噛ませ転生者のかまさない日々   作:変わり身

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※この作品は日常ものなので、戦闘行為はございません。最後までだらだらのまんまです。


一年目

×月 ×日

 

 

小学校に通い始めてから数週間が過ぎたが、友達と呼べる存在はまだ出来ていない。

 

隣席のメガネっ娘とは割と喋るが友人と呼べる程親しくもないし、他の生徒に話しかけようとすると皆微妙な表情をする。

まぁ精神年齢の関係上仕方がないと言ってしまえばそこまでなのだが、家でも学校でもぼっちというのはちょっと辛いものがある。せめてアニメの事を話せる男友達くらいは欲しいものだ。そうメガネっ娘に愚痴を漏らす。

 

……え? 俺の名前が名前だからしょうがない? うるせぇバカ、メガネ叩き割るぞ。

 

――六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト。超格好いいと思うのに、何で皆分かってくれないんだ。

そう文句を垂れつつ嘆きのままにメガネっ娘の脇腹をチクチク突っついていると――「え、エッチな事はやめなさい!」と鋭い声が飛んできた。

 

振り返れば、目に映るのは金髪と紫髪と茶髪と黒髪。俺に負けず劣らず実にカラフルな頭髪をした、アリサ、すずか、なのはの原作メンバープラスαである。

どうやら彼女達は俺がメガネっ娘にエッチなちょっかいを出していると思ったらしく、皆ぷりぷりとほっぺたを真っ赤にしていた。

 

そう、最近気付いたのだが、何故か俺は原作メンバーの連中に好色野郎と思われているようで、女の子に近づく度こうして耳年増達が飛んでくるのだ。

 

俺が三次元に手を出すかバカタレとんだ濡れ衣だ! ……と言いたい所だがこの世界に来た理由が理由なので、にんともかんとも。

まぁ実害はないのだが毎回煩い事には変わりないので、俺は身体チートを活かし耳の中の筋肉を隆起させ彼女達の声を物理的にシャットアウトしている。チートの応用ってすげー。

 

そうして静かになった世界の中で、俺は最後の一人――黒髪の男子生徒へ視線を向ける。軽く猫背気味のその少年は、やる気の無さそうな表情で面倒臭い物を見る目を俺に向けていた。

俺の知る「魔法少女リリカルなのは」には存在しなかったはずの彼は、おそらく俺とは別のオリ主か転生者なのだろう。

 

何でもなのはとは幼馴染の関係にあるようで、その縁でアリサ達とも友人となったらしく良く四人でいる姿が目撃されている。

どう見ても面倒臭がりを自称する典型的ハーレム系やれやれ主人公なのだが、俺個人としてはあまり嫌いではない。三次元でのハーレムとか、むしろ可哀想すぎて涙が出てきそうだ。

 

「やめてー、やめてー」そろそろ巻き込まれたメガネっ娘の焦りようが哀れに感じてきたし、俺はオリ主に何とかしてくれとアイコンタクトを送る。

彼も彼で面倒くさくなっていたのか、あっさりとそれを了承。三人とメガネっ娘の間をとりなして、全員を引き連れ自らの席に戻っていった。

 

……いやはや、これ俺だけだったら何時まで経っても終わらない所だったな。オリ主に両手を合わせて拝みつつ、読書を再開。

 

ふと目を向ければ、メガネっ娘は憔悴したように机に突っ伏している所だった。黒いポニーテールが天板に広がり、まるで貞子のよう。

哀れに思った俺は、予備の漫画を彼女の頭にそっと乗せてあげた。怒られた。

 

 

×月 ×日

 

 

ああ、やはりときめきメモリアルは最高のゲームだ。

 

少し古臭さは感じるものの、魅力的なキャラクターと心を掻き毟る等身大の青い展開。流石はギャルゲーの原点にして雛形であると評価されるだけの事はある。

しかもこの世界では何故か初代のメインヒロインが虹野さん、2がメイ様、3が恵美姫となっていて、彼女達がセンターのパッケージを見た時は心臓が裏返るかと思った。

どれもこれも嘗ての俺が青春を捧げた恋人達である。ここはなんだ、天国か。

 

三次元だなんだと世界に対してグダグダ文句を垂れていたが、過去の名作達とこんな形で再会出来るとは夢にも思っていなかった。

この様子ではまだ発売されていない4のメインに据えられる娘も俺の一番好きだった瑠依かも知れない、6・7年後の発売が待ち遠しい限りである。

 

まぁそれはともかくとして、何と今度の土曜日にときメモシリーズ全体の声優イベントがある事が発覚した。

常々二次専を主張する俺ではあるが、二次元世界において声優さんの存在が如何に大切なものであるかは十二分に理解しているつもりだ。それこそ、そのイベントへの参加を超熱望する位には。

 

この世界に来た時は既に3が発売されて割と時間が経っていたために諦めかけていたので、今回のこれは正に青天の霹靂。

狂喜乱舞した俺は躊躇なくチケットを購入し、ひびきの高校のコスプレ衣装を購入しようとして――

 

 

「しまったガキだよ俺!」

 

 

そうだ、幾ら何でも幼児サイズの高校制服衣装なんてあるはずがない。

俺は絶望した。身体チートを持っていてもこればっかりはどうしようもない。せっかくのイベントだというのに、俺は映えない子供服で行くしかないのか……!

 

悔し涙が手の甲に落ちた――――その瞬間。何の前触れもなく稲妻が脳裏に迸る――!

 

――これ、バリアジャケット使えるんじゃね?

 

思い至った俺は、やはり何も言わないままのデバイスを弄り回しバリアジャケットの設定を自力で変更。小学生サイズの緑のブレザー、赤いネクタイにズボンと完璧な衣装をこしらえる事に成功した。

ついでにデバイスのサブ武器形態という欄があったので、そこにサイリウム型を登録して準備万端。そうして迎えた土曜の日、俺はにこやかにイベント会場へと出陣したのだった。

 

それはまさに夢のような時間で、この世界に来てよかったと心から思う事ができた一日だった。ああ、また行きたい物である。

 

……後日談として、デバイスが今度は常にピリピリした空気を出し続けるようになった。非常にウザい。

 

 

×月 ×日

 

 

小学校に行って帰ってくると、ちょうど夕方五時半からのアニメが始まる時間になっている。これが最近地味に嬉しい。

 

今までは家にいてパソコンやゲーム熱中しているとしばしば見逃してしまう事があったのだが、学校に行き始めてからはそれが無くなったのだ。

結果録画したまま積んで忘れ去ってしまうアニメも減ってきて、きちんとした学生生活を送る事にこんなメリットがあったとは思わなんだと感動する。

 

……まぁ結局は未視聴のDVDが積まれていく事になるのだが、現行アニメを切るよりは良いんじゃなかろうか。分かりますか、その辺の機微。

 

ともあれ今日も学校から直帰したら、買ってきた夕飯を食べつつアニメ鑑賞会だ。

これで母親の手料理があったら完璧なのだろうが、俺も食べた事ないし気にしなくても良かろう。コンビニ飯はお袋の味だ。うん。

 

さて、今日はアソボット戦記によく似てるアンロボット戦記だったっけ。さー楽しみだ。

 

 

×月 ×日

 

 

退屈な授業の暇つぶしに下手なイラストを描いて遊んでいた所、隣席のメガネっ娘が興味を示してきた。

何でも俺から借りた少女漫画を読んでからこちら、絵を描き始めたのだそうだ。

 

意外に思い絵の腕を見せて貰うように頼んだら、恥ずかしがりつつも自由帳に描き始めてくれた。その様子を見る限り、本当は俺にその話をするタイミングを計っていたのだろう。それは楽しそうにペンを動かしている。

お絵描き好きとは、やはり三次元でも女の子なんだなぁ。微笑ましく思いながら眺めていると、やがて描き上がったらしく、ページを傾けて此方に見せてきた。

 

さてさてどんなへのへのもへじが書かれているのか楽しみにしつつ、首を伸ばして覗き込み――――「お゛ッ」妙な声と共に固まった。

 

そこにあったのは、小学生の物とは思えない程に精巧に描かれた、俺が貸した少女漫画の主人公の姿だ。

トレースでも脳内模写でもない、完全にオリジナルのポーズと表情を作った女の子キャラクター。正直原作者が描いたと言われたら信じてしまいそうな程である。

 

うおおおお……余りの出来の良さに固まって声無き声を漏らしていると、メガネっ娘は緊張したように俺を見上げている事に気がついた。

え? 評価? いや凄いってこれプロレベルじゃねぇの。少なくともこのクラスで一番上手いよ。先生含めて。そんな感じで褒めちぎってみた所、メガネっ娘は嬉しそうにはにかむ。

 

……そう言えば、原作三人娘もあの年にして才能の塊みたいなもんだったし、モブの一人一人にも描写されてないだけで何らかの才能が眠っているのかもしれないなぁ。

ぽやぽやと周囲に花を飛ばすメガネっ娘を生暖かい目で見つめながらそんな事を思いつつ、俺は彼女にそっと千円札を差し出し、その絵を切り取り懐に収めたのだった。

 

 

×月 ×日

 

 

何だかんだで時は巡り、運動会の季節がやってきた。

 

これが二次元であれば女の子に良い所を見せたいと発奮するのだろうが、三次元である以上俺にそんな気は無い。

というか身体チートを持っている以上、俺が競技なんかに出たら反則も良い所だ。まともにやり合える奴なんて、多分何か力を持ってるオリ主くらいしか居ないぞ。多分。

 

正直辞退したい事この上無いのだが、学校の生徒は皆出場を義務付けられている。さてどうしたものか。

 

うんうん唸って考える。考えて、考えて、考え続けていたら何時の間にか唸り声が二重に聞こえるようになっていた。

すわ何事かと辺りを見回せば、件のオリ主が俺と同じ体勢で唸っていた。面倒臭がりというキャラ設定に従い、俺と同じくサボる方法を考えていたようだ。

 

彼もこちらに気付いたらしく、そのまま何となく見つめ合い――――声も、音も、意思疎通の必要すら無く。気づけば俺達はごく自然に手を取り合って駆け出していた。

 

――赤信号、皆で渡れば怖くない。

運動会当日。愛の駆け落ちをした俺とオリ主は、我がマンションでゲーム合宿を開き一日中遊び倒したのであったとさ。

 

当然後でオリ主諸共先生やら三人娘からしこたま怒られたのだが、それすらも何となく楽しく感じたのは何でだろう。俺ってマゾなのかしらん。

 

 

×月 ×日

 

 

最近どうもデバイスの様子がおかしい。

 

話しかけても無視されるのは当然の事だとしても、時折「あの方こそ我が主……」だの「ああ、あの方に握られたい」だの気持ちの悪い事ばかり口走っているのだ。

初めは何の事か全く分からず故障でもしたかと思っていたのだが、考える内に思い当たる事があった。オリ主だ。

 

どうもこの四角形はこの前招いたオリ主を見初めたようである。なんとまさかのNTRイベント発生だ、正直非常にどうでもいい。

 

そうして盛大に惚気る四角形曰く、やはりアイツもオリ主らしく魔力は大きな物を持っているようで、資質だけで言えば俺よりも高いのだとか。

本来の所有者である俺を目の前にしてそう得意げに語っていたが、果たしてどう反応するのが正解なのやら。とりあえず面倒だったのでゲームの電源を入れた。

 

 

『ああ、こんなキモオタでは無く、彼の下で我が力を発揮したい……』

 

「はぁ」

 

『才能を腐らせる才能を持ったこんなダメ男よりも、あの方の下で。私は……』

 

「そすか」

 

『もしあの方の下に行けるのならば、私は人間体となってどんな事でも……』

 

「はぁん」

 

 

へぇ、人間体になれたんだ。驚きの新事実な気がするが、全く興味をそそられない。だって肉体を持たない女の子AIから三次元女子に変態って、それむしろ劣化じゃね? 

 

ともあれ、その後もデバイスは無口設定を忘れてぶちぶちぶちぶち同じ事を繰り返し、夜が更けてもその賞賛の言葉を呟き続けた。朝になっても、昼になっても、また夜が来ても、ずっとだ。

可愛い声してたし良い妄想のネタになったので最初こそ放置していたのだが、流石に一週間近くもこんな調子だとウザさのレベルが天元突破。脳内俺議員により提出された物理的排除法案を光の速さで可決した。

 

と、言っても物騒な方法では無い。市販の封筒にデバイスを放り込み、ハート型シールで蓋をしてオリ主のロッカーに放り込むだけの簡単なお仕事である。

まさに名実共に愛の贈り物。多分これから原作に関わっていく彼にとっては最高のプレゼントとなったであろう。

 

……流石にちょっと可哀想になったので、一緒にダブった虹野さんステッカーを封入しておいた。俺って優しいな。ウフフ。

 

 

×月 ×日

 

 

コタツを購入した。ついでに半纏も。

 

とりあえず居間のフローリングに電気マットを敷いて、その上に改めてテーブルを設置。そして天板と足の間にコタツ布団を挟み込み、マットとコタツ内ヒーターのコンセントを差し込んで完成だ。

そうしてふかふかの綿が詰まった緑色の半纏を羽織り、周囲にファミコンとお茶菓子と番茶を配置した上でパイルダーオン。六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト完全体の爆現である。

 

俺は美少女ゲームを愛していると言っても過言ではないが、その他のゲームだって普通に好きだ。

特にファミコンやPCエンジンを始めとしたレトロゲー。あの独特な操作性からくる理不尽な難易度や、コンテニューするのにもキー操作が必要な不適切さとか大好き。

何も考えずにダラダラやってると、脳から酸素がどんどん抜けて行って幸せな気分になってくるのだ。

 

あとキャラクターが妙にエロいのもいい。粗いグラフィックやドット数の関係で小さく細かく描かれた女の子とか、妄想が捗ってしょうがない。

 

ピコピコ、ピコピコ。俺の華麗なキー操作を全く反映せず、もっさりした動作で動く二頭身キャラクターを半笑いで眺めつつ番茶を啜る。

 

 

「…………」

 

 

壁一面に美少女ポスターの貼られた、だだっ広いマンションの一室。俺にとっては気まずい空気を撒き散らす装置でしかなかったデバイスも既に無く、そこには穏やかな雰囲気が漂っていた。

 

ふと見れば日はすでにとっぷりと沈み、閉め忘れたカーテンの隙間から覗く窓ガラスに銀髪オッドアイのイケメンが反射して映し出されている。言うまでもなく俺である。

 

ガラスの中で半纏を羽織った俺はとても幸せそうであり、この世界に来た当初の悲壮感など全く見い出せない。

断じてリリカルなのはの世界で超イケメンのオリ主が浮かべる表情ではないと思ったが、まぁ別にいいじゃろ。二次元なら俺も気合入れてオリ主やったけど、ここ三次元なんだもの。そらやる気なんて起きんわ。

 

間違ってるのは俺じゃない、世界の方だ――――バリボリとばかうけを咀嚼しつつそんな事を宣っていたら、元ネタとの状況のギャップに思わず吹き出してしまい煎餅の欠片が横っちょに入った。

 

痛さ八割、苦しさ二割。激痛を伴った窒息状態に悶え苦しみつつ、俺は慌てて身体チートで気道を蠢かせ煎餅を吐き出したのだった。当然やっていたゲームは時既にガメオベラ、無念。

そうして何もかもやる気がなくなり、コタツに深く身を沈める。

 

……何だ、雪が降ってんのか。道理で寒いと思ったよ。

俺は窓の外にチラつく白い粉雪を眺めながら、手元に抱き枕を引き寄せ抱きしめて。カバーに描かれた美少女の胸元に顔を寄せ、ゆっくりと目を瞑る。

 

……俺の体臭しかしないな、今度女子校生の匂いがする香水とやらを買ってみようか。そんな事を思いつつ、気持ちのいい夢の世界へと誘われていったのだった。

 




主人公の名前、どういう思考を経てこんなんなったんだっけか。
最初は六堂院朱雀とか結構普通だった気がするんだけども。六千六百六十くらい増えてるんですが、何じゃろ。

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