恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

魏軍「やべぇよやべぇよ……(棒)」

陽軍「あっ、おい待てぃ(南皮っ子)」





ぐんしーズ「相手ぶっ倒すくらいでikea」

めいぞく「お、そうだな」

たいえん「おかのした」

ドッカーン(紛らわしい擬音)


読者「え、何それは(困惑)」

大体作者のせい


第53話

 袁紹が曹孟徳という人物に対して最初に抱いた感情は、恐れだった。

 宦官の孫、覇王の器、絶世の美女、そのような人伝の噂話ではなく、関心を持っていたのは正史での活躍だ。

 才ある人物を身分問わず重宝し、兵法に長け、詩人としての顔も併せ持つ。文武両道を体現した英雄。

 性に奔放で無類の人妻好き、それ故に窮地に陥る事もあったようだが、絶体絶命の危機を幾度も生き残り天運も持ち合わせている。大国、魏を建国し強大な勢力に育て上げた第一人者。

 そして――正史において、自身(袁紹)を破る袁家の死神である。

 官渡の戦いにて、当時最大勢力であった袁紹軍の河南侵攻を阻んだ。その戦い以降、袁紹の勢いは下火になり、ついには病に倒れ後継者問題で袁家は二分。機を見て河北に攻め上がり袁尚、袁煕を滅ぼした。

 

 袁紹が覇を称えるならば、曹操こそが最大の壁になるだろう。

 しかし、曹操の存在を危険視すると同時に、淡い期待を袁紹は抱いていた。

 それは――“彼女”が袁紹の理想に共感し、協力してくれるのではないかというもの。

 この世界は袁紹の知る知識とは似て非なる。英傑が女性なのが一番の特異点だ。

 そんな世界であれば、曹操を説得し盟が得られるかもしれない。そうなれば正に袁紹にお御輿。

 乱世となった中華を二大勢力が瞬く間に平定。やがて両者の合意、または婚姻により統一。

 両名とその臣下達の手腕を持って、満たされる世の実現……私塾ではそのように働きかけるつもりだった。

 

 

 

 

 当人に会うまでは。

 その日感じた雷鳴のような衝撃を袁紹は忘れていない、忘れる事ができない。

 私塾の中央、円形の空席の真ん中にポツンと座っていた彼女、曹孟徳。

 彼女の自己主張が激しい気配が全てを語っていた。誰かと並ぶ事も、ましてや下に付く事も無い、私こそが支配者だ――と。

 彼女に盟を持ちかけても一蹴されるだろう、もしくは体よく勢力拡大に利用されるだけだ。

 そして自身の力が袁紹を越えたときこう言う、『私の下で理想を実現なさい』と。 

 だが袁紹の内から溢れてくる感情が、曹操の傘下に甘んじるという選択肢をかき消した。

 

 その感情とは――一目惚れ? 憧れ? 恐怖? 否、“圧倒的対抗心”である。

 

 握力測定で、イケメンがドヤ顔で出した記録を意地でも越えてやろうと思ったあの時。○

 サウナにほぼ同時に入ったおじさんと、アイコンタクトで脳内のゴングが鳴り響いたあの時。●

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!! と、一対三にもかかわらず勝利を疑わなかったあの時。●

 

 過去感じてきたソレらとは比較にならない、怒りにすら近い対抗心。

 言葉にするなら「あんな小娘に、負けるわけにはいきませんわ!」といった感じだ。

 何故お嬢様口調なのかはわからない、曹操を見た瞬間浮かんだのだ。

 

 それからというもの、袁紹はことあるごとに曹操の上に立とうとして来た。

 文学で、算術で、兵法で、だが相手は生粋の天才。どれもあと一歩及ばない。

 唯一勝ったのは武芸。座学に比べ自身の武を重要視しなかった曹操は、幼少期から鍛えてきた袁紹に容易く武器を弾かれた。

 その時見せた悔しそうな彼女の表情。袁紹の心に何とも言えない満足感が広がる。

 あの甘美な味が忘れられず、袁紹はさらなる研鑽に励んだ。

 曹操も同様。言わずもがな、彼女も相当な負けず嫌い。模擬戦の敗北以降は春蘭達の武稽古に混ざり、擦り傷をつけながら私塾に通っていた。座学の方も今まで以上に励んだ。

 

 打算を持って接触した二人だが、気が付いた時には互いを高めあう好敵手()になっていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな曹操(好敵手)が、背を見せ敗走している。勝ち、手の内に納めたいと渇望した彼女が。

 

 何を迷う必要があるのか。兵は逸り、軍師達は追撃を進言している。

 脅威だった投石機は華雄達により破壊済み。官渡城は魏軍が移動した頃から監視しており、投石機に次ぐ、兵器のような建造品が運ばれていない事も確認している。

 魏軍は民を連れ立っての強行軍、道中に仕掛けを施す暇は無い。

 第一、このまま魏軍を見逃してどうするのだ。この機を逃せば戦場は許都方面の道中になる、今居る平地とは異なり道幅は狭く、大軍である陽の持ち味が活かせない。

 険路を主眼に入れた戦略的撤退だとしたら、道中に罠を張り巡らせられる可能性もある。

 事実、魏軍から数百ほどの騎兵が先行して行ったとの報告を受けた。ただの伝令にしては数が多すぎる。

 

(早く追撃の令を出しなさい。間に合わなくなってしまいますわよ!)

 

「……」

 

 袁紹の顔に、余裕が無い。

 表情は強張り、目は血走っている。

 

 この時、誰か一人でも彼の様子を気に掛ける人間がいたのなら、結果は変わったかもしれない。

 しかし、袁紹を含め、陽軍全員の視線は離れていく魏に向けられていた。

 

 桂花にとって曹操は憧れの存在、袁紹に心酔している今でもそれは変わらない。

 だからこそ陽国の軍師として、魏軍は最も警戒し、倒さねばならない難敵。

 

 風にとっては(郭嘉)が軍師を務める軍。打破することに熱を上げるのも当然。

 

 賈駆にとっても魏軍とは因縁、泥水関を突破された過去がある。

 とは言え、三軍師の中で最も冷静だったのは彼女だ。

 だがしかし、総大将の変化に気が付くほど、彼との付き合いは長くなかった……。 

 

 袁紹の意思は、危うい均衡で追撃に大きく揺らいでいた。そして――

 

「麗覇様」

 

「――ッ追撃開始だ!」

 

 信頼する軍師の、決定を促す呼びかけがその背を押した。

 

 

 

 

 

「着弾確認、成功です」

 

『オオオオオォォーーーッッ!』

 

 場所変わって魏軍。兵たちは郭嘉の報告で沸いた。

 

「フフフ。今頃、陽軍は目を白黒させているでしょうね。何故、“それ”があるのか――と」

 

「はい、思考が停止している内に次弾装填を急ぎます」

 

 それとは即ち投石機であった。それが二台。魏軍が保有する投石機は三台ではない、五台だ。

 この事は魏軍内でも曹操と郭嘉、李典とその直属である工作隊しか知らない。

 官渡に隠し、運び出したのではない。投石機は予め、この場に畳まれ置かれていたのだ。

 全ては大炎を殲滅するための策。白馬一帯の攻防も、民を連れ立っての撤退も、大炎を誘き出す為の罠だった。

 

 大炎が居た場所を巻き上げられた砂塵が舞う。轟音と共に巻き上げられたのだ。

 巨石ではない。今回使ったのは礫石――人の頭ほどの大きさで角ばっている石だ。それが無数に、大炎を中心に広範囲に亘って降り注いだ。

 巨石が点だとすれば、礫石は面。散弾である。李典が作り上げた投石機は、二種の投石が可能だった。

 

 これを白馬で使えば、一帯を難攻不落の要塞と化すことは簡単だったが、それは悪手であると曹操、郭嘉の両名は看破していた。

 投石機五台で礫石と巨石。大橋の大炎だけでは無く、渡河してきた陽軍すら蹴散らせただろう。

 だが駄目なのだ。それでは袁紹が“興奮”から覚める。

 袁紹も曹操同様、相手軍の力を欲している。正面から力を示すことで屈服させてくる。

 決戦のち勝利を熱望する彼だが、兵の被害が割に合わないのでは話が変わってくる。

 己が願望の為に、無駄な命を使うほど愚かな事はない。

 要塞化した白馬攻防での戦果が、自軍の等価と合わないのであれば、彼は必ず戦い方を変えてくる。

 つまり――白馬を迂回しての侵攻だ。

 

 本国に陽の侵攻を耐えきれるほどの兵は居ない。魏軍は白馬を放棄して追撃せざるを得なくなる。

 それを確認した陽軍は反転、魏軍の備えがない平地での戦に持ち込むのだろう。

 故に、絶妙な力加減を演出してきた。投石機を隠し、礫石を封じてまで。

 策は概ね成功、白馬の攻防に持ち込むことができた。予想外なのは華雄の存在だ。

 郭嘉の予定では、白馬で数日攻防戦を広げる事になっていた。投石機を絡ませ、陽軍の戦力を少しでも削るはずだったのだ。

 それがまさか、初日で、悪天候のなか夜襲を仕掛けてくるとは……。

 だが盤面に狂いはない。予定が少し早まっただけだ。

 

 そしてついにやり遂げた。あらゆる策、軍、戦術を蹴散らしうる大炎の――

 

「!? 投石を免れた者達が!」

 

「……少し狙いが逸れたようですね。問題ありません、次弾で終わりです」 

 

 晴れた砂塵の中から騎乗した大炎が見える。数は三百といった所だろうか。

 無傷なところを見るに、礫石の射程から外れたようだ。

 問題ない。すでに次弾礫石の装填を開始している。確実に仕留める為に引き付けたのだ、後は逃げる背に撃って終わりだろう。

 そして、次戦こそが自分たちにとって本番だ。陽軍五十万、大炎を欠いたとて脅威に変わりない。

 

 

 

 

 無論、策は打ってある。

 

 

 

 

 

「――ッ やってくれたな曹操、郭嘉」

 

 袁紹の周りの空間が歪む。それほどの怒気。

 魏軍に対してではない、策を看破出来なかった軍師達に対してでもない、己だ。

 まんまと乗せられ、大炎の犠牲を出した自分自身に対する憎悪にも近い怒り。

 余りの変わり様に、近くの兵たちが数歩後ずさる。

 

「麗覇様、申し訳――」

 

「後だ」

 

 桂花を筆頭にした軍師陣の謝罪を遮る。

 これ以上、間違える訳にはいかない。己に憎悪するのも、反省をするのも後でいい。

 事態は刻一刻と変化している。ここで手を打たなければ後手に回ってしまう。

 士気も最悪だ。何とか別動隊を大きく迂回させ投石機を――

 

「袁紹様! 大炎に無事な者たちが!?」

 

「撤退の銅鑼を鳴らせぇッ!」

 

 隊の先頭として突出していたことで、かろうじて投石を免れたようだ。

 その者たちの中に、恋や音々音、華雄の姿が確認できる。陽軍の士気に僅かな光明が差した。

 しかし次の瞬間、生き残った大炎は予想外の行動に出た。

 

 

 

 

「た、大炎が寡兵で魏軍に突撃を――!?」

 

 

 




MHWでやる事がなくなったので初投稿です。ベヒーモスあくしろよ(せっかち)

完全に失踪体勢に入っている作品に応援メッセージが、なんかこう、あったかい。
涙ちょちょぎれてあーもうめちゃくちゃだよ。
じゃけん完結目指して再出発しましょうね~。ブランクのせいで執筆能力が……(予防線)


もともと無いって? やかましいわ!

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