鼻血美乳妄想癖軍師「(策が)成ったぜ」
ちっぱいはおー「やりますねぇ!」
☆
ぐんしーズ「あ、すいませ(素)」
してやられイエロー「あったまきた……(冷静」
モブ「(寡兵の大炎が敵に)自分から入っていくのか……」
大体あっ
事態は刻一刻と変化している。
魏軍による投石が成功し、陽軍が呆気に取られている間、渦中にいた大炎達の時も流れていた。
「……」
隊の長である恋は決断を迫られている。隊から僅かに先行していたことで、自分たちは投石を免れた。
数は三百弱、他の者達は礫石の濁流に呑まれてしまった。
撤退すべきだ。
再び投石が来れば、間違いなく全滅する。少しでも被害を抑える為に散開して撤退。
本隊に合流して体勢を整えるのが最善だろう。だが、撤退の令が出せないでいる。
理由は、地に倒れ伏す大炎達だ。
彼らは――生きている! 重装甲と恋が課してきた鍛錬が功をなしたのか、礫石の隙間からのぞく体に呼吸があることが確認できた。
陽軍屈指の武力と耐久力を持つ彼らだからこそ、咄嗟の投石を防御し、受け身をとることが出来たのだ。
だがら――撤退を決断できずにいる。
奇跡的に防げてもそれは初撃まで。落馬の衝撃も相まって重軽傷を負っている彼らは、その殆どが気を失っている。
恋達が撤退した後、誰が彼らを助けるのだ。
本隊か? 不可能だ。投石機の射程内に入ってくる敵軍を見逃すほど、魏軍は甘くない。
とはいえ、このまま手を拱いていても全滅の憂き目にあうだけだ。
自分達は兎も角、意識のない者は礫石の二撃目を耐えられないだろう。
恋の中で、彼らと過ごした日々が流れていく。
平時の鍛錬や食事、戦のあとに囲った鍋、酒盛りからの飲み比べ。
今までは音々音や
恋は、孤独だった時間が長すぎた。
戦地において、鬼神の如く敵兵を屠り続けてきた彼女は、敵味方双方に恐れられてきた。
どれだけ言葉で誤魔化そうとも、常に一定の距離があった。
大炎の隊士達は、そんな恋を慕って集った。元々は優秀な武官の集まりだが、その実態は恋の武に憧れを抱いた武芸者の集まりだった。
やがて武だけでなく、その人となりにも惹かれ、隊士達は忠以上の親愛すら抱いている。そしてそれは、恋や音々音も同様だ。
「!」
礫石に巻き込まれた大炎の中から、辛うじて動いている者たちが居た。
彼らは折れた槍を杖代わりに、何とか立ち上がろうとしている。
駄目だ、駄目だ、見捨てない、見捨てられない、彼らは――家族だ!
「しっかりしろ! 呂奉先!!」
恋の頬に鈍い痛みが走る。完全に意識外から放たれた拳に、反応できなかった。
拳の正体は言わずもがな、華雄だ。
「撤退の令を出せ、このままでは全滅する!」
「でも、皆が」
「この状況では最早、全ては救えぬ。判断を間違えるな!」
全滅。恋が無意識に背けていた言葉を使われ、顔がゆがむ。
今にも泣きだしそうな表情は、まるで迷子の童子だ。隊の長として余りにも無様。
その表情は、恋を誰よりも認めていると自負している、華雄の心をざわつかせた。
「今のお前の判断を、倒れ伏す皆は喜ぶのか?」
「!」
喜ぶはずがない。恋達をその場に縛っているのが自分たちと解れば、自害してでも撤退を促すだろう。
それは――自分が同じ立場でも同様だ。
恋が華雄に目を向けると、右手から血が滴っているのが見えた。
殴った時に傷つけたのではない。得物を握る力が入りすぎて皮が破れたのだ。
大炎を見捨てる事は、言うまでもなく華雄にとっても不本意。
彼女の隊からも、多くの者が大炎に合流している。中には、恋達よりも長い付き合いの古株もいるだろう。
恋の脳裏に、反董卓連合戦での華雄の姿が蘇る。
圧倒的劣勢の中において、常に最善を選択、奮戦し続けた。
味方に多大な犠牲を出しながらも、勝利を諦めず戦斧を振り。
汜水関が破られると見るや、味方を鼓舞しながら虎牢関に下がった。
遠目に眺めて思ったものだ、あの姿勢こそ大炎の長が目指すべき将の姿だと。
「皆、撤退――」
「前進です!」
意を決した恋の言葉を遮ったのは音々音だ。彼女専属の護衛隊を引き連れて中央からやってきた。
音々音も礫石に巻き込まれたはずだが、彼女の護衛隊は大炎随一の防御力を持つ。
恋の矛さえ数撃防ぎきれる彼らは、数人の戦闘不能者を出しながらも軍師を守り抜いた。
「活路は後ろではなく、前にあるです! ねねを信じてくだされ、呂布殿」
撤退を促した華雄の視線を感じ、音々音はピクリと震える。
誤解だ。眼光の鋭さはともかく、華雄に彼女の意見を反対する意思はない。
反董卓連合戦にて、その戦術眼の高さは痛感している。そんな彼女が進言したのだ、勝算はあるのだろう。
それに、最終的な判断権は長にある。
「即決しろ、恋」
「……前進」
「呂布殿ぉ!」
「く、どうなっても知らんぞ!」
「投石を免れた大炎が突っ込んできます!」
「馬鹿な……正気か?」
「……チッ」
舌打ちしたのは工兵隊の副長。彼は大きなミスを犯し、小さな軍師にそれを見抜かれていた。
予めこの地に伏せてあった二台の投石機。礫石を面で飛ばす為、狙いは大雑把でも問題ない。
だが、もしも狙いが逸れた場合を想定していた李典は、発射に手順を設けて解決するはずだった。一台目で敵の足を止め、微調整した二台目で仕留める。副長は二台を同時に使ってしまったのだ。
とはいえ、手順を聞かされていなかった彼を責めるのは酷だろう。
李典は工兵隊の長だ。この戦はもっぱら後方支援であって、前線での出番はない。
だからこそ彼女は、自分が全ての投石を指揮するものだと考えていた。
李典は現在、意識不明の重体で民に紛れ搬送されている。
副長が発射の手順を知る手段はなかった。
「――ッ、一台、礫石の装填を中断! 巨石に切り替えろ!」
礫石は無数の石を面で飛ばす。故に、再装填に時間がかかるのだ。
大炎の速度から、装填前に肉薄されるとした副長の判断は鋭い。
当たらなくてもいい。巨石で怯ませ礫石で討つ!
「……華雄、武器交換」
「?」
「いいから」
「説明ぐらいしろ、まったく」
言って、恋に自身の得物である金剛爆斧を渡す。
それから少しして、代わりに持っていろと言わんばかりに方天画戟が飛んできた。
危なげなく受け取れたとはいえ、扱いがぞんざいすぎる。後で説教だ。
「……」
恋は手に持った金剛爆斧にチラリと目を向けた。重い、そして熱い。
まるで華雄の想いが、熱となってこもっているようだ。
恋の方天画戟に、このような熱は無い。そもそも、戦場に対する想いすら持ち合わせていなかった。
戦うことは手段でしか無い。それも目的は、食い扶持を稼ぐ為だけである。
こんな時代だし、戦場に欠いたことはない。恋はただ求められるがまま敵を屠り続けてきた。
だが、そんな考えも袁紹を主としてから変化してきた。
彼は言った。自国のような発展と安定した暮らしを、大陸中に広めるのが夢だと。
小難しい話はわからない。初めて聞いた時も漠然としていた“夢”は、少しずつ、だが確実に実現に向かっている。
この地に至るまで、いくつもの地方を併合、陽国の領地としてきた。
どの場所も民は疲弊しきり、陽国はその地の再建に全力を注いだ。
食料や資材を安価で分け与え。生活が安定するまでの間、税を免除。
教育機関にも力を入れ、子供たちの未来を照らした。
恐怖や暴力ではなく、豊かさという名の
いつしか、彼が作る未来を共に見たくなった。
「! 巨石が来ます!!」
「回避――いかん、間に合わん!?」
「大丈夫。このまま前進」
それを、たかが道端の
「――邪魔するな!」
『!?』
普段から物静かな恋らしからぬ声量。
それと共に放たれた戦斧の一撃は、眼前まで迫った巨石を砕いた。
『おおおおぉぉぉぉーーーッッ』
砕かれた巨石は無数の拳大くらいになって大炎に降り注いだが、勢いすら失ったソレでは傷一つつかない。
唯一懸念されたのは音々音だが、彼女の護衛が全ての小石を弾いた。
こうなればもう憂いはない。後はアレを破壊するだけだ。
「ん、返す」
「まったく……お前という奴は…………」
「?」
「頼りになる。そう言った!」
投石機から護衛の騎馬隊が向かってくる。数は三千程度。
決死の時間稼ぎだろう。大炎もろとも礫石を使うつもりだ。
「無駄だ、今の我々は誰にも止められん!」
華雄の咆哮に呼応するかの如く、十倍の精鋭を弾き飛ばしながら進軍していく。
まるで素通りだ。曹操や郭嘉の両名が、大炎を恐れ、大計を持って屠りたがった理由がこれだ。
戦術や策の常識を正面から食い破る。ただ単純な武力で……。
「魏軍が退いていく!?」
「今です、投石機を確保するです!」
適わないとみるや魏軍はすぐに退いた。騎馬を中心に工兵達を護衛しながら下がっていく。
「矢が来るぞーッ」
「無駄だ。我々に矢は――」
「火矢だ。奴らの狙いは投石機だ!」
「しまった。投石機を守れ」
巨大な建造物である投石機は守り切れず、下がりながら魏軍に放たれた火矢を浴びる。
燃え広がりが早い。どうやら、退く前に油を掛けたようだ。
「うぬぬ~。これでは復元も出来ないのです!」
「構うものか、十分な戦果だ」
「そうですぞ陳宮殿。戦況はわが軍に大きく傾きました!」
「ん、ねねえらい」
皆が口々に音々音を褒め称える。それもそのはず、退いていれば高確率で礫石の追撃を受けた。
たとえ免れたとしても、動けない者たちは助からず、その後の戦いでも陽軍を苦しめただろう。
「そうだ。早く皆の救出に――」
礫石を受けた地に振り向いて動きを止める。もうすでに陽軍の本隊が救出作業に移っていた。
寡兵で敵に突撃した理由を袁紹達はすぐに察知した。ならば、行動は早い方がいい。
陽軍本隊の誰もが、大炎が投石機を無効化することを疑わず。迅速に動けたのだ。
「おー、皆。さすがの活躍だったな」
「猪々子……」
「麗覇様の伝言だぜ。大炎は後方にて待機、治療にあたれってさ」
「だが」
「後は、任せな」
犬歯を覗かせる猪々子の姿に、皆が口を閉じる。
目が笑っていない。大炎に対する所業には彼女も腹が立っているのだ。
大剣を担ぎ、魏軍に向かっていくその背は、強い存在感を放っていた。
「いくぜ野郎ども! 倍返しだ!!」
『うおおおおぉぉぉぉぉ―――――――ッッ』
陽の二枚看板。十万の兵を連れ主攻として進軍開始。