恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

としちゃん「(大役)やべぇよやべぇよ……」



としさん「(柵破壊)やったぜ」

きんぱつどりる「やりますねぇ!」

きちくめがね「じゃけん投石開始しましょうね~」

陽軍「ファッ!?」



おかねもち「船ゾ」

魏軍「ファッ!?」



大体あってる


第48話

 開戦初日から戦は佳境に入っていた。地形的有利を得ていた魏軍に苦しい状況だ。

 原因は陽軍の大船団にある。小型船が横一列、大河を埋め尽くす勢いの数で迫ってくるのだ。

 これを迎撃するため魏軍は河に沿って兵を配置せざるを得ず。戦力の分散を余儀なくされた。

 

 頭の痛い問題は他にもある、守り手の数が足りないことだ。

 大橋を渡ってきた陽軍とならいざしらず、小型船で向かってくる相手とは弓矢による遠距離戦が主体となる。

 これにより騎兵や重装歩兵と言った、接近主体の者達が戦闘に参加できない。

 

 夏侯惇の大剣、許緒の鉄球、典韋の巨大ヨーヨー、楽進の拳、李典のドリル槍、于禁の双剣。

 弓を得物とする夏侯淵を除いて、これらの名将達が前線で戦う事が出来ないのだ。

 大橋での戦いに限り武勇を振ることはできるが、それでは横に広げた兵達の指揮が乱れる。

 陽軍は兵を広げる事で一時的に魏軍の個を封じた。

 

 そして、単純な数による力押しでは陽軍に分がある。彼等は間を置かずに殺到してくるのだ。

 魏軍は射手の足りなさを少しでも補うため、騎馬隊を馬から下ろし弓を引かせた。

 弓を引けない者達には弩を使わせた。ついには弩が不足した故に――

 

「か、夏侯惇将軍すげぇ! 投石で敵船を粉砕した!!」

 

「俺たちもやるぞォ!」

 

『オォッ!』

 

 石を投げることで応戦した。この様子からも、兵力差による事情が見て取れる。

 

 懸命に迎撃する魏軍。焼け石に水と言わんばかりに、殺到する陽軍。

 陽軍の用意した小型船にはそれぞれ、矢避けの木盾が設置してある。

 その後ろで矢をやり過ごしたあと姿を現して弓を引く。船頭を狙おうにも盾で守られている。

 火矢も効果が無い。なにせ河を渡っているのだ、消化用の水には事欠かない。

 

「陽軍が上陸、次々に歩兵隊と交戦開始!」

 

「攻撃が消極的な辺り、拠点設置を優先しているようです」

 

「各将が迎撃していますが敵軍の数が多すぎます! このままでは……」

 

「郭嘉様。一度投石機の目標を――」

 

「駄目です!」

 

 郭嘉は唇を噛みながら部下の進言を一蹴した。

 彼の考えはわかる。投石機の射程を見切った顔良が一進一退の攻防に切り替えたのだ。

 故に始めの奇襲以降、まともに巨石をぶつけられないでいる。

 であれば、投石機の射程範囲内にいる船団に向ける。しかしそれをすれば――

 

「魏軍はあっという間に大炎に焼かれることになります!」

 

『!?』

 

 そう、忘れてはならないのが大炎の存在である。

 彼等は大橋で騎乗したまま静観している。もしも投石機による攻撃を一基でも緩めれば……。

 語るまでも無い。その先に待つ魏軍の被害は、顔を青くした部下の表情が物語っている。

 

 魏軍は投石機を用いて大炎を封じようとした。それが今は、陽軍が大炎を用いて投石機に制限を掛けている。

 

 このまま放っておけば数に圧されて岸を制圧される。投石機を動かせば大炎が向かってくる。

 大炎のみを止めるのであれば、幾つか手段がある。しかし――

 

「……くっ」

 

 多では無く個に接近を許してもまずい。その身一つで勝敗を決定付ける規格外が居るのだ。

 郭嘉は大炎の先頭に居る、燃え盛るような赤毛を憎らしげに睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スー」

 

「りょ、呂布殿ぉ。いくらなんでも居眠りはまずいのです!」

 

 色んな意味で熱い視線を受けているとは露とも知らず、恋は器用にも馬上で眠りこけていた。

 そんな彼女の背後に得物の柄が近づいていき―――軽く後頭部を打った。

 

「華雄殿!?」

 

「……イタイ」

 

「生きている証拠だ。私が敵であれば命は無いぞ?」

 

「殺気で……わかる」

 

「裏を返せば、殺気が無い流れ矢の類には対応できないと言うことか。柄で良かったな」

 

 恋を諌めたのは大炎の“副将”華雄だ。彼女と元華雄軍の精鋭三百人を新たに加え、大炎はさらに力を増した。

 

「…………シュン」

 

 ぐぅの音も出ない正論で言い負かされた恋は素直に反省。犬耳を垂れ下げた。

 華雄を副将に任命した理由の一つには、恋を将として律する目的もある。

 華雄は乱暴な言動に反して、将として規律を重んじる特徴があった。

 粗野な者とはそりが合わないと豪語する桂花でさえ、彼女の指揮には一目置いている。

  

 唯我独尊を地で行く恋には丁度いい副官だ。

 彼女が居れば個としてだけではなく、将としても成長を期待できるだろう。

 

「まぁ、恋の気持ちもわからんでもない」

 

 言って、前線に目を向ける華雄。その目は貪欲に光っている。

 攻撃こそが最大の防御とする彼女のことだ。頭でわかっていても、威圧の為に待機するのはもどかしいのだろう。

 馬上にも関わらず、器用に貧乏揺すりをしているのがいい証拠だ。

 

「それにしても、何て数の船だ」

 

「主殿を含め、ねね達はこの地での戦を想定していたのです。

 数は少ないですが、中型の用意もあるのですぞ」

 

 対岸という地の利に対して、陽軍は軍資金に糸目をつけず船を製造、輸送していた。

 数千という数を動かすだけでも莫大な費用が掛かる。大河での戦闘が無ければ骨折り損だ。

 にも関わらず、迷う事無く持って行く事を決定した。

 

 潤沢な軍資金を持つ袁陽だからこそ、出来る準備である。

 

「……時が進むにつれ、岸での戦闘は魏軍が優位になったな」

 

「はい、将兵の使い方が上手いのです」

 

 河から魏軍側の陸にかけて、人ひとり分の段差がある。

 魏軍はその岸に重装歩兵を並べ、上陸してくる陽軍を盾で押し返す戦法だ。

 苦労して上陸に成功したとしても、後列に待機させていた歩兵達の槍で突かれる。

 

 それでも陽軍は数を力に上陸。次々に、後に続く味方の為の上陸拠点の構築に成功した。

 問題はそこからである。拠点を確認した魏将達は、指揮を副官に一時譲渡して突貫、溜め込んでいた力を爆発させるが如く、瞬く間に拠点を潰していった。

 その後、穴の開いた箇所に戦力を補充して後退。自軍の指揮に戻るのだ。

 

「あの敵将達を何とかしない限り、渡河は難しい。いま陽側で動ける将は私と猪々子だけだ。

 それに仮に乗り込めたとしても、素直に一騎打ちに応じてくれるとは思えん。

 今日は痛み分けだな」

 

「さて、それはどうでしょうか」

 

「……? この期に及んで打開する何かが?」

 

「ねねにはわかりません――が、師匠(桂花)達がこの状況を想定していないはず無いのです」

 

「だが、余程の物を用意しない限りこの状況は……――ッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「急報! 陽軍の船が橋に変わりました!」

 

「そんな……!?」

 

 物見の報告で河に目をやると、いつの間にか橋が架けてあった。

 

「……ッ、小船の盾を!」

 

 その正体は、小船に添え付けられていた矢避けの木板である。この橋こそが船団の目的だ。

 

 上陸を開始し、拠点を設置したのは囮。その影で、小船に残っていた人員が木盾を外していき、板として繋ぎ合わせ、数千の小船を土台に橋として作り上げたのだ。

 

「この発想、貴方のお友達かしら?」

 

「……恐らくは」

 

 華琳に返事を返しながらも、郭嘉は橋について思案する。

 

 矢で貫けない辺り強度は確かなようだ。足場の安定感は悪い、騎馬で渡る事は出来ないだろう。

 橋設置にあたり、陽軍の攻めを難しくしていた段差が無くなったのも大きい。

 そしてなにより――

 

『オオオオォォーーーーッッ!』

 

「敵、猛攻、来ます!」

 

 戦力差が発揮出る攻めを可能にした。

 

「止むを得ません。投石機を一基、あの橋に――」

 

「大炎に動きあり! 大橋を渡り始めました!!」

 

「ッ!? 全ての投石機で動きを止めて下さい」

 

 郭嘉は橋を渡る大炎を睨んだ。彼等は投石機の動きを察知して進んだに違いない。

 事実、大炎の進行速度は非常にゆるやか、わかりやすい脅しである。

 

 投石の目標を変えるには、折りたたみ式により落ちた射程を補うため、投石機自体を動かす必要がある。それをすれば大橋側の投石が弱まり、大炎に突破する隙を与えてしまうだろう。

 

「……」

 

 未だかつて、これほど鶏冠に来る牛歩戦術があっただろうか。

 このまま岸を放っておけば、人数差で押し切られることは明白。

 だからこそ、窮鼠が猫を噛むかの如く、投石機にて一矢報いたかったが――

 

 大炎の存在が、噛み付く事すら許さない。

 

「仕方ありません、ここは官渡まで下がり体勢を――「待って、稟」華琳様?」

 

「天は、私達に味方するみたいよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿な、ここまできて!」

 

 怒鳴ったのは袁紹だ。さしもの彼も、体裁を忘れてソレに憤怒した。

 雨だ。ぽつりぽつりと、小雨がその地全体に降り始めている。

 

「開戦したての時は快晴だったのに……!?」

 

「小船での攻略を始めた頃から、雲が厚くなりましたね~」

 

「にしたって、こんな早く降り始めるなんて!」

 

「……」

 

 袁紹が怒るのも当然だ。

 

 犠牲を払いながらも、ようやく、本格的な攻勢に入れる段階に差し掛かったばかり。

 だが、このまま強行すれば――

 

「後退を進言致します。雨脚が強くなれば河の増水は必至、橋は流され前線の兵が取り残されます!」

 

「ボクも後退に賛成よ。築き上げたものを崩すのは惜しいけど。兵達の命には代えられないわ」

 

「風は作戦進行を提案します~」

 

「危険だわ!」

 

「だからこそ活路があるのですよ。幸い今は小雨、増水まで時間があります。

 その間に魏軍を上回る戦力を送り込み、大橋と連動して攻撃を加えられるです~」

  

「博打が過ぎるわ。止む可能性もあれば、予想外の豪雨になる可能性もあるのよ。

 そうなれば、大橋での渡河も難しくなるわ」

 

「どちらを選択するにせよ、早急な決断が必要ね」

 

「…………」

 

 選択を迫られた袁紹は、天を睨みつけるように見やる。

 そのまま少し考え込み――やがて、溜息と共に力を抜いて、口を開いた。

 

「全ての兵を下げよ。念のため、陣も河から離せ」

 

『ハッ!』

 

 袁紹の判断は正しかった。

 

 陽軍が後退を完了させてから半刻後、凄まじい豪雨が降り注いだのだ。

 河はあっという間に増水し、陽軍が作り上げた橋は、土台の小船ごと押し流された。

 

『……』

 

 その光景を見て、陽軍は唖然としていた。

 

 濁流に飲まれなかった安堵感。天災には成す術も無い無力感。

 流した血が無駄に終わった徒労感。多種多様な感情が兵士達の間を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 無力感に苛まされながら後退して行く陽軍。そんな中、武官の一人が大河を挟んだ魏軍を見つめている。彼女は目をギラつかせ、口角を上げながら自陣に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




駆け足気味です。文字数も駆け足です。
でもワイの生え際だけはこれ以上駆け足しないでください何でもしますから!

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