翌日、直斗と美雪はある場所へ向かっていた。
黒のCR-Zを運転する直斗に、助手席の美雪が問いかける。
「マヨナカテレビについては白鐘さんから聞き及んではいたけど、まさか今になって……。原因は何なのかしら?」
「分かりません。しかし、事件にシャドウが絡んでいることは間違いない。美暁さんの心の闇が、『何か』をこじ開けてしまったということなのか……」
「……美暁ちゃんの証言からすると、影と入れ替わったのがおよそ一ヶ月前。そこから、凶器となった着物が世に出始めた」
「しかし、一般に販売する着物となれば、縫製と製品チェックに数ヶ月は優にかかる。さらに、2種の特殊繊維を開発する時間を考えると、この犯罪はかなり前から計画されていたことになる……」
「根が……深いわね」
「そうですね。ただ、鳴上先輩のおかげで事件の全貌が見えてきました。凶器の着物を縫製したのが誰にせよ、美暁さんの影が意図的に販売に踏み切ったことは明らかです。そして、元々美暁さんのファンだった被害者の二人が飛びついて購入した」
「でも、一般販売でたった2枚ってわけはないわよね? どうして被害者が二人しか出なかったのかしら」
「販売ルートが一本化されていたからですよ」
「一本化?」
「はい。被害者二人は、美暁さんをプロモートしている通販サイトの会員だった。そして、問題の着物はそのサイトでの限定販売だったのです」
「あーなるほど。……ってことはつまり、サイト側がピンポイントで被害者二人に販売した?」
「そうなりますね。凶器となる織り方をされたものは、その2枚だけだった。そして、会員情報からその二人に対して狙い撃ちで販売した。……何かの目的を持って」
長い赤信号。
美雪がバッグから何やら資料を取り出す。
「……被害者二人の共通点は、表向きは何もない。ただ引っ掛かるのは」
そう言って、2枚の資料を見比べる美雪。
「それについては、本人に問い質すしかないでしょうね。話してくれれば……ですが」
と、車内のナビに接続された直斗の携帯電話が鳴る。
通話ボタンを押す直斗。
「……白鐘か!?」
スピーカーから聞こえてきたのは遼太郎の声。
「はい。何かありましたか?」
「大アリだ! 昨日運ばれた春野美暁だがな、病室から突然姿を消した!」
「……そうですか」
「何だお前? 妙に落ち着いてるじゃねーか」
「予想された出来事だからです」
「予想だぁ? どういうこった!」
「……堂島さん、今度こそ信じてもらいますよ。この事件には、またテレビの中の世界が絡んでいます」
「テレ……。ったく、またその話か。そんな絵空事は警察じゃ通用しねぇって、何度も言っただろ!?」
「僕も何度も説明しましたよ。本当に起こったことだと。……特に、4年前のあの事件の時にも」
「あ……、あれはだな……。いやとにかく! 消えた春野美暁を探さなきゃならん!」
「それは無駄ですよ、堂島さん」
「何ィ?」
「被害に遭った美暁さんは、マヨナカテレビの特殊電波が造り出した疑似映像です。実体は今、テレビの中にいます」
「な……、何だとぉ? そんなバカなことがあるか!!」
「テレビの中にいる本物の美暁さんが、罪の意識からもう一体のシャドウを造り出したんです。そのシャドウが身に付けている着物が発火することにより、本物の美暁さんが身に付けていた『シャドウの本体』が真の姿に変化した。……取り込まれる寸前に鳴上先輩が『まだ着物の形を維持していたシャドウの本体』を剥ぎ取ることで、美暁さんを助けることはできましたが……」
「悠だと? 何でそこに悠が出てくるんだ!?」
「それは後で説明します。とにかく、事件のカギは昨日僕が会った美暁さんのシャドウにある。一刻も早く、彼女を保護しなければ……」
「……分かった。ひとまずお前の指示に従おう」
「ありがとうございます」
* * * * *
同じ頃、夜美は婚約者の暁とともに刑務所の面会室に来ていた。
ガラスの向こう側では……、暁と同じ顔の男が座る。
「……全てを、話していただきますよ」
(続)