ポケットモンスター~orange~   作:天城黒猫

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今回は原作とあまり変わらない感じです。
次回からドーンと変えていきます。


VSドードー

 オーキド博士の研究所に突然現れた大きな麦わら帽子を被った人物は、たとえ初対面の人であろうとも警戒心を与えないような笑顔──のんき、あるいはこの緊迫した状況の中において、緊張感のない、脱力したかのような様子で、呆然とするオーキド博士と、オレンジに「こんにちは」とドードの上から、一礼をした。

 

「だ、誰だ……?」

 

 とオレンジは首をかしげつつも、突然の来訪者に構っているような暇もないため、帰ってもらおうと声をかけたが、その人物は勝手知ったると言わんばかりに、研究所をきょろきょろと見回しながら、何かを探していた。

 そして、その捜し物が見つかった瞬間、声を立てて回復マシンに置かれた、ピカのモンスターボールの元へと駆け寄った。

 

 つまり、この人物の捜し物とは、ピカのことであり、回復マシンを操作し、ピカの入ったモンスターボールを開くと、未だに怪我の治りきっていないピカを抱きしめた。

 

「よかったあ、やっぱりマサラタウンに戻ってきてたんだね!」

 

 と──ピカを抱きしめた瞬間、じっくりと観察しなければ気が付かないほどの微弱だが、優しい光が麦わら帽子を被った人物とピカの周りを漂った。

 そして、傷だらけだったピカの全身に、傷はなくなり失っていた体力をもたちまちのうちに取り戻し、元の元気さを取り返した。

 

 しかし、この回復行為はわずか一瞬のことであり、オレンジもオーキド博士も気が付くことはなかった。精々が、この人物がピカに触れた瞬間、回復したような気がすると錯覚を覚えるぐらいだろうか。

 

 二人は気が付くことはなかったものの、突然現れ、突然ピカを手に抱えたこの人物の前にはただただ呆然とし、たじろぐことしかできなかったものの、オーキド博士は先にハッとし、非常に取り乱しながらもその人物の元に詰め寄った。

 

「お、おおおオイ! おまえは誰じゃ! 『やっぱりマサラに……』ってどういうことじゃ!?」

 

 矢継ぎ早に投げかけられる質問に、その人物は困ったように眉をひそめた。

 

「そんなに一度に聞かないでよ。答えきれないよ。ねぇ! ピカ!」

 

 ピカは頷き、頬をすり寄せた。

 その様子を見たオーキド博士は、レッド以外の人物に懐いているピカに眉をひそめた。

 

「君が何者かは知らないけど──ピカチュウ、元気になったか。良かった」

 

 とオレンジはピカの頭をなでようと抱きかかえられたピカへと手を伸ばした。

 それを見たオーキド博士は、慌ててオレンジを制止しようとした。

 

「イ、イカン! オレンジ君、待つんじゃ!」

 

 しかし、とうに遅くオーキド博士の言葉が終わるか終わらないかぐらいの時に、オレンジの指先はピカの頭に触れた。

 その瞬間、ピリ……とピカは静電気を自分の周囲に漂わせ──オレンジへと電気を流し込んだ。

 

「あびばばばばバババババつツッ!?」

 

「むう、遅かったか……オレンジ君、そのピカチュウは“おや”であるレッド以外には懐かないんじゃよ。他の者が触ろうとすると、皆()()じゃ。

 だが……そんな誰にも懐かないピカが懐いておる。君は本当に一体何者なのじゃ!? 事情を説明せんか!」

 

 とオーキド博士は感電し、黒焦げになって床に倒れるオレンジをよそに、麦わら帽子を被った人物へと一つずつ質問を投げかけ、その人物はオーキド博士からの質問に答えていった。

 

「キミはレッドの知り合いか?」

 

「はい」

 

「レッドが行方不明と知って来たのか?」

 

「はい」

 

「レッドは今どこにいるんじゃ!?」

 

「わかりません」

 

「……どうしてレッドが行方不明になり、こいつ(ピカチュウ)だけがマサラに戻っていると知ったんじゃ!?」

 

「……それは」と少しばかり考え込み「……言えません」

 

「名前はなんというんじゃ?」

 

「それも……言えません」

 

 自分の正体を一切明かそうとしないこの謎の人物に、オーキド博士は怒りを抑えきれずに怒鳴った。

 

「話にならん! 何も言えない! レッドがどこにいるのかもわからない! 名前も言えない! 一体どういうつもりなんじゃ!? レッドの居場所も知らんというのに、どうやって探そうとしているんじゃ!?」

 

「博士──」

 

 その人物は落ち着いた声で、そして強い意志の籠もった目できっとオーキド博士を見つめながら、堂々とした様子で言った。

 

「ボクは、この子を連れてこれから行方不明になったレッドさんを探しに行きます! そのために、ピカがいるここに来たんです!」

 

「バカなことを言うでない! まだレッドに何があったのかもわからないと──」

 

「もし、レッドさんが何者かに捕われているというのなら……」

 

「捕われているというのなら、どうするつもりなんじゃ!?」

 

「このボクが助ける!」

 

 と──その人物は胸を叩き、堂々と言い放った。また、ピカもそれに賛同するかのように、力強い目つきでオーキド博士を見つめた。

 

「……」「……」

 

 オーキド博士は眉をひそめつつも、その人物の目を見つめ続けた。

 今、オーキド博士の前にいる人物は目を反らすことはなく、やはり強い意志の籠もった目で、何を言われても引かないと言わんばかりにオーキド博士を見つめていた。

 

 オーキド博士は、この突然現れた得体の知れない人物をどのように評価するべきか悩んでいた。レッド以外に懐くことはまずないピカが非常に懐いた様子を見せ、さながらレッドと並ぶパートナーだと言わんばかりの親密さを示すその人物は、一体何者なのか──

 

 しばらくの間考え込み、そして一つの結論にたどり着いたオーキド博士は、モンスターボールを静かに取り出した。

 モンスターボールから出されたオニスズメは、空を舞い、オーキド博士の指示をいつでも実行できるようにした。つまり、戦闘態勢をとった。

 

「いいか! ポケモンリーグ優勝者のレッドは、優勝してからの二年間で更にポケモンバトルの腕をみがいとった! そのレッドが倒されたんじゃぞ! 

 このピカチュウがどんな状態でワシの元に帰ってきたか知らんのか? いきなり来たおまえに……何ができるというんじゃ!? オレンジ君の話が確かならば──四天王、つまり敵は四人もいるということじゃ! 

 その内の一人であろうキクコは、かつてワシが若い頃にポケモンリーグ決勝戦で戦ったほどの実力者じゃ! レッドがその四天王と戦い、敗北したというのならそのどれもが強力な力を持つトレーナーじゃろう!

 レッドを探しに行くという大役……実力のないものには任せられんぞ。実力があるというのならば、このバトルを終わらせてみせい! ──“みだれづき”!」

 

 オーキド博士の指示を受け取ったオニスズメは、素早くその指示を実行した。

 空から急降下し、その鋭い嘴による攻撃を何度も放った。その攻撃の一つ一つが、大地を削るほどの威力であった。

 しかし、この最初の攻撃の目的は威嚇とけん制であり、麦わら帽子を被った人物へも、ピカへも、ドドすけ(ドードー)へも当ることはなかった。

 

 麦わら帽子を被った人物は、みだれづきによる嘴の雨が降り注ぐ中、答えて見せた。

 

「わかりました! このバトル、すぐに終わらせてみせます。ドドすけ! “ふきとばし”」

 

 ──指示を受け取ったドドすけは、二つの首を力強く振ることで突風を生み出した。この風にオニスズメはたまらず体制を崩すが、オーキド博士の指示による“オウムがえし”によって“ふきとばし”を行い、己に降りかかる風を相殺してみせた。

 

「“ふきとばし”対“オウムがえし”ですか」

 

 とピカの電撃から回復したオレンジは、オーキド博士の隣に立って言った。

 彼は目の前で行われているポケモンバトルを興味深そうな様子で観察していた。

 

「“オウムがえし”の方が勝っているように見えますね。どちらも風が防御することによってダメージは受けていませんが」

 

「ウム、そうじゃな。だが、これがレッドならば“オウムがえし”のバリアを貫くほどの攻撃を繰り出してくるじゃろう! お互いの技が及んでいない、拮抗した状態……どうした! 押すなり引くなりせんのか?」

 

「……」

 

 オーキド博士の挑発に、麦わら帽子の人物はただただ無言を貫くばかりであり、“ふきとばし”以外の指示をする様子はなかった。

 

「どうした! 何もせんのか? いいや、どうにもできない……というのが正直なところじゃろう。どこかでレッドのウワサを聞いてあんなウソをついてまで、レッドを助けようとしたんじゃろうが、この状況をどうにもできないような実力ならば、やめることじゃ!」

 

「んー」

 

 オレンジは麦わら帽子の人物を観察してみせた。つばの広い麦わら帽子、そして黄色い髪の下に除く目を覗き見た。

 

(今、あの麦わら帽子は何かを考えている。……いや、もう思いついているんだろう。この状況をひっくり返す方法を。あの目、何も諦めていない。どうやってオーキド博士のオニスズメを攻略する!? 博士のオニスズメは強いぞ! あのドードーの力量(レベル)は低い──博士のオニスズメには届かない。けれども、諦めていない。レベル差を覆す何かを持っている。やろうとしている!)

 

「ドドすけ!」

 

 と麦わら帽子はドドすけに指示を送った。といっても、それはただドドすけというニックネームを呼んだだけだが、ドドすけ本人は己のトレーナーの意思をしっかりと汲み取り、行動を即座に切り替えてみせた。それは、ポケモンとトレーナーの二人の絆があってこそのものだ。

 

 これまでドドすけは、オニスズメのほぼ真下にいたが、そこからその健脚で素早く離れた。オニスズメは、突如行動を切り替えたドドすけを目で追いかけ、体の方向を転換させた。これは死角を作らないために敵を見定める、という、ポケモンバトルをする上で自然と刷り込まれた基本的な行動によるものであった。

 

 ……それ故に、オニスズメの周りをその素早い身のこなしでグルグルと周り続けるドドすけを、オニスズメは自分の体をグルグルと回転させながら見つめ続けた。

 

 両者は周り続け──ついには目を回したオニスズメが音をあげ、羽ばたくのをやめて地面へとめがけて落下し始めた。しかし、ドードーも同じように目を回して倒れ伏した。

 

「おっと、ずばとと!」

 

 オレンジが投げたモンスターボールから、一匹のポケモンが飛び出した。

 そのポケモンというのは、クロバットであり、ずばととと呼ばれたクロバットは、オニスズメが落下し地面に衝突する前に足で優しく目を回したオニスズメを掴んだ。

 

「危ない危ない。──で、どうしますか。オーキド博士」

 

「どうもないわい! 両者とも目を回してしまっただけじゃ! こんなことで勝敗が決まったとは言えんぞ。まだどちらも“ひんし”になっておらん! わかっておるんじゃろうな!?」

 

 麦わら帽子の人物は、詰め寄るオーキド博士に微笑みながら言った──

 

「ハイ! 約束通りバトルを()()()()()()()! ふう、どっちも怪我はない。ポケモンを傷つけないでよかったぁ」

 

「な……!」

 

 オーキド博士は唖然とした。博士の中では、実力を確かめるためにどちらかが“ひんし”状態になるまでポケモンバトルを続けることを想定していただけに、その驚きは大きかった。

 オレンジもまた、関心したような様子で言った。

 

「なるほど。確かにオーキド博士は『バトルを終わらせてみせい』って言いましたね。そして、どっちも目を回してしまい、“ひんし”状態ではないにせよ行動不能となった。……これではバトルを続けることもできないから、終わり、ということか。

 それに……どちらも傷一つ負わないように戦っていた、のでしょうか。オーキド博士」

 

「ウム……そうじゃのう。オレンジ君、キミの言うとおりじゃ。ワシのオニスズメは“オウムがえし”を使ったのみで、攻撃を受けたことはなく、外傷は一つもない。あのドードーもまた、“ふきとばし”で防御をすることによってこれまた傷ついておらん。ウウム……!」

 

 オーキド博士は少しばかりうなりながら、この麦わら帽子の人物に対する評価を下していた。

 

(数分間のバトルとはいえども、互いに傷つかない戦いをする少年……この性質は甘いと言わざるを得ないじゃろう。じゃが、このようなバトルを考え、実行するのは難しいじゃろう。ウム、オレンジ君と一緒ならば……)

 

 また、オレンジも同時に先ほどのポケモンバトルと、この麦わら帽子に対する評価をしていた。

 

(面白い。ポケモンの力量(レベル)は低いけれども、傷つけない戦い方なんて初めて見たな。見たところマイペースで変なヤツだけれど──きっと、その心の内は優しいんだろうな。そして、同時に勇敢さを秘めた人物……

 それに、ピカチュウの傷を治した不思議な能力もある。あの傷はあの回復マシンで治療するには、一日がかりかかるだろう。だけど、触れた瞬間にピカチュウの傷は全快した。癒しの能力を持ち、傷つけないバトルをする──)

 

「キミ、一緒に来なさい。オレンジ君もじゃ」

 

 とオーキド博士は麦わら帽子の人物とオレンジを引き連れ、レッドの家まで案内した。

 レッドの部屋の中にある机の上には、ポケモン図鑑がポツンと置かれていた。オーキド博士は麦わら帽子の人物に机の上に置かれたポケモン図鑑を手渡しながら言った。

 

「さっき……キミはそのピカチュウのことをピカと呼んだね。わしはキミの前で一度もその愛称(ニックネーム)を呼んどらんのに、キミは知っとった。レッドの知り合いというのは、ウソではないようじゃ」

 

「……ハイ」と肯定した。

 

「キミは失礼な少年じゃ。いきなり訪ねてきて自分が何者なのか、そして何か知っている事情も説明せん。はっきりいって、怪しいと思っておる。しかし、この懐いたピカの様子を見れば──主人(おや)でもないキミに心を許しているのならば、キミが悪人ではないということは信じられる。

 ……そこでじゃ。キミにこの図鑑を託そう! レッドはアレでしぶとい。この図鑑とピカを──そこにいるオレンジ君と一緒に届けてやってくれんか!」

 

「「えっ」」

 

 とオレンジと、麦わら帽子の人物は思わぬ言葉にお互いを見つめ、声をらした。

 

「オレンジ君、キミはホウエンのジムバッジを4つ持っておったのう! ワシも長い間キミを見とるから、その実力は確かじゃ! この少年の旅の手助けをしてやってくれんかの?」

 

「あ、はい。分りました。えーっと」

 

 とオレンジは麦わら帽子の人物の方を見やると、困ったように頬をポリポリと掻きながら言った。

 

「さっき、オーキド博士が言っていたけど、オレンジだ。ポケモンについて研究している。えーっと、名前は言えないんだったか。ええと……麦わらちゃん、でいいかな? よろしく」

 

「は、ハイ」

 

 と二人は簡単な挨拶を交わした。オーキド博士は気をよくしたようにして、続けた。

 

「オレンジ君はポケモンの知識を大量に持っておる! そのほかのことも何かと詳しい! 必ずキミの助けになるじゃろう! さあ、二人とも頼んだぞ!」

 

「……ハイ!」

 

 と二人は声をそろえて言った。

 オレンジが麦わら帽子の人物と一緒にこの場から立ちさろうとした時、オーキド博士はオレンジのみにしか聞こえないような小声で言った。

 

「オレンジ君、三日……二日に一回はワシに連絡をよこすように。安全確認のためじゃ。ピカが懐いているのならば、問題はないと思うがあの少年の様子を見ておくように。肝心のピカがキミに懐かないならば、あの少年と一緒に行くしかないじゃろうからな。ワシの弟子……第二の孫のように思っておるキミと、あの少年を危険な旅にだすのは心が痛むが……頼んだぞ」

 

「ハイ……問題ありません。こういう冒険は初めてですから、少しワクワクしているんですよ。オーキド博士、ああそうだ。今回、俺がホウエンからこっちに来た目的を忘れていました。博士の手伝いと──コレを渡したかったんですよ」

 

 とオレンジは懐からフロッピーディスクを取り出し、オーキド博士に手渡した。

 

「これは次の学会に提出する研究内容のデータです。確認お願いしますね。俺が帰ったら、評価を聞かせてください」

 

「……ウム! 確かに受け取ったぞ。では、行ってこい!」

 

 オレンジはうなずき、オーキド博士に手を振りながら先を行く麦わら帽子の人物と、ピカを駆け足で追いかけた。

 

 

 

 

 

 ──さあ、旅の始まりだ。

 

 この旅は火の中、水の中、草の中、森の中……あらゆる場所を駆ける過酷な旅の序章に過ぎない。

 旅とは、非日常であり一つの事件であり──オレンジという人間の物語そのものである。あらゆる場所を行くだろう。あらゆる人物と出会うだろう。あらゆるポケモンと戦うだろう。

 

 時には敗北し、時には心折れるかもしれない。けれども、オレンジには一つの目標(ユメ)がある。

 その目標(とも)のためにとオレンジは歩むだろう。もしかしたら、足が止まるかもしれない。後に戻ってしまうかもしれない。……どうなるかは分らない。その目標(ささえ)だって実現できないかもしれない。

 

 けれどもまあ、そんな厳しいことを言っていたって仕方がない。人生何があるのか分らないのだから。

 

 故に、ひとまずはこの物語()の始まりに相応しい言葉をかけるとしよう。

 

 

 

 いよいよ これから オレンジの ものがたりの はじまりだ!

 

 ユメと きぼうと あいの みらいへ レッツゴー!

 

 

 

 

 





【オレンジの手持ち】

名前:ずばとと(クロバット)
レベル:31

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