物見を任せた者達には速やかに退却するようにと話てあるのだが――

 

「下がる必要が無い、敵は来るが衝車は無いという事か?」

 

「んなアホな、けど確かめるにも時間が無い。ここは予定通り配置に付いたほうがええで」

 

「ああ、そうしよう」

 

 洛陽を背に華雄軍は右翼、張遼軍は左翼に配置されている。その中腹で会話していた両名は、自軍の指揮に戻ろうと踵を返した。

 

「華雄! 約束忘れんなや!!」

 

「お前もな!!」

 

 約束――それはこの戦が終わった後、二人でどちらが最強か決しようというもの。

 

 各地から成る連合軍を退けることに成功すれば、この二人は誰もが認める中華最強の武将となる。

 だが二人で最強では締りが悪い。そこで――連合に勝利した後に一騎打ち、真の中華最強を決めようというのだ。

 

 この約束には二つ、前提となる条件がある。

 一つは連合に勝利する事、そして二つ目は――生き残る事だ。

 今から死地で戦う二人、安易に『死ぬな』とは言えない。

 この約束はそんな武人の性質が生み出した、互いの無事を願う祈りでもあった。

 

 瞬間、自軍の中核に戻った二人の耳を轟音が襲う。

 

「なんだ!?」

 

 音の出所に目を向けた両軍はそのまま目を見開く、彼らの目線の先では――虎牢関の門が粉々に吹き飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

 この世界には規格外な人物が存在する。例を挙げるとすれば李典だろう、時代錯誤な自動衝車なる物を作り上げ。

 原作では用途を聞いただけでカメラさえも作ってのける、彼女は正しく規格外(チート)だ。

 

 そしてその規格外は袁紹軍にも居る。彼女は李典のような技術が有るわけではない、どこぞの迷族のような未来知識が有るわけでもない。

 では何が規格外なのだろうか―――武だ。英傑が数多存在するこの大陸の中で、彼女の武力だけは突出している。

 

「門……壊れた」

 

 正しくは壊したである。

 

「流石ですぞ呂布殿ぉーー!」

 

 音々音の賞賛を皮切りに、騎馬隊の面々からも『お見事』と言葉が上がる。

 虎牢関の上で衝車の存在が無く油断していた物見達は、顎が外れんばかりに口を開き惚けていた。

 

 物見達の反応は正常である。衝車の十数撃を持って破壊した関門を、矛の一振りでやってのける人間が居るなど誰が思うだろうか。

 その証拠に、恋の規格外に慣れている隊の者達も戦慄している。

 

 呂奉先、彼女こそが袁紹軍が誇る規格外にして武の化身。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うせやろ?」

 

 目を疑う光景に張遼が呟く、言葉が変なのはそれだけ動揺している証だろう。

 

「敵、此方に意を解さず突っ込んできます!」

 

「無陣形か――ならやることは変わらん、弓隊構え!」

 

 自分達の配置を見れば待ち構えている事くらい安易に想像できる。

 それを確認した敵軍の行動は、無謀な事に突撃であった。

 

 ただの猪突猛進なのか、それとも策があるのか。

 

『射てぇッッ!』

 

 華雄と張遼の声が重なり、阿吽の呼吸で両軍から矢が放たれる。

 暫く上空へと進んだ矢は重力に従い降下、吸い込まれるように敵に降り注いだ。

 

「す、凄い……!」

 

 矢を放った兵士の一人が言葉を洩らす、無理も無い。

 両軍から放たれた矢は万を越える、それが敵軍に飛来したのだ。最早矢の雨では生ぬるい。

 余り矢の多さに敵軍が見えない、その光景は文字通り矢の嵐。

 この後残存する敵に騎馬隊で止めを刺す手筈だが……果たして彼らの出番はあるだろうか。

 

「――ッ! 弓隊構え!!」

 

「え、……なッ!?」

 

 張遼の切迫した言葉に驚きつつも矢を番え――驚愕した。

 敵軍が矢の嵐から出てきたのだ! それも一人や二人では無い!

 

「て、敵軍の被害は皆無! 落馬した者も見当たりません!!」

 

「馬鹿な……」

 

 重騎兵、その存在自体新しいものではない。長い歴史の中で似た概念の兵種は生み出されてきた。

 重装兵の防御力、騎馬の機動力、両方の長所を組み合わせれば強力な騎兵が出来上がる。

 しかしそれは机上の空論とされてきた。防御力と機動力、どちらかに傾倒しなければ機能しなかったからだ。

 

 だが目の前の敵はどうだろうか。騎馬隊に劣らぬ機動力、矢の嵐を耐え抜く重装兵に劣らぬ、否、それ以上の防御力。

 

「恐れながら進言いたします! あの敵に矢は――「通じる!」 ッ!?」

 

「完全な重装なんて不可能や! 必ず通る箇所が在る、そこを狙うんや!!」

 

 張遼の言葉は当たっている。人馬共に分厚い鉄鎧で覆っている重騎兵にも弱点があった。

 間接や鎧の繋ぎ目部分だ。騎兵としての役割も果たすために、そこだけはどうしても装甲を薄くせざるを得ない。

 

「二射目、射てぇッッ!」

 

 その弱点を袁紹達は良しとしただろうか―――答えは否。

 

 彼らの左手には小楯がある。動きを阻害しないように設計されたそれを使い、致命的な部位に当たる矢を――弾いた。

 

「なんやそれは……なんやソレはァァッッッッ!!」

 

 溜まらず驚愕と共に怒号の声を上げる。

 

 重装備で矢を弾く事はまだ理解できる。しかし小楯で弾くとなると話が違ってくる。

 とは言え、やろうと思えば張遼にも出来るだろう。だがそれは彼女(武将)だからであり、一兵士に出来て良い芸当では無い!

 にも関わらず、目の前の重騎兵は一人を除いて全員やってのけた。そこから導き出される答えは――

 

 

 

 

 

 袁紹の提案により生み出された重騎兵、馬の難題を桂花の策でクリアした後。

 その騎手が問題となった。

 唯でさえ重い装備、それを着こなし馬を操り、小楯による防御にも気を回さなければならない。

 袁紹、桂花、恋による厳しい適正審査を経て騎手は決められた。故に必然的に精鋭兵で構成される。

 

 重騎兵は袁紹軍約30万の兵から選出された千の騎兵。一人ひとりが百から数千の兵を率いる事が出来る、隊長格で構成されているのだ!

 それを率いるは袁紹軍が誇る最強の個、呂奉先。

 

 重騎兵はこの時より、名実共に袁紹軍の武の結晶となった。

 

 

 

 

 




あと二話で今章収束です。閑話挟んで新章に進む予定、予定は未定(真顔)

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