噛ませ転生者のかまさない日々   作:変わり身

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九年目

★月 ★日

 

 

中学三年生。多分、今年が最後の年だ。

いや何が最後なのかと聞かれると明確な事は言えないのだが、多分色んな事が終わる。そんな気がするのだ

 

ともあれ世間的に受験生と分類されるようになった俺であるが、以前言ったように高校に進学する気は無かったりする。だって義務教育じゃないからね、幾らチートや前世の記憶のおかげで試験も楽勝であるとは言え、わざわざ受験してまで行きたいとは思わんもの。

今後生活に必要な金なら前世の命と人生を引換として腐る程手に入れてあるのだ。このままいけば中学卒業後は正真正銘完全なる悠々自適な生活が待っているのだし、それに……まぁ、学校に通うに当たって一番大きな理由も、もうすぐ無くなる。

 

当然進路希望調査表にも進学や就職なんてものは書かず、「天国」の二文字だけを書いて提出させて頂いた。アニメやゲームに囲まれた生活を表現する言葉がこれしか思い付かなかったからね、仕方がないね。フフフ。

 

……するとどうした事だろう。それを受け取った教師は俺を巫山戯ていると決めつけ、「もう少し真面目に考えてみろ」と調査表を突っ返してきやがった。

全く失礼な話である、この上なく俺は真剣であるというのに何て酷い事を言うのだろう。これだから理解力の無いアホは――――なんて、まぁ冗談である。自分でも突っ返されるよなぁと薄々分かっていたからね、いや嘘じゃなくてさ。

 

しかし本当にどうしようね、進路希望。何かしら建設的な意見を書かないと何時までも言われるだろうし、はてさて。

いくら考えても中々良さげな案が出なかったので潔く「無し」と答える事にすれば当然教師からは説教を頂いて。そうだ「隠居」とかどうですかねと提案すれば「頼むからもう少し真剣に考えてくれよ……」と半ば懇願されてしまう。どうしろっちゅーねん。

 

一応は真剣に考えてんだけどなぁ……。ブチブチ文句を呟きつつ、何かの参考にならないものかとゴリラを初めとしたモブにも色々と聞いてみたのだが、全員進学との事で参考にならん。

結局その日は勿論しばらく日にちが経っても答えは出ず、当面の応急措置として高等部への進学を前提とした「保留」の形をとって貰った。これは私立だからこそ出来る融通の効かせ方……なのだろうか。まぁエスカレーター式の学校である事が大きいのだろう。ありがた迷惑ここに極まれり。

 

すんなり「隠居」で受け取ってくれれば楽なのにねぇ。そんな事を思いながら、どうやって教師のお節介から逃れようかと考える俺だった。

 

 

……そういや、オリ主はどうなったんだろう。この高校進学を望んでいる奴らの中でただ一人就職の道を選んでいた筈だが。

中卒で就職なんて教師を説得し難いだろうに、どうやって納得させたんかね。担任が女性教師だからハーレムパワーで撃墜したのかしら。んな訳ねぇかハハハ。……無いよな? 

 

いっその事俺も色仕掛けの軛を解き放ってみようか。ガタイもしっかりしてきたし、その気になれば三十代独身女性なんてうウィンク一つでイチコ「おぼろろろろ」やっぱ止めとこう吐き気が止まらん。

 

まぁ最悪入試の日にサボれば良いか。とりあえず俺の方も対応保留にして考えるのをやめたのだったとさ。もう完全に不良学生だなこりゃ。

 

 

★月 □日

 

 

さてそんな憂鬱な事はおいといて、修学旅行である。

小学校の時は後期の後半に行われた行事だが、中等部では前期の初めに行われるらしい。多分受験を控えた三年生に対する配慮なんだろう。

 

今回は3泊4日の沖縄巡りだ。海開きの時期よりは少し早いので海で泳ぐのは無理っぽいが、それでも予定表を見る限りでは様々な観光名所を回るらしく中々楽しめそうな感じではある。

俺としてはゴーヤーチャンプルを作った時に沖縄までひとっ飛びしているので初めて行く訳ではないのだが、当時は腹減っててあんま周り見る余裕無かったんだよなぁ。ニガウリ買ったらすぐにトンボ帰ったし。

 

そんな訳で当日はワクワクしながら空港までのバスに乗り、俺よりも遅い飛行機に揺られ那覇へと降り立った。いや前も思ったけどあったかいね、海鳴は海に面しているせいかこの時期でも割と冷えるから余計にそう思う。

 

班分けは小学校の時とは違い、生徒達の自主性に任せているのか6人以内ならば好きに組めとのお達しだった。ので自動的に俺、オリ主、ゴリラの3人の班を編成。少ない? いやいや適正人数であるよ。

自由行動の予定が組まれていなかったため好きにうろつける機会は殆ど無かったのだが、俺含めた三人とものんびりまったり観光できたんじゃないかと思う。

 

平和記念堂に行ったり、ひめゆりの塔でしんみりしたり、おきなわワールドで広大な自然を眺めたり。あと首里城で記念写真も撮ったっけ。

沖縄そばを始めとした名物も美味かったし、ちんすこうやらサーターアンダギーやらのお土産も大量に手に入れた。俺的におおよそ大満足である。うむ。

 

ただ地理的な問題でアニメ放送局の電波が少なかった事がキツかったな。いやまぁしょうがないっちゃしょうがないんだけど、アニメ放送時刻にそれを知った時には超焦った。オリ主のデバイスが電波を引っ張ってきてくれなかったら頭抱えて転がってたかもしれん。

……その際同室のゴリラに魔法関係の物を色々見せちゃった気もするが、奴は無口だから特に問題はなかろう。実際全く動じなかったし、いやぁメガネとは別の意味で扱いが楽で助かるね!

 

ともあれそんな8割方充実した旅行だった訳だが――うん、何というか。やっぱりどうも残り2割が足りなかったのが惜しまれる。沖縄という場所にでは無く、俺達の側に。

こう、あるべき場所にすっぽり収まる何かが無いというか何というか。あれ、前にも同じような事言った気がするな。何時だったっけ。

 

まぁそれを抜きにしても楽しかったし、後悔は無いから別に良いんだけどもな。いやはや機会があったら今度は女子連中含めたいつもの面子で行きたいもんだ。ハハハ。

 

 

……ちなみにその女子連中であるが、男子部と日程をずらした上で同じく沖縄に行ったらしい。どうせなら一緒に行ってしまえば楽だろうに、面倒な事をする学校である。

同じ場所に行ったという事は当然お土産も同じ種類という訳で、メガネっ娘とのお土産交換会ではまさかのキーホルダーのダブリを演出してしまった。いやぁ、結構確率低い気がすんだけどなぁ。

 

何だかんだ向こうは喜んでくれたみたいだし結果オーライなのだろうが――個人的にちょっと負けた気がしたので、追加として買ってきたニガウリで今再びのゴーヤーチャンプルを振舞ってやる事にした。

無論、野菜レイパーのような外道な真似はしない。というか出来る筈がない。一人なら模倣していたかもしれんが、今回はメガネも食べるしね。美しくオープンな俺にその辺の特殊性癖は無いのである。

 

まぁとにもかくにもその日は互いの沖縄での思い出を語りつつ、二人和やかな夕餉を楽しんだのだった。話ではアリサも放送局の件で頭抱えて転がっていたらしく、順調に成長しているようで何よりだな。ウフフ。

 

 

★月 ★日

 

 

――ざらざらと降りしきる雨の中、俺は海鳴の上空を舞っていた。

 

 

風のように、流星のように。滴り落ちる程の水気を孕んだ黒いシャツをはためかせ、鬱屈した雲の覆う空を翔け抜けて。次々とビルとビルの間を飛び渡り、鉄塔を足場として大ジャンプ。鈍色の天井に手が届きそうなくらいに上昇し、滞空。

そうしてふわりと浮かんだ身体をそのままに、遥か眼下にぼやけて見える町並みをじっくりと鑑賞する。おそらくは地に落ちた雨が弾け、巻き上げられた小さな水煙が建物の線を覆っているのだろう。これはこれで何とも趣があり、風情のある景色だ。

 

そのしっとりとした雰囲気の光景にしばらく目を奪われていたものの――やがて俺の体は重力に従い下方へ落下。みるみる内に地面が目前へと迫って来る。

「――よっ!」しかし慌てず騒がず冷静に。俺は手近にあった高層ビルの壁面を引っつかみ勢いを止め、体勢を立て直す。その際窓越しにこのビルの社長さんと目が合ったので、軽く会釈して挨拶しておく。

 

「また君かね。雨なのに来る程このビルが好きなのかい?」「ハハハ、だってこの辺で一番高い建物なんで掴みやすくて」まぁそんな世間話もそこそこに、壁面に着けた足に力を込めて体を上方に射出させる。

いやはや、あの社長さんとも随分仲良くなったもんだなぁ。最初に警察呼ばれかけたのが嘘のようだ。

 

過去を思い出してしんみりしている内にビルの屋上に到着し、ビッショビショに濡れた髪を掻き上げ、一息。頭から雨が降り注ぐのを気にも留めないまま、屋上ヘリに足をかけて再び町並みを見回した。

 

 

「……結構いい感じだな。これ」

 

 

……降り止まぬ雨の街を飛び翔ける俺とか超格好良くね? と思って衝動的にやってみたのだが、いや予想外に気持ち良くてビックリした。

高速移動中に身体を打つ雨の感覚が心地よく、空から見下ろす景色も今の濡れた俺のようにアンニュイ且つ美しい。晴れた日にピョンピョンしている時よりも好みかも知れない。

 

強いて言うなら着ている服が雨粒の衝撃に耐え切れず、どこぞのゴランのようにズタボロになってしまうのが難点だが、まぁ大した事では無い。むしろこの俺の肉体がさらけ出される事でワイルド感が増し、加えて雨の中というシチュエーションもあり相当絵になっている筈だ。

 

 

――――ビルの屋上。戦闘の跡を感じさせる所々破れた服装をして、降り注ぐ雨を防ぐ事も無く濡れ続ける漆黒の堕天使。その憂鬱気な瞳に映るのは、自らと同じく雨に濡れた鈍色の街並みである――――

 

 

うおおおぉぉぉぉ……! 超格好いい! 今の俺超格好いいよ!

出来る事なら誰か人を呼んで写真を撮らせたい所だが、残念ながら着の身着のまま思いつきで部屋を飛び出してきたから携帯も何も持っていない。畜生め!

 

……ならばせめて、もうしばらくはこのままアンニュイな雰囲気を醸し出していたい。もしかしたら隣のビルから誰か俺を見てくれるかもしれんしね。

そんないやらしい偶然を狙いつつ、俺はその後数時間に渡り同じ姿勢で居続けたのだったとさ。

 

 

……風邪? いや引かなかったし寝込みもしなかったけど。おい何だその馬鹿を見るような目は、失礼だな止めたまえ。おいってば。

 

 

★月 ☆日

 

 

……最近、原作メンバーに会う機会が減った。

 

 

いや、なのは達魔法組に関しては理解できるんだよ。最近オリ主も最近学校を休みがちだし、まぁそういう事だと察せられるから。

けれどアリサとすずかに会わないのはどういう事だ。翠屋にコーヒーを買いに行っても、街中をブラブラと歩いても。以前は結構な頻度でかち合っていた筈なのに、今では二週間に2回会えば多い方だぞ。

 

何だ、遂に避けられるようになったか、俺。軽くヘコみつつメガネに聞けば、どうやら受験勉強に本腰を入れている為に遊びに外出する頻度が減っているだけらしい。んだよ紛らわしいな。

 

つーかあの二人なら頭も良いし、学校もエスカレーターなんだからほぼ合格は確実だろうに。そんな勉強に根詰めする必要なんて無いと思うのだが、どうもアイツ等にとってはそういう問題では無いらしい。

何でもアリサもすずかもお互いに首席入学を目指しているらしく、ただの受験では無く半ば勝負事の様相を呈してきているそうな。アレか、少年誌によくある親友と書いてライバルと読む的な感じか。仲良く頑張っている姿が容易に想像できるね、青春しているようで何よりである。

 

……あれ、そういやメガネっ娘も今年受験だった筈だけど大丈夫なのだろうか、何時も同じように俺の部屋に来てるけど。

そうメガネに問いかけると、彼女は照れたように笑って自分の手元を指差した。するとそこに広げられていたのはイラスト用具ではなく、受験の為の参考書。

見れば彼女の専用スペースには他にも幾つか勉強道具が置かれており、ここ最近はこの場所を勉強部屋として使用していたらしい。ユーノもオリ主もそうだけど、馴染みすぎだよなこいつら。いや別にいいんだけどさ。

 

メガネもメガネでアリサ達には追いつけなくとも指先が掠るくらいには頑張りたい、との事らしい。まぁいい心がけだとは思うのだが……だったらこんなしょっちゅうアニメが流れてる場所で勉強するのは良くないんじゃないすかね。

そう不安に思ったのだが、彼女曰くこの環境ほど落ち着く場所は無いとの事で。精神汚染が相当深い場所まで進んでいる事がお分かり頂けるだろうか。どうしよう、嘆くシーンなのかしらここ。

 

頭に手を当てて俺議員による緊急脳内会議を開いていると、メガネが俺の事について聞いてきた。どうも俺がどの高校を受験するのかが気になるらしい。

いや、俺は受験する気無いんだけどな。中学卒業したら悠々自適なタッキー暮らしですよ。何も隠す事無く、ありのままそう答えようと口を開いて――――「…………」声が出なかった。

 

……まぁ、そりゃな。受験勉強を一生懸命に頑張ってる奴の前で、受験フケるつもりでいる事を宣言すんのもどうかと思うよね。下手すりゃ喧嘩売ってるように取られかねんし。

仕方がないので曖昧に誤魔化しつつ、それとなーく現状維持に留まる事だけを伝えておく。何か突っ込まれるかとヒヤヒヤしたものの、それ以上の詮索は特に無く一安心である。妙に機嫌よく勉強に戻るメガネを見ながら溜息一つ。

 

 

……それにしても、受験か。魔法組に続き、そうでない奴らも頑張り始めたよな。俺だけのんびりしてるのが何か居心地悪い気がするねぇ。

俺も何かした方が良いんかね。寝っ転がりつつ考えたが、特にやるべき事も思いつかず。結局収まりの悪い尻をボリボリ掻き毟りアニメ鑑賞に戻ったのだが、ちっとも集中できやしない。

 

……はぁーあ、なんだろねぇ。本当。

 

 

★月 ★日

 

 

閃乱カグラっぽいおっぱい。

3Dで飛び出すおっぱいをテーマの一つに掲げた、ベルコン横スクロール爆乳忍者アクションである。

 

まぁこれだけでも大体分かるだろうが、とにかく揺れるしとにかく飛び出す。喋っている時も戦っている時もダメージを受けた時も立ちCGの時も何時だってプルンプルンでバインバインだ。

そのいっそ清々しいとも言える突き抜けたおっぱい加減、最初にゲーム概要を見た時から大笑いしていたのは俺だけではなかろう。

 

一見すればお色気特化のバカゲーにしか見えない今作だが、これでいて戦闘システムとストーリーもしっかりしている結構な良ゲーだったりするから侮れない。

陰と陽で方向性の分かれるキャラクターの育成要素に、空中コンボが爽快なエアリアル戦闘アクション。そして割かしハードなストーリー展開と、見た目のバカエロさとは裏腹に真面目にアクションゲームをやっているのだ。

 

特に主人公達と対になるライバル達との戦いが熱い、そしてエロい。いやゲームの仕様として一定のダメージが入る毎に衣装破損のカットインが入るのだが、それが飛び出すわプルンプルン揺れるわで大変素晴らしいのである。

そうして自キャラの衣装も破けるよう調節しつつ、敵の衣装も最後まで破損させようとすると割と苦労する事がままあったりして。ストーリーが盛り上がっていたりすると色んな意味で熱くなるんですよねゲフフフ。

 

……で、そんな縦横無尽に乱舞するおっぱい達であるが、俺としては作品中唯一のちっぱいである未来ちゃんが一番好きだったりする。

正直全くと言っていい程揺れないのだが、でもだからこそ良いっていうか、逆にそのスレンダーさがエロいっていうか、なだらかな曲線が愛おしいっていうか。まぁそんな感じ。

 

並み居るおっぱいを押しのけちっぱいが一位になるとは自分でも意外だったが、そういや俺の歴代ときメモシリーズの嫁も恵美姫を除いてそんなにおっぱいが大きくない娘だし、ひょっとしたら俺ってちっぱい好きだったのかもしれんな。

 

……いや、冷静に考えてみれば当たり前か。何せ俺は小学生のなのは達でハーレムを形成しようとしていたのだ。幾ら将来はおっぱいになるとは言え、この時点では明らかにちっぱい好きの所業である。

俺自身の認識としてはおっぱいもちっぱいも平等にイケるオールラウンダーだと思っていたのだが――――そうかそうか、そうだったのか。長い事ヲタ生活を続けてきたが、よもや今になって新たな発見をする事になろうとは思わなんだ。今まで可愛い二次元の女の子なら無条件に萌えてきたから、あんまり考えた事無かったしなぁ。

 

 

――――そうか。閃乱カグラとは、おっぱいに関しての性癖を見つめ直せるソフトなのかもしれないな。世の男性諸君には是非プレイして欲しいゲームだ、うむ。

 

 

……と、まぁそんな訳でオリ主とユーノにやらせてみれば、オリ主は村雨、ユーノは飛鳥が気に入ったようだった。

 

いやはや、オリ主は汚ねぇ奴だよな。ユーノは正直に正統派おっぱいが好きだと自らの性癖を晒しているのに、奴はテキストのみですぐ消える男の捨てキャラでお茶を濁しやがった。せめて立ち絵のある霧夜先生なら雄っぱい好きだとネタに出来たものを、つまんねー。

「だって町内鎖鎌大会六位だぜ……?」いや言いたい事も分かるし俺も兄さんは好きだけど。でもそういう流れじゃなかったじゃろがい。ここはどんなおっぱいが好きかという話でだな――――

 

……その後もそうやって数時間に渡り喧々諤々と論争を繰り広げた訳だが、結局奴は頑として性癖を明かす事は無かった。それどころか最終的にはおっぱいなら何でも好きと宣う始末。

いやそう思っても心の底では結構好みとかあるもんなんだって、俺がそうだったんだから。幾らそう説いても俺はおっぱいならそれでいいの一点張りで譲らない。何がお前をそうさせるんだ。

 

まぁある意味ではそれもこだわりの一つと見る事もできなく無いし、もしかしたらそのおっぱいに対しての寛容さ、或いは優柔不断さがハーレム主人公たる所以なのかもしれないな――――俺とユーノは二人でそう頷きつつ、感心と失望が複雑に入り交じった溜息を吐いたのだった。

 

そうしてオリ主に「お前こそ真のハーレム……いや、オールラウンダーだ」と呟きつつ肩を叩いたら崩れ落ちて死んだのだが、何か悪い事言ったかな。ぼくわかんなぁい。

 

 

★月 ★日

 

 

「…………」

 

 

まんじり、としていた。

 

稼働中のコーヒーメーカーがコポコポという音を奏で、部屋中にコーヒーの香りが漂い何とも良い雰囲気を作り出し、俺の心を落ち着かせる。

そんな空気の中で俺はアニメも漫画も見ず、ゲームもしていなかった。ただ身に纏う半纏とコタツの暖かさを感じながら、テーブルに頬を付けた姿勢でグダグダと思考するだけだ。

 

ちらりとカレンダーに目を向ければ、既に今年も後僅か。どいつもこいつも迫り来る受験を前に最後の追い込みをかけている時期である。

今までほぼ毎日部屋に来ていたメガネも最近はその頻度を落とし、試験に向けて色々頑張っているようだ。人の気配の無い背後が物悲しく最早違和感すら抱いてしまう。在るべき場所に在るべき云々以下省略。

 

……どうしよっかなぁ、本当。前に感じてた焦燥感が酷い事になっておられる。にんともかんともむーやむや。

 

まぁ、アレだ。アレなのかな。アレがアレしてアレがアレ。出来る事をやっときゃいいのかね、この感じだと。

と言っても俺が出来る事なんてダンスかプログラム組みくらいなんだけど、それでどうすりゃいいのやら。新しいダンス踊ったりゲーム作ったりすりゃ良いのかな。いやぁ、それも何か違う気がするぜ。

 

そうしてコタツムリになりつつウンウン考えるが、良さ気な案は出てこない。おかしいな、頭脳もチートされてる筈なんだけども。コタツ布団から頭をシュバババ高速で出し入れしつつ悩んでいると――――ふと、前に作った同人ゲームの事が頭を過ぎった。

 

 

…………ふむ、とりあえず一個見つけたな。俺がやるべき出来る事。「ひはっ」笑いにも似た溜息を一つ吐き、チートを使って生み出した衝撃波でPCを引き寄せヘコヘコとキーボードをタイプし始める。

 

あー、ちょっと買い物にも行かなきゃならんかな。このクソ寒い冬空の下に出るのは避けたい所だが、まぁしょうがないか。

俺は瞬時に半纏を脱ぎ捨て外出着に着替え財布を掴むと、ベランダを勢いよく開け放ち雪の舞い散る空へと飛び出した。雨と違って高速移動で突っ込んでも服が破れないのは良いんだが、雪の欠片が顔に張り付いて鬱陶しいな。これ。

 

やっぱ雨の方が好きだな――――そんな事を考えつつ、空に白い息をたなびかせていく俺だった。あーさっむ。

 

 

★月 ●日

 

 

月村家で開かれるクリスマスパーティに招待された。

 

何かポストに入っているなーと思ったのだが、見てみれば結構手の込んだ招待状でちょっとビックリした。だって紙じゃなくて立体プラスチックだぜ、立プラ。

なんだかんだで俺も毎年参加しているので、お呼ばれされた事への驚きは無いのだが……普段はメガネっ娘からの言伝だけで、こんな手の凝った方法で誘われた事は無かったからなぁ。

 

今までのパーティ自体もアイツ等の言う「お茶会」の延長線上にあるこじんまりした物だったし、今更取り繕う形もありゃせんだろうに。どういう風の吹き回しだろうか。

軽く疑問に思いつつ招待状を裏返し表返し開いて閉じて眺めていると――――手紙の隅に「家族や親しい人を呼んで、賑やかに楽しみましょう!」の一文を見つけ、何となーくすずか達の意図を察する。察してしまった。

 

 

――多分、お別れ会も兼ねているのだ。卒業後、すぐにミッドチルダに拠点を移すなのはやオリ主、ついでにユーノ達のため。これが最後だという心意気でもって記憶に残る楽しいパーティを盛り上げるつもりなのだろう。

 

 

……別に今生の別れという訳でもないのにちょっと大仰すぎる気もしなくはないが、StrikerSのテロ対策機動隊ぶりを思い出すにこれからどんどん忙しくなっていくのは確実だ。今までのように全員揃ってクリスマスに集まるのも難しくなるだろう。

今だって任務だなんだとちょくちょく学校を休んでその片鱗を覗かせているし、すずか達が気合を入れるのも理解できなくはない。何となくしんみりしつつ、ウムウムと頷く。

 

 

……よし、ならばまぁ俺も少しは気合を入れてパーティに臨んでやるとするか。フフフ、今こそ七年ぶりに全力オシャレの封印を解き放つ時が来たようだな。

あの頃よりタッパも筋肉もニョッキリガッチンと成長したし、もう凄いぞ。きっと漆黒の堕天使というレベルでは無く、一周して真黒の聖天使レベルにまで到達してしまうかもしれない。というか、なれ。

 

半笑いになった俺はすぐ様ネットショップを練り歩き、俺に相応しい美しい衣服を片っ端からカートに突っ込む。インナー、レザージャケット、ダメージジーンズ、特注スーツ、口紅、お粉、マスカラ、女子高生の香水……。

勿論、衣服が届くまでの間は全裸で過ごす事も忘れない。いやはや、この間だけはメガネが来なくて良かったな。もし俺の裸体を目撃してしまったら、その美しさに耐え切れずアイツのアイデンティティたるメガネが木っ端微塵に割れちまうところだったね。ハハ。

 

そうして衣服だけではなく、パーティの余興となるお手玉を加えた俺ダンスやプレゼント交換用の品も用意し準備調整は万全万端。いざパーティ当日の月村宅へ大ジャンプ。

雪の降り始める前のぐずついた空の上でクルクル空中前転しつつ、パーティの事について思いを馳せる。

 

どんなご馳走が出んのかなー、また保護者連中から居心地悪い目で見られんのかなー、そういや俺アリシア達とはまだ面識ねぇんだよなー。適当に考えつつビルとビルの間を飛び渡り、ぼんやりと地上の町並みを眺めて――――「……あん?」何だろう、視界の端に妙な物が映った。

 

それは以前にどこかで見たような黒塗りのベンツだった。明らかに法定速度以上のスピードで走るその黒い影はクリスマスで賑わっている街中を爆走し、多大な迷惑を周囲に振りまきまくっている様だ。

何だありゃ。流石に疑問を持った俺がチート眼球を用いて空中から観察してみれば、車にはこれまたどっかで見たようなチンピラのオッサンと更にどっかで見たようなチンピラ集団が乗車しているようだった。しかもその全員が何らかの得物を所持していて物騒な事極まりない。

 

そんな装備でどこ行くんだと車の予想進路を辿ってみれば――――「……ふぅん」まぁ、つまんない所だったよな。いやぁ本当につまらん。あんまりにもつまらん。思わず車を追い越し道に降りてお手玉しちゃうくらいつまらん。

 

あー、まずいなぁ。つまんな過ぎてちょっと集中力に欠けてる今、驚いてビクッとしたらもしかすっと手ェ滑らせちゃうかもなぁ。あー、エンジンの爆音とか後ろから鳴らされたら超ヤベェなぁ。まぁそんな事するアホンダラなんていねぇだろうけっどぉーん。

 

 

……そんな風に言い訳しつつ、お手玉をポンポンしながら月村宅への道を歩く俺だった。あー、ポンポン。あー、ポンポン。あー、ポンポ――――バォン!――――オワー。

 

 

 

 

 

「……何かサイレンの音が聞こえない?」

 

「近くでつまらん事故でもあったんじゃねぇの」

 

 

まぁそんな事はさて置いて、クリスマスパーティだ。

 

参加者は原作五人娘とオリ主、メガネっ娘、そのご家族にヴォルケンリッターにユーノと結構な大人数。今までチラッと眺めただけだったプレシアやリニス、アルフ、アリシアなんかも居て、まさにリリカルなのはオールスターである。いや壮観なり。

……まぁその殆どが俺にいやらしい物を見る視線を向ける訳だが、まぁ慣れたよね。どいつもこいつも十年近く変わんねぇもん。もう開き直って「好きなだけ俺の淫靡さを堪能するがよろしい!」と胸元をはだけつつポーズを決めれば皆視線を合わせなくなった。ハハハ、その反応も慣れたっつーの。

 

ともあれ、皆もそれぞれパーティを楽しんでいるようで何よりだ。アリサ達やオリ主がアリシアと一緒に笑い、高町の男衆とシグナムが何やら渋い空気を作り出し、リニスとリィンフォースが談笑する。

メインもサブも皆笑顔で、それを見ていると何だかこっちもほんわかするね。二次元三次元関係無く、こういった穏やかな雰囲気は好きよ俺。

 

俺もその空気に呑まれまったりしつつフライドチキンを骨ごとバリバリしていると、ユーノがこちらに近寄ってきた。その表情は楽しそうでありながら寂しさも湛えており、少しだけこのパーティには似合っていなかった。……何となく、その理由は予想できるけどな。

話を聞いてみればまぁ案の定。ユーノは年明けを待たずして本格的にミッドチルダに居を構える事になるそうだ。それに伴い仕事が忙しくなり地球へ渡航する機会も減るそうで、「ゲーム合宿への参加は数ヶ月に一回になるかもね」と語られた。

 

……ユーノがこの調子だとすれば、やっぱ他の魔法組も全員同じ様な感じなんだろうなぁ。きっと。分かっちゃいたが、にんともかんとも。

 

まだ15かそこらなのになぁ、多忙過ぎだろお前ら。俺は溜息を吐き、ポケットから一つのディスクを取り出した。

ディスク自体はそこらの電気屋に一山いくらで売っている安物であるが、中身は違う。何せオリ主に「金をとっても良い」とまで言わしめた格闘ゲームが焼き込んであるのだ、金額にすれば……まぁ、相場から言って2100円位はすんでない?

 

本当はディスクに絵を付けたりパッケージを作ったりして完璧な物にしたかったのだが、何か間に合いそうもないしこの際しょうがないよな。パッケ絵担当(唆し)予定のメガネっ娘に見せるために持ってきたプロトタイプですまんが、これをお前にくれてやる。

俺達全員の思い出と声が入った一品だ。これさえあればひとりぼっちのウサギのように爆死せんでも済むだろう――そう言って投げ渡せば、ユーノは嬉しそうに笑い、一言。「君の事だからエロアニメDVDかと思った」お前そりゃねぇだろこの雰囲気でよ。

 

真っ先にエロ関係の事を思い付くとは流石淫獣侮れねぇな。そう呟けばあっちもあっちで俺の事をいやらしいと連呼する。

「…………」「…………」そうして互いに性犯罪者を見る視線で睨み合った俺とユーノは、余興のお披露目会が始まるまで二人並んだままエロエロ罵り合っていたのだったとさ。

 

……らしいっちゃらしいのかもしれないが、最後までこれだよ。馬鹿じゃねーの。

 

 

 

で、俺のダンスに大ブーイングが投げかけられたり、はやてとリィンフォースの漫才が大冷気をミックスレイドしたり。そんな感じで何だかんだと余興も終わり、プレゼント交換会へ。

……俺としてはダンスの評価に納得がいかずもう一踊りしたい気分なのだが、最下位じゃないだけまぁいいさと許してやる事にした。それ程酷い出来だったのである、どこの子狸の何がとは言わんが。

 

ともあれ俺がプレゼント交換に用意したのは、当然ながら六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストの特製ブロマイド……では無く。まぁ空気を読んでプラモデルと塗装用具のセットにしておいた。

チョイスしたのはガンプラの中でも特に愛嬌があるベアッガイ、女子連中が多いこの場においては最高の選択と言えるのではなかろうか。フフ、これだから俺は優しくて美しいんだ。

 

そうして単純な手回し方式での交換が行われ、誰に渡るかなとちょっとワクワクしていたのだが――――最終的にベアッガイはアリシアの手に渡る事となった。

これ大丈夫かな……? 少しばかりレバーをドキンコさせて包装が外されるのを見守っていれば、ベアッガイの箱が覗いた瞬間「可愛い!」と言ってくれて実にホッとした。いやはやもう一つの候補であったスーパーカスタムザクF2000の方にしなくて良かったな、本当に。

 

こっそり安堵の溜息を吐きつつ俺も自分に渡ったプレゼントを見てみると、中に入っていたのは保護者連中の内の誰かが用意したと思しき合格祈願のお守りだった。どうも勉学の神様を祀る神社から取り寄せたホンマもんのようだが、俺が持っててもどうすりゃいいんだよこれ。

せっかくなので隣にいたメガネっ娘に渡せば喜ばれたので、まぁ良いプレゼントではあったのだろうか。俺の手元には何も残らんかったけど。

 

……ちなみにオリ主は二つほどプレゼントを用意していたらしいのだが、それぞれアリサとすずかに渡っていた。地球に残される者への置き土産としては最高の演出である。

この人数の中で凄い確率だよなと感心していたが、どうも周りがグルになってプレゼントを回すスピードを調節してたっぽい。加えて実はそのプレゼントはオリ主やユーノ達魔法組全員で用意した物のようで、何やら友情イベントが発生。パーティ会場がしっとりした雰囲気に包まれていった。

 

アリサとすずかが涙ぐみながらなのは達に抱きつき、それを保護者組が温かい目で見守る中。俺は残り少なくなったご馳走をモグモグしながら虹野さんデジカメを構える。

後で現像して皆に送りつけてやるべがな――――その時の奴らの反応を想像し、半笑いになりつつシャッターをパシャパシャと切りまくる俺だった。アリサあたりから殴られるかな? まぁダメージなんて無いから良いけどな。フフフ。

 

 

 

そうして宴もたけなわ。テーブルに並んだ料理もやがて全て無くなって、パーティも自然に解散となった。

 

片付けを手伝い、みんなと別れる前の雑談を交わし。少しづつ、パーティ会場に宿っていた熱が冷めていく。

……何となくすぐ帰る気になれなかった俺は、フライドチキンの骨を楊枝替わりに咥え、あちらこちらで途絶えぬ談笑の声が響いているのを窓際でぼんやり聞いていた。

 

しばらくそのまま骨をカリカリ齧り、「さよなら、いやらしいお兄ちゃん!」と失ッ礼な事を言うアリシアに手を振っていると、何時の間にか帰り支度を整えたメガネっ娘が隣に居る事に気がついた。相変わらず気配ねぇなお前。

 

ふと視線を下に向ければ、別れの挨拶を告げる彼女の鞄にはこれまでにくれてやったキーホルダーの他に、今さっき渡した合格祈願のお守りが揺れているのが見て取れた。

早速付けてるって、何、お前そんなに合格したいの? そう問いかければ、当たり前だと返される。高校生になるのがそんなに楽しみなんか。そう問いかければ、楽しそうな笑みを浮かべて肯定される。……その屈託の無い笑顔に、何となく沸々とした物が湧き上がった。

 

だってなぁ。今まで一緒だった友達がいなくなるんだぜ? お前それでも楽しみか? 少しばかり不貞腐れた声音でそう問いかければ、彼女は少し考えた後――それでも楽しみだと笑う。

確かになのは達が居なくなるのは寂しいが、自分にはアリサ達がいるし、それに新しい友達もできるかもしれないから。だそうだ。うむ、健康的な理由で大変よろしい。眩しくって何だか直視できんでござる。

 

……新しい友達。その単語を聞いた時、俺の脳裏には無口ゴリラの姿が浮かんだのだが、むっさい幻覚である。汗くせぇなぁと渋い顔で手を振ってゴリラの幻影を追い払っているうちに、親御さんがメガネっ娘を呼ぶ声が飛んできた。

それを受けたメガネっ娘は挨拶もそこそこに、手を振ってキーホルダーとお守りを揺らしながら歩き去っていく。俺もパタパタ振る手にさよならの意味を込め、どこか投げやりにそれを見送ったのだった。良いお年をー。

 

 

……そうして彼女の姿が見えなくなった後、「高校。高校ねぇ」頭をガシガシ掻きむしりつつ憂鬱な気分で色々思考を巡らせていると、今度はオリ主がやってきた。

どうもまた新しいイベントをこなして来たらしく、奴はいつも通り死ぬほど面倒臭そうな表情で俺の隣の壁にもたれ掛かり、溜息。その様子にチラリとアリサ達の方角に目を向ければ、五人娘+シグナムヴィータリィンフォースリニスが何やら満場一致で可決したらしい雰囲気を撒き散らしていた。何だ、何が決まったんだ。怖ぇよ。

 

何はともあれ、うんまぁ、アレだ。良く分からんが円満に解決たらしくてよかったじゃないか。そう言って肩を叩けば、オリ主はがっくりと力が抜けたように項垂れた。めんどくせぇなぁ本当に。

スクイズ的展開にならんかっただけ良しとしとけよ――――あんまりグッタリされるのもウザいので適当に励ましていると、先程の新しい友達が云々という会話が蘇ってきた。

 

「…………」何となく、気になって。オリ主を励ますのを中断し、ゴリラは俺達にとって友達なのかどうかを聞いてみれば――――返ってきたのは馬鹿を見るような視線と「当たり前だろ」という簡潔な返事。

……そうかぁ、友達だったのかぁ。そりゃ修学旅行も一緒に班組んだしな、考えてみりゃまぁ当たり前か。モブの一人と見なして特に何も考えずにつるんでたから意識した事無かったな。すっとん、と。心に落ちるものを感じ、一人首肯。俺って薄情なのかしらん。

 

となると……アレだよなぁ。行けるのに行かないってのも何だかなー、って感じになっちゃうよなぁ。高校で一人っきりって訳じゃ無くなるしさ。

 

 

……俺の進路希望における「保留」の二字を外すか否か。アリサとすずかに引きずられるオリ主の助けを無視して割と真剣に考えながら、俺達のクリスマスパーティは幕を下ろしたのだったとさ。

 

いやはや、色んな意味で締まんねぇな。どうせならしんみりしたまま終わらせろって話である。まったくもう。

 

 

 

 

 

 

――最後の別れは、一期最後の名場面の舞台となった公園で行われる事となった。

 

 

中学校も卒業し、未だ僅かに寒さの残る春の入口。完全には桜の花びらが開ききっていない広場に、原作メンバーを始めとしたいつもの面子が集まっていた。

何時もの、と言うには一匹オコジョが足りんのだが、まぁそれは仕方あるまい。奴は既に次元の壁を挟んだ向こう側に旅立ってしまったからな。早漏め。

 

とにもかくにも最後の挨拶が始まった。

 

まぁ挨拶といってもそれぞれ好き勝手にくっちゃべる程度の事なのだが、それでも当人達にとっては大切な時間であるようだ。

なのはも、フェイトも、はやても。ついでにオリ主やアリシアやヴォルケンズなんかもアリサ達地球残留組としんみりした空気の中で談笑している。その話題には思い出話やこれからの意気込みなど枚挙に暇が無く、どこか無理矢理にでも話を引き伸ばそうとしている事が伺えた。

 

「……アンタからは何か無いの?」そうして話し込む内に、何故か話題の矛先が俺の方に向いて来た。え? いや良いよお前らだけで話してろよ。俺ここでデジカメパシャってるから。

特に割り込む気もなかったのでそう断ったのだが、奴らはちっとも聞きやしない。皆一様に「何か話せ」と言った視線を注いでくる。

 

……まぁいいかね。本当はもう少し引っ張りたかったのだが、いい機会だから渡してしまおう――――俺は溜息と共にそう決めて、持ってきたバックから六枚のディスクパッケージを取り出した。

ユーノに渡した物とは違い、ちゃんとメガネっ娘と共に完成させた棒人間格闘ゲームの完成品だ。俺達の努力の成果もあり、普通にゲームショップに並んでも違和感の無いものに仕上がっている。いやぁ頑張った頑張った。

 

俺はそれを日々のダンスで培った機敏な動きと共に6枚同時に投げ渡し、これまた超格好いいポーズと共に演説する。まぁ内容としてはユーノの時と同じく、爆死しそうになったらそれを使って身を慰めろという物であるが、一つだけ違う事があった。

そう、何と限定版たるそれには、俺の超美しいブロマイドとクリスマス会の写真が収められているのである! これで何時でも俺の美しさを確認できる事だろう、さぁ思う存分喜びなまんし!!

 

……そう告げた瞬間6人全員が同時にパッケージを開け一斉に俺のブロマイドだけを破り捨てた訳だが、いい加減俺泣いても良いかな。お前らは何時だってそうだ、全くもってひっでぇ奴らである。しくしく。

まぁ格闘ゲーム本体は喜んでくれたので良しとしてやるが、やっぱり最後までこんな感じかよ。何となく、全員揃って苦笑したのだった。

 

 

 

 

「……じゃあ、もうそろそろ時間かな」

 

 

そうしてギャースカギャースカ騒ぎ続け、いい加減語る言葉も尽きた頃。おそらくは転移用の魔法陣の用意を始めたリニスの様子を見たフェイトが、そう言った。

 

別に、永遠の別れという訳では無い。いつでも連絡を取る事は出来るだろうし、細かく予定を調整すればツラを付き合わせて遊ぶ事も出来るだろう。

……しかし、それでも今までの様に気軽には会えなくなるのは確かだ。学校に行っても、街を歩いても。こいつらの姿を見かける事はまず無くなる。

 

思えばもう10年近く一緒に騒いできた……まぁ、言ってしまえば幼なじみとも呼べるような奴らだ。それを見失って何とも思わない訳が無し。

複雑な感情を込めた溜息を高い鼻から流している内に、オリ主達は魔法陣の上へと移動していく。その足取りには未練はあれど迷いは無く、決心は固い事が見て取れた。……まぁ、今更だけどさ。

 

奴らはアリサやすずか、メガネっ娘達に向けて一言残し――――そして最後に俺に振り向いて、その形の良い唇を開いた。

 

なのはは言った。「また口喧嘩しようね」と。

 

フェイトは言った。「ずっといやらしかったけど、嫌らしくは無かったよ」と。

 

はやては言った。「そのやーらしい雰囲気がなかったらなぁ、うちの子を一人あてがっても」いりません、全部オリ主にやってください。

 

四角形は言った。「しね」お前が死ね。

 

シャマルは言っ――――何でお前が出てくるんだどうでもいいわ。元気でな。

 

――で、まぁラスト。

 

「――んじゃ、近い内にまたお前ん家行くわ」……大トリたるオリ主の放つ何時もの面倒臭そうな一言に俺は軽く吹き出し、「おぅ」と無造作に手を挙げ――――それを最後に、彼らは全員魔法陣ごとその姿を消した。

音も無く、余韻も無く。ただ魔力の発する光の残滓だけを漂わせ、ミッドチルダへと旅立っていったのだ。それを理解すると同時、大きな脱力感と爽快感が身を包む。それは他の奴らも同じだったようで、それぞれ様々な感情を孕んだ表情でオリ主達が消えた場所を見つめていた。

 

俺達は何時までも虚空を見上げ、何をするでも無く立ち尽くし。そうして後方より流れる寂寥感を含んだ春風がそれぞれの頬を撫で去り、幾枚かの桜の花弁を空に舞い上げる。

 

「まぁ、向こうで精々頑張れば良いさ」青空を踊る花弁を眺めつつ小さく放ったその呟きも、誰に届く事も無く風に流され消え去って――――

 

――――そうして、俺達にとっての大切な何かが一つ。終わりを迎えたのだった。

 

……あ、そうだ。言い忘れてたけど、結局俺4月から高校生になります。え? 聞いてない? ああそう。

 

 

 

そんなこんなでオリ主達とのお別れが済み、アリサとすずかと分かれて帰る道がすら。俺はメガネと並び歩きつつ、今までの事を振り返っていた。

 

ここまで色々な事があったなぁ。その大半はアホで起伏のない日常だった訳だが、まぁ結構充実はしていたんじゃなかろうか。

ゲームして、アニメ見て、漫画読んで、ゲームして、アニメ見て、漫画読んで、ゲームして、アニメ見て、漫画……いや他にもっと何かあるだろう。ゲーム合宿とかゲーム作りとか……ヤベェどっちもゲームじゃねぇか!

 

いやはや、最初はチート能力で俺tueeeeeeeeして二次元美少女ハーレムを築くつもりだったのになぁ。何でこんな事になっているのやら。

思えば転生して踏み出した最初の一歩で既に瓦解していた気がするよ、だって三次元だもん。神とやらも適当な仕事をしてくれたものである。次あったらそこんとこ頼むよ、本当。

 

 

……そうして改めて考えるとオリ主の主人公っぷりって際立ってるよなぁ、三次元とは言え当初の俺が欲しかったモン全部持ってるんだぞ。いや妬み嫉みは全く無いから良いんだけども。

 

戦闘能力はチート持ちの俺以上で、魔法関係の才能もある。しかも典型的な面倒臭がりヤレヤレ系の主人公で、数多の女の子の好意に気付きつつもなぁなぁにして流しているフラグ体質だ。

そんで最終的には原作キャラを侍らせて魔法世界入りを果たしちゃったりなんかして、モブ一人とこれから地球でまったりヲタライフを送るだろう俺とは大違い……というより、もはや正反対と言えなくもない。

容姿も行動もその結果も鏡合わせのように対象的、言うなれば陰のオリ主に陽の俺。二人重なれば良い感じに太極図ができそうだ。何、陰陽の配役が逆? さて聞こえんな!

 

うーむ。こりゃ世(三次元)が世(二次元)なら殺しあう仲になっていたかもしれんな。少なくとも俺は嫉妬のあまり四角形を振りかぶって奴のちんちんを刈り取ろうとしてただろう、ハハハ。

まぁそれはそれで面白そうだなー、なんて。不謹慎な事を考えながら、自宅への道をてくてく歩く俺である。

 

 

「…………」

 

 

……そして、チラリと。隣を歩くメガネっ娘を見る。

先程俺とオリ主は正反対だという話をしたが、その時ナチュラルにコイツも俺の要素の範囲内に入れてたよな。ハーレムの反対は一人っきりだと言うのにねぇ。

 

そういや思い返してみれば、今までつるんできた奴らの中でもコイツとは一番長い時間一緒に居るよな。小学校一年からずっと同じクラスだったし、三年生になってからは殆ど毎日家に来るし。むしろ一緒でなかった事の方が少ないのではなかろうか。

最初は単なるモブとしか思っていなかったのに、随分と身近な存在になったもんだ。何となくしんみりしつつ、丁度いい位置にあるメガネの頭を力強く撫で回す。

 

「……んー」そうして頭をぐわんぐわんさせてふらついている彼女を眺めつつ、俺にとってこのモブはどういった存在なのだろうと疑問に思った。うむ、隣に居るのが自然すぎて全く考えた事がなかった。種類は違えどゴリラの時と同じパターンじゃねぇかよ、これからもうちょい気を付けていこう。

 

まぁ、ともあれ。メガネっ娘の事については改めて考えるまでの事もない気がするんだけどもな。

 

 

――――三年目、俺が窓枠に足をかけた理由。

 

――――四年目、俺がコイツの評価を出さなかった理由。

 

――――五年目、俺をホッカイロにするコイツを振りほどかなかった理由。夜の海を見て思った事。

 

――――六年目、体温だけで隣に居たのが誰なのか分かった理由。

 

――――七年目、無口ゴリラを見て思った事。

 

――――八年目、苦しかったとは言え、この俺が縋り付いてしまった事。

 

――――今、これを考えてる理由。

 

 

思い返してみれば、大小様々なフラグはこれまで幾らでも乱立していたのだ。だったら、ねぇ? 今更大真面目に答えを出す必要なんてあるまいて。このまま日々を送っていれば、自ずと行き着く先には辿り着くのだから。

……そしてそれは、俺にとって中々に悪くない未来だと思うのだ。良く分からんが、何故かそんな確信と確証を感じている。

 

「……ほれほれさっさと行くぞ、すっぽりメガネ」俺は軽く溜息を一つ吐き、未だフラフラと足元の定まらない彼女の背中を押し出しつつ強引に前へ運ぶ。

 

はてさて、今日はどんなアニメを見ようかね。ちょっぴりおセンチな気分だから絶対少年でも見直そうかな。オリ主がわっくんでなのはがどっしる、フェイトとはやてがしっしんとブンちゃんって事で人数的にぴったりだ。そうなるとオリ主以外全部ぶっ壊れるけど。

そうと決まればさっさと行こう。ひゃあひゃあ煩く悲鳴を上げるメガネを横抱きに持ち上げ、ぴょんぴょんと住宅街の屋根の上を飛び回ってショートカット。自宅への最短ルートを駆け抜けた。いやぁ、ダイナミックを自重してやるなんてホント優しいよな、俺。

 

 

――まぁ、そんな感じで。幾つか変わり、終わる物はあったけれど。俺の生活はこれまでと変わらないのだろう。

 

ゲームとアニメと漫画に塗れ自堕落に過ぎるおよそ健康的とは言えない日々だが、まぁいいんじゃねーの? 俺自身は身体チートで常に健康だし、誰に迷惑をかける訳でもないしね。

そうして戦闘やラヴコメは次元の向こうに放り投げ、今日も今日とてメガネを背後にサブカルライフを満喫する俺であったとさ。

 

 

さーて、お目当てのDVDは何処に入れたのだったかな――――




完ッ! 
……で終わるのもアレなので、最後に簡単なオリキャラ紹介でも。


【六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト】

二次元に生まれていたり、世界が二次元に見えるチートを貰っていたら確実に典型的咬ませ犬になってた人。もしそうなったらなのは達に纏わり付きウザがられた挙句に闇の書に吸収され、オリ主の一撃で蒸発していた事でしょう。こわいね。

強すぎるハーレム願望のため転生の際に不具合が起き、常にいやらしい雰囲気を放つようになってしまった。その気配は原作キャラのみに対し非常に強い効力を発揮し、特になのは達からの印象は常に最悪。
少しでも原作キャラを異性として見たら、その瞬間完膚無きまでに嫌われていた……のだが。彼に一切その様子が見られなかった為に、何だかんだ印象最悪のまま仲良くなっていった。

のんびりアニメ見ながら糠漬けかき回す家庭的なオタク。将来的にはゲーム作りに携わるかもしれないし、ダンサーになるかもしれない。そのへんはお好きにどうぞ。

* ちなみに前世に関しては特に決めてない。チラチラ家族関係で何か出してた気もするけど、多分気のせいでしょう。


【オリ主】

主人公と同じく転生組。「面倒臭いものを何とか出来る力」を望んだのだが、大抵の面倒事をどうにか出来るようになったせいで更に大きな面倒な事に遭遇するようになっちゃった人。

今出来る楽のために目の前にある面倒事を片付けていたら、何時の間にかハーレムが出来ていた。反省して面倒事(フラグ)を放置していたら、何時の間にか女性陣共有の旦那様に決められていたそうな。かわいそう。
多分今後もティアナとかナンバーズとかも落としまくり、最終的にハーレム人数は凄い事になる。スバルはユーノのとこに行く。

* ちなみに転生前に「ハーレムを狙う転生者がいる」と神から聞かされていたが、何時まで経ってもそれっぽい奴が現れない為首を傾げている。


【メガネっ娘】

「やめてー、やめてー」「皆の許可がないと……」しかセリフの無い、噛ませとオリ主の立場を対比させるために出したモブの人。名前も容姿も特に決めてないので自由に妄想するのだ。

本当は主人公にこの子の色んなとこをペロペロさせて「(三次元女子の色香に)負け続けておかしくなる、(二次専として)惨たらしく死ぬ」のチェックを入れて終了しようとしてたんだけど、何か真っ当に終わっちゃった。おかしいな。
まぁそこまでやったらモブっぽくなくなるだろうし、これはこれで良かったのかも? ……とりあえず、この先描写されない時間軸で「起こる」という事にしておこう。うん。

平凡な自分にイラストという特技をくれて、加えてそれを我が事のように嬉しそうに褒めてくれた主人公を慕っている。実は唆されている最中はゾクゾクして気持ちよくなってちょっと訳が分からなくなっているらしい。

* ちなみに四年目あたりから地味ーに主人公へアプローチしてたりする。


【四角形】

原作におけるMVPの人。大鎌形態のリーチが無ければ虚数空間に落ちるプレシアを一本釣り出来ず、また人間形態変化の解析データがなければリィン略とアリシアを助けられなかった。

主人公の要求するチートの中に含まれ、尚且つ彼の描くハーレムの一員に成り得た存在だったために「いやらしい雰囲気」が直撃。数々の暴言を吐いていたが、原作キャラと同じように最終的にはちょびっとデレた。
今回の罵倒も「死ね」じゃなくて「しね」。これは大きいデレですよ。


【丸い方】

オリ主のデバイス。それだけ。
主人公のいやらしさを感じ取れなかったため、彼とは結構仲良しだったらしい。


【モブ夫】

地味に主人公と中学校が一緒。それだけ。


【無口ゴリラ坊主】

中学に上がり女性キャラクターがごっそり減ったため、人数合わせに出したキャラの人。

メガネっ娘がちょっと目立ってきちゃったから、その反省で目立たないキャラを目指した……のだけどちょっと空気過ぎたかもしれない。更に反省。
多分高校編があったらオリ主の居たポジションについて主人公とアホやってた。


こんなもんで良い? あ、良いですか。どうも。
ともあれこれにておしまい。読んでくれてありがとうございました。

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