恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

かゆー「あ、そうだ(唐突)。投石機破壊するゾ」

りてん「やめてくれよ……(絶望)」



りてん「クゥーン(気絶)」

かゆー「やったぜ」

超来来「あっ、おい待てぃ(江戸っ子)」

かゆー「やべぇよやべぇよ。患者が死ぬねんこのままじゃ!」

ちょうりょ「えぇ……(戦意喪失)」



かゆー「穴は一つしかないから」

たいえん「かしこまり!」



大体淫夢覚えたてのホモガキみたいな前書きしてんな、お前どう?


第52話

 華雄達の奇襲による投石機破壊から始まった夜戦は、後続の大炎が唖然とする結果に終わった。

 

「何だ奴ら、妙に慌しいから迎撃にでも動くかと思えば……」

 

「陣を引き払っている、官渡まで下がるつもりか?」

 

「馬鹿な……! これだけの要所をあっさり捨てるだと!?」

 

「いや間違いない。見ろ、白馬からも兵と物資が大量に出てきている」

 

『!?』

 

 白馬は魏軍の補給兼攻撃拠点だ。そこから人員と物資を放出するということは、魏軍がこの地を、陽軍を苦しめた天然要塞であるこの地一帯を放棄したことに他ならない。

 

「投石機無き今、我等大炎を恐れたか……にしても対応が早すぎる」

 

「恐らく始めから撤退の準備はしてあったに違いない。しかし、奇妙だ」

 

「うむ、我等の戦力を確認するまでも無く引き下がった。作為的なモノを感じる」

 

「して、どうする?」

 

「どうする、とは?」

 

「攻撃を加えるか否かだ。そもそも我等の目的はそれであろう」

 

「焼け石に水だ。撤退を開始した相手に大炎の圧力は効果が薄い。

 下手に動けば包囲殲滅の憂き目に遭うだけよ」

 

「本陣に使いを出そう。他の騎馬を含めて追撃すれば――」

 

「無駄だ。この悪天候と闇、動員できるのは精々三千騎程度。全軍で動いている魏軍には敵わん」

 

「左様。我らがすべき事は、一刻も早く仔細を本陣に届ける事だ」

 

 大炎は一人ひとりが武の達人であるだけではなく、百から千を率いる事の出来る隊長格で構成されている。

 普段は突破力にばかり注目されがちだが、全員が冷静に場を分析し、指示するまでも無く次の行動に移せるのも強みである。

 そんな大炎達だからこそ、この不測の事態にも最善の選択ができた。

 

 もしも、功に逸り攻撃を加えていたら――

 輸送隊に扮した魏軍の精鋭に包囲されただろう。敵中での奮戦も虚しく、合流してきた魏将達に狩られていたはずだ。

 事実、立ち去っていく大炎の後姿に魏軍は舌打ちした。

 魏軍が本陣を引き払ったのは事実だが、敵地で孤立する大炎を潰す為の罠でもあったのだ。

 

「うっそだろお前!?」

 

「麗覇様、口調が」

 

 知らせを聞いた袁紹達も驚いた。大炎達の見解と同じく、魏軍は白馬一帯を易々と手放さないだろうと見ていたための驚きだ。

 結局その夜は、陽軍による侵攻は行わなかった。

 魏軍の不可解な動きに不気味さを感じ、夜明けまで様子を見る事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝、晴天となった戦場で――

 

「うっそだろお前!?」

 

「麗覇様……」

 

 すっかり引き払った魏軍の陣を見て袁紹が驚きの声を上げた。

 半信半疑だった。大炎の知らせを聞いても、それが真実であると信じられなかった。

 投石機が破壊された事は大きな痛手だが、大河に囲まれたこの地、いくらでも利用できる。

 報告に有ったような落とし穴で大炎の足を遅らせても良いし、いっそ大橋を落としても良い。

 橋さえなければ陽軍の侵攻は難しくなり、魏軍は大橋に使っていた戦力を他に向けられる。

 

 この方法さえ数ある戦法の一つに過ぎない。郭嘉の頭脳を持ってすれば、より効果的な策も生み出せたはずだ。

 にも関わらず後退。物見の報告によれば魏軍は官渡に入ったらしい。

 

「……むぅ」

 

 相手はあの曹操率いる魏軍だ、これで終わりとは思えない。

 

「麗覇様。兵達が進軍の号令を今かいまかと待っております」

 

「ならぬ、桂花」

 

「ハッ」

 

「兵を三千程見繕って白馬に送れ。罠や伏兵の類が無いか徹底的に調べるのだ」

 

 桂花は直ちに斥候隊を編成、白馬に送った。

 迅速に動いた辺り、袁紹が様子見に動く事を見越していたようだ。

 この消極的な行動に兵達から不満の声が上がったが、各将がなだめた。

 

 数刻後。戻った斥候隊の報告により白馬が安全とわかると、陽軍は橋を渡り魏軍が布陣していた場所に拠点を移した。

 さらに、もぬけの殻となった白馬に各種物資や食料を移送、補給拠点とした。

 

 

 

 

 

「さて、これからの展望だが――」

 

 官渡に篭る魏軍をどう相手取るか、或いは官渡へと続く橋で魏軍が布陣していた場合、どのように攻撃を仕掛けるか。袁紹と軍師達で話し合いを始めたその時、驚きの知らせが物見により届いた。

 

「魏軍が敗走を始めただと?」

 

「はい、官渡から出て行く軍勢の中に民衆の姿が見られました。

 現在は許都方面に向けて移動中です」

 

「麗覇様、これは……」

 

「追うぞ! 全軍で追撃だ!!」

 

「待って。追撃は官渡の制圧後じゃないと挟撃される恐れがあるわ」

 

「ならば追撃に並行して官渡も攻め立てる。者共、我に続けーーッッ」

 

『オオオオオオ!』

 

 呼び止める間も無く御輿が走り出す。その光景を唖然と見ていた詠の肩を、風が叩いた。

 

「陽軍には二面作戦が決行できる兵も将も、十分にいるのですよ~」

 

 にぱー☆ と告げられた言葉に対し、詠は天を仰ぐ。

 

 とんでもない軍容だ――と改めて思った。しかもこれで全力では無い。

 今回の戦に動員した兵力は全陽軍の半数以下、本国に残した兵とあわせれば百万を優に超える。

 魏軍との兵力差を考えれば、五十万ですら兵力過多だと言うのに――。

 一時的とは言え、こんな軍が総大将を務めた連合と渡り合えた自分達を褒めてやりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、陽軍は官渡へ進軍。特に妨害も無く魏軍の背が見渡せる場所に布陣した。

 

 魏軍があっさり追いつかれたのには理由がある。民だ。

 官渡で暮らしていた魏民達が軍主導の下、許都に向けて移動している。

 その足は余りにも鈍足で、彼らが持っている荷物がさらに進行速度を遅くしていた。

 

 袁紹達は初め、この敗走を罠だと考えていた。

 相手はあの曹操率いる魏軍、投石機の破壊だけで勝てる相手だとは思えなかったのだ。

 つまり罠の類、敗走に見立て陽軍を釣り出す策である可能性が高いという結論に至った。

 しかしどうだ、魏軍が連れている住人達がその嫌疑をかき消している。

 兵が民に扮している可能性も考慮したが、多くの老人や子供、女が追従している。

 その事実が魏軍の敗走を決定付けた。

 

「……」

 

 少しずつ遠のいて行く魏軍を見ながら、袁紹は動けずにいた。

 あまりに“あっけない”のだ。それと同時に、手応えが感じられずにいる。

 確かに自分達は勝てる準備をして戦に望んでいる。兵力も、策も、勝って当然の規模だ。

 だが何だこの違和感は。まるで、この状況が誰かに仕向けられたかのような――。

 

 ――ありえない。

 

 袁紹は自身の中に生まれた違和感を、頭を振ってかき消した。

 もしも今の状況が魏軍にとって想定内だったとしたら、その誰かは陽軍の動きを予測しきった事になる。

 悪天候の中、少数で敵陣に乗り込み投石機を破壊した華雄(イレギュラー)を含めてだ。

 彼女の活躍は陽軍としても想定外のもの、それを外部の魏軍が想定して策を……?

 

「麗覇様、兵達が逸っています」

 

 令を出さない袁紹に桂花が声を掛け、風と詠も頷く。

 彼女達軍師も袁紹と同様に違和感は感じていたが、それを踏まえた上で吟味、追撃を進言していた。

 一番怖いのは投石機だが、余分にあるなら戦略的に考えて白馬で運用したはず。

 軍中に隠す事の出来る隠匿性は確かに脅威だが、官渡から出てきた物資の中にそれらしいものが無い事は、物見達の報告で明らかになっている。

 次点で警戒すべき落とし穴のような罠だが、陽軍に被害を与えられるものが僅かな時間で作れるはずも無し。

 何より、魏軍へと続く地は彼らが踏み荒らした後だ。あるはずもない。

 

「追撃開始だ!」

 

『オオオオオオオオオオオォォォーーーッッ』

 

 結局袁紹は、自身の中にある違和感を拭いきれないまま軍を動かした。

 今も頭の中で警鐘が鳴り響いているが、慎重過ぎても駄目だ。

 石橋を叩いている間に好機を逃し、問題を先送りにしていては意味が無い。

 反袁紹派と張勲の件が良い例だ。後回しにせず行動していれば面倒は無かった。

 それを思い出し、無理矢理に意識を切り替えた。

 

 

 

 

 逃げる魏軍に対して横一列、横陣で足並みをそろえて追いかける。

 相手の恐怖を煽る為だ、数の優劣を明確に見せ付けることで士気を下げる。

 事実、陽軍が動き出した瞬間、魏軍が慌しくなった。悲鳴のような声は民だろう。

 慌て逃げる速度が増したものの、少しして動きが鈍くなった。

 恐怖に駆られた民衆が足並みを乱したのだ。魏軍は懸命に落ち着かせようと奮闘している。

 

「……」

 

 袁紹の額に冷や汗が浮かぶ。

 

 このまま交戦すれば民衆に多くの被害が出る。余計な殺生は避けたいのだ。

 もしも魏軍がこのまま民と離れず退いていった場合、袁紹は追撃を中断したかもしれない。

 しかし――

 

「魏軍が動きました!」

 

 彼の知る曹孟徳が、民を盾に逃げ出すはずもない!

 

 民衆を誘導していた隊列から続々と魏軍が出てくる。彼等はそのまま隊を作り、騎馬隊を前に並べて横陣を敷いた。その後ろに歩兵が続く、迎撃の構えだ。

 

 ――これを待っていた!

 

 自軍の十倍近い相手を前に、民を守るように布陣する。通常なら有り得ない光景だ。

 これができるのは大陸中を探しても曹操と、劉備、孫策ぐらいだろう。

 個人の問題だけではない。あの死地に軍を従わせる事が難しいのだ。

 

「大炎に伝令! 敵陣中央で華を咲かせよ!」

 

「ハッ!」

 

 最も、相手が天晴れな行動にでたとして手加減をする必要は無い。

 むしろ袁紹は容赦なく、攻めを苛烈化させるため大炎を先行させる。

 以前に実戦投入された戦術“大炎開花”を使うためだ。

 今回は恋や華雄を交えたフルメンバーの大炎。とんでもない戦果を挙げるだろう。

  

 そして、大炎開花を受けた魏軍に猪々子、斗詩の主攻を交えた陽軍本隊をぶつける。

 中央を大炎に荒らされ、陣がめちゃくちゃにされた所を攻撃されるのだ。

 泣きっ面にハチどころの騒ぎではない。上手くいけば此処で魏と決着をつけられるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「袁紹殿からの出撃命令ですぅ! ネネ達の出番ですよ!」

 

「やっとか、待ちくびれたぞ」

 

「……」

 

 知らせを受けた大炎が速度を上げる。目指すは敵軍中央、曹操が居る本隊はその後列だ。

 

「ネネ達の役目はかく乱です、欲をかかず役目を全うするです」

 

「わかっているさ、だが……別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「……」

 

「……」

 

『……』

 

「皆、どうしたのだ」

 

「あ、いえ」

 

 何か言いたげな彼らを一瞥し、華雄は騎突の準備に入る。

 中心が前方に張り出し両翼が後退した形、魚燐の陣だ。

 突破力を上げるため先頭に恋と華雄の両名が、指示を行き渡らせるため中央に音々音が居る。

 これが大炎本来の騎突の形、魏軍はその破壊力を活目する――はずだった。

 

「……?」

 

 最初に気がついたのは(呂布)だ。

 魏軍の騎馬隊が陣形を変えようとしている、それ自体は問題ないのだが。

 

 騎馬の後列からソレが現れた。

 

「! 皆、逃げ――」

 

 恋らしからぬ大声は、突如鳴り響いた轟音と衝撃にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が起きた!?」

 

 突然の出来事に袁紹率いる陽軍の本隊は足を止めていた。

 そのまま先行していた大炎に目を向ける、立ちこめていた土埃が薄くなっていき――。

 

「……馬鹿な」

 

 袁紹達の目に移ったのは、あの大炎の()()が消し飛んでいる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




あけましておめでとう御座います(檄遅)

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