ポケットモンスター~orange~   作:天城黒猫

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日刊ランキングに乗ってました。ありがとうございます!

明日は仕事なので恐らく次話投稿できそうにありません……できたら投稿するかもしれませんが、次の投稿は明後日になると思います。








VSジュゴン

 

 

 

 

タマムシシティ
タマムシ にじいろ ゆめの いろ

 

 

 

 カンナ対カスミとエリカの戦いは、舞台をタマムシジムのバトルフィールドから、タマムシシティの町中に移していた──これは、カンナの誘導によるものだった。

 タマムシシティの街に立つビルや街灯、街路樹は皆カンナのジュゴンによる“ふぶき”によって氷に覆われ、そびえ立つ摩天楼は今や氷山へと姿を変えていた。

 

 それに伴い、周囲の気温も零下まで下がっており、カスミとエリカは白い息を吐きながら震えていた。

 

「う……寒い!」

 

 と、カスミは自分の体を抱きながら叫んだ。彼女の顔は真っ青だった。カスミの服は露出が多いが故に寒さを防ぐことが叶わず、こうして極寒の環境にあらがうことが出来ずに震えていたのだ。

 一方、エリカはカスミとは違って露出の少ない着物を着ていたが、それでも防寒着としての役目は殆ど果たしておらず、彼女もまたカスミと同様に震えていた。

 

「く……! タマムシシティを氷漬けにするとは……許せませんわ!」

 

 エリカは、このタマムシシティのジムリーダーとして、街を氷漬けにしたカンナを睨み付けた。

 ジュゴンの背にのり、余裕の笑みを浮かべるカンナは寒さを感じるような様子は一切無かった。その点は、流石氷のエキスパートと褒め称えるべきなのだろうが、カスミもエリカもそんな余裕は無かった。

 

「不味いわね、さっさと倒してこの氷をどうにかしないと、私たちが凍え死ぬわ」

 

「同感ですわ。カスミ──私たちだけではなく、タマムシで暮らす人々のためにも、彼女は早く倒さないといけません!」

 

「ウフフ──できるかしら?」

 

 カスミとエリカの言葉を聞いたカンナは、やはり余裕の表情を浮かべた。二人のジムリーダーに睨まれても、やはり余裕の表情であり、己が敗北するとは微塵たりとも思っていなかった。

 それは何も自惚れではなく、実際その通りなのだろう。カンナが戦場を移し、タマムシシティを氷漬けにしたのは、理由があってのことなのだ。その理由とは即ち──

 

「この四天王カンナを舐めるなよ? 何も、ただ闇雲に辺りを凍り付かせたわけではない!」

 

 カンナを背に乗せたジュゴンは、氷の上を滑り出した。その速度は、時速100キロに匹敵する程だった。──これこそが、カンナがタマムシシティを氷漬けにした理由であった。己にとって有利なフィールドを作りだしたカンナをあいてに、カスミとエリカは戦慄した。

 しかし、それでも闘志が無くなったわけではなく、カスミはスターミのスタちゃんを繰り出し、エリカはキレイハナを繰り出した。

 

「何という速度……ですが、キレイハナ!」

 

 エリカのキレイハナは、さながら踊りを踊るかのような動きで、無数の花びらを辺りにまき散らした。それは“はなびらのまい”という技なのだが──キレイハナは宙を舞う花びらとともに、華麗な舞を見せており、とても攻撃技には見えず、どちらかというと演舞といった方がしっくり来た。

 カンナはその舞を鼻で笑い飛ばした。

 

「ハ! 踊りとは余裕だな──!」

 

「あら、そう見えますか? それならば結構」

 

 カンナは、エリカのキレイハナを蹴散らすべく氷の上を滑走するジュゴンに、キレイハナへの攻撃を指示した。しかし、その攻撃は行われることなく、それどころか氷の上を滑走するジュゴンはいつの間にかその動きを止めていた。

 

「ジュゴン、なぜ動きを止める!?」

 

「あら、お気付きにならないのですか?」

 

「──何!?」

 

「そのジュゴン、もう動くことはできませんわ」

 

「な……」

 

 エリカはジュゴンの足下を指し示した。ジュゴンのひれや尾は、氷の下から生えたツルによって地面に縛り付けられていた。それは“やどりきのたね”による拘束であった。平時ならば、このような攻撃に気づかないカンナではあったが、“はなびらのまい”が目隠しとなり、気づくことが出来なかったのだ。

 ──そして、エリカの攻撃はこれで終わりでは無かった。

 

「乱暴に街を凍り付かせて……いけませんわね。大雑把な女性は品がありません。大切なのは──さりげなさですわ。“リーフストーム”」

 

 キレイハナの“はなびらのまい”によって辺りを漂う花びらの動きは停止し、さながら鋭利な刃物のようになり、カンナのジュゴンに襲いかかった。

 

「ぐああああああああ!」

 

 そして、カスミも続けて攻撃を行った。

 

「スタちゃん、“ハイドロポンプ”!」

 

 スタちゃんによる“ハイドロポンプ”の追撃によって、カンナのジュゴンのHPはゼロとなった。舞い上がる砂埃の中でカンナは咳き込みながら、自分が攻撃されたことによる怒りを募らせ、カスミとエリカに殺意を抱いた。

 

「お、おのれぇ! 小娘どもが! 許さんぞ!」

 

「アラ、言ってくれるわね。このおてんば人魚を舐めないことね!」

 

「ええ──カスミの言う通りですわ。私もタマムシジムリーダー。そう簡単に負けるつもりはありませんよ?」

 

「フン、そう言っていられるのも今のうちだ!」

 

 カンナは続いてルージュラを繰り出した。このルージュラこそがカンナの切り札にして、四天王としての実力を現すポケモンであった。

 

「ルージュラ、やれ!」

 

 ルージュラはエリカとカスミをかたどった氷人形を創り出した。そして、カンナは口紅を取り出した。

 ──この氷人形に口紅で印をつけると、氷人形のモデルとなった人物の同じ部位が凍り付くという、回避不可能にして恐るべき攻撃が行われるのだ。

 この攻撃によって、レッドもオレンジも氷漬けになってしまったのだ。つまり、いかなる実力者であろうとも、一度攻撃を受けたら逃れるのは、己の体が完全凍り付く前にカンナを倒すしか手段がないのだ。しかし、四天王カンナもまた、相当な実力者であるが故に、倒すのは容易ではない。

 

 そのため、この攻撃はまさしく最強の攻撃なのだ。

 

「フフ……氷の手枷を嵌めてあげるわ」

 

 カンナはエリカとカスミの氷人形の手首に、口紅で印をつけようとした。──しかし、それは叶わなかった。

 なぜならば、その口紅にには大量の綿毛が纏わり付いており、氷人形に印をつけることが出来なかったのだ。

 

「な──これは!?」

 

 カンナは驚きの表情を浮かべ、エリカを睨み付けた。

 エリカはクスリと微笑んだ。

 

「──言ったハズですわ。さりげなさは大切だと。私はキレイハナを繰り出すとともに、もう一匹のポケモンを出していたのですよ?」

 

 エリカ達の遙か上空を見上げると、そこには宙を舞うポポッコが居た。

 

 ──このポポッコは、キレイハナが繰り出されると同時に“素早く空中へと飛び上がり、今の今まで空中で待機していたのだ。そして、キレイハナの“はなびらのまい”が放たれると同時に、ポポッコもまた、空中から“やどりきのたね”を放ち、カンナのジュゴンの動きを止めていたのだ。

 

「ふふふ……そして、周りを見てご覧なさい」

 

「何──!?」

 

 カンナは周りを見回し、驚愕に包まれた。

 カンナの周囲はポポッコの綿毛が大量に舞っていた。エリカのポポッコは、己の綿毛を少しずつ地上に降らせていたのだ。キレイハナの“はなびらのまい”によって視界を塞いだり、あるいはその花びら自体に綿を貼り付けたりもしていたことにより、綿毛の存在を隠蔽していたのだ。

 

 それだけではなく、カスミのスタちゃんが放ったハイドロポンプの水分が、気温の低さによって霧となり辺りを漂っていたため、白色の綿毛がさらに見つかりにくくなっていたのだ。

 

「エリカ……いつの間にこんなに!?」

 

 驚くカスミにエリカは微笑んだ。

 

「ふふ、後で教えてあげますわ。さて、四天王カンナ、覚悟はよろしいでしょうか?」

 

「な、舐めるな! 綿毛程度、すぐに凍らせてくれる! やれ、ルージュラ!」

 

 怒り狂うカンナの号令に、ルージュラは答えなかった。

 なぜならば、ルージュラのHPはとっくに尽きており、“ひんし”状態となっていたのだ。カンナはルージュラが“ひんし”状態となった理由をすぐさま見抜いた。

 

 ルージュラの足下には、ジュゴンの動きを止めた時と同じツルが巻き付いていた──ポポッコの放った綿毛に大量に付着していた“やどりきのたね”がルージュラの体力を徐々に吸い取っていたのだった。

 

「さて──ジュゴンに続き、ルージュラも倒れました。降伏なさいますか?」

 

 とエリカは微笑みながら言った。その目は一切笑っておらず、静かな怒りがにじみ出ていた。

 そのエリカの怒りを感じ取ったカスミはタジタジとしながらも、訪ねた。

 

「エリカ……もしかして、怒ってる?」

 

「もちろんですわ。ポケモン研究者の後輩であるオレンジを傷つけ、そして私の守るタマムシシティを氷漬けにしたのですから。怒らない方がおかしいですわ。──とはいえども、あそこで我々を睨んでいる彼女のように、怒りを表面に出すことはしません。下品ですからね?」

 

「貴様ァ!」

 

 遠回しに蔑まれたカンナは怒りを露わにし、次のポケモンを繰り出した。

 

「パルシェン! ラプラス! 小娘ども、いいだろう……よくもここまで私をコケにしてくれたな! この屈辱、倍にして返してやろう! パルシェン、“とげキャノン”! ラプラス、“れいとうビーム”!」

 

 ──カンナの第二の必殺攻撃が行われた。

 パルシェンが打ち出した“とげキャノン”に、ラプラスが“れいとうビーム”を放つことによって放たれる、二体の合成攻撃はありとあらゆる物を貫通し、破壊する凶悪な攻撃となっている。

 その合成攻撃の第一の犠牲となったのは、空中を浮遊するポポッコであった。合成攻撃によって貫かれたポポッコは、一撃で“ひんし”状態となり地面に落下した。

 

「ポポッコ!?」

 

 続いて、第二の犠牲となったのはカスミのスタちゃんだった。やはりスタちゃんのHPもまた、一撃でゼロとなった。

 ポケモン達が一撃で倒され、呆然とする二人に、カンナは残酷な笑みを浮かべ、パルシェンとラプラスによる合成攻撃を次々と放った。

 エリカとカスミの二人はそれらを回避するが、地面が凍り付いていることによって足を滑らせ、「きゃあ!」という悲鳴をあげて転倒した。

 

 カンナはエリカに近づくと、彼女を足蹴にした。

 

「エリカ!」

 

 カスミが悲鳴をあげるのも構わずに、カンナは2、3度とエリカを足蹴にした。──そして、気絶して地面を転がるエリカの胸元から、レインボーバッジが地面にこぼれ落ちた。

 カンナはそれを拾い、エリカを見下ろした。

 

「フン、私をコケにするからよ。レインボーバッジ、頂いたわ。さて、次はそっちの小娘だ。バッジをよこしなさい」

 

「……アナタの目的は、ジムバッジ!?」

 

「そうよ。おとなしく差し出すというのなら、見逃してやってもいいわよ?」

 

「それは……嘘よね?」

 

「フ──そうね。どちらにせよ、バッジは頂くし倒させて貰うわ。それをしてこそ──この四天王、(ひょう)のカンナの勝利は完璧なものとなる」

 

「お断りよ! バッジは渡さないわ! ──ランちゃん! “ハイドロポンプ”!」

 

 カスミはランターンを繰り出し、攻撃を放った。

 カンナは口の端を釣り上げ、ラプラスとパルシェンに攻撃の指示を行った。

 

 ──カンナの手には、レインボーバッジと、ブルーバッジが握られていた。

 エリカは傷つき、地面に倒れ伏し、カスミとランちゃんは、氷漬けになり、物言わぬ氷像となってた。

 

 

 

 タケシとイエローは目の前に立つシバの迫力──なんとも言い表しがたい不気味さに気圧されていた。

 シバは一切言葉を口にせず、幽鬼のような生気の無い目で、タケシとイエローを睨み付けていた。

 

 タケシは額に冷や汗を流しながらも、ワンリキーを繰り出した。

 それを開戦の合図とし、シバはカイリキーを繰り出した。

 

「カイリキーか! ワンリキー、その四つの腕に注意しろ!」

 

 タケシのワンリキーは頷き、カイリキーの四つの腕に捕まれたり、または拳による攻撃を受けないようにあちこちを素早く走り回り、カイリキーの隙をうかがっていた。

 その間に、タケシはイエローを庇うように前に立ち、イエローに言った。

 

「……ここはオレがやる。キミは逃げろ」

 

「そんな!」

 

 イエローは驚き、首を振るがタケシは構わずに続けた。

 

「さっきのエリカとのバトル──なぜ、攻撃しなかった?」

 

「それは……」

 

 イエローはうつむいた。

 タケシは、先ほどのエリカとイエローとの試合を思い返し、分析していた。ピカへの指示は不慣れであり、明らかにポケモンバトルは、未熟な状態だったし、攻撃もしなかった。──それ故に、タケシはイエローはシバという強力なトレーナーと戦わせるには、いささか実力が足りていないと結論づけた。

 

「……攻撃できない理由(わけ)でもあるのか? ポケモンを傷つけたくない、とかな。それは美点ではあるが、こういった戦いの場では足かせとなるだろう。キミは逃げろ、オレがあいつの相手をする」

 

「──ッ!」

 

 イエローは拳を強く握りしめた。

 今のタケシのセリフを聞いたことによって、イエローはオレンジのことを思い出した。カンナ、キクコ、シバの三人の四天王から逃がすために、オレンジは殿を引き受けた。

 

 しかし──オレンジが一日経っても姿を現さず、その代わりに四天王がここに襲いかかってきたということは、オレンジは敗北したということを明らかにした。イエローは、昨晩オレンジが無事であることを願っていたが、その願いは打ち砕かれた。

 そして、タケシのセリフに、オレンジの姿が重なった。──このまま逃げたとして、タケシが敗北したら? そう思うと、イエローはなんとも言えぬ感情を抱いた。

 

 ピカはイエローを、不安げな眼差しで見つめていた。イエローは、その眼差しを受け、ピカを不安な気持ちにさせてはいけないという決意に駆られた。

 それが後押しとなった。イエローは決意した。

 

「いいえ……ボクも戦います! 逃げてばかりじゃあ、レッドさんを探すこともできない! 四天王と戦うこともできない! オレンジさんがどうなっているのかも確認しなくちゃならない! ──ボクは、戦います!」

 

 イエローの目には、確かな決意が宿っていた。

 つまり──今まではポケモンを傷つけずに、バトルを終えようとしていたが、これからは四天王に立ち向かうために、レッドとオレンジを救うために、攻撃をするバトルを行うという決意があった。

 そのイエローの決意に答えるように、ピカはイエローの前に出た。

 

 タケシはその様子を見て、少しの逡巡のあとイエローに言った。

 

「……いいだろう。なら、一緒に戦うぞ! イエロー!」

 

「ハイ! ──ピカ、お願い!」

 

 ──こうして、イエローもシバとの戦いに加わった。

 タケシはイエローに耳打ちをし、カイリキーを倒すための作戦を告げた。それにイエローは頷き、タケシと共にポケモンに指示を出した。

 

「ワンリキー!」

 

「ピカ!」

 

 それを合図とし、ワンリキーとピカは、攻撃をすることはなくカイリキーの周囲を素早く走り回った。

 カイリキーは自慢の四つの腕で攻撃したが、避けられてしまい、己の体よりも小さく、素早い相手に翻弄された。それでもカイリキーは何とか攻撃をしようと、自分の周囲をグルグルと駆け回るワンリキーとピカに背中を見せないように、体の向きをいちいち変えた。

 

 それが不味かった。カイリキーは体の向きを変えようとして、うまく行かずに足をもつれさせた。

 その一瞬をタケシとイエローは見逃さず、素早く攻撃の指示を行った。

 

「膝を狙うんだ! ワンリキー、“けたぐり”!」

 

「ハイ! ピカ、“アイアンテール”!」

 

 体制を崩し、無防備となったカイリキーの膝に、ワンリキーとピカの攻撃が放たれたことによって、カイリキーは一気にひっくり返り、あまりの痛みにもだえ苦しんだ。

 イエロー達の攻撃はこれで終わりでは無く、地面を転がるカイリキーにさらなる攻撃を放った。この追撃によって、カイリキーは“ひんし”状態となり、ガックリとその四本腕を地面に投げ出した。

 

 シバはカイリキーをボールに戻し、次のポケモンを繰り出した。その動作はまるで機械のようだった。

 

 シバが繰り出した二体目のポケモンは、イワークだった。シバのイワークによる“ずつき”により、タケシのワンリキーは地面に叩き付けられ、“ひんし”となった。

 

「何という攻撃力だ! 目には目を、歯には歯を! ──イワーク!」

 

 タケシもまた、イワークを繰り出した。

 岩蛇(イワーク)どうしの戦いとなり、バトルフィールドの中を長く、巨大な体を持つイワーク同士が駆け回り、攻撃しあった。

 

 僅か数度の攻撃で、タケシはシバとの実力(レベル)差を感じ取った。

 タケシのイワークは、数度の攻撃を受けたことにより、HPが半分ほど削られ、疲労感を出していたが、シバのイワークのHPは僅かしか減っていなかった。

 このままマトモに戦っても、レベルの差によって負けるだけだと判断したタケシは、己のイワークに指示を出した。

 

「イワーク、巻き付いてヤツの動きを止めるんだ!」

 

 タケシのイワークはシバのイワークに纏わり付いた。シバのイワークは暴れ、己の体に巻き付いた敵を引き剥がそうとした。シバのイワークとタケシのイワーク、どちらが強いかと言われれば、もちろんシバのイワークであるのは明確だった。

 ──それ故に、シバのイワークの動きを止められていたのは、ほんの僅かな時間だった。

 

 タケシのイワークは吹き飛ばされ、その巨体を壁に叩き付けられて“ひんし”となった。

 だが、タケシのイワークは十分な役割を果たした。ピカは、シバのイワークが拘束されている間に、己のエネルギーを貯めており──

 

「“じゅうまんボルト”!」

 

 イエローの指示によってその膨大なエネルギーを、強力な電撃としてシバのイワークに放った。

 ピカの強力な電撃はタイプ相性を物ともせず、シバのイワークのHPを削りきった。イエローはピカをちらりと見つめた。

 

 ピカの両頬からは、電気が漏れ出ており、その目は闘志に溢れていた。シバは、オツキミやまでレッドと戦い、レッドを追い詰めた相手であるため、ピカは張り切っていた。

 

「…………!」

 

 シバはイワークがやられるのを見ると、やはり機械的な動きで次のポケモンを繰り出した。

 次のポケモンは、エビワラーとサワムラーの二体だった。

 

「二体! 注意しろ、イエロー!」

 

「ハイ!」

 

「オレも残りのポケモンで総力戦だ。油断できないぞ!」

 

 タケシは三体のイシツブテを繰り出した。

 

「ツブシ、ツブゴ、ツブロク! ──今は三体しかいないが、オレのツブテ6兄弟の力を見せてやる!」

 

 ツブシ、ツブゴ、ツブロクと名付けられた、タケシのイシツブテは、それぞれ手を繋ぎ合い、一つの輪になるような形を取った。これこそが、彼らの必殺の陣形だった。

 

「“すてみタックル”!」

 

 三体のイシツブテが高速で回転して、相手に“すてみタックル”を放つその攻撃は、イシツブテという未進化のポケモンとは思えないほどの攻撃力を秘めていた。

 ──しかし、イシツブテ達の攻撃対象であるサワムラーは、その攻撃を回避した。イシツブテたちは攻撃の勢いを弱めることができずに、バトルフィールドの天井にぶつかり、粉々に砕き、大穴を開けた。

 

「避けられた──後でエリカに謝らないとな」

 

「来ます──ピカ! “アイアンテール”!」

 

 最初に攻撃したのは、エビワラーだった。エビワラーはその拳をピカへと向けて放った。ピカは、アイアンテールをその拳にぶつけ、反撃した。

 

 サワムラーは、天井を貫いたイシツブテ達を睨みつけ、その足を伸ばし、空中を浮遊するイシツブテ達に凄まじい蹴りを放った。イシツブテ達は一撃で“ひんし”状態となった。

 

 ──これで、タケシのポケモン達は全滅した。しかし、別段タケシが弱いというわけではない。彼はジムリーダーであり、その実力は一般のトレーナーを大きく上回る。だが、四天王の実力はそれよりも上の実力を持っているというだけなのだ。

 

「く……! オレのポケモンたちが! イエロー、済まない! 逃げろ!」

 

「いえ……逃げられそうにはありません!」

 

 イエローとピカは、目の前に立ちはだかる二体の敵を睨みつけた。

 エビワラーとサワムラーは、ジリジリとピカににじみよっていた。その振る舞いに隙は一切無く、とても逃げられそうには無かった。

 この状況を打開するには、イエローだけで戦わなければならないのだ。

 

 イエローは自分の戦力を分析した。レッドの手持ちであるピカは、かなりの実力を持っているが、シバのポケモン二体を同時に相手取るのは厳しいだろう。だからといって、自分の手持ちであるドードー(ドドすけ)コラッタ(ラッちゃん)を出しても、レベルが低いため瞬殺されるのがオチだろう。

 

 そんな絶望的な状況であろうとも、イエローは戦うしかなかった。

 

 

 








カンナがアレだけど、仕方が無い。

そして少しだけジムリーダー達の手持ちが原作と変化しています。タケシ、ワンリキーどっから引っ張ってきた?(作者のうっかりによる改編)

シバ戦は文字数の関係で次回に持ち越しとなります。

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